デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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アンジェラとツーリング

「ねぇ、ツーリングに行こうよ」

 

ギター練習が終わった後、アンジェラがそんな事を言い始めた。

学校を休んだから時間はたっぷりある。

 

だが、ツーリングと言っても自転車もバイクもない。あったところで俺達の行動範囲は波木野市の中だけだ。

二人して自転車で市内を回ったら目立って仕方がないだろう。

 

「違うよ、アッチの世界でピラークに乗って出かけようよ」

 

そっちか。

デモンズエデンの中ならば、俺達は誰にも邪魔されずに本当に二人っきりだ。

 

生きるか死ぬかの異界に行くのは厳しいんじゃないかって思うだろうが、それほど厳重ではない。

 

崖から落下してどのぐらいダメージを負うか? みたいな実験は何度もやっていて、そのたびに作戦司令部をたててミッション開始! みたいなノリでは当然なかった。

他にも、細々とした実験で度々異界に行っている。個人的な用事で行かせて貰う時だってあるぐらいだ。

 

二人でピラークに乗って周囲を探索したいと言えば通るだろう。なにしろアンジェラが操るヒロイン『ティア』はアリスよりもステータスが高い。二人ならむしろ安全だ。親父さんがなんて言うかは解らないがな。

 

フィールドを走れば未知の危険は当然ある。だが、危険と言う意味では高所から飛び降りる実験の方がずっと危険だった。

足の骨が折れた状態で、青い顔で鐘楼に逃げ込んだ事も一度や二度ではない。

あの時襲われていたら何も出来ずに殺されていただろう。

 

遠出はせず、聖堂近くの序盤のマップを二人で走るだけならば問題は何も無いはずなのだ。

 

 

遠藤さんにお願いして、アッチに行く手筈を整えて貰う。

 

異界に行く時の最低人員は、遠藤さん、ドリームフレームの技師、医者。あとは自衛隊の将校と定められている。今回は小林1佐がわざわざ来てくれた。

 

「気晴らしにツーリングか……それも良いだろう、外は天気も悪いし、市内はどこも大騒ぎだ」

「大騒ぎの原因はアリス本人ですけどね」

 

遠藤さんのツッコミは容赦がないな。

俺の変な語りや動画がなくたって、大騒動なのは変わらないだろうに。

 

それでも俺は気弱な様子で応える。

 

「いや、思ったよりキツイ事がネットにも書かれていて、アッチで気張らしをしたいなって」

「そういった書き込みは気にしない事だ。事情も解らず叩けるモノを叩いてるだけの子供が相手だと思った方が良い」

 

小林1佐の心の籠もった励ましなだけに、別にネットの反応なんて気にしてないとは今更言い辛いね。

 

アンジェラも気まずそうに補足する。

 

「ちょっとこの子、生き急いでる感じがしたので励ましたいなって」

「そうか……」

 

ちなみに、英語で喋っている。

翻訳機があったから即死だった。

 

こっちは本心から心配されてるじゃねーの。

いや、ダシに使われてないか? アンジェラよ、お前もピラークに乗りたいだけじゃないの?

 

とまぁ、許可を取った。

ちなみに、お互いの親には一応連絡をする。アンジェラの親父さん。グレッグ氏にももちろん連絡したのだが仕事でアメリカに向かっているらしい。

 

「では、行ってきます」

「行ってきます」

 

二人で宣言。

デモンズエデンを起動する。

 

デモンズエデンを起動すると俺は異界に転移するのだが、その時アンジェラがくっついていると彼女の魂もつられてティアの体に入る事になるのである。

この辺りも異界に行く実験で明らかになったことだ。

 

こう言う細々とした実験は呆れるぐらいに繰り返している。

俺達以外で異界に干渉する方法を必死に探しているから、こう言う実験が一番多い。

 

もう慣れたモノ、勝手知ったる俺達は異界へ旅立つ。

 

俺の姿はかき消え、アンジェラは意識を失った。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ふぅ」

 

