超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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祝! 神次元ゲイム ネプテューヌ Vⅱ発売!!

……なのに、今回もネプテューヌたちの出番がない過去編という。


番外編③ クリスタルシティの滅亡 part2

 ここはクリスタルシティ防衛隊の本部。

 アイアンハイドは、隊長のエリータ・ワンから留守を任された副隊長クロミアと話をしていた。

 クロミアはタイヤになった脚を持つ、青い女性型オートボットだ。

 

「……そんなわけで、いざと言うときの避難経路はこのとおりよ。問題があって?」

 

「いや、それで大丈夫だろう。後は対空砲台の位置だが……」

 

 二人は真面目に話しているのだが、一方の副官ジャズはというと……

 

「やあ君たち、今度デートでもどうだい?」

 

 防衛隊の女性隊員を片っ端から口説いていた。

 相手の女性たちも満更でもなさげだ。

 その姿に近くにいた男は少し顔をしかめる。

 

「貴殿も話に加わったらどうか? オプティマス・プライムの副官殿? ……フレアアップ、ファイヤースター、ムーンレーサー、すぐに仕事に戻りなされ」

 

 その男、鎧武者のような姿の青いオートボット、ドリフトに厳しいことを言われて女性隊員は散っていく。

 

「やれやれ、俺はただ女の子たちと情報交換していただけなんだがね」

 

 肩をすくめるジャズに、ドリフトは苦い顔をする。

 

「なぜ貴殿のような軽い男を、センセイは傍に置くのか……」

 

「軽いからさ。真面目な奴ばかり集めても、それはそれで上手くいかないからな」

 

 ドリフトはフンと排気して、ジャズから離れていった。

 苦笑いをするジャズ。

 ドリフトは元ディセプティコンという異色の経歴を持つオートボットなのだが、いろいろあってオプティマスのことを崇拝しているのだ。

 

 ――まあ、崇拝と理解は微妙に違うけどね。

 

 そう内心で思いながらも、おくびにも出さない。

 二人の会話を見ていたアイアンハイドとクロミアもヤレヤレと排気する。

 

「……まったく、どっちもどっちだな」

 

「うちのドリフトも、真面目なのはいいんだけど短気でねぇ」

 

 そんな二人に気付いたのか、ジャズが二人のそばにやってきた。

 

「やあやあ、お二人さん。恋人同士の甘い語らいは終わったかい?」

 

「からかうんじゃねえやい」

 

 しかし、そう言うアイアンハイドはニヤッとしていた。

 何を隠そう、アイアンハイドとクロミアは本当に恋人同士なのである。

 

「まあ、このヒトが甘い語らいなんかするわけないけど」

 

 どこか嘆息するようなクロミア。

 恋人の態度に不満があるらしい。

 

「おいおい、クロミア……」

 

「何よ? 文句ある?」

 

「……ありません」

 

 勝気なクロミアにアイアンハイドはタジタジだ。

 夫婦漫才を繰り広げる二人を見て、ジャズはニヤニヤと笑う。

 

「二人が有機生命体で子供でもできたら、アイアンハイドの血の気にクロミアの強気……、とんでもないじゃじゃ馬ができそうだな」

 

「なんだよ、そりゃあ」

 

「知らないのか? 有機生命体ってのは、雌雄の間に自分たちの遺伝子を継いだ子供を作れるんだぜ」

 

「はーん」

 

 異文化交流の第一人者らしく知識を披露するジャズだが、アイアンハイドは興味なさげだ。

 しかし、クロミアはこの話題に食いついた。

 

「ああ、いいわね子供。可能なら私もほしいわ……。そうね、女の子がいいわ」

 

 恋人の意外な言葉に、オプティックを白黒させるアイアンハイド。

 

「おいおい、俺はガキなんざいらないからな」

 

「おや、それは照れ隠しかい?」

 

「……そういうおまえはどうなんだ? ジャズ」

 

 アイアンハイドは反撃に転じた。

 

「おまえは誰かと子供つくろうって気にゃならんのかい」

 

「ならないね。第一相手がいない」

 

 快活に笑いながら、ジャズは断言する。

 オートボット一の伊達男らしからぬセリフに、アイアンハイドは意外に思う。

 

「おまえさんなら、選り取りみどりだろう?」

 

「あんなのは一種のゲームさ。お互い本気じゃない」

 

「女の敵な発言ね……」

 

 呆れたような声を出すクロミア。

 何とも言えない空気が、三人を包む。

 

「それはそうと、オプティマスとエリータはよろしくやってるかな?」

 

