デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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アンジェラ救出作戦4

「あいにく、自殺する趣味は無くてな」

 

俺はロングソードを構える。

戦いが始まった。

 

「テメェみたいな貧相なガキに負けるわけねぇだろ」

 

相対する近衛騎士は長大なランスを構える。

だが、得意の突撃をしてこない。

 

当然だ。マキシミリアンが発見した攻略パターンは有名だ。ランス突撃を弾いて落馬を狙う黄金パターン。人間が中に入っているならば警戒しないハズがない。

 

じりじりと距離を詰めてくる。

 

動きが固い。緊張を感じる。

荒事に慣れた男ってワケじゃなさそうだ。これは朗報。こんな狂った世界では軍人や格闘家なんかより、喧嘩慣れしたチンピラの方がずっと怖い。

 

恐れていたのはソコだった。

 

相手が暴力に慣れた人間なら戦いは厳しくなる。

二万ドルのドリームフレームを買えるようなヤツだ、大半はナードか新し物好きの金持ちと思うが、基本無料の麻薬に飛びついたチンピラが居ないとも限らない。

 

第一関門はクリア。

 

さて、次は? まずは『見』にまわる。

 

すると、動かない俺に近衛騎士は焦れてきた。

安い挑発をしてくる。

 

「ンだよ、デカい口叩いて攻めて来ないのか?」

 

やはり、慣れた感じはしない。俺は鼻で笑った。

 

「先手を譲ってやろうと思ってな」

「良く言うぜ、坊やがよぉ」

 

挑発し返しても、乗ってこない。ソコまで馬鹿じゃないようだ。

 

いや……相手の動きに余裕が増えた。俺の作戦が弾きだと信じたか。

じりじりと詰めていた足が速まる。

 

既に相手のランスの制空権。俺のロングソードでは届かない間合い。

 

ソコで、動いてきた。

 

「弾くつもりだろうが、残念だったな!」

 

それは、下からの掬い上げ。防御崩し攻撃。弾けない攻撃だ。

 

俺が握るロングソードを狙ってきた。

ガードをしても崩される。回避を強制する一撃。

ソレを、俺はガードした。

 

――キンッ

 

乾いた音を立て、俺のロングソードが舞い上がる。

 

「あっ? ああっ!」

 

武器を弾かれ、無防備になった俺はたたらを踏む。

衝撃によろめいて、後ずさる。

 

すると、もともと高台で戦って居たのがマズかった。

バランスを崩し、俺は足を踏み外してしまう。

 

「うわぁ!」

 

俺は崖から落下した。

 

「はっ、どんな間抜けだ」

 

頭上から、あざ笑う声が聞こえた。

 

だが、計画通り。

俺はコレを待っていた。

 

無様に落下したかに思わせて、俺はピラークを制御し、崖を駆け下りる。とりたてて苦労もせず、俺は崖下に着地した。

 

近衛騎士は俺が落下ダメージを受けたと思い込んでいる。

 

チャンスだ。

 

俺はピラークを走らせる。

この隙に、一気に朽ちた教会に侵入する!

 

ゲームでは、崖から落ちれば大ダメージだ。だが、現実化したこの世界。このピラークなら問題ない。

 

大体にして、おかしいのだ。

 

サーミット山の斜面の方がずっと急峻だ。なのに、あの坂は少々のダメージで駆け下りる事が可能で、この小高い丘の小さな崖で大ダメージを負う。

 

そんなのはゲーム的な都合に過ぎない。

 

矢吹さんが言っていた。

落下ダメージを意識させるために序盤のマップはちょっとした崖でも落下ダメージが入るように設計されているのだと。

 

だが、現実化したこの世界にそんな調整はない。

 

相手のガード崩しもだ。

ゲームなら、剣を弾かれれば、しばらく動けなくなる。

いくらピラークに乗っていても、動けないまま崖から落ちれば大怪我だった。

 

まして、現実の戦いであっても、強く握った剣を弾かれれば手は痺れ、体は泳ぐ。

 

だが、俺はロングソードを軽く握っていた。

だから派手に武器が吹っ飛んで、相手は気を良くしただろう。

 

しかし、俺の手には大した衝撃もない。体勢が崩れたフリをしただけだ。こんな事はゲームでは出来ない。

 

ゲームのルールと、この世界のルールは違う。

俺は、……いや『俺達』は。

ここ数日、みっちりと検証し、戦略を立てて来た。

 

現実に戻れる俺には知識とアイデアで圧倒的なアドバンテージがある。

相手がステータスに勝るボスであっても、裏をかける。

 

奴め、俺が崖に落ちたと思い込み余裕綽々、崖下を覗き込んでやがる。

 

「なにぃ?」

 

だが、ソコに俺は居ない。

とっくに朽ちた教会へ走り込んでいる。

 

ようやく気が付いた。

さぁ、どう出る?

