デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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記者会見

「コチラ、ドリームフレーム事件共同作戦基地から中継しています」

 

中全テレビのアナウンサー、榊三奈は燃えていた。

 

エルフの少女が光と共に突然現れる。

空前のスクープ映像の撮影に成功しながら、以降の事件に関わる事が出来なかったからだ。

 

あの日の病院で撮影した映像は世界中でトップニュースとして扱われた。榊達クルーは中全テレビで表彰されたほど。

 

榊はドリームフレーム事件の専属となり、日夜、波木野市を駆けずり回る事になった。

市内にアパートを借りて、少ないスタッフで、時として自らカメラを担いで柏木が現れたと言う場所に突撃した。

 

だが、それでも続報が撮れない。成果が出ない。

 

基地は機密として侵入出来ず、ターゲットとなる柏木ヨウが通う学校の映像は様々な規制の壁に阻まれた。

 

さりとて、未だに冷めやらぬドリームフレーム事件の注目度。

なにせ、漫画のような超常現象が現実に起きている。

現実にファンタジーのエルフが存在し、あまつさえ通学している。ビックニュースにも程があった。

 

学生の撮ったショート動画や、配信者の生放送に映り込んだ映像を素材に番組を作らざるを得ないのは業腹だった。

 

それがいよいよ記者会見だ。

各社横並びなのは面白くないが、榊としてはいっそソレで良かった。

 

このままでは榊が波木野市に封印されてるようなモノ。波木野はのんびりとしたベッドタウン。刺激のない街に榊はうんざりし始めていた。

 

時刻は朝の九時。

この時刻なら夜のニュースで特集が組まれるし、アメリカでは午後のニュースで生中継だ。

 

榊は五時起きで準備を進めた。

基地が開放される八時前から基地周辺の様子を中継し、群がる各国の記者に逆インタビューを敢行。朝のニュースで放送した。

 

もちろん、最初に事件に立ち会った榊には各国の記者が取材に群がり、ここのところ何回話したか解らないエピソードを披露する。

 

八時にはいよいよ基地が開放された。しかし、基地の様子は別班に任せ、榊達メインクルーは記者会見の会場にいち早く乗り込んだ。

 

 

さて、記者会見なのだが。主体は米軍だ。

時間こそ日本に配慮した九時の開催だが、あくまで作戦を主導するのは米軍という立場を崩していない。

 

故に、記者会見の中央最前列はCNEなどのアメリカのメディアで占められていた。

被害者二千人の大半がアメリカ人と考えれば当然か。

 

それでも、榊は日本メディアで最初に席を選べる立場にあった。最初にスクープを取った記者として、一応の優遇があったのだ。

 

榊が選んだのは最前列、右端付近。

 

中央は主催者である米軍司令に近く、左端は司会に近くなるだけに、帯同したカメラマンとしては首を傾げるばかり。

 

「榊サン、なんでこんな端っこなんです? せめてアッチ側の方が司会に絡めにいけますけど」

「あんたね、馬鹿じゃないの?」

 

榊は確保した席の正面。壇上のすこし奥まった場所にある小さな席をアゴで示す。

 

「あそこに誰が座ると思う?」

「そりゃ、真ん中は米軍、その横に自衛隊、そこから更に外れて波木野の市長とか政治家センセ。となると、なんでしょう? あまり目立たないように配慮された席。うーん、被害者家族とかですかね?」

「そんなの、席が足りないわよ。二千人よ? それにアメリカから来るのは大変じゃない」

「まぁ、そうっすよね」

 

十日後に記者会見だから来てくれと言われても、だ。

では誰だ?