 空気を換えるためにジャズが努めて明るい声を出した。

 

「そうね、今頃仲良くしてるんじゃないかしら?」

 

「だといいんだが」

 

 楽観的なクロミアに、少し心配そうなアイアンハイド。

 せっかく、オプティマスに安らいでもらおうと少し無理を言って連れてきたのだ。

 どうせなら、このまま恋人にでもなってほしいが……

 何せ自分への好意に鈍い部分のあるオプティマスだ。どうなることやら。

 

 結局、部屋で寝てた(性的な意味でなく)だけだと知って、二人が呆れられたのは別の話。

 

  *  *  *

 

 やがて時間は過ぎ、オプティマスたちは無事クリスタルシティを後にした。

 

 エリータ・ワンはメインタワーの展望台から、町並みを見ていた。

 思うのはただ一つ、オプティマス・プライムのことだ。

 彼はこれからも辛い戦いを続けるだろう。

 そのとき、自分にどれだけのことができるのか……

 

「心配事かね? エリータ」

 

 そこへアルファトライオンが声をかけてきた。

 

「……はい。オプティマスのことです」

 

 この老人に嘘は通用しない。エリータは正直に答えることにした。

 

「心配はもっともだ。彼は厳しい運命を受け入れなければならないのだから」

 

「……はい」

 

 穏やかな声のアルファトライオンに、エリータは静かに頷く。

 

「しかし、真に彼を支えることができるのは愛を持つ者だけじゃ」

 

 ニッコリと微笑むアルファトライオン。

 

「自分を卑下せず、胸を張ってオプティマスを支えてやってくれ。あの子の父親としてのお願いじゃ」

 

「……はい」

 

 できるかどうかは分からないが、できうる限りのことはしよう。

 決意を新たにするエリータに、アルファトライオンは大きく頷くのだった。

 

 しかし。

 

 突然警報が鳴り響いた。

 

「むう!?」

 

「この警報は……、オメガ・スプリーム!」

 

『クリスタルシティに接近する機影多数、ディセプティコンだと思われる』

 

 エリータの呼びかけに、防衛システムはすぐに答えた。

 その答えに、エリータはオプティックを見開いた。

 

「ディセプティコンですって!? あいつら、ついにここに……」

 

「…………」

 

 一方、アルファトライオンは何か痛みを感じたかのように胸を押さえた。

 

「私はすぐに防衛隊と合流します! アルファトライオンはここにいてください!」

 

「うむ、分かった。……気をつけてな」

 

 威勢のいい言葉とともに、エリータは展望室を飛び出していった。

 残されたアルファトライオンは虚空を見てポツリと呟いた。

 

「戦いがやってくる。何者も抗えぬ破壊の嵐が……。兄弟たちよ、どうか若者たちを守ってくれ……」

 

  *  *  *

 

『ディセプティコン接近。ディセプティコン接近。非戦闘員は、緊急時ガイドラインに従って速やかに避難せよ。繰り返す、非戦闘員は非難せよ』

 

 オメガ・スプリームの低く良く通る声が都市中に響き渡るなか、フューチャーカーに変形したエリータは仲間たちの元へ走っていた。

 

『全対空砲、発射準備。全戦車、全ガードロボット出動』

 

 非戦闘員たちが、避難場所に向かって移動し、そこかしこからコンピューター制御の戦車や巨大なガードロボットが出撃している。

 クリスタルシティの町中の広場に、防衛隊は展開していた。

 走ってくるエリータの姿を認めて、クロミアは敬礼する。

 

「エリータ!」

 

「クロミア、状況は?」

 

「ディセプティコンは南から接近しています。数はおよそ三千! 距離は30ヒック!」

 

「市民の避難は?」

 

「現在急ピッチで進めていますが、まだ時間がかかります!」

 

「急がせなさい! それから友軍に救援要請を! 急いで!!」

 

 防衛隊は速やかに行動を開始する。

 そのそばにドリフトがやってきた。

 

「こんな時こそ、センセイがいてくだされば心強かったのですが……」

 

「いないヒトのことを言ってもしかたがないわ。頼りにしてるわよドリフト」

 

 エリータに肩を叩かれ、ドリフトは表情を引き締める。

 クロミアも務めて陽気な声を出した。

 

「心配はいらないわ。このクリスタルシティの防衛システムは無敵よ!」

 

 隊員たちからも同意する声が上がる。

 しかし、エリータは安心できなかった。

 あのメガトロンのことである。なんらかの勝機を見出しているに違いなかった。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコンの本隊に先行して、三体のジェット機型ディセプティコンがクリスタルシティ目がけて飛行していた。