 

「オラ、来いよ!」

 

俺はピラーク上から振り向いて近衛騎士を挑発。

中指をおっ立てた。

 

「テメェ!!」

 

崖上の近衛騎士は激怒。

……さて、どうなる?

 

ここまでは計画通り。

だが、これではただ逃げているだけだ。

 

俺は近衛騎士を倒したい。

あんなのがうろついていれば、おちおちフィールドを歩けないからだ。

 

ここで『プランA』にハマってくれれば一気にカタが付く。

……どうだ?

 

相手をジッと観察する。

俺を追って、崖から飛び降りやしないか?

 

降りろ! 落ちろ! 来いッ!

 

「来ないか……」

 

ピラークを走らせながら、俺はポツリと呟く。

失敗だ。

 

近衛騎士は怒りながらも馬首を巡らせ、丘を慎重に降りてくる。

 

これで、崖を飛び降りて来れば決着は早かった。

 

ゲームでは敵は高所から飛び降りない。そうプログラムされている。

だが、この世界ではどうだ? 元気に飛び降りた俺を見て、釣られて飛び降りてしまうんじゃないか? ソレを期待していた。

 

ラーメン屋ダンジョンの際、アリスの体で実感したが、体重が軽ければ落下時の衝撃は少なくなる。

 

あの重鎧を纏う近衛騎士なら、きっと体勢を崩し大きなダメージを負う。

そう言う検証もみっちりやった。

 

上手く転がってくれればレベル差なんて関係無い。一気にぶっ殺せる。

この茶番はソレを狙った一手であった。。

 

しかし、空振り。

そこまで上手くは行かないようだ。

 

「しかし、時間は稼げた!」

 

ここからはプランB。

俺は崩れた壁の隙間から、朽ちた教会へ侵入する。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「消えた……か」

 

朽ちた教会に入った途端、霊獣ピラークはかき消える。

 

建物の中、もしくはダンジョンでは霊獣に乗ることが出来ない。

このルールはこの世界でも適用されている。

 

何となくだが、魔法的な存在はゲームのルールが有効なのだろう。

 

と、そんな事を考えている時だった。

 

「wh...誰っ!? あなた!」

 

可愛らしい声を張り上げる、このゲームのヒロイン、ティア。

いや、アンジェラだ。

俺はマントを脱ぎ捨て、ご挨拶。

 

「よぉ、向かえに来たぜ」

「だから誰?」

 

誰って……

まぁ、そうだよな。

 

ラーメン屋ダンジョンで会った時はアリスの姿。

今の俺は冴えない高校生。

 

まるで別人だ。気が付くハズが無い。

 

一方で、ティアはウェーブがかった金髪の美少女。

写真で見たアンジェラの姿にどこか似ている。

 

「どうやって入って来たの? アイツの仲間?」

「違う」

 

どうやら近衛騎士の仲間だと思われている。

俺は胸元をゴソゴソ漁り、手紙と写真を探す。

 

しかし、ソレに対するアンジェラの行動は苛烈だった。

 

「止めなさい!」

 

喉元に突き付けられたのは、レイピア。

冴え冴えとした輝きは切れ味の鋭さを思わせる。

 

銃でも取り出すと思われた可能性がある。

そう言えば相手はアメリカ人。日本の感覚で油断し過ぎた。

俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「おいおい、よせよ」

 

言いながら、俺は冷や汗をかいていた。

冗談じゃ無い。

 

なんだよ、今の剣捌きは。

抜いたのが、まるで見えなかった。

あまりにも素早い。

 

ティアは強い。それは知っている。

 

ティアは基本的に、主人公の手助けをするだけで戦わない。

アメリカじゃ、レベルアップガールと言われるぐらいだ。

だが、終盤のボスである彼女の父親と戦う時には、仲間として駆けつけてくる。その時プレイヤーは「アレ? ティアって戦えるんだ!」と驚く事になるワケだ。

 

