現政奉還記 武将達との会合編   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 一般の二次元人達を引き連れてアジア巡行を開始しようとしていた聖龍・赤塚同盟の行く手に、敵方に奇襲を受けている国連軍尖兵隊が。これに多くの二次元人が助太刀を拒絶する中、聖龍HEADと赤塚組幹部は国連軍の助太刀に参戦。いざ戦闘が終わり、彼らは尖兵隊を任されていたシバ・カァチェンと対面。しかし虚無の如き思想のカァチェンに大勢が苛立つ中、メタルバードがこのカァチェンと一騎打ちを仕掛ける。初めて自分と向き合ってくれたメタルバード達に何ゆえとカァチェンが問うと、カァチェンが昔の小田原修司の様であったと聞かされ本人も周囲も驚愕してしまう。そして一騎打ちが終わった後、メタルバードは改めて国連軍元帥補佐官ユーリ・ペトロフことルナティックにカァチェンを預からせてほしいと訴える。これにルナティックも同意し、カァチェンの身上を聖龍隊に預からせる事にした。こうしてカァチェンは一行の面子に加わった。



現政奉還記 アジア諸国巡行編 モンゴル恨み節

[変われる切っ掛け]

 

 国連軍に身を置いていたシバ・カァチェンは聖龍隊の計らいで旅路につく一行の元に加えてもらえる事と相成った。

 最初は国連軍はもちろん台湾の軍人達からも蔑まれてたカァチェンは、今までにない待遇で自分を受け入れてくれた聖龍隊とそれに賛同する赤塚組に激しく動揺していた。

 しかしカァチェンは生まれて初めて、自分と向き合い受け入れてくれた聖龍隊の気遣いに心底感服し、彼らの言葉に付き従うように聖龍隊/赤塚組/一般二次元人達の一行に加わる事を同意した。

 

 そして一行は再び当初の目的地であるモンゴルにまで足を運ぶ事となったが、その進軍の最中、またしても塞ぎ込んでしまうカァチェンにメタルバードが話し掛ける。

「気は済んだか、シバ・カァチェン……言った通りだ、この先はオレ達がお前を導いてやる」

「何故……あなた方はそこまで……」

 未だ、自分の様な無骨者を導いてくれるのか理解し難いカァチェンがメタルバードに問うと、彼はそれに真っ当から答えた。

「かつての修司のような奴を放っておくなんて無粋な真似、少なくともオレにはねえ……それに生きる意志無き奴に生きる意志を与えるのが、オレたち二次元人の所以だからな」

 生きる意志を与えるが二次元人。この言葉を聞いたカァチェンは衝撃を受け、そして納得した。

「! ……貴方は、強いな……私如きが、到底敵う道理も無かった筈だ」

 一騎打ちの時、自分が勝てなかった理由を再認識するカァチェンにジュピターキッドが優しく話し掛ける。

「昔の事は振り返らない。前だけ向いていれば、それでいいんだ」

 そしてジュピターキッドに続いて再びメタルバードがカァチェンに言葉をかける。

「お前の過去は知らねえ……話す気にでもなった時に語ってくれりゃいい」

 更にメタルバードはカァチェンに意味深な言葉をかけ続ける。

「……だが、全てはこれからだぜ? 世界中の名立たる武人、そして新世代型達からも、きっと何か変えてくれる切っ掛けをお前にくれてくれるだろう」

「変わ、る……? そんな夢幻など、過去の私は見向きもしなかった」

 そんあカァチェンに今度はミラーガールが慈愛に満ちた口調で言葉を伝える。

「変われるわよ、きっと。あなたなら絶対、今の自分から抜け出せる……かつての修司のように、必ずね」

「私如き若輩者と、かの鬼神を比べるなど……畏れ多い事。何より私は、鬼神の様に畏れられる逸材には……到底、辿り着けない」

 するとこのカァチェンの台詞にセーラーマーキュリーが受け答える。

「何も修司君の様になる必要はないのよ。要するに自分の殻を打ち破って、今の自分から少しでも成長すれば良いって事なの」

「殻、打ち破る、成長……あなた方の言葉は少し難しい」

 自分の殻を打ち破り成長する事を難しく考えてしまうカァチェン。そんな彼にセーラージュピターが気難しく考えないよう説き伏せる。

「まっ、そう難しく考えないで。誰だって、必ず自分を変えられるものだから。自信持って!」

「自信……現実(いま)の私には、到底似つかわしくない言葉の一つです」

「あ~~っ、ほんと暗い! ほんとに一昔前の修司君みたいよ!」

 根暗な性格にスグ戻ってしまうカァチェンの言動に、コレクターユイが吐き散らす。

「でも何とかなるって! 誰だって最初は、自分を変えるのを怖がっちゃうけど、少しずつ変えて行けるのは確かなんだから!」

「そうね。焦ったって何も始まらないわ」

「貴方は貴方のペースで、ゆっくり変わって良けばいいですわ」

 しかし楽観的な史観からカァチェンの具合を見る獅堂光に焦りは禁物と納得する龍咲海、そしてカァチェンのペースでゆっくり成長する事を切願する鳳凰寺風の言葉を聞いて、カァチェンは改めて自分がHEADに大切にされている事を悟る。

 

 と、モンゴル軍主要基地から目と鼻の先の地点まで辿り着いた一行の耳に何やら数多の雑音が入ってきた。

「なんだ……やけに騒がしいな」

 主要基地内から阿鼻叫喚など騒音が聞こえてくる現状にメタルバードが不思議がっていると、先の様子を見に行っていた聖龍隊士から報告が入った。

「ほ、報告! どうやらモンゴル軍基地が奇襲を受けている模様!」

「なにっ、またか!?」

 以前にも似た様な事例があったのを思い出し、メタルバードたちHEADは内心呆れてしまう。

「ユキジの奴、また基地を空けていたって事はないだろうな」

「い、いや、流石にそれはないと思うけど……」

 エンディミオンの言葉に堂本海人が答える。

「そ、それで……何処の軍がモンゴル軍を奇襲している訳?」

 HEADの多くが呆れ果てる中、メタルバードが報告してきた隊士に何処の軍が奇襲しているのか訊ねる。

「そ、それが……」しかし何故か隊士は戸惑ってしまい、口を閉ざしてしまう。

 そんな隊士にメタルバードが檄を飛ばし、事実を言わせようとする。

「解っているなら言え!」

 檄を飛ばされた隊士は激しく動揺しながらも、何処の何者がモンゴル軍を襲っているのか答えた。

「は、はい! そ、それが……ほとんどが女性で構成された軍で、男は数える程度しかいないのです」

「なに、女だと!?」

 モンゴル軍に奇襲を仕掛けた軍隊の大部分が女だけで構成されていると聞かされ、メタルバードは驚きの余り顔が固まってしまった。

 

 

[女の襲撃]

 

