超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

新年一発目は、予定通りプルルートとショックウェーブのお話。


第70話 DD-05に花束を part1

「それでは、彼を例の実験に?」

「ああ。彼こそ、私が求めていた被験体だよ」

 

 科学者と思わしい二人の人物が、モニターを前に話していた。

 モニターに映っているのは、大柄な青年だ。

 だが、その体格と外見年齢に似合わず、床に座り込んで金属製のブロックを積み上げて遊んでいた。

 科学者の内、助手と思われる方が口を開いた。

 

「彼は労働階級の出身ですが、先天的に知能レベルが低く、仕事も上手くいっていないようです」

 

 助手の言葉を裏付けるが如く、青年の表情は幼い子供のそれを思わせる無邪気な笑みだ。

 

「ふむ。ではまず、彼と話してみるとしよう」

 

 そう言うともう一方の科学者は、手元の通信機器を使って、モニターの向こうの青年に話かける。

 

「あ~あ~、君、聞こえるかね? 聞こえたら返事をしてくれ」

『……はい、きこえます』

 

 ややあって帰ってきたのは、舌っ足らずな声だった。

 

「君にいくつか質問をしたいのだが、いいかね?」

『はい、だいじょうぶです』

「ふむ。ではまず、君の名前と仕事を教えてくれ」

『はい! ぼくのなまえはDD‐05です! おしごとは、さいくついんです!』

 

 拙いながらも元気に返してくる青年……DD‐05に、科学者は満足げに微笑む。

 

「うむ。ではもう一つ、……君は、自分が参加する実験について、どれぐらい把握しているかね?」

『……?』

「ああ、すまん。君はこれから、何をされると思う?」

 

 言葉が難しかったらしく首を傾げるDD-05に、科学者は言い方を変える。

 すると、DD-05はニッコリ笑って答えた。

 

『あたまを、よくしてもらいます』

「正解だ! それで君は頭が良くなりたいかね?」

『はい! ぼくはあたまがよくなりたいです!』

 

 無邪気なDD‐05を見て、科学者はニィッと笑う。

 だがそれは、子供のようなDD -05を微笑ましく思って浮かべたものではない。

 

 例えるなら新しい玩具を見つけた残酷な子供のような、そんな笑み。

 

「ふふふ、ではしばらく待っていてくれ」

『はい』

 

 通信を切り、科学者は助手に向き合った。

 

「今のを録音したな? これで、被験者からの承諾は得られたワケだ」

「はい。しかし……こんなやり方は……」

 

 不満げな助手に対し、科学者は危険に両眼(オプティック)を光らせる。

 

「全ては、科学の発展のためだよ。すぐに実験の準備を始めたまえ」

「……はい」

 

 助手は諦めて一つ排気すると、部屋を退出した。

 科学者はモニターの向こうのDD-05を見つめ、一人ごちる。

 

「今回のブレイン交換手術は、上手く行きそうだ……。ふふふ、今から楽しみだよ」

 

 その表情は、明日の遠足を楽しみにしている子供のようだった。

 

 この科学者に、善意や倫理や人道やと言った物は欠片もない。

 

 しかし、悪意や憎悪や功名心もない。

 

 あるのは、どこまでも、病的なまでに深い知的好奇心だけだ。

 

 幸か不幸か、それを満たすだけの科学的才覚を、彼は備えていた。

 

 狂気の天才、それが彼を表すには一番適切な表現だろう。

 

 その名を、ジアクサスと言う……。

 

  *  *  *

 

 ラステイション首都に、ほど近い場所にある真光炉の跡。

 

 先ごろの暴走事故により、ここは完全に放棄された。

 

 メインとなる真羅公社ばかりでなく、協力した企業が様々な形で資金を自分の懐に入れていたが故の人災だった。

 当然ながらノワールは烈火の如く怒り、真羅公社を営業停止処分とし、当面の間ここへの人の立ち入りを禁じた。

 

 しかし、あえてここを訪れる者がいた。

 

 それは……。

 

「ふむ。興味深い」

 

