デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
記者会見の準備をしよう
自分の肉体に戻れたアンジェラ。
だが、案の定と言うべきか彼女はアメリカに帰れなかった。
それどころか、波木野市の外に出られない。
車で送迎している途中で再び意識を失ったのだ。
まぁ、予想通りだ。
俺が聖堂に迎えに行けば、ブスッくれたティナが待っていた。
そうなると、アンジェラも波木野市で学園生活を送るしか無い。
俺の高校に転入手続きを進めている。
ココに来て、もはや事態を隠し切れない。
秘密作戦で押し通すのが難しくなってきた。今までだって、基地まで作って秘密作戦ってのも無理があったのだ。
要救助者を一人解放。
一応の成果が出て、良い区切りでもあった。
さて、そうなると、いよいよ逃げ場がなくなった。
「三日後、記者会見を予定している」
短く刈り込んだ白髪交じりの金髪を掻きながら、ケビン准将はぶっきらぼうにそう言った。
俺は、准将の待つガラス張りのオフィスに呼び出されていた。
ベージュのシャツにベージュのネクタイ。カーキ色のジャケットにはアホみたいな数のバッジがぶら下がっている。
英語を喋ってるトコロしか知らなかったが、日本語もペラペラだ。当たり前だろうな、元々在日米軍基地で勤務している人らしいもの。
「そこで今までの経緯を君の口から説明して欲しい」
そう言って、原稿の作成を求められた。
そりゃそうか。
結局、この事件のあらましを語れるのは俺だけなのだ。
俺が体験したことを順に語っていくだけ。
逆に言うとそれ以上は求められない。考察や補足は俺の仕事ではないからだ。
最初に、今どう言う状態なのかを米軍と自衛隊から説明してもらう。
その上で、俺の体験談を語ると、そう言う流れになるそうだった。
「なるべく君へ批判が向かない様にする。真実だけを話してくれれば良い」
「おっけー」
俺は資料を見ながら了承した。
「軽いな、緊張しないのか?」
そんな事を言ってくる。
俺は鼻を鳴らしてケビン准将に肩を竦める。
「気にしたら負け。ベッドで点滴打って生き延びるのもいつまで保つか解らない。何もしないでいると死ぬかも知れないし、かと言って何かしたら明日にでも死ぬかも知れない。文句を言うヤツは何をしても言うさ、余計な事をしたから死んだ。何もしなかったから死んだ」
「その通りだ」
その同意には万感の思いが籠もっていた。
軍人ならいつも『そう』なのだろう。命が掛かっているんだ、結果論でああだこうだと言ってくるヤツは必ず居る。
「失敗したら原因を分析するのは大切だけどよ、そう言うのはオカルトにゃ意味が無いぜ。前例が無ければ、統計も分析も役に立たない、文句を言われる筋合いはない。そう言う意味では気楽じゃねーの?」
「簡単に言ってくれるな、コチラは未成年に全部お任せと批判されている。マスコミどころか上からもつっつかれているよ」
「それこそ、アッチへどう干渉するかなんて頑張ってどうにかなるもんかね? 技術者は毎日徹夜でアレコレやってるみたいだが、きっと無駄だぜ。相手は悪魔だ、シスターにお祓いでもして貰った方がマシじゃねーの?」
「そう言うワケにもいかんのだ」
ハァ、さいでっか。
まぁ、難しいよな。
科学万能なこの時代に、オカルトにはオカルトぶつけるってワケにもいかんよな。
「じゃあ、頑張って書きますんで、後で添削ぐらいはして下さいよ」
「無論だ」
俺はオフィスを抜け出した。
持ち出した資料をペラペラとめくる。
既に強烈なNDAなんかは解除されていて、俺もある程度自由に話して良くなったらしい。
鈴木に詳しい話をせがまれても何も言えなかったから、そこは嬉しい。
あとは、どこに電話してもOKとなった。ただし、指定の端末を使ってくれと。
逆に誠実に感じるね。
アイツらなら、どんな端末だろうとエシュロンで盗聴出来るハズだ。盗聴するからよろしくって言ってくれる方が気が楽。
いや、自衛隊側の都合があるのかね?
まあ、どっちにしろ、別に聞かれて困る事なんてない。
俺は『親』に連絡するだけだ。
さぁーて、トンでも無いことになるぞ。
いいか? いいのか?