 黄色、青緑、青紫の三色の三角錐型のジェット機だ。

 彼らこそがディセプティコン航空部隊の中の問題児集団、レインメーカーズである。

 

「キャハハハ! 見なよ二人とも。あれがクリスタルシティだってさ! おっかしいのー!」

 

 子供のように甲高い声を上がるのは青緑のビットストリームだ。

 

「イヒヒヒ……、クリスタルシティ……、科学と芸術の都……」

 

 青紫のホットリンクはボソボソと陰鬱な声を出す。

 

「ふん! 超超偉大なる太陽の化身の俺様様のほうが、輝くばかりに美しいぞ!」

 

 そして尊大な態度なのが黄色のサンストームである。

 三体は発射された対空砲の弾幕を潜り抜け、クリスタルシティへ近づいていく。

 

「それじゃあ、早くやろうよ! あの綺麗な都市をグチャグチャにしたらきっと楽しいよ!」

 

「記録されているテクノロジーには興味がある……。だから奪う……、ヒヒッ!」

 

「この世でもっとも偉大で強大で壮大な俺様様よりも輝くことなど許さん! 酸の雨を降らせてやる!!」

 

 三体は、弾幕をかわしながら機体下部からミサイルを発射した。

 それはクリスタルシティの上空で爆発すると、大量の煙を残した。

 

「ヘタクソめ! ハズレだ!!」

 

 それを見ていたドリフトが口汚く敵を罵るが、そこからが問題だった。

 拡散することなく滞留した煙はやがて渦を巻き、黒雲に変じると大きくなり始めた。

 やがて都市の上空をスッポリ覆うほどにまで成長した黒雲から雨が降り始めた。

 

「こ、これは……」

 

 エリータが驚愕の声を上げる。

 その雨はただの雨ではなかった。

 クリスタルシティの弱点である酸の雨だ。

 それが絶え間なく降り注いでくる。

 酸の雨に打たれた砲台が、戦車が、ガードロボットが、バチバチと漏電を起こして動かなくなる。

 さらに異変はそれだけに止まらない。

 クリスタルシティの建造物が、酸に汚染され黒ずんでいく。

 

「なんてことを!!」

 

 怒りに任せて絶叫するクロミアだが、彼も、いや防衛隊の誰もが酸の雨に晒され体に異常をきたしている。

 

「ぐうう……、し、しかし、この程度でこの都市の外壁は破れんぞ……」

 

 刀を杖に膝をつきながらも、ドリフトが言う。

 酸の雨で弱体化したとはいえ、クリスタルシティの外壁は分厚く高い。そう簡単に破壊はできないはずだ。

 

 だが。

 

 外壁の向こうから轟音が響き渡った

 何かを叩くような音だ。

 何度も、何度も、まるで特大の太鼓のリズムのように。

 そして、壁が砕けた。

 積み木の壁を崩すように、あっさりと。

 

「そんな……」

 

 防衛隊の面々は、それを茫然と見ていた。

 瓦礫と噴煙の向こうから『それ』が姿を現す。

 

 それは怪物だった。天災だった。破壊だった。

 

……それは(デバステーター)だった。

 

 公的に残る限り合体兵士デバステーターが姿を見せたのは、これが初めてである。

 その圧倒的な威容に、防衛隊の誰もが絶句していた。

 デバステーターの崩した箇所から、ディセプティコンが次々と侵入してくる。

 

 ――オプティマス……

 

 正気を取り戻し仲間に指示を飛ばす寸前、エリータのブレインサーキットに浮かんだのは、思い人の面影だった。

 

  *  *  *

 

 首都アイアコンへ向け降下船に乗って移動していたオプティマスは、ふと誰かに呼ばれた気がした。

 

「どうした、オプティマス?」

 

 ジャズの声にオプティマスはそちらを向く。

 

「いや……、エリータに呼ばれた気がしてな……」

 

「ははは、どうやら総司令官は、名残惜しいと見える」

 

 陽気に笑うジャズだが、オプティマスの顔は浮かない。

 その様子に、ジャズも真面目な顔になる。

 

『オートボット、応答せよ! 誰でもいい! この通信が聞こえたら、答えてくれ!!』

 

 アイアンハイドの座る操縦席の通信機に通信が入った。アイアンハイドはオプティマスとジャズに聞こえるようオープンチャンネルにして応答する。

 

「こちら、降下船4500Xだ。どうした?」

 

