デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
「はぁ~しんど」
放課後の教室、俺は一人ため息をついていた。
だってずーっと質問攻めなんだもん。主に女子から。
みんな、もっと気後れするモノと思っていた。
だって、エルフよ? 可愛いけどさ、ファンタジーな存在じゃん? 興味はあっても怖いってなるのが普通だと思う。なのにまぁ、みんなひどく無防備だ。
お肌ツヤツヤ触って良い? とか言ってくるし。使ってる化粧品まで聞かれたよ。自衛隊の遠藤さんが選んでくれたのは結構な高級品で羨ましがられたね。そりゃ学生の使ってるのとは違うよな。
正常性バイアスなのか、ファンタジーと現実の区別が付いていないのか。ちょっと不安になるレベル。
「中でも耳がなぁ」
エルフの特徴的な耳。
滅茶苦茶触ってくるんだよな。
「軟骨すり減っちまうよ」
耳はデリケートだ。柔道をやってる権田くんなんて耳が餃子になってるからな。アレは御免だ。エルフのお耳が餃子になったら辛いものがある。
なので「耳、敏感なんで……んあっ!」と悶えてやれば、みんな遠慮して触るのをやめてくれた。同性なのに女子まで照れてたのはどうかと思うよ。
「無理もない、か……」
窓ガラスに映るのは、アニメみたいな美少女エルフになった俺の姿。
この騒ぎ、数日は収まらないだろうな。
頭をボリボリと掻きむしり、窓から外の様子を確認すると、まぁゴブリンみたいにマスコミがウジャウジャと校門前に集まっている。
そりゃそうなるわな。みんなバンバン俺の写真を撮ってSNSにアップするもんだから。スクープ目当てで集まってしまった。どうせ自衛隊の送迎で帰るから登校風景なんて撮れないのにな。
そんなに面白いかね?
……面白いよな。
いや、数日で済むだろうか?
ドリームフレームで録画されたダンジョンの映像を公開したら、とんでもないコンテンツになるに違いない。
そう言えば、あの映像の権利ってどうなるんだろ? ゲーム配信だって配信者の権利になる訳で、当然俺のじゃないか? ドリームフレームのドリームスカイ社はもちろん、ゲーム制作元のイリーガルソフトだって権利を主張出来ないだろう。多くの人命に係わる以上、あの異界に権利を主張するってのは逆にリスクだ。
そこまで考えて、俺は頭を振った。
「取らぬ狸のってヤツかな」
すぐに死ぬかも知れないのだ。お金の心配をして何になる。
いやいや、だからこそ親に権利を残すべきだろうか? 死ぬと権利関係は曖昧になりがちだと言うし。
そんな事を考えていると、待ち人が来た。
「ごめーん、遅くなっちゃって」
「いや、いいっすよ。こっちが無茶言っちゃって」
「ううん、興味を持ってくれて嬉しいよ」
彼女は柳川さん。ボサボサ頭にメガネって陰キャの腐女子みたいな見た目だが、彼女は陰キャとは真逆の人間。
なにせ、彼女は軽音部の人間なのだ。
軽音部とテニス部は陽キャ。異論は認めない。
そう、今日俺は軽音部に見学に来たのだ。
見学には外れた季節だが、快く受け入れてくれた。
柳川さんが遅れた原因は、背負ってる楽器に違いない。普段は鍵付きのロッカーに保管されてるんだと。
いや、ソレにしても荷物がデカいな。
「それは?」
「あ、ギターと、ドラムセットね」
「ど、ドラムぅ?」
そりゃデケーわ。むしろ担げるものなの?
「電子だからね、ドラムセット、ココに置いとけないんだよ」
ウチの学校は、吹奏楽部が有名なのだが、軽音部は人気が無くて廃部の危機なんだとかで、現在部員は彼女しか居ない。なもんで、空き教室を使っている。セキュリティ的に物はあんまり置いておけないんだってさ
……正直、ソレを聞いてチャンスだな、と思ったのだ。人は少ない方が良い。もう俺は質問攻めはウンザリだった。
だが、ノリノリでドラムまで用意するってのは困ったな。なにせ俺はズブズブの素人。音楽のセンスもゴミゴミ。
だから軽音部に入りたいワケじゃない。命懸けのゲーム攻略でそんな時間があるか解らんからな。
柳川さんに頭を下げる。
「あの、折角だけどドラムは良いよギターだけちょこっと触れれば」
そう、俺は、ギターを習おうと思っているのだ。他の楽器に興味は無い。
なんでギターかって?
