デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
これは、後で知った事になるのだが……
アリシア・ウォーレンさんはアメリカ南西部に住む主婦だった。
長年不妊治療に勤しみ、やっと授かった子を流産。ショックで塞ぎ込むアリシアに、夫が買い与えたのがドリームフレームだった。
アリシアさんは、ファンだったダークスフィアのライブを見ようとして事件に巻き込まれてしまう。
つまり、ゲームなんて全くの門外漢。そんな彼女がデモンズエデンの世界に囚われた。お母さんになりたかった彼女は母として子供を守るドードーの体に囚われてしまう。
きっと、彼女は夢心地だったのだろう。
夢と現実の境界がわからず、鳥になりきってしまった。念願の我が子を守る事だけが生き甲斐になったに違いない。
この時の俺は、そんな事は全く知らなかった。
だから、とんでもない事を言ったモノだ。
「どうにか邪魔なドードーを退けて、霊獣を盗まないとな」
「無理でしょ、絶対」
「わからんぞ、俺には策がある」
「へぇ、どんな?」
楽しそうに聞いてくるナビナビに、俺は使命を与えることにした。
「いや、ソレ、ほぼボク頼みじゃん!」
「退屈だって言うから、人生に刺激を与えてあげようかなって」
「死にそうな刺激は要らないよー」
黙らっしゃい!
『退屈』とか言った罪は重い。俺はそう言うの根に持つタイプ。オタク共三人は絶対に許さない。
と言うワケで、俺は山頂で待機。岩陰でグッスリ寝かせて貰った。
ゲームの世界で寝る意味あるのかな? いや、気疲れってのは確実にあるからな。脳の疲労がどう処理されるかも謎。
何日も寝ないで活動したら、俺の実体の方にどんな悪影響があるか解らない。
とりあえず、寝ておくべきだろう。
で、だ。
「朝か……」
夜明けだ。
山頂から見る日の出は本当に綺麗だなぁ。
と、のんびりした所で……さて、どう動く?
見下ろした火口。ドードーが大きく羽ばたいて飛んで行く所だった。
思った通り、朝飯を食いに出かけるようだ。
コイツは、本当にこの世界の生き物みたいにライフサイクルを生きている。
これで肉入りってんだから信じられない。
「考えても仕方ないか」
NPCと人間の中間みたいなモンだろうとドライに割り切る事にした。
「行くか!」
ドードーを見送って、俺は火口を降りていく。目当ての卵は……あった!
ドラゴンみたいなサイズの凶鳥ドードー。卵だってデカい。
俺の体よりずっとだ。
「ヤベェなオイ」
俺は卵をダガーで突っつく。
ゲームでは、攻撃すると殻が割れて、出て来た霊獣がプレイヤーを親と思い込む。
そんな『イベント』なのだ。
いや、しかし。思ったよりも殻が割れない。
急がなきゃドードーが戻ってくる。割った後も心を通わせる時間が要るのだ。イベントを済ませる時間を少しでも稼ぎたい。
「始まったか」
空には大量のコウモリが舞っていた。
俺がナビナビに命じたのはコウモリの誘導。
ポーチに入れたナビナビを洞窟に放置。朝になってドードーがやって来たら、ピカピカ光ってコウモリを引き連れて、逃げろと頼んだ。
ドードーが洞窟に頭を突っ込んで来たら逆側に逃げる。
思うようにコウモリを食べられないドードーは怒り狂って、中々帰って来れない。
作戦は上手く行ったようだ。
しかし、既に最終局面。
追い立てられて、コウモリを引き連れて洞窟を出るしかなくなったのだ。
「急がねぇと!」
焦る! 焦る!
ゲームなら、なんも考えずに卵を斬りつければOKだった。
だが、現実化したこの世界ではそうもいかない。『中身』が死んだら台無しだ。慎重に殻を割らねばならんだろう。
ダガーの先端でガンガンと突っついて。ようやく割れた。
あとは力尽くで殻を引っ剥がす! すると……
「ピュイ!」
孵化した!
出て来た雛は子供ながら、ダチョウみたいな大きさ。
「おい、やめろって」
ペロペロと顔を舐めてくる。
可愛いなオイ。
指輪が光る。しっかりと霊獣として登録された。
後は乗るだけ。
「ととっ」
背中に飛び乗る。
ダチョウみたいな鳥に乗った姿は有名RPGみたいだな。
火口の中を軽く走らせる。
「ほほっ! 早い!」
黒豹のベノムと変わらない。いや、むしろもっと早いかも?
と、ご機嫌だったのはココまでだった。
「ヤベッ!」
ドードーが帰って来る。
すると、同時。
「もー無理! 全部散らされちゃったよ!」
ナビナビが俺の懐に潜り込んだ。
「わーたーしーの子供よー!」
低い声でドードーが突っ込んで来る。
メガロドンよりも更にデカい。家が落っこちて来るようなモノ。こんなのを食らったらひとたまりもない。
俺は、霊獣の首を叩く。
「いくぞ! ピラーク!」
「ピュイ!」
デフォルト名のピラークを呼んでやると、元気に応えてくれた。
全開のスピード。強烈なGに顔が引き攣る。
ドシンと地響き。ドードーの攻撃を躱し、砂煙が舞う中をピラークが駆け抜ける。
「いくぞ!」
火口を抜け、俺達は急な斜面に身を乗り出した。
本来は、転がり落ちるだけの斜面。それでもピラークはバランスを失わない。
「ピュイ! ピュイ!」
ピラークはこういった斜面に強い霊獣なのだ。コイツじゃなければ行けない場所も少なくないとか。
「待って! いかないで! 私の子! ヘンリー!」
ヘンリー?