 

そこでようやくカメラマンもピンと来た。

 

「じゃあ、まさかアリスっすか?」

「そうよ、アリス。コードネームよね」

「ナニっす? みんなカシワギじゃなくてアリスって呼んでますけど」

「うーん、思春期の男の子がアリスって呼ばれて平気なのかなって」

「そんなの全然気にしてなさそうでしたけどね」

「そっかな、その辺も聞いてみましょ」

「楽しみッス」

 

連日、学生が取ったショートムービーは流れてきている。

 

エルフが日本の高校で学生生活を送る映像は、何気なくて自然体、その事が却って衝撃をもって迎えられた。

 

ごく当たり前のように学生に馴染むエルフ。

外国人には、まるでアニメの様に見えたのだ。

 

そう言う意味で、海外では一般層よりもナードと呼ばれるオタク層からアリスに対する関心は高い。

 

と、そんな事を話していたら早くも九時だ。

 

「さぁ、始まるっスよ」

「頼むわね」

 

記者会見の様子はニュースで生放送される。カメラマンは張りきって持ち場に戻る。

 

榊は榊で緊張していた。この事件で顔が売れているだけに、下らない質問をして株を下げるわけには行かなかった。

 

と、予定通りかっちり九時から始まった記者会見なのだが。

 

最初は米軍司令官ケビン准将の話からだった。

しかし、当然英語だ。日本向けには自衛隊から小林1佐の説明となる。

 

この辺りは事前に説明された流れ。

 

……だが、発表された内容は衝撃だった。

 

「テロの首謀者であるダークスフィアの目的は、二千人を犠牲に悪魔を召喚することでした。ここまではお伝えの通りです。そして、彼らは実際に悪魔の召喚に成功しました」

 

「まさか?」

「本当なの?」

「悪魔は実在する?」

 

喧噪は収まらない。

 

もちろん、そうだとは言われていた。

メンバーのスマホの通信記録から、ダークスフィアの動機はすぐに知れたからだ。

そこにアリスの登場。

二つを結びつけ、彼女こそが呼び出された悪魔なのだとする声は多かった。

 

だが、それだって眉唾ものとされていた。

現代人はどんな証拠があろうと、簡単には悪魔など信じられなかった。

 

なにせ、脳と機械が繋がるVRギアが相手。

最先端技術ゆえに技術的なブラックボックスも多い。

 

柏木洋が入り込んだアリスの存在だって、洋の脳から記憶を吸い上げて、他の人間に押し込んでしまう事故が起こったのでは無いかと分析する人間が大勢を占めていた。

 

光って虚空から現れたように見えたのも、カメラの故障もしくは、脳に作用して幻覚を見せただけでは?

と分析する識者が大半であった。

 

そこを明確に、軍が悪魔の存在に言及したのだ。

会場は、蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。

 

喧噪を制して、小林1佐は続ける。

 

「我々は軍人です、悪魔の定義はわかりません。ですが、この世界とは異なる世界。言わば異界と繋がってしまった事は間違いないようです」

 

「そんな馬鹿な!」

「証拠はあるんですか?」

「ドリームフレームにそのような機能があったのですか?」

 

質問攻めだ。しかし、悪魔に関して語る言葉を小林1佐は持たなかった。

 

しかし代わりに、悪魔に関する資料を用意している。

チラリとケビン准将に視線を送る。

 

ケビン准将が肯くと、取り出したのはアタッシュケース。

開けると、更に中からアルミケースが現れる。

 

そのケースを見た海外記者から、ザワリと今までとは違ったどよめきが起こった。

 

異様な雰囲気をもつケースであったからだ。

アルミケースは黒いベルトで十字に封されており、ベタベタと何枚も何枚も貼られた識別シールは、どうやっても「カテゴライズ」出来なかった証であった。

 

なにより恐ろしいのは、貼られた識別シールの上からマジックで「Don't open!」と書き殴られている事だ。

 

その異様さに会場が飲まれた。

静寂の中、ケビン准将は英語でポツリと呟く。

 

「This is classified Record 008」

 

海外の記者から、押し殺した悲鳴があがった。

 

日本の記者は意味が解らなかった。

英語が解らなかったワケでは無い。本当に意味が解らなかったのだ。

 

小林1佐は准将の言葉を淡々と翻訳する。

 

