デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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ショッピングモールダンジョン2

「来いっ!」

「Gyaaaaa!!」

 

ステージの俺に目掛けて、推定60トンの巨大な鮫が突っ込んで来る。

ショッピングモールの屋上。巨大な質量が舞っていた。

 

電車が落ちて来るようなモノ。とても耐えられない。

ソレでもやってやる!

 

俺は刀を振り上げる。

もはや、一種の自殺。ソレでも!

 

……あれ?

 

手応えが、無い。何の衝撃も。

 

俺の覚悟をあざ笑うように、俺の頭上にバサリとイミテーションシルクの垂れ幕が降ってきた。

 

……中身は、無い。

俺はシルクの幕にすっぽり包まれてしまった。

 

……そうか、ムービーの時間が終わり、消えたのだ。

 

俺はほっと一息ついた後、周囲を確認すべく、バサリと幕を引き剥がした。

 

――すると。

 

「うわぁぁぁ!」

「スゲーッ!」

「お姉ちゃーん!」

 

拍手喝采。

一瞬、ポカンとしてしまった。

 

これ、アレだ。さっきの騒動も興行の一種だと思われている。

モンスターが消えたと思ったら、今話題の女の子が飛び出て来たんだから無理もない。

 

どうする? 事件だと言うべきか? でも。

俺は自分の手に握られた銃刀法無視の刀をチラリと見る。

大事にしない方が良い。

 

咄嗟に判断、俺ははにかんだ笑顔を浮かべると、ペコリと客席に頭を下げる。

すると――

 

「わぁぁ!」

「良かったぞー!」

「またやってー」

 

一層の盛り上がりに気をよくして、俺は手を振りながらステージを降りる。

 

その時だ。

 

「コチラHQ! 応答せよ! アリス、応答せよ!」

「あ、はい」

 

インカムから声。

聞こえてなかった。いや、聞こえても頭から追い出していたのか。

 

「目立ち過ぎだ! マスコミが来る。撤収するぞ」

「は、はい」

 

返事をするや否や、俺の周りには自衛官がワラワラと囲った。

サインを強請ろうとする子供や大人を排除して、俺の首根っこを押さえて連行していくじゃないか。

 

「お姉ちゃーん!」

「お姉ちゃんは次のイベントに忙しいのよ」

 

親子は自衛官も含め、全部イベントだと思っているな。

 

あ、出口を固めているマスコミを自衛官が排除している。そらそうか。

そのまま地下駐車場まで運ばれて、軍用の4WDに乗せられた。

 

ほっと一息。

指には指輪。でも、豹を呼び寄せたりは出来ない。ムービーのみの特別か。

 

それにしても、現実には影響が無いと思っていたのに、こんなコトも起こるのか……

 

俺達は、ダンジョン攻略の方法を考え直す必要に迫られた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ご覧下さい、こちらは波木野市のショッピングモールで撮られた映像です」

 

基地の食堂。

テレビでは先日の事件が繰り返し報道されていた。

俺はカレーうどんを啜りながらニュースを見ている。

 

「柏木ヨウさんと見られる少女が、ショッピングモールのウルスラマンショーに現れ、目に見えない怪物と戦っていた……と言うのです」

「榊さん流石にでしょ? ホントですかぁ?」

 

嘲笑するスタジオを無視し、アナウンサーは子供連れのお母さんにインタビューを迫る。

 

「エルフのお姉さんを見た?」

「見たー!」「見た見た」「私も見ました」

 

元気一杯。俺の足に飛びついてきたちびっ子たちだ。

子供二人に振り回されるお母さんが大変そうで、良く覚えている。

 

「子供はショーに夢中でしたけど、私はあの女の子が気になって。だってニュースはあの娘の事で持ちきりでしょう? 凄く綺麗だし目を奪われてジッと見てたんです。そしたら突然消えたんですよ」

「消えた?」

「はい、ソレでおかしいな……と、思ってたんですが……」

「鮫がでたのー」「デッカイの! すごいの!」

 

子供がアナウンサーに割って入る。

 

「鮫と言うのは……」

「私には見えなかったんですけど、子供が鮫だ鮫だって騒いじゃって。何を言ってるのかなーと思ったら、ステージの幕が飛び上がっていって」

 

