デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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ボスとの戦い(現実)

目の前にはボス部屋への大扉。

さて、どうするか?

 

「どうって? 行こうよ?」

 

ナビナビはそう言うが、一度回復に戻るべきじゃないか?

ゲーム通りなら鐘楼に戻れば回復出来る。グールに貰った打ち身や切り傷、ナビナビの死人繰りによる頭痛もスッキリ晴れるんじゃないだろうか?

 

そう聞けば、ナビナビ入りのグールはやれやれと肩を竦める。

 

「良いけどさ、そうすると最初からだよ?」

「なに?」

「だって、そう言うゲームだし。回復すると敵も全復活、僕の死人繰りも解除されちゃう」

「マジかよ」

「マジマジ、レベルアップシステムもまだだから強くもなれない。完全にタダのやり直しだね」

 

そりゃハードな死にゲーって言われるわ。

下手なヤツは一生チュートリアルを抜けられないだろう。

 

「って言っても、チュートリアルもクリア出来ないならどのみちすぐ詰むからね。あの下級悪魔、最初のボスにしちゃ強い事は強いけど、まともなゲームセンスがあればグールを盾にして戦えばあっさり倒せるハズ……らしいよ?」

「ハズってなぁ」

 

ゲームと現実では難易度が桁違いだ。

リアルな悪魔に生身で戦うのは気が重い。

 

ましてや、俺はゲームで下級悪魔に腹を抉られてる。あの不快感だって中々の物だった。それが現実化したらどうなるか? 考えたくも無いだろう。

 

それに、全くのやり直しだとして、俺自身の慣れって意味ではどうだ? 何十回と繰り返せば、俺のダガー裁きだってそれなりサマになるだろう。

 

リアルだからこそ、リアルスキルで強くなる余地がある。

なにせ、もう俺は死んだようなもの。時間は俺の味方なのだ。

 

 

……時間は俺の味方。

 

 

本当に、そうか?

 

「なぁ、ナビナビ、この世界に俺が来て何時間経った?」

「さぁ? 出会って三時間かな? 四時間かも?」

「四時間か、その間、現実世界は何時間経ってる?」

「そりゃ、四時間じゃない? まさか時間の流れが違うとか、そんなにファンタジーじゃないよ」

「四時間か……」

 

きっと母さんが心配している。

あんな事件があって、昨日の今日。

事件を疑って当然だ。

寺の駐車場を最後に行方不明。スマホの位置を辿ればスグに知れる。

 

それに……だ。

俺は自分の体を見下ろした。

 

今の俺の肉体は本当に現実のモノか?

俺はソレを疑っていた。

何故って見えないハズの目が見える。

 

この体は、俺の体を正確にトレースした仮のモノ。プレイヤーとしてのかりそめの肉体だとすりゃ、どうだ?

 

俺がそう考えるのは理由がある。

悪魔召喚騒ぎに巻き込まれた被害者たち。彼らの体は目を醒まさないまま、しっかりと現実世界に残っていた。だからこそ大騒ぎになったのだ。

目を醒まさないまま点滴で命をつなぐ事になりそうだと、ニュースで言っていたのを覚えている。

 

だとしたら、俺も同じじゃないか?

 

ドラゴンに噛まれた俺だが、あの扉を潜った時、既にこの体にすり替わっていたんじゃないか?

 

思えば、扉を潜った瞬間に、VRゴーグルは消えていた。

あの時、既に俺の体は『プレイヤー』になっていたのでは?

 

だとすれば、本当の俺の体はまだあの駐車場で寝っ転がってる可能性がある。

誰かに見つかり大騒ぎになってる可能性は、高い。

ましてや、誰にも見つからず一晩放置されたら死んじまう。

 

死を覚悟したつもりだった。俺はもう死んだようなモノ。

そう思ってやけくそで冒険しているが、それでも第一希望はノーデスでの全クリだ。

万が一、全てが上手く行ったとしても、戻るべき体が無いなんて笑えない。

 

「時間は俺の味方じゃないようだ」

 

迷った末に、ハラを決めた。

 

俺は金属の大扉に手をあてる。

ナビナビが応える。

 

「行くの?」

「行くさ、頼むぜ! ナビナビ!」

「おっけー」

 

気楽な調子でグールが変な踊りを踊る。

 

やめてくれ、呪われそうだ。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

ボス部屋は、ゲームで見たのと同じ構造だった。

すなわち、洞窟ながら広い空間になっていて。高い天井から一筋の自然光が漏れて、苔むした地面を照らしている。

 

……美しかった。

 

見る人が見れば、なんて事のない景色かも知れない。

だけど、美しかった。

 

