死霊騎士として蘇生したけどいつの間にか後輩の目が死んでた 作:塩焼きそば啜郎
傭兵団の護衛もあり、メレ森林へと無事に辿り着いた俺達二人。やはりと言うか、人っ子一人いない。まぁ好き好んでここに住む奴は余程の腕自慢なんだろう。
そんなこんなでここでの生活を始めて四日目、なんとか造り上げた仮住まいで休憩中だ。
「ふぅ、まだまだ風が通り過ぎるな」
「葉っぱやら蔦やらを木々に巻き付けただけですもんね……」
既に日は落ちかけている。僅かな隙間から漏れる夕日を浴びながら、これまた葉っぱのベッドに寝転がる。
「これから本格的に壁を作らんとな」
「明日からは木の枝集めですね」
せめてもと屋根には木の枝を使ったが、それもまだ立てかけているだけだ。固定しないといつ吹き飛ぶか分からん。
「しかしいいのか、ナーシャ。本当に外との関わりは無くなるぞ?」
「いいんです。団長が側にいてくれれば」
ナーシャが俺の腕に抱きつく。鎧が掠れ、小さい金属音が鳴った。
「これがいつまで続くか……」
「ずーっと続きますよ、きっと」
「はは、嬉しいな」
「私もです、団長……早いけど、寝ちゃいましょうか?」
「そうだな……飯は起きた後で良いだろう」
「それじゃ、お休みなさい。団長」
「お休み。ナーシャ」
程なくして寝始めたナーシャを横目に、俺も次第に意識を落とす。
「……信じられませんね。当代の王がこれとは」
「!?」
俺とナーシャは瞬時に飛び起きた。辺り一面には闇が広がり、僅かな先も見通せない。
「ご安心を、ここは貴方達の精神世界。体は未だ寝ていますよ」
「……姿を見せろ」
「これは失礼、今見せますよ……」
俺とナーシャの前に、煙に巻かれ何処からともなく一人の男が現れた。その顔には獣の仮面が着けられており、素顔は見れない。だが手足に見られる鋭い爪から、
「私はロガー。見ての通り獣人で……」
その声を、ナーシャの刺突剣が制した。が、ロガーはそれを指二本で止めてみせた。
「くっ……!」
「お辞め下さい。貴方では勝てませんよ」
「ナーシャ……ここは剣を下ろせ」
「でも団長……」
その抗議はロガーによって遮られる。奴は刺突剣を一瞬で奪い取り、ナーシャの喉元に突き付けた。
「っ……」
「ナーシャッ!!」
「全く駄々っ娘な事で……これで分かりましたか?」
ロガーはこちらを気にせず、刺突剣をナーシャに差し出す。彼女はそれを荒々しく受け取った。
「さて、本題に入りましょう。リニウス=エル=ガゼット殿、いや、『王』よ」
「下がってろ、ナーシャ。……貴様は何を言っている?」
「まぁ落ち着いて下さい。これは少々複雑な話で……宜しければお付き合い頂きたいのです」
「……良いだろう。ただし彼女に手を出してみろ。殺す」
「どうぞご自由に」
殺気を込めた視線をもってしても、ロガーは何も態度を変えなかった。やはり強いな、この男。
「結論から言いましょう。貴方は我らの王に『なられた』のです」
「俺がなったのは死霊騎士だ」
「そこが複雑なのですよ。貴方は本来、
「ダンタルフィア……?」
俺はその名に聞き覚えがあった。エルグストア建国時、襲来した数々の敵を打ち破った伝説の王。初代国王ダンタルフィア=バクス=エルグストアの逸話は今でも語り継がれている。
「エルグストアの歴史では建国の父として語られるかの王です。しかしそれは真っ赤な嘘。人間の都合の良い作り話なのですよ」
「……話が飛びすぎだな」
「失礼、では順を追って話しましょう。今からおよそ五百年前、現在のエルグストアは我々獣人の住処でした。我らは王の元に暮らしていましたが……そこへ、突如人間の軍勢が押し寄せて来ました。何と言ったか……そうそう、『人間のなり損ない』の排除、とかどうとか」
「……」
「我々は抵抗を続けましたが、なんせ数が多い。ゆっくりと追い詰められた我らの前に、一人の戦士が現れました」