 深紫の筋骨たくましい男性を思わせる体躯に、何よりも目立つ赤い単眼。

 今は右腕を粒子波動砲に変形させていないが、ディセプティコン科学参謀、ショックウェーブに違いない。

 ショックウェーブは真光炉の本体を興味深げに眺めていた。

 

「ふむ。やはりこれは、私が研究している物と同じ物のようだ」

「まさか、マスターよりも先に完成させる者がいたとは……」

 

 無感情に呟くショックウェーブに対し、隣に立つ影は驚いた様子を見せる。

 ショックウェーブによく似た姿だが、頭が二つある。

 

 ドリラーの中枢部を移植された人造トランスフォーマーのトゥーヘッドだ。

 

「どうします? 破壊しますか?」

「それは論理的ではないな。せっかくだから、データを収集していくとしよう」

 

 ショックウェーブは冷静に答えると、炉に近づいていく。

 彼に、『先を越された』などという俗な嫉妬はないのだ。

 ただ、使えるなら使うだけ。

 さっそく、炉をスキャンする。

 

「……む」

 

 しばらくは情報収集していたショックウェーブとトゥーヘッドだったが、何事かに感付き、上を見上げる。

 

「うふふふ、みぃ~つけた♡」

 

 真光炉建屋の裂け目から、逆光を背負って誰かが現れた。

 

 濃紫の長い髪と、妖艶な姿態を包むボンテージの如き服装。

 

 手に持っているのは、大振りな蛇腹剣。

 

 そして、並みのディセプティコンが裸足で逃げ出すであろう、嗜虐心に満ちた笑み。

 

 異次元のゲイムギョウ界から現れた女神、プルルートことアイリスハートである。

 

「ここにくればあなたに会える気がしたのぉ♡ 今日こそ私の靴を舐めさせて、あ、げ、る♡」

 

 もう、仮にも正義の味方側に属しているとは思えない言動のプルルート。

 果たして彼女を女神と崇める異次元のプラネテューヌの民とは、いかなる性癖の持ち主たちなのか。

 まさか、全員女王様に傅くことに悦びをおぼえる下僕体質でもあるまい。

 

 閑話休題。

 

 ショックウェーブはギラリと単眼をプルルートに向ける。

 彼としては極めて珍しく、機嫌が悪げである。

 

「君か。何故、君がここにいる?」

「ネプちゃんたちが会議するって言うから付いて来たんだけど、ナゼだかあなたと会える気がしてねぇ。思わず飛び出してきちゃったのぉ」

 

 ようするにプルルートは直観的にショックウェーブの気配を感じてやってきたらしい。

 呆れたような声を出すショックウェーブ。

 

「相変わらず、論理性のない……」

「論理なんかぁ、絶頂には関係ないのよぉ? ……ところでぇ、そっちの新顔君を紹介してくれないのかしらぁ? その子も苛め甲斐がありそうねぇ」

 

 トゥーヘッドは、プルルートの舐めるような視線に身震いする。

 さもありなん、トゥーヘッドの前身であるドリラーを撃破したのは、このプルルートなのだ。

 ショックウェーブは分身を守るように前に出る。

 

「あはは♪ 震えちゃって可愛いぃ♪ ますます苛めたくなってきたわぁ!」

 

 ケラケラと笑うプルルート。

 どっちが悪玉なのか分かったもんじゃない。

 

「やれやれ、どこまでも論理性のない……。いいだろう、相手になってあげよう。トゥーヘッド、お前は炉のデータを集めろ」

「はい、マスター!」

 

 ショックウェーブはトゥーヘッドに指示を出し、右腕を砲に変形させ、上方のプルルートに狙いを付ける。

 

「いい加減、その顔も見飽きた」

「なら、もっと強烈なのを見せてあげるわぁ!!」

 

 不機嫌さを隠そうともせず砲を撃つショックウェーブに向かって、プルルートは蛇腹剣を構えて急降下する。

 無数に分裂したエネルギー弾がプルルートに襲い掛かるが障壁を発生させて防いで、さらに蛇腹剣を伸ばして振るう。

 

