デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~   作:ぎむねま

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地下放水路ダンジョン5

「はぁ」

 

頭を振って、グールの姿を頭から追い出そうとする。

 

正直、何もかも全く意味が解らない。

 

なぜ日本人が? 山田は日本人だよな? 日本ではドリームフレームは発売していない。

 

なぜグールに? 普通、ゲームの世界に入ったとして、グールになりたいと思うか? それも地形効果みたいなギミック用のグールにだ。

ひょっとして、グールに近しい存在だったのか? 何だよソレ。

 

それで「たすけて」と言ってくる意味も解らない。

もっと遠くから話し掛けて来たのなら、俺だって払いのけたりはしなかった。

 

死ぬ寸前に、手を伸ばして来たグールの顔を思い出してしまう。

 

「切り替えよう」

 

さっさとボスを倒して、ここを抜けたい。

 

俺はボス部屋への扉を開け放つ。

 

ボス部屋は、ただただ巨大な円形のホールだった。

直径で60メートルはあるだろうか? 石畳で青白い光はそのままに、中央に一本だけ太い柱が立っている。

 

「来たか」

 

天井付近に空いた大穴から、水が噴き出した。

それと共に、ドチャリと地面に落ちてきたのがこのダンジョンのボス。

 

≪恐獣デイノスクス≫

 

巨大なワニだ。全長10mはあるか? ゲームの敵としては、20m越えのドラゴンだってバンバン出てくるモンだから、モニター越しに見た時はそう大きく見えなかったが、現実で対峙するとまぁデカい。

 

人間の体を丸呑みに出来るだろうサイズだ。

 

相手はワニだ。水中で戦えば苦戦は必至。

だが、ワニと共に湧き出した水は僅かで、水たまり程度の深さ。動く度にパチャパチャと跳ねるがその程度。

 

さて、見た目に強そうなこのボスだが、そんなに強くない。……らしい。

ゲームで戦ってないから解らんが、ステータス的にもそうでもない、らしい。

 

なんかこう、実際にみると質量だけで強そう感がハンパないんだが……今更泣き言を言っても退路は無い。

 

「やりますか」

 

まずは、ゲームでの攻略通りに進める。中央の柱を盾に立ち回るのだ。

 

巨大ワニは突っ込んで来ずに、まずは一定の距離で様子見をする。

 

……ここまではゲームの動画で予習した通り。

 

すると、急にワニはコチラに背を向ける。

 

――ゴォォォォ!

 

轟音と共に、大質量が迫る。

尻尾だ。しなやかに振るわれた尻尾が迫る。尻尾によるなぎ払い攻撃。

これもゲームのままの攻撃だ。

 

太い丸太が迫ってくる様なモノ。まともに食らえばタダでは済まない。

 

――ガァン!

 

しかし、尻尾は止まった。

中央の柱に引っ掛かったのだ。こうなればもう、隙だらけ。

ゲームの攻略法がそのまま使える。

マキシミリアンの操作するキャラは、この隙にあっと言う間にデイノスクスのHPを削りきっていた。

 

さぁ俺も! と色めき立ったのも一瞬。

ここから、ゲームではなかった事が起こる。

 

「うわっっぷ」

 

――水だ!

 

水たまり程度の水量でも、長くて巨大な尻尾が振るわれれば津波となって押し寄せる。

柱に突っかかり尻尾の勢いは止まっても、巻き上がった水の勢いは止まらない。

 

ゲームでも水しぶきはあったが、ここまで大量でもなかったし、動きを阻害する効果も無かった。

 

だが、現実で大量の水をぶっかけられれば動きは止まる。

 

津波、と言うほどの質量ではないが、視界を封じ、動きを阻害するには十分な量。

 

それに、全身水まみれ。

ボロボロの袴が肌に貼り付いて気持ち悪い。

 

「クソッ」

 

尻尾を攻撃してHPを削るつもりが、動き出しが遅れた。

慌てて尻尾に斬りつけるが、大したダメージを与えられない。

 

尻尾を引っ込めたワニと再び向かい合う。

 

――ゴォォォォ!