「貴様の話が本当として、その戦士は何者だ?」
「さぁ?名など聞いておりません。ともかく我らが王はその男の誘いに乗り、決闘を行いました」
ロガーの雰囲気が僅かに変わる。それを感じて表情を険しくしたナーシャを見て、ロガーは緩やかに気を抑えた。
「これは失礼、なにせ嫌な記憶でしてね……その男は劇毒の塗られた剣で、王に致命傷を与えたのです。我ら獣人の得意とするは攻撃魔法、毒には滅法弱かった。怒り狂った我らは総攻撃を仕掛けましたが、そこでまたもや人間の罠に嵌まり……今はこの通り、私を含め僅かな同胞がこの大陸に散らばっております」
「それが、俺とどう関係がある?」
「王は自らの死を悟ると同時に、人間に呪いを残しました。現在、エルグストア王家に伝わる家宝の『聖剣フォルドゥーア』。それは元々我らの物です」
「聖剣フォルドゥーア……」
その名にも聞き覚えがあった。俺がまだ人間だった頃、国王から獅子王の称号を与えられる儀式の時。初めて実物を見た瞬間は感動した覚えがある。
「確か、聖剣の下に獅子王の称号を授け、栄光を与えん……でしたか?貴方は過去に、フォルドゥーアを見た事がある筈です」
「……あぁ」
「ここからですよ。我らが王は、フォルドゥーアに自らの魂を込められた!」
ロガーが突然声を荒げる。それは怒りというより、何かに歓喜しているような物だった。
「魂を?」
「えぇ。フォルドゥーアを用いた儀式。それは選ばれし強者の為のもの。当然、
「選ばれた……!?」
「その通り。永き時を経てね。王の魂は聖剣を介し貴方に移り、貴方は新たなる王の器になったのです。貴方がその後すぐに死去されたのは予想外でしたが……いずれ、その中で眠られている王は目覚める。その時こそ、我らが王が復活なさる時!!」
ロガーのテンションが最高潮に達する。しかしその時、俺の後ろで強大な殺気が膨れ上がった。
「ナーシャ!!」
「貴様、聞いておけば……団長が獅子王になるだと?ふざけるな。これ以上、団長を苦しめる気か?」
「苦しめる……まぁ、己の自我が蝕まれるというのは苦しいかも知れません。しかし、魂の消滅に苦痛は有りませんよ」
ロガーが言い放った瞬間、俺がナーシャを抑えるのと、激昂した彼女が飛び出すのはほぼ同時だった。
「止めろ、ナーシャ!!」
「どいて下さい団長、こいつは、こいつだけはっ……!!!」
「もう身体に魔法をかけるな!!!」
「っ……」
ナーシャは、俺の腕の中で大人しくなった。まだ完治してないというのに、また使わせてしまった。ここは俺が出なければならない。
「全く、どこまでも駄々っ娘ですね。で、どうされるのです?」
「俺がやる。俺は獅子王になるつもりは毛頭ない」
「そうですか」
ロガーが言い終えたと同時に、片手剣で速攻を仕掛ける。奴の鋭い爪は俺の肩に浅い傷をつけた。しかし、俺の片手剣が奴の体を大きく斬り裂く。
「なァッ!?」
「鈍い。どうやら貴様は亀の獣人だったらしいな」
「くッ……言い返したい所ですが、この傷だと何も言えませんね……撤退としましょうか」
ロガーの体がぼやけ始める。だが俺は、消滅を待ってやれる気分になれなかった。
「消えろッ!!」
「……」
渦巻く煙ごと、奴の体を両断する。当然手応えは無かったが、その肉体は塵となり消えた。同時に、辺りの景色が元の夕暮れへと戻っていく。
「消えたか」
「……」
「なんだ、その……さっきは言い過ぎた。すまない」
「いえ、良いんです……こちらこそせっかく治りかけだったのに……ごめんなさい、団長」
へたり込んでいたナーシャがゆっくりと立ち上がる。精神世界で魔法を行使したからまだダメージは少なめだったのが唯一の救いだった。
「さて、これからどうするか……」
その疑問に答えられる者はここには居ない。静かなメレ森林の中、木々のざわめきと僅かな夕日が二人を取り巻いていた。