その設定はこの世界でも生きているようだ。

終盤のボスとそこそこ戦える実力がある。

 

ならば気になる事がある。

 

「そんだけ強けりゃ、近衛騎士(あのくそやろう)をぶっ殺して逃げ出す事も出来るんじゃないか?」

 

こんな所に閉じ込められている理由がない。

それに対して、ヤレヤレとアンジェラは首を振る。

 

「だって、殺し合いよ? 無理だわ」

 

アンジェラは悔しそうに唇を噛む。

まぁ、そうか。

ゲームの世界だから殺し合いをしてくれって言われても、そうそう割り切れるモノじゃない。

 

まして、近衛騎士が相手となれば、ティアがゲーム通りの実力があっても勝てるかどうかは微妙なところだ。

 

「でも、逃げるぐらいなら出来たハズだ」

「それは……」

 

アンジェラは言い淀む。

 

「そもそも、どこに逃げればいいのよ」

「どこでも良いだろ? 見ず知らずのヤツに閉じ込められるぐらいなら」

「ソレで逃げた先がココなのよ!」

 

……そうか。

その可能性を考えていなかった。

 

『攫われた』と言っていたが、違ったのだ。

追いかけ回されて、朽ちた教会に逃げ込んだ。

馬に乗ったアイツは教会の中までは追って来れない。

 

俺が間違っていたようだ。ソコまで考えていなかった。

 

「悪かった。とにかくコイツを引っ込めてくれ」

「良いけど……」

 

アンジェラはレイピアを引っ込める。

 

「アイツ、私の事を殺す気だったわ。殺し合いなんて、したくないのに!」

 

近衛騎士にしてみれば、ティアを殺せばプレイヤーはレベルアップ出来ず、この世界は破綻する。

殺そうとするのも無理はない。

 

「一日中、本当に一日中よ? 夜も昼もずっと、この教会から離れないんだもん……頭がおかしいのよ」

 

そうか、この世界では腹も減らない。

 

アイツは延々と朽ちた教会の周りを巡回する。昼も夜もなく。

 

 

それで、プレイヤーがティアと会うのを妨害しようとしていた。もしくはティアがこの教会を出たら殺そうとしていたのだろう。

 

 

だから、ティアはずっとココに引き籠もらざるを得なかった。

 

しかし、ティア、もといアンジェラはココで退屈していないのだろうか?

 

「ここにはコレもあるから、何も無いログハウスよりずっとマシだもの」

 

そう言って、撫でたのは壁に立てかけられた巨大な弦楽器だった。

 

あまりにデカくてギョッとする。ティアの身長よりデカい。

 

……似ているのはコントラバス。

吹奏楽部が使ってるクソデカバイオリンだ。

 

そう言えば、朽ちた教会にはこんな楽器があった。ゲームでも予習していた。

 

なるほど、ここには暇つぶしがあったと言う事か。

 

そう考えると、俺と一緒だ。

軟禁されて、ギターを練習している。

 

インターネットの遮断された世界、楽器は救いだ。

 

……しかし、この楽器、ゲームとは少し見た目が違う気がする。

なんだろう? もっと、らしい。

 

ゲームだと、素人目でもこんな構造で音が出るのかと首を捻る感じだったのだが、ちゃんとした楽器としての機能美を備えている。そんな気がするのだ。

 

「私、コントラバスはちょっとしたモノなのよ。音大を薦められるぐらいにね」

 

そう言いながら、慣れた様子で弦を弾く。手で弾くのは弓がないから苦肉の策だろうか?

 

確かゲームでは、朽ちた協会には旅の商人がいて、思わせぶりな事を言いながらコレを奏でていた。

弓を使っていたかな? 思い出せない。それに、商人はどこに消えたのだろう?

 

アンジェラはコレを弾けるのか。

音楽はてんで知らないグレッグさんとは違うな。さすが良いところのお嬢様ってトコロだろうか?

