デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
アンジェラは俺と鈴木の殴り合いにも折れなかった。
折れたのは俺と鈴木の肋骨だけ。
元より、俺にのし掛かる巨大熊の心臓を一突きにした事で、ピンチの時に咄嗟に動ける資質があるのは解っていた。
その上で、人間の暴力にも冷静。
あの娘はきっと治安の悪いスラムでも生きていける。
……いや、スラムには行かないか。
お嬢様だし。
あとはパパさんの説得だけだ。
しかし、ソレをぼんやり待つ訳にも行かない。
と言うか、攻略に役立ちそうで手頃なダンジョンが発見されたのだから、砦攻略前に行かない手はない。
何故、そんなのが今まで見つからなかったのかって?
デモンズエデンは波木野市と同じ大きさの広大なフィールドマップがあるのだが、実は地下にも広い空間がある。
終わりなき夜の国 ゼーラシア
ソレっぽい名前が付いていて、地上の天文台遺跡にエレベーターがあって、そこから広大な地下世界に行けるって寸法。
どんだけ広いんだよこのゲーム。
だけど、地下世界の中にあるダンジョン攻略は絶望的だと考えられていた。
地下に埋まって、波木野市からはどうやっても辿り着けないだろうって。
でも、違った。
波木野市は近年下水道の陥没事故が頻発していた。
戦後に整えた下水道が老朽化。大雨で土砂が流出し、気が付けば地下がスカスカになっていたと言うから恐ろしい。
なので、一気に地下を整備した。
我が家も数日間断水したんだから結構記憶に残っている。
そこで整備されたゲリラ豪雨対策の放水路。一時的に雨水を溜める貯水庫。
そして、大雨に影響されない下水、ガス、電気、インターネット網の地下整備通路。
事故を契機に、一気に整備したのである。
……ちなみに、市内の一等地のみ。
我が家はただ断水しただけで大して恩恵もないって言うから笑えない。
この手の放水路。
一番有名なのは東京にある地下パルテノン神殿って言われる首都圏外郭放水路だが、もちろん波木野市のはそんなに立派じゃない。せいぜい体育館数個分のスペース。
だけど、近年は学生が見学に訪れる人気の名所だったりする。
……そんな中、ドリームフレーム事件の考察班が気が付いた。
ゼーラシアのダンジョンって放水路にあるんじゃね? って。
考察班。
記者会見以降、ドリームフレーム事件の考察サイト、考察動画は無数に現れた。
何せ異界化したデモンズエデンの動画は大人気。おこぼれに預かろうとするヤツは大勢居る。
今、俺のチャンネルの動画は、ラーメン屋ゴブリンダンジョン、ショッピングモールのメガロドンダンジョン。そして反響がクソデカかったサーミット山の凶鳥ドードーの冒険までが公開されているのだが、もう世界的に大人気コンテンツに育っている。
正直、ウハウハだ。親父が。
サブスクサイトで先行配信させてくれないか? って引き合いも来ていて、びっくりする程のお金が動こうとしているとか。
特に最近投稿した、ドードーの反響が凄かった。
死にゲーの定番、侵入システムだけでなく、NPCに人が入ってる恐怖がウケた。
ドードーが喋り出すところなんか、ホラー映像として大反響だ。
この辺りから、考察が一段と活性化したフシがある。
そんだけの反響があると、皆が次に気になるのはダンジョンの扉が波木野市のどこに現れているか、だ。
日本ではドリームフレームも、デモンズエデンも発売していない。
しかし、海外の攻略サイトは自由に見られる。
ゲームマップを波木野市の地図と重ね合わせ、何時間もにらめっこしてアレやコレやと仮説を立てて動画で発表。
そんなのが、案外コンテンツとして成立するらしい。
扉がありそうな場所にYouスクリーマーは突撃するし、考察班は行くべきダンジョンをリストアップ。俺ならココに行く! と大盛り上がり。
そんな中、トップ考察者が動画で言及したのが、このゼーラシアの地下ダンジョンだ。
マキシミリアンも、まさかソコに地下空間があるとは、って悔しがっていた。
後は簡単。俺のドリームフレームを持ち出して、そこに扉が映るのを確認するだけ。
つまり事前調査は済んでいる。
自衛隊や米軍のみんなも色々頑張ってくれてるってワケよ。
俺は今、地下放水路の中をゾロゾロと歩いている。
メンバーは、地下通路を管理する市の職員、自衛隊員、米兵、メディカルスタッフ、技術スタッフ、遠藤さん、そして俺だ。
いっそ、マスコミも入れてみては?
と提案したのだが却下されてしまった。
飴と鞭、お行儀良くしていた順に、一社ずつ中継させる権利をあげれば、大人しくなるのではないかと考えたのだ。
だが、そんなコントロールは不要だと言われてしまった。
ちゃんと圧力をかけて違法な取材は取り締まるのが筋ってな。
そりゃそうか。
知る権利にしたって、下水道の陥没事故の時も陥没した穴の中にはマスコミを入れなかったワケで、事件のど真ん中にマスコミを通す方がどうかしていると言われてしまった。
マスコミ向けにはちゃんと色々連絡していて、アリスが地下でダンジョンを攻略すること。そのために周辺を通行止めにして、近隣住民には避難勧告を出すなどを通知済み。
市では苦情の受付や、トラブル対応の本部を構え。そこでマスコミの取材も受け付けて安全面での配慮などを説明している。それで十分だとさ。
なるほど、事故の報道でもそんぐらいだし、そこまでマスコミ対応がしっかりしていれば十分過ぎる。
ん? だとすれば、知る権利としての俺の映像の公開義務も無いよな?