何故かと思えば、この光景を俺は自分の目で見ているのだ。

もう、自分の目で景色を鮮明に見る事など無いのだと思っていた。ドリームフレームで見るカメラ越しの映像やゲームの中の光景だって、望外の奇蹟なのだと思っていた。

 

だけど、俺は今、自分の目で光差す本当の景色を見ている。

 

感動に涙が溢れる。

漏れそうな嗚咽を噛み殺す。

 

ココで泣いたら作戦が水の泡。必死に息を潜めた。

 

そんな景色の真ん中を『俺』の背中が横切った。ただテクテクと歩いて行く。無防備に、無遠慮に、ボス部屋のど真ん中。光差す中央に駆け寄った。

 

そして、ポカンと間抜け顔を晒して光が漏れる天井を見上げている。

 

(おいおい……)

 

あんまりだろと思いつつ、物陰に隠れた俺も天井を見上げていた。

 

忘れもしない。最初のボスとの邂逅。つい昨日の話だ。

ゲーム通りなら、ボスは空から舞い降りる。

俺たちは、固唾を飲んで凝視する。

 

――ソレが、油断となった。

 

「ゲフッ」

 

『俺』は死んだ。

無様に腹を斬り裂かれ、滑稽なほど臓物が吹き出した。

背後から駆け寄った悪魔に殺された!

 

そう。

ボスは、天井から、現れなかったッ!

 

「Gotcha! The fool ▼※○」

 

恐らく、英語だ。英語だが、汚いスラングは検閲コードに引っ掛かり音声が途切れる。

代わりとばかり、日本語音声が聞こえてきた。

 

「よっしゃー、馬鹿が! 引っ掛かりやがった!」

 

聞こえる日本語音声は、ナビナビ曰く自動翻訳機能。

 

だが、自動翻訳にしちゃ妙に自然に聞こえる。

ここにもゲームが現実化した影響がありそうだ。

 

やはり、ゲームと現実は違う。

 

……まぁ、そうだよな。

俺は物陰を飛び出して、悪魔に駆け寄りながら考える。

 

チュートリアルのジジイからして肉入り(ユーザー操作)だったのだ。

そして、取り込まれた魂は2000人にも及ぶ。

このゲームのネームドキャラが何人居るかは知らないが、まさか2000以上ってのはないだろう。

 

つまり、ボスは漏れなくプレイヤーになっている。

 

2000人のユーザーは、全員ドリームフレームのユーザーだ。

プリインされたデモンズエデンを一度ぐらいは遊んでいるだろう。

 

最初のボスがどこから出てくるか、当然知っている。

 

だから、俺達を騙そうとした。

上から出ると見せかけて、物陰に隠れてチャンスを窺っていた。

 

「馬鹿はおまえだよ」

 

だから、刺した。

俺が、『俺』を背後から殺した悪魔を、その更に背後から。

 

「ぐ、ぎゃ?」

 

悲鳴に言語は関係無い。

背後からは見えないが、悪魔は間抜け面を晒しているだろう。

 

ダガーは背後からの一撃に特大補正がある。

俺はこの一撃で、決める気だった。

 

「オラァ!」

 

ダガーの柄を握り締め、捻るように力を込める。

 

「グェア!」

 

だが、死なない。

悪魔は一撃では死ななかった。

 

背後からの特殊攻撃が発動してダウンを奪い。

ソレでも殺し切れなかった。

 

「テメェ、何をしたぁ?」

 

突っ伏した悪魔が喚く。

実際の英語音声はピー音だらけだ。

 

それに対する俺の答えは決まっている。

 

「さぁな?」

 

起き上がりざまに振り回される悪魔の右腕。

俺はバックステップで躱して、クールに決めた。

 

悪魔の目の前、不敵に笑ってダガーを構える。

 

……だが、恥ずかしい。

全くカッコイイシーンに仕上がらない。

 

俺の姿を見た悪魔もキョトンとし、一拍遅れてゲラゲラ笑う。

 

「おめぇ! ククッ! ホンモノの馬鹿かよ!」

「…………」

 

そうだ、今の俺はパンツ一丁!

