目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜   作:とれりか

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16話 ミア「自由と責任」

 最初に公会堂で啖呵を切ってから、3週間ほどが経った頃。

 

「人、増えたわねぇ……」

 

 公会堂の会議室、そこで管理業務に追われる私はしみじみと呟いた。

 ゴードンさんに認められ、参加する職人さんの数は一気に数倍へと膨れ上がったわ。

 

「あなたの計画に夢を見たからここまでの人数になったんですよ、誇ってください」

「ありがとうございます、ルシアンさん」

 

 私の補助役としても動いてもらっているルシアンさんが、独り言のつもりだった私の呟きに反応した。

 

「おかげでこの公会堂にある貸し工房は全て埋まっています、むしろ足りないくらいですよ」

「そうですね、色んな職人さんが参加してくれたおかげで、商品も多様になりました」

 

 正直、商品自体はもう少し増やせるけど、肝心の生産する場所が足りない。

 工房が足りないくらいというルシアンさんの気持ちもよく分かる。

 

「次があったら、貸し工房の数そのものを増やしておきたいですね」

「次……」

 

 彼の言った「次」という言葉が、なぜだか自分には遠い出来事のように感じられた。

 

(あれ、おかしいわね……来年、もう一度できたとしたら、それは間違いなく今年以上の規模になるっていうのに)

 

 なぜだか、ひどく乗り気ではない自分がいる。

 

「ミアさん、どうしました?」

「あ……い。いえ、ごめんなさい。少し呆っとしてました」

「働き詰めですからね、無理もありません。気分転換に散歩でもしてきたらどうですか?」

 

 確かに、少し根を詰めすぎたのかもしれない。

 ルシアンさんの勧めに従って、ちょっとお散歩に行くことにした。

 

 公会堂から出て、メロディア川に沿っててくてく歩いていく。

 もうすぐ夕方を迎える時間帯は、西にあるクラウン・ヒルから、谷底の職人街にかけて大きな影が覆おうとしている。

 

(順調すぎるほどに順調ね)

 

 今の状況を一言でまとめるなら、これに尽きるわ。

 

「職人さんたちの士気も高い、商品の生産数見込みも、予想利益も問題なし」

 

 一部、ミニハープのようにほとんど利益のない、あるいは多少の赤字が見込まれるものもあるけど、それらは全て社会投資という形で織り込み済みのもの。

 

「来年も、という話なら、他ならぬ私が意気を上げてしかるべきでしょうに」

 

 だけれど、さっきの私はすぐに反応できなかった。

 

 悩みながら歩いていると、川の向こうに見覚えのある色合いが見えた。

 

 頭からかぶっている深い緑のケープは、陽光が反射してオレンジの花弁を散らしているようで、肩には小さい人形を乗せているように見えるわ。

 

「ヨロイさん、アム」

 

 レッスン終わりで、宿屋に戻っている途中かしら。

 

(私は、これからも彼らと旅をするのは当たり前と思っているわね)

 

 何故か、と考えれば当然の話で、私は行商人だからだわ。

 

(……そうだわ、私の想定にこの街での「次」なんてなかったんだわ)

 

 なんて無責任なんだろう、と我ながら呆れ果てる。

 みんなを煽るだけ煽って、その後のことなんて知ったことではなかったのだから。

 

「なら、どうすればいいのかしら」

 

 行商人としての自由な旅が、いつの間にか当たり前になっていた。

 そうして、旅の中で少しでも経済格差をなんとかできればいいと思っていた。

 

 だけど、「なんとかした後」のフォローが現実的には必要で、それを果たすためには今のスタイルの継続は無理な気がする。

 

「でも、結局それは各地を見る機会が減るわけで」

 

 理想を追えば現実を足蹴にし、現実を立てれば理想は実現し得ない。

 

 なによりも、一つ一つの街に時間を取られるとなると、私自身の夢は決して叶うことはない。

 

「姉さん、どうしたんや?」

「……アム、ヨロイさん」

 

 気づかぬ間に、彼らは川を渡ってこちらに来ていたみたい。

 

「少し、考え事をね。……ねえ、二人とも、ちょっとお散歩しない?」

「もちろん、ええで!」

《行きましょう》

 

 思えば、私は当たり前に彼らと旅を続けるつもりでいたけれど、彼らの方はどうなのかしら。

 ヨロイさんはヴァイオリンをとてつもない速さで習熟しているっていう話だし、もしかしたらこの街に残りたがるかもしれない。

 

(雇用主としては、ヨロイさんの気持ちは尊重しなきゃいけないわね)

 

 そうなれば、彼の通訳であるアムも同行させたほうがいいでしょうね。

 

(そして、私はまた一人旅に戻る……か)

 

 ずっと続けていたことに戻るだけ、というよりもただの想定の一つにすぎないことなのに、私の心はひどく沈んでしまった。

 

「元気ないんか、姉さん?」

「あ、いえ、なんでもないのよ、大丈夫」

 

 下手な誤魔化しで、アムの心配を避けてしまった。

 正直に言ってしまえば楽だったのに。

 

 ヨロイさんの兜から、見たことがない紫の光が漏れていた。

 彼は、いまなにを思っているのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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