デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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邪霊侵入

「やったねー」

 

光球に戻ったナビナビが飛び回る。

何が嬉しいんだコイツは。

 

一方俺は、グールに着せた制服を引っ剥がしていた。すっかり破けて血まみれ。酷い有様だ。

 

それでもパンイチよりマシ。諦めて袖を通す。ベタベタして気持ち悪い。

 

「おいおい」

 

そして、見てしまう。

黒い粒子となった悪魔の死体。それらが固まり、一つの形を作っていく。

 

宝箱だ。

 

ずいぶんと、()()()演出になっている。

ゲームではポンと湧き出す安っぽい演出だったのに。

 

喜べる変化ではない。

死体がアイテムに変わると思えば悪趣味だ。

 

「まぁ、開けるけどな」

 

開けないはずがない。

目論見通り、中身はアレだ。

 

「きっちり俺のサイズだ」

 

ブーツ。

履き慣れた運動靴はさっきの戦いでボロボロになってしまった。早速履き替える。そして、宝箱の中にはもう一つオマケがあった。

 

「これ、ひょっとしてマントか」

「あー、それね」

 

ナビナビが言うには、囚人などの裸同然の素性でスタートした場合にはマントが与えられる仕組みらしい。

 

パンツ一丁で戦ったからだろうか? そういや俺の素性は何と判定されてるんだ?

 

「まぁ、良いか」

 

考えても無駄。

俺は血まみれのブレザーの上からマントを羽織る。悪くない。それこそアニメやゲームの主人公みたいじゃないか。

 

チュートリアルは終わった。

俺は、地上にあがる。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「またかよクソッ!」

 

地上に上がるエレベーター。

俺は落下死しそうになっていた。

 

あまりにレバーが重く、しがみついて全体重を掛けた瞬間にガクンと動きやがったのだ。振り落とされそうになるのをレバーを必死に掴んで耐えた。

 

マジでゲームの比じゃない恐怖だったとは言っておく。

 

辿り着いた大聖堂は圧巻だった。

崩れた柱の彫刻、古びた講壇のささくれ、かび臭い空気まで、ゲームではあり得なかったリアリティ。

 

極めつけは、何気なく見上げた天井。

ステンドグラスから色とりどりの光が差し込み、周囲を七色に染めている。

 

スゲェ……

 

俺は、本当にファンタジーの世界に踏み込んでいる。

……なのに、ソレを楽しむ余裕がない。

 

出血こそ止まっているものの肩の切り傷のダメージは深い。

観光は後、聖堂を出て早く鐘楼で回復したい。

 

と、足早に聖堂の出口へ向かう時だった。

目に入ったのだ。

 

――次元鏡が。

 

ゲームの次元鏡は、他の世界に侵入するためのアイテム。友達と一緒に遊ぶためのシステム的な存在だった。

 

コレを潜って友達のゲームにお邪魔する設定。他にはフレンドのプレイを見られるとか、そんな機能もあるようだ。

 

しかし悲しいかな、日本未発売のドリームフレーム。俺のフレンドリストは空っぽで、何の意味も無いオブジェクトになっていた。

 

だが、現実化したこの世界。

いま、ソコに映っているのは……何だ?

 

「俺?」

 

それは俺の姿だった。

 

呼吸器を付け、病院で寝ている俺の姿。

 

「な、に?」

 

意味が解らない?

いや、本当は解った。解ってしまった。

 

だからこそ、動揺している。

 

アレが、アレこそが本当の俺だ。

駐車場で倒れ、病院に搬送された。

実体を持った、俺の本体。

 

ベッドの俺に、母親が必死に呼びかけている。

でも、寝込んだ俺は何の反応も示さない。

 

「クソッ!」

 

やはり、今の俺はかりそめのモノ。

 

「帰るっての! 早くッ! 帰らせろよ!」

 

鏡に向かって叫ぶ。鏡面に触れ、中に入ろうとする。

しかし、鏡は冷たい感触を返すのみ。

 

いや、違う。

出たのはダイアログ。

目の前に、無機質に、浮かび上がる。

 

≪次元鏡≫

『死んでグールになった状態では、他の世界に侵入する事は出来ません』

 

ふざけんな! 『他の世界』じゃない! ソレは俺の世界なんだよ!

 

ふざけやがって! ふざけやがって!

 

「やめなよ! 次元鏡が壊れると、魂の繋がりがなくなっちゃうよ!」

 

俺が鏡を揺さぶっていると、ナビナビがそんな事を言ってきた。

 

「ンだよ! ソレは!」

「だからさ、この異界と魂の繋がりは微妙なモノなんだ」

 

世界と世界を繋ぐ設定の鏡。

それが、ゲーム化した現実では、魂を世界に繋ぐ役目を持ったのだと。

ナビナビはなお語る。

 

「みんなの魂は鏡で繋がってるんだ。試しに鏡に念じて、別の世界を感じてみて」

「別の世界を?」

 

言われるままに、別の世界を鏡に望む。

すると、どうだ?

