デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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ギターの練習でもして気を紛らわせよう

記者会見の翌日。俺は学校を休んだ。

 

あまりにも騒ぎが大きくなっているからだ。

 

「まぁ、勉強なんて手に付かないよな」

 

俺だって、世間の反応が気になって仕方が無い。

どこのニュースも俺の話でもちきり。

 

ニュースサイトの記事一覧が全部同じ写真で埋まってるなんて初めて見た。YouScreenに作ったチャンネル動画もガンガン数字が伸びている。

 

もう見飽きた化粧でキメキメなアリスの顔を見て思う。

やり過ぎたな、と。

 

「結局、怖いんだよな」

 

俺が可愛い制服にこだわったり、強烈な化粧をしたり、ミニスカートでオタク共相手に暴れたりしているのも、全部同じだ。

 

心配されたくない、泣き言なんて言いたくない。

でも、気にして欲しい。

 

ある日突然、俺の存在がアリスごと消えてしまっても、忘れられたくない。探して欲しい。

 

「とんだかまってちゃんだな」

 

だが、掛け値無しの本音だ。

戦うのは怖くない、負けて死ぬのも覚悟している。目が見えなくなって、死のうかと思った時に比べればずっとマシ。

 

だが、突然消えてしまうんじゃないかって不安感は独特だった。目が見えなくなったときは、消えてしまいたいと思っていたのにだ。

 

勝手なもんだ。実際に消えるとなると怖くなる。

 

「俺も女々しくなったもんだよ」

 

ベッドの上で、ふて腐れる。

 

「ま、良いか。今の俺、女の子だし」

 

心がすっかりいじけてしまった。俺は普段から躁鬱が激しい。

今日は特にだ。天気も悪いし、低気圧が原因かもな。

 

「こんな時はコレかな」

 

壁に立てかけてあったギターを手に取る。

 

アンプに繋ぎ、ヘッドホンを被る。

 

やるのはいつもの通りコード練習。

それも、単一のコードではなく、複数のコードを連続するいわゆるコード進行ってやつを練習している。

 

ようやく、曲っぽくなってきた。

今はカノン進行ってのをひたすら繰り返している。

 

まぁ、地味だよな。

 

特殊な演奏方法とか、なんなら具体的な曲のメロディなんかは全然練習していない。

 

何故って、あれから全然練習時間を作れていない。色々とありすぎた。

 

それに、まずはコード進行をみっちりやったほうが良いと解説サイトにも書いてあった。軽音部の柳川さんに相談しても同じ事言ってたし、まずはギターに慣れた方が良いらしい。

 

まぁーでも、地味だからフラストレーションは溜まる。我慢出来ず、派手にギュイーンと鳴らすやつとかやりたい。ってか、やった。一応出来た。

 

でも、良く考えたらこれ、パフォーマンス用の技だ。スクウィールって言うんだけど、こんなモンだけ覚えても意味がない。

 

じゃあ、いよいよメロディか? って言っても、ソレほど弾きたい曲もない。ダークスフィアの曲を弾いてやろうかと思ったが、あんなやつらの曲を弾くのも癪に障る。

 

結局は、地味なコード進行に徹することにした。

 

その事で、隣の鈴木にちょっと愚痴ったりもした。こんなの意味有るのかね? って。

……すると。

 

「アレじゃね? 空手とかでいう型稽古ってやつ。お前すぐサボるじゃん」

「…………」

 

ぐうの音も出なかったね。

一気に腑に落ちた。

 

そうなのだ、俺ってば、いつもそういう地道な修行をサボってしまう。師範には嫌われるし、そうなると続かない。色々と囓って、筋が良いねと褒められるモノの、大成せずに終わってしまう。そんなのを繰り返してばかりの駄目人間なのである。

 

……そういえば、今の居合の稽古は続いている。器用さに依るモノと思ったが、そんな上っ面じゃなく「鬼気迫る取り組みだ!」と褒められている。

 

……そりゃーな。

ギターと違ってソッチはガチで命が掛かっている。

真剣にもなろうと言うモノ。

 

話が逸れたが、一皮剥けようと思ったら何事も地道な反復練習ってのが必要なのだ。

今度こそ、俺は地道にやろうと決めていた。

 

本格的にやるなら、やはりデカいスピーカーで鳴らしたい。

俺はヘッドホンを脱いで、地下駐車場の練習スペースに向かった。

 

練習場所完備なのがギタリストとして恵まれてる、圧倒的に。普通なら練習スタジオまで移動。小一時間練習して片付けて帰宅。お金も必要だ。

 

