超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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なぜか、こういう話だと早く書ける気がする。


第39話 レイの一日

 ゲイムギョウ界を侵略しようと目論む悪の軍団ディセプティコン。彼らはエネルギーを求めてオートボットや女神と日夜争いを繰り広げていた。

 今日は、そんなディセプティコンたちの行動を、ひょんなことから彼らの協力者となった、キセイジョウ・レイの一日を追うことで見ていこう。

 

 午前6時、起床。キセイジョウ・レイの朝は、まず自分の朝食を作ることから始まる。

 かつてはむき出しのコンクリートの壁に囲まれていた彼女の部屋も、今は一通りの家具とインフラを備えた生活空間へと変わっていた。

 簡単な朝食を作って食べ、その日一日の活力の基とする。

 その後、整容や着替えを済ませ、『職場』へと向かう。

 

 午前7時、仕事開始。

 レイの部屋の隣に増設されたディセプティコンの幼生の育成室が、今のレイの職場だ。

 育成室は『後』のことも考えて広々としており、清潔に保たれていた。

 

「フレンジーさん、おはようございます!」

 

「おう、レイちゃん。おはようさん!」

 

 同僚と言うか面倒見役にして監視役のフレンジーに朝の挨拶をし、もう一人とも挨拶する。

 

「おはよう、ガルヴァちゃん」

 

 寝ぼけ眼の幼生ディセプティコンに柔らかい笑顔とともに声をかける。

 日に日に大きくなっているが、それでもまだレイより小さな幼生はキュルキュルと嬉しそうに未熟な発声回路を鳴らす。

 その頭を撫でてから、フレンジーから渡された資料を確認する。

 

「夜間の生育状態は良好、シグナル伝達速度、生体パルスに問題なし、エネルゴン濃度と金属バランスは……、ああ、やっぱりちょっと崩れてる……。未消化物も多いですね」

 

「ああ、何度言っても誰かが金属片食わしてるみたいだな。でも誰だろう?」

 

 首を傾げるフレンジー。

 この育成室はパッと見はそう見えないが、この基地でも特に警戒が厳重な場所だ。誰かが勝手に餌をやれば分かるはず。

 

「まあ、それはともかく、ガルヴァちゃんのご飯を作りますね」

 

 そう言うとレイはガルヴァをフレンジーに任せ、部屋の隅にある機械へと向かう。

 機械の操作盤を慣れた手つきで操作するレイ。

 

「エネルゴン濃度は60%くらいかな。後はリチウムとナトリウムはこのくらい……、ベリリウムとマグネシウムを混ぜて……、仕上げにほんの少しの鉄と硫黄を……」

 

 全ての操作を終えて決定ボタンを押すと、チンという音がして容器に入った青い溶液が機械から出てくる。

 これはエネルゴン溶液に各種金属を顆粒状になるまで細かく砕いた物を混ぜた幼生トランスフォーマーのための食事である。

 専用のゴム手袋を身に着け、それを機械から取り出し、食事の臭いにキュルキュルと喉を鳴らすガルヴァの基へ持っていく。

 

「は~い、ガルヴァちゃん。ご飯よ~♪」

 

 容器の中の食事をスプーンで混ぜた後にすくい、ガルヴァの口元へと運ぶ。

 美味しそうに、金属顆粒入りエネルゴンを飲むガルヴァ。それを見てレイは笑顔を大きくし、フレンジーも釣られて微笑む。

 と、育成室の扉が開き巨大な影が入室してきた。

 

「フハハハ! ガルヴァよ! おまえの主、破壊大帝メガトロンが来たぞ!」

 

 それはメガトロンだった。

 上機嫌に笑いながらレイたちの基へ歩いてくる。

 

「「おはようございます、メガトロン様!」」

 

 位を正して異口同音に挨拶する、レイとフレンジー。

 それを手振りで不要と示し、ガルヴァの前に屈みこんでその頭を軽く撫でる。

 