クソっ、命懸けで戦うよりも緊張するぜ。
あのクソ野郎に電話するのはよぉ。
「あー、もしもし、親父? 俺だけど」
「んーどちらさん?」
「俺だよ、オレオレ」
「わかる訳ねーだろその声で」
わかってるじゃねーか。
ちなみに、ここは基地の共有スペース。
ここなら俺を監視してるヤツらも気が楽だろう?
俺はどっかりとソファーに座り込む。
「で、今、日本に居るんだよな?」
「あったりまえだろぉ? 可愛い息子の一大事なんだぞ?」
「良く言うぜ、モンゴルは良いのかよ」
「ほったらかして来た、こっちの方が面白そうだからな」
コレは本音だな。
親父、柏木涯は山師だ。
山師。
たとえじゃない。
マジモンの山師。
鉱山がありそうなトコロを買って、鉱山を見つけたって言って売り払う。
まぁ、コレだけならまだ真っ当な仕事っぽいと思うだろうが、違う。
現地の権力者とコネを作り、適当な資源情報をでっち上げる。
埋蔵量何万トンの鉱山を手に入れたとか報道を出す。で、日本で鉱山開発会社として上場し売り抜けてトンズラ。
もちろん犯罪だ。
だが、証拠が出ない。
真っ当な資源開発だって、目論み通りの資源が出るとは限らないからだ。
稀に、無い筈の資源がホントに出て来ちゃって大損なんて間抜けも起こる。
母さんと出会った時も、仕手株なんかに手を出して首が回らなくなっていたんだとか。
ウチの親父は騙しまくるが、騙されもする。
とにかく面白い事に目が無い。
なんでも首を突っ込み、口八丁でメチャメチャに掻きまして迷惑を掛ける。
そんな父親だ。
子供の頃は大好きで尊敬していたが、この歳になって親父の足跡を冷静に見返すと、とんだ詐欺師だったと言うワケだ。
「詐欺師のおっさんに何が出来ンだよ」
「色々だ、お前が学校に通えるようになったりな」
マジか。
おかしいと思っていた。
教育の権利だなんだとゴネるにしても、あの母にしちゃ上手くやったなと思っていた。機密保持が面倒臭い状況で、なんで学校に通えるようになったかずっと不思議だったのだ。
裏で親父が動いていた。
やり口は、わかる。
日米の政治家が興味があるのは、異世界の資源開発、エネルギー、技術開発。そのついでに人質の命ってなりつつあるのだ。
だから人権派の有象無象が蠢いて、人命が一番大事だろと圧力をかけている。
まして、高校生の俺を危険な目に合わせてるってのは、人権派の先生たちにとっては絶好の攻撃ポイント。一種の軟禁状態なんて以ての外だった。
そんな時、俺の教育の権利うんぬんのクソどうでも良い部分は妥協がしやすい。人権派の団体を焚きつけて、成果にしたい政治家に親父が乗っかったに違いない。
政治家と良くわからん話をまとめる。
どうでも良さそうな約束をして、拡大解釈して変なモンをねじ込む。
親父はそう言う詐欺の専門家。
とにかく厄介なクソ野郎。
マジで大っ嫌いだ。
だからこそ、頼りになる。
平時にはまるで役に立たない親父だが、物事をかき回すのは天才なのだ。
俺は切り出した。
「良い話がある、噛むか?」
「儲け話だろうな?」
息子に言う事かよ。
「モチロンだ。聞くか? 因みに盗聴されてるぜ?」
「構いやしねぇよ、話しな」
クソ頼もしいねぇ。ゴミ野郎。
「アッチの世界の映像を持ってる」
「マジか! 権利は?」
「俺だ。全部俺の権利でもぎ取った。ゲームみたいな世界だが、ゲームとは違う異界が出来ている。人間の命が掛かってんだ、ゲームに似てても開発会社は権利を放棄した」
「おいおい、どんな映画よりスゲぇ絵が撮れそうじゃねぇか」
「実際、ヤベェぞ? 死にかける俺の映像だ」
「そりゃ頼もしい、くれるのか?」
「焦んなよ親父、なぁ、会社の作り方を教えてくれねぇか?」
俺がそう言うと、ハッと馬鹿にした声が返った。
「自分でやる気か? やめときな全部毟られるぜ? 俺に任せとけよ」
まぁ、そうだよな。親父はそう言う男だ。
オイシイ所を全部一人で食いたがる。
親のくせにショートケーキのイチゴを総取りしようとするクズだ。
その貪欲さが頼もしい反面。
訳わからん事業に金を突っ込んで大損して帰って来るのがコイツだ。
「ざけんな、誰がテメェに全部任せんだよ」
「まぁ聞けよ。著作権法41条って知ってるか?」
「いや? なんだそれ?」
俺が首を傾げると、親父は馬鹿にした声をあげる。
「映像の権利って言ってもな、憲法の『知る権利』ってヤツのが強ぇのよ。わかるか? 二千人の命が掛かった大事件だ。誰しも顛末が気になる。報道の権利がある」
「つまり、俺の映像の権利は無視されるって事か?」
「無視とは言わねぇよ。勝手に転載して儲けるってのは難しい。だがニュース映像に使われるのは避け難いな」
マジかよ。
いや、おかしい。騙されんぞ!
