死霊騎士として蘇生したけどいつの間にか後輩の目が死んでた 作:塩焼きそば啜郎
山を下り終えてからは楽だった。山腹ほど視界は悪く無いから、敵を見つけやすい。日中さえ凌げば、月明かりを頼りに夜でも歩ける。だが、目的地のメレ森林まで僅かな距離となった所で、そいつらとは出会った。
「んん?死霊騎士と人間が一緒……こいつは一体どういう事だ?」
見つかってしまった。しかも集団に。気を抜きすぎていたのかもしれない。何人かは腰に望遠鏡をぶら下げているので、それで発見されたのだろう。まぁ緑の中に真っ黒の鎧だもんな。
「団長よ。あの女、どっかで見た覚えがあるんだが……」
「俺も覚えてるぜ。なぁあんた!確かエルグストアの……思いだした、黒獅子騎士団の一人だったよな」
連中は全員男。装備からして、恐らく傭兵団か何かだろう。斧を持った巨漢の質問に、騎乗した男が答える。
「あんたが消えたってのは他国でも噂されてたからな。こんな所で遭遇するとは思わなかったが……ま、どうでもいいか。お前らァ!」
「!?」
男の号令で、団員達はそれぞれ構え、即座に俺達を包囲した。やっぱりというか、戦い慣れしてる。
(団長、どうします……?)
(一旦俺が交渉してみる)
俺は団長と呼ばれた男に向き直った。
「……お前達の目的は、俺か?それとも彼女か?」
「死霊騎士でも喋れんのかよ……何、そこの彼女が目的さ。あんたらは知らんかも知れないが……彼女にはそこそこの懸賞金がかけられてるんでね」
今度はナーシャに向き直った。彼女は慌てて首を振る。
「そういう訳だ。彼女には国に戻って貰うだけでいい。出来れば互いに穏便に済ませたいが……」
何を。既に武器を構えてるのはそっちの方だろ。
(ナーシャ。……殺しはするな。軽くだぞ、かるーくやっつけるんだ)
(分かりました!かるーくやっつけます!)
「何をコソコソしてんだよ。どっちなんだ?」
「すまんが彼女を渡す訳にはいかない。お引き取り願おう」
「チィ、死霊騎士如きが流暢に喋りやがって……ならお陀仏しても文句は言うなよ!」
ナーシャからちょっと怒気が溢れた気がした。こいつらの無事を祈ろう。
「殺れ!!」
叫ぶと同時に武器を構えた男達が押し寄せて来た。左右からは歩兵、前からは団長とやらを含めて三騎の騎兵がやって来る。十数人程度、鬼人の足元にも及ばん。
「うらぁっ!!」
先程の巨漢が斧を横薙ぎに振り払う。その一撃を片手剣で受け止め、胴体に蹴りを一発。
「ぐおっ……!?」
吹っ飛んだ巨漢は後続に激突、隊列は大きく乱れた。さて、ナーシャは……うわ、もう終わってる。どうやら男達の隙間を縫って刺突剣を振るっていったらしい。全員倒れて傷を抑えてる。
「余所見してんぎゃっ!?」
「よくもガイツうぶぉっ!」
騎兵の槍をかわしつつ、歩兵を片付ける。やっぱり異種族との戦闘は経験するべきだな。大抵の人間相手には無傷で勝てる。
「ちくしょう、二人だけだってのに……お前ら、あいつを抑えてな!」
団長は二騎に命令して、ナーシャの相手をさせた。
「おい!一対一だ。……直々にぶっ潰してやる!」
「……来い!」
武器は槍。リーチは圧倒的にあちらが上だ。とっとと終わらせるべきだろう。
「くそッ、この、この野郎!」
馬上から突き出される槍を受けつつ、後ろへ下がって行く。倒れた傭兵を巻き込んだら面倒な事になるからな。相手も中々やる奴だが、如何せんナーシャの剣撃に比べれば欠伸が出る。
「ただの死霊騎士じゃねぇ……!」
「ただの死霊騎士さ」
大振りになった所で、俺は槍を掴んだ。慌てて引き抜こうとするが、そう簡単にはいかない。
「離しやがれ!」
「そら……よっと!!」
俺は槍ごと思い切り団長を後ろに投げ飛ばした。宙を舞った後、背中から地面に落ちる。
「ごはっ!?」
「結構痛そうな音ですね……」
「お、もう終わったのか?」
「はい、あの通り」
見れば、二人とも落馬して倒れ込んでいる。リーチの差をもろともしてないな、こいつ。しかも馬は無傷だし。
「さて……まだやるか?」
「ぬぅ……敵わねえか……」
これ以上の争いは出来るだけ避けたいと思ってた所だ。物分かりが良くて助かる。
「くそったれ、こっちは大損だ!お前ら引き上げるぞ!!」
「あ、ちょっと待って下さい」
ここでナーシャの待ったが。……怖い怖い笑顔が怖いよナーシャ!