「どうだ? ガルヴァは元気か?」

 

「はい、すごく元気です。ただやっぱり誰か金属片をあげてるみたいですね。せっかくメガトロン様から皆さんに言っていただいたのに……」

 

 最初の頃は、我も我もと皆が餌をやろうとして大変だったのだが、メガトロンが一喝して収めたのだ。

 レイの言葉にメガトロンは一瞬だけオプティックを泳がすが、すぐにニヤリと笑う。

 

「何、こいつはいずれ軍団の戦力になってもらわねばならんからな。たくさん食べるに越したことはない」

 

「そりゃ、そうですけどね。あんまり食べさせ過ぎるとおデブになっちゃいます」

 

 嘆息混じりのレイに、メガトロンは豪放に笑う。

 取りあえず、これがいつもの朝の光景だ。

 

 ちなみにメガトロンは、暇な時はこの育成室に入りびたり、暇でない時も日に三回は訪れるようにしている。

 他の多くのディセプティコンたちも暇を見てはこの部屋を訪れているのだった。

 

  *  *  *

 

 午前11時、午前中の間はガルヴァの面倒を見ていたレイだが、昼が近づいて来たのでまた別の仕事をするべく、いったん育成室を後にする。

 

「また後でね、ガルヴァちゃん」

 

 名残惜しげに泣くガルヴァに手を振り、彼をフレンジーに任せて部屋を出ると、すぐ近くにある部屋に入る。

 ここは有機生命体たち……、つまりレイやリンダ、マジェコンヌのための食堂である。

 空き部屋を利用したので飾りっ気がないが、業務用のキッチンが増設してある。

 キッチンに向かったレイは四人分の食事の準備を始めた。リンダ、マジェコンヌ、ワレチュー、そしてレイ自身の分だ。

 今日はパスタにした。後はサラダと簡単なスープだ。

 

 正午、食堂に集まり食卓に着いたリンダ、マジェコンヌ、ワレチューの前に料理を並べていく。

 

「は~い、今日のご飯はパスタですよ~♪」

 

「やりい! アタイ、姐さんの作ってくれる料理大好きッス!」

 

 嬉しそうにパスタを食べだすリンダ。

 路地裏育ちの彼女にとって、まともな食事ができる現状はかなり嬉しいらしい。

 

「酒はないのか」

 

「昼間から飲むと体に毒ですよ」

 

「……チッ!」

 

 酒がないのが不満そうなマジェコンヌ。

 彼女はショックウェーブの助手として働いているが、あの科学参謀に付き合うのはストレスがかかるらしく、最近酒量が増えている。

 

「相変わらず、年増は料理だけは上手いっちゅね」

 

「はいはい」

 

 相変わらず、口の減らないのはワレチューである。しかし、まあ年増なのは事実なので腹は立たない。

 彼の仕事はリンダと共に基地の雑用だ。本人としては、自分の能力を生かせない仕事だと考えているようだが。

 

 こうして、三人に昼食を振る舞ったレイは、自分も食事を済ませリンダに手伝ってもらって後片付けをする。

 

「いつもありがとうございます、リンダさん」

 

「いえ! いつも美味い飯を食わしてもらってんだから、これぐらい当然ッス!」

 

 基本的にリンダは基地内の様々な雑用をこなしており、ガルヴァの世話を始めとしたレイの仕事の手伝いをしてくれることも多い。レイとしてもそのことに感謝していた。

 生まれも育ちも違う二人だが、不思議と仲は良かった。

 

 あるいは、路地裏育ち故に無自覚に愛情に飢えていたリンダにとって、優しくしてくれるレイは、本当に姉のような存在なのかもしれない。

 

  *  *  *

 

 午後1時、再びガルヴァの世話に戻るべく育成室に戻ったレイだったが……。

 

「レレレ、レイちゃ~ん! 大変だ~!!」

 

 育成室の中からフレンジーが泡を吹かんばかりの勢いで飛び出してきた。

 