ダークスフィアのアレックスだかはギターの為に悪魔になろうとしていた。
今の俺の体なら、ギターの超絶テクが習得出来るかも……って実験がしたいのだ。
だから、ギターを触りたいだけ。ドラムを試す気はないし、軽音部に入る気は全然ないのだ。期待させるのは申し訳ないだろ。
だけど柳川さんは笑顔を崩さない。
「うんうん、でもね、ギターを覚えるにもリズムがあった方が楽しいし覚えも早いんだよ」
そうなのか?
そう言うならそうなんだろう。
まずは、接続から。
エレキギターは単品では鳴らない。そんぐらい俺だって知っているんだよ。柳川さんは手慣れた様子でケーブルをスピーカーに繋いでいく。
「あれ? アンプってのに繋ぐんじゃないの?」
「コレがアンプだよ~」
「そうなん? 俺の知ってるアンプってこんなに大きくないんだけど」
信号を増幅するヤツだろ? パソコン向けのアンプ持ってるけど、コレはデカすぎる。
「スピーカーと一体なんだよねー」
「そうなの? なんかギターとスピーカーの間にちっこいの挟むじゃん、アレがアンプなのかと思って」
「それはエフェクターだね~別に要らないよ~」
そうなん?
いやホントごめんね、ズブさんで。
この時期に見学って、普通は経験者だよな。ちょっと恥ずかしい。
「いいよいいよー、こっちこそごめんねー寂しい感じで」
「いえいえ、むしろ人が居ないのは助かります。あの、色々と身の回りが騒がしくて……」
そう言って、俺が窓の外を見れば柳川さんも納得してくれた。
「大変だねー、死ぬかもってホントなの?」
「そうですね、この体だって借り物みたいなモンだし、このままってワケには行かないです」
「ふーん、でも体を借りるなんて世界で初めてじゃない? そりゃあみんなも気になるよー」
そうだよなぁ。なんなら俺が一番気になってる。
とりあえず、この体で何が出来るかってのは調べたい。その為のギターだ。
「まずはチューニングだねー、ギターしばらく使ってないしグチャグチャかもー」
「あ、そうなんですね」
「本当はチューナーってのを使うんだけどねー」
パクられて無くなってしまったと。世知辛いね。
「一応、スマホで代用出来るから大丈夫」
「あー、実は……スマホ持ってないんですよね」
「えー、珍しいねー」
「いや、取り上げられちゃって。変な所に連絡するなって。ガラケーはあるけど自衛隊の人にしか繋がらない」
「そーれは酷いねー」
いや、ホント酷いよ。人権侵害だよ。
俺がスマホ中毒だったら憤死してたよ。
ドリームフレームがネットに繋がるから、日常的に触ってなかったから助かった。
とりあえずスマホを借りてチューニング。ネックのネジみたいのをコネて音を合わせる。
コレ毎回やるの? 面倒臭くない?
結局、手伝って貰ったんだけどさ。
そんでいよいよ演奏ってなったんだけど……
「クロマチックって言って、弦の上から順番に弾いていくの、左手四本の指で押さえる場所を変えながらね」
見本を見せてくれるが、演奏っていうか音出しって感じだな。ちょっと肩すかし。
いよいよ俺の番だ。ギターを構えて内心イキリまくっていた。「俺は悪魔の体を持ってるんだぞ!」って。だが……
――テレレレレレレレ、レレレレレレレレ
結論から申し上げると、大した事は起こらなかった。
想像では、ギターを構えた瞬間、脳に電流が走って、斬新なメロディーが浮かびまくって、自然に指が超絶テクで音階を刻む。なーんてのを期待していた。
だが、実際はフツーに指で弦を押さえて、ピックで弾く。ソレだけの事に必死だ。
こんなのは誰にも出来るだろう。酷い肩すかし、ガッカリだ。
だけど、楽しかった。
弦を弾くと音が出る、それだけで楽しいのだ。
――ズン、チャ! ズン、チャ!
そこに、柳川さんが俺に合わせてドラムでリズムを刻んでくれる。
二人でリズムを合わせて音を出す。ソレだけの事が、なんだか楽しい。
次にローコードって比較的簡単なヤツを教わっていく。
「いいねいいねー、上手いよー、ホントに初めて?」
「いやー、ソレほどでも」
褒められてその気になってきた。
ようやく、ちゃんとメロディっぽい物が出せて嬉しい。それでもイメージするギターってよりも、伴奏って感じだが。
これ、才能あるのかね?