 

また尻尾攻撃だ。

今度は逆側から振り回された尻尾。

同様に柱に引っ掛けて止まるが、ミニ津波とも言える水のカーテンも同様に襲ってきた。体勢を崩されると、なかなか隙を攻撃出来ない。

 

行き詰まってしまった。

 

一応、少しずつダメージを与えてはいるモノの、水浸しで動くコッチの体力も厳しい。

 

すると、焦れたのは向こうも同じだったのか、デイノスクスはズンズンと近付いて来た。このままぼんやり立っていると噛み付かれて大ダメージ。いや、現実化した事による質量の厄介さを考えると、噛み付かれれば即死すらある。

 

俺は距離を保って柱を盾にぐるりと立ち回る。

そのつもりが……

 

「尻尾?」

 

柱を囲むように尻尾がまとわりついて、柱にうまく近づけない。変に近付くと尻尾に吹っ飛ばされそうだ。

 

ゲームではこんなことはなかった。

 

「まさか、お前も肉入りなんて言わねぇよな?」

 

言いながらも、違うと確信していた。

 

あのグールの動きには、今考えると違和感があった。

一方で、今目の前にいる巨大ワニは、目を覗き込んでも知能みたいなモノを感じない。普通の野生動物だ。

 

つまりアレだ、そもそも柱に隠れる相手を追い込もうってのに、尻尾を使わない方がよっぽど不自然なのだ。

ゲームでは毎回毎回、不自然なぐらい尻尾を後ろに戻してから次の行動をしていたが、そんなのはゲームだけって事だろう。

 

極端に生物的に不自然な動きは、ゲーム通りに反映されない。

 

まぁ、そう言う事だ。今までのゴブリンとかでもそうだった。

ゲーム的なハメはなかなか機能しない。今回もそうだった。

 

柱の防御なしに俺はワニと対峙するハメに。

 

「オラ、来いよ!」

 

だが、こんな時の対処も俺はみっちり特訓してきた。

 

――ゴォォォォ!

 

轟音と共に振られる尻尾。巻き上がる水のカーテン。

それ目掛け、突っ込むように、俺は大きくジャンプした。

 

そう、ジャンプだ。

 

ジャンプして躱すのがコイツの尻尾攻撃に対する正攻法。

基地では、尻尾に見立てた発泡スチロールを教官に振って貰って、ソレを飛び越える訓練を何度もしてきた。

 

大丈夫だ! 行ける! 行けるはず!

 

「うあっ?」

 

しかし、俺の体は吹っ飛ばされた。

まず、水の質量でジャンプの勢いが殺された事。そして水を吸った俺の服が重くなっていたこと。

 

それによって、ジャンプの高さが足りなくなった。

 

それでも、尻尾を飛び越える程度のジャンプはしたつもりだった。

実際、直撃はしていない。骨が折れるような痛みはない。

 

ただ、ブーツの底。靴底の数センチだけが僅かに尻尾に掠ったのだ。

 

それだけで、天地がひっくり返る。

たったそれだけの衝撃で、宙に浮いた俺の姿勢を崩すには十分だった。

足を弾かれ、ぐるんと前のめりに半回転。

 

「クソッ!」

 

頭から地面に落下しそうなのを受け身を取って立ち上がる。

しかし、余計にビチョビチョに濡れてしまった。

 

なにより、ジャンプでの回避がシンドイのが解った。精神的にも何度も保たない。

更に言えば、柱に尻尾をぶつけないから隙が生まれない。反撃のメドが立たない。

 

むしろ、地面に転がったコッチの隙を突かれそうな有り様。

デイノスクスは既に逆側に尻尾を振りかぶっていた。

 

「射出! 縮め!」

 

咄嗟に、上空に逃げる。

フックショットを柱の上部に引っ掛けて、柱へと貼り付いた。

 

「躱せた! けどなぁ」

 

ジャンプは無理でもフックショットなら安全に躱せる。だが、それで攻略出来るかと言うと微妙だ。

 

上空から眼下のデイノスクスを見下ろす。まるでセミになった気分だ。

巨大ワニはコチラを見上げて唸り声を上げている、戦意は十分だ。

 

こっから落下したらそのままパクリと食われかねない。

 

……どうしたもんかな? ここから安全に倒す方法は無いものか。

 

投げモノがないかと懐を探るが、何かあるはずも無い。

重い物などこの試練に持ち込むハズが無いのだ。

 

「……あ」

 

砂袋があった。

残った予備の砂袋が水を吸ってすっかり重くなっていた。

 

「思ったより体が重かったのはコレかよ」

 

幾らシミュレーションしても、こう言うのは解らないモノだ。さっさと捨てれば良かった。単純なケアレスミス。

俺は砂袋を投げ捨てる。

 

――ギャウ

 

すると、なんか良い感じにワニの顔に命中した。元々キメが細かい砂だ。水を吸ってべっとりと泥のようになっていたモノが顔に貼り付いて目に入ったか。

 

「チャンスだ! 外れろ!」

 

俺はフックショットを外し、落下する。

そして、落下途中で……

 

「射出! 縮め!」

 

デイノスクスの首に刺し、貼り付く!

視界を奪った事で上手く言った。

 

――ギャアゥ!