『こちらクリスタルシティ防衛隊! ディセプティコンの大軍に襲撃されている、至急救援を……ぐわぁあああ!!』

 

「おい、どうした! 応答しろ! おい!!」

 

 しかし、返事はそれきりなかった。

 アイアンハイドは総司令官のほうを見やる。

 対するオプティマス・プライムの決断は早かった。

 

「ジャズ、すぐにアイアコンに救援を要請だ」

 

「了解! それで俺たちはどうする?」

 

「決まっている。アイアンハイド、即時反転! クリスタルシティに戻るぞ!」

 

「了解! 飛ばすぜ!」

 

 ただちに行動に移る部下たちを見ながら、オプティマスの思考は焦りを感じていた。

 

 ――エリータ、アルファトライオン、皆、どうか無事でいてくれ……

 

  *  *  *

 

 かくしてクリスタルシティにとんぼ返りしたオプティマスたちの見たもの。

 それは無残に破壊されたクリスタルシティだった。

 すでに酸の雨は止んでいるものの、美しかったクリスタル製の建造物は黒ずんで輝きを失い、都市のあちこちから黒煙が上がる。

 

「なんてことだ……」

 

 茫然とオプティマスが口にした。アイアンハイドもジャズも言葉を失っている。

 サイバトロンで一番美しいと言われた都市が、見る影もない。

 メインタワーの直上にはディセプティコンの空中戦艦が鎮座し、周囲を威圧している。

 

「すぐに着陸だ!」

 

「了解!」

 

 しかしいつまでも茫然としているわけにはいかない。

 オプティマスの指示を受けて、アイアンハイドは降下船を着陸させようとする。

 だが、それをディセプティコンの航空部隊が目ざとく見つけ、撃ち落とすべく攻撃を仕掛けてきた。

 最低限の武装しかない降下船では航空部隊……そしてそれを率いるスタースクリームには歯が立たない。

 振り切ろうとスピードを上げ変則的な軌道を取るが、たちまち後方に張り付かれ、ミサイルを撃ち込まれる。

 

「脱出だ!!」

 

 三人は着弾寸前に降下船から飛び降りた。

 直後に降下船が爆発に包まれる。

 パラシュートなしの落下だが、三人のオートボットは問題なくクリスタルシティの町中に着地した。

 あたりにディセプティコンの姿はない。

 こうして間近に見ると、破壊の悲惨さが明確に分かった。

 

「……行こう」

 

 内心の激情を抑えるように、オプティマスは静かに号令をかけた。

 移動を始めると、すぐに彫像のように動かなくなったガードロボットや戦車に出くわした。

 頼もしかった守護者たちも、こうなっては無残なものだった。

 しばらく進むと、開けた場所に出た。

 いや、『無理やり開かれた』場所というべきか。

 元は建物が密集していたようだが、何かとてつもなく巨大なものが通ったように建物が破壊されていた。

 あたりにはクリスタルシティ防衛隊の死体が無残な姿で転がっている。

 全員何も言えなかった。

 

「……センセイ?」

 

 横転している戦車の影から、オプティマスに誰かが声をかけた。

 青い鎧武者風のオートボット、ドリフトだ。全身に被弾しボロボロなことが激闘の跡を感じさせる。

 

「ドリフト! 無事だったか!」

 

「何とか、ですが……。私のことより彼女を……」

 

 そう言ってドリフトは戦車の影を示すドリフト。

 戦車の車体によりかかるようにして、クロミアが座っていた。腹部に傷を負っている。

 傍には、フレアアップ、ファイアースター、ムーンレーサーの三人もいた。

 

「クロミア!」

 

 負傷した恋人の姿に、アイアンハイドが声を上げて駆け寄る。

 

「クロミア! 大丈夫か!?」

 

「大丈夫、……じゃないけど、……生きてるわ」

 

 咳き込みながらも声を出すクロミアに、アイアンハイドはホッと排気する。

 それを見て、オプティマスは冷静に……少なくともそうであろうと努めて……ドリフトにたずねた。

 

「ドリフト、エリータ・ワンとアルファトライオンがどこにいるか分かるか?」

 

「アルファトライオン様はメインタワーにいらっしゃったようです……。エリータ殿はシェルターの一つがディセプティコンに襲われているという連絡を受けそちらに……」

 

「そのシェルターはどこだ?」

 

「第三区画のポイントXXです……。行かれるのですね……? 私もともに……」

 

 だが、そこまで言ってドリフトは激しくせき込み、体をふらつかせる。

 オプティマスは穏やかにドリフトを制した。

 