 その頃のモンゴル基地の中央区画内では、モンゴル軍の総大将代行のシン・ユキジが一人の凛々しい長髪の女性と一騎打ちをしていた。

「ハァッ!」「つ、強い……!」

 女性が振り翳す巨剣にユキジは懸命に受け止める事しかできず、女性が如何に鍛錬を積み、強いのか身に沁みて理解した。

「これが奪われた者の……怒りだ!」

 一方の女性は凛々しい顔立ちとは反面、その表情に怒りを露にしながらユキジに迫る。

 

 二人の軍の大将が一騎打ちにて闘っている間、その他の兵士達は突然奇襲を仕掛けてきた女性兵と攻防を展開していた。

「者共守れ! 今こそ、門扉を塞ぐ巌とならん!」

 モンゴル兵が門扉を防ごうにも、度等を組んだ女性達は薙を巧みに扱い攻めていく。

 そんな戦況の中、聖龍・赤塚同盟はこの戦いに一刻も終止符を打つため、まずは二つの軍の総大将の一騎打ちに馳せ参じようと戦場を駆け抜ける。

 一方その頃、女性と一騎打ちに動じるシン・ユキジは何ゆえモンゴル軍を攻め立てるのか、女性に問い掛けていた。

「ナオコ殿、お聞かせ願いたい……! 貴殿は我らモンゴル軍に、一体如何なる恨みがあると!?」

「き、貴様……! この期に及んで惚けるつもりかッ!?」

「な……惚けるなどと、滅相もござらん!」

「覚えがない、だと……!? 本気で言っているのか、貴様……!」

「確かに、我らモンゴルと其方中国の漢族との間に戦があり申した……しかしそれは、二年前の乱世の世の常……恨むのは筋違いでござろう」

 二年前のアジア大戦の最中、モンゴル軍と中国漢族の間の戦争を話題に出されたユキジは乱世ゆえの世の常だと申し開き、恨むのは可笑しいと女性に訴える。

 二人の大将が一騎打ちをしている間、現場の指揮を執っている猿飛佐助はモンゴル兵に指示を飛ばす中、現場に駆けつけて来た聖龍隊と赤塚組に気付く。

「大将戦の決着がつくまで、みんな踏ん張ってよ! ……? ありゃありゃ、これは呼んでもいない連中まで紛れ込んじゃった?」

「助けに来てやったんだよ。同盟の相手が危機じゃ、示しが付かないだろう?」

「へへっ、そりゃどうも。……まったく、若いもんに言われてちゃ俺様も御仕舞いだね」

 スター・ルーキーズのキリトからの言葉に、佐助は頭を掻きながら返答する。

 そして当のモンゴル軍兵士は、突如として奇襲を仕掛けてきた女性軍相手に奮闘していた。

「イン軍め、突然襲ってきやがって! これ以上好きにさせるか!」

「ナオコ様の涙は枯れ果てた……その想い、男どもに分かるものか!」

 だが相手方の女性達も負けじと、モンゴル兵に薙刀で戦いを挑む

「双方とも止めろ! 聖龍隊、男も女も止めに入れッ」「はっ!」

 総長メタルバードの指示を受け、聖龍隊士は各々と戦い合う男と女を止めに入る。

「進め! 我が軍が誉れたる隊士達よ!」

 進軍に当たり、聖龍隊の上官が隊士達に進軍を指揮する。

「やあっ!」掛け声と共にモンゴル兵と女性兵、双方の武器に強烈な跳び蹴りを入れて強引に戦いを止めさせようとするモルジアナ。しかし戦いを止めに入った彼女に女性兵は怒りを露にして文句を言う。

「あ、貴女! 私達の真剣勝負を邪魔する気!? 女なら、乙女の怒りを察しなさい」

 これにはモルジアナも付近で戦闘を展開していたクローム髑髏や葉月いずな達は唖然としてしまう。

「ひ、ひいい! やっぱ無理~~怖い~~」「男衆! 戦う前から諦めない!」

 その反面、女性軍側の男の兵士は気弱で、それを女性兵に咎められていた。

「どうやら相手の軍は、気弱な男と実直な乙女による構成の様だな」

 戦場でモンゴル軍と戦う軍を直感的に見て、キング・エンディミオンは女性側の軍隊は女の方が気が強く男の方が気弱な事実に着目する。

 と、ここでユキジや女性武将の一騎打ちに駆けつけ様とするHEADに情報が入ってきた。

「HEAD! どうもモンゴル軍を襲撃しているのは中国,漢族の女傑による自軍であり、その大半が『なでしこ隊』と呼ばれる女性の部隊で構成された軍隊との事です!」

「OK、了解した。……と、言うみたいだ。何だか知らないが頭に血が上った『なでしこ隊』を止めに入るぞ」

「はいっ!」

 隊士より報告を受けたメタルバードは、中国漢族の出てある『なでしこ隊』で構成された軍の進撃を止めるぞと仲間の聖龍HEADに告げる。

 メタルバードは更に先の出来事で仲間に引き入れたシバ・カァチェンにも出撃の令を出した。

「カァチェン、お前はオレと一緒に来い! 初めての共闘だ!」

「承知しました、バーンズ氏……」カァチェンは毎度の如く、暗く返事をして出撃する。

 前進する聖龍隊と赤塚組の同盟軍、だがシン・ユキジの一騎打ちに駆け付けるには正面の門扉は硬く閉ざされており、直進して進む事は叶わず仕方なく左へと迂回して進攻するしか手立てが無かった。

「くっ、力にものを言わせて! これだから……これだから!」

「いや、そちらさんも力押しでモンゴル攻めているから、言えた義理は無ェよな?」

 力押しで自分を負かした聖龍隊のフロートに対して文句を言うなでしこ隊に、フロートは彼女達も力尽くでモンゴルに奇襲を仕掛けていると返答する。

 

女性(にょしょう)とて分け隔てはしない、どうか安心して欲しい……下された命は全ての屠殺(とさつ)、ただそれだけなのだから」

「いやいやカァチェン! 殺すのは流石にマズいから! せめて気絶程度に抑えるんだよ」

 女性であろうと命令ならば殺めかけないカァチェンの言動に、ジュピターキッドは慌てて抑制を掛ける。

「まともな男など、滅多にいないッ! よく覚えておくんだぞ、お前達!」

「はっ!」

 シン・ユキジと真っ向から勝負を挑む女大将は、闘いながらも配下の女達に言い聞かせ、それに周りの女達も賛同する。

「行きます、このまま男共には任せていられません」

 男衆にばかり任せられない心境の女衆も、自分達の決闘を邪魔立てする聖龍隊に反撃を試みる。

 聖龍・赤塚同盟が進攻に手を拱いている最中、モンゴル軍となでしこ隊の戦いを聖龍隊の隊士達が止めに入ろうと加勢していた。

「『しなのなでしこ』の花言葉は可憐! 乙女は強く! 美しく!」

「なんで凛とした女たちだ! HEADの女性陣を見慣れてなければ、思わず見とれてしまいます!」

 なでしこ隊の、その余りの凛々しい姿に、聖龍隊士の中には思わず見惚れてしまう者までもいた。

 だが聖龍HEADの指揮の下、隊士達はモンゴル兵となでしこ隊の仲裁に入る。

「こらっ、やめなさい!」

「邪魔しないでもらおう! ……ナオコ様の悲しみを癒す為にも」

「ナオコ、様……あなた達の大将の名前ね」

 基地の中央区に向かう道中に仲裁に入るセーラーマーズになでしこ隊の女性が漏らした名前を聞いて、同伴するセーラーヴィーナスが女性武将の名だと察する。

 するとなでしこ隊の一人が聖龍隊に向かって突撃しながら言い放った。

「狼藉者がッ」

「い、いやいや。狼藉者って……モンゴル軍に奇襲かけているあんたらの方が狼藉者なんじゃない?」

 突撃してくる、なでしこ隊をひょいっとかわして反論するルーキーズの奴良リクオは、他にも周辺で戦う兵士達を仲裁に入り、戦闘を終わらせようと躍起になる。

 

