デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
なんとしてもアリスの登校姿をカメラに収めろ。
これがテレビ局各社が自社や系列制作会社クルーに命じた内容だった。
コレだけ話題性のある事件であるのに、インタビューひとつ取れない。それどころか、本人がYouScreenに専用チャンネルまで作って情報発信している。
ただでさえメディアの主役がテレビからネットに移って久しい、ニュースまでネットの後追いでは立場がなかった。
空前絶後の世界的スクープが東京からほど近い波木野市を舞台に起こっている。各社が威信をかけるのも当然であった。
しかし、記者会見の後、アリスは登校して来なかった。
校門前には各社マスコミが陣取って登校を待ったが空振り。
ハッキリ言って通行の邪魔で、教員や関係者が何度も注意するが、そんなのは海外のクルーはどこ吹く風。日本語が解らないフリをして無視する者まで後を絶たない。そうなると、日本のクルーも便乗して無視を決め込む無法地帯。
……こんなモノは長く続かない。
中全テレビのアナウンサー、榊はそう考えていた。
既に、無法な報道カメラを告発するYouスクリーマーが現れている。学生がtiktalk動画でマスコミを逆撮影して、迷惑している生の声まで届ければ、ネット上ではもうブーイングの嵐だ。
もっと言えば、あと数日もすれば政府や米軍経由で正式な抗議が来て、キッチリと絞られるに違いない。
しかも、そこまで頑張って校門前で張って居ても意味が無いのを榊は知っていた。
アリス達は自衛隊の送り迎えで車で裏口から入り、教員用駐車場で降りる。通学風景など撮れるハズが無い。
それでも撮ってこいと言われれば撮らざるを得ないのが企業戦士の悲しい性だ。
今日は月曜日、土日を開けて今日辺り登校すると榊は踏んでいた。
榊は元々会社で借りていた安アパートを引き払い、学校近くのマンションに一室を構える。
ここからスクープを狙うつもりであったのだ。
「って言っても、こんなんでまともに撮れますかね?」
「チラって映ってれば良いのよ」
マンションから撮影と言っても、都合の良い部屋が空いていたワケでもない。かなり距離がある。角度だって最適とは言えない。撮れと言うから撮るだけだ。ヨソが成果ゼロなら、チラリと映るだけで価値がある。
なにしろ違法に撮影した写真は後で大問題になる。いや、自室からとは言え学園内を盗撮するのだって問題はあるのだが、偶然映ったと言えば誤魔化せると榊は踏んだ。
「900mmの超望遠で偶然映ったは無理あるでしょ」
「知らないわよ。ウチに来て検証する人なんて居ないからバレやしないわ」
カメラマンは今回、超大型のレンズを用意していた。
学園から一番近い高層マンションとは言え、駐車場で車から降りた所を押さえようと思ったら100m以上の距離はある。外野二階席からバッターボックスを撮るようなもの。表情まで狙うならば超望遠は必須だった。
「こんなの意味有るんですかねー?」
「無いわよ別に」
なにせ、本人が顔のアップをネットに上げているのだ。車を降りる姿を望遠で撮って何の意味があると言うのか。社長の自己満足以外の何でもない。
手ぶれの影響を最小限にするため、ベランダの柵にスタンドを固定して、風よけも張って。何とか対策しているが、それでも良くは映らないだろう。上からの角度、金髪が映ってソレと解れば万々歳と言った程度。
と、いよいよ自衛隊の4WDが学校裏に現れた。
「榊サン、来ましたよ」
「今日は登校するのね」
榊は目を凝らすが、豆粒みたいな車がなんとか見えるかと言う程度。これでは中の人間など判別がつくハズも無い。
榊は慌てて双眼鏡を取り出すが、中々ピントが合わせられない。
もたつく間に、車は駐車場に到着したようだ。
「あ、居ました居ました」
榊と違い、プロのカメラマンはチャンスを逃しはしない。アリスの姿を捉えていた。
嬉しそうに連続してシャッターを切る。アリスが車から降りる目当てのシーンは押さえられたようで、榊は自分の目で確認するのは諦め、双眼鏡を放り投げるとカメラマンに指示を出す。
「アンジェラさんも撮りたいわ、自衛隊員は顔を隠すけど、なるべく映らないように」
「アレ?」
しかし、カメラマンは首を傾げる。
シャッターを押す手が止まってしまった。
あろう事かカメラから目を切り、自分の目で対象を見ようとする。しかし、当然見えるハズがない。
「なにやってるのよ」
「いや、アリスに気付かれました」
「ハァ?」
この距離で? あり得ない。
榊が鼻で笑った直後。
ピロロリロン♪ ピロロリロン♪
榊のスマホが鳴った。
知らない電話番号だった。
嫌な予感がして、出る。
「あーもしもし、榊サン?」
「アリス?」
まさかと思いカメラマンに目で確認する。
「アリスは誰かに電話しています」
……間違いない。
この距離で気が付かれた。
そして、電話番号を覚えていた。
取材するときに渡した名刺の電話番号をキッチリ暗記していたのだ。
あの後、一切の私物は別班に取り上げられていたのだから。
ゾクリと寒気がする。
「榊さーん、盗撮は止めてよ、取材もお断り、連絡があったら電話するから」
「ちょ、ちょっと待って!」
言うだけ言って切ろうとするアリスを必死に止める。
「なに? 切るよ?」
「……あの、連絡してくれるのね?」
「あー、訴えたい事があればね、FBIの件とかトサカに来てるし。他の失礼なテレビクルーを告発したりするかも、でも、基本ソッチから連絡しないでね、この回線、緊急時に繋がらないと困るから」
「わかったわ、約束する。でも、コレだけは教えて」
「ン、なに?」
ゴクリと唾を飲み込んで榊は質問する。
「なぜこの距離で気が付いたの?」
「?? 何となく?」
「そう、ありがとう。電話待ってるから。絶対よ」
「絶対は無理だなぁーじゃあね」
そこでブツンと電話は切れた。
「ふぅ~」
榊は大きく息を吐く。
通話はスピーカーモードにしていたし、録音もした。
大した収穫になってしまった。
「榊さん、こっち向いてニヤッっと笑うアリスの顔しっかり撮れてます」
カメラマンの報告にデータを確認すると、確かにこっちに笑いかけている。
だが、そんな事より榊がお宝だと思ったのが、コチラに気が付くまでの連続写真だ。
すぐだ。
車を降りて、駐車場の砂利道に降り立った直後。
ぐりんと首を回して振り返ると、見上げる様にこちらに気が付く一部始終。
僅か数秒だろう。
とんでもないバケモノだ。
この連続写真が、なによりアリスの異常性を物語っている。
「期待して良いのかしらね」
何より、電話番号まで手に入った。
しつこく掛ければたちまち番号を変えられてしまうだろうが、ここぞのタイミングで使う事が出来るかも知れない。
それに……
「来ますかね? 電話」
カメラマンは呑気に言うが、榊はそっちは期待していなかった。
いや、来たら来たで問題なのだ。
「もし来たら、絶対に厄介事よ?」
「うへぇー」
カメラマンはウンザリした様子で肩を竦める。
だがどこか、その厄介に期待した表情に見えた。
ふと、榊は化粧台を見る。
鏡に映る自分の顔は寝不足で見る影もないが、同じ表情だった。
厄介なトラブルに期待して、ワクワクいる自分を自覚した。