 文字通り蛇のようにショックウェーブに迫り、その体を叩くが、多少よろめいた程度で大したダメージはない。

 

「相変わらず、頑丈ねぇ。まあ、フニャフニャよりはガッチガチなほうが好きだけど」

「相変わらず、君の言葉は意味不明だな」

 

 言葉をかけあいながら、二者は激突する。

 

 ショックウェーブは右腕の砲から、ミサイルを次々と発射する。

 だがプルルートは蛇腹剣を縦横無尽に振るい、これを撃墜した。

 

 激しい戦いが続く間も、トゥーヘッドは主人の命令を忠実に実行し、炉をスキャンし続けている。

 

「炉の中心にはまだ少しエネルギーが残っているな。もし炉に強力な電気でも浴びせたら、たちまち大爆発を起こしてしまうぞ」

 

 背後では、蛇腹剣に電撃を纏わせたプルルートと、ブレードを展開したショックウェーブが切り結んでいる。

 

「……まあ、そんなことは有りえないか。こんな所に電気なんか……」

「ファイティングヴァイパー!!」

 

 トゥーヘッドが呟いた瞬間、プルルートの放った電撃が炉に直撃し、爆発を起こした。

 衝撃でトゥーヘッドは建屋の外まで吹き飛ばされていった。

 地面にいくつも亀裂が走り、凄まじいエネルギーが帯のように空中に広がっていく。

 

「ッ! トゥーヘッド!!」

 

 戦いを中断し、分身を助けに向かおうとしたショックウェーブだったが、エネルギーの帯の一本がその頭部を接触した。

 

「がッ!? が、が、が!」

 

 危険な発明をいくつも作り出した狂気に満ちた、しかし極めて優秀なブレインの詰まった頭部から火花が上がり、単眼から光が消える。

 

「ちょ、ちょっとこれどういうことよ!? ……ッ!?」

 

 状況を理解できず狼狽えるプルルートの背面にもエネルギーの帯が触れ、その翼を焼き、痛みと衝撃に意識が遠のく。

 

 女神化の解けたプルルートが墜落し、ショックウェーブが地に伏すのと、床が崩れて大穴が開くのは同時だった。

 

 共に意識を失ったプルルートとショックウェーブは、大穴の中……底の見えない暗闇へと落ちていくのだった……。

 

  *  *  *

 

 ジアクサス主導のブレイン交換手術とは、呼んで字の如く頭脳回路(ブレインサーキット)を交換する手術である。

 ブレインサーキットは金属生命体の肉体を構成するパーツの中でも、スパークと並んで重要視される部位だ。

 しかし、ブレインはあくまでも思考と感情、記憶を司る『だけ』の物であり、金属生命体の本質は、あくまでスパークにあるとするのが主流の考えである。

 

「……だが、ブレインの性能が金属生命体の人格と知能レベルに大きな影響を及ぼすのは、言うまでもないだろう。ブレインサーキットの性能が低いが故に、知能に問題を抱え苦しんでいる者は多い。そこで私はブレインの一部を交換することによって、先天的低知能者を治療できるのではないかと考えた。これがブレイン交換手術だ」

 

 ジアクサスは自分の研究室で、目の前に座っているDD-05にこれから行うことを説明していた。

 

「ええと?」

「つまり君のブレインの悪い部品を取って、良い部品にするんだ」

 

 理解できないらしく首を傾げるDD-05に噛み砕いて説明してあげるジアクサス。

 するとDD-05は嬉しそうに笑った。

 

「ぼくを、しゅうりしてくれるんですね?」

「まあ、そういうことだ。さあ、立ちなさい。研究所の中を案内しよう」

 

 立ち上がったDD-05について来るように促し、ジアクサスは部屋を出る。

 研究所では、様々な科学者たちが各々の研究を続けていた。

 

 薬品を混ぜる者。

 

 機械を弄っている者。

 

 コンピューターと睨めっこをしている者。

 

 そして、生き物たちを切り刻んだり注射をしたりしている者。

 