「世の乙女たちの幸福のために、いざッ!」

「ナオコ様! 我らなでしこ隊、いつまでも貴方様のお側に!」

 なでしこ隊は自軍の大将に厚い信頼を寄せており、彼女の為なら命も惜しまない覚悟で戦いを仕掛けてきた。

 

 進撃を続ける聖龍・赤塚同盟だったが、進行先になでしこ隊が待ち伏せていた。

「俺らって名の石垣は、そう簡単には崩せねえぜ!」

 そんな、なでしこ隊と対峙するモンゴル兵達と共にミラールが二丁拳銃でなでしこ隊と応戦を開始する。

「『かわらなでしこ』の花言葉は貞節! 守ってみせます!」

 守ってみせると言い放つなでしこ隊にミラールの二丁拳銃が火を吹いた。彼女のミラージュ・ガンから放たれた魔力の弾丸は、なでしこ隊が構える盾を貫通して本体に直撃。されど人体を傷付けず、気絶程度で済ませていく。

 ミラールに続いて聖龍HEADもシバ・カァチェンと共になでしこ隊の守りを突破する。

「HEADが突破した! 一緒に駆け抜けろ!」

 聖龍HEADの突破を視認した聖龍隊士たちは一気にモンゴル軍の陣地へと踏み入っていく。

 

「無理するな、お前さんは此処で休んでろ」

「拙者、己の未熟を思い知りました……」

 戦闘で思わず負傷してしまった隊士に休めと言うワイルドタイガーの言葉に、負傷した隊士は自らの未熟も痛感させられるのだった。

 

 

[熱戦VS凛戦]

 

 相も変わらず、なでしこ隊と戦い合うモンゴル兵。その中には総大将代行を任されているシン・ユキジを憧れる兵士も当然ながらいた。

「ユキジ様のように……ただ前に、前に、前に……ッ!」

 率直なシン・ユキジの様に迷う事無く戦場を駆け抜ける武士を目指す兵士。

 その時、シン・ユキジはと言うと、敵方の大将と各々指揮を飛ばしていた。

「なでしこ隊、前進! 男衆はその場に待機っ!」

「何の! 皆、勝負はこれからだぞ!」

 女のなでしこ隊には前進を命じ、気弱な男衆には待機するよう命令を下す長髪の女性に相応し、シン・ユキジもモンゴル兵士達に檄を飛ばす。

 

 一方、赤塚組の幹部達とモンゴル軍基地領内を進行する聖龍隊は着実に周辺の戦闘に幕を下ろさせていってた。

「HEADが勢揃いしておれば、我が軍は常勝間違いなしよ」

 そんな戦闘の幕を下ろさせていく聖龍HEADを見て、聖龍隊士たちは自軍の常勝を確信してしまう。

 一方、劣勢になったなでしこ隊はやむを得ず撤退を選択する。

「退くぞ! ただがむしゃらに戦うは乙女の戦にあらず!」

 我武者羅に進撃せず、進軍するべき時に進軍するのが筋と心得ているなでしこ隊を見て、男衆が呟いてしまう。

「確かに女衆と比べたら、俺達は情けないよな」

 男衆が自分達の情けなさに哀愁を覚えている最中、なでしこ隊の鉄砲がモンゴル兵に襲い掛かる。モンゴル兵たちは死ぬ事は無かったものの、各々方が負傷してしまい上手く動作を取る事ができなかった。

「大丈夫か! しっかりしろ」

 と、そこに赤塚大作率いる赤塚組幹部衆が駆けつけ、助太刀に入るが負傷したモンゴル兵は礼を言う余裕もなく、時の運を呪っていた。

「ぐっ……これも時の運ならば、某は神を呪おう」

 銃弾が減り込んだ箇所を押さえながら苦渋の言動をぼやく兵士に、赤塚大作たちは何の言葉も掛けてやれなかった。

「なんか悪い方、悪い方へと転がってってるよーな……?」

 聖龍・赤塚同盟が駆け付けるのが遅れたのか、戦況が次第に押されている状況にモンゴル兵は不安に駆られていた。

 

 しかし聖龍・赤塚同盟の加勢によって、戦況は少しずつモンゴル軍側に傾きつつあった。

「山林の如く佇む、お館様のように! いざッ!」

「うおおお! モンゴル最強ォッ! 大将の為に、震えよおおッ!」

 士気が高まるモンゴル兵を目の当たりにして、なでしこ隊も負けじと意気込む。

「暑苦しいモンゴル軍なんかに、私達が根性で劣る訳がない!」

 だがモンゴル軍と同盟の義を結んでいる聖龍隊の加勢により、なでしこ隊の劣勢は変わらなかった。

「見てろ、ナオコ様に……言いつけてやる!」

 自分達の決闘を邪魔されたなでしこ隊は、戦いを妨害してきた聖龍隊に文句をぶつけてくる。

 

 その頃、中央区では女大将相手に攻撃を仕掛けようとしたモンゴル兵が、逆に怒鳴り付けられてしまっていた。

「あの娘達を泣かせる奴に掛ける慈悲はない! 地獄の底でごめんなさいをしてくるんだな!」

「ごめんなさぁい!」

 相手方の女大将の檄に対してモンゴル兵は縮み込んでしまい、思わず逃げ出してしまう。

 

 同じ頃、聖龍隊のスター・ルーキーズと共になでしこ隊の進攻を防いでいた猿飛佐助の前に、なでしこ隊の増援が押し寄せてきた。

「あらら……モンゴルの精強も舐められちまったもんだねえ……モンゴル忍隊、迎え撃てッ!」

「はっ!」

 佐助はスグに自分が指揮するモンゴル軍の忍に、なでしこ隊を迎撃するよう指示を飛ばす。

「さ~~て、お前たち……楽しい忍仕事のお時間だ」

 佐助は配下の忍達に忍務開始の刻を告げると、一気に多数の手裏剣でなでしこ隊を迎え撃つ。

 突如として眼前に現れた忍隊に対して、なでしこ隊と共に進攻していた男衆の大半は恐れを成して逃げ去ってしまう。

「男衆には期待するだけ無駄だ……私達だけで攻めるぞ!」

 そんな男衆に微塵の期待もしていない、なでしこ隊は薙を振り翳してルーキーズと猿飛佐助率いる忍隊に反撃を仕掛けていく。

 だが忍ゆえに素早さが尋常でない忍者たちを捉えるのは至難の業であり、戦い慣れているなでしこ隊も苦戦を強いられそうになる。だが

「『むしとりなでしこ』の花言葉は罠! 逃がしません!」

 モンゴル軍忍の情報を前もって知っていたのであろう、なでしこ隊は鉄製の網を投げ付けて忍たちの動きを封じてしまう。

「あ!」「ど、どうするんですか!?」

 優勢を誇っていた忍たちが一度に全員捕らえられてしまった現状を目の当たりにして愕然とするブラック・ロータスにシルバー・クロウの衝撃に、佐助が鋭い目付きを光らせて一言発する。