地下に飛び込んだらいつでも自由に使えて、完全に無料ってヤバいよな。

 

と、エレベーターで下りた地下駐車場に先客がいた。

 

「遅いよー何してるの?」

「いや、知らんがな」

 

アンジェラだ。

地下駐車場ではアンジェラが待っていた。

 

「軽音部に行っても現れないし、なんかコンピューター部? みたいな所に行ったって聞いたから驚いたけど、あんな動画用意してたんだね」

「それは黒歴史なんで勘弁してください。とくにあの自己紹介VTRは見ないで。お願いね」

「え? アレが一番良くなかった? 可愛かったよ」

 

……なるほどね。

 

心が純粋な人には、あのVTRがほのぼのコンテンツに見えますか。

 

あの動画は現代の照魔鏡だよ。

 

あいつらマジでぶっ殺すからな。あの動画の反応に関しては怖くてまだ見れてないぐらい。俺をこんだけビビらせるんだから大したモンだよ。

 

って、アレ?

 

「軽音部って言った? 吹奏楽部じゃなくて?」

 

ウチの吹奏楽部は結構大きい。その筋では有名だ。幾つも賞を取っている。

 

それでもだ、高校一年にして「音大に進んで音楽で食っていかないか?」と薦められるアンジェラにしてみれば物足りないかもしれないが、アンジェラは日本の部活へ憧れがある。ならば吹奏楽部はオススメだ。

 

アイツらは、俺から見てもキラキラした青春を送っている。

ジメジメしたメディ研のヤツらとは全然違うのだ。

 

「えー、あんなの嫌。決められた音楽を周りに合わせてキッチリ弾くだけ。窮屈で大変」

「さいですか」

 

生暖かい目で見つめてしまう。

 

確かにコイツ、そういう協調性無さそうだもんな。

人の事は一切言えないが。

 

「あそこじゃ私のマリアンヌちゃんを活かせない」

 

そう言って、ピンクのクソデカ楽器ケースを愛おしそうに撫でるアンジェラ。

 

……マリアンヌちゃん?

 

どうも、アンジェラ様は自分のコントラバス(バイオリンを180cmに膨張させたみたいなやつ)に名前を付けているらしい。

 

思った以上に、重傷だ。

協調性ドコロの騒ぎではない。

 

コイツかなりキマっちまってる。

 

俺も居合で使ってる自分の刀に「刹那たん」って名前を付けて呼んでたら師範にめちゃくちゃ微妙な目をされて、寸でのところで人前で呼ぶのはもう止めようって自制が働いたが、この子はソレがぶっ壊れている。

 

ピンクのクソデカ楽器ケースを愛おしそうに撫でている。

そして、我が子可愛さに根本的な所が抜けているのだ。

 

「いや、その楽器で軽音は無理でしょ」

「なんで?」

 

なんでって、そんな吹奏楽の右端で強烈な存在感を放つクソデカ楽器で軽音なんて出来るハズがないのである。

 

「出来るに決まってるでしょ! 馬鹿なの」

「馬鹿はお前だ」

 

バンドはバンドでも、それこそ自衛隊とか、街の音楽隊ならあるかもだけど、高校生バンドにコントラバスはないだろう。少なくともエレキギターとはマッチしない。

 

ダークスフィアみたいなバンドに対抗しようってんなら論外だろう。

 

ポップなバンドに古典的な楽器を混ぜるにしても、チェロ、バイオリン、トランペットみたいな楽器でメロディを添えるのがせいぜいじゃないか? それだって味付け程度でバンドのメインメンバーって感じはしない。

 

 

たぶんこれ、翻訳機の限界だ。軽音って概念が伝わって居ないのだ。

 

「たぶん、アンジェラの知ってる音楽とは違って、軽音部ってのはさ、ギターとベースと、ドラムと、精々あとはキーボードぐらいでさ。コントラバスみたいな古典的な楽器を演奏するやつじゃないんだよ」

「え? ベースでしょ? 出来るもん」

 

出来るモンじゃねーんだよ。

 

「ベースってね、このエレキギターみたいなやつで、四弦で、低い音が出るヤツなの」

「これだって、四弦で低い音が出るけど?」

 

……いや、まぁ、出ますけどね。コントラバスでも。

 

「っていうか、軽音部で柳川さんと話した時も、良いねって言われたけど?」

「えー?」

 

柳川さんの軽音部って、バンドはバンドでもブラスバンド的な? そっち方面なのだろうか?

 

ちょっと聞いてみよう。

 

俺は支給されたスマホをポチポチ弄る。まだ使い慣れないんだよな、元々あんまり使ってなかったし。

 

――なんか、アンジェラがコントラバスで軽音やるって聞かないんだけど

 

すぐに、柳川さんから返信が来た。

 

――別にー? 良くない? やりたい音楽と合わない?