パンツ一丁で、カッコイイポーズでダガーを構えている。

 

タネは簡単。

ナビナビはグール、俺だってグールだ。

 

だから、ナビナビに俺の制服を着せれば、遠目にゃ俺がプレイヤーに見えるって寸法だ。

後はナビナビを攻撃する隙に、背後からナイフでブッ刺しただけ。

 

ボスに人間の魂が入った結果。

このゲームは一人用RPGではなく、化かし合いの対人ゲームに変わっちまった。

 

俺が、ボス攻略を急いだもう一つの理由。

 

そう、時間は俺だけの味方じゃない。

他のユーザーも時間によって学習する。

 

だから、お互いに裏を掻く。

 

シンプルな作戦はきっちりハマった。

問題なのは、ソレで殺し切れなかった事。

ボスとプレイヤーでは体力が違うのだ。

 

「クソがッ! ぶっ殺してやる」

 

悪魔は長い爪を振り回す。

俺はソレを紙一重で避けて、反撃の機会を窺う。

 

……嘘だ。

紙一重で回避なんて出来る訳ねぇだろ!

全力で避けても紙一重になっちまう。ゲームじゃ無いんだそんな余裕はない。そのくせ俺の体は殆ど生身の俺で、俺はゲームの主人公じゃない。

 

なのに、敵は紛れも無く悪魔の膂力でブンブンと腕を振り回す。

 

ダメだ、死ぬ。

 

……どうせ、死ぬなら。

 

――ブシュッ!

 

血が噴き出した。俺の血だ。

横目に見れば、左肩がパックリ裂けている。

回避を疎かにした結果、避けられない攻撃が出来ていた。

 

でも、構わない。

どうせ死ぬ。

 

どうせ死ぬなら、逃げて死ぬより、踏み込んで死ぬ。

回避を犠牲に、攻撃に移る。

 

「ギッアッ」

 

悪魔の悲鳴だ。

左肩を犠牲に、俺は悪魔の胸にダガーを深々と突き刺した。

 

ゲームではなくなった影響か、ボスの体力は見えない。

ならきっと、相手だって俺の体力は見えないハズだ。

 

誰だって、死ぬのは怖い。

でもゲームと違い、いつ死ぬか解らない。

 

だったら、弱気になった方が負ける。

涼しい顔でHPを削り切れ!

 

俺は、無心でダガーを振るう。自分の身が千切れるに構わずだ。

 

「テメェ、イカレてやがんのか!」

「どっちが先に死ぬか。俺とおまえで、チキンレースと行こうじゃないか」

 

ハッタリだ。俺の体力だって限界。俺は生身の人間なのだから。

だが、相手だって最初にデカいのを貰っている。余裕は無いはずだ。

それでも悪魔はブンブンと腕を振り回す。

 

「クソが! テメェがよ! プレイヤーが死ねばこの世界は終わるんだよ! クソッたれな夢が! 醒めるんだ!」

 

……なるほどな、そう思っているのか。

 

突然にゲームの世界に囚われて、どうすれば夢から醒めるか解らない。俺だって、そうだった。

でも、コイツにはナビナビみたいに状況を解説してくれるヤツも居ない。

 

プレイヤーじゃないのなら、ラスボスを倒してめでたしめでたしってワケにも行かない。ただの敵キャラになるしかなかった。そんな役割しか与えられなかった。

なら、プレイヤーが死ねば夢の世界から帰れると、そう希望を抱くのは当然かも知れない。

 

そうか、だから最初のボスなんだ。

最初のボスに取り憑いて、いち早くプレイヤーを殺そうとした。

 

そこまで考えたとすれば、コイツはきっとそこそこ頭の回るヤツだろう。

 

「だが、死ね!」

 

俺は回避も最小限に、体ごとぶつかるようにダガーを叩き込む。

 

だってそうだろ? 俺が死んでも、俺がグールに近付いて「やり直し」になるだけだ。

誰も得しない。俺の魂が欠けていき、二度と俺が現実に戻れないだけ。

 

でも、そんな事を説明しても、意味が無い。

誰もそんな最悪を信じない。

 

まして、俺の為に死んでくれなんて言えやしない。

 

だったら、殺す。

殺すしかない。

 

狂戦士だ。

俺は殺しが大好きな狂戦士だ! なりきれ!

 

どんなゲームでもそうだが、人間がボスキャラを操作したらプレイヤーは敵いっこない。

何十回と攻撃してもボスは倒せず、たった一発殴り返されただけでこっちは瀕死なんてザラ。

 

それぐらい、ボスとプレイヤーは平等じゃない。

 

だが、現実化したこの世界ならどうだ?

人間は、ボコボコに殴られて、死ぬかも知れない恐怖と痛みに耐えられるのか?

 

俺はそこに唯一の勝ち筋を見出した。

相手をビビらせるんだ!