「やってくれるじゃないの……まさかウチの忍たちを」

 その目付きは以前にも目撃した、冷たくも敵意をむき出しにしている猿眼だった。

 

 モンゴル忍隊がなでしこ隊によって動きを封じられていたその時、中央区での戦いは更に熱気を上げていた。

「うぁあああああ! モンゴル軍最強ォオオオッ!」

「うおおお、燃えてきたああああッ!!」

「いけない、冷静になれナオコ……! あんな熱血馬鹿どもと一緒になるな……!」

 戦いに燃え上がるシン・ユキジやモンゴル兵を前に、相手方の女大将はそれに反して冷静さを欠かないよう自分に言い聞かせていた。

 

 士気の上がったモンゴル軍相手に活気になる女衆を見て、男衆は恐怖に慄いていた。

「女衆は頭に血が上ってるだろうなあ……くわばらくわばら」

 

 その頃、忍隊の動きを封じられ窮地に立たされていたと思われていた猿飛佐助は【SAO】組と【AW】組の聖龍隊が加勢に入ってくれていたお陰で何とか持ち堪えていた。

「やれやれ……またあんた達に借りを作る羽目になっちまうとは。ま、今さら回れ右して帰れって言っても無理だしなあ」

 猿飛佐助の言葉に、二組は口元を緩ませると一気になでしこ隊を押さえ込もうと挑みかかる。

 だが、なでしこ隊は黙って戦いを納めてくれる状態ではなかった。

「相手方を見くびるな、私達が出るッ!」

 しかし其処にモンゴル兵も加勢に加わり、戦況は更に混戦と化す。

「こう見えて俺らもさ……漢、鍛えてんだぜ……!」

 

 国のために戦う意志は兵士だけでなく、総大将のユキジにも備わっていた。

「これ以上、モンゴルの誉れは傷つけさせぬ!」

 

 すると聖龍隊の進軍を妨害するなでしこ隊の増援が、一斉に弓矢や銃での射撃で応戦を展開する。

「『たつたなでしこ』の花言葉は強烈な愛! 奪わせないわ!」

 たつたなでしこ隊による射撃攻撃は、聖龍隊の進軍を一時ばかし遅らせた。

 

 と、ここで男衆より意外な発言が飛び出してきた。

「俺、別にモンゴルに恨みは無いからさ。女衆だけで戦ってくれると……嬉しいんだけどなぁ」

 どうやらモンゴル軍に直接的な恨みを抱いているのは、女大将と女衆だけらしい。

 

「私達は! 私達は! 必ず、勝たなきゃいけないんです!」

 しかし、なでしこ隊にはどうしても負けられない事情があるらしい。

 

 

[乙女の悲しみ]

 

 一方で戦場はすっかりモンゴル軍の熱血兵士と、凛とした女衆や臆病な男衆で溢れていた。

「男衆を りすぎて、眉間に怒り皴ができてしまった……」

 気弱な男衆を叱り過ぎて出来てしまった皴を気にしてしまうなでしこ。

 

「このイン・ナオコが率いる限り、イン軍に負けはないッ!」

「如何なる敵であろうと、このユキジ一歩も退かぬ!」

 双方共に意地の張り合いで互いに退けなくなってしまった女大将とシン・ユキジ。

 

 そんな二人と同様、聖龍隊の隊士も士気が高まる両軍を目の前に自らの士気も高める。

「むむ、拙者も負けてはおられませぬ……!」

 一方で、その聖龍隊士たちに負かされたなでしこ隊も苦痛に表情を歪ませながら立ち上がる。

「くぅっ、私が倒れて……男衆に示しがつくかぁ……!」

「なでしこ隊がある限り、イン軍は決して朽ち果てたりはしない!」

 

 そんな自軍の戦況を窺い、一騎打ちに生じる二人は互いに得物を交えながら言葉を交わす。

「……乙女は強いんだ! 甘く見るな、男共ッ!」

「ムッ……押されているか」

 戦況が再びなでしこ隊に押されているのを把握したシン・ユキジは、自分の不甲斐なさを実感する。

 

「武運を祈る……いざ、進撃!」

「ナオコ様……私に立ち向かう勇気を……!」

 互いに武運を祈りながら対峙していくモンゴル兵となでしこ隊。

 

 その頃、聖龍HEADはシバ・カァチェンと共に忍隊を開放し、彼らと共になでしこ隊を迎撃していた。

「……HEAD、この様に片付けましたが如何でしょうか……」

「おうっ、上出来だカァチェン! ちゃんと峰打ちで済ませているのが偉い!」

 自身の役割がこなせているのか確認するカァチェンに対し、同伴するメタルバードは彼がしっかりと相手方の女性を死なせず峰打ちで済ませている点を大いに評価した。

 すると、そんな峰打ちで事を済ませる聖龍隊に対してなでしこ隊が物申した。

「女だからって手加減すればどうなるか……思い知るぞ!」

「無理しないで。戦いなんて止めようと思えば、いつだって止められるものなのよ」

 物申すなでしこ隊に、ミラーガールが優しく言葉を返す。

 そして何とか中央区に駆け込もうとする聖龍隊は、中央区の門扉を死守する猿飛佐助に中央区への進行を許してもらおうとするが。

「佐助! オレ達もユキジに加勢する! 今すぐに門を開けてくれ……」

「それは断る! これはウチの問題だ、あんたら部外者の手を借りたんじゃ大将の名に傷が付く!」

 そう言って佐助はユキジの一騎打ちに部外者が立ち入る事を固く拒んだ。

 すると、なでしこ隊の一人が自分達の大将が扱う武器に対して物議を申し開く。

「防げば刀が、喰らえば背骨が砕け散る……あの剣は、猛虎の爪にも勝るのだ!」

 女大将の武器は、容易く刀や人骨を砕ける巨剣であると申し開くなでしこ隊。

「そんなもので、私達がやられると思って?」

「あなた方などには負けなくてよ!? おーーっほっほっほ!」

 と、ここで敢えて峰打ちで済ませている聖龍隊と赤塚組になでしこ隊の女達が悔し紛れの台詞をぶつけてくる。

「な、なんか……お嬢様タイプの人って、二次元人以外にもいるんだね……」

 お嬢様気質の台詞を吐くなでしこ隊の女性を見て、聖龍隊に同伴する新世代型二次元人の女子達が思わず言葉を零す。

「ば、バーンズ殿、我々も参戦しましょうか……?」

「んっ、いや、お前達は何もしなくて良い。今回は戦いというよりも、仲裁に近いからな」

 自分達も参戦した方が良いのではと訊ねる新世代型の鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)に対し、メタルバードはなでしこ隊の薙刀を両手で弾き返しながら応えていく。