「あの機密文章は、アメリカの008文書と呼ばれるモノだそうです」

 

そう言われても、日本の記者はピンと来ない。

唯一反応したのは、オカルト系人気番組を担当する日読テレビの記者だった。

 

「それって、宇宙人との交戦記録が記されてるってヤツですよね? 前のギャモン大統領も公開出来なかったと言われる」

 

ようやく、榊達、日本の記者にも飲み込めた。にわかに騒がしくなる。

 

ギャモン前大統領は、かなり困った人物だった。

 

人気取りに邁進し、機密文書の公開を公約に掲げて当選した大統領であったのだ。

実際、多くの暗殺事件。不審な未解決事件の資料を公開するハメになった。

 

しかし、大量の機密文書が惜しげもなく開放された結果。長年暖められた陰謀論はどれもこれも嘘だったと判明してしまう。

オカルト界隈に冬の時代が訪れたりもした。

 

 

だが、そんな中で唯一。ギャモン大統領でも公開出来なかった機密文書。

それが、008文書。

 

ファイル番号一桁台。

第二次世界大戦前、禁酒法時代の事件の記録である。

 

唯一残された、そして最古の機密ファイル。

人々の関心が集中するのは自明であった。

 

それでも政府は頑なに公開しない。

アメリカの感覚では昔話の類であるにも関わらずだ。

 

様々な憶測が流れたが、そのどれもが眉唾。

最有力とされたのが、宇宙人との交戦記録だと言うのだから、笑うしか無い。

 

「あの文章には、米軍が悪魔と交戦した記録が残されている、との事です」

 

小林1佐の言葉にどよめきが止まらない。

宇宙人より酷いオカルト話。

 

ケビン准将はケースの封を開けていく。

 

曰く。

ミシシッピ州の寒村で事件が起きた。

地方の祭り、今までは酒が振る舞われていたが、禁酒法により手に入らない。

急遽他のモノで代用しなければならなくなった。

 

大麻を配ろうとしていた村長に、自分の麻薬を使ってくれと売り込んだ者が居た。

ニューヨークで教鞭を執る教授という。

サンプルで貰った麻薬は安く、そして素晴らしい効き目だった。

村長は喜んで大量に購入した。

 

祭りは大いに盛り上がった。

しかし、翌日。多くの村人が起きてこない。

 

百余名の村人が、眠るように亡くなっていた。

 

大事件だ。村長は逮捕され、麻薬を売ったとされる教授には指名手配が掛かった。

しかし、事件は終わらなかった。

 

被害者の死体がカラカラの干物のように変じていったのだ。

ケビン准将が取り出した白黒写真には、ミイラの様な死体が何体も写っていた。

 

会場が静まり返る。

 

「あ、あの、それが悪魔の仕業だと?」

「当時の捜査官はそう考えたようだ」

 

その後に取り出したのは銃撃戦の記録。

 

戦った相手は『猫』だった。

 

「猫、ですか?」

「ああ、丁度その位のサイズだったと記録にある」

 

映りの悪い、写真があった。

 

「サイズとしては、その程度だったらしい。口は貘のようだったと」

 

手ぶれが酷いが、小さい動物が映っている。

 

こんなのと銃撃戦?

疑問だらけだが、実際に警官三人が死んでいる。

 

ケビン准将は淡々と語る。

 

「このバケモノは結局、メキシコ方面に逃げていったと資料に残されている」

「それが、機密文書の内容ですか?」

 

とんだ肩すかし。

記者達は首を傾げる。

 

UMAの情報。オカルト雑誌が涎を垂らして喜びそうだが、百年以上前の話だ。

わざわざ機密にする必要が見当たらない。

 

「問題なのは、この悪魔召喚を成功させたとみられる教授は、その後、ナチスドイツへ渡ったと言う事だ」

 

悪魔召喚の応用。

危険な兵器が幾つも生み出されたと准将は語る。

 

