目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜 作:とれりか
これからもよろしくお願いします。
ミアさんの後をついて森の奥へ歩みを進めていくと、樹齢何百年、何千年とすら思えるような大樹がそこかしこ中に聳え立っていた。
入った当初こそ薄暗いかと思ったが、内部は日光に満ちて驚くほどに明るく、そして圧倒されるほどに美しい。
俺がキョロキョロと周りを見ながら歩いていると、ミアさんがこの森について解説し始めてくれた。
「この森はね、ずっとずっと昔からあるんだって。森の東にある遺跡平原がああなっちゃったのが大体千年前らしいんだけれど、ここにはそれよりも古い樹もたくさんあるの」
なるほど、大樹という言葉すら超越した木々がそんなにあるのか。
この神秘的な雰囲気は、間違いなく降り積もった歳月も影響しているのだろう。
「あっ私が調べたことじゃないわよ、ここに住んでる人たちが教えてくれたの。」
そうはにかんで笑う彼女は、おそらく誰とでも直ぐに打ち解けられる人なんだろう。
それにしても遺跡平原か、丘の上から見た荒れ果てた土地がそれなんだろう。
あの土地のことを思い出すと、なぜか薄ら寒い気分になる。
失った記憶と関係あるのだろうか。
「ヨロイさん?大丈夫?」
彼女が心配そうな顔をして覗き込んできた。俺の様子がそんなにおかしかったのだろうか。
ん?なんかミアさんの顔が青いな……いや違うわ、俺の顔が青く光ってんだわ。様子おかしいわ、俺。
首をブンブンと横に振り、問題ないことを伝える。
彼女は「そう?」と少し心配気に首を傾げたが、ほどなく目に映ってきた光景が話題を変えた。
「ここがこの森のだいたい中央にある場所ね。エテルナの人たちの言葉で言うと、モコトの里」
彼女が言うには、基本的には森の中に小さな村落が点在して、森の人たちの多くはここで暮らしているらしい。
「この里はね、どっちかと言うと私たち外部から来た人たち用の場所なの。この森で1番大きな大樹であるモコト様が目印になってくれるから、迷うこともないって理由でね」
なるほど、確かにでかい。
外から見た時、頭ひとつ飛び抜けてたのがこの大樹なのだろう、これなら目印に最適だ。
しかしこんな開けた場所を他所者の土地として使わせてくれるのか、懐のでかい人たちだ。
「でもねヨロイさん、ここに来れた程度で喜んでちゃ商人としては半人前以下なのよ、なぜだか分かる?」
あれ?商人に弟子入りしたんだっけ?
そんな疑問は胸中に置いておきつつ、彼女の質問を真面目に考えてみる。
まず商人として何をしにここにくるか、それは間違いなく商売だ。
この森にしかないものを仕入れ、そして森の外の商品化を売る。
この里がお客さん用の場所だとすると、必然的に出回ってるものも客用のものが多くなりそうだ。
さっきミアさんはこの森の人たちは点在する各村に住んでるって言ってたな。ってことは……。
地面に大きな丸を描き、その周りに小さな丸をいくつか書き込んでいった後、小さな丸を枝で何度も連打した。
「そう、その通りよ、ヨロイさん。珍しいものはここにはないの。本当に価値のある物は各地の村を訪ねて直接交渉するしかないってことね」
なるほど、ここはゴールではなくスタート地点というわけか。
村で取引するためにまずここで現地の人とコネクションを作れるかに掛かっているんだな。
ミアさんはそこんところ上手くやれてそうだけど、どうなんだろう。
「さ、私が1番仲良くさせてもらってる村まではもうちょっとかかるわ、行きましょう」
やっぱ懇意な場所がいくつかあるんだな、流石だぜ。
迷いなく歩いていくミアさんの後ろをついていくと、段々と人の気配が濃くなってくる。
先ほどの里の規模よりずっと小さいが、確かに村が見えてきた。
彼女は村中の人たちと親しげに挨拶を交わしながら、村で一番大きい家の前までやってきた。
家の前には老齢の男がなにやら庭の手入れをしており、彼はミアさんに気付くと深く刻まれた皺を深めて笑った。
「いらっしゃいミアさん、平原の方はどうだったかね」
「こんにちは、ネネルさん。実は色々出会いがあったんです」
そう切り出す彼女が後ろに控える俺の方をチラリと窺う。
「ゴーレムに襲われたところを彼に助けられたんですけど……彼、記憶喪失みたいなんです」
「なんと……数奇な出会いもあったものですな。彼が背負っているゴーレムがその襲ってきたものですかな?」
ミアさんが頷いて肯定して、実は……と切り出した。
「そのことなんですけど、少しネネルさんの智慧もお借りしたくて」
「この老骨がお役に立てますかな。まあ、こんなところでは話せることも話せんでしょう、どうぞ中に上がってくだされ」
ネネル長老の勧めに従い、俺達は彼の家に招かれたのだった。