「でもよ、よく事件の映像をスマホで撮ってSNSに上げるとテレビ局から使用許可のお願いが来るらしいぜ?」
「報道に公共性があるかが問題だ。その辺の面白映像はともかく、二千人もの命が掛かってりゃ十分根拠になるだろうぜ、ヘタに欲を掻くと叩かれるが、良いのか?」
「なるほどな……」
その辺のさじ加減はまさに親父の得意とするトコロだ。
「ヨウよ、その映像は何分ある?」
「さぁ? だが分じゃない。百時間はあるハズだ」
なにせ、数が溜まっている。ラーメン屋ダンジョン、ショッピングモール、ドードー鳥のサーミット山なんかは朝までの長尺だ(代わりに見どころは少ないが)。そして、何と言ってもアンジェラ救出作戦の騎乗戦闘なんかは迫力があるだろう。
それ以外にも、下らない実験映像が山ほどある。
毎回HDDで貰っているから部屋を圧迫するほどだ。
ドリームフレームの機能だか知らないが、自動翻訳で日米の言語版が別に作れるのも尺が伸びる原因だった。
「おいおい、じゃあ楽勝だ。有名俳優が死んだら、映画の出演シーンを引用するだろうが、ソレを理由にまるっと映画全体を放送したなら著作権違反だ。解るな?」
「そりゃあそうか。じゃあ問題ないじゃねぇか」
「ばーか、お前の場合は特殊だ。二千人の命だぞ? それも、とびっきりのニュースだ。全部が証拠だと言い張ってコピーするヤツらが大勢出てくる。しかも海外からだ。お前に対応出来るかよ?」
出来ないな。
「クソッ、親父テメェ金を持ち逃げすんなよ?」
「するに決まってるだろ。俺の事を何だと思ってるんだ」
するのかよ。
「安心しろ、母さんとお前の取り分はキッチリ分けとくから」
「頼むぜオイ、小まめに振り込めよ。裏切ったらぶっ殺すからな」
「まぁ待てよ、そんだけあるなら映画にするって手もある。あるが、それは後だ。まずは動画投稿サイトで一山当てよう」
「どうせパクられるだろうしな……」
「ああ、先に投稿して著作権を主張する。だが、百時間もだらっと流すのは良くないな」
英語版と日本語版でチャンネルを分け、サブチャンネルも作るべきだと言う。
「三日後に記者会見があるんだな? なら早い方が話題性がある。インパクトのある切り抜き、編集が出来ねぇか? ショート動画も欲しい」
「おいおい」
流石に、今の俺は自由に動けない。
記者会見までは通信も制限され、郵送するにしてもセキュリティ的に危ないし、どこに依頼して良いかもわからない。
その辺を親父に頼みたかったのだが……
「ワリぃが俺もそう言うのは専門外だ。だが、最初が一番大事ってのは解るぜ。いきなりガツンとカマすんだ。素人臭い動画を出すんじゃないぜ? 誰か居ないか?」
「居るわけねぇだろそんなの」
タダの高校生だったんだ。
そんな知り合い居るわけが無い。
……いや。
「居るな。そんなヤツが」
「マジか?」
「マジだ」
脳裏に浮かぶのは、一人。
あのナードのおっさん。使えそうだな。