目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜   作:とれりか

29 / 32
体調不良が続いて創作エネルギーが0になっておりました。


17話 ヨロイさん「かけられない言葉」

 日差しに夕焼けの成分を含んできた頃、グレゴリーさんのレッスンが終わって職人街に戻ると、川の向かいにミアさんを見つけた。

 

 彼女も仕事帰りだろうか、それにしては少し時間が早い気もするけど。

 

「兄さん、あっちに姉さんおるで」

《うん、行こうか》

 

 どこか上の空なミアさんに近づく。彼女は立ち止まったまま、川面を見つめているようだ。

 

「姉さん、どうしたんや?」

「……アム、ヨロイさん」

 

 アムが話しかけると、ミアさんはやっとこちらに反応した。

 いつもの彼女とあまりに様子が違いすぎる、何があったんだろうか。

 

「元気ないんか、姉さん?」

「あ、いえ、なんでもないのよ、大丈夫」

 

 アムも彼女の違和感に気づいたのか、心配気にたずねた。

 

「少し、考え事をね。……ねえ二人とも、ちょっとお散歩しない?」

「もちろん、ええで!」

《行きましょう》

 

 ミアさんの提案に、アムは即座に乗ってくれた。

 こういう時、すぐ同意してくれるアムは推進力になってくれてありがたいな。

 

 無言でふらふらと歩いて辿り着いたのは、この街の入口だった。

 強化馬車の駅舎から、人が降りては乗っていく。

 

「最終便かしらね」

 

 駅近くのベンチに座って、彼女がそう呟いた。

 その言葉自体には、特に返答を求めていない様に感じられる。

 

「ねえ、二人とも、音楽は楽しい?」

「うん、楽しいで!」

《楽しいですよ》

 

 俺たちの答えを聞くと、彼女は嬉しそうに目を細めた。

 

「あなた達にそういった楽しみができて、本当に良かったわ。……私がこの街で動いている間、ヨロイさんとアムが暇していないか心配だったのよ」

 

 ……彼女の言葉は嘘じゃない、けれど本心のものでもない。なんとなくだけど、そんな気がする。

 

「……ごめんなさいね、それだけ気になってたの。さ、私はもう少し仕事をやってから帰るから、二人は先に宿に戻ってて」

 

 俺たちが何かを言い出す前に、彼女の方から話を切り上げてしまった。こういう時、とっさに声を出せない自分が嫌になる。

 

 アムも何か言いたげだったが、うまく言葉にできないようで、結局は彼女の言う通りになってしまった

 

(これでいいんだろうか)

 

 良くはないだろう。

 

(なら、どうやって彼女に寄り添えばいいんだろう)

 

 仕事場に戻る彼女を見送りながら、俺とアムはきっと同じことを考えていた。

 

「なあ、兄さん」

《どうしたの、アム》

「グレゴリーの兄ちゃんのとこ、いこ!」

 

 そうして俺たちは頷き合って、駆け出した。

 

 

 

 再訪した俺たちを、グレゴリーさんは甚だ面倒くさそうに出迎えた。

 

「気分が明るくなる曲だとぉ?」

《ないですかね、今の俺でも弾ける感じの》

 

 ふんと不機嫌を表す鼻息を吐き出すと、彼は座っていた椅子から身を乗り出した。

 

「いいか、ヨロイよ。貴様が弾ける曲、という話ならば既にかなりの数がある。そこまでの域に到達したのだ、楽譜は読めんがな」

 

 はい、演奏だけ叩き込まれたので一切読めませんとも。

 

「だが、真に心を込めた演奏となると話は変わってくる。俺とて思い出したばかりのことだがな」

《付け焼き刃で覚えても意味がないということですか?》

「正しくは、俺の演奏を模倣しても意味がないということだ」

 

 グレゴリーさんの模倣、つまり今まで通りの演奏ではダメということか。

 だが、それで俺はどうしたらいいと言うのか。

 

「今日の俺の演奏を覚えているか」

「あ……なんか、途中からぶあってなったで!」

 

 ああ、そうだ。演奏の途中で彼のヴァイオリンからは、いつもとは全く違う律動を感じた。

 それこそ、アムの言う通り風すら起こしたのかと思った。

 

「あれが感情を乗せるということだ。一つの旋律で、自分の想いを描く」

 

 彼は椅子から立ち上がり、ドンと俺の胸を叩いた。

 

「俺の模倣ではいかんとは、そういうことだ。貴様ならあの音さえ真似れるだろう、貴様の求める曲も演じれるだろう。だが、それではいかんのだ」

 

 そうだ、確かにミアさんに寄り添うためには、ただグレゴリーさんに曲を教えてもらうだけではダメなんだ。

 

《俺なりに、俺の感情を、メロディに込めないといけないんですね》

 

 俺の回答が彼の満足のいくものだったのか、グレゴリーさんは少しだけ表情を柔らかくした。

 

「そういうことだ。理解したなら、まずは自分と会話しろ。貴様にはそれが必要だ」

《自分と、ですか?》

「感情を奏でるということは、己自身への深い洞察が不可欠だ。漠然とした自己理解は、曖昧な感情しか生み出さん」

 

 確かに、どういう気持ちでミアさんに寄り添いたいのか明確にしなければ、結局はただメロディラインを奏でてるだけの曲になってしまうだろう。

 

 それに、俺自身の気持ちと向き合うということは、過去とどう向き合うのか、いい加減に肚を括って決めるということだ。

 

 俺のためにも、ミアさんのためにも、やってみよう

 

 

 

 

 

 

 




また毎日更新に戻りたいですが、ちょっと不定期になるかもしれないです。
やれる限りは毎日更新をします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。