「いや、おまえはここで待っていろ。ジャズ、アイアンハイド、皆を頼む。それと他に生存者がいないか探してくれ」

 

「了解。……気をつけろよ、オプティマス」

 

 ジャズが心配げな声を出すが、オプティマスはそれ以上何も言わずに駆け出した。

 

  *  *  *

 

 ポイントXXについた時、そこにはすでに生きている者の姿はなかった。

 シェルターの分厚い防爆扉は打ち破られ、炎が中から噴き出している。

 生存者がいたとしても、救出は不可能だった。

 

 そして……

 

「エリータ……」

 

 紫色の女性型オートボットが、防爆扉の前に倒れていた。

 

「エリータ!!」

 

 オプティマスは冷静さを失い、手に持っていたイオンブラスターを取り落として動かないエリータのもとへ走る。

 エリータは拷問されたように全身を傷つけられ、痛々しい姿になっていた。

 

「オプティ……マス……?」

 

 それでも、スパークは消えてはおらず何とかオプティマスのほうに顔を向ける。

 

「ああエリータ、私だ! オプティマスだ! 助けに来た!」

 

「オプティマス……、来て……くれたのね……」

 

 エリータは一言話すにも力を振り絞らなければならないようだった。

 

「すぐに救援が来る! それまで……」

 

「オプティマス……」

 

 オプティマスの必死な声に、エリータは右腕を伸ばしてその顔を撫でる。

 

「ねえ、オプティマス……、私……、あなたのことが……、好き……」

 

「ああ、私も好きだ! 君は私にとって最高の親友で……」

 

 だがエリータは薄く微笑むと、首を少しだけ横に振った。

 

「違うわ……、愛してるの……、あなたのことを……」

 

 その意味が、オプティマスには一瞬理解できなかった。

 

「え、エリータ……?」

 

「オプティマス……、あなたは…本当は……とても優しいヒト……、あなたの苦悩を……、孤独を……、癒してあげたかった……」

 

 浮かべる笑みは、しかし寂しげだった。

 

「あなたが……、愛してくれなくても構わなかった……。あなたと出会えただけで……、幸せだった……!」

 

 幸せ? ディセプティコンとの果てのない戦いに身を投じ、ボロボロに傷つくことが?

 全てはオプティマスのせいだというに?

 

「愛してるわ……、生まれ変わってもきっと……」

 

 最後まで言うことはできなかった。

 エリータの最後の表情は、思い人の腕の中で逝けた喜びで満たされていた。

 

「エリー……タ? エリータ!! エリータぁああああ!! あぁあああああああ!!」

 

 オートボットの英雄、総司令官オプティマス・プライムは事切れたエリータの体を抱き寄せ泣き叫ぶ。

 その後ろに三つの影が舞い降りた。黄色、青紫、そして青緑。レインメーカーズだ。

 

「あれえ? あれってオプティマスじゃなーい? キャハハ! 泣いてやんの!」

 

 思いきり嘲笑するのはビットストリームだ。

 

「っていうか、『それ』俺らがいたぶってやった女じゃん! キャハハ!!」

 

 その声に、エリータを抱きしめたままのオプティマスがピクリと反応する。

 

「馬鹿な女だったよなあ! ホットリンクがシェルターに火ぃぶち込んだら、泣き叫んでたっけ!」

 

「超超超偉大にして唯一絶対の太陽の化身である俺様様よりも、クソ下らない戦えもしない奴らを優先するから罰があったんだ!」

 

 サンストームも嘲笑する。

 

「イヒヒ、武器奪った……。女は用済み……」

 

 ボソボソと陰気なホットリンク。

 

「貴様ら……」

 

 オプティマスはエリータを静かに横たえると、ゆらりと立ち上がる。

 

「なぜこんなことをした? ここには戦えない者たちがいたんだぞ」

 

 エネルゴンを吐くかのような声にレインメーカーズの面々は馬鹿にしたように嗤う。

 

「なんでって、楽しいからに決まってんじゃん! 馬鹿でよわっちい奴を、いたぶって殺してやるのが楽しいんじゃん!」

 

「超絶唯一絶対永世最強無敵の俺様様が殺してやったんだから、むしろ土下座して感謝するべきだ!!」

 

「オートボットの武器を奪う……。そのために殺す……、イヒヒヒ!」

 

 自分勝手な考えを垂れ流し、戦えない者を喜んで殺し、親しいヒトの死に涙する者を嘲笑う。その姿は醜怪の一言につきた。

 彼らは気付いていない。自分たちが地獄の蓋を開いたことに!