 

気が付けば、俺の周りには無数の次元鏡。

聖堂を埋め尽さんばかりの鏡が俺を取り囲んでいた。

 

「これ、は?」

「どうだい? ゲームと違って君のフレンドリストは空じゃない」

 

ナビナビが鏡の間を飛び回る。

 

鏡に映る大半は、俺と同じ。病院のベッドで寝込む外国人の映像だった。それ以外には薄暗い部屋でぐったりしている男の姿が目立つ。割れている鏡も幾つか。

 

「これは?」

「解ってるでしょ? この世界に囚われた人間だよ」

 

彼らが、そうなのか?

ダークスフィアのFVCライブで生贄に捧げられ、この世界に囚われた被害者。彼らの現在。

 

「じ、じゃあ、割れてるのは……」

 

俺が粉々になった鏡を指差せば、ナビナビはプルプルと震える。

 

「思ってる通りだよ。彼らは、……死んだ」

 

つまり、もう何人もの人間が死んでいる。

そして俺を含め、病院で寝かされてる多くの人間もまた、遠からず死んで割れた鏡になり果てるのだろう。

 

「クソが!」

 

ふざけやがって。

俺は猛烈に怒りが湧いた。

 

何って、この事件の犯人。ダークスフィアだか言うバンドのヤツらにだ。

 

被害者の顔を見てしまって、怒りが抑えられなくなった。

 

馬鹿な妄想に取り憑かれ、悪魔を喚んで二千人もの人間を犠牲にし……そこまでして望んだのが病気を治すためとか、いっそ世界征服なら、まだ解る。

 

それが何だ? 悪魔にギターを教わりたい? 馬鹿もいい加減にしろ!

 

そんな彼らもまた、意識を失ったままだとニュースで聞いた。

 

自らも悪魔召喚に巻き込まれ贄となったのだ。ソレこそが、愚かに、無邪気に、なにも知らずに悪魔召喚を企てた証拠に思えた。

 

「どれだ!?」

「え?」

 

俺は問う。ダガーを握り締め、ナビナビに問いかける。

 

「だから、ダークスフィアの! 悪魔召喚なんてしたクソ馬鹿の鏡はドコだって聞いてンだよ! ナビナビ! 拉致されたお前だって被害者だろうが!」

「え? いや……そうだけど」

「あるのか? この中に! クソ野郎の鏡は!?」

「あ、あるけど……ダメッ!」

 

ナビナビが、一つの鏡を見る。

俺はその鏡に走った。

 

ナビナビが止めるが、知った事か。

ブチ割ってやる!

 

アレが、そうか。

病室で寝込む、ロン毛の白人。

ヤツの魂を断ち切る!

 

鏡に駆け寄り、俺はダガーを構える。

 

その時、だ。

 

≪ 邪霊 A1ex my3rs に侵入されました ≫

 

「な、に?」

 

現れた不気味なメッセージ。

こんなのはゲームになかった。

 

「いけない! 逃げて!」

 

ナビナビが叫ぶ。

だが、遅い。

俺はダガーを振り上げて……

……振り下ろそうとした鏡にノイズが走り、中の様子が窺えない事に面食らった。

 

意味が、解らない……

 

「世界が繋がった! 望まない限り、世界と世界は繋がらない! だけど、君は彼の世界への干渉を望んだ! 望んじゃった! だから、繋がった! こうなったらレベル制限も役に立たない! 多少のレベル差があっても侵入してくる!」

 

え? 侵入? 何が、アイツが?

 

動揺する俺の目の前。地面から沸き上がる物体があった。

 

赤黒いナニカがジワジワと染み出してくる。

コレが、敵? 悪魔召喚を企てた人間?

 

「丁度良いじゃねーかぶっ殺してやる!」

 

地面を見つめ、ダガーを構える俺の脳は完全にハイになっていた。

 

だが、目の前に湧き出してくる敵。

その不気味さときたら、どうだ?

 

骸骨の様な見た目、渦巻く威圧感。コレは?

 

「ダメ! 敵いっこない! 逃げて! 逃げろ!」

 

ヒステリックなナビナビの声を聞くにつれ、頭が冷える。予感に手が震える。

 

何だ? 何を見落としてる?

ナビナビは何と言った? レベル差?

こいつにはレベルがある?

なぜだ?

 

この世界に取り込まれた被害者は、ボスや爺みたいなNPCに取り憑いていた。もちろん、レベルなんて無い。

 

だが、この事件の首謀者なら?

 

当然、プレイヤーになろうとするだろう。

それも、自分で育てたプレイヤーキャラに。

 

俺みたいに生身でこんな世界に来ようなんて、夢にも思わないハズだ。

 

ナビナビが、叫ぶ。

 

「彼らは『プレイヤー』になりたかったんだ! だけど、世界に選ばれたのは君だ! 初心者である君が選ばれた。だから、弾き出されて隔離された。彼らは君を殺して成り代わろうとしてる!」

 

瞬間、思い出す。

この手の、いわゆる死にゲーってのを初めて遊んだ時のコトだ。もちろんVRなんかじゃない、もっと原始的なコントローラーで遊ぶゲームであった。

 

マルチプレイを軽々しく許可したら、野良の外人が終盤の装備で現れて、ひのきの棒を振り回すこっちを一方的にボコして来やがった。

 

ハラワタが煮えくり返えり、棒を手に何度も挑むが、圧倒的なレベル差に為す術などない。結局、ネットをぶった切るぐらいしかなかった。

 

――だが、この世界にはオフラインはない。

 

ヤバい!