「どうしたんですか、フレンジーさん?」

 

「が、ガルヴァが! ガルヴァがいなくなっちまったんだよう!」

 

「何ですって!?」

 

 驚愕に目を見開くレイ。

 ガルヴァはまだハイハイ程度しかできないはずだ。それなのにいなくなるなんて……。

 

「ちょっと目を離したら、いなくなってたんだよう!」

 

 泣きそうな声を出すフレンジー。

 もし、ガルヴァに何かあったらと心配でしょうがない。そして、そうなればメガトロンの逆鱗に触れることのなるのは間違いない。

 

「……探しましょう。私は基地の中を探してきますので、フレンジーさんは育成室の中を、もう一度よく探してみてください」

 

「う、うん……」

 

 すぐさま、やるべきことを判断したレイは踵を返すのだった。

 基地の中には危険な場所も多い。一刻も早くガルヴァを見つけなければ!

 

  *  *  *

 

「……ガルヴァがいなくなった?」

 

 基地全体の警備システムを統括する警備室、その責任者たるバリケードはトランスフォーマーサイズの椅子に腰かけ、有り得ないことを言うレイに聞き返した。

 

「はい、少し目を離した隙に……」

 

「致命的な失態だな。いよいよおまえも最後か」

 

 フレンジーのミスであることをボカして伝えるレイに、バリケードは皮肉っぽく嗤う。

 その顔を無数のモニターの光が照らしていた。

 

「……はい。責任は取ります。だから、先にガルヴァちゃんを見つけないと」

 

 それを真面目に受け取るレイに、バリケードはバツが悪げにチッと舌打ちのような音を出す。

 そして、コンソールを操作してモニターの一つに映像を出した。

 

「……これは少し前の警備カメラの映像だ。第2区画の訓練場近くに設置してある物だ」

 

 そこには、物資を輸送する無人の台車の隅にガルヴァが乗っかっているのが映っていた。

 

「これは……」

 

「あの台車は基地内を一定のルートで回ってる。その進路上を虱潰しにすれば見つかるかもな」

 

 レイの顔がパアッと明るくなった。

 

「ありがとうございます! バリケードさん!」

 

「……ふん」

 

 不機嫌そうに排気しながら、バリケードはレイに椅子ごと背を向けてモニターに向き直る。

 もう一度頭を下げてから、レイはその場を後にするのだった。

 

  *  *  *

 

「いや、ガルヴァはここには来てないぜ」

 

 訓練室で新たに腕部に装備した砲の射撃訓練をしていたボーンクラッシャーは、いったん訓練をやめてレイに向き合う。

 

「そうですか……」

 

「俺もいっしょに探すよ。今日は非番だし」

 

「お願いします」

 

 ボーンクラッシャーの申し出に、素直に助力を願うレイ。

 サイバトロン時代の、敵味方を等しく憎んでいたころのボーンクラッシャーを知っている者がこの場にいたら驚くことだろう。

 

「じゃあ、俺はエネルギー炉のほうを探す。あそこはレイだと危ないからな」

 

 エネルギー炉とは、この地熱を基地全体のエネルギーに変換している場所で、やはりというか人間が入るには危ない場所だ。

 

「ありがとうございます、ボーンクラッシャーさん!」

 

「なんのなんの! ガルヴァは大切な子供だからな!」

 

 リーンボックス僻地の基地で孤独の中に置かれたことと、レイとの出会い、そして幼生の存在は、かつては全てを憎んでいた破壊兵に確実に変化をもたらした。

 それがディセプティコンとして良いことかどうかは分からないが、少なくとも本人は悪い気はしていなかった。

 

  *  *  *

 

「ガルヴァ? いや見てないが」

 

 兵器庫にて、兵器の手入れをしているブロウルにたずねるも、知らないという。

 彼は基本的にこの兵器庫で兵器の管理を担当している。

 無数の兵器や弾丸が、物々しい空気を醸し出している兵器庫は彼の城だ。

 さらにその場には、ブラックアウトとグラインダーもいた。

 