 

「ちょうどいい……、新兵器……、おまえで試す……」

 

 ボソボソと呟いたホットリンクは、腕を変形させて砲を作り出し、おもむろにオプティマスの背に向け発射した。砲口から激しい火炎が放射される。

 

「パイロパシックフレイムスロワー!! どうだ、1万度の炎に襲われる気分は!! 俺の兵器最強ぅうううう!!」

 

 今までの調子が嘘のようなハイテンションで叫ぶホットリンク。

 口から液体を垂れ流し、オプティックをグリグリと動かすその姿から正気は感じられない。

 

「俺の兵器は最強なのだぁああ!! 俺こそがホイルジャックよりも、ショックウェーブよりも天才なのだぁああ!! イヒヒヒヒヒ!!」

 

 哄笑するホットリンク。

 だが、燃え盛る炎の中をオプティマスがゆっくりと進んでくる。

 それにホットリンクは驚愕した。

 

「な……!?」

 

 慌ててさらに火力を上げようとするが、時すでに遅し。

 目と鼻の先まで接近したオプティマスは、無造作にエナジーブレードを突き出した。

 オプティックを見開くホットリンクが間抜けに開いた大口に、エナジーブレードの赤熱した刀身が飲み込まれる。刀身はそのまま頭部を貫通して後頭部から飛び出る。

 何が起こったのか分からないという表情のホットリンクから、無造作にエナジーブレードを引き抜くオプティマス。

 スパークを失い崩れ落ちるホットリンクだった物をよそに、オプティマスは首を巡らす。

 それは次なる獲物を求める獣を想起させた。

 しかし、レインメーカーズの残る二人は仲間の死にもニヤニヤとするばかりだ。

 

「キャハハ! ホットリンクの奴死んでやんの! カッコわりい!」

 

「所詮は奴も、俺様様と言う太陽の化身を引き立てるその他大勢に過ぎなかったということだ! さあ、オプティマス! 貴様も俺様様の未来永劫に続く武勇伝の一ページとなるがいい!!」

 

 妄想を垂れ流しながら全身から高熱を発するサンストーム。

 その姿は自称の通り太陽の如く光輝いている。

 サンストームは、熱エネルギーを自在に操ることができるのだ。

 唯一無二のその能力が彼の正気を奪い、自身を超常の存在と勘違いさせるに至ったのは、皮肉であるが。

 

「死ね! オプティマァァス!!」

 

 そのまま突っ込むサンストーム。

 対するオプティマスはまるで虫を払うように腕を振るう。

 顔に裏拳を叩き込まれたサンストームは、あっさりと輝きを失い地面に落ちた。

 

「ば、馬鹿な……! 太陽の化身である俺様様が……!? ぐ、がぁああ!!」

 

 現実が理解できないサンストームの顔をオプティマスが両手で掴む。

 

「ぎいやぁああああ!!」

 

 そしてそのままグシャリと握り潰した。

 頭部を失ったサンストームの残骸を蹴飛ばして、オプティマスは最後の一人、ビットストリームを感情のこもっていないオプティックで見る。

 

「き、キャハハ! や、やるじゃん!」

 

 さすがに恐怖を感じ、後ずさるビットストリーム。

 オプティマスはレインメーカーズの生き残りに向かってゆっくりと歩き出した。

 

「ひ、ひい!? き、今日のところはおまえの勝ちにしといてやるよ!」

 

 捨て台詞とともに背中のブースターを吹かして飛び去ろうとするビットストリーム。

 だが、オプティマスはそれを許さなかった。

 足元に落ちていたイオンブラスターを拾い上げると、狙いを定め、撃った。

 

「ぎゃあ!」

 

 悲鳴とともに、地に落ちるビットストリーム。

 何とか起き上がるが、そのそばにはすでにオプティマスが立っていた。

 

「き、キャハハ……、な、なあ、待ってよ……、こ、殺さないで……」

 

 必死に命乞いをするビットストリーム。

 だがオプティマスは、氷点下の視線で見下し、イオンブラスターをその額に突きつける。

 

「た、助けて……、死にたくないよぉおおお!!」

 

 ドンと音がして、ビットストリームは倒れた。

 オプティマスはそれに気を止めず、ゆっくりと歩き出す。

 

 ……次なる敵を求めて。

 

  *  *  *

 

