死霊騎士として蘇生したけどいつの間にか後輩の目が死んでた 作:塩焼きそば啜郎
全く展開が思い浮かばんかった……許してくれ……
「す、まん……ナーシャ……」
半ば無意識に口を開いた。結局、何も成せなかった。最期まで残ったのは、ナーシャへの罪悪感だけ。そんな無念から、この言葉が出たのかも知れない。
「……どういう、事だ」
「……?」
「貴様、何故私の名を知っている?」
喉元に突きつけられた刺突剣が震えている。しかし、その表情は月明かりの逆光でよく見えない。
「……答えろ。貴様は誰だ?」
「お、れは……!?」
朦朧とする中、彼女の質問に答えようとした時。突然、彼女が視界から消えた。
「!?」
「あ、ぐ……」
何処からか聞こえてくる彼女の声。それを聞いた瞬間、俺は何とか立ち上がった。全身を痛みが襲ったが、それもすぐにどうでも良くなった。
「……!」
ナーシャに襲いかかっているのは、一匹の
俺が動く理由は、それだけで事足りた。
「止めろぉぉぉおお!!」
片手剣を握りしめ、魔狼に向かって走る。視界の端に映る炎が邪魔だ。ナーシャは何とか抵抗しているが、今の彼女ではまず勝てない。ならば、俺がやるしか無いだろう。
「離せッ!!」
魔狼の首を後ろから掴み、彼女から引き離す。俺はそのまま力の限り、魔狼を投げ飛ばした。
「貴様……!?」
「そこで待っていろ。すぐ終わる」
俺は魔狼を睨む。対する魔狼も、銀の体毛を生やした巨体を強張らせて唸りを上げている。先に動いたのは向こうだった。
「グルルァッ!!」
魔狼は一瞬屈むと、こちらに向かい跳躍して来た。鋭い軌道を描き、その爪と牙が迫って来る。……遅い。
「ガッ!?」
「速い……!」
俺は魔狼の跳躍に合わせ、その顎を蹴り上げる。そして無防備になった胴体に片手剣を叩き込んだ。鮮血が噴き出し、俺の鎧を赤く染める。魔狼は絶命したのか、ピクリとも動かない。
気付けば、視界に映っていた炎は見えなくなっていた。鎧を見れば、もう殆ど炎は噴出していない。俺は振り向き、地面に座り込んでいる彼女を見た。……良かった、軽傷で済んでいる。
「なんで……なんで、私を助けたんだ?お前を殺そうとしたんだぞ?何回も、何回も斬ったんだぞ?」
「お前に……傷付いて欲しく無かったから。それだけだ」
「それだけ……?ふざけるな、ふざけるな!!」
彼女は立ち上がり、怒鳴りながら俺の肩を揺らした。
「何故それだけの理由で敵を庇える!?私はお前を斬ったんだぞ!殺そうと剣を向けたんだぞ!!」
「それでも……それでもお前には傷付いて欲しく無かった」
鎧に、一筋の涙がこぼれ落ちた。霞む視界で見れば、ナーシャは泣いていた。……また、俺は彼女を泣かせてしまった。
「お前は魔族だろう……?どうしてそんなに私を庇う?どうして私を助ける?頼む……頼むから……」
彼女は俯かせていた顔を上げた。その目はどこまでも深く、遠く、暗く濁りきっている。
「私に優しくなんかしないでくれ…………私を、殺してくれ……」
「……」
「もう、無理なんだ……あの人を死なせてから、ずっと魔族は全て邪悪と信じて来た……邪悪と戦って苦しみ続ければ、あの人もこんな私を許してくれると信じてた……でももう、何も分からない。私の生きる意味が分からないんだ……」
「……生きてくれ」
「え……?」
「生きる意味が分からないのなら……俺の為に、生きてくれ」
「何を言って……」
「……怖かった。お前に拒絶されるんじゃないかって。受け入れて貰えないんじゃないかって……面と向かって言えなかったんだ……」
荒れる呼吸を整え、こちらを見上げるナーシャを見つめる。
「久しぶりだな。ナーシャ=フォン=ハルバニア。そして……こんな馬鹿な上司で、すまなかった」
彼女は目を見開く。
「……団、長?」
「リニウス=エル=ガゼット。生前の俺の名前だ」
「……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!!そんな訳あるかっ……!お前なんかがっ、お前なんかが団長な訳無い!!」
ナーシャは先程よりも大粒の涙を零し、俺を突き飛ばした。力無く地面にへたり込んだ俺を、泣きながら睨みつける。
「団長は死んだんだ!私の目の前で!!魔族に殺されて死んだんだ!!」
「……あぁ、死んだ。だが、何故かこうして生き返ってしまった」
「違う!団長は今でも、私を見ているんだ!!私は……!私はあの人に許して貰わなくてはいけないんだ!!」
「お前を許すも何も、許して貰うのは俺の方だ。お前の前から突然いなくなってしまった。全部、俺のせいだ。……お前は優しいよ。こんな奴の為にずっと戦ってくれたんだ。今更だが……本当にありがとう」
「そんな、そんな今更……」
ナーシャの手から、刺突剣が地面に落ちた。彼女もまた、地面にへたり込んだ。呻き声の中から、彼女の声が聞こえてくる。
「酷いよ……酷いよぉ……!信じてたのに、ずっと信じてたのに!なんでいきなりいなくなるのぉ……」
ナーシャの前に行き、俺はしゃがみ込んだ。そして、泣きじゃくる彼女をそっと抱きしめる。
「怖かったよ、痛かったよ、辛かったよ……!」
以前の冷酷さが嘘のように、彼女は思いの内を吐露する。そこにいたのは魔族殺しではなく、ただの女の子だった。
「……っ」
改めて、自分がなんて馬鹿をしたんだろうと思い知る。あの時油断しなければ。あの時生きていれば。ナーシャにこれ程辛い思いをさせる事は無かった筈だ。そう思うと、自然と抱きしめる力も強くなっていった。
「……でも、それでも…………貴方が生きてて……本当に良かった……」
「ナーシャ……」
彼女は俺をそっと抱きしめてきた。あぁ、いつぶりだろうか。彼女からこうされるのは。……確か、まだ俺が子供の時以来だったな。ここまで来るのに、どれ程かかっただろうか。長かった。でもこれで、やっと願いが叶う。
彼女にもう傷付いて欲しくない。俺のただ一つの願いが、ようやく叶うのだ。
「……許してくれ、ナーシャ。ずっと、お前に辛い思いをさせてしまった」
「…………いいんです。私は……私は、貴方が側にいてくれるだけで、本当に嬉しかったんです」
顔を上げたナーシャが、こちらを見上げる。
「これからは、どうかずっと側にいて下さい。……私の願いです」
「あぁ。お前が望む限り、ずっと一緒にいよう。ナーシャ」
「ありがとう、ございますっ……!」
ナーシャの瞳に、少しだけ光が灯ったような気がした。
これでまだ構想の最序盤ってマジ?