「なんだよ……こっちはもう何もしねぇよ」
「いやぁ、いきなり襲ってきて何も無しで帰れる訳無いですよね?」
「はぁ!?」
「わ・け・な・い・で・す・よ・ね!?」
ナーシャが団長の頭をグリグリと押さえる。最初は黙っていた団長も、随分と痛かったのかやがて手を剥がそうとナーシャの腕を掴んだ。しかし離れない。
「痛ぇ痛ぇ!分かったよ、何すれば良いんだ!?」
「宜しい」
ようやくナーシャが団長の頭から手を離した。団長は苦い顔で立ち上がりナーシャを睨む。
「全く……」
「貴方達には、メレ森林まで私達の護衛をして欲しいのです」
「護衛だと?」
「はい、ここからだと二日程の距離。無理な相談では無いでしょう?」
「……報酬は?」
「無し」
「無しじゃねぇか!」
団長とナーシャが言い争うのを横目に見ていると、団員の一人が話しかけて来た。
「おいあんた、なんで魔族なのに喋れるんだ?」
「ん?いやまぁ……色々あってな、魔族にも」
「んん?……まぁ、そういうもんなんだろうな」
その間にも、言い争いはますます激しくなっていく。そろそろ止めておくか。
「まぁまぁ……報酬は支払う。そうだな……いくらがいい?」
「こっちは話が分かるな……二日だろ、ざっとこのくらいだ」
なるほど、結構言ってくるもんだな。俺はナーシャから受け取った布袋の路銀を確認する。……問題なさそうだ。このくらいあればここで支払っても大丈夫だろう。
「分かった、その金額で払おう」
「よし決まりだな!お前ら、とっとと荷物まとめて行くぞ!」
「切り替えが早いですね……」
「そりゃ傭兵団だもんな、こいつら」
せっせと準備を進める傭兵団を見ながら、俺達も準備をし始めた。
……いやぁ〜そこからは楽だったのなんの。報酬は前払いしたから皆しっかり警護してくれた。今までみたいにナーシャも気を張らずに済んで良かったし、団員の奴らとも仲良くなれたし、久々に楽しい夜を過ごせた。
俺とナーシャは今、メレ森林の入り口付近にいる。ここで傭兵団とはお別れだ。
「ここからは俺達で行く。助かったよ」
「おう、またどこかで会えるかもな」
短い別れの挨拶を済ませ、俺はナーシャと傭兵団を見送った。そして、振り返り森林へと入ろうとした時。
「!!」
「……どうか、しましたか?団長」
ナーシャが不安そうに聞いてくる。……とんでもない殺気を感じたが……今は跡形も無い。……注意した方がいいな。
「いや、何でもない……今夜の寝床を探そう」
「はい!団長!」
ナーシャの返事はいつもより少し明るかった。
……危ない危ない、少し
(変わっちゃったなぁ)
前までは皆と過ごすのはすっごく楽しめた。訓練の疲れも吹き飛んだ気がして。翌日に寝坊しかけて怒られて。そんな暮らしが楽しかった。……でも。
羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい
好き好き好き好き好き好き好き
酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
心から楽しめる貴方が羨ましい。
顔は分からないけど、きっと笑っている貴方が好き。
他の人と過ごすなんて。側にいてくれるって言ったのに、酷い。
こんな事を考える私が憎い。
もうグチャグチャだった。だから彼らと別れた時……少しホッとした。つい気が緩んで……慌てて引っ込めたけど、しばらくはコントロールしなきゃ。
「……どうか、しましたか?団長」
「いや、何でもない……今夜の寝床を探そう」
また団長が私を頼ってくれる。その嬉しさで思わず、私の声は少し上向いた。
「はい!団長!」