気が付けばいつもの聖堂だ。

 

「うぅん……」

 

そして、ティアも目を醒ます。

 

「どう? 記者会見があったから四日ぶりぐらいだけど」

「あなたは同じ体なのよね。不思議な感じ……」

 

アンジェラ、もといティアは自分の体の調子を確かめている。

自分の体と違うってのは違和感があるのだろう。

 

こっちに居る限り、腹もへらないし、排泄もしない。小さな怪我はすぐ治る。

 

それに、アンジェラとティアでは体の性能も全然違うのだ。ティアならば垂直跳びで数メートル飛べるんじゃないかな?

 

「まぁ、俺も体を変えるんだけど……あ、アリスのままの方が良かったりする?」

「ううん、ヨウの体の方が良いよ。アリスの体だと無茶するから」

 

……うぅ!

 

美少女無罪の感覚でハチャメチャし過ぎたか?

 

でも、女の子同士だからって不用意なボディタッチとかはしてないつもりだぞ? 解せぬ。

ちなみに、ヨウの体だとアリスを召喚出来るから、どう考えても無茶するならヨウの体でするべきなんだよな。

 

「と、じゃあナビナビ、体返してよ」

「はーい」

 

聖堂で本を読んでたヨウ、こと俺の体がのっそりと立ち上がる。

 

「なんか、不思議だよね、ナビナビさん」

「まぁね……」

 

ナビナビは記憶喪失の被害者の一人と伝えているが、実際は悪魔だ。

いや、異界の住人と言うべきか。

 

俺だって元の世界に帰って、じっくり考えたさ。

ナビナビに騙されてるんじゃないかって。

 

俺がナビナビと異界を攻略することが、悪魔との契約が成立する条件なのでは? とかな。

 

まぁ、でも考えても無駄なんだよ。

 

このまま放置して、点滴で過ごす俺の肉体が死んだら元も子もない。誰かが助けてくれるのを期待して、膝を抱えて待ってるのは性に合わない。

 

なら、ナビナビと協力して攻略するしか無いんだわ。

 

信じるか信じないか、俺なりに判断する方法として、裏切られたらしゃーないって諦められるかどうかを基準にしている。

 

ナビナビに最後の最後に裏切られて「ここまでご苦労だったな」とか言われても、いや、お前がいなけりゃもっと早く死んでたわって話で諦めがつく。

 

ってか、直接ナビナビに聞いたんだよ。

「ナビナビ様、最後に裏切ったりしないよね?」って。

 

そしたら「いや、裏切って得しそうだなって思えば裏切るかもだよ?」って言われたね。

 

独特の感性を持っているよな。

 

ちなみに、ナビナビが悪魔だって伝えてないのは、俺が伝書鳩になってアメリカや日本の質問をナビナビに伝えるのが面倒だからだ。

どうせまともに答える気も無いヤツ相手に伝書鳩になるのは御免だ。

 

アイツらがコッチと直接会話出来るようになったら暴露しても良いかなと思っている。

ナビナビだって本を読んだり向こうの事を知りたがってるからwinwinだろう。

 

と、ナビナビに体を返して貰って、ピラークを呼び出してツーリングだ。

 

「と、その前にちょっと良い?」

「?? 良いけど?」

 

アンジェラに許可をとり、俺は壁に背を向ける。

壁に背を向けるとカメラが回り込んで正面から撮影してくれるのだ。

 

それで何をするかって言うと、決まっている。

 

カメラがあるだろう位置に向けご挨拶。

 

「あー、母さん? 見えてる? 元気だよ。顔色が悪いって言ってたけど、元からだから。グールって死体みたいな体になってるからで別に元気。食べ物はこっちじゃ食べられない。食べても意味が無い感じ。アリスの体なら食べられるから持ってきてくれたら食べるよ。会いたいなら会えるけどアリスの体でしか無理だね。えーっと、記者会見から変な取材とか来るだろうけど嫌だったら全部無視していいからね。動画の収益は親父から振り込まれると思うからよろしく」

