デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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アンジェラとツーリング2

アンジェラは早鐘を打つ鼓動を悟られないように必死だった。

 

ピラークに乗って、後ろからヨウに抱きついた姿勢。腕を回して感じる体は、筋肉質でガッチリしていた。

 

……男の子だ。

 

当たり前だが、否応なく実感する。

華奢で小さいアリスとは全く違う。

 

「変な感じ、こっちだと大きくてガッチリしてるね」

「そりゃな、あっちの体は42キロだぞ?」

 

ヨウは磊落な調子で鼻息荒くニヤリと笑う。

コレが本当の俺だぞと言わんばかり。

 

だが、その不敵な笑みこそがヨウとアリスが同一人物だと物語っていた。

 

アンジェラは混乱してしまう。

ヨウは、異界で手に入れたボロボロのマントに麻布の旅装、革で補強したパンツとブーツ。粗野な冒険者の出で立ちで、アリスとは全く違う。

 

今もロングソード片手にゴブリンを追い回している。野蛮な男だ。

 

同じ事をしても、アリスだとお転婆と思うと同時に、僅かな狂気さえ感じてしまう。美しさと狂暴さのアンバランスさがそう思わせるのだろう。

 

だが、ヨウの体であれば粗野でタフな一角の戦士に見えた。

 

カッコイイ。全て彼に頼ってしまいたくなる。

だが、アンジェラはヨウが無理をしているのを知っていた。

 

焦燥感に満ちたアリスの鬼気迫るギターを聞いてしまったから。

 

「怖いなら、私も一緒に攻略しようか?」

「え? それは……」

 

ヨウは言い淀むが、即座に断りはしなかった。

それは当然で、ティアの体に入るアンジェラの方がずっと強いのだから。

 

レベルが上がらないティアは、いつかプレイヤーに抜かされてしまう。だが、レベルを上げると侵入される危険がある今だけは、ティアが協力する事で攻略が進むはずだった。

 

 

後は、アンジェラが『殺人』の覚悟を決めるだけだ。

ある日、平気なのかとヨウに聞けば「人質同士で殺し合いをさせられてるようなもんだから、気にしない。殺さなきゃ死ぬだけだ」と言い切った。

 

彼なりに覚悟を決めている。

そんな彼が死ぬかも知れない戦いを、基地でモニター越しに見ているだけなのは嫌だった。

 

ヨウは知らないだろうが、高所から飛び降りたり、スキルのテストをしている時ですら、基地で見守る大人達は辛そうにしているのだ。

 

それを見たアンジェラは、本当に生きるか死ぬかのギリギリの戦いを安全な場所から、それもモニター越しに見るのなんて、まっぴらだと思ったのだ。

 

なにしろ、自分だけはヨウを助けられる。

味方をしなければ絶対に後悔すると思っていた。

 

やれるかどうかではなく、やらねばならぬと感じていた。

 

その時、だ。

 

「ちょっと待って……あれ、何?」

「チッ、マズいな……」

 

見つけたのはアンジェラ。

森を縄張りにする熊が、何故か草原に出て来てしまっていた。

 

アンジェラはデモンズエデンの序盤だけを遊んでいる。

聖堂近くの森に意気揚々と飛び込んで、熊にボコボコにされた記憶があった。

 

たかが野生動物と侮っていい相手ではない。しかし、おかしいのだ。

アンジェラは素直に疑問をぶつける。

 

「でも、森から出てくる事は無いって……」

 

アンジェラも、現実に帰ってからはデモンズエデンの攻略情報を読み漁っている。だが、草原に熊が出るなんて聞いた事がなかったからだ。

 

「……肉入りかもな」

 

ヨウの声にハッとした。

野生動物に人の魂が入っている事もある。

凶鳥ドードーにも、人の魂が入っていた。

 

見れば、熊はゆっくりとコチラに向かって来ている。

 

 

――グルルル

 

 

見つかった。

もう逃げられない。

 

だが、所詮は熊だ。強さとしては近衛騎士の方がずっと上。

 

「ねぇ、二人で戦えば……」

「アンジェラはココで待っていてくれ、俺がやる」

「えっ?」

 