 

 その頃だった。シン・ユキジの一騎打ちに変化が。なんと女大将の口から意外な過去が。

「私の約束の人は……お前たちモンゴル軍との、戦の最中……! お前たちの……お前たちのせいで……!」

「それは……否、例えそうであろうとも、このユキジ……モンゴル軍が総大将を任された身、負ける訳にはゆかぬッ」

 大切な異性が戦火で果てたと察するシン・ユキジ。だが、彼にも負けられない理由が背負われていた。

 

「ここは急ぐ! 男衆、遅れるな!?」「へいっ!」

 敵方を急襲する為に男衆を急がせるなでしこ隊、彼女達に男衆は黙って従った。

「我らが主を信じよ! ほんの一時耐えるまでぞ!」

 活気付くモンゴル兵に加勢し続ける聖龍隊と赤塚組幹部衆。しかし彼らの進撃を聞き付けた女大将は、なでしこ隊に言い付ける。

「奴らは乙女の敵だ、閉め出してやれ」「お任せを!」

 女大将の命令に、なでしこ隊は強く返答。即座に二人が一騎打ちしている中央区への出入り口前になでしこ隊は集まり、聖龍・赤塚同盟の進軍を阻止。

 その頃の聖龍隊と赤塚組は、猿飛佐助率いる忍隊と共に中央区入り口手前で混戦していた。

「俺様に勝てそうだとか、思ってない?」

 血塗れの(ましら)と自負する自分を負かそうとしている女達に、佐助は本気の目付きで戦場を見渡す。

「あの忍、怖えよ……特に、あの冷たい目が」

 佐助が見せる冷たい目付きに、男衆は心底脅えてしまう。だが女衆は一瞬怯みながらも、佐助に薙刀を突き立てようと突撃してくる。

 佐助は得意の大型手裏剣を巧みに操り、なでしこ隊の薙刀を弾き飛ばして女達を無防備にしてしまう。

「乙女は……倒れても倒れても起き上がる……何度でも!」

 大型手裏剣で薙刀ごと弾き飛ばされて倒れてしまう女衆だが、倒れてもスグに起き上がる意志を秘めていた。

 だが佐助はこの時、周囲に展開するなでしこ隊と、自分と共闘してくれる聖龍隊の位置を頭に入れるのに精一杯で、遠くの女狙撃手に気付けずにいた。女狙撃手は銃で戦場を思うがままに戦う佐助に標準を合わせる。

 そして、一発の銃声が響いた瞬間、佐助に銃弾が直撃した。

「ぐわっ」「佐助!」「佐助さんっ!」「あっ!」「ッ!」

 銃弾が直撃した拍子に倒れる佐助に、キリト/アスナ/シルバー・クロウ/ブラック・ロータスを始めとする現場の聖龍隊は一驚する。

「まずっちまった……すまねえ、大将……」

 体に銃弾が減り込んだ佐助は痛みに耐えながら味方兵に合図を送り、中央区へと続く門扉を開平させた。佐助は戦場を離れる前に、大将であるシン・ユキジの現況を確認したかったのだ。

 だがユキジは、佐助が睨んだとおり巨剣を容易く扱える女性に圧倒され、息を荒くして膝を着いていた。

 これを見た佐助は、軍の総大将を任されたシン・ユキジが負ける事は決してあってはならないと判断。

「お、おい忍者! 大丈夫か!?」「佐助さん、しっかり!」

 クラインやライム・ベルらが佐助に駆け寄り、介抱しようとすると、佐助は彼らの手を振り払い咄嗟に片手で印の字を空に描いた。

「大将……あんたは、負けちゃダメなんだ……!」

 ユキジを負けさせまいと、佐助が空に印の字を描いた瞬間、女大将と対峙していたシン・ユキジの体を黒い靄が包み込み、次の瞬間にはユキジの姿を完全に消し去ってしまったのだ。

「ッ、己! 卑怯だぞ!」

 ユキジの姿を眩ませたとして、女大将は怒り出す。

「ゆ、ユキジが消えた……! 何処へ行ったッ! 出てこいッ!」

 姿が見えなくなったユキジを必死に探し回る女大将。一方、反対にユキジは基地の遠方にいた。

「ヌゥ……!? これは……佐助の仕業か!?」

「例え卑怯と呼ばれても構わない。これが俺様の精一杯だ……踏ん張れよ、大将……!」

 卑怯な戦術であろうと主君を守る、忍の役目によって飛ばされたユキジはすぐに佐助の忍術によるものだと察し、一方の佐助は術を発動させた直後に聖龍隊によって介抱された。

 シン・ユキジが猿飛忍術により移動した事で、中央区には女大将とその取り巻きにも見える女衆しか居なかった。

「今だ! おれ達であの女を止めに行くぞ!」

 若気の至りか、自分達だけで巨剣を扱う女性を制止しようと言い出すキリトの言葉に、SAOもAWの面々も中央区に飛び込んでいく。

 そんな進軍するルーキーズの精鋭たちに、男衆は堪らず弱腰で戦意を失ってしまう。

「ホント……ダメな野郎共だよ、俺達は……」

「いっそ女衆に全部任せた方がイン軍は安泰だよね、うん」

 この始末。

 

 

[凛然たる虎]

 

 一方、自分達だけで巨剣を扱う女性を制止しようと先陣を切るキリト達。

 だが女大将は自分を包囲するキリトや、シルバー・クロウといった男達だけを目の敵にして巨剣を振るってきた。

「男がのさばり!」「うわっ」「ひぃ!」

 クラインやシアン・パイルらに巨剣を振付ける女性の猛威に、男どもはタジタジ。

「……涙するのは、乙女ばかり」

 巨剣を振るい続ける女性はここで額から零れそうになる雫を片手で拭うと、強く言い放つ。

「国の行く末、最早! 男どもには任せておけない!」

 そして凛々しい黒髪の女性は、男には負けない強い面魂で名乗る。

「私はナオコ、イン・ナオコ! 誰よりも、直向きなる虎だ」

 

剛潔撫虎 イン・ナオコ 凛然

 