「この研究所では、様々な分野の研究をしている。工学、化学、そして生物……、特に聖域とされる生命の神秘を暴く……もとい解明することに重点を置いている」

「……ええと?」

「つまり、生き物について調べているんだよ」

 

 ジアクサスの話を理解しきれないDD-05だったが、ふと檻のような物がオプティックに入った。

 DD-05の腰のあたりまである檻で、中では何か長いものがとぐろを巻いていた。

 

「あれはなんですか?」

「採掘用のドローンを品種改良、及び外科的改良を施したものだ。特に知能を強化してある。ブレイン交換手術の成果の一つだよ。今はまだ幼体だが、将来的にはとても大きくなるはずだ」

 

 二人の会話に反応したのか、ドローンは鎌首をもたげて頭を二人に向けた。

 DD-05は、驚いてオプティックを丸くした。

 

「あのこが、こっちをみています」

「『見ている』というのは、不適切な表現だな。あれに我々のようなオプティックはないのだよ」

「でも、みているんです」

 

 DD-05が檻に近づいていくと、ドローンは彼に顔を近づけた。

 

「このこのなまえは、なんていうんですか?」

「ん? 実験体46号だが。……ああ、仮称としてドリラーと呼んでいる」

「どりらー」

 

 興味なさげなジアクサスだが、DD‐05は嬉しそうにドリラーに声をかける。

 

「どりらー、ぼくとともだちになってくれる?」

 

 それに答えるようにドリラーは唸る。

 果たして肯定の意を示したのか、そもそも言葉が通じているかは分からない。

 

「ありがとう。ぼく、ともだちができたのははじめてだよ」

 

 それでも、DD-05はニッコリと笑うのだった。

 

「ふむ。何か通じるものがあるのかな? なんにしても、興味深い」

 

 ジアクサスは、見つめ合う一人と一体を興味深げに眺めるのだった。

 

  *  *  *

 

 パチリとプルルートが目を開けると、そこは闇の中だった。

 広い洞窟の中のような感じで、土壁から突き出た鉱石が淡く光り、完全な暗黒ではない。

 

「あれ~? ここ、どこだろう~?」

 

 上体を起こし、ポヤっとした表情で首を傾げるプルルートだったが、ようやく記憶が追いついてきた。

 

「ああ~、そっか~。ショッ君と戦って~、落ちちゃったんだ~」

 

 ノンビリと言った後で上を見上げると、遥か上に自分たちが落ちてきた穴が見えた。

 さっそく、女神化して飛んで行こうとするが、変身してみるとそれが不可能なことに気が付いた。

 

「プロセッサが……、これじゃ飛べないわねぇ……」

 

 プロセッサユニットの翼部分が大きく破損していた。

 エネルギーの帯に触れた時に、破壊されてしまったのだろう。

 

 さて困った。

 

 どうやって帰ったものかと考えていると、暗闇の中で大きな影がノッソリと立ち上がった。

 

「ああ、そうだった。あなたもいっしょだったわねぇ。第二ラウンドいっとくぅ?」

 

 その影……宿敵ショックウェーブを見て、プルルートは獰猛な笑みを浮かべる。

 この程度の傷など問題にはならない。

 

 だが、ショックウェーブの様子がおかしい。

 

 辺りをキョロキョロと見回し、小首を傾げている。

 

「……ここはどこですか? あなたはだれですか?」

 

 そして嫌に舌っ足らずながら丁寧な言葉づかいでプルルートに話しかけてきた。

 

「し、ショッ君?」

「しょっくんというのはだれですか? ぼくのなまえはDD-05です」

 

 さしもに呆気に取られるプルルートに、ショックウェーブは分かり辛いが微笑むような挙動を見せつつ自己紹介する。

 

「え~とぉ……、と、とにかく、さっきの続きをしましょう? あたし、もう体が疼いちゃって仕方ないのぉ」

 

 プルルートは妖艶に笑んで蛇腹剣を呼び出す。

 

 だが、ショックウェーブはニコニコと笑うばかりだ。

 

