デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
見てるかよ、司令部の間抜けども!
今からコイツをぶっ殺してやる!
俺は日本刀を構える。
ステータスの差は歴然、身長差による質量もリーチも相手が有利。
だが、左腕の自由を奪った。
近衛騎士は左腕をだらんと下げている。
コレなら勝機がある。
「テメェ!」
近衛騎士は右手一本で両手剣を振り回す。
とんでもない腕力だ。
だが、あまりに大振り。
バックステップで躱す。強烈な風圧に煽られて長い髪がバサバサとたなびくに任せ、振り抜いた後の隙、懐に潜り込む。
自分でも、驚くぐらいにスムースな動き。
なびく髪の毛が、まるで一匹の狐のようにヌルリと動くのがわかる。
狙うは脇の下。
剣を振るうなら、一番効いてくる部位だ。
ソコを、刺す。
鎧の隙間を穿ち、狙う!
「クソがぁ!」
刺さった。
しかし、浅い。
「ぐっ!」
反撃に蹴られた。
金ピカのグリーブで覆われた巨大な足は殆ど凶器だ。
肋骨が二、三本折られた。痛み分け?
とんでもない。
コチラの方が遥かにダメージが大きい。
だがな……
「ははっ、楽しくなって来たじゃねぇか。なぁ! 近衛騎士サマよぉ!」
無理して笑う。口から血を滴らせながら。
余裕を、見せつけろ!
すると、近衛騎士は目に見えて『ビビった』。
「何モンだてめぇ!」
「言ってるだろ? 俺が『プレイヤー』だ」
プレイヤーは二人居る。
そして、二人とも、俺だ。
「ワケがわからねぇ」
だろうな、だが、どっちでも良いだろ?
お前はココで殺す!
「解んねぇまま、死んでろ!」
刀を構え、堂々と笑う。
すると、どうだ。
「やってられるか馬鹿が」
そう言って、近衛騎士は再び馬に跨がった。
あっと言う間、流れる様な仕草だった。
……そうだ、コイツはここ一ヶ月、ずっと、休み無く馬に乗って過ごしていたのだ。
扱いに慣れていて、当然。
ソレを忘れていた。
……マズい。
剣を振れないように、腕や脇を狙ったのが却って良くなかった。
今の俺に一番マズいのは質量攻撃だ。
近衛騎士は手綱を引いて、馬を棹立ちにさせる。
――ヒヒーン!
巨大馬が大きく嘶くと、ビリビリと空気が震える程だった。
「このまま轢き殺してやる」
まずい、俺も黒豹ベノムを召喚するか?
いや、間に合わない。
召喚して跨がるまで、たっぷり5秒はかかる。
振り下ろされる巨大馬の前脚を躱す。蹴られそうにな間合いから、走って逃げる。
だが……
「おらぁ!」
ソコに、再びのランス突撃。
腕の使い方は不格好になっているが、質量による突撃に技など要らない。
「ぐあっ!」
ランスは躱した。だが、馬の前脚に蹴り跳ばされた。
現実なら、即死だった。それだけの衝撃。
だが、この悪魔の体はなんとか耐えてくれた。
それでも体は吹っ飛ばされて、ゴロゴロと転がる。
最後には、そびえる崖にぶつかってようやく止まった。
皮肉なもんだ。
俺はこの崖をピラークで駆け上がり、逃げようと思ったのに、ようやく辿り着いた時にはピラークは死んでいて、俺も死にかけだ。
そんな俺に、近衛騎士は油断せず、馬上から誰何する。
「女ぁ! テメェ何モンだ!」
何者って、プレイヤーって言ってるだろうが。
だが、信じて居ない。
同じ人間が二つの体を操るなど、ゲームのような世界でも信じられないと言った所か。
一方、俺は死にかけ。
内臓がグチャグチャだ。
目眩と発熱、発汗。平衡感覚の欠如。吐き気、痺れ、なんでもござれの状態異常のオンパレードだ。
現実ってのはこうだよな。
不調ってのはまとめて襲ってくる。
だが、俺はそれらを全て、噛み潰す。
歯を食いしばり、血を吹き出すに構わず、睨み返す。
聖杯は飲み干したが、回復まではしばらく掛かる。
時間を稼ぐ。
「……お前」
そんな俺を見て、近衛騎士は二の句が継げない様子であった。
哀れに思ったか?
殺意が鈍った。
「良く見ると、エライいい女じゃねぇか」
ハッこいつめ、見とれてやがる。
殺すのが惜しくなったか?