お母さんは上空を指差すジェスチャー。演技派だ。

 

「凄い凄いって見上げてたら、バサーッとステージの真ん中に落ちたんです。ソレで幕の中から消えたハズの女の子が出て来て。ああそういうショーなんだなって」

 

そこでインタビューは終わる。

 

「そう語るお母さんですが、この日、その様なショーは予定されていませんでした」

 

神妙な顔でアナウンサーは語る。

 

「子供達が見たという鮫の怪物とはどんな姿だったのでしょう? そのヒントはここにあります」

 

そう言って出て来たのは写真だ。

そりゃショーだからみんなカメラを持っている。イミテーションシルクを纏ったメガロドンが空に浮かび上がった姿であった。

 

「早川さん。この幕の形、鮫みたいに見えないですか?」

「つまり、ただこの布が鮫に見えたってだけじゃないですかね?」

「それが、早川さん。この日の波木野市は風が吹いていなかったんです」

「えぇっ? ソレは不思議ですねぇ」

 

うわぁ、凄い騒ぎになってるな。

俺は他人事みたいにチュウとうどんを啜った。

 

「大変な騒ぎですね」

 

遠藤さんが向かいに座る。

 

いや、責めるような響きだけど、俺の所為なのコレ?

 

あの鮫は、大した攻撃力を持っていなかった。

体がぶつかったと思われる鉄パイプも、俺を囓ろうとして突っ込んだ床も。どこも傷ひとつ付いていない。

ただ、心霊現象でカーテンがはためくように、その程度の物理的な干渉力だけは持っていたとそう言う話だ。

 

だが、いつまでもそうだとは限らない。

俺が見たドラゴンだって、いつか人間を噛み殺す力を持つかも知れないのだ。

 

もういっそ、俺の戦ってる映像も出してしまうってのはどうなのよ?

 

みんなに黙っているのも限界だろう。ヘタに事故でも起こって何で黙っていたんだと言われても誰も責任が取れないはずだ。

 

親にお金を残すって意味でもそうしたいモノがある。

実は、映像の権利は俺のモノって確認も既に取れている。公開すれば、ちょっとしたお小遣いにはなるだろう。だが、あくまで公開は事件が終わってからと釘を刺されてしまった。

 

だが、ヘタに隠してどうするんだ? いっその事、公開して市民に協力を求めるのも手じゃないか?

 

日米共同で基地まで作ってしまったのだ。マスコミはタダ事じゃないと気がつき始めている。ヘタに隠すからこそ、取材合戦はとんでもない規模になっているのだ。

 

もっと言うと、今の状態が俺にとって安全とも言い切れない。どうにも今の大統領は敬虔なクリスチャンとかで、米軍だって信用出来ない雰囲気だ。二千人が助けられないとなった瞬間。聖骸騎士団とか言う連中に消されかねない不安があった。

 

自衛隊と米軍が対立するように煽って、互いの連携にミゾを増やし、なんとか上手いこと俺の行動範囲を増やすしかないな。

 

そのために、俺はどうするべきか?

 

 

 

――そのためには、俺の可愛さが重要だ。

 

 

 

いや、冗談じゃないって。マジだ! ホントに。

 

こんな可愛い子が監禁されてるとか、秘密裏に消されそうになっているとか、そういう騒ぎを起こさないと、下手を打つと危ない。もみ消されかねない。

 

 

まぁ、ソコまでするかはアンジェラの救出次第と言える。

救出が上手く行ったら二千人の救助にメドが立つ。

俺を危険視する人間も、二千人の命が掛かってるとなれば手が出せなくなるに違いないのだ。

 

だから、次にするべきは決まっている。

 

「霊獣のテストをしに、アッチの世界に行こうと思います」

「了解しました。上に報告しておきます」

「お願いします」

 

俺はデモンズエデンで霊獣を扱えるようになっておきたい。

あれから、どんなに指輪に命じても、こっちでは霊獣は現れないのだから。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

マジかよ。

俺は困り果てていた。

 

デモンズエデンの世界に来た俺は、霊獣を呼び出せた。

 

巨大な黒豹。ベノムと言うらしい。

背に乗れば凄い勢いで駆け抜ける。どんな荒れ地も関係ナシだ。

その爽快な事ったら無い。

 