「ふん! 大事なガルヴァを見失うとは、これだから有機生命体は……」

 

「そう言うな、兄者。こうして探しているんだから」

 

 レイに文句をつける義兄を、義弟がやんわりと制する。実に良く出来た弟である。

 キューキューと鳴きながら尻尾を振るスコルポノックの頭を撫でながら、レイは申し訳なさそうな顔になった。

 

「そうですか……、ありがとうございます」

 

「おう、しっかり探してくれよ。俺も見かけたら知らせるぜ!」

 

 レイが頭を下げると、ブロウルは手を振って送り出すのだった。

 

  *  *  *

 

「ガルヴァッスか? アタイは見てないッス。お~い、おまえらはどうだ~?」

 

 休憩中に倉庫の中でドレッズとカードゲームに興じていたリンダは、仲間たちに聞いてみた。

 派手な娯楽はメガトロンの意向に反するとされるディセプティコンだが、こうして休憩中に簡単なゲームに興じるくらいは許されている。

 ちなみにポーカーのようなルールのサイバトロン式カードゲームである。

 

「いや、俺らも見てないYO」

 

「見逃してなければな」

 

 クランクケースとクロウバーが次々に口を開いたが、あまり芳しくない答えだった。

 

「ガウガウガウ!」

 

「ハチェットも見てないそうです」

 

 最後に、ハチェットの言葉をリンダが訳した。

 

「そうですか……。じゃあ、見かけたら知らせてください」

 

「アタイらもいっしょに探しましょうか?」

 

 助力を申し出るリンダだったが、ボーンクラッシャーの時とは違いレイはやんわりと断った。

 

「いえ、いいんです。リンダさんたちにはお仕事があるでしょう?」

 

 休憩が終われば、リンダとドレッズは仕事に戻らねばならない。

 例によって各種雑用ではあるが、それも立派な仕事。サボらせてはいけない。

 

「すんません……」

 

 リンダはレイの配慮に頭を下げるのだった。

 

  *  *  *

 

「ここには来てないぞ」

 

 リペアルームで、リペア台の上をチョコチョコと動き回るザ・ドクターはそれだけ言うと作業に戻った。

 小柄なドクターは様々な機械を操作することで、ディセプティコンたちを修理するが、その機械の点検中なのだ。邪魔しては悪い。

 

「そうですか。どうもすいませんでした」

 

 一つ謝ると、レイは足早にリペアルームを後にする。

 かつて解剖されかかったこともあり、ドクターには少しだけ苦手意識があるのだった。

 

  *  *  *

 

「ガルヴァ~? 見てねえよ」

 

 全員で次の仕事の打ち合わせをしていたコンストラクティコンたちに聞いてみても、ガルヴァの行方は知らないと言う。

 

「ったく、自分の仕事は自分で何とかしろっての」

 

「……はい、すいません」

 

 不機嫌そうに言うミックスマスターに、レイは首を垂れてから、他の場所へ向かった。

 

「ちょっと、ミックスマスター! 手伝ってあげればいいじゃないですか!」

 

「そうなんダナ! 子供は大切なんダナ!」

 

「別に減るもんじゃないじゃろう」

 

「まあ、美しくありませんね」

 

「うおおおお! 俺は探すぜぇえええ!!」

 

「オラも行くっぺよ!」

 

 ガルヴァを探すのを手伝おうとするコンストラクティコンの面々だが……。

 

「じゃかわしい!! 俺らは仕事があんだからそっちに集中する!!」

 

『ええ~!?』

 

「ええ~!? じゃない!!」

 

 騒ぎ立てる部下たちを一喝し、ミックスマスターは部屋の中央に投射された立体映像に向き直る。

 そこには、どこかこことは違う島が映し出されていた……。

 

  *  *  *

 