ロケット、ジェット機、ヘリコプター。

それらの開発チームの写真に、一人の男が写り込んでいる。

 

「いや、しかし……」

 

やはり、機密扱いの理由がない。

悪の帝国が、悪魔と関わっていた。

面白いオカルトで済むではないか。

 

「問題なのは、その教授が戦中のどさくさでアメリカに亡命している事だ」

 

そして、アメリカでも新兵器の開発に携わった。

 

「まさか……」

「核だ。もちろん開発の主要メンバーではない。歴史に残らない形で裏から関わっていただけだ」

 

それでも、だ。

核兵器への風当たりは強くなる。

悪魔の技術だと核廃絶への動きは加速するだろう。

 

だからこそ、この資料は公開出来なかった。

 

「戦後、しばらくしてからだ。教授の足跡を辿れたのは。村での悪魔召喚事件、ナチスドイツ、核兵器開発。全てが繋がってしまった。初めはオカルトで市民を混乱させないための機密。しかし、機密の意味が変わってしまった。核は既に国防上手放せるモノでは無い」

 

ゴクリと唾を飲み込む音は、誰のモノか。

 

「じゃ、じゃあ、悪魔は?」

 

どこに行ったのかと、記者は聞く。

准将が取り出したのは先ほどの映りが悪い『猫』の写真。

 

「魂の重さは21グラム、100名の被害者、推定2.1kgの怪物」

 

次いで、取り出したのは柏木洋、アリスの写真。

 

「魂の重さは21グラム、2000名の被害者、42kgの少女」

 

ザワリと会場が揺れる。

 

「じゃ、じゃあ、やはりあの少女が悪魔」

 

狼狽する記者達に、ケビン准将は毅然とした態度で言い放つ。

 

「だが、悪魔との契約は成っていない」

 

ケビン准将は言う。

1930年の禁酒法時代とは一つだけ違う事があると。

 

「延命術だ。二千人の被害者の大半はまだ生きている」

 

点滴によって長らえる事は1930年当時のアメリカ。それも片田舎となれば難しかった。

だが、現在の科学力ではさして難しい事ではない。

十年は難しくとも、経管栄養で一年や二年ならば保つだろう。

 

「言わば支払いの済んでいない契約だ。破棄することも可能だと考えている」

「それはアリスを、あちら側へ帰すと言う事ですか?」

 

記者の質問にケビン准将は首を振る。

 

「違うな、例えば君は買い物をする時どうする?」

「どうするとは?」

「カゴに入れてレジに持っていく、トレーの上に現金を置いてお買い上げだ」

「????」

 

記者達はケビン准将の言わんとする事が解らなかった。

 

「わからんか? トレーの上に二千人の魂が、カゴの中にはアリス。会計が済む直前だが、こちらの人間が生きている。魂が繋がっている。トレーのお金を全部回収して財布に戻すか、トレーごと頂いてしまえば契約は成立しない」

 

「いや、おっしゃる意味が解りませんが……」

 

と、その時、背後の巨大モニターに映像が映る。

 

荘厳な聖堂。暗雲立ちこめる彼方の古城に、朽ちた教会。空を飛ぶドラゴン、重装騎士、人間をひと呑みしそうな巨大鳥。

 

ファンタジー映画の予告編と見紛うような映像。

 

そして、その中を一人の少女が駆けていく。

 

――アリスだ。

 

予想だにしなかった映像に皆が息を飲む。

 

何を見せられているのかと、悪魔である少女を主人公にファンタジー映画でも撮るのかと、皆が理解出来ないでいた。

 

ケビン准将は大仰に胸を張る。

 

「コレが、異界だ。デモンズエデン。ゲームを模した異界が発生している。そこに囚われた二千人の魂を奪還する。或いは、この異界ごと破壊する」

 

ケビン准将の言葉が会見場に静かに響いた。

 

「そして、この波木野市がカゴの中。この波木野市と異界は繋がっている」

 

会場の恐怖と驚きが、悲鳴となって押し寄せた。

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