デモンズエデン ~死にゲーを生身で、現代社会を美少女エルフで戦うハメになってしまった~ 作:ぎむねま
「こちらアリス。帰還しました」
「HQ、こちらでも確認した。……無茶し過ぎだ」
「はい、ちなみに山田なんて被害者は居ませんでしたよね?」
「事件に巻き込まれた二千人は名前と顔が判明している。山田と言う人間は居ない。それは確実だ」
……そうだよな。
現代に戻って来た俺が、真っ先にインカムで確認したのはソレだ。
いるわけねーんだよ。
ドリームフレームは日本では発売していない。俺のは医療用に特別に認可されたヤツだ。
どう言う事だ?
日本から異界に行く方法が存在する?
あり得ない話じゃない。
現に、異界への扉が波木野市に存在しているのだ。常人には触れないが、特殊な人間なら見えたり触れたりするんじゃないか?
何か条件がある?
悩んでいると、遠藤さんに肩を掴まれた。
「アリス! 聞いていますか?」
「え? どしたん?」
「どうしたもこうしたも無いでしょう? なんであんな無茶を!」
聞けば、扉の外でドリームフレームでモニターしていたスタッフは、心配のし過ぎてハゲそうになっていたらしい。
今回は即死系のアスレチックだ。見ていてヒヤヒヤしたに違いなかった。
「寿命が縮むかと思いました」
遠藤さんはガチギレしている。
「いや、コレでもまだ簡単な方だよ。他のダンジョンなら火のトラップで丸焼きとか、ボスとしてドラゴンとか出てくるんだから」
「では、攻略自体を考え直した方が良いのでは? あんなのは無茶です」
「いや、今更そりゃあないでしょ」
俺は呆れてしまう。
遠藤さんにしてソコまで言うか。
実際、ゲームをやらない人には、デモンズエデンみたいなゲームを死なずに攻略するって『無茶』が伝わっていなかったかも知れない。
この手のゲームはいわゆる『死にゲー』と言われている。死ぬのが普通。死なずに攻略出来る方が稀なのだ。
腕に覚えがあるゲーマーだって攻略サイトを見ながら挑むのも珍しくない。それでも何度も死ぬのが『死にゲー』って言われる所以。
それが、現実化して肉入りなんてイレギュラーまであるならば、ここまで死なずにアリスが攻略出来ているのが奇蹟みたいなモノ。
「そんな危険な戦いにアンジェラさんまで巻き込むつもりですか?」
「ソレを言われると返す言葉もないけどさ、砦の攻略だろ? イレギュラーが無数にあり得る。アンジェラが居なかったらそれこそ死にに行く様なモノって気がしてなぁ……」
情けない事に、自信がない。
自信がないのに「頑張って行ってきます!」と元気良く飛び出して行ける気がしないんだわ。
「あなたがソコまで難しいと考えているなら……いっそ攻略は諦めても良いのでは? 異界のデータも集まっています。遠からず技術スタッフにより異界にアクセスする方法が発見されるでしょう」
「見つからないかも知れないじゃん? 時間を置けば良くなる保証もない」
「それはそうですが……」
だってさぁ、こんなのは一度間が空くと余計に辛い。
死ぬかも知れない戦いにブランクが出来たら、挑戦するのが怖くなるに決まってる。
ソレで生き残れるならソレで良い。
だけど、俺の本体はチューブに繋がれて点滴漬け。既に筋力は相当弱まっているだろう。色んなモノを恨みながら。なんで誰も助けてくれないんだよって愚痴りながら衰弱していく俺の本体を見つめるのも辛い。
その辺りの気持ちを遠藤さんに伝えるが、やはり納得はしていない様子。だが、あまり強く言える立場でも無い自覚もあるようで、目に見えて葛藤している。
「動画で人気になって、功名心とか、目立ちたいとか、それで無茶をしている訳では無いのですね?」
「それは無いかな。無茶をして褒められるとは思ってない」
「……それなら良いですが」
動画で目立って良い気になってると思われちゃうよな。
ここんトコロ派手に立ち回ったし。
でも、この手のゲームなら、いかに楽に攻略するかも評価される。
楽な攻略方法を発見したら英雄だ。マキシミリアンの攻略動画にはバグとかズルみたいのも一杯あった。
だから、アレだ。
無茶したら偉いなんて事はない。
むしろ「俺ならもっと楽に攻略出来るぜ」ってぶち上げて、ソレを実行出来るヤツが偉い界隈……だと思う。マキシミリアンがそんなトコあるし。
そう言うアイデアを集める意味でも、動画でデモンズエデンの情報をばらまいて、俺の人気を高めるのは悪くないなって思うんだ。
この放水路ダンジョンを見つけた事だって集合知の成果みたいなモンだ。フックショットが有ると無いとで攻略難度がまるで違うのだから早速成果が出たのだと思っている。