「あ~ん? 見てねえなぁ」

 

 希望の間とも呼ばれる卵の孵化室にて、卵の状態をチェックしていたスタースクリームはそっけなく答えた。

 彼は孵化室で卵の育成を担当している。意外にも野心家の航空参謀は、この仕事を真面目にこなしていた。

 

「……そうですか。すいませんでした」

 

 頭を下げて、すぐに別の場所に移動していくレイ。

 それを見送った後で、スタースクリームはふと漏らした。

 

「しかし、何たってメガトロンは、あの女を重用するんだ?」

 

 有機生命体を下等と断じているはずの破壊大帝が、レイに対しては……ディセプティコン的な基準で……甘い対応だ。

 そこには何か理由があるはずだ。何となく見当はつくが、確証はない。

 

「まあいいさ。切り札はこっちにあるんだからな」

 

 あの小娘の存在を自分が握っている限り、メガトロンが何を考えていても関係ない。

 

 ――最後に笑うのは俺だ!

 

  *  *  *

 

「論理的に考えて、見ていないな」

 

「……そうですか」

 

 自分のラボでコンピューターを前にしていたショックウェーブは、まったくレイのほうを見ずに穏やかに答えた。

 正直、レイはここでだけはガルヴァが見つからなくてホッとしていた。

 薄暗いショックウェーブのラボの中には何体ものモンスターが、よく分からない液体に浸されて容器の中に入れられている。そのどれもが、切り刻まれ縫合され金属を埋め込まれていた。恐るべきことに何体かはまだ生きているらしく、液体の中で蠢いていた。

 あのマジェコンヌがまいってしまうのも頷ける、教育上あまりにも良くない光景だ。

 それに……。

 

「論理的に考えて、いなくなっても問題あるまい。あの個体は発育状態が良くない。代わりはまだいる。むしろ、まずは不完全なあの個体を徹底的に調査すべきだ」

 

 それにもし、この基地でガルヴァの死を願っている者がいるとすれば、このショックウェーブを置いて他にいない。

 淡々と語るショックウェーブに、レイはそう思わずにはいられなかった。

 

  *  *  *

 

「どこにいっちゃったんだろう……」

 

 台座型の機械に乗ったレイは、基地内の通路をいなくなったガルヴァを探して飛び回っていた。

 探せる場所はあらかた探した。フレンジーやボーンクラッシャーも、探していた場所にはいなかったという連絡が入った。

 後いっていない場所と言えば……。

 

「キセイジョウ・レイ」

 

 ガルヴァの行方について思考していたレイに突然声をかける者がいた。

 機械音声を思わせる、異様な声。こんな声の持ち主は一体しかいない。

 

「サウンドウェーブさん……」

 

 案の定、そこには情報参謀が立っていた。

 しかし、彼はこの時間は自分の部屋で得た情報をまとめているはず、

 

「ガルヴァ 二、ツイテノ情報ヲ、提供シタイ」

 

「本当ですか!?」

 

 淡々とした言葉の内容に驚くレイ。サウンドウェーブは一つ頷くと言葉を続ける。

 

「先ホド、司令部ノ、近クデ見タ」

 

「あ、ありがとうございます! 行ってみます!」

 

 レイは変わらず無感情な情報参謀に丁寧にお礼を言うと、司令部に向かって機械を飛行させた。

 

  *  *  *

 

 そして司令部の前。

 

「結局、ここですか……」

 

 ある意味に置いて、予想通りというか何と言うか。

 敵味方から恐れられるメガトロンだが、ガルヴァのことは非常にかわいがっている。

 

「メガトロン様、失礼します」

 

 一言断ってから部屋の中に入るレイ。

 そこには、予想外の光景が広がっていた。

 

「うわあ……!」

 

 それは星空だった。

 司令室の中いっぱいに美しい星々が煌めいている。

 星々は立体的に宙に浮かんでおり、どんなプラネタリウムもこの前では霞むだろう。

 しかし、これはいったい?