ヨウはアンジェラの腰を掴むと、さっさとピラークから降ろしてしまう。

 

「ちょ、ちょっと!」

「じゃ、行ってくる」

 

「まって!」

 

アンジェラは止めようと手を伸ばす。しかし、ズボンの裾を掴もうとした手は空振った。

ヨウがさっさとピラークを走らせて熊に駆けて行ったからだ。

 

「もう!」

 

アンジェラは走って追いかける。

ティアの体は、普段のアンジェラでは考えられない速度で走ったが、それでも霊獣であるピラークには追いつけない。

 

ピラークに乗ったヨウが熊と交錯する。

 

「オラッ!」

「なんでっ?」

 

いきなり斬りつけた。

肉入りかも知れないと言っておきながらだ。

 

――グゥゥゥ!

 

案の定、熊は怒りに唸り声を上げている。

一方でヨウは一撃離脱で駆け抜けていった。

 

ヨウに言わせれば、戦う前にいちいち確認を取って先手を譲っていては勝てる戦いも勝てなくなる。

 

相手に敵意が見える以上、まずは無力化してから確認すれば良いではないかと思っているのだが、アンジェラには野蛮なヨウの発想が理解出来ない。

 

呆然と立ち尽くしていると、怒りに震える熊と目が合ってしまった。

 

――ガァァァ!

「えっ! あっ、こ、コンニチワ」

 

パニックになり、日本語で挨拶。

言うまでも無いが、被害者はほぼ全員アメリカ人。

片言の日本語で挨拶する意味はまるでなかった。

 

「キャッ!」

 

そこを襲われた。

大振りに前腕を振り回す。

ゲームで見たままの攻撃をギリギリで躱す。

 

頬が切れた。血が止まらない。

アンジェラはその場でへたり込んでしまった。

 

――グルルルッ

 

気が付けば、後ろ脚で立ち上がる熊が視界一杯に立ち塞がっていた。

強烈な質量を伴った前腕が振り下ろされようとしている。

 

「オラァ!」

 

そこに、ヨウとピラークが真横から突撃する。

 

「ヨウ!」

「なんで来た!」

 

ヨウは怒鳴る。

覚悟もなく危険な戦いに踏み込もうとしたアンジェラを叱った。

 

だが、アンジェラも引かない。

 

「それより、いきなり斬りつけるなんて!」

「アレで良いんだよ」

「私も戦うって言ったのに! 全部一人でやろうとしてる」

「……解ったよ、二人で無力化しよう」

 

ヨウはピラークから降りた。

騎馬で連携を取るのは難しいし、アンジェラがべた足で戦うなら、ヒットアンドアウェイで戦う事は出来ないからだ。

 

「俺が正面を受け持つ、アンジェラは回り込んで攻撃してくれ」

「解った」

 

――ガァァァ

 

ヨウは熊の腕をいなし、噛み付いてくる頭部を剣で牽制した。

 

「固いな!」

 

しかし、顔や伸ばした手への攻撃は、ぶ厚い毛皮に阻まれてダメージを与えられない。

 

一方でアンジェラは……

 

「やぁッ! ……え?」

 

レイピアは、毛皮を掻き分けブスリと熊に突き刺さった。

それは、アンジェラが想像していたよりも深く、鋭く、そして不快な手応えだった。

 

生き物を傷つけた。

 

ハッキリ自覚する。それだけ生々しい感触だった。

思っていた以上にダメージを与えられる。相性が良い相手。なのに、喜びよりも困惑が勝ってしまった。

 

「おい! ボーッっとするな!」

「え? キャッ!」

 

ヨウが叫んだが間に合わない。

アンジェラは熊の攻撃をまともに受けてしまう。

 

より火力がある方を警戒するのは当然だった。

追撃しようとする熊の鼻先に、ヨウが割り込む。

 

「クソッ!」

 

しかし、無理が祟った。

無理矢理割り込んだ事で、無理な体勢で熊の攻撃を受け止めるハメになってしまっていた。

たちまち転がされ、のし掛かってくる熊の猛攻を耐える。

 