 

と、こんなモンかな。

コレを編集して親にビデオレターで送るのだ。

 

一気に言い切ると、アンジェラは首を傾げる。

 

「直接電話で言えば良くない?」

「いや、コッチの体で言わないと寂しがるんだよ」

「あー、そっか逆なんだった。混乱するなぁ」

 

アンジェラはその点良いよな。現実では現実の体。ゲームみたいな異界でゲームの姿だから。

 

俺は逆なんだもん、こう言う苦労もある。

 

「じゃあ、行こうか」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

俺は聖堂の外でピラークを呼び出した。

黒豹のベノムの方がカッコ良いんじゃないかと聞いたけど、ヨウの体とダチョウみたいなピラークで良いそうだ。

 

で、今、アンジェラは俺の後ろでピラークに乗っている。ティアの姿だけど、そこそこ似てるから、コッチとしては違和感無い。

男の俺としては、デートって感じだな。せっかくだからナビナビにもお留守番をお願いしている。

 

俺の体にしがみついてアンジェラは言う。

 

「変な感じ、こっちだと大きくてガッチリしてるね」

「そりゃな、あっちの体は42キロだぞ?」

 

157cmで42kgは俺に言わせればガリガリだ。

女子は細くて可愛いって言うけれど、俺に言わせりゃ低体重も良いところ。

 

元の体なら178cmぐらいで70kg前後だ。

全く体格は違う。

 

「さっきまでちっちゃいアリスと話してたのに、こっちの体は大きくて、なのに中身は同じって不思議」

「俺も不思議だよ」

 

話ながら、ピラークで草原を駆ける。ピラークは山道もへっちゃらなぐらい馬力がある。二人で乗ってもそれほどスピードは落ちていない。

良い天気だ、風が気持ちいい。気晴らしにはピッタリだ。

 

「不思議って言えば、アッチは雨だったのにコッチは晴れだな」

「そうだね、あ、そう言えばこっちでもたまに雨は降るよ」

「へぇ、そう言えば俺はこっちで雨だったこと無いかも」

「ずっと教会に居て、一日ぐらい雨があったかなって位だから珍しいよ」

 

元のゲームには雨など無かったハズだ。

細かい所で世界が違う。雨となれば戦い方はガラリと変わってしまうだろう。

 

そんな事を考えていると、目の前にはゴブリンの集団。

キーキー言いながら向かって来るので、ロングソードで迎撃する。

 

――ギーッ!

 

二、三匹倒した所で蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

気分爽快。

 

すると、アンジェラは文句を言う。

 

「もー、台無し。せっかく気持ち良くツーリングしてたのに。わざわざ構わなくてもいいじゃん。どうせキリが無いんだし」

「なんかムシャクシャしててさ……」

「良いけど、なるべくレベルは上げない方が良いんでしょ?」

「まぁ……なぁ」

 

 

レベルシステムが開放された。

雑魚をちまちま倒しているだけでも、レベルは上がる。

もしレベル60まであげたら、大抵のボスはあっさり倒せる。ラスボスの撃破だって見えてくる。

 

だが、それは許されない。

 

侵入される可能性があるからだ。

侵入の可否はレベルで決定される。

ナビナビが言うんだから間違いないだろう。

 

ここでゴブリン相手にレベルだけ上げれば、序盤の武器でダークスフィアのメンバーと戦うハメになってしまう。

 

それなら、ボスと戦って次のエリアに進んだ方がマシだ。

 

レベル差があれば侵入されない。アレックス戦は例外だった。

俺は、次元鏡にダークスフィアのアレックスを殺したいと願った。だから、アイツの世界と繋がってしまった。

レベルも装備も圧倒的に向こうが上。

 

あんなのは二度と御免だ。

 

適正レベルで攻略していく必要がある。

そう言う意味で、近衛騎士を倒した今は、もう次のエリアに向かっても良いぐらいのレベルである。

 