 

「……あれがヴェロシトロンだ。伝説によると、あの星では何よりも速さが尊ばれ、住人はいつもレースばかりしているという」

 

 あまりに美しい光景に見惚れるとともに面食らっていたレイは、玉座に腰かけているメガトロンに気が付いた。

 その膝の上には、探し求めていたガルヴァがお行儀よく座っていた。

 ホッと息を吐いたレイは、部屋中央のホログラム発生装置から投射された立体映像らしい星空の中を、玉座に向かって歩いていく。

 

「メガトロン様」

 

「あっちはギガンティオンだ。住人は皆、山のように巨大だそうだ。……レイか。何用だ?」

 

 レイの接近に気付いたメガトロンは、星の説明を中断してレイにたずねた。

 

「ガルヴァちゃんを探しに来たんです。……連絡くらい入れてください」

 

「ふん。なぜ貴様にお伺いを立てる必要がある? 俺はこの基地の支配者なのだぞ」

 

 当然とばかりに言い放つメガトロンに、レイは一つ息を吐いた後、キッと睨みつける。

 

「そう言う問題じゃありません! みんな心配したんですよ!」

 

 その怒気を受けて、メガトロンはむしろ面白そうにニヤリと笑う。

 

「まあいい。それよりどうだ? 貴様も見ていくがいい、この星図を。ガルヴァも貴様と共に見るほうがいいらしい」

 

 メガトロンのその言葉の通り、ガルヴァはメガトロンの膝の上から器用に降りてくると、レイの足元で丸くなった。これはしばらく動きそうにない。加えて、いくら小さいとはいえ金属の塊であるガルヴァを自力で連れていくことは、レイにはできない。

 

「……そうですね。じゃあ少しだけ」

 

 フウと息を吐き、体の力を抜いて床に座り込むレイ。

 その横にメガトロンも胡坐をかいてドッカと座り込んだ。

 

「これは我らの元いた場所、惑星サイバトロンのある銀河を再現した星図だ」

 

 どうやら、レイのために最初から説明し直してくれているらしい。

 らしくない配慮に、レイは薄く微笑む。

 

「そしてあれが惑星サイバトロン、我らの故郷だ」

 

 その言葉を発した時、星に照らさらたメガトロンの顔が何とも言えない哀愁を帯びていることに、レイは気が付いた。

 

「金属の月輝く故郷。大地は一点の曇りもない銀色に輝き、空はどこまでも透き通った青だった……」

 

 メガトロンがそう言うとともに、星図の星の一つが大きく拡大される。

 それは、金属で構成された輝く球体だった。

 表面は幾何学模様に覆われ、都市と思しい場所は光輝いていた。

 

「ガルヴァよ。おまえにもいずれ、この大地を踏ませてやる。あの美しい夜空の輝きを取り戻してな。必ず、必ずだ……!」

 

 ふと、レイは思う。

 かつて、メガトロンは永い戦いの末に故郷を破壊しつくした。

 だがそれは、彼の本意だったのだろうか?

 

 ――そんなはずがない。だって、故郷のことを口にする時、こんなに悲しい声になるんだもの。

 

 オートボットからもディセプティコンからも恐れられる野望の男、破壊大帝メガトロン。しかし、それは彼の一面にすぎないのではないか?

 ディセプティコンでは、本来優しさや慈悲の心は弱さと同義とされるという。ならば、メガトロンは意図してそれらを暴力の鎧で覆い隠しているのではないか?

 野望や憎しみのために、それらを捨て去ったと思い込もうとしているのではないか?

