デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
サーミット山を守護するドードー。
ゲームの通り、夜中でも律儀に巡回して、侵入者を排除しようとする動き。
俺はてっきりNPCなのかと思っていた。
しかし、アイツは『肉入り』だった。
二千人の魂のひとつ。
ボスと言うより討伐不能ギミック。
そんなヤツが人間操作で襲ってくる。
その事実が重くのしかかる。
いっそ、諦めるか? 一歩足を踏み外すと、坂を滑り落ちて最初から。逆に言うと、いつでも簡単に離脱できる。それが、このフィールドの大きな利点なのだから。
「でもなぁ」
何度もこんなアスレチックに挑戦したくない。
この手のアスレチックステージは、レベルが上がったら簡単になるってモンでもないからな。Lv40を越えたらドードーも倒せると言うが、そこまで行ったらクリアも見えてくると言うから意味が無い。
「行くか」
結局、俺は先を目指す事にした。
どこでも離脱出来るなら、もう少し冒険してもバチは当たらない。そう思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ」
「頑張ったねぇ」
そりゃあな、ここまで馬鹿みたいなアスレチックを何度も越えてきた。
コレが最後の難関だ。
「つっても、ここは俺にとって楽勝よ」
洞窟だ。
コウモリがウジャウジャ沸いてくるクソみたいな洞窟。
コイツを抜けた先、サーミット山の頂上に霊獣が居る。
コウモリは一匹一匹は弱いが、数千の大群で襲ってくる。
生半可な装備じゃ回復が追いつかずあっさり死ぬ。
普通なら結構な難所。だが攻略法が解れば簡単だ。
コウモリは光に反応して襲ってくる。
つまり、松明やランタンを使わずに、真っ暗の中を進めば良いだけ。
気配察知のある俺なら楽勝ってワケだ。
「ナビナビは絶対に顔を出すなよ。ゲームじゃプレイヤーにしか見えないって設定だが、怪しいもんだ」
「わかったよ、つまんないけど我慢する」
つまんないけどって何よ? 楽しむな!
とにかく、真っ暗な洞窟に飛び込む。
湿っぽい。なにより臭い。マジで臭い。
これ絶対、体に悪いだろって臭いがする。
コウモリの住処なのだ。糞尿垂れ流し。
こんなトコ、さっさと抜けるに限る。目を瞑って気配察知に意識を裂く。
洞窟自体は単純な作りだ。真っ直ぐな一本道。
マントを深く被って足早に通り過ぎる。
距離にして300メートルも無いだろう。もうすぐ出口。
「ドーー!」
「なにっ!」
出口から現れたのはドードーのクチバシ。
狭い洞窟の幅一杯に拡げられたクチバシが、ガリガリと洞窟の壁面を削りながら近付いている。
「クソッ!」
気付かれた? こんな暗闇で?
俺はダッシュで来た道を戻る。暗い洞窟を懸命に駆ける。気配察知がなければすぐに転がって大怪我だったに違いない。
「どうなってんだよ!」
洞窟の裂け目に滑り込む。当然、そこは先客で一杯だ。臭いコウモリと同居する羽目になっちまった。
しかし、コウモリに文句は言えないだろう。俺のせいで巣をドードーに荒らされているのだから。
……いや、違う。
コウモリは必死に悲鳴をあげ逃げ惑っている。
洞窟の先からは、グチャグチャと咀嚼音。
「ドードーがコウモリを食っている?」
そんな事があり得るのか?
人間が入って居るのだろう? この臭いコウモリを食いたいと思うか?
何かがおかしい。
「おい、ナビナビ」
「なにー?」
ポーチの中から声がする。
「この世界で空腹ってあるのか? その辺の虫けらでも食いたくなるとか」
「そんなシステムはないねー」
呑気な声だ。
「キミだってお腹なんて減らないでしょ?」
「……そうだ。だからおかしい」
ハラが減るのは俺の実体の体だ。
入院している俺の実体は、病院の点滴で生きている。
「聞いてみるか?」
「え? どゆこと?」
ナビナビの声を無視して、俺は洞窟の中を貪るクチバシに問う。
「おーい、聞こえるかぁ!」
「ドー?」
鳴き声。人の声では無い。
ダメか? ダメなのか?
それでも、呼びかける。
「俺の名前は、柏木ヨウ! お前の名前を教えてくれぇ!」
大声で叫ぶ。
ヘタをしないでも自殺行為。ドードーだけでなく、コウモリが襲ってくる可能性もある。
それでも、相手の事が知りたい。知らなくてはならない。
果たして、返事はあった。
「ドー?」
やはり、鳴き声。ダメなのか……
しかし、ソレだけに留まらなかった。
ドードーの動きに困惑が見える。
「あ、あ、あ……」
洞窟に突っ込んだ頭がガクガクと揺れ、目は落ち着きがなくギョロギョロと彷徨う。
「わ、たしの名前はアリシア・ウォーレン」
返事があった。やはり『肉入り』。
「頼む! 霊獣を! 貸してくれ!」
「ドー! れい、じゅう?」
俺は必死に願う。
何故って、サーミット山の霊獣は、コイツの子供なのだから。
頂上のドードーの巣にある、コイツの卵。
そこまで辿り着いた時、卵が割れて、初めて見たプレイヤーを親だと思い込む。
それが、霊獣を登録する手順であるのだ。
戦わずに済むならそれが最善。だから俺は願ってしまう。
「お前の、タマゴを、貸してくれ!」
全身全霊の叫び。
ドードーの反応は劇的だった。
「だ、ダメ! あの子は、私の」
「な、なに?」
お前の子供のワケがあるか!
ゲームの中の卵のアイテムだろうが。
しかし、ドードーは洞窟から首を抜き、バサバサと飛んで行く。
俺はソレを走って追いかけた。
洞窟を抜け、山頂に到達。
すり鉢状の火口の中がドードーの巣。
山頂から見下ろす先、ドードーは居た。
すぅすぅと寝息を立てている。
コウモリを食べるだけ食べて、お腹がいっぱいだから寝ましたと、そんな感じ。
おかしいだろ!
会話して、発作的に逃げたと思ったら、全部忘れて悠々と寝ている。
人間味がまるで無い。野生の獣のようだ。
なお悪いのが、ドードーが居座る巣の中心。
そこに霊獣の卵があるのだ。これでは霊獣を取得出来ない。
「まさか……暖めている?」
いやいやいや、そうやって孵るもんじゃないだろう?
ゲームという認識がない? ドリームフレームにプリインストールされているとは言え、デモンズエデンを知らない被害者だっているだろう。それにしたって、とつぜん鳥のバケモノにさせられて、さぁ卵を暖めよう! とはならないだろう?
人間が入って居るのか? 居ないのか?
ソレすら解らない不気味さ。
もう、時間は0時を過ぎる頃合いだ。
俺は深夜のサーミット山、山頂で立ち尽くしていた。