知らない名前だった。
この霊獣の名前でも、NPCの名前でもない。
後で解った事だが、アリシアが自分の子供につけようと思っていた名前らしい。
そんな事は露知らず、俺は暴言を吐いていた。
「ヘンリーなんて名前じゃねーよ! この子は俺の! ピラークちゃんなの!」
「うわぁ」
うわぁって何だよ! ナビナビさん? 聞こえてますよ?
ゴロゴロと岩が転がり、木の根が張り出す斜面をテンポ良く駆けていく。
凄いスピードだ。しかし、相手は飛んでいるのだ。
「ヤベッ」
ドードーのクチバシが俺のマントを掠っていく。少しでもスピードを緩めたらコレだ。
思った以上にヤバい。
ゲームでも、ピラークを手に入れた後はこんな感じの脱出ゲームが始まるのだが、スリルが段違いだ。マジで死ぬ!
殆ど落ちるように駆け下りていく。
「オラァ!」
最後、張り出した崖から飛び降りる。ゲームで見た最速コース。
「嘘だろ!」
俺は空中で悲鳴をあげる。
ゲームなら大した事がない段差に思えた。しかし現実化した世界では学校の屋上から飛び降りたような高さがあった。
段差ってのは動画で見るのと体感するのでは段違い。
「ヒッ!」
内臓がヒリつく。金玉ひゅんとなる。
死! 死ぬ?
「ピュイ!」
だが、ピラークはあっさりと地面に着地した。
思ったよりも軽い衝撃。マジで凄いなこの霊獣。
「やったな」
「ヒヤヒヤしたねぇ」
ナビナビと健闘を称え合う。
その時、だ。
「返せ! ヘンリーを! リチャードを!」
ドードーが、追って来た。
ちょっと待て!
「走れ!」
俺はピラークを叩く。
何とか走ってくれるが、生まれたばかりの体はお疲れだった。
マズい、マズいぞ?
「オイ! ナビナビ! コイツ、ドコまで追ってくるんだ!」
「そんなの、知らないよ!」
ゲームではドードーはサーミット山の外までは追って来ない。
そう言う『設定』のキャラなのだ。
だから、霊獣を盗み出した後は、坂を駆け下りて終了。
ソレが、NPCと人間が融合し、ルールがねじ曲がっている。
「ドコまでも追ってくるならヤベぇぞ!」
コッチにはスタミナってモンが有る。
と、言うか単純なスピードなら飛べるドードーが圧倒的に有利だ。
「鐘楼まで逃げようよ!」
「無理!」
遠すぎる! この辺に鐘楼が無い。
それに鐘楼に立て籠もっても、逃げられなくなってそのまま詰む可能性が高い。
どうする? どうすれば?
焦る俺は、集中力に欠けていた。
ピラークがちょっとした小石に躓いてバランスを崩した時。俺はしがみつく手に力が無く、そのまま空中に投げ出されてしまう。
「あっ!」
死ぬ。
走馬灯ってあるんだな。
宙を舞う俺の目の前に、大口を開いたドードーの陰が迫る。
そのままパクッと食われて死ぬ。
ギュッと目を瞑り、覚悟した時だった。
「えっ?」
消えた。
ドードーが目の前でパッと消えたのだ。まるで夢のよう。
「痛ぇ」
俺は地面に投げ出される。
痛いってコトは、生きている。
ほっと一息。
「ど、どう言う事だ?」
「さぁ? ボクにもさっぱり」
俺はナビナビと首を傾げるハメになる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ソレは、生存範囲の外に出たんだね」
元の世界に戻った俺に、イリーガルソフトの矢吹氏が解説してくれた。
「NPCが、ナニカの拍子に変な所に迷い込んだり、遠くに行ってしまった時に、デフォルトの場所に戻るシステムがあるんだよ」
見せてくれた動画は、ヒロインのティアを風魔法『吹き飛ばし』で延々と運んでいく内容だった。
「マキシミリアン氏の動画だよ。威力のない『吹き飛ばし』でヒロインをドコまで運べるかってね」
意味不明な遊びだ。
もう散々クリアして飽きたゲームを何とかしゃぶろうって時に、こう言う下らない遊びをするモノだ。ソレだって中学にもなれば時間が勿体無くて中々出来ない。
あのおっさんは本当に酷い大人だ。
「でね、ティアを運んでいくんだけど、次のエリアまで運ぼうとすると……」
「消えた……」
動画の中で、ティアは橋の途中、川を越えたあたりで忽然と消えてしまった。
「持ち場に戻ったんだよ。無理矢理移動させようったって無駄ってね」
なるほど、変な所にヒロインが移動したら処理が面倒だしな。
実はティアの父親って設定のNPCの目の前まで、無理矢理ティアを吹っ飛ばしていったらとんだ茶番になってしまう。
「この場合、ドードーの許可範囲が、ちょうどドードーが消えた場所だったんだ。現実化した世界でもこのルールは生きているって事だね」
……なるほど、コレは朗報だ。
俺はプレイヤーだから、当然どこにでも行ける。
一方で、フィールドボスだからと言って、終盤のボスが序盤のフィールドまで乗り込んでくるって心配は無いだろうって事。コレはずっと気がかりだったのだ。
今回戦う事になる近衛騎士だって、ある程度距離が離せれば無視だって出来る。
しかし、気に掛かる。
消えて、デフォルトの位置に一瞬で戻るって?
それって、市外に出ようとする俺(アリス)が消えて、デモンズエデンの世界に強制的に戻るのと、同じじゃないか?
俺の領域が市内に固定されている。そう言う事か?
何だかモヤモヤした気持ちだ。
掴めそうで掴めない。
「一旦、忘れよう」
とにかく、足は用意した。
アンジェラ救出作戦は佳境を迎える。