デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
「では、彼の口から事件を語って貰おう。柏木ヨウ。この事件の中心人物。そしてコードネーム、アリス」
宣言と同時、舞台横の通用口からからエルフの少女が現れた。
慌ててカメラマン達がシャッターを切る。
雷鳴のようなフラッシュ。強烈な光で視界が白く染まり、少女の周辺から色が失われる程だった。
大人でも怯むようなシャッター音の雨あられ。
なのに、少女の足取りに淀みはなく、壇上の隅、最後に残された空席へと向かう。
……あまりに自然。
自然である事が不自然。
フラッシュを焚き続けるカメラマン達が不審に感じ、カメラから目を外し、自分の目で確認するほど。
雷鳴の中を何事もなかったように少女は泳いでいく。
気が付けば、既にアリスは自分の席に座るところだった。
ソコで気が付く。
エルフの少女は、アリスは目を閉じている。
目を閉じたまま歩いて来たのだ。
なぜ? と皆が困惑する。
目を閉じたまま、静かに座る少女。
未だにパシャリパシャリと時折フラッシュが瞬くが、瞳を閉じたままの姿はニュースにも使いにくく、次第にフラッシュは減っていく。
椅子にちょこんと腰掛けた姿は背筋がスッと伸びており、凜とした佇まいであった。
――それが、突如、崩れる。
荒々しい仕草で、かったるそうに耳をほじり始めたのだ。
呆気にとられる目の前で、ほじくり出されたのはインカムだった。
ノイズキャンセル。
耳栓代わりに使っていた。
目を瞑り、こんなモノまで入れていれば、どんな騒音にも動じないわけだ。
皆が呆気にとられ、そして苛立った。
そこに、一人のアナウンサーが突撃する。
「柏木くん! 私です! お久しぶり、榊です! 覚えていますか!」
皆が呆気にとられる中で、彼女だけが動けた。
榊はインタビューの途中で重要参考人として連れて行かれた少女をずっと気に掛けていた。もちろんビジネス上の理由が大半ではあるが、個人的な心配が全くなかった訳では無い。
と、その声にエルフの少女が反応する。
榊に顔を向け……ゆっくりと、ゆっくりと、目を開けていく。
「――ッ!」
息を、飲んだ。
あまりにも目が大きい。
マスカラとアイラインで縁取られ、アイシャドーで彩られた瞳は恐ろしい程に大きく見えた。
しかし、なによりも、その目の中に収められているモノこそが異常だった。
ギラギラと輝く瞳は強烈な意志を感じさせ、ただ見つめられるだけで、榊は射竦められてしまう。
いや、榊だけではない。
その場の全員が凍り付いた。
その証拠に、折角目を開けた彼女を撮るフラッシュの音が聞こえない。
その場の全員が呑まれていた。
ただ、ビデオカメラが回る僅かな機械音だけが、集音マイクに拾われていく。
それだけの静寂。
――そして、それは記者会見の中だけではない。
中継するテレビ局のスタジオでは、喋る事が生業の司会者が言葉を失い。
「記者会見のニュースしかやってない!」と不満げにチャンネルを変えていた主婦達がぽとりとリモコンを取り落とす。
椅子の下で寝そべっていた犬だって、ピンと尻尾を立ててテレビモニターを凝視した。
「あ、悪魔」
思わず呟いたのは、榊だったのか? それとも他の誰かか。
それだけ強烈な印象を瞬時に脳に灼き付ける姿。
強烈な目力に、輝くような淡い金髪。体にフィットする制服は細身で均整のとれたスタイルを強調し、短すぎるスカートと長いソックスは嫌でも目を引く。
榊が以前に見た時は『こう』ではなかった。下着のようなボロ布を纏う姿は純真な天使のように見えたし、高校生の柏木ヨウだと語る姿は純朴な高校生に間違いが無かった。
榊には中身が変わってしまったかのように映る。
むしろ、アレは突然の事態に柏木が緊張していたからで、本来この不遜で不敵な振る舞いこそが柏木ヨウそのものなのだが……
知らなければ人が変わった様に感じるだろう。
――パシャリ
と、そこでようやく我に返ったカメラクルーが一人、シャッターを切った。
後はもう、雪崩のようにシャッター音とフラッシュが連続する。
あまりの喧噪に少女は煩わしそうに目をしばたたくと、意志の籠もらぬ無機質な目で宣言する。
「ご紹介に預かりました、柏木ヨウ。この体ではアリスとコードネームで呼ばれています。後でお話ししますが、柏木ヨウの体も、アチラの世界では別に存在するからです」
無機質に語る姿はどこか恐ろしい。
あまりにも美しく、CGみたいに感じるからだ。
何者も寄せ付けない超然たる美に、飲んだ息を吐き出せない。
榊にして、マイクを手にしたままずっと固まっていた。
と、その超然たる美が榊へと一身に向けられた。
壇上から榊を一瞥するエルフの少女。
強烈な目力が榊を射貫く。
――息が止まるかと思った。
榊は後にそう述懐する。
掛け値無しに、蛇に睨まれた蛙の気持ちを味わったと。
同性だろうが、関係無いのだと思い知らされた。
しかし、次の瞬間。超然たる美が崩れた。
くしゃりと相好を崩し、はにかんだ笑顔で訊ねる。
「あ、榊サン大丈夫だった? あれからFBIのヤツらに殴られたりしてない?」
高校生男子らしい笑顔。
突然の落差に、榊は瞬間、反応出来ない。
それでも何とか応えたのはプロ意識のなせる業だろう。
「は、はい。えと、私の方は別班に掴まって、聞き取りは受けましたが乱暴はされていません」
別班の暗躍は口止めされていた事だ。
何回取材を受けようと決して話さなかった事実。思わず榊は漏らしてしまう。
しまったと思うが後の祭りだ。
ふーんそっかとアリスは応え、良かったと肯いた。
あまりにも素直な男子高校生の反応。ようやく榊は肩の荷が下りた気がした。
「あの、洋君、あーまずアリスと呼ばれる事についてどう感じていますか? 男子高校生として複雑な思いはありませんか?」
相手をどう呼ぶか? それはインタビューの基本だ。
大物外タレを気さくにニックネームで呼んだら最後、機嫌を損ねてしまった。なんてのはよくある話。メジャーなニックネームも、蔑称の意味が混じっていて仲間内にしか使わせないなんて微妙なニュアンス。日本人では中々解らないからだ。こういうのは素直に聞いた方がいい。
そうでなくとも、相手は多感な高校生。アリスと呼ばれるのは複雑ではないか?
だが、当の柏木、いやアリスは、あっけらかんとしたものだ。
「別にアリスで良いっスよ。いや、さっきも話しましたけど、柏木ヨウの体も使い分けてますんで、逆に呼び分けて貰えるとアイデンティティが保てるというか」
「その、使い分けると言うのは?」
榊は食いついたが、「それを今から話しますんで」と、はぐらかされた。
そして、バサリとレポートの束を取り出して、微笑む。
そこには超然たる美が戻っていた。
「それでは、柏木ヨウの身に起こった事をお話しします。少々お時間を頂きますが宜しいでしょうか?」
そう訊ねる姿はどこか恐ろしかった。
実際に、日本を揺るがすような体験談が披露されるのである。