目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜   作:とれりか

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5話 ミア「大樹の森の智慧」

 ネネル長老の家に上がらせてもらい、私たちは今の事情を改めて一から説明した。

 

「特にいま困っていることが、彼が喋れないことなんです。簡単でもいいから言葉でやりとりできたらいいんですけど……」

「うぅむ、記憶に加えて言葉を失くしましたか」

 

 これからの問題を考えると、ヨロイさんとはせめて簡易にでも言葉でコミュニケーションを取りたいところよね。

 いい解決方法がないか、ネネル様はなにかご存知ないかしら。

 

「古からの言い伝えによれば、話す術を失った者の代わりにゴーレムが喋ったという話があります」

「ゴーレムが、ですか?」

 

 左様、とネネル様が豊かに蓄えた顎鬚を撫でながら、伝承の内容を詳しく教えてくれた。

 

「かつての世界ではゴーレムは人と同じように考え、話していたそうです。それも特殊な個体ではなく、普《あまね》く全ての者たちが」

 

 現代でも喋るゴーレムはいるはいるらしいわ。

 けれどそれは大昔のゴーレムを運良く再起動できたケースか、一部の研究者たちがロストテクノロジーの復元を試している個体だけ。

 

「……ネネル様、それは今のヨロイさんにも役に立つのでしょうか」

「全く無意味な話というわけではありませんな。というのも、この伝承と共にゴーレムに心を読み取らせる儀が伝わってるからです。そして、その儀式を行う場所も」

「その儀式は今でもできるのでしょうか」

「口伝が千年の時を超えているのならば」

 

 確証はないけどまったくやれないわけではない、といったところかしら。

 なら、賭ける価値はあるわね。あと確認すべきことといえば……。

 

「心を読み取らせる、ということは……喋るゴーレムが必要ということですね?」

「左様です。そればかりは儂も手がありませぬな」

 

 なるほど、なるほど……。

 

「ねぇヨロイさん、あなたは心を覗かれても平気?」

 

 最後に、彼の意思を訪ねた。

 こればかりは私の独断で進めることはできないからだ。

 すると彼は考える素振りもなく、一つ大きく頷いた。

 全く問題ないと言わんばかりに。

 

 よし、なら私にも迷いはない。

 

「ネネル様、どうかその秘術をお願いできませんでしょうか。喋るゴーレムの方は、私がなんとかいたします」

「他ならぬミアさんの頼みとあらば、誰が断りましょうや。しかし、ゴーレムの方は大丈夫なのですか?」

「はい、何とかなるはずです」

 

 運良く、というべきかなんというか、まあ心当たりがあるのよね。

 

 それにこれはきっと、私とヨロイさんだけの問題じゃない。

 もっと大きなことの始まりになるはずだ。

 ネネル様と話しながら、私は頭の片隅で青地図を書き始めたのだった。

 

 外に寝かせて貰っていた野良ゴーレムのところへ戻る。

 改めて見ると、やはり全体的にガタが来ているわね。

 元々かなり過酷な労働をさせられてたんじゃないかしら。

 

「ヨロイさん、一応この子が暴れ出さないか注意しておいて」

 

 一つ彼に頼み事をすると、私は村の人から一通りの大工道具を借りてきた。

 よいしょっと地面に置き、これからすることをヨロイさんに説明する。

 

「今からこの子を再整形するわ、損傷している箇所をまるっと削って、無事なところだけを切り出すのよ」

 

 ゴーレムに関する基礎的な知識は私も持っている。

 彼らが不具合を起こす理由は、まずコアの劣化、次に外殻の損傷と言われているわ。

 

 ゴーレムはコアから発せられた魔法力を全身に伝わらせて駆動している。

 コアに外殻を取り付ける作業は高度な仕事だけど、今からやるような切出しは私のような素人でもできるはずよ、……多分。

 

「行くわよ……!」

 

 まず目指すべきはこの大きい体躯を十分に小柄なサイズまで落とすこと。

 ハンマーやノコギリでまず頭部と胸部を除いた部分を切り離す。

 途中でヨロイさんが手伝おうとしてくれたけど、万一のことを考えるとこの子の監視に集中してもらった方がいい。

 

「さて、ここからね……。まずコアがどこにあるのが問題だわ。大体頭か、胸の真ん中にあるんだけれど……」

 

 そう悩んでいると、ヨロイさんが私の肩をポンと叩いた。

 どうしたの?と彼を見ると、彼は胴の中央を指差していた。

 

「ここがコアってこと?」

 

 こくりと頷くヨロイさん。

 よし、ならそこを中心に小さいを人型を切り抜いていけばいいわ。

 

 理屈はよくわからないけど、ゴーレムのコアは頭や手足を勝手に認識するらしい。

 ノミで細かく土を削ぎ落として、人形っぽくしていく。

 

「な、なんとか形になってきたかしら」

 

 土の体とはいえ、魔法で強化されている体を削るのは中々疲れる作業だわ。

 けれど、これで最低限の機能は持ったはずよ。

 

 あとは、これを上手くつけられるかどうかね……。

 

「どう売り捌こうか迷ってたのよねぇ…」

 

 村に置かせてもらっていた荷物から、今ある在庫の中でも一番の珍品を取り出した。

 それは三ヶ月ほど前、アルディア山脈連邦にあるメフィル学院に訪れた時、物々交換で手元に転がり込んできたもの。

 

「ヨロイさん、これはね。ゴーレムコアの思考を音にしてくれるものなんだって」

 

 こいつを近づけるだけでゴーレムが喋るようになるんだ!画期的だろ!

 と強引に押し付けられた時は困ったものだったけど、今こうして役に立ってくれるんだからあの時貰っておいてよかったんでしょう。

 それはそれとして物々交換で商売させないでほしい、なんのために貨幣があると思っているのか。

 

「多少強引にでも、着けられればいいんだけど……っと!」

 

 ぐいっとゴーレムにその装置をねじ込んでいく。

 多少の抵抗は感じるけどコアがこの装置を認識したのか、砕く時ほどの力は必要なかった。

 

「……一先ず、完成ね!」

 

 あとはこの子が起きてからどうなるか、

 まだやることは残ってるけど、一つの山場は越えたんじゃないかしら。

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