 女大将イン・ナオコは自分とシン・ユキジの一騎打ちを邪魔立てされて、実に不愉快に感じていた。

「むッ!? 誰だ貴様らッ! 乙女の仇討ちを汚すとは不届きなッ!」

 イン・ナオコはキリト達の言い分も聞かず、感情に任せて巨剣を振りかざし続ける。

「ひッ」振付けられる巨剣の豪風に煽られ、キリトらはすっかり蒼褪めていた。

「大人の勝負と行くか、暑苦しいのは嫌いでね。……お前が言うな? 何の事だ!?」

 イン・ナオコは、自身が熱血で暑苦しい性分だという事に全く無自覚の様子。

 そんなイン・ナオコでも、自身と同じ女性であるアスナやブラック・ロータスには丁寧な物言いで語り掛ける。

「あなた達、なんで私の邪魔をするんだ! もう少し……もう少しで、あの人の仇を……!」

 凛々しい顔立ちからは似合わない鋭い目付きで睨み付けてくるナオコの睥睨と巨剣の猛威に圧倒され、言葉を返す暇すらないアスナ達。

 と、そこに聖龍HEADが踏み込んできて、ここでようやくイン・ナオコは自分と対峙してくるキリトやシルバー・クロウ達の正体に気付く。

「! お前達、まさか聖龍隊の者か!?」

「って、今さら!?」「まあ、私たちはまだ入隊して有名じゃないからね」

 イン・ナオコの驚きにキリトやブラック・ロータスたちは、自分達の名がまだまだ海外には広がっていない事実を知る。

 すると唖然とするキリト達の横から、聖龍HEADが駆け込んできてイン・ナオコと向き合う。

「待って! あなたは何でこんな真似を……」

 セーラームーンが何故にモンゴル軍を奇襲したのかナオコに訳を尋ねようとするが、感情に熱が入ってしまっているナオコは聞く耳なぞ持ってはいなかった。

「例え戦乙女の手本である聖龍隊が相手であろうと……私の邪魔は許さない!」

 どうやらイン・ナオコは戦う乙女の手本として聖龍隊を見習っている様であるが、その聖龍隊に一騎打ちを邪魔されたのか彼らの話に聞く耳など持たず只ひたすら自分の身の丈よりも遥かに巨大な剣を振り翳し、猛威を振るい続ける。

「あのイン・ナオコって女、完全に感情的になって話を聞く気が微塵もねぇ……どうやら力尽くで止めるしかねェみてぇだな」

 完全に感情に熱が入って、周りが見えなくなってしまってるイン・ナオコを強引にでも止めるしかないと判断するメタルバード。

 そんなメタルバードの意思を察して、HEADと隊士が一同になってナオコを包囲する。

 だが周りを取り囲まれたイン・ナオコは巨剣を振り回し、突風を起こしては周囲の隊士たちを吹き飛ばす。

「うわぁ!」「ぐっ……なんて豪腕だ」

 凄まじい突風を喰らい、隊士たちは吹き飛ばされてしまい、HEADのエンディミオン達はどうにか凌いでみせる。

 しなやかな身体つきからは想像もつかない巨剣を振り回せるほどの剛腕と、それを両手で携えて動き回れる強靭な足腰を持つ女剣士イン・ナオコ。まさしく彼女の振るう巨剣は、下手に刀で防げば刀が砕け散り、かと言って肉体にその巨剣が直撃すれば即死の可能性もあった。

 凛々しい顔立ちとは不似合に、感情的な表情を浮かべて戦い続けるイン・ナオコに聖龍隊が苦戦を強いていると、シバ・カァチェンがHEADに申し付けた。

「バーンズ氏、それにHEADの皆々様方……あの女、如何するおつもりで?」

 陰気に問い掛けてくるシバ・カァチェンに対してメタルバードが困り顔で答えた。

「そうだな……あのでっかい剣が何とも厄介だし……」

 下手に立ち回れば怪我どころでは済まない巨剣を自在に扱うナオコの猛威に、メタルバードは策を講じようとしていた。

 

 と、メタルバードが猛威を振るい続けるイン・ナオコに何か策がないかと頭を捻っていたその時

「バーンズ! 私が行くわ」「アッコ!?」

 なんとミラーガールが自分がイン・ナオコの前に出ていくと言い出し、それに横にいた赤塚大作が一驚する。

 そしてミラーガールはメタルバードの合意も待たず、単身イン・ナオコの眼前へと飛び出して行ってしまった。

「アッコ! ……まったく、アイツと来たら」

 メタルバードが苦笑を浮かべている最中、一人の隊士がイン・ナオコの巨剣の餌食になろうとしていたが、その直前にミラーガールが双方の間に入り込み、盾でナオコの巨剣を防いで隊士を護った。

「大丈夫!? さあ、今のうちに離れてっ」「も、申し訳ありません……!」

 イン・ナオコの巨剣をミラー・シールドで何とか防いだミラーガールは、歪んだ表情で隊士にこの場から離れるよう言い渡す。

 そして己の攻撃を盾で防がれたナオコは一旦離れ、ミラーガールと距離を置くと巨剣を構えて強く訴える。

「あなたは……! かの魔鏡聖女、ミラーガール……退いてください! 私はモンゴル軍と話があるんです!」

「私の……私たちの事は知っている様ね。それじゃ今回だけでもいいわ、私たちの顔を立てて撤退してくれない? モンゴル軍とは此方も話があるの」

 互いに巨剣と鏡の盾という余りにも喰い違う装備を構えて、イン・ナオコとミラーガールの語り合いが始まった。

「それはできない! モンゴル軍は私の……私の大事な人を……!」

「大切な人を奪われた、って言いたいの? その気持ち、同じ女性として理解できるわ。だけど武力で片付けようとするのはどうかしら? ……見てみなさい、私や貴女と同じ女性のなでしこ隊の傷ついた姿を……」

「! ……」

 ミラーガールに言われ、巨剣を構えたままイン・ナオコが横目を向けてみると、彼女の視界に先の戦闘でモンゴル軍と傷つけ合ったなでしこ隊の姿が入った。

 自分の野心に巻き込んだがために傷付いてしまったなでしこ隊を視認し、ナオコは後悔にも近い念で口元を噛みしめた。

 なでしこ隊の現状を見せれば少しは戦意も鎮まると考えたミラーガールは、ここでようやくイン・ナオコの戦意が納まると確信しかけた、その時。

「ナオコ様! 私たちの事は構いません!」

「! お前たち……!」「!?」

 なでしこ隊がナオコの心情を察したのか、ナオコに自分達への気遣いは無用と訴える。これにはナオコ本人もミラーガールも、そして現場にいた誰もが愕然とした。

「あなた様は、私たち乙女の為に……ゆくゆくは、あの方の仇を討つために! 一心不乱にその巨剣を自由に振るってくださいませ!」

「あ、あんた達……」

 なでしこ隊の予想外の発言に、ナツ・ドラニグルは唖然と口を開けてしまう。

 そして、なでしこ隊の言葉を聞いたイン・ナオコは意を決して再び剣を持ち上げる。

「そ、そうだ! なでしこ隊、いいや、この世すべての乙女の為に私はこの剣を振るうんだ……たとえ、それが戦乙女で名高い聖龍隊が相手でも変わらない!」

 イン・ナオコは決意を改めて、なんと物理攻撃には滅法弱いミラーガールに巨剣を振るい始めた。

「ええいッ!」「ッ!!」

 イン・ナオコが突き付ける巨剣の威力に、ミラーガールは鏡の盾で防ぎきるので必死だった。

 