 

ようやく事態が飲み込めた俺は、聖堂の外へと走る。

だが、遅かった。

 

「ぐっ!」

 

背中に強烈な痛み。俺は聖堂の床を転がった。

 

「don't run away」「逃がさん!」

 

床に倒れる俺の耳に、英語音声と日本語音声がダブって聞こえた。

背後に見えたのは、不気味な鎧を纏った赤黒い骸骨の立ち姿。

 

……そして、俺の背中に突き刺さるナイフ。

 

「カハッ!」

 

口から血を溢れる。

ナイフを、投げられた!

 

この手のゲームの投げナイフなんて、涙が出るぐらい弱いのが普通。

そんなナイフの一本でダウンを奪われた。

 

それだけで、理解した。させられた。

圧倒的なステータスの差がある。

装備の差もだ。

 

這いつくばりながら、もう一度肩越しに相手を見る。

赤黒い体にゴツイ鎧。なによりソレを着込んだ骸骨の体が不気味だ。良く見れば完全なスケルトンではなく、しわしわの肌や眼球が見える。生きたまま肉が吸い取られたような……ファンタジーでは収まらない。むしろホラーの住人だ。ギリギリ生きている説得力が不快感を呼び起こす。

 

何だコイツ!

 

悪魔を呼び出して、大勢を犠牲にして。

こんなバケモノになりたかったのかよ!

 

だとしたら、その精神性こそが異常だ。

異形の怪物が、俺へと迫る。

 

恐るべきプレッシャーに息が出来ない。

俺は立ち上がる事もできず、見上げるばかり。

 

だが、心は折れていない。

 

コイツを殺す。

きっとチャンスは一度きり。

 

手が届く距離、怪物が足を止めた。

そして、ゆっくりと、ロングソードを抜く。

シャラリと金属の擦れる音。

 

腰の剣を引き抜く最中。

一瞬、腕で視線が切れる。

音が、紛れる。

 

今だ!

 

体を捻って背中のナイフを抜く。

勢いのままに投げる!

骸骨の顔面に突き刺さるッ!

 

「ハァ、ハァ……」

 

決まったッ!

 

深々と顔面にナイフが刺さる。

 

止めていた肺が酸素を求めて藻掻く。

湧き出した汗が血まみれのシャツを濡らす。

 

どうだ?

装備の差があるなら、相手の武器を使えば良い。

目論み通り、放ったナイフは直撃した。

 

「craftyこざかしい」

 

しかし、効いていない。

顔面に刺さったナイフをなんでもないように引き抜きやがる。

 

絶望に目眩がする。

だが、諦めない。

 

ココで死んだら俺は一生グールのままだ。

時間を稼げ! 口を回せ!

 

「ハッ! 悪りぃなぁ! あんまり気持ち悪いもんだから投げちまった」

「shut up you little brat 黙れガキ!」

 

姿をけなすと、とたんに相手は激昂した。

 

……おかしい、スケルトンキャラを作ったんじゃないのか?

 

怒りのままにブンッと振り回されるロングソード。

あまりの素早さに驚くが、単調さ故に躱せた。風圧煽られながら、俺は立ち上がる。

 

「謙遜するなよ、サイッコーにキモいキャラじゃねぇか! 感心するぜ」

 

言いながらチラリと出口を見るが、遠い。骸骨の腰には投げナイフも潤沢。逃げられる気がしない。

 

なによりレベルが違うなら、速度やスタミナも相手が上だ。

俺がまだ生きているのはコイツが冷静ではないからだ。そこに唯一の勝機があった。

普通に戦えば、かつてゲームでやられた様に、レベル差で一方的に殺されるだろう。

 

「Don't lo..私を、見るな!」

 

敵は、ひたすらに自分の顔を抑えている。痛みに呻き、醜さに羞恥している。

 

俺は、その様子に眉を顰める。

何故だ? アイツは自分でクリエイトした、望んだゲームのキャラになっているんじゃないのか?

 

……そう言えば、キャラクリの種族の中にスケルトンなど居なかった。美少女に相応しい種族を探して、くまなくチェックしたのだから間違いない。

 

どんな種族にしても美しかった少女。スケルトンなどあったなら強烈に記憶に残っているに違いないのだ。

 

だったら、コイツはなんだ?

まさか、自分で作ったキャラじゃないのか? じゃあ、ヤツは『何』になっている?

 

話を聞きたい。

それに、『見るな』と言うなら丁度良い。

 

「解ったよ。降参だ。顔も見ない。ただし、話ぐらいは聞かせてくれよ」

 

五秒で良い。時間を稼ぐ。

 

俺は目を瞑り、両手を挙げた。

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