今後、どうなるか解らない。
色々と調査はしているが、攻略必須のダンジョンが波木野市側では地面に埋まって居てクリアー不可能って可能性も十分ある。
超強いアイテムがあるダンジョンが行けなくなってる可能性もある。
そういうのもひっくるめて、無茶だとは思う。
それでもチャレンジしたいんだ。
皆のアイデアはきっと力になるだろう。
それでいて、誰かのせいにはしたくない。
テロ紛いの事故に巻き込まれ、既に死んだようなもん。
そう言う気持ちで居たいんだ。
情報を集め、相談して、皆の助けを借りつつ攻略する。
でも、全ての起点は自分で居たい。
決死の冒険を誰かに強制されたくないし。義務感でもやりたくない。
かといって、やるなと命令されるのも真っ平だ。
命を懸けるなら自分の意志でやるし、逃げる時も自分の意志で逃げる。
無理だぴょんって可愛く言えば許されるだろ。
その位、俺は図太いつもりでいる。
まぁ、正直、今回は色々あって俺も精神的にシンドイ。風呂入って寝たいッス。
「解りました。撤収しましょう」
と遠藤さん達スタッフも撤収準備に入った。
モニターやドリームフレームを箱にしまって台車に乗せると、市の職員の先導で放水路を引き返す。
「って、そういや、波木野市も地下神殿みたいのあるの?」
俺は気になっている事を先導する職員に聞いた。
地下放水路と聞くと、有名なのは東京の首都圏外郭放水路だ。波木野市もあんな感じの広いスペースがあるとHPで見たからだ。
小学生の定番見学コースらしいが、俺が小学生の時はまだ無かったからな。実は波木野市に住みながら一度も見た事が無いんだよ。
職員さんに「見たいな」とお願いすると、うーんと困った顔をした。
「調圧水槽ですね? 東京のほど大きくはありませんが人気のスポットですよ。ここからスグの場所ですが……」
職員は遠慮がちにチラリと遠藤さんを見る。
「作戦は想定時間よりも早く完了し、地上での封鎖も解除されています。待ち受けるマスコミを煙に巻くためにも少し時間をずらすのも良いかも知れません。司令部には私から連絡しておきます」
と言う事で許可が出た。
……歩く事数分。
「おおー、ここが地下神殿」
コンクリート打ちっぱなしで何にも無い場所だ。
だが、何も無くてだだっ広い人工物ってのは、ソレだけでカッコイイ。
薄暗い穴を歩き回って、降りてきた立坑とは別の縦穴をひたすら上がって……ようやく辿り着いた調圧水槽は巨大だった。
「これでも本家よりは大分小さいんでしょ?」
「三分の一ぐらいですかね? これでも波木野市の規模ならどんな台風でも対処出来る計算です」
「へー」
豪雨の時に水を溜め込んで、平時にはポンプで少しずつ川に水を流すらしい。
解説を聞きながら、俺はスマホでパシャパシャと写真を撮る。
……いや、せっかくだし自分の絵が欲しいな。
普通の男子高校生だった時なら自分の写真なんて一切撮ろうとしなかった。ドリームフレームを被った変な男が映るだけだしな。
しかし、可愛いJKエルフとなった今なら自撮りしたいじゃん?
「あの、すみません撮って貰って良いですか?」
「はい、良いですよ」
職員さんに写真の撮影をお願いしちゃったりして。
だって、遠藤さんピリピリしてるし怖いじゃんね。
調子に乗って、ポーズを決める。今の俺はバトルスーツに日本刀、実銃までホルスターに入れてる完全装備。
特殊ブレードの日本刀を抜いて、華麗なポーズを決めちゃったりして。ピチピチバトルスーツ姿だからSF的な巨大建造物とマッチする。
後ろ姿を撮って貰うと、それこそゲーム画面みたいで良いねぇ。
と、写真をチェックしていたら、気になった。
「あの、今日って見学者って居ます?」
「いえ、今日は見学は中止になってますよ?」
中止か。そりゃ子供に申し訳無かったなと思いつつ。職員さんに写真を見せる。
「コレ? 人間じゃないですか?」
見せたのは、職員さんに撮って貰った俺がカッコイイポーズを決めてる写真の一つ。立て膝で日本刀を構える俺のはるか後ろ、柱の陰から誰かがコチラを覗いているのだ。
「あれ? 撮った時は気が付かなかったなぁ」
市の職員は困ったなと頭を掻いた。
「最近、勝手に入ってくる人が居るんですよ。どこから入ったのか解らずで」
「へぇ……」
柱の陰に隠れて、コチラの様子を窺っていたのか。
俺は横に動いて、柱の裏に隠れている人物を探す。
……居た! 変な男がフラフラとコチラを見ている。
「あ!」
コチラに気が付いて、男は陰に隠れてしまった。
……いや、そんな事より。
ヤバい。
ヤバいぞ!
