死霊騎士として蘇生したけどいつの間にか後輩の目が死んでた 作:塩焼きそば啜郎
そんでもって目が死んでます
俺は悩んでいた。どうすればまたナーシャに会えるのか、というのが問題である。
あちらとしてはいつ会おうが構わないだろうが、こちらとしては一刻も早く会わねばならない。いつ手遅れになってもおかしくは無いのだ。
現在はギルバニア王国西部の街道沿いを歩いている。今はまだ夜、人と遭遇する事はまず無い。
「この先は確か……」
そうだ、確かダラスという都市があった筈だ。俺が彼女と別れた所からも一番近いのはダラス。……もしや、彼女がそこに滞在しているかも知れない。態度には出さなかったが、あの体ではそう遠くまでは行けない筈。
「決まりだな……」
ダラスまで行き、彼女が出てきた所で接触。そこからは俺の技量次第だ。何とかして、彼女を説得する。
俺は急ぐべく、夜の街道を走り始めた。
途中、いくつかの村を越えた。まだ日は昇っていないから、時間には余裕がある。前方に見える村の灯りを頼りに、俺は更に歩を進めようとした。
「ん?」
すると、進むにつれて何やら喧騒が聞こえるような気がした。見れば、前方の村の灯りは大きく揺らいでおり、時折チカチカと点滅している。何者かが松明の前を横切っているのか?
更に近付くと、異変の正体が見えてきた。柵の周りを囲み、村門をこじ開けようとしている者達がいるのだ。奴らは
「……見捨ててはおけん……」
同じ魔族としてはどうかと思うが、小鬼達の襲撃は食料を確保する為のものでは無いのが殆どで、その多くは自らの悦楽の為。なら、人間側に立っても文句は出るまい。
俺は小鬼の凶行を止める為、全力で走り始めた。やがて村の近くに来た時には、柵が一部こじ開けられていた。小さい穴だが、小鬼が入るのには十分な大きさと言える。奴らの恐ろしさはその数とすばしっこさだ。加えて攻撃力も低くは無いので、村人からすれば大きな脅威となるだろう。
「こっちだ!」
俺は小鬼の群れに近付くと同時に声を上げて最後尾の小鬼を斬り殺した。小鬼達は即座にこちらを向き、同胞を殺した者に殺気を向ける。
「……どうした、来ないか」
「ギ……ギギャーッ!」
小鬼達は一斉に雄叫びを上げ、その鉤爪を振りかざして迫って来る。だがリーチ自体はこちらが圧倒的に上。囲まれないように注意しながら村から遠ざけていく。
「ギガッ!」
「フン!」
飛びかかってきた一体を片手剣で斬り上げ、走って来る者は横薙ぎに斬り払う。後退を続けながら少しずつ、少しずつその数を減らしていくのをひたすら繰り返した。
「しかし……きりが無い」
元より大軍だったからか、その数は一向に減ったように見えない。結構な数を斬り捨てた筈なのだが……そう思っていると、視界の奥で動きがあった。柵の上から、新たな灯りが見えたのだ。そしてその灯りは、こちらに向かって飛んでくる。
「ガギャアァァアッ!?」
たちまち小鬼達が悲鳴を上げた。その灯りの正体は火矢。恐らく中に入った小鬼を片付けた村人達によるものだろう。
とにかくこれで多くの小鬼が倒れた。次々と広がる炎に怯え、生き残った小鬼も遠くへと散開して行く。……これで終わりだな。俺は村を見た。柵の上から、こちらを見下ろす何人かの村人が見える。
「……」
彼らと目が合うが、俺は襲撃する気は毛頭無い。それを示そうと俺は別の方向に歩き始めた。村人は徐々に柵の中に引っ込んで行く。
これでいいのだ。今のはただの俺の自己満、感謝される事も無い。
村から十分に離れた所で、再び街道に戻った時だった。背後から、鋭い殺気が迫って来るのを感じた。
「……」
「また会ったな」
その姿は返り血に塗れており、刺突剣の刃も赤く染まっている。だが本人はまるで気にしていない。相変わらずその目は暗く冷たいままだった。