 

あれ? なんかすれ違ってると言うか。

当たり前みたいにこのクソデカいコントラバスを受け入れようとしている。

 

――柳川さんの軽音部って、ライブハウスとかで演奏するヤツじゃないの? コントラバスってライブハウスに持ち込める?

 

首を捻って質問を重ねる。

自分でもワケが解らなくなっていた。

持ち込める? じゃねーんだよと思いながらだ。

 

――持ち込めるんじゃない? たぶん、私やった事無いけど

 

たぶんって……

おいおいおい。

 

――まさか、柳川さんはドラムセットじゃなくてティンパニーを持ち込んだりする?

 

と聞けば。

 

――流石にティンパニーでライブハウスは見た事ないかなー

 

と来た。

いや、俺の中でティンパニーと太鼓みたいのとコントラバスは吹奏楽部のクソデカ三銃士なのよ。

 

コントラバスが良くてティンパニーがダメってのが理解出来ない。

いや、ティンパニーがダメなのは当然なんだが。

なんなら、ドラムセットもスタジオのを使うらしい。当たり前だ。デカ過ぎる。

 

ちなみに、アレだ。ティンパニーって、プリンの容器をデカくしたような太鼓ね。油断すると四匹で包囲してくる怖いヤツだ。

 

俺が頭を抱えてくると、柳川さんから追伸が。

 

――エレキギターのエレキじゃないのが、アコースティックギターでしょ? ベースのエレキじゃないのがウッドベースだよ

 

え?

 

――ウッドベースって?

――コントラバスだよ?

 

そうなの?

 

――っていうか、弾いて貰えば良くない? すぐ解るよ。

 

確かに、そうだ。

アンジェラはコントラバス奏者として一端のモノだと言う。

聞いてからでも遅くはない。なにしろここの防音は完璧だしな。

 

俺はアンジェラに向き直る。

 

「えと、良いみたい?」

「でしょー! ベースだもん!」

「あの、ソレで一曲弾いて貰えって……」

 

俺がそう言うと、アンジェラはフンスと鼻息も荒く、楽器ケースを開けた。

 

当たり前だが、中から艶やかなコントラバスが現れる。

素人目にも解る。よく手入れされている。それでいて死ぬほど使い込んである。

 

そして、アンジェラはクソデカいコントラバスを抱えるように構えた。

 

その瞬間に理解する。――コイツ上手いわ。

 

立っているより、歩いてるより、構えた姿勢が自然に見える。

格闘技だって、そう言うヤツは絶対に強い。

 

それだけの雰囲気があった。

 

「あれ、弓は?」

「派手なの演るんでしょ? なら、使わない、アッチの世界で弾いてるの見たでしょ?」

 

デモンズエデンか。

見たけど、アレはアッチに弓がないから仕方なく手で弾いてるのかと思っていた。

 

違うらしい。アンジェラ曰くこっちの方が得意。

 

そう言って、四つの弦を手で叩くように弾き始めた。

 

「は?」

 

ベースだ。まさにイメージするベースの音。

確か、スラップ奏法って言うヤツ。コントラバスで出来るのか。

 

アップテンポなリズムが腹に響く。

滅茶苦茶カッコイイ。

 

こんな楽器なの? コントラバスって。

弓でブォーンって低い音で唸っている印象しかなかったが、本当に俺が知ってるエレキベースに近い音だった。

 

そんで、滅茶苦茶に上手い。

おそらくアンジェラはドヤるつもりで超絶難度の曲を弾いている。

早いリズムが、凄い勢いで転調していき、指先を目で追うのがやっとだ。

 

え? 何コレ?

 

滅茶苦茶上手いけどさ。

……コレってライブハウスでやるモンなの?

 

と、更にスマホに追伸が来た。

 

――普通にライブハウスでベースとしてウッドベースを使う人も居るよ。大きくて重くて高くて大変だからあんまりやらないけど

 

そうなんだ……

 

よそ見しているのが気にくわなかったのか、アンジェラは更にテンポを上げていく。

 

「♪~」

 

しかも、なんか英語で歌い始めた。有名な曲のアレンジっぽい。

え? 上手すぎるんだが? 高校生の部活のレベルではないのだが?

 

――ちなみに、アンジェラは天才だよ

 

早く言えよ。いや、知っては居たよ。

本人もドヤってるし。

 

あれ? これ、一番軽音部に相応しくないの俺では?

 

アリスは怪しんだ。

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