死霊騎士として蘇生したけどいつの間にか後輩の目が死んでた 作:塩焼きそば啜郎
リニウス=エル=ガゼット、享年は……23。これが俺のかつての名だ。ガゼット公爵家の嫡子として生まれた俺は、20の時にエルグストア国王直属の精鋭騎士団、黒獅子騎士団に配属され、翌年には爵位を継ぐと共に騎士団長へと任命された。
騎士団長になる為には、任務での功績や家柄など色々必要なのだが……一番必要なのは、年に一度の模擬戦での優勝。優勝者には国王から直々に「獅子王」と騎士団長の称号が授与されるのが決まりだ。
「全く、若い奴には敵わんな」
「やりましたね!団長!」
そう言って俺の優勝を祝ってくれたのは、元騎士団長のマクエル侯爵と、副団長の座を勝ち取ったナーシャ=フォン=ハルバニア。騎士団総出で新たな団長を祝ってくれたのは良い思い出だ。特にナーシャは小さい頃からの付き合い。一層目を輝かせてくれた。
それから、俺は騎士団長が如何に大変なものか身を持って知る事となる。ナーシャの補佐を入れても終わらない仕事、団員からの相談、任務への出撃……それもそのはず、俺は「獅子王」の座にいるのだ。例えどんな些細な事でもミス無く解決しなければならない。地位を手に入れるというのは、そういう事だと知った。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫ですか?団長……」
「何、大丈夫だ。これくらいでへこたれる訳にもいかない」
時間の許す限りは闘技場で訓練を行った。まぁ一度体調を崩してナーシャにこっぴどく叱られてからは多少控えるようにはなったが。それでも毎日の鍛錬は怠らなかった。全ては、皆を守る為だった。
そして、俺が23の時。王国に急報が入った。王国北部に広がるジュヴァナ平原、その先のメルグ森林から、
「調子はどうだね、リニウス卿。聞けば貴公は変異種と戦うのは初めてだそうだな」
俺を始め、黒獅子騎士団の団員は若干の不安に駆られていたのを覚えている。そんな俺に声をかけてくれたのは、王国貴族のダクロン公爵だった。
「ご心配頂きありがとうございます、ダクロン卿。しかし私は陛下から黒獅子騎士団の団長を任命された身。例えどのような相手だろうと恐れず立ち向かう事を誓います」
「ハッハッハ、それは心強い!是非貴公の活躍に期待させて貰おう」
ダクロン公爵は王国の名門貴族、ディーゴ家の現当主。その数々の武功は数え切れない程だ。憧れの人物に期待されたおかげで俺の中の不安は消え、胸の中から闘志が溢れるような気分だった。
この戦場が、自らの死に場所になるとも知らずに。
「見えてきたな……」
その日は快晴。日の光が降り注ぐ中で、俺は鬼人の軍勢を凝視していた。奴らは
奴らはこちらを見つけると、雄叫びを上げて突撃して来た。こちらもそれに合わせ、陣形を整えて迎撃する。
「よし、弓を放て!」
弓騎兵隊を指揮する将軍に合図する。将軍の声と共に無数の矢が鬼人に放たれた。その矢は巨体に吸い込まれるように突き刺さってゆき、軍勢の突撃を抑える。強靭な肉体を持つ鬼人は矢に刺されようが突撃を止めないが、一体、また一体と倒れて行った。
「よし……騎兵隊は左右から挟撃!右翼は私、左翼はナーシャ副団長に従え!」
変異種がいる以上、ここで一気に決める。そう決意して、自ら右翼を率いて挟撃を仕掛けた。勢いを殺された所に左右からの挟撃を喰らい、鬼人達の間に動揺が走る。しかしその動揺は一瞬にしてかき消された。
「ウオオォォォッ!!」
戦場に響く雄叫び。他よりも大きく鈍い音の正体は、変異種が発したものだった。これにより鬼人の士気は再び上がり、果敢に戦斧を振るって来た。
ここから先は、乱戦だった。弓騎兵とダクロン公爵率いる重装歩兵隊の援護を受けながら、強大な鬼人を討ち取っていく。一発一発が必殺の威力を持つ鬼人の攻撃を防ぎながら、なんとか俺は変異種の下に辿り着く事に成功した。
他とは違い、全身が黒くより筋肉質な体を持つそいつに、俺は一瞬恐怖した。だがそれも、仲間を思えば心の隅に消えていった。
「その首、このリニウスが刈り取ってくれるッ!!」
「ゴアァァアア!!」
変異種は振り上げた戦斧を勢いよく振り下ろした。俺はこれを
「ブエッ……」
その刃は防御した鬼人の腕を貫き、無防備な喉に突き刺さる。長剣を引き抜くと、鬼人はその巨体を地に倒した。ほぼ同時に鬼人達が変異種の死を悟り、慌てて撤退して行く。俺はこれ以上は無意味と考え、追撃をしないように命じた。
「鬼人とは何回か戦っていたが、変異種の力も相当だな……」
まだ左腕はビリビリと痺れ、じんわりとした痛みが残っている。見れば葉形盾にはひびが入っていた。盾に守護の魔法が付与されていなければ危なかったかも知れない。
「団長!」
「ナーシャか。無事で良かった」
「団長こそ!さぁ、皆が待ってますよ」
「すぐ行くさ」
ナーシャはすでに歩き出している。後を追おうと、俺も歩き始めた時だった。
「……?」
視界が妙に明るくなった。何だろうかと振り返ろうと足を止めると同時に、閃光と爆音が響き渡る。
俺の体は大きく吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。
起き上がろうとするが、視界がぼやける。右手を見ると、既に肩から先は無くなっていた。俺はそこで、ようやくあの鬼人が爆発したのだと悟る。鬼人でもそのような策を弄するとは、あの時は驚いたものだ。幸い、俺以外に怪我人はいないようだ。数人が驚いて地面に伏せている。
ナーシャがこちらに気付き、急いで駆け寄って来た。余りにも呆気ない。きっと彼女もそう思っていた事だろう。倒れている俺の肩を掴み、必死に揺さぶる。
「!?……長!おき……くだ…い!だ……ちょ…………」
どうしても思い出せない。この時、俺に対して彼女が何を言ったのか。あの至近距離で爆破を喰らったのだ。意識が朦朧としてても仕方無かったが。
「……油断、したな……すまない…………」
力を振り絞ってそう伝える。すると、頬に冷たいものが落ちてきた。あぁ、そうだ。彼女は泣いてくれたのだ。こんな、油断で死ぬような間抜けな男に。
「俺の為……泣いてくれて、ありがとう……」
それが、俺が彼女に伝えた最期の言葉だった。
……何故、それを思い出したかって?今、俺の目の前にナーシャがいるからだ。ただし、彼女と対峙するのはリニウスでは無い。
「……珍しいな。貴様らはこちらを見ればすぐに襲いかかる類の筈だが」
「……」
その声は、あの時とはかけ離れたものだった。明るく優しかったその声は、暗く冷たい。
「死ね、魔物。貴様らを見ると、いつも反吐が出る」
「……」
彼女は剣を構えた。全身に黒い鎧を纏い、所々から青白い炎を噴出させる魔物……「
「地獄に落ちろ……!」
「……!」
こちらを睨んで駆けてくる彼女の目は、まるでどこまでも深い闇のようだった。
……本当にどうすれば良いのか。