「今度こそ殺す……そう言ったな」
「魔法を使ってか?」
「貴様を殺せるのならな」
ナーシャは何の躊躇いも無く言い切った。だが彼女に魔法を使わせてはならない。その為に彼女を探していたのだ。
「止めろ。恐らく、村の中でも魔法を行使しただろう。体が持たん」
「!……」
彼女の目が一瞬見開かれる。やはり、あの村に滞在していたか。返り血は小鬼を斬った時のものだろう。
「……何故だ?何故そんなにも、私を気にする。私は貴様を殺そうとしているのだぞ」
「言っただろう、いつか死ぬと。魔法の行使は、確実に命を蝕んでいく」
彼女は顔を歪めた。強い憎悪がはっきりと読み取れる。
「だから何だ!私の命に大した価値は無い……精々使い切ってやる」
「……!」
「行くぞ、死霊騎士!!」
彼女は刺突剣を構え、一気に突進して来る。その一撃は何とか受け流したが彼女は即座に反転、第二撃が放たれた。
「くぅぅっ……!」
「これも防がれるか……」
「もう止めろ!!」
その刃を受け止めながら、俺は声を荒げた。
「命を削って死んで、何になると言うのだ!!そんな無意味な事……!」
「……黙れ黙れ黙れッ!!貴様に何も分からない貴様に言われたくないッ!」
「それでも……」
「なら言ってみろ……何の価値がある?大切な人を死なせ、自らの責務からも逃げ出した私に……何の価値があると言うのだ!?」
彼女は俺を押しのけ、再び刃を突き出した。それを避けるも、すぐに横薙ぎの刃が俺に迫る。それを受け止め、再び話し始めた。
「価値なんて、いくらでも上げれる!」
「!?」
「人を死なせて悲しいのなら、逃げ出して辛いのなら、その人の分まで精一杯生きろ!そして、未来を見て歩け!!」
「くっ……!貴様に分かるものか!大切な人を失った悲しみが!この憎しみが分かってたまるものか!!」
彼女が剣を振るう速度が更に上がる。……まずい、魔法を重ねがけしている!
「いい加減にしろ!体が保たなくなるぞ!!」
「いい加減にするのは貴様だ……!私を止めたいのなら、とっとと殺せ!」
既に俺の鎧には無数の傷がついており、一部からは青白い炎が垂れ流れている。これ以上速度が上がれば、彼女の前に俺が死ぬかも知れない。
「ぐっ、何と、して、で、も……」
彼女の口から、血が流れ落ちてきた。その目は狂気と執念に染まっている。
「くっ……俺も、まずい……!」
こうなれば。彼女の刺突剣を弾き飛ばすしか無い。少しでもずれれば彼女を傷付けてしまうが、これが続けば両方とも無事では済まない。やるしか……無い!
「……!」
彼女の攻撃が大振りになった瞬間。俺は全力で迫る刺突剣を跳ね上げた。
「そう来ると思った……」
「……!?」
だが全ては、彼女に読まれていたのだ。振り上げた片手剣は虚しく宙を斬り、同時に全身が無防備になる。
「さらばだ……!」
彼女の刺突剣が光ったと思った次の瞬間、俺の鎧は肩から腰にかけて、大きく斬り裂かれていた。そこから大量の炎が噴き出し、同時に意識が遠のき始めるのが分かった。
「ハァ……ハァ……ガフッ……」
地面に倒れ込んだ俺の上に、彼女が吐いた血がかかった。額や腕には血管が浮き出ており、足は小刻みに震えている。だがその目は勝利の余韻に浸っていた。
「……残念、だったな。貴様もこれまでだ」
「……」
「口も開けんか?」
その通りだった。俺に出来る事は、勝者である彼女を見上げるだけ。もう何か言う力も残っていなかった。
「……死ね」
彼女は刺突剣を俺の喉元に向ける。
あぁ、無念だ。俺は結局、ここで終わってしまうんだ。大事な後輩も、騎士団も、自分さえ守れず死んでいく……こんな間抜けには十分な最期だ。
「す、まん……ナーシャ……」
最期に振り絞って言ったその一言が、彼女に聞こえていたかは分からない。