 何とも言えない空気が、暗い洞窟の中に流れる。

 

 バツが悪げな顔になったプルルートは蛇腹剣を消して、女神化を解除した。

 

「……えっと~、あたし~、プルルート~。ショッ君は、どうしちゃったのかな~?」

 

 とりあえず相手が無害であることを察したプルルートだったが、この状況が理解できずに問う。

 

「ぷるるーと、ぼくはしょっくんじゃないです。DD-05です」

 

 相手もまた、よく分かっていないようで、自分に対する呼び方の訂正を求めてくる。

 よく分からないが、今のショックウェーブはショックウェーブであってショックウェーブではないらしい。

 子供のような彼に、プルルートはやる気を失う。

 

 こんな状態のショックウェーブを倒しても意味はない。

 

 無抵抗の相手をいたぶるのは……いや、それはそれで楽しいが、ことショックウェーブに関しては、強く硬く澄ました顔をしている彼でなくてはならないのだ。

 

 そんな内心をおくびにも出さず、プルルートはニパッと笑む。

 

「じゃあ、DD-05。いっしょにここを出ようか~」

「はい、いっしょにいきましょう。ぷるるーと」

 

 ショックウェーブ……今はDD-05は、柔らかく微笑み返すのだった。

 

  *  *  *

 

 手術台に横たわるDD-05。

 その前にジアクサスが立っていた。

 

「気分はどうだね? 今日はいよいよ、ブレイン交換手術を受けるわけだが」

「だいじょぶです」

「よろしい。一応説明しておくと、これから君のブレイン……そしてそれを収めた頭部をそっくりそのまま取り替える」

「はい。……あれ?」

 

 説明を受けていたDD-05は、ジアクサスの言っていることが前と違うことに気が付いた。

 確か、交換するのは一部分だったはずでは?

 しかし、きっと自分の記憶違いだと考え、何も言わない。

 

「これにより、君はより合理的な人格を得ることができる。……私のコピーと言える人格をだ」

 

 嬉々として語るジアクサスは、もはやDD-05の方を見ていない。

 

 いや、最初からジアクサスの目にDD‐05という青年は映っていなかった。

 

 彼にとって、自分以外の全ては知的好奇心を満たすための研究対象に過ぎないのだ。

 

 ゆっくりと、ロボットアームに接続されたヘルメットのような物が、DD-05の頭部に被さっていく。

 その内部には、悍ましくて描写できないような器具が詰まっていた。

 ヘルメットがDD-05 の頭部を首までスッポリと覆うと、内部から駆動音が聞こえてきた。

 

 次いで、恐ろしい悲鳴が手術室に轟く。

 

 周りの助手たちが恐怖に耳を塞ぎ罪悪感に体を震わせる中、ジアクサスは平然と言い放った。

 

「この実験の結果は、サイバトロンに衝撃をもたらすぞ。君の存在は、永遠に記録される衝撃波(ショックウェーブ)となるのだ」

 

 嬉しそうに笑いながら、ジアクサスは脇の台に置かれた『物』を手に取る。

 

 それは、湾曲した二本の角と、大きくて丸い単眼を備えた、トランスフォーマーの頭部だった。

 

  *  *  *

 

 地下を行くプルルートとDD-05。

 行く手を大岩が塞げばDD-05が退かし、高い段差が現れればDD-05がプルルートを上に上げてやる。

 DD-05は子供っぽく無邪気ながらも、極めて親切に振る舞っていた。

 だからこそ、プルルートには解せない。

 

 このDD-05が、本当にあのショックウェーブと同一人物なのだろうか?