「こなくそ!」

 

剣を捨て、首筋を噛み付こうとする熊の牙を両手で掴んで耐える。

非常に危険な状態だった。

ヨウがずっと恐れていた事態でもあった。

 

『体勢が崩れ、倒れた所を一方的に攻撃される』

 

ゲームなら無敵時間もあるだろう、ダメージを食らいながらも力尽くで立ち上がれたりもする。

 

しかし、一人で戦い、現実で『こう』なってしまったら、逆転の目などあり得ない。

 

「ヨウを、離せッ!」

 

しかし、今はアンジェラが居た。

 

レイピアを構えたアンジェラが全体重を乗せて突撃する。

 

ざくり。

 

小気味の良い音すら立てて、アンジェラのレイピアは心臓へと突き刺さった。

偶然にも、一撃で致命傷を与えた。

 

――オォォォ

 

ヨウに噛み付こうとする顎から力が失われていく。熊の体からは急速に命が抜け落ちていた。

 

熊の下から這い出したヨウがロングソードを手に取り、構える。

 

「俺がトドメを刺す」

「待って!」

 

しかし、アンジェラは止めた。

ヨウは苛立たしげに、アンジェラの襟を掴んで凄む。

 

「コイツが肉入りじゃない証拠なんて無いんだぞ! 二千人の被害者は、麻薬をやってたヤツらばかりだ。ぼんやりと夢心地で熊になりきってるだけかも知れない!」

 

叫びながらも、ヨウは恐らく違うと思っていた。

かつてのハーミット山で、敵が出ないハズのアスレチックコースを飛び回るコウモリを見ていたからだ。

現実化した異界では、現実の様に縄張りを外れてしまう個体が現れるのだろう。

 

だが、ソレだって確実ではない。

今まで倒したゴブリンの中に、人間が混じっていても不思議ではなかった。

 

「ソレでも!」

 

アンジェラは覚悟を決めた。

口だけだと思われたくなかった。

 

ヨウを守りたいと思う気持ちは本物だった。

 

レイピアを手に踏み込む。

 

「やっ!」

「おい!」

 

ヨウが止めるにも構わず、アンジェラは熊の頭部にレイピアを突き刺した。

 

熊は力なく倒れ、動かなくなった。

死んだのだ。

 

「大丈夫か?」

「……大丈夫」

「大丈夫って顔じゃないだろ」

 

アンジェラは青い顔で震えていた。

手の感触が気持ち悪くて、震えが止まらなかった。

 

「ありがとうアンジェラ。助かった」

 

アンジェラの手をヨウは自分の大きい手で包む。

 

ヨウの両手が温かくて、たちまち震えが止まるのをアンジェラは自覚した。

大きく息を吸って、吐く。

 

不規則な呼吸を整える。

 

「私、やっぱり戦うよ」

「そうか」

「うん、一緒に。砦までだけど」

 

デモンズエデンの最初のフィールドは『庭』と呼ばれている。

アンジェラの体。ティアが活動出来るのは『庭』の中だけ。

 

『庭』と『エントランス』と呼ばれる次のフィールドを区切るのが砦。

かつてのショッピングモールダンジョンのあった場所にある砦だ。

 

目玉商品である霊獣だけ先に頂いてしまったが、本来の砦は多数の敵が待ち受ける地獄だ。

 

近衛騎士ほど強い敵は出ないが、砦の中から次から次へと騎士が湧いてくる危険な場所で、数が多いだけにイレギュラーがいくらでも起こり得る。

 

肉入りの敵だって、複数居るかも知れない。

 

それでも、アンジェラは覚悟を決めた。

 

「私、ヨウと一緒に戦いたい。パパは説得するから」

「無理すんなよ」

「そっちこそ無理してるじゃない!」

「まぁな、男の子だし」

「……半分女の子じゃない」

 

アンジェラがそう言うと、ヨウはゲッソリした顔で泣いた。

 

「ソレは言いっこナシだろぉ」

「ふふっ」

「ははっ」

 

気持ち良い風に吹かれ、ピラークに乗って二人は聖堂へと帰っていく。

 




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