目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜 作:とれりか
石畳に彫られたレールの上を、四頭立ての馬で率いられた列車がごうっと音を鳴らせて走り去っていく。
魔法で強化・軽量化した馬車と、専用に敷設したレールの組み合わせによって、通常の馬車の3~4倍での移動を可能にしているわ。
「はっやいなぁ!アレ乗りたいわ!」
「今からだと割に合わないからだめよ、また今度ね」
列車は王国内の主要街道にしか開通してない上、結構なお値段がするのよ。
エテルナから目的地までに経済的な路線がなかった以上、アムの希望は先延ばしになっちゃうわね。
「それにほら、そろそろ見えてきたわよ」
《あそこが…クレセンティア》
「段々の街や!」
アムの言う通り、遠目に丘陵地帯に造られた街が見えてきた。
あそこが王国大祭が催される都市クレセンティア。
王国の南西に位置していて、起伏を生かした都市構造と大河から分岐したメロディア川に恵まれた風光明媚な場所として有名だわ。
近づくにつれ、人通りの多さはどんどん増していく。
初めての交通量に、アムは興奮したようにあたりをクルクルと見回しているわ。
「おおお〜!すんごい人おる!!」
「ヨロイさんから離れちゃダメよ、アム。逸れたら大変だわ」
羽織った外套の上にアムを肩車したヨロイさんはかなり注目の的ね。
まあ、だいたいの人は喋ってるアムに視線が行ってるみたいだから、頂いた外套は視線避けとしてきちんと機能してるのでしょう。
「いろんな場所から音が聞こえてくるなぁ」
「そうね。ここは音の都って言われるほど、音楽を中心として栄えた場所なの。王国大祭も、メインは音楽なのよ」
祭り時以外にも、王国音楽堂や野外劇場で年中コンサートが開かれていて、遠い東にある帝国からも観光客がくるほど。
それが王国大祭ともなれば、見込める経済効果は段違いになるわ。
《祭りではミアさんも何か売るの?》
「うーん、露店で売るのもいいんだけど、ちょっと考えてることがあるのよね」
なんせ二人の従業員を抱えちゃったからには、今まで以上に稼がないといけないわ。
そのためにも、今から行くところは重要ね。
「さ、まず取引相手である楽器職人のマリウスさんに会いに行くわよ」
「楽器を作る人なんか?」
「ええ、以前にエテルナの素材を卸す約束をしていたのよ。この先に職人街があって、そこに工房を構えてらっしゃるわ」
水運の都合で、街道から続く平地の区画が職人街を担っている。
対して、芸術の方はというと……。
「音は上の方から聞こえてくるなぁ」
「ええ、音楽を楽しみたい人は丘の上に行くのよ」
道を進み、メロディア川を渡った所で、目的地に到着した。
「着いたわ、ここがマリウスさんの工房よ。庭に馬車を止める場所があるから、使わせてもらいましょう」
《一つ一つの工房が大きいんだ》
「ええ、特にここらへんの工房は一等地ね。街の歴史的にも古い場所なのよ」
軽く説明を挟みつつ、工房の裏手に馬車を止めた。
「えーっと、持って行く素材は…っと」
《手伝おうか?》
ごそごそと馬車から目当ての荷物を探してると、ヨロイさんから助け舟を出された。
「大丈夫よ、このくらいなら私がやるから」
ヨロイさんは優しいから、あんまり甘えすぎると返ってお互いのために良くないものね。
エテルナでアムの再形成をしてる時も、代わろうかと言ってくれたし。
ちゃんと、甘えずに頼りにしないといけないわ。
「お、なんだアンタ」
そんなやり取りをしていたところ、男の人の声が割り込んできた。
ヨロイさんの姿を警戒しているのか、声から僅かな警戒心が感じ取れるわ。
私はその声に聞き覚えがあった。
「マリウスさん!」
「おおっ!ミアの嬢ちゃんじゃないか!」
この工房の主、マリウスさんだ。
彼は「よく来たなぁ!」と職人らしい強面を僅かに崩し、歓迎の言葉を告げてくれた。
「驚かせちゃってごめんなさい。彼は私の護衛として雇ったヨロイさん、そして彼が肩車しているのが、通訳のアムというゴーレムよ」
「よろしゅう!」
《よろしくお願いします》
喋るゴーレムのアムと、アムを介して喋るヨロイさん。
そんな彼らを見て、マリウスさんは目を白黒させているが、とりあえず一旦事態を飲み込むことは後回しにしたみたい。
「お、おお…なにがなんだかよくわかんねぇが、嬢ちゃんの仲間ってんなら歓迎するよ。とりあえず、工房に入んなよ」
彼の招きに従って、私たちはマリウス工房にお邪魔した。