 

デイノスクスは良く解らん唸り声を上げて暴れるが、背に飛び乗った俺には攻撃出来ない。だからフックも外れない。

 

俺はワニの背中をザクザクと刺して体力を削る。ゲームと違いHPバーなど見えないが、削りに削っている感覚があった。

 

「はっ! オラオラ!」

 

まるでロデオマシーンだ。

巨大ワニは暴れ回るが、フックで魔法的に貼り付いた俺は落ちる心配もない。

 

「ん?」

 

だが、虫の報せと言うべきか、急に嫌な予感がした。

 

「外れろ! 射出! 縮め!」

 

ワニの背から飛び降りて、床にフックを引っ掛けての高速移動。

するとどうだ?

 

――ギャウン!

 

ワニがひっくり返って、その場でグルグルと回りだしたのだ。

 

デスロール!

噛み付いてから食いちぎる、アレ。

 

ゲームでも、現実でも、噛み付いてから起こす行動だ。背中に貼り付いた俺を落とす為に使うとは……

 

「射出! 縮め! 死ねぇ!」

 

しかし、コレをやった後は目を回して隙だらけになる。噛まれた後ならともかく、そうでもないなら隙を攻撃し放題になる。

 

俺はデスロールが終わった瞬間に、ワニの眉間にフックを引っ掛け、縮む勢いに任せて突っ込んだ。

 

いきおいのまま、構えた刀を思い切り突き刺す。

 

HPを削りきった後だ、深々と突き刺さり脳に達した。

命を奪った確かな感触。

 

――ギギィィィ

 

「!? 外れろ!」

 

断末魔をあげて、デイノスクスはひっくり返って死んだ。

間一髪、少し遅れたら潰されていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……全然簡単なボスじゃねーだろ」

 

まるで余裕が無かった。

質量ってのはそれだけで厄介だ。

 

熊に毛が生えた程度の強さと聞いていたが、そもそも熊もアンジェラに倒して貰ったみたいなトコあるしな。

 

あとはアイテムだ。

 

現れた宝箱を開ける。

中身はパワーリスト。

 

金色のバングルで、付けると筋力が上がるんだと。

 

ヨウ向きの装備だろうな。

フックショットが破格なだけで、コレだって十分攻略に役立つアイテムだ。

 

「後は……」

 

天井付近に空いた大穴。

デイノスクスが這い出て来た穴だ。

 

普通なら、あんな場所に行く方法は無い。

ただのゲーム的なギミックで空いた穴として無視して脱出オーブで出て終わり。

 

だが、今の俺にはフックショットがある。

 

フックショットを引っ掛けて、大穴の中に滑り込む。

そこにはデイノスクスを閉じ込めていた水槽があるのだ。

 

ゲームでは、プレイヤーがボス部屋に入ると同時に水槽が割れて水と一緒にデイノスクスが這い出してくるって段取りになっている。

 

ゲームでも、その場に突然発生するのではなくあらかじめ設置しておいた方が突然重くなったりしないし、処理も自然になるんだと矢吹さんは言っていた。

 

さて、ソコに有ったのは?

 

「培養カプセル?」

 

デイノスクスの巨体が丸々入るSFチックなカプセルだった。カプセルが割れて水とデイノスクスが飛び出したのだ。

 

……プレイヤーには見えない所。開発的にも簡素な水槽で十分としていた部分。

それを、培養カプセルに置き換えた? ゲームの都合で見えないからと手を抜いた部分も作り込まれている。

 

なんだかモヤモヤするな。

むしろ、コッチが本当で、それに合わせてゲームを作らされたと言う方が納得が行く。

 

開発者は悪魔に洗脳されてゲームを作った?

ソレにしては、あまりにもゲーム的な世界過ぎるのが気になる。

 

結局、良く解らない。

 

「で、アイテムがコレが」

 

デイノスクスの管理者だった設定の古代人の死体。それが≪雷爆符≫と言うお札を三枚持っていた。

ゲームのままだ。

 

このお札を剣で斬ると、5分程度、剣に雷のエンチャントを付与する。使い切りの貴重品。

砦には金属鎧を着た騎士が多いので、攻略に使いたかったモノだ。

 

「じゃあ行くか」

 

取りたかったアイテムはコレで全部だ。

後はオーブに触って脱出するだけ。

 

「…………」

 

最後に振り返って培養カプセルを見る。

世界観に合わない科学の産物。持ち出そうとしても壁に貼り付いて少しも動かせなかった。

 

違和感がある。

いや、ゲームだって地下に都を作ってるだけに高度な文明があったって設定だった。

 

釈然としないモノを感じながら、俺はボス部屋に戻り、オーブに触れた。

 

そうして俺は現実に帰還する。

 

長かった。思ったよりも何倍も苦戦した。

俺はようやく地下放水路ダンジョンを攻略したのだった。

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