 

[乙女の苦悩]

 

 遂に始まってしまったミラーガールとイン・ナオコの闘い。

「み、ミラーガール! 助太刀するかッ?」

「いいえ、待って! もう少しだけ、私たちだけで……」

「ほう、盾一つで私に挑もうとするのか……噂通り、聖女は争いを嫌うと見た」

 自分達も加勢しようかと唱えるメタルバードにミラーガールはもう少しだけ闘わせてくれるよう志願、一方で盾一つで挑んでくるミラーガールを見て噂通りだと把握するイン・ナオコ。

 

 巨大な剣を振り回すイン・ナオコからの猛攻に、ミラーガールはただ防戦一方。

 そんな最中、一般二次元人たちの間である疑問が交わされていた。

「な、なあ、あのイン・ナオコって女の人……なんであそこまでしてモンゴル軍を恨んでいるのか。琴浦、お前のテレパシーで解らないのか?」

「そ、それが……なんでか、あのナオコって人の心意、分からないの……」

「え!? そうなのか……!?」

 プロト世代のギュービッドが新世代型でテレパシー持ちの琴浦春香に、何故イン・ナオコがモンゴル軍を恨んでいるか心意を読み取るよう促すが、琴浦春香はイン・ナオコにテレパシーが通じないと返す。これには同じ新世代型の真鍋義久も一驚する。

 そんな二次元人たちの会話を聞いたメタルバードが、彼らにその訳を説いた。

「オレたち二次元人のテレパシーは三次元人には通じないようにされているのよ。オレらが三次元人の心、いや真意を知っちまったら、向こうさんも色々と困るだろうよ」

 メタルバードの説明を聞いて、ここでも三次元人と二次元人の差別があるのだなと薄々察する二次元人たち。

 

 一方、激しい攻撃を盾で懸命に受け止めながらミラーガールもイン・ナオコの真意を気にする。

「なんで……なんで貴女は其処までしてモンゴル軍、いいえ男に対して恨んでいるの……?」

 ミラーガールは嘘偽りのない瞳でイン・ナオコに何ゆえ男を恨んでいるのか、特にモンゴル軍にその恨みを向けているのかイン・ナオコに問うた。

 ナオコは答える気は微塵もなかったものの、ミラーガールの鏡の様に透き通った瞳に全てを見透かされる気持ちになり、巨剣を振るいながらも次第に固く閉ざしていた口を徐々に開き始めた。

「そ、それは……」「聞かせて。同じ女として力になれるかもしれない……」

 何事も見透かせるような透き通った綺麗な瞳に見詰められ、一瞬戸惑いながらもイン・ナオコは語り始めた。

「い、今から二年前、忘れもしないアジア大戦の事だ……当時、土地の豪族である私はある許嫁と婚約を交わした」

「それは良かったじゃない」

「だけどだ! モンゴル軍との戦争が始まり、家に若い男がいなかった我が家では私が代わって戦に出ることに……」

「男に、代わって……?」

「そうだ。私は幼い頃から武芸の才を見出され、自発的にも鍛錬を熟してきた。そしてモンゴル軍と戦に明け暮れていたある日……その許嫁が、許嫁が……」

「…………………………」

「……私が、戦に長く出張らっているのを理由に、祝言の日に逃げ出したんだ!!」

『ええぇぇ~~っ!!』

 なんとイン・ナオコが申すには、若い男がいなかったが為に武芸に秀でた自分が代わって戦場に出ていたが、そんな自分が戦に明け暮れていたある日、その許嫁すなわち婚約者が逃げ出してしまったという。

 これにその場の全員が驚倒してしまい、ナオコと対峙していたミラーガールも驚きの余り表情を固めてしまう。

「お、おいおい何だよ。要するに戦に出ていたから祝言の日に遅刻して、それで男に逃げられちまっただけじゃねぇか……モグッ」

「やめて君たち。それ以上言うと、火に油だよ」

 共有感知で思わず思った事を同時に言おうとしてしまう新世代型二次元人たちに対して、ジュピターキッドは即行で地面から植物の蔦を生やして全員の口を塞ぐ。

 そんな中、ミラーガールは動揺を押し殺し、再びイン・ナオコに話し掛ける。

「そ、そうだったのね。それは辛かったでしょう」

 するとイン・ナオコは耐え忍んでいた思いがはち切れたのか、思いの丈を全て吐き出し始めた。

「それだけじゃない! その人は……その人は、私との祝言を逃げ出した後……モンゴル軍との戦争に巻き込まれて、今や帰らぬ人に……!」

 ナオコが申開くには、その祝言を逃げ出した許嫁は逃亡先でモンゴル軍との戦争に巻き込まれて亡くなってしまったというのだ。これには流石にミラーガールも周りの皆々も言葉を失ってしまう。

「そう、だったの……」

 喧嘩別れしていた異性が、喧嘩している最中に亡くなってしまった経緯を知って、ミラーガールは切なくなった。

「……これで分かっただろ! 私が如何にモンゴル軍を、男を恨んでいるか!」

 イン・ナオコは感情の蓋が完全に開き切ったかのように、幾度となくミラーガールの鏡の盾に斬り付けてきた。

 ミラーガールは必死に光のシールドを鏡の盾から発生させ、少しでも斬撃を防ごうとするが、自身でも長くは持たない事を自覚していた。

 次第に押されていくミラーガールは、ついにイン・ナオコの一突きに鏡の盾が弾かれてしまい、後方へと吹き飛ばされてしまう。

「アッコ!」「っ!」

 後方に激しく吹き飛ばされ転倒するミラーガールを見て一声を上げる赤塚大作に一驚する新世代型二次元人。

 そしてミラーガールは転倒する際に噛んでしまった口内から零れる血を手で拭い、ナオコを鋭い目付きで見詰める。

 そのミラーガールにイン・ナオコは巨剣を構えて突撃する。

「私の……いいやっ、この世の全ての女のために! 覚悟ーーッ!」

 イン・ナオコの巨剣がミラーガールに突っ込んでいく様を前に、一同の目が見開いたその時。

 ミラーガールは咄嗟に身軽な動きで突撃してくるイン・ナオコの巨剣の上に飛び乗り、そのまま跳躍してイン・ナオコを飛び越して巨剣での突撃を回避してみせる。

「な、なんて身軽な身のこなし……まるで猿飛だ!」

 ミラーガールの身軽さに、イン・ナオコはまるでモンゴル軍が忍隊隊長、猿飛佐助の様だと目を丸くする。

 と、ミラーガールがイン・ナオコの突撃を回避した直後、彼女に声を掛ける者が。

「ミラーガール、無理するな! 此処はオレが出よう」「え……!」

 ミラーガールに声をかけ、彼女をその場に待機させるその人物は前へと歩き出し、イン・ナオコと向かい合う。

「貴様は……!」

 イン・ナオコは己の眼前に出てきた男を睨みつける。

 その人物は盲目の印であるサングラスを顔に掛け、腰に日本刀を装備した一人の男性。男性はイン・ナオコに言った。

「さっきから聞いていやぁ、男だとか女だとか小さい事をいうお嬢さんだ」

「貴様! 誰だか知らないが、痛い目を見たくなければ脅えて逃げ出すが良い! 私自身、男は嫌いだが目の見えない相手を痛ぶる趣味はない!」

 目の前に出てきた男に対して、イン・ナオコは相手が盲目である理由も加えて早々に立ち去る事を提案する。が、男の方は毅然とした態度でナオコに物申す。

「オレの刀が見えないのか? これは飾りもんじゃねぇ。それに……目が見えなくとも、見えるものはハッキリと見える。逆に目が見えても、見えないものもこの世にはたくさんある」