今までは、ある程度報道用の素材も用意して来たが、異界がどういうもんか周知された現在、とっくに義務は果たされたと言える。
コレからは、俺の方で報道用の素材の使用権を売ったら良い。
行儀が良いマスコミには売るし、悪いところには売らない。
勝手に素材を使うようなら訴えれば良い。買ったところがライバルを蹴落とす為に通報するだろうし、業界団体へ話を通せばそっちからも圧力が掛かるだろう。
あいつらは、大規模なビジネスでお金が動いてますってなると急にちゃんとするからな。同業他社はお金を出してますよ? ってなると特にだ。
この辺は親父に任せてコントロールして貰いたい。
そんな事を考えていたら、目当ての場所に辿り付いた。
そこは放水路が何本か交差する支点であった。狭い通路が続く中では珍しく高さがあって3m近い高さの空間で、壁には幾つもの放水路が合流している。
その壁際に、元々ありましたって何気ない顔をしてデモンズエデンの大扉が存在していた。
言われなきゃ、メンテナンス用の設備かなんかかと思っちまう。
ただ、俺以外の人間が見るとタダの壁なんだ。
念の為、スマホで撮影したら何にも写っていない。
映るのは俺の目と、俺のドリームフレームのカメラだけ。
落ちていた小石を蹴ると、扉を貫通してしまう。
しかし、手で触るとしっかりと感触があるのだ。
触れるのは俺だけ。
「アリス、突入は待って下さい」
遠藤さんから突っ込みが入る。
「解ってる。避難が完了しているか確認して、装備の確認、司令部からのGOを待ってから突撃、だろ?」
「はい、避難の完了や市への連絡はコチラで行いますから、そのままお待ち下さい」
「おっけー」
って、言ってもこう言うの、結構待たされるんだよな。
俺はスマホをポチポチ。
なんとまぁ、掲示板やSNSは大騒ぎだ。
俺もポストしとくか、スマホを床に置いて、タイマーをセット。
後ろを向いて、扉に向かって刀に手をかけるポーズをキメ。
カシャリとシャッター音。
で、決めポーズを解いて、振り返ってよちよちとスマホを回収するの、ちょっと格好悪いよな。遠藤さん撮ってくれないかな……無理か。
よしよし、良く撮れてる。
真っ黒なバトルスーツに金髪が良く似合う。
下から見上げる少女の後ろ姿。
こう言う時って、顔が出ない方が格好良くない?
戦いに出る直前のリアルな雰囲気。戦いに挑む彼女はどんな表情で扉(映ってない)を見つめるんだろう……って想像させるのが良いんだよ。
ちなみに、ニヤニヤしている。
「現場到着、戦闘配備、作戦ヲ開始スル」
なーんてコメントまで添えちゃったりして。
ポチッとポスト。
おおっ! 凄い勢いで拡散されていく。
そんな間も自衛隊や米軍は無線で連絡を取り合っている。
いよいよ準備が整ったようだ。
「アリス、住民の避難は完了しました。一部のマスコミが規制線の内側に入り込む事故がありますが、自己責任として処理して大丈夫との事です」
「ありがと。あ、遠藤さん。そのマスコミ教えて。なるべく素材の使用許可を出さないようにするから」
「なるほど、後ほど報告します」
「ありがとね」
こうすりゃ、ちょっとずつ迷惑も減るだろう。
俺が煽ってるだけにコントロールしないとな。
「こちらアリス、無線感度良好。装備は確認済みです」
俺から司令部に報告する。
装備は初回にラーメン屋ダンジョンを攻略した時と同じ。バトルスーツに拳銃、日本刀、インカムだ。
もちろん向こうでは役に立たないが、帰って来た時にこの装備で戻ってくるのが肝だった。
ショッピングモールダンジョンでは、制服姿でアクションを披露するハメになったからな。
万が一、イレギュラーが発生して、異界のバケモノが扉から溢れ出たとしても、対処がしやすい。
逆に、向こうに行った直後は、着替えるまで動きが阻害される危険がある。
基本的に、入った直後から危ないダンジョンは無いのだが、肉入りが出待ちしている可能性だってゼロじゃない。ある程度は賭けだ。
嫌な想像しちゃったな。
やっぱ、何だかんだ緊張するな。
安全で、実入りが大きいダンジョンを選定したつもりだが、アリス単騎での攻略が必要となるダンジョンは失敗したらフォローが効かない。
深呼吸を繰り返す内、いよいよ司令部から号令が掛かった。
「これより、地下放水路ダンジョン攻略作戦を開始する」
「こちらアリス。準備は出来ています。どうぞ」
「HQ、よし、カウントダウン開始」
さて、久しぶりのダンジョン攻略が始まった。