目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜   作:とれりか

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18話 ミア「祭りの朝」

 まだ早朝だというのに、いつもよりも遥かに多い人通り。

 

 丘の上からは今日を祝う音楽が鳴り響いて、今日が特別な日なんだと期待感を高めてくれる。

 

 通りを歩く人たちの表情はみんな一様に明るく、この清々しい朝日も相まって、まさしくハレの日という感じがするわ。

 

「さあ、お祭り本番ね!」

「お祭りやー!」

《楽しみだね》

 

 この数日、私は自分のこれからについては考えないようにしてきた。

 大祭が迫ってきてる中、必要以上に気にして能率が落ちちゃったら、みんなに迷惑をかけちゃうもの。

 だから悩むのも落ち込むのも、まずはこの日を乗り切ってからじゃなきゃね。

 

「さあ、今日は二人にも手伝ってもらうわよ! アムはミニ楽器セットの売り子の手伝い、ヨロイさんには警備を任せたいわ、よろしくね!」

《そういうことなら任せて》

「バンバン売るで!!」

 

 王国大祭が去年までと大きく変わったことは、たぶん一目瞭然でしょうね。

 クレセンティアの入口から職人街まで、この1ヶ月半で作った商品を並べる屋台がずらりと並んでいるわ。

 

「ふふふ、一直線にクラウン・ヒルやシアトル・ヒルなんかに行かせはしないわよ……」

 

 クレセンティアの目玉であるクラウン、劇場や野外公演も多く行われてシアトル、美食の街であるサヴール、美術品が多く保存されているヴィシオン、学生ながら一流の演奏が聞けるソルフェージュ。

 確かにそれぞれのヒルは素晴らしいもので溢れてるけど、谷底の職人街だって負けてはいないんだから。

 

「そしてより多くの商品を買っていきなさい……!」

「な、なんか姉さんがこわい……」

《職業病だね》

 

 若干気後れしている二人を連れ添って、まず入口側にあるミニ楽器セットを売る店舗の一つにやってきたわ。

 

「トビアさん、準備中失礼するわ」

「ミアさん! とんでもないです、なにか御用で?」

 

 すでに商品は並び終えて、値札も問題なく設置されている。

 屋台の後ろをちらりと確認すると、きちんと簡易チェック用の帳簿と、お釣り用の硬貨も準備されてたわ。

 

「昨日伝えたと思うけど、この子を売り子として一緒に商売してほしいのよ」

「よろしくやで!」

「ああ、アムさんですね! 喋るゴーレムとか、俺はじめてですよ!」

 

 はじめてでその受け入れっぷりならグレゴリーさんより柔軟よね、トビアさん。

 

「では、よろしくお願いします。折を見て様子を伺いますね、アムも頑張ってね」

 

 はーい!と、二人の元気な返事を聞きながら、今度はヨロイさんといっしょに各店舗の商品をざっくりと説明していく

 

「用意した商品は、安価なものから高額なものまで色々あるわけだけど、その中でも高額商品の窃盗に特に気をつけてほしいわ」

 

 コクコクと頷くヨロイさんを見て、出会ったばかりのころを思い出す、懐かしいわね。

 

「特にメロディアベルは高額かつ、単品が鈴だから小さいのよね。売り子の人たちにも注意したけど、一番盗まれやすいと思うわ」

 

 ミニ楽器もそうだけど、小さめの単品は紛失窃盗がかなり怖いのよね。

 他にもペンセット、アートキャンドル、レザー製品など、特に盗まれやすそうな商品について説明したわ。

 

「一気に説明しちゃったけど、大丈夫?」

 

 ヨロイさんの顔を見て確認すると、柔らかい緑の光を頭部から漏らしながら、こくりと頷いた。

 

「うん、その調子ならオッケーね。じゃあ、私は一回公会堂の方に……あら、どうしたの?」

 

 職人街へ踵を返そうとしたら、ヨロイさんに肩を叩かれた。なにかまだ聞きたいことがあるのかしら。

 

 もう一度彼の方を見ると、彼の手にはメモがあって、そこには彼からのメッセージが書き留められていた。

 

《今日の夜、俺のヴァイオリンを聞いてほしい》

 

 ずっと彼が練習してきた、その集大成を見せてくれるのね。

 さっきまでと違って、彼の光はこの間と同じく紫になっている。

 

「……分かったわ! 楽しみにしてるわね」

 

 彼の練習の成果、もしかしたら聞けるのは最初で最後かもしれない。

 

(なんて、そんなこと考えるのは商売に悪影響だし、ヨロイさんには失礼だわ)

 

 気を抜くと顔を出しそうな弱気な自分をたしなめて、笑顔でヨロイさんと別行動に入る。

 まず今日を乗り切ってから、それにヨロイさんがどんな曲を奏でるのかは、単純に楽しみだわ。

 

 さあ、王国大祭本番よ!

 

 

 

 

 

 

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