 

 中身だけ別人と入れ替わったと言われても信じてしまいそうだ。

 

「……あの、ぷるるーと?」

「な~に?」

 

 と、DD-05がオズオズとたずねてきた。

 その姿も、普段のショックウェーブとはかけ離れたものだ。

 

「ぷるるーと。ぼくのトモダチになってくれませんか?」

「……ほえ~?」

 

 意外な内容の言葉に、プルルートは目が点になる。

 それを否定と受け取ったのか、DD-05は少し落ち込んだような素振りを見せた。

 

「やっぱり、だめですか」

「ううん、ダメじゃないけど~……ちょっと考えてもいいかな~?」

 

 煮え切らない調子のプルルート。

 普段が普段なだけに、いかな彼女と言えど即答はできない。

 

「わかりました」

 

 それでも、DD-05はノーと言われたワケではないと察したらしく、少し喜んでいるようだ。

 

 つまらないことにも一喜一憂する姿は無邪気で善良な子供のようで、さしものプルルートも戸惑ってしまうのだった。

 

  *  *  *

 

「起きなさい……DD-05」

「はい」

 

 ジアクサスに促され、ゆっくりと手術台から起きあがったDD-05は、もはやかつてのDD-05ではなかった。

 

 頭部は新しい物へと交換され、そこに詰まっているブレインサーキットは、以前とは全く違う高性能な物になった。

 

「気分はどうかね?」

「はい。月並みな表現ですが、生まれ変わった気分です」

「では問おう、君は生命に価値があると思うかね?」

「いいえ。生命とは現象に過ぎず、それ以上の価値はありません」

 

 自らの問いに、今までとは違う穏やかで大人びた声で、淀みなく答えたDD-05に、ジアクサスは満足げに頷く。

 

「ブレイン交換手術はひとまず成功だ!」

「はい。ですが、経過を見てみなければ正確なデータは取れません」

「ああ、そうだな」

 

 冷静な意見を出すDD-05にジアクサスは再度、頷いた。

 

 自分の実験は大成功だったのだ。

 新たに植え付けたブレインサーキットに由来する人格は、ジアクサスの理想と言ってもいい。

 

 感情に囚われない論理と科学的根拠を何より優先する、合理的な人格。

 

 この実験の真の目的は自分以外の者の能力の低さに辟易したジアクサスが、有能な助手を『作る』ことにあった。

 唯一、ジアクサスが認めた頭脳の持ち主はセンチネル・プライムであるが、彼は科学の平和利用を第一に考えており、ジアクサスとは致命的に話が合わない。

 

「では、君には私の補佐として働いてもらおう。まずはついてきたまえ」

「はい」

 

 ジアクサスの背を追って、DD-05は歩き出した。

 研究室の光景は、以前と全く違って見えた。

 ここにある器具やサンプル、行われている行為の意味が手に取るように分かる。

 

 新鮮な感覚だが、感動はなかった。

 

 すでにDD-05の感情は鋼鉄のように硬く冷めきっていた。

 

 ただ、知的好奇心だけが本能として刷り込まれている。

 

 ふと、横を見ると研究員が檻を運ぼうとしているのが見えた。

 ドリラーが入っている檻だった。

 

「……ドリラーをどうするのですか?」

「ん? ああ、廃棄するんだ。すでに実験をし尽くしたし、これ以上ここに置いておく意味はないからね」

 

 ジアクサスの声に興味は欠片もない。

 すでに彼の興味は隣に立つ新たな実験動物に注がれていた。

 

「それなら、僕がもらってもいいでしょうか?」

「んん!? それはかまわんが、なぜだね?」

 

 DD-05の考えを読むことができず、ジアクサスは怪訝そうにする。

 対して、DD-05は平坦に答えた。

 

「ドリラーは、僕のトモダチですから」

「……………そうか。好きにしなさい」

 

 そう言ったジアクサスではあったが、その視線には多分に侮蔑が含まれていた。

 一つ礼をすると、DD-05はドリラーの入った檻に向かって歩いていった。

 

「……まだ、感情が残っていたか。まあ、いい。時間経過と共に、それも失われるだろう」

 

 ジアクサスの呟きは、誰にも聞かれることはなかった。

 

  *  *  *

 

 

 洞窟の中をプルルートとDD-05はノンビリと進んでいた。

 

「それじゃあ~、DD-05は~、穴掘り屋さんなんだ~」

「はい。ぼくのしごとはさいくついんです。でも、どじばかりで、いつもみんなをおこらせてしまいます」

「分かる~、あたしも~、仕事が遅いって、いっつもみんなに怒られるんだ~」

 