 

「ヒヒヒッ! たまんねぇ!」

 

相手を蹴飛ばし刺さったダガーを引き抜く。

見せつけるように、俺はペロリとダガーをひと舐め。

 

ましてパンイチだから、どこからどう見ても変態だ。

 

ちょっとやり過ぎか? 若干恥ずかしい。

 

だが、効果は絶大だった。

 

「イカレてやがる! 付き合ってられねぇ!」

 

逃げた。

逃げたのだ。

悪魔は逃げた。逃げられないボス部屋で。

 

やはり、暴言まみれの破滅的な人間に見せかけて、コイツは案外冷静だ。

なら、徹底的にビビらせる。

 

背中を向けた相手を殺すのは容易いからだ。

 

俺は逃げる悪魔を追った、ダガーに殺意を乗せ、駆けた。

逃げる足よりも追う足の方が速い。当たる!

 

「なにっ!」

 

だが、その瞬間。目の前から悪魔が消えた。

体ごと飛び込むように構えたダガーが空を切る。

 

「ばぁーか!」

 

声は、頭上から。

浮いていた、悪魔は飛んでいたのだ。

 

……そういえば、元々の登場シーンからして空から飛んで来ていた。

当然、飛べる。

 

ゲームでは飛行して逃げようなどとしなかったので忘れていた。

 

いや、ゲームでは飛んで逃げる行動パターンなんて無いんじゃないか? なにせ最初のボスだ。そんなギミックがあるはず無い。

 

だが、飛べるなら飛ぶ。中に人が入るってのはそう言う事だ。

 

俺はダガーを握り、空を見て嗤う。

 

「おいおい? 逃げるのか?」

 

挑発だ。だが……

 

「イカレ野郎が! 勝手に死ね!」

 

英語のピー音と日本語の罵詈雑言。

降りる気は無いようだ。

 

白けるばかりの行動。

俺の頭も冴えてきた。

 

……ずっと、飛べるのか?

 

ゲームのボスを人間が操作するなんて元々考えていないだろう。

スタミナの概念すらないかもしれない。

 

いや、現実化した時点でそんな事はあり得ない。

グールだって、人間らしい内臓を持って生きていた。

無限の体力で飛び続けるなんてあり得ない。

 

とにかく、集中を切らすな!

 

俺はジッと悪魔を見上げる。

気が付けば、強烈な日差しが落ちてきている。時間が経過している証拠だ。やはりゲームとは違う。

 

眩しい。

逆光に気をつけないと。

 

俺は目を細め、天井を見上げ続ける。

 

悪魔はゆっくりと天井の大穴に近付いた。

 

俺は内心で焦った。

まさか、本当に逃げるのか? ボス部屋のボスが? そんな事が可能なのか?

そこまでゲームと乖離している?

 

そんな可能性がグルグルと頭を過ぎる中、勝ち誇ったように悪魔が見下ろす。

 

「おまえ、まさか勝ったつもりじゃないよな?」

「尻尾を巻いた負け犬らしいセリフだな」

 

懲りずに挑発する。だが効果は無かった。

 

「逃げる? 逃げるって俺が、か?」

 

違うのか? その大穴から逃げて、俺をボス部屋に閉じ込めるつもりかと、そう思ったが。

 

「逃げねーし逃げられねーよ! プレイヤーが部屋に入った時点で穴から外には出られねぇ。なんとなく解るんだわ」

「そうかよ、じゃあ殺し合おうぜ」

 

余裕を見せて、戦いを強請る。

だが、本当は俺だって血まみれで余裕は無い。

見上げると、穴を背に悪魔はケタケタと笑っている。

完全に逆光だが、あの距離から攻撃する手段はないだろう。あったらとっくにやってるハズだ。

 

いや、何か違和感が……

 

天井の大穴が悪魔の体に遮られ、辺りは薄暗くなっていた。

 

俺の予感を肯定するように、悪魔は笑う。

 

「ヒヒッ! 殺し合いはしねぇ! 俺がやるのは一方的な虐殺よ!」

 

そう言って、悪魔は穴に『蓋』をした。

 

蓋。

蓋だ!

 

そうとしか言い様が無い。

きっと前もって準備した板か何かで穴を塞いだ。

 

すると、どうだ?

辺りは真っ暗になった。

 

何も、見えない!

ずっと見上げて、光に目が慣れたのが仇になった。

 

「ばーか、ゲームじゃねぇんだ! 何でもアリよ! 俺様の頭脳にひれ伏しな!」

 

悪魔の声に紛れ、音がする。悪魔が着地した音だ。近い!

コイツ、初めからコレを狙って!?

 

ダメだ! 動揺するな! 精一杯強がれ!