 クリスタルシティの中枢、メインタワーの展望室の中央に二体のトランスフォーマーがいた。

 一体は灰銀の巨体。

 もう一人は赤い細身の老人。

 破壊大帝メガトロンと、歴史学者アルファトライオンだ。

 アルファトライオンは跪かされている。

 一方、オメガ・スプリームのコミュニケーション用端末の前ではサウンドウェーブが、機械触手を伸ばして情報を引出そうとしている。ショックウェーブは周りを興味深げに観察していた。

 アルファトライオンは、跪かされても威厳を失わずに言葉を発する。

 

「……メガトロン、何を焦っておる?」

 

「焦ってなどいないわ。愚かなジジイめ」

 

 危険な声色になるメガトロン。

 だが、アルファトライオンは黙らない。

 

「なぜスペースブリッジについて知りたがる? それには何か理由が……」

 

「余計なことを聞くな!!」

 

「何か助けがいるのか? だったら、この戦いを終わらせ講和すれば我々が力に……」

 

 その瞬間、メガトロンはアルファトライオンの首を掴んでその体を持ち上げる。

 

「誰が貴様らオートボットなどに助けを求めるか!!」

 

「ぐ、ぐうぅ……! な、なぜ分からんのだメガトロン……!」

 

 それでも、アルファトライオンは口を閉じない。

 

「その強すぎる憎しみが、おまえのオプティックを曇らせ、真実から遠ざけていることに……!」

 

「もうよいわ! 昔馴染みなれば生かしておいてやろうかと思ったが、スペースブリッジの貴様をスクラップに変えた後で、ゆっくりと探してくれるわ!!」

 

 メガトロンは腕に力を込め、この哀れな老人の首をへし折ろうとする。

 

 だが。

 

 タワーの外から爆音と怒声、そして悲鳴が聞こえてきた。

 何事かとメガトロンがアルファトライオンを放り出して下を見ると、そこには何体ものディセプティコンのど真ん中で何者かが暴れているのが見えた。

 エナジーブレードを振るって兵士の首を刎ね、イオンブラスターで顔面を吹き飛ばしている。

 

「オプティマス、現れたか」

 

 宿敵の登場にニヤリと笑ったメガトロンは、窓を叩き割るとそのまま飛び降りた。

 轟音を立てて地面に着地し、散乱したディセプティコンの残骸の中央に立つ者を睨み、そこでオプティックを細めた。

 そこにはオプティマスが立っていた。

 だが、彼の知るオプティマスではない。

 全身から、目に見えそうなほどの殺気を放っている。

 

「メガトロン……、戻って来たのか……!」

 

 メガトロンは面白そうにニヤリとした。

 

「どうしたのだオプティマス。それではまるで、我らディセプティコンのようだぞ。またぞろ仲間が死にでも……」

 

「エリータが死んだ」

 

 オプティマスの声には、抑えきれない悲しみが滲んでいた。

 

「エリータが死んだんだ……」

 

「…………そうか」

 

 対するメガトロンの声は平静そのものだった。

 カッとなってオプティマスは怒声を上げる。

 

「そうか!? そうかだと! エリータが死んだんだぞ!! おまえにとっても友だっただろう!!」

 

「だからどうした? オプティマス、これは戦争だ。戦争はヒトが死ぬ物だ。そんなことも忘れたか?」

 

 その言葉に答えず、オプティマスは疑問をぶつける。

 

「教えてくれ、メガトロン……! なぜクリスタルシティを襲ったのだ……!」

 

 悲痛な声に、しかしメガトロンは表情を動かさない。

 

「……簡単なことだ。ここにスペースブリッジの情報があったからだ」

 

「何だと!? なぜそんな物を求める?」

 

 メガトロンの言葉が、オプティマスには理解できなかった。

 

「分からんか? この星は死にかけている。おまえのせいでな、オプティマス。故に! 我が種の命脈を保つためには、他の世界を目指すしかないのだよ。エネルギーに溢れた世界をな!」

 

 破壊大帝の堂々たる宣言に、ディセプティコンたちは歓声を上げ、オプティマスは戦慄した。

 他の世界にまで、侵略の魔の手を伸ばそうというのか?