 すっかり打ち解けて、和やかに会話する二人。

 

 潜在的に加虐嗜好ではあるが、ポヤッとしたプルルートと、子供のようなDD-05は波長が合う部分があったらしい。

 

「それでね~……、あれ~?」

 

 話を続けようとするプルルートだったが目の前に開けた空間が現れた。

 

 そこは遥か上の亀裂から日の光が差し込んでいて、地下深くに関わらず花畑になっていた。

 奥には地下水が流れ込み池になっている。

 

「うわ~! きれ~い!」

「はい! きれいです!」

 

 自然の悪戯が創り出した、神秘的で美しい光景に二人は感嘆の声を上げる。

 

「少し疲れたから~、ここで休んで行こう~」

「そうしましょう」

 

 プルルートは花畑に寝転がり、DD-05は適当な岩に腰かける。

 しばらく、横になっていたプルルートだったが、ふとDD-05が花畑から花を摘んでいることに気が付いた。

 

「ぷるるーと、これあげます!」

 

 やがて、DD-05はプルルートの前に花束を差し出した。

 体が大きい上に、あまり器用ではないらしいDD-05が集めただけあって泥だらけでクシャクシャだが、一生懸命に作ったことがうかがえた。

 プルルートは素直にそれを受け取り、笑みを大きくする。

 

「くれるの~? ありがとう~!」

「はい。きれいなひとには、きれいなものをあげます」

「……ほえ~?」

 

 無邪気なDD-05 の言葉に、プルルートは目を丸くして、次に頬を赤く染めた。

 女神態の時のプルルートは妖艶な美女であるが、人間の姿の時は年端もいかない少女である。

 

 『可愛い』と言われることはあっても、『綺麗』と褒められることは中々ない。

 

「あ、あたし、そんな綺麗じゃないよ~」

「? ぷるるーとは、すごくきれいです」

 

 顔の構造上分かり辛いがニコニコとしながらDD-05は言い切る。

 

 プルルートは彼女としては非常に珍しく、タジタジに照れてしまうのだった。

 

  *  *  *

 

 手術を受けてからのDD-05の生活は一変した。

 

 ジアクサスの助手として、かつては考えられなかったような高度な科学知識に触れる日々。

 

 だが、かつてない新発見をしても、革命的な発明をしても、誰も解くことのできなかった数式を解いても、その心には何の感動もない。

 

 他者の賞賛も敬意も、空虚にしか感じない。

 

 分かってしまったからだ。

 

 この世界とは、論理によって形作られている。

 

 原因があり、現象が起こり、結果が残る。……それだけだ。

 

 感情も、生命も、社会も、時間も、空間も、宇宙さえも、所詮は機械仕掛けの玩具と何も変わらない。

 

 『恩人』あるいは『師』とでも呼ぶべきジアクサスに対しても、感謝や思慕の念は全く感じない。

 反対に、自らを実験材料にしたことへの怒りや憎しみもない。

 

 唯一の例外はドリラーで、彼と共にいる時だけは、かつてはあったはずの感情の残滓を感じることができた。

 

 ……あくまで、残滓を、だが。

 

 そんなある日のことだ。

 

 その日もDD-05は、ジアクサスの研究をサポートしていた。

 

 『……ディセプティコンよ! 立ち上がれ!!』

 

 突然何処からか聞こえてきた音声に、ジアクサスとDD-05は首を巡らす。

 見れば研究員の一人が通信端末でニュースを聞いていた。

 二人の視線に気付き、研究員は頭を下げる。

 

「あ、ああ? スイマセン。何せ気になったもので……」

「すぐに消したまえ。我々は科学の深奥を探求しているのだよ。世俗のことになぞ、気を取られるのではない」

「しかし、メガトロンの軍団は日増しに勢力を伸ばしているそうです。このままではここにも……」

「くどいぞ」

 

 ジアクサスと研究員が言い合う間にも、放送は続く。

 