「アリス! 満足したら帰りましょう」
と急かす遠藤さんに、俺はさっきの写真を見せる。
「誰か居る!」
「それは、職員から聞きました。管理責任はアチラの仕事ですから私達は……」
「違う! 見たんだ。あいつは『グール』だった」
俺がそう言うと、遠藤さんはまさかと言う顔をした。
「以前にもドラゴンを見たと言ってましたが、あなたにしか見えない類の幻覚なのでは?」
「いや、写真に写ってるなら違うだろ」
ショッピングモールダンジョンから溢れたメガロドンは、怪獣ショーの観客がしきりに写真に撮ろうとしたが、本体は全く映らなかった。
しかし、今回は俺の普通のスマホに映っている。
「見てきましょう」
「付いていくよ」
遠藤さんと俺で見て回る事に。
とは言っても、波木野市の調圧水槽は60mも無い。グールが居たのもスグの場所だ。
「写真ではこの辺りでしたよね?」
しかし、その場所には誰も居なかった。
それどころか、人っ子ひとり居ない。調圧水槽ならではの殺風景で代わり映えのない景色ばかりでおかしくなりそうだ。
「やはり、アリスの幻覚なのでは?」
「おかしいな? もう一個先の柱じゃなかった?」
と、そんな話をしていた時だ。
柱の陰から飛び出した男が、遠藤さんに飛び掛かったのだ。
「遠藤さん!」
「キャッ」
気が付かなかった。
まるで気配が無い。
それもそのはず、相手はグール。
「このっ!」
日本刀を抜こうとして、思いとどまる。パチパチと目を瞬く。
グールに見えた、いや、グールだった。
なのに、もう一度見るとそれはタダの男だった。
短パンにTシャツのラフな格好。
デモンズエデンのグールは中世の農夫のような出で立ちで、肌も青白くところどころ肉繊維が剥き出しに見えている状態。
現代の格好をしたこの男と見間違うハズがない。
なんだこれ? 幻覚?
いや、そんな事言ってる場合じゃない。
「離れろ!」
男の肩を掴んで遠藤さんから引き剥がそうとする。
……だが。
「うびっ……」
俺は男に吹っ飛ばされた。
片手でだ。
アリスはたった42kg。とはいえ、普通の体格をした男に片手で吹っ飛ばされるハズがない。
なのに、俺は調圧水槽の巨大な柱に叩き付けられてしまう。
――プシュッ
特殊スーツの防御機構が働いた。柔らかなジェルが衝撃を吸収する。
それだけの威力があったと言う事だ。
まさにグール。
それも、かなり強いタイプのヤツ。
……まるで、ダンジョンのトラップ用の特殊個体みたいな。
ダンジョンのグールを思い出してしまう。
いや、待て!
こんな力で押し倒された遠藤さんが心配だ。
「くそが!」
俺は腰の刀を抜く。
殺人? 知った事か! ぶった切ってやる!
――パンッ!
しかし、その前に乾いた音がした。
「ハァッ、ハァッ」
銃声だ。
遠藤さんが拳銃を撃った。
息も絶え絶え、噛み付かれた左腕から夥しい出血。そんな状態で右手で銃を撃ったのだ。
撃たれた男の体から力が抜け、ずるりと地面に突っ伏した。
……死んでる。
遠藤さんは上手く動かない手で、必死にインカムを操作する。
「こちら遠藤、HQ応答願います。男に襲われて重傷、やむなく発砲しました。応援願います」
「なに? 場所は?」
「調圧水槽です」
俺が代わりに答える。
遠藤さんは意識を失う寸前だった。
「解ったスグに向かう。その場を動くな」
俺は遠藤さんの服を脱がせ、必死に止血を試みる。今は女性同士だし良いだろう。
「アリス……この男は?」
「知らんがな!」
全くの他人だ。遠藤さんも心当たりは無いという。
俺の厄介なファン? 違うだろ。
「遠藤さん、俺はこの男がグールに見えた」
「そう……詳しい話は司令部で……うっ」
くそ、死ぬような怪我じゃ無いが、跡は残るだろう。
それに、民間人を撃ち殺したってのも問題だ。
だが、あの力はまともじゃ無かった。
普通の男にのし掛かられても、自衛官の遠藤さんなら余裕で対処出来たハズなのだ。それがあの馬鹿力。なにより人間に噛み付くのがイカれている。
……まるでグール。
それは、遠藤さんも感じた様だ。
程なく、遠藤さんは救急隊のタンカに乗せられ、俺達は地下水路を抜けた。狭い階段をタンカで運ぶのは大変だったが、仕方ない。
今回の作戦。
ゲーム的には実入りが多かった。
有用なアイテムが三つ。特にフックショットはゲーム攻略がガラリと変わるアイテムだ。
だが、謎が増えた。イレギュラーだらけだった。
何もかも解らない。
分析の為、砦攻略はまた延期になってしまう。
庭と呼ばれる最初のフィールド区画すら抜けていないのに。
俺は攻略が遙か遠くなった気がして、焦燥感に苛まれていた。