いっそ、思うさまマップの端まで駆けてみたいが、我慢する。

今の俺じゃ、ひとたびフィールドを闊歩する強力なユニークモンスターに見つかればひとたまりもないからだ。

 

だが、仮にそんなのに見つかっても、どうにかなりそうなスピードが出せている。

実際、ゲームでも逃げるだけなら問題ないとマキシミリアンのお墨付きだ。

 

じゃあ、これでアンジェラ救出に向かえるかって言うと……

 

「乗せてくれよー」

 

コッチの世界で、俺とアリスのアイテム欄は共通みたいだ。

やろうと思えば俺でもサムライの衣装は着れるし、刀も装備出来る。

 

もちろん、指輪も。いや、指輪に至っては外せない常時装備のイベントアイテム。

だから何故かアリスも俺の体も、両方が指輪をハメている不思議な状態になっている。

 

指輪が増殖しているのだ。

バグみたいな状況。

 

でも、都合がいい。

俺が、俺の姿で霊獣を呼べなかったら意味が半減。指輪が二つあるのはオイシイ。

 

早速、ベノムを呼び出して乗ろうとした時、問題が発生したのだ。

 

「グルルルルッ!」

 

乗せて、くれない!

それどころか、唸って威嚇してくる。

 

そういえば、呼び出した人間と相性の良い霊獣になるって設定だった。

 

つまり?

アリスの姿でないと、俺はベノムに乗れないのだ!

 

ま、マジかよ。

これじゃ、普段は俺の姿で、ピンチになったらアリスに入れ替わるって戦略が取れない。アリスの体も霊獣登録出来て呼び出せるみたいだが、アリスは俺の体を呼び出せない。ベノムに乗ってアリスの姿で冒険するなら強みが一つ消える事になる。

 

なにより、ガチで戦うのなら男の俺の方が強い自信がある。

力もあるし、体格から来る技術だって活かせる。

 

頭を抱える俺だったが、意外な解決策が提示された。

作戦室に戻った俺が、アリスの姿で愚痴っている時。

例によってマキシミリアンからだ。

 

「大丈夫! 指輪さえあれば、他の霊獣を仲間に出来る。それもフィールド上でね」

「そ、そうなん?」

 

フィールドで契約可能な霊獣。

ダンジョンでなければ、契約するのはアリスではなく、俺の体になるだろう。

身を乗り出す俺に、しかしいつも自信満々のマキシミリアンが渋い顔。

 

「だけど、ちょっとなぁ。レベル1だとリスクあるかもね」

 

珍しく心配している。

 

たしかに、Lv1なら行ける場所も限られるからな。

 

Lv1の貧弱さをカバーするために霊獣を捕まえたいのに、Lv1では危険な場所まで遠出が必要ってなら本末転倒。

 

しかし、マキシミリアンが指す先はかなり近い。ここならまだ序盤のフィールドじゃないか? 最初の大ボスが居る砦(ショッピングモール)より近いぐらい。プレイヤーが真っ先に訪れたって不思議じゃない場所。

 

どう言う事だと俺はマキシミリアンに訊ねた。

 

「砦で最初の大ボスを倒し、指輪を手に入れて。普通は次のエリアに行くところ、敢えてここまで戻ってくる目端の利いたプレイヤーへのご褒美みたいな霊獣なんだ。だから序盤ながら難易度も高い」

「そんなに強い敵が出るのかよ?」

 

なら、無理だ。Lv1で強い敵と戦うリスクを取りたくない。

 

そう言うと、マキシミリアンは首を振る。

 

「戦闘は無い。戦っても絶対に勝てない。ゴリ押しするならLv40とか中盤を過ぎたぐらいの力が要る」

「絶対無理じゃん」

「まぁ、待てよ。初期地点から近い場所のサーミット山、ソコが目的地だ」

 

マキシミリアンは地図を広げ、聖堂からのルートを指でなぞった。東に数キロ、本当に近いところにある山をコンコンと突く。

 

「目指すは凶鳥ドードーの巣。ドードーに見つからず、巣の卵を手に入れて霊獣として契約する。スニーキングミッションだ。どうだ? 目立たない隠密行動は得意かな?」

 

なるほどね、そう言うステージもあるのか。

……なるほど。

 

スニーキング。隠れて行動。

……大の苦手ね。

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