『時は来た! 今こそ腐敗の温床たる評議会とオートボット軍を打倒し、我らディセプティコンの世界を創り上げるのだ!!』

 

 ニュース放送では、メガトロンなる人物が演説を繰り広げていた。

 ディセプティコンをまとめ上げているらしいが、特に興味は湧かない。

 ジアクサスも、ヤレヤレとばかりに首を振る。

 

「仮にこのメガトロン何某が、我々の予想以上に力をつけ、さらにこの研究所まで攻めこんできたとしよう。……だとしても、ここのセキュリティを突破することは絶対にできないよ。論理的に考えて、ね」

 

 ジアクサスの言う通りだ。

 ここにはサイバトロンを滅ぼして余りある危険な発明や発見で満ちている。

 故に、それらが悪用されないよう極めて厳重に守られているのだ。

 

 それこそ、侵入不可能と言って良い。

 

『我らディセプティコンは、そして、破壊大帝メガトロンは! あらゆる障害を踏破する! それが何であれ、必ず!!』

 

 メガトロンの言葉は、一切、DD-05の心を打たなかった。

 

  *  *  *

 

 プルルートは、DD-05の肩に乗せてもらっていた。

 まだまだ、出口は見えそうにない。

 

 プルルートは思う。

 

 もしも……、もしも、このままDD-05がショックウェーブに戻らなかったら。

 

 その時は。

 

 その時は、自分の『トモダチ』として、皆に紹介しよう。

 

 皆反対するだろうが、まあ、何とかなる。と言うか、何とかする。

 

 最悪、自分の元いた世界に連れて行ってもいいかもしれない。

 

 この世界の女神にはトランスフォーマーのパートナーがいるのだから、自分にいたっていいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が通り過ぎてからしばらくして、洞窟の壁を突き破って何かが土中から姿を現した。

 

 それは横に並んだ二つの鋭いドリルを備え、キャタピラによって走行する戦車のような機械だった。

 

 ゲイムギョウ界に存在する機体とは一線を画す、人が乗るとは思えない構造。

 

 さしずめ、エイリアン・ドリルタンクとでも言おうか。

 

 ドリルタンクは二連ドリルの回転を止めて停車すると、その車体を無数の粒子にまで分解した。

 いったん空中に散った粒子が再結集して現れたのは、単眼を備えた頭を二つ持った紫のトランスフォーマー……トゥーヘッドだった。

 

 ロボットモードに戻ったトゥーヘッドは、二つの頭を動かして辺りを探る。

 

「ここにもいない……。マスター、いったいどこに……」

 

 暗闇の中に主人の姿を求めるトゥーヘッド。

 しかし、ディセプティコンの基地がある島の地層に含まれている物と同じ種類の鉱石が、トゥーヘッドのセンサーを阻害していた。

 故に、トゥーヘッドは僅かな痕跡を地道に辿っていく以外に主人を探す手段を持たない。

 

 それでも、探す以外の選択肢をトゥーヘッドは持たない。

 

「必ず、見つけます。マスター」

 

 ショックウェーブはトゥーヘッドにとって、たった一人の『トモダチ』なのだから。

 




タイトルは、名作小説『アルジャーノンに花束を』より。
ドラマ版の同作を見て思いついたのが今回の話。

今回の解説。

DD-05
実写第三作ごろに発売されたショックウェーブの玩具の番号。

ジアクサス
今回のゲスト。
初出はマーベルコミック版、およびG2。
後にIDW版にもマッドサイエンティストとして登場し、現在はこちらが有名。
出るたびに余計なことしかしない。

以下、ジアクサス先生の遍歴の一端。

G2
記念すべき初登場。
進化したG2トランスフォーマーを自称し、従来のトランスフォーマーを見下す。
だが実際には、その進化には大きな穴があった。

IDW
弾けた。
マッドサイエンティストとして活躍(?)
合体戦士を作り出したり、本来性別のないアメコミのTFを改造して『女性』にしたりとやりたい放題。

ライズ・オブ・ダークスパーク
名前のみ登場。
仲間をダークスパークの実験台にしてたらしい。

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