 

と、思い出した。

俺は懐から、グレッグさんからの手紙を取り出す。

 

「俺はプレイヤーだ。信じてくれ。あんたの親父、グレッグさんから手紙を預かって来た」

「え?」

 

アンジェラはポカンとしている。

まぁ、そうなるよな。

 

この世界に囚われた人々は、醒めない夢に囚われたと思っている。ゲームのような夢の世界だと。

 

実際、俺も最初はそうだった。

NPCの爺を殺すまではワクワクしていたのを覚えている。

 

なのに、親から手紙を預かってると言われれば無理もない。

 

「嘘でしょ?」

「ホントだ、アンジェラ。キミの写真もある」

 

俺はアンジェラの写真を突き付けた。

こうしてみると、やはりちょっとティアと似ているな。かなりの美少女だ。

 

しかし、当のアンジェラは極めてビミョーな顔をした。

 

「何コレ、嘘くさ!」

 

彼女はビリビリと写真を破り捨ててしまう。

 

「えぇ~」

 

グレッグさん、娘は解ってくれるハズって言ってたじゃないですかぁ!

 

「パパは仕事で忙しくて、全然思い出なんて無いモン。私の秘密ってのもいかにも興信所で調べましたって感じの交友関係」

「…………」

 

いやー、そんな気はしてた。

グレッグさん仕事一筋っぽいもんな。しかも母親はとうの昔に離婚して、彼女は殆どお手伝いさんに任せて放任されていたらしい。

 

 

だから、手紙に書かれていたのはマジで警察なりが聞き込んで調べたパーソナルデータなんじゃなかろうか?

 

嘘くさくなるのも無理はない。

 

 

「なにより、この写真! なんか映りが悪くない? AIで作ったみたい」

「ぐぅ……」

 

確かに、この世界に持ち込むときに、微妙にディティールが失われてしまう。

 

しかも、モノが自分の写真だ。違和感には敏感になるだろう。

 

 

『コレじゃない感』マシマシなのだ。

 

 

二の句が継げないでいると、アンジェラはポンと手を叩く。

 

「わかった! アンタ擬態の怨霊でしょ? 私を騙してここから連れ出して殺そうってんだわ」

「えぇ~!」

 

そんなのもあるのか。

なんか、その辺のオブジェに擬態する敵が居るらしい。

俺がソレだと思われている。

 

マズい。彼女の協力がないと俺はレベルアップ出来ないんだぞ。

焦る俺に、アンジェラは容赦がない。

 

「なにより、手紙ではアナタがプレイヤーだから協力しろって書いてあるけど、私知ってるのよ。プレイヤーは女の子。会ったことあるんだから」

 

そうなるよな。

 

「いや、誤解だ。俺は本当にプレイヤーなんだって。頼むから俺をレベルアップ可能にしてくれよ。それで証明出来るだろ?」

 

俺は必死に懇願する。

レベルアップ出来るのはプレイヤーだけだ。ソレで解って貰えるハズ。

 

……だが。

 

「嫌よ! そんなの! 気持ち悪い!」

 

……ですよね。

実は、その、

 

ヒロインがプレイヤーに与える祝福。レベルアップを可能にする奇蹟ってヤツはキスなのだ。

キスして発動。

 

困ったね。

これ、もう無理矢理やっちゃうしかないだろう。

 

「いや、頼む。一回で良いんだって! 自分の体じゃないんだしさぁ、良いだろ? 先っぽだけ」

 

ちょっと唇で触れるだけなんだから。

俺は、アンジェラの肩を掴み、迫った。

……だが。

 

「絶対、嫌! その汚い顔を近づけないで!」

 

プッチーン!

いや、確かに俺はイケメンじゃないよ?

 

だが、ソコまで言われる程じゃ無いハズだ。

アジア人差別に大反対!

 

おまえ貴族のお姫様気取りかよ。

あ、上流階級の白人お嬢様ですってかぁ? お高くとまりやがって!

 

 

「言ったな? 汚い顔じゃ無ければ良いんだな?」

「は、どう言う意味?」

 

間抜け面を晒しやがって。

今にみてろ!

 

「霊獣召喚! アリス!」

 

俺は指輪を付けた左手を掲げ、叫ぶ。

すると、強烈な光とともに、召喚獣が現れる。

 

「キャッ、な、なに?」

 

建物の中は霊獣は呼び出せない?

そんなルールはコイツに効かない!

 

現れたのは、金髪和装に長耳エルフのサムライガール。超・絶・美少女。

中身は、俺!

 

意識をなくした柏木ヨウの体をうっちゃって、俺はアンジェラに迫る。

 

「ほらどうだ! この顔なら文句ないだろ?」

「え、あなた! ……んんっ!」

 

言わせねぇよ!

俺はアンジェラにキスをして、口内に舌をねじ込んだ。

 

……ほら、あの

 

つい、勢いで。

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