 

「そうは、……させんぞ! メガトロン!!」

 

 オプティマスは両腕のエナジーブレードを展開し吼える。

 これ以上の暴虐を許すわけにはいかない。

 

「食い止めて見せる! エリータのためにも!」

 

 その宣言を聞いて、メガトロンはせせら笑った。

 

「エリータのために、か……」

 

 どこか含むようなメガトロンの言葉に、オプティマスは殺気を強くする。

 憎しみを向き出しにして睨み合う、総司令官と破壊大帝。

 互いの殺気がどこまでも高まり、まさに一触即発。激突は必至だ。

 しかし、そこでメガトロンにサウンドウェーブから通信が入った。

 

『メガトロン様。オートボット ノ、軍勢ガ近ヅイテイル』

 

「……そうか。スペースブリッジの情報は?」

 

『取得デキタ。アルファトライオン ハ、ドウスル?』

 

「…………放っておけ」

 

 メガトロンはそれだけ言うと、通信を切りオプティマスを見やる。

 

「今日のところは引くとしよう。この後の予定が詰まっているのでな。……ディセプティコン! 引き上げだ!!」

 

 破壊大帝の号令に、ディセプティコンたちは次々とあちこちに着陸していた降下船に乗り込み、あるいは変形して飛び立っていく。

 上空の航空部隊もこの空域を離脱し、空中戦艦も情報、科学、両参謀を回収してメインタワーの上から離れていった。

 それを見届けたメガトロンは、オプティマスに背を向ける。

 

「待て! 逃げるのか!」

 

「……言っただろう。予定が詰まっているのだ。これから未知の世界を目指すのだからな。貴様らに構っている暇はないのだよ」

 

 オプティマスの静止に構わず、メガトロンはギゴガゴと音を立ててジェット機に変形し手飛び去るのだった。

 

  *  *  *

 

 クリスタルシティから飛び去る空中戦艦の舳先に降り立ち、メガトロンは黙考する。

 これでゲイムギョウ界に向かう目途が立った。

 そこから問題だ。

 彼の世界においてシェアエナジーを奪う……いや、『取り返す』ためには、それを集めるシェアクリスタルなる石と、扱うことのできる存在、女神が必要不可欠だ。

 女神のほうは、師が調達するという。

 ならば、自分はシェアクリスタルを手に入れなければ……。

 

「…………存外、枯れん物だな」

 

 呟くメガトロンのオプティックから液体が流れていた。

 メガトロンとオプティマスと、そしてエリータ・ワン。

 昔、遠い昔、三人は友達だった。

 三人で遊び、勉学に励み、鍛錬し、未来について語り合った。

 静かに、ただ静かに、メガトロンは泣いていた。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコンの撤退から約1ソーラーサイクルの後。

 生き残った者たちは、アイアコンに移ることになった。

 酸の雨と、サウンドウェーブのハッキングに対する抵抗の末、オメガ・スプリームは休眠しなければならなくなり、もはや都市機能を維持できなくなったのだ。

 惑星サイバトロンに残された最後の楽園、科学と文化の聖地クリスタルシティはこうして滅んだ。

 そしてクリスタルシティ近郊の小高い丘にて。

 金属板を地面に立てただけの簡素な墓が立ち並んでいる。この襲撃で死亡した者たちは、ここに埋葬されていた。

 その中の一つの前に、オプティマスが立っていた。

 これは、エリータ・ワンの墓なのだ。

 

「エリータ……」

 

 オプティマスは墓の表面を撫でる。

 墓碑銘もなく、英霊が眠るにはあまりにも粗末な墓だ。

 

「すまない……。すまない……!」

 

 ひたすらにオプティマスはオプティックから液体を流し、謝ることしかできなかった。

 彼女を守ることができなかった。彼女が守ろうとした物を守ることができなかった。彼女の愛に応えることができなかった。

 最後の最後まで……。

 

 その場に蹲り、オプティマスは悔恨と絶望に囚われて慟哭し続けた。

 

 いつまでも、いつまでも……。

 




あとがきに代えてゲスト解説

レインメーカーズ
サンストーム、ビットストリーム、ホットリンクからなる三人のジェットロン。
元は、初代アニメのモブで、ボットコンで玩具が発売されたさいに名前と設定を与えられた。
ここでは人格破綻者の外道だが、もちろんここだけの設定なので、よそで見かけても嫌わないであげてください。

クロミア
クリスタルシティ防衛隊の副隊長。
アイアンハイドの恋人。
アーシーの色替え。

ドリフト
クリスタルシティ防衛隊の一員。
元ディセプティコン。
ロストエイジ三人組の他の二人に先駆けて登場。

フレアアップ、ファイヤースター、ムーンレーサー
クリスタルシティ防衛隊の女性隊員。
ファイアースターとムーンレーサーは、初代アニメに登場。
フレアアップは……、ボットコンの玩具らしいが、くわしい設定は知らなかったり……
三人ともモブ扱い。リベンジアーシー三姉妹の色替え。

さて、次回こそ、ゆるい話を書くぞ!

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