目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜   作:とれりか

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10話 ヨロイさん「守るために」

 山をも砕きそうな衝撃に襲われ、俺は遥か彼方へ吹っ飛ばされた。

 

(んぎぎ…!)

 

 木々を突き破りながらも、大樹をクッションにする形で俺の勢いは止まった。

 

 だが不思議なことに、いやもしかしたら当然のことなのかもしれないが、俺は全く痛みを感じていなかった。

 

(いや、今は俺のことはどうでもいい。考えるべきことは、アイツとアイツの魔法のことだ)

 

 さっきの近接戦で気付いたことが一つ。

 いまぶっ飛ばされて分かったことが一つ。

 

(衝撃の魔法、その構造と仕組み…)

 

 俺の中の何かが、高速で動いているのを感じる。

 

(使える)

 

 そして確信した。

 俺にもアレができると。

 

 今までのように足を溜めるだけではなく、魔法力を脚部に集中させる。

 力と魔法力を圧縮して閉じ込める、この感覚だ。

 

(いける!)

 

 限界まで蓄えた力を解放してた俺は、矢よりも早くまるで流星のように飛び出した。

 

 吹き飛ばされて出来た獣道を逆行する中で、アムの気配を感じ取った。

 あ、やべぇこれブレーキってどうすりゃいいんだ。

 

「あっ兄さ…どこいくねーん!」

 

 高速でアムの横を通り過ぎてしまったが、空気抵抗を全力で受けるポーズをとることでなんとかそう離れない内に着地できた。

 

「良かった、兄さん無事やったんやな!」

 

 駆け寄ってきたアムを再び背中に乗せ駆け出した。

 すでにミアさんたちのところまで大した距離ではないので、魔法を使った跳躍はしないでおく。

 

「それにしても兄さん、今のめっちゃ速かったなぁ!」

《衝撃の魔法、使った》

「ええ!?それってあのクマ公のか!」

《なんか覚えた》

「天才や……!」

 

 すごい勢いで褒めてくるから、少し照れるぜ。

 

《アム、伝えて欲しいことがある》

「おっアムの仕事やな、任せとき!」

 

 俺の話はさておき、あのクマに関する情報を共有する。

 

「…それ、ホンマやったら偉いことやで。なんとかなりそうなんか?」

《たぶん、任せて》

「いよっし!頼りにしとるで、兄さん!」

 

 ポン、肩に置かれた手が心地良い。

 ミアさんもアムも、俺を信頼してくれている。

 なら、全力でそれに応えよう。

 

 見えた、クマ野郎だ。

 ミアさんが大岩で殴りつけて、アイツの足を止めた。

 

 このまま突撃するか?いや、できるならこっちに誘導したい。

 

(なら…!)

 

 拳に地面に突き立て魔法力を放つ。

 大地を伝播した力は大熊の真下で衝撃へ変質し炸裂し、こちらへ吹き飛ばした。

 

《アム、投げるぞ》

「へ?投げる?ちょっ待ってや兄さぁぁぁぁ……!!」

 

 すまん、背負ってたら危ないし急いで伝えてほしいことがあるしで、こうするのが一番いいんだ。

 まじすまん。

 

 俺の生存に気づいた大熊がその殺気をむき出しにする。

 よし、やろうか。

 

(悪いけど、もうお前よりこの魔法の使い方は…)

 

 衝撃を利用した高速移動、短距離でも問題なく応用できる。

 大熊の反応速度を超え、俺は懐に潜り込んだ。

 

(マスターしてるぜっ!)

 

 拳にも衝撃を纏わせる。

 殴打だけではどうしようもなかった毛皮と筋肉にも、ダメージを与えられた。

 

「ヴエエッ!」

 

 だが問題はこのタフネスだ。

 こいつのこの凶暴さと強靭さは野性のものだけではない。

 

 まずはその原因をなんとかしなくてはいけない。

 俺は殴り合いを演じながら、じっとその時を待つ。

 

(おおっと!)

 

 馬鹿でかい爪が俺を掠った。

 危ねぇ、油断した。

 確かに俺の方が有利になったが、もう一度俺がぶっ飛ばされたら俺の負けだ。

 復帰するまでのその隙に、今度こそ奴はミアさん達を全滅させるだろう。

 

(だが、そろそろ準備は整うはずだ)

 

 大熊が右腕を振り上げた瞬間、背後から鞭が巻き付いた。

 

「ヨロイさん!」

 

 ミアさんの万力の鞭(バイスウィップ)だ。

 俺に向かって振り下ろされる筈だった爪は彼女の鞭に引っ張られ、体全体を反らした。

 

「聞いたわよ、コイツの異常さの秘密!ゴーレムコアを体内に飲み込んじゃったって!」

 

 アムに頼んだ伝言、それはあのクマの体内に本来存在しないはずのコアがあるということ、そして……。

 

「やっちゃって、ヨロイさん!」

 

 それを吐き出させるために、大きな隙を作って欲しいということ。

 

(いよっし!)

 

 目指すはコアの気配が最も大きな部位。

 ありったけの魔法力を込めて放った右の拳が、そこへ突き刺さった。

 

(いけっ!!)

 

 そして熊の体内奥深くを、衝撃が貫いた。

 体内に固着していたであろうコアが揺れ、乖離していくのを感じる。

 

(このまま…!)

「ヴええっっ!!!」

 

 苦悶の声を出す大熊、だがここで離してしまっては意味がない。

 更に奥深くへ拳を捩じ込む。

 

(吐き出しちまえええ!!)

 

「がふっっ!!」

 

 大熊の口から胃液とともに固形物が吐き出された。

 これがコアなんだろう、実物を見るのは初めてだ。

 

 青白く発光している、魔法力の光だ。

 ……人が練り上げる力を、この物体も発しているのか。

 どういう原理で動いている代物なのだろう、そう思いつつも大熊の方も確認した。

 

「……」

 

 大熊は意識が落ちたのか、ぐったりと寝そべっていた。

 このまま大人しく森に帰ってくれれば良いんだが。

 

「ヨロイさん、お疲れ様」

「ひどいで兄さん、アムをぶん投げるなんて」

《ごめんなさい》

 

 俺の言葉が聞こえなくとも俺達のやりとりを見て、ミアさんがくすくすと笑った。

 

「もうっ、笑うなんてひどいでぇ姉さん」

「ふふっごめんなさいね。だって急に空からアムが降ってきたのを思い出しちゃって」

「寿命縮むかと思ったわぁ……それで、そのコアが大熊の体内にあったんか」

《うん、多分もう魔法は使えないはず》

 

 そして俺はミアさんにこのクマについての処遇を訊ねた。

 

「その事は、この森の流儀に合わせる必要があるわ。ネネル様に伺いましょう」

 

 ちょうど長老がお伴を連れ、こちらにやってきているのが見えた。

 確かに、部外者の俺よりここに住んでいる人たちの流儀に合わせるべきだろう。

 俺はまだ寝ている熊を警戒しつつ、長老の結論を待つのだった。




明日で1章最終話になります。
土日は次章書き溜めと諸々の整理でお休みさせていただこうかなと思っています。

ブックマークや感想、しおりなどとても励みになります。
これからも頑張ります。
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