目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜   作:とれりか

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1章最終話になります


11話 ヨロイさん「ヒトと森、人と人」

 ネネル長老が到着した。

 ミアさんは一礼すると、今の状況を説明し出した。

 

「――という訳でして、皆様の判断を仰ぎたいのです」

「ふぅむ、我らとしても狩り以外での殺生は気が進ませんでな」

 

 確かに、今回は狩りというより防衛だった。

 自ら望んで生命をもらうのと、望まずに奪ってしまうのとでは大きな違いがあるのだろう。

 

「そも、今回の事件は我らヒトが森の秩序を乱した故に生じた事態、我らはこれを森の怒りと捉えます。それを鎮めるためにも、この熊は健やかに森へ還すべきと考えております」

「なるほど、では私たちもお手伝いを……」

 

 ミアさんがそう言いかけたところで、長老が手で制した。

 

「お気持ちは大変ありがたい。しかし熊と戦ってもらった貴方たちに、これ以上苦労をおかけしては我らの立つ背がありません。ここは、我らにお任せください」

 

 俺としてはコキ使ってもらって一向に構わないのだが、彼らのいうことを捻じ曲げることもないだろう。

 

「…分かりました。ですが、念の為ここには居させてください。もし熊が暴れ出してもなんとかなります」

「せやせや、ここまで来たならアム達も見届けたいで!」

《うんうん》

 

 2人の言葉に俺もコクコクとうなづいた。

 長老は深く礼をし感謝を告げてくれた。

 

「誠に感謝を申し上げます。では、しばらくお待ちくだされ」

 

 長老が熊の鼻腔に何かを嗅がせた、遠目には薬草を束ねたものに見える。

 鎮静や眠りを深くする作用があるのだろうか?

 

 長老が指示し、村の人達が担架で熊を担ぎ村から離れた場所へ運んでいく。

 俺達も後ろからそれについていく。

 護衛という意味もあるが、単純に俺は彼らの行動の一つ一つが気になってきていた。

 

「よし、ここらへんで良かろう」

「供え物持ってきたか?丁寧に捧げろよ」

 

 せせらぐ川のもとへ下ろし、熊のそばに村から持ってきた様々な供物を捧げていく。

 

「これは熊と森へ赦しを乞う儀式です。そのために、我らの物を森へ返すのですな」

 

 なるほど、長老が耕していた小さな畑などは自分たちのものというよりも、こういう時に森へ捧げるためのものなのかもしれない。

 

 捧げ物を持つ村人一人ひとりが祈りを済ませている間にも熊は目覚めることなく、儀式はつつがなく終わった。

 

(この人たちはこういった儀式を通して、森の資源を過剰に奪わない心を育んでいるんだろうな)

 

 森との共生を何世代、何十世代。あるいはそれ以上のあいだ実践している彼らを間近に見られて良かったな。

 

 

 村に帰った頃にはすっかり夜になっていた。

 帰りの道中、すでにもう一泊する運びとなっていたので、今日はもうゆっくりしよう。

 

 寝る間際、ミアさんは明日以降の予定を教えてくれた。

 木の床間に羊皮紙で出来た地図が広げられている。

 彼女は地図の西部を指さした。

 

「ここがアステリア王国、ここから首都までは400kmってとこかしら。この国が明日から向かう目的地よ」

「それってどのくらいかかるんや?」

「んー、馬車で一週間ってところかしら。今までは私、駅で馬を借りてたのよね。ただヨロイさんとアムがいることを考えると、馬車を借りることになると思うわ」

《……馬一頭って、荷物はどうしてたの?》

 

 まあ鞍に吊るしたり、荷車を使ったりだろうか。

 なんとなく速度が落ちそうな荷車より、速度重視しそうなイメージあるけど。

 

 そんな俺の予想は、彼女斜め上の回答によってあっさり上回られた。

 

「荷車に荷物を乗せて、馬と荷車を万力の鞭(バイス・ウィップ)で繋ぐのよ。普通の行商よりかなり効率いいわよ、速いし」

「相当な値打ちがありそうな鞭を、そないな使い方しとるんか」

「アム、資産っていうのはね…溜め込んでるだけじゃ意味ないの、使ってこそ意味があるのよ」

 

 人間だったら目を丸くしてそうなアムに、ミアさんはふふんと得意げに鼻を鳴らして授業を施した。

 

「そういうもんなんかぁ。そんで、アステリアでは何するんや?」

 

 待ってましたとばかりに、彼女は楽しげに答えた。

 

「お祭りよ。年に一度の王国大祭、商機がそこら中に転がってるわよ~!!」

 

 ミアさんの背後にメラメラと燃える炎が幻視できる、やる気十分だ。

 彼女が思う存分商売できるよう、俺も頑張ろう。

 

 

翌朝、俺達は長老をはじめ、村の人達総出で見送られていた。

 

「ミアさん、ヨロイさん、アムさん、この度は本当にありがとうございました」

「ネネル様、そんなに畏まられては返って恐縮してしまいます。あなた達が森で生きるための習わしで生きているように、私も商人としての習わしで生きているからこそ、協力すると判断したのです」

「これは一本取られてしまいましたな。では、商人としてのミアさんに一つ贈り物をさせてください」

「これは…?」

 

それは美しい外套だった。

一見すると深い緑だが、光の当たり方によってその色合いを変える神秘的な布で出来ている。

 

「この森の大樹からいただいた木片を加工し、外套に仕立てたものです。ヨロイさんの格好は街では目立つことでしょう、どうぞお使いくだされ」

《いいんですか?》

 

長老たちは、みな笑顔で肯定してくれた。

…とても、とても嬉しい。

 

「あらヨロイさん、頭が黄色く光ってるわ。もしかして嬉しいサインかしら?」

《え?そうなの?確かにすごく嬉しいけど》

 

確かに貰った外套を見れば、黄の色合いを混じった緑に変わっていた。

 

《ありがとうございます。ずっと大事にします》

「ありがたい言葉です。しかし、もし破けたりしたら直ぐに直しますゆえ、いつでも言ってくだされ」

「ええなぁ兄さん!アムもそういうの欲しくなってきたで」

「ははは、では次は必ずアムさんの分も用意しましょう」

「本当か!?絶対やで」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねるアムを、周りの人達が暖かい目で見守っていた。

 

「では、そろそろ行ってきます」

「お気をつけて。私たち森の民は、いつでもあなた達を歓迎いたしますぞ」

「またなぁ!」

《ありがとうございました》

 

いただいたケープを羽織り、深くお礼をする。

ふと横を見れば、ミアさんもアムも同じようにしていた。

 

これからも付き合っていきたいからこそ、丁寧に接する。

それは人と自然も、人と人も変わらないことなんだろう。

そのことをこの場所で学べてよかった。

 

さあ、次はアステリア王国だ。

どんな景色で、どんな人達がいるんだろう。

 

とても楽しみだ。




1章を御覧いただきありがとうございました。

予定通り、二章の一話は月曜日からですが、キャラ紹介を兼ねた2章0話を日曜日に投稿したいと思っています。

よろしければ、お気に入りや評価などもお願いいたします。
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