だが、そうだよな。ソレが普通だ。
俺は、『絶世の美少女』なんだから。
俺はヨロヨロと立ち上がると、袴の裾をスカートみたいに摘まんでご挨拶。
「可愛がってくださいますか?」
「あ、ああ……」
鼻の下を伸ばして近付いて来やがる。
崖下の俺の元まで。
「たっぷり可愛がってやるよ」
馬上から見下ろして、そんな事をいいやがる。
なるほど馬鹿だ。
俺はニッコリ笑ってやった。
「あら? でも浮気は駄目ですよ?」
その言葉に、近衛騎士は当惑する。
「は? 浮気? 俺には嫁なんて居ないぜ?」
なんて事を言い出す始末。
へー、とぼけてくれるじゃねーか。
俺は、お上品に、なるべく可愛らしく、釘を刺す。
「あら? とぼけますわね。ここ一ヶ月、一人の女性のおケツを追っかけていらっしゃったじゃないですか? プレイボーイも程ほどにしないと、いつか刺されますわよ?」
「ハ? いや……」
なるほどね、自覚ナシか。
じゃあ、刺されるわ。
『今』な。
「やぁぁぁ!」
ソレは崖の上から。
飛び降りてきたのは、このゲームのヒロイン、ティア。
いや、アンジェラだった。
レイピアを構え、崖の上から飛び降りた。
デモンズエデンは、ゲームの時から物理演算でダメージを処理していた。
現実化した今では、もっと物理法則に殉じている。
巨大な質量をパリィ出来ない程度に、物理法則が正義だ。
そんな中で、体重が乗った刺突剣を構え、飛び降りたらどうなる?
それも、俺よりずっとステータスの高い。このゲームのヒロインが、だ。
俺は崖際まで逃げる。上手くいけばピラークで駆け上がり逃げる。
上手くいかなければ、崖上からアンジェラが突撃する。
初めから、そう言う作戦だった。
だって、相手は背が高く、馬上に居る。
コチラの攻撃はまともには通らない。
必殺の一撃を通すには、『上から』しかなかった。
果たして、結果は?
――ヒヒーン
馬の嘶き。
アンジェラのレイピアは、巨馬の目玉を貫いた。
……外れた。
いや、『外した』のだ。
アンジェラはまだ、殺人への覚悟が決まっていなかった。
それが、剣を鈍らせた。
だが……十分だ。
馬に大ダメージ。
棹立ちになって狂った様に暴れ、消えていく。
「うわっ!」
愛馬の暴走に、近衛騎士は堪らず落馬した。
隙だらけで、しばらく動けない。
こんなモンはゲームでなくてもそうなる。
重鎧で馬から無様に落っこちたら動けない。
その隙に追撃を……
いや、俺の体のダメージも深い。
アンジェラだって崖から飛び降りた衝撃で行動出来ない。
相手は重鎧を着込み、鋭利さがウリの刀では致命傷が出せない。
解っていたが、装備の相性が悪いのだ。
相手を殺しきれるとは思えない。
だから、俺は武器を奪った。
「貰うぜ! コレをな!」
「馬鹿がッ! ンなモンテメェに振るえるモンかよ」
俺が奪ったのはランス。馬上で使う大槍だ。
両手で引き摺るようにして、引っこ抜く。
そんな俺を近衛騎士は笑う。
「てめぇは器用さ重視のビルドだろうが。ンな細い腕でランスが使えるかよ」
まぁ、そうだよな見た目からして力がない。
大体にして、内臓はグチャグチャで、今にも気を失いそうなんだ。
こんなデカブツを振り回せるハズが無い。
だがな。
「な、なに?」
俺の横に、『俺』が居る。
ソレを見て、近衛騎士は狼狽した。
「プレイヤー? 二人がプレイヤーだと? 変身したわけじゃないのか?」
混乱してるな。
無理もない。
倒れそうな俺の肩を抱き『俺』が応える。
「やっほーナビナビちゃんだよ!」
お前はさぁ……
美少女を助けるカッコイイ場面なのによぉ、俺が俺の体を操ってたら、絶対にもっとカッコイイ事言ったぜ。
ホント、脱力させてくれるわ。コイツはよ。
俺は力なく命じる。
「体を、返せよ……」
「オッケー」
アリスの体から、ガクンと力が抜ける。
その手から、俺は、柏木ヨウは、ランスを受け取る。
「じゃあ、しこたまぶん殴ってやるからな」
両手で握る。握れる。
柏木ヨウの体は筋力に極フリした。
両手で握れば、ギリギリ使える。
金属のカタマリを大きく大きく振りかぶる。
そして、目を瞑る。
「無明剣」
俺は決死の一撃を振り下ろした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「殺したの……?」
「ああ」
俺は、コイツを殺した。
初めから、殺すつもりだった。
だって、コイツはティナを閉じ込めた。明確にゲーム攻略の邪魔をする気だったのだ。
だから、初めから名前も聞かなかった。聞いてしまえば負担になる。
それは、司令部でも宣言していた。
そこまで重荷を背負いたくない。
「酷いね……」
アンジェラは死体を見て、こぼした。
結局、無明剣の一撃では倒せなかった。
器用さがない俺の攻撃は、急所に上手く当たらなかった。