「? 何を言っているんだ、お前は!?」

 男の言葉に理解し切れないナオコが問い返すと、男は申し訳なさそうに返答。

「おっと済まねえ。つい昔のことを思い出しちまってね……」

 申し訳なさそうに話した男はナオコに語り続ける。

「それよりも、あんた……女のための世を創るとか言いながら、女に戦わせたり、女のミラーガールを攻めたりと、随分言っている事と違うな」

「ッ!」

「まあ、それはそれでいい。あんたにはあんたの、オレ達にはオレ達の思想がある……噛み合わないのも無理ないのかもしれないが」

 男はイン・ナオコに申し出た。

「どうだい? ミラーガールの代わりにオレと一戦交えないか? あんたの思想、いや理想が本物かどうか……試してやる!」

 そう言うと男は日本刀を抜刀し、切っ先をイン・ナオコに向けた。

「せ、青児さん!」

 刃の切っ先をイン・ナオコに向ける男にHEADのキューティーハニーが名を呼びかけると、男はイン・ナオコと向き合ったままキューティーハニーに返事した。

「大丈夫さハニー、この娘の荒々しい太刀筋程度なら……余裕でかわせる」

 この言葉にイン・ナオコは怒った。

「な、何だと! 己、男め……どうせウチのなでしこ達に良い所を見せて魅了するつもりだろうが、そうはさせないぞ!」

「やれやれ、男嫌いも此処まで来ると実に厄介だな……」

 イン・ナオコと刃を向き合わせる男は、ナオコの男嫌いに程々愛想を付かせる。

 

 男の名は早見青児。今や聖龍HEADキューティーハニーの夫であり、盲目ながらも感覚だけで戦う事ができる聖龍隊のベテラン隊士。

 

 

[敗れ去る乙女]

 

「誰であろうと乙女の世を阻む輩は……容赦しない!」

 聖龍隊が盲目の剣士、早見青児と一騎打ちに生じるイン・ナオコは巨大な剣を振り回して青児に斬りかかる。

 ナオコの身の丈以上の大きさを誇る巨剣が青児に当たる直前、青児は見えているかの如く体を僅かに反らしてナオコが振るう巨剣をかわす。

 さらに最初に斬り付けに留まらず、青児は横からも上からも斬り付けて来るナオコの巨剣を容易く余裕綽々で回避し続けていく。その様を目撃して、一般二次元人たちは目が飛び出るほど一驚する。

(でかい得物だな。確かに当たればその分、威力はデカイが……外した時の隙も大きい)

 巨剣での攻撃をかわしながら、青児は冷静にナオコが振るう巨剣の威力と空振りした時の隙の大きさを分析する。

「私は乙女のための世を創るために戦う! 邪魔建てする者は誰であろうと容赦しない!」

 一方のイン・ナオコは悉く自分の攻撃をかわされていく有様に、次第に冷静さを失いつつあった。

「女が偉い、女が強い、それは乙女が故!」

 自生の句を言い放ちながら、巨剣を振り下ろし、大地を裂くイン・ナオコの猛烈な技に、一般二次元人たちは圧倒されてしまう。

 此処でイン・ナオコは斬撃が駄目ならば突撃による『突き』で青児を巨剣で突き刺そうと身構える。

「女の輝きは、男以上の努力と根性の賜物だ!」

 駆け足を踏み込んで突撃してくるイン・ナオコの突きの攻撃に、青児は素早く対応して横へと回避。

「女、女と言いながら、その女を傷付けてまで戦い続ける……なでしこ隊も、お前さんも……自分を傷付けてまで戦っているが」

 ぽつりと零した青児の台詞にイン・ナオコは衝撃を受けつつも、即座に開き直り青児に強く言い返す。

「黙れ! なでしこの華は、散ってなお気高く美しいんだ……」

 散り際の華が気高くも美しいように、自分もなでしこ隊もそんな華同様だと説くナオコ。

 すると鋭く猛攻な斬撃を振り続けるナオコは、次のように申した。

「天が与えし、運命の声は……世の乙女のため、このナオコに立てと! そう言っているのだ」

 更にナオコは自分の斬撃を避け続ける青児に言い放つ。

「私は誓った! もう、もう二度と……私の様な不幸な乙女は生み出さないと!」

 イン・ナオコの眼差しに、強い意志が垣間見えた。

 

 しかし戦況は全く変わらず、青児はナオコの斬撃を回避し続け、何故か反撃はしなかった。

「す、少しはやるようだな……だが、まだまだだ!」

 攻撃をかわされ続けながらも戦意を失う事の無いイン・ナオコ。

「くそ……! 冷静でなど、いられるものか……ッ!」

 すると攻撃し続けるイン・ナオコに青児が攻撃をかわしながら言葉を掛ける。

「何故、男に逃げられたのか……何故、女が傷つくのか……何故、オレに攻撃が当てられないのか。考えてみないか?」

 この言葉にイン・ナオコは揺らいだ。全ては女たる自分の弱さが招いているのではないかと、自問自答に駆り立てられ、迷走しそうになる。

「私のせい、か……? 私が女、だから……? くっ、認めてたまるか……ッ!」

 自分の弱さ、自分の愚かさ、自分が女がために、それを認めたくない一心でイン・ナオコは巨剣を今まで以上に横から斬り込み、青児に一撃浴びせようと前へと足を踏み込む。

 が、今まで以上に力を込めて踏み込んだ巨剣の一撃は、それだけに外した時の隙も大きく、青児は巨剣をかわした直後、刀を抜刀してイン・ナオコの眼前にその切っ先を向けて勝負をつけた。

「!!」

 まさに一瞬の内に抜刀され、その切っ先を眼前に向けられたイン・ナオコは驚愕の余り言葉を失くしてしまう。

「ナオコ様!」「ナオコ様……!」

 二人の闘いを見守っていたなでし隊は、一瞬の内に勝負を決められてしまったナオコを前にして悲愴な面持ちを浮かべる。

「勝負あり! お見事にござりまする!」

 聖龍隊士の号令に反応するかのごとく、ナオコは全身の力が抜け切ったかのようにその場に座り込んでしまう。

 そんなナオコの放心した状態を感じ取り、青児は彼女に突き立てていた刀を鞘に納めるとナオコに言った。