 

「真っ暗闇でかくれんぼか? おまえも見えねぇだろうが!」

「ソレが見えんだよ、悪魔は魔力の感知能力があるからよぉ!」

 

クソッ! ゲームにはあり得ない特性だ。

辺りは真っ暗闇。完全に詰んでいる。

 

コレじゃ俺には何も見え……

 

何も?

 

いや、見えないなんて、俺には『普通』じゃないか。

 

「ははっ」

 

笑っちまう。

 

何をそんなに恐れていた?

俺はすっかり目に頼っていた。僅か四時間の間にだ。

 

目を瞑る。

耳を澄ませる。

 

羽の音、呼吸音。

それだけで、部屋のど真ん中に降り立った悪魔の姿が手に取るようだ。

 

「ひひっ」

 

思わず、笑いが漏れる。

そんな俺を見て、悪魔は鼻を鳴らした。

 

「ふん、遂におかしくなったか。いーや、テメェは初めっからイカれてやがったな」

 

悪魔はズンズンとコチラに向かって来るじゃないか。

なるほど、この暗闇でも見えるってのは嘘じゃないらしい。

 

……だがな。

 

「わりぃな、あんまり可笑しかったんで――無明剣」

 

笑いながら、呟く。

力を込めて、呟く。

スキルが、発動する。

 

それで、残り少ないMPがすっかり無くなった。

 

無明剣。

 

『無明剣:目を瞑ってから五秒後、最初の攻撃に三倍のダメージ補正』

 

ゲームで手に入れたのは居合斬り。

今回、俺がグールと戦ってる途中に手に入れたのがこのスキルだった。

 

目を瞑って五秒後。

それがネックだ。

 

攻撃が当たる瞬間に目を瞑るだけなら、リスキーながら使い道は多い。だが、五秒後と言われると戦闘では殆ど使えない。

しかも、発動して目を瞑った瞬間にごっそりとMPを持っていく。途中で目を開けてしまったら消費したMPは戻らない。五秒後の展開を予想するなんて不可能だ。

 

だからきっと、このスキルはゲームでは死にスキルと呼ばれるか、ファーストヒットの奇襲専用として扱われているだろう。

 

いわゆる、ネタスキル。

使えないゴミ。

 

――俺以外には。

 

俺は、暗闇の中、悠々とした足取りで悪魔の背後を狙う。

 

「何ッ? テメェ!」

 

悪魔は動揺を隠せない。

それはそうだろう。

 

俺はこの暗闇でも辺りの様子が手に取るように解るのだから。

 

そう、『気配察知』だ。

元より俺は目が見えない。聴力や匂いに敏感で、人の気配を探るのに慣れていた所にコレだ。

 

もう、俺には昼間の様に全てが見える。

 

このスキルは特殊だ。特殊過ぎる。

俺には、これが元々ゲームにあったスキルかどうか自信がない。

 

目を瞑っても、周りの様子が解る。

そんなのをゲームでどう表現すると言うのか?

 

まして、ソレが現実でも使えたのだ。

MPも使わないパッシブスキル。

あまりにも異質。

 

そして。

変化は、ソレだけでは無かった。

 

「どこに! どこに消えやがった!」

 

悪魔は俺を見失い、ブンブンと腕を振り回すじゃないか!

なるほどな、良い事を知った。

 

どうも、MPを使い切った俺は、魔力感知では見えないらしい。

今後の悪魔との戦いに有効そうだ。

 

見える者と見えないモノ。

すっかり立場が逆転していた。

 

無明剣はMP消費の多さがネックだった。

ナビナビの死人繰りと両立するのは難しく、ナビナビを囮にする作戦が機能しなくなる。このスキルを作戦の主軸には据えられなかった理由だ。

 

だが、ここに来てデメリットがメリットに変わる。

MPを失った俺は、再び悪魔の背後を奪う。

 

闇雲に振り回すだけの両腕を躱すなんて簡単だ。

 

 

「じゃあな」

 

 

俺はダガーを悪魔の首に沈めた。

 

ダガーの背面攻撃補正+無明剣の三倍補正。

 

一撃だ。

一撃で、音も無く悪魔は崩れ去った。

 

真っ黒な粒子となって。

粉のように、霧のように。

 

殺った! 殺ってやった!

 

嬉しい反面。少し、怖い。

 

殺した。紛れも無く。

コレは、殺人だ。

 

「クソッ」

 

敵の体力すら見えないくせに、ゲームみたいなテロップだけは浮かんで来やがる。

 

<< DEMON SLAIN >>

 

悪魔じゃない。

殺したのは人間だ。

 

だが、不思議と嫌悪感がない。

やりきった高揚感すらあった。

 

なろうと演じた狂人に近付いていた。

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