柳川さんはお世辞だろうし、期待した天才的なギターテクみたいのとは程遠いけどさ。
一方でまぁ、ソレで良いか、とも思っていた。
ギターが上手かったら生き残れるかって言うと、そんな事も無いだろうからな。
どちらかと言うと、ダークスフィアの連中に対する当てつけみたいな向きがある。
しかし、一応、自分の中で、この体の限界を確認しておきたい気持ちもあった。ココまでで、既に小一時間は使ってしまったからな。
「ごめん、柳川さん……」
「なにー?」
事情を説明して、もっと難しそうな所を教えてとリクエスト。初心者が詰まる部分があるハズだ、そこをスルっと抜けられるなら芽が有るのかも解らない。
「えー! オススメしないな! そういうやり方。一歩一歩やるべきだよー、最初はまともにコードも弾けなかった天才ギタリストなんてゴマンと居るんだから」
まぁそうだよな。
武術だって、簡単な技術から、難しい物まで色々あるのが普通だ。
いきなり難しいのにチャレンジして失敗。「俺には才能が無いんだー」とか言い出したらお笑いぐさだ。舐めんなって言ってやりたくなる。
逆に、たまたま大道芸みたいな変則技が出来るからって「俺は天才だぞ」なんてデカい顔してるヤツはもっと悪い。そんなモンはイチ技術に過ぎないからだ。
……とは言え、一応。
一応ね?
まさかこんなので嫌いになったりしないよーって説得して、教えて貰ったのはFコード。
「コレが初心者の壁だねー、人差し指で全部押さえなきゃだから」
と、指を見せて貰うと、確かにコレは手が小さいと辛そうだ。今の俺の小さいお手々じゃ厳しいかもわからん。
早速やってみると、そんなに難しくない。というか人差し指は一番上と下の方だけ押さえてれば良いらしいし、他は今までのコードとそんなに変わらない。格ゲーのコマンドのが難しい気がする。
試しに弾いたら柳川さんは手を叩いて喜んでくれた。
「えー凄い凄い、器用なんだねー」
器用?
……まぁそうか。
この手のとっかかりって『器用』である事が大切なのだ。音楽的素養とか関係ナシに。武術だってそうだ『器用』であれば、最初は凄く飲み込みが早い。けれど、それで大成するかって言うと別問題だったりする。
こんな単独の技術で向いてるかどうかなんて解るハズがない。
解るのは精々が『器用』かどうかってだけで……
……あっ!!
そう言えば、エルフ。ゲーム的には森人は、『器用さ』に優れた種族だった。
まさか、ソレが効いている?
俺はこんなに『器用』だっただろうか?
思わぬ所から、意外な事実に気が付いた。
ひょっとして、器用さをあげるとどんどんギターが上手くなる、とか?
そんな事ってあるのだろうか?
考え事をしていたら、電話が掛かってきた。
自衛隊の遠藤さんからだ。
暗くなるから帰るぞってお誘い。
窓から見下ろすと、自衛隊の車が待機している。タイムオーバーだ。
「ごめん、ほんっとーにごめん、もう行かなくちゃ」
片付けを手伝えないのは申し訳なさ過ぎるだろ。俺は平謝りだ。でも、柳川さんは良いよと言ってくれた。
ただ、最後に真面目な顔で、口を開いた。
「私ね、音楽でアレが出来るから向いてるとか、出来ないから向いてないとかって言うの大嫌い。だけど、柏木さんはギター向いてると思うよ」
「え? それ、どう言う事?」
矛盾してない? 思わず訊いてしまった。
柳川さんは気まずそうに頬を掻く。
「だって、手元を見ないで弾くんだもん。フツーさ、最初は目で確認して、これで合ってるかなっておっかなびっくり必死になっちゃう。でも、柏木さんは手の感触と音で確認してたよね? ソレって中々出来ないから。向いてるって有るんだなって思ったの。……言っとくけど、初めてだよこんなの」
「あー、うん。そっかぁ」
なるほど、解った。
盲目だった俺は、目に頼らないクセが付いている。音だって、エルフ耳は人より音を拾うだろう。
そう言う部分で適性があったのかもしれない。
「だから、良かったらギター買って練習してよ。柏木さんがどこまで行けるのか見てみたいもん」
「う、うん」
グイグイ来るな。
廃部寸前だからにしても、凄い圧力だ。
「そ、それに……」
顔を赤らめて、柳川さんは告白する。
「あの、ギターを弾く柏木さん、すごく格好良かったから」
そっか。そうかも。
エルフの美少女が制服姿でギターを弾くの良いよな。
窓ガラスに反射する自分を見てポーズをとったりなんかして。
良いかも知れない。
お礼を言って別れると、俺は自衛隊の車で指定のホテルに帰った。
軟禁場所とも言う。
それから数日後、日米が協力して我が波木野市に臨時基地として広大な土地を借り上げる。同時に、俺の軟禁場所もホテルから臨時司令部に変わる事になった。
つまり、広くて誰にも迷惑がかからない場所でギターの練習が出来る様になったのだ。