しかし、なんとなく踏ん切りが付かないでいた。

アンジェラ救出の後、色々な実験だ記者会見だと間が空いてしまったからだ。

 

「怖いなら私も一緒に攻略しようか?」

「え? それは……」

 

正直、ありがたい。

ティアに設定されたレベルは今の俺よりずっと高いからだ。

ティアは序盤のエリアから外に出れないが、最初の砦の攻略だけでも頼りになる。

 

だが、彼女を戦わせたくないと言う気持ちもあった。

 

人の魂が入った敵を倒した場合、どうなるのか? 未だに解ってないからだ。

肉体と魂の接続が切れて、再起不能なのか? それともゲームがクリアされたらこの世界に囚われた魂を元の体に返せるのか?

 

それすら解っていない。

 

俺はもう、最初の爺さんに下級悪魔、近衛騎士、アレックスも入れれば四人も倒している。

 

殺人の覚悟がある。

アンジェラにそれをさせるのは違う気がするのだ。

 

俺がそう言うと、アンジェラは首を振る。

 

「でも、私が何もしないでヨウとアリスが死んだら、私が見殺しにしたのと変わらないじゃない」

「それは……いや、でも俺は鐘楼で復活するし」

「絶対じゃないでしょ? それに、元の世界に帰れなくなる」

「それは、まぁ……」

 

緑の平原をぼんやりと駆ける。

結局、そうなんだよな。

 

動いても後悔するし、動かなくても後悔する。

そんな中でも選ぶしかないのは、俺もアンジェラも一緒なのだ。

 

「だって、一人じゃアリスが死んじゃいそうに思ったんだもん」

「え? 俺、そんなに不安定な精神状態に見えた?」

 

自分でもヤベー奴だなとは思うが、殺しても死なないぐらいに図太く振る舞ってきたつもりだった。死ぬか生きるかの動画で金儲けしようってぐらいには。

 

だが、アンジェラが気になったのは俺のギターだと言う。

 

「さっきは、ああ言ったけどね。天才ギタリストが死ぬ理由って野放図な性格でドラッグとかお酒を飲みまくったってだけじゃないんだ」

「どう言う事?」

「事故で死ぬ率も高いんだよ。不思議なんだ。結局のところ偶然だって言われてる」

「へー」

 

だから何だろう?

天才的なギタリストは偶然だろうと無かろうと、不思議と早死にする。それだけの話だろうに。

 

「この前、008文書の話を聞いて。それで思ったんだ。交差点の悪魔と契約したロバート・ジョンソンだけじゃなく、それ以外の二十代で死んだ天才ギタリストたち。ひょっとして、みんな悪魔と契約してたんじゃないかって」

「まさか……」

「それぐらい、鬼気迫る魅力があったんだよ。アリスのギターに」

 

始めて一ヶ月ちょっと俺のギターに?

まさか。

 

それに、十九世紀以降の人が、大真面目に悪魔召喚の儀式をしたなんて思えない。

 

……いや、どうだろう?

 

悪魔召喚に必要なのは、ドラッグ、魔法陣、そして人の魂。

 

ギタリストなんてドラッグまみれだ(偏見)。

魂はギタリスト本人のモノとして、魔法陣が無いではないか。

 

いや、ゲームが魔法陣の代わりになるのだ。もっと小規模な、おひとりさまの儀式なら他のシンプルな物でも代用出来るのでは?

 

 

……まさか、それが、ギター??

 

 

と、そんな事を考えていた時だ。

 

「ちょっと待って……あれ、何?」

「マズい……」

 

熊だ。

森を縄張りにする熊が、何故か草原に出て来てしまった。

これは序盤の雑魚にしてはそこそこ強いモンスターだと言われている。

 

「でも、森から出てくる事は無いって……」

 

アンジェラはそう言うが、現に出ている。

 

……つまり、肉入りの可能性がある。

 

――グルルル

 

気付かれた。

二人乗りのピラークでは逃げ切れない。

 

思いがけず、戦いが始まってしまった。

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