ただし、グチャリと両足が潰れた。
近衛騎士は痛みに耐性がなかった。
泣き叫び、命乞いをした。
俺は無視してランスを叩き付け続けた。
ソレで、近衛騎士は死んだ。
グチャグチャの死体の出来上がりだ。
「私も、こうやって死んじゃうのかな」
そう思うのも無理はない。
ここは悪魔が闊歩する呪われた世界だ。
死が近い。とても、近い。
「解らない。俺も、いつか死ぬかもな。だが、最後まで足掻くだけだ」
俺は、アリスの体を黒豹ベノムに乗せる。
「どこにいくの?」
「鐘楼、その後に聖堂だ。アリスの体なら俺は戻れるみたいだからな」
「私は……」
戻れないだろうな。
その言葉をアンジェラは飲み込んだ。
侵入システムで一時的に元の世界に帰っているのなら、プレイヤーではなく、ヒロイン役の彼女は現実世界に帰れるハズが無いのであった。
ベノムにアリスの体を乗せた帰り道。
彼女はなにも喋らなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鐘楼で回復し、俺はアリスの体に戻って聖堂に帰還した。
次元鏡に触り、現実世界に戻るためだ。
その前に、複数の次元鏡を展開させて、アンジェラの体を探す。
「あった!」
病院で眠る彼女の姿。
写真よりすこしやつれている。
自分の姿を映す次元鏡を前に、アンジェラはゴクリと唾を飲む。
「帰れる、かな?」
「解らない」
正直、ダメだと思う。
だが、俺はそう言えなかった。
「いくね!」
アンジェラは自分の鏡を掴む。
……そして。
「行けるかも!」
「本当か?」
なんと「侵入しますか?」のメッセージが出たというのだ。
「なら、大丈夫だ! 行けるはず。俺もそうだった」
「ホント?」
「…………」
満面の笑みで微笑むアンジェラ。いや、ティナの体だ。
それが美しくて、思わず俺は見惚れてしまった。
くそ、このアリスの体で他の女に見惚れるとはな。
なんだか負けた気分になった。
「じゃあ、行ってくるね」
そう言って、アンジェラは、いや、ティナの体は意識を失った。
気を失ったティナの体を寝かしつけると、俺はアンジェラの鏡をジッと見つめる。
コレで、彼女は現実世界に帰れたのだ。
ビックテックの本部長、ナイセル家の一人娘。グレッグさんの年収は数億円って噂がある。
クラッシックを学び、お高い弦楽器を奏でる淑女。
住む世界が違う。
もう、会うこともないだろう。
やっと、この世界でも友達が出来たと思ったんだけどな。
誰にも言えない、死の恐怖を共有出来る相手だった。
アンジェラの体に光が集まり、その光がアンジェラの体に入っていく。
本当に、元の体に戻るのだ。
そうだ、彼女は一度も死んで居ない。魂が欠けていない。
ならば、元の体に適合する。
気が付けば、彼女の鏡はぼやけていた。
違う、俺が泣いているのだ。
きっともうすぐ、アンジェラの体は動き出す。
大した事ではない。
また一人でゲームを攻略するだけだ。
動き……
「ねぇ、どう言う事なの」
背後から声がした。
慌てて振り返る。
動き出したのは、ティナの体だ。
「私、帰れないんだけど!」
口を尖らせて文句を言う。
……え?
鏡を見る。
アンジェラの体は動かない。
光は散ってしまっている。
「一瞬、動けそうだったの、でもすぐに戻されちゃった」
アンジェラはそう言う。
……なるほど、そうか。
「ちょっと待ってろ!」
俺は急いで立ち上がると、自分の世界に戻った。
「何よ! どう言う事?」
と抗議するアンジェラを無視してだ。
それで、戻った作戦基地。
作戦成功のねぎらいの言葉を掛けてくれる小林1佐や一番偉いケビン准将すらまるっと無視。
俺はグレッグさんと向かい合う。
「娘を助けてくれてありがとう、アリス。確かに残念だったが無事なだけで――」
「グレッグさん!」
俺はグレッグさんのお礼を遮る。
「アンジェラの体を下さい」
「なに?」
「俺、アンジェラが欲しいんです!」
「それは……」
グレッグさんは照れている。
だが、そう言う意味じゃない。
「アンジェラの体を持ってくるんです、この波木野市に」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
病院からプライベートジェットで運ばれたアンジェラの体が波木野のドリームフレーム事件共同作戦基地に運び込まれた。
……そして。
「戻れた……」
ベッドの上から、アンジェラが起き上がる。
「パパ!」
「アンジェ!」
抱き合う親子。
ドリームフレーム事件が新たな動きを見せた瞬間だった。
作者より
と、言うワケで話の方向性がようやく提示出来たと思います。
何万字かかってるんだってね。
複雑な設定で申し訳ない……
コレ面白いんかな? と不安になるので
面白かったら高評価おねがいします。