目が覚めたら、錆びた鎧だった。〜記憶も声もないけど、とりあえず人助けを頑張ります〜 作:とれりか
儀式を無事に終えた俺達は、出発の荷造りを進めていた。
「もう少しゆっくりしていてもよかったんですがのう」
「ありがとうございます、ネネル様。ですけど商人たるもの足を動かさなければいけませんから」
「ほっほっ。勤勉ですのう」
挨拶をするミアさんの傍ら、俺とアムはミアさんの荷物を点検している。
元々の荷物に加え、この村で仕入れた商品を合わせるとかなりの量になる。
「今度はどんな場所に行くんやろなぁ~楽しみやな、兄さん!」
うん、とアムに同調するため頷いた。
こういう日常会話もこなせるようになりたいところだ。
ざわ、と遠くから何かを感じた気がした。
「どうしたんや、兄さん?」
違う、気のせいじゃない。荒々しい気配が東の方から近づいてくる。
このままだとマズい。
《東から危険がくる!!》
「わっ!姉ちゃん、兄さんが東から危ないのが来るって!!」
アムを通した警告にミアさんたちが驚きに目を見開いた。
いち早く冷静さを取り戻したネネル長老が、近くの若者へ迎撃指示を下した。
「すぐに武器を取り迎撃体制を整えい。ミアさん、あなた方は安全な場所へ」
俺たちへの申し出を、しかしミアさんはやんわりと拒絶した。
「ネネル様、この状況にあって私たちが安全な場所にいるのは無意味です。ヨロイさんは強力な戦力ですし、私も最低限の力はあります。共に戦わせてください」
「……かたじけない」
長老が頭を深く下げた。
あれこれ問答している場合ではないし、彼らとしても戦力は一人でもいたほうがいいというのも本当のところだろう。
だが、これで俺が受けた恩を少しでも返せるなら協力は惜しまない。
村の男衆を中心として戦闘準備が進められていく中、俺たちも共に村の東へ向かう。
アムを背負い走りながら、ミアさんが具体的な敵の位置について聞いてきた。
「ヨロイさん、その危険が具体的にどこから来そうかっていうのは分かる?」
「えっと…『着いてきて』やって!」
「分かったわ。村を守るわよ、二人共」
強い意思を秘めた言葉を受けて、俺たち二人もしっかりと頷いた。
距離が近づくほど、そいつに対する違和感は刻々と強まっている。
どうやら俺にはゴーレムの気配が分かるっぽいんだが、どうにもそれがアムとは違う感じがする。
いや、考えていてもしょうがない。
まずは村を守ることだけを考えるべきだ。
「ブオォオォオオオォオ!!」
衝撃すら感じるほどの叫びが俺たちを貫いた。
……叫び?ゴーレムの、か?
「今の……クマだわ」
ミアさんが頬に冷や汗を一筋流している。
クマへの恐怖だろうか、それとも別の何かに対してだろうか。
俺の疑念を知ってか知らずか、彼女は自分の恐れを教えてくれた。
「今の叫び声…明らかに魔法力が含まれていたわ。でも、おかしいのよ…動物が魔法を使うだなんて、見たことも聞いたこともないわ」
彼女の緊張の理由はそれか、何か異常事態が起きているというわけなんだな。
「あっ!アレやないか!?なんかクマにしても大きすぎひん!?」
「エテルナは植物もだけど、動物も大きくなりやすいのよ。それにしたって、とびっきりのサイズね…!」
遠目に見ても、クマとは思えない大きさだ。高さだけでも俺の倍近いんじゃないか?
「弓を射て!あのバケモンを近づけさせるな!!」
その合図を皮切りに、村の男達が放った矢はかなりの精度で大熊へ向かっていく。
だが、それが奴の体を貫くことはなかった。
「ヴエエエ!!」
咆哮とともに放たれた、物理的な衝撃波。それが四方から迫った矢を墜とした。
「本当に魔法を使うクマだってのかよ!?くそ、ならこっちも魔法だ!」
村でも数人いる攻撃魔法の使い手が、風や土を操り敵へと放つ。
しかし奴は、それを安々と受けることはなかった。
大熊が、跳躍したんだ。
それもその姿が樹上に葉に隠れるほどに…本当にバケモノじゃねぇか!
「嘘でしょ…!?みんな、逃げて!!」
ミアさんの警告に、先程まで攻撃を仕掛けていた部隊は散り散りとなった。
どこから来やがる?あんな怪物からしたら、人間なんて撫でるだけで殺せるぞ…!
……見えた!木々をジグザグに駆け落ちてきているが、追える!
《アム、捕まってろ!》
「おう!行ったれ兄さん!」
ミアさんを助けた時のように、全力で足を溜めて解き放つ。
魔法使いの一人に狙いを定めていたであろう大熊の進路に俺が割り込む。
《今度はこっちの…》
「番やぁ!!」
格闘術もクソもないが、思いっきり右の拳で殴りつけた。
触れた瞬間に感じる生物としての強さと歪つさ。
分厚い皮と筋肉の先に、やはりゴーレムコアの存在を感じる。
人のいない地点へどうにかぶっ飛ばしたが、全く有効打を与えられた気がしない。さてどうすっかな……。
俺たちの着地は同時、そして地を蹴るタイミングも同時だった。
大地を割らんばかりの振り下ろしをなんとか掻い潜り、全力で蹴り抜く。
「ヴエッ!」
それでもこの程度に呻くだけだ。
クソッ、やってらんねぇ!内蔵どころか筋肉すら傷つけた感触がしない!
「やばいで!兄さん!!」
《!?》
やべぇ、カウンター食らっちま……!
「ヨロイさん!!」
バカでかい衝撃が体を貫いた瞬間、ミアさんの叫びが聞こえた気がした。