 

――だとしたら、何て辛い生き方だろう。

 

 なぜだか分からないが、レイは胸が締め付けられるように痛んだ。

 もちろん、全てはレイの推測に過ぎない。

 だけど、故郷を語る声の悲しさが、ガルヴァを見つめる視線の優しさが、メガトロンを単なる暴君とは思わせなかった。

 

「……何だ?」

 

 惑星サイバトロンのことを語り続けていたメガトロンは、レイが自分のほうを見上げていることに気付き、低い声を出す。

 

「……何でもありません」

 

 破壊大帝の内面に疑問を抱いたレイだったが、それを確認するようなことはしない。

 メガトロンは誇り高い男だから。

 きっと、合っているにせよ、間違っているにせよ、そんなことを言われるのは彼のプライドを傷つけるだろう。

 だから、今は内心に留めておく。

 

「……ふん、続けるぞ。では、次はサイバトロニアンの全盛期において、入植したとされる惑星だ。まず、あれがアセニア。かつては宇宙オリンピックが開催されていたそうだ……」

 

 と、大人しくメガトロンの話を聞いていたガルヴァがキュルキュルと喉を鳴らしだした。

 

「あら、ガルヴァちゃん、お腹空いたの?」

 

 レイの問に肯定の意を示す鳴き声を出すガルヴァ。

 

「すいません、メガトロン様。ガルヴァちゃん、お腹が空いたみたいなので……」

 

「ふん、ならば仕方がないな」

 

 少し残念そうに星図の立体映像を消すメガトロンと、頭を下げるレイ。

 と、ガルヴァはハイハイの動きで玉座の後ろに回り込もうとしていた。

 

「あ! ガルヴァちゃん、どうしたの?」

 

 それを追うレイだが、ガルヴァは玉座の後ろから何かを引っ張り出した。

 

「こ、これは……!」

 

 それは袋だった。だが、問題はこぼれるその中身だ。

 鉄板、銅線、他の金属。

 それにエネルゴンチップもある。

 ガルヴァは袋の中に頭を突っ込みそれらをカリカリと齧る。

 

「……メガトロン様?」

 

 ものっそい素敵な笑みを浮かべて、レイはメガトロンを見た。メガトロンはバツが悪そうに視線を逸らす。

 

「ガルヴァにはいずれ立派な兵士に育ってもらわなければならん。そのためには歯ごたえのある物をモリモリと……」

 

「そう言う問題じゃありません!! 金属バランスが崩れたり未消化物が増えると体を壊しやすくなるんですから、自重してください!!」

 

 珍しく言い訳がましいメガトロンに、珍しく目を三角にして怒るレイ。

 そんな二人にお構いなしに、お腹いっぱい食べたガルヴァはスヤスヤとお昼寝を始めるのだった。

 

  *  *  *

 

 その後、駆けつけたボーンクラッシャーにガルヴァを育成室まで運んでもらい、起きてきたガルヴァと遊んだりご本を読んだりしてあげながら午後を過ごした。

 午後9時ごろ、子守唄を歌ってガルヴァを寝かしつけ、今日回った場所をもう一度回って皆にお礼を言った。

 フレンジーはレイとメガトロンに平身低頭で謝り倒していた。

 

 午後10時ごろ、昼間と同様、リンダたちの食事の用意をして、有機生命体組で食卓を囲む。

 今度は少しのお酒もつけてあげる。

 

「ええい、クソ! ショックウェーブの奴め! このままでは、いい加減こっちの精神が持たん!」

 

「今度、メガトロン様に配置を変えてくれるよう言ってみますね……」

 

 マジェコンヌの愚痴を聞きながら、お酒を注いでやる。

 彼女は彼女で、色々たいへんらしい。

 

 午後11時、問題がなければ入浴や歯磨き、着替えを済ませて寝るだけだ。

 

 午後12時、やっと就寝である。

 ベッドに入り、目を瞑る。

 長かった一日もやっと終わりだ。

 ガルヴァがいなくなったことを除けば、最近のレイの一日はこんな感じである。

 ゲイムギョウ界の住人として見れば、裏切りにも等しいかもしれないが、それでもレイは今の日々に充実感を感じていた。

 それを胸に、明日も頑張れるのである。

 

 

 だが、今日はこれでは終わらない。

 

 

 午前1時、突然通信端末が鳴り出し、その音でレイは目を覚ました。

 緊急事態を告げるアラーム音に、何事かと通信に出る。

 

「はい、レイです」

 

『れれれ、レイちゃん! 大変だぁあ!!』

 

 通信機の向こうからは、フレンジーの慌てた声が聞こえてきた。

 

「フレンジーさん? どうしたんですか、そんなに慌てて……」

 

『どうしたもこうしたもないよ! 卵が、卵が孵化しそうなんだ!』

 

「なんですって!? 分かりました。すぐに行きます!」

 

 冷静に考えれば、フレンジーがレイに報告する必要性も、レイが孵化に立ち合う義務もないのだが、そんなことは二人とも考えない。

 レイは寝間着のまま孵化室へと向かうのだった。

 

  *  *  *

 

 孵化室にはすでにほとんどのディセプティコンが集まっていた。

 いないのはマジェコンヌとワレチューくらいだろうか。

 

「フレンジーさん!」

 

 巨大なディセプティコンたちの足元を潜り抜け、最前列にいるフレンジーの下に駆け寄る。

 卵の塊の前にはメガトロンと三大参謀も陣取っていた。

 

「レイちゃん! 見なよ、もうすぐ生まれるぜ!」

 

 フレンジーが卵の一つを指差すとそれはもう、ひび割れている。

 そしてディセプティコンたちが固唾を飲んで見守る前で、ついにその時がやってきた。

 殻を破り、一匹の雛が外界に姿を見せ、産声をあげた。

 そして雛はかつてガルヴァがそうだったように、他の卵の上を滑って床の上に落ちかける。

 だがそれを他ならぬメガトロンが受け止めた。

 

「…………」

 

 何とも言えぬ表情で新たに生まれた雛を見つめるメガトロン。

 その雛は紫のボディを持ち頭頂部が二股に割れている。オプティックはやはり鮮やかな赤だった。

 雛は嬉しそうに鳴き声を上げる。

 

「……ふふふ、今度の子も元気そうだな」

 

 無邪気に自分の指を齧る雛を見て、メガトロンは破顔した。

 そしてディセプティコンたちに向き直り、雛を高く掲げる。

 

「生まれたぞ!! 新たな命だ!!」

 

『おおおおおおぉぉ!!』

 

 主君の宣言に歓声を上げるディセプティコンたち。

 レイはそれを、泣き笑いながら見つめていた。

 新たに生まれ落ちた幼子と、笑い合い肩を叩き合う金属生命体たちとを。

 そして、心から嬉しそうに笑うメガトロンのことを。

 

 やっぱり、メガトロンは慈愛の心を持っている。

 敵も味方も、ひょっとしたら本人さえも気付いていないかもしれないが、周囲には分かりづらく自分では否定するだろうが、それでも確かに。

 

 ――何だろう? 胸がドキドキする。

 

 不思議な痛みを伴って、それでも決して不快ではなく。

 レイには、その感情の名は分からなかった。

 

 ゲイムギョウ界征服を狙う悪の軍団ディセプティコンの秘密基地は、一晩中喜びの声に包まれていたのだった……。

 




別 に い い じ ゃ な い か ! ! 

年 増 が ヒ ロ イ ン で も ! !

っていうかレイちゃん見た目29歳らしいけど、とてもそうは見えない……。
アニメ版なんて、下手すりゃベールさんあたりより若く見えるんですが。

それはともかく、小ネタ解説

ヴェロシトオン、ギガンティオン
ギャラクシーフォースに出てきたスピーディアと、ギガロニアの英語名。
だいたいメガトロンが説明してる通りの惑星。
最近はトランスフォーマーの入植地として扱われることが多い。

アセニア
2010の第一話で、ロディマス主催の宇宙オリンピックが開催された惑星。
その内容は、やっぱりカオス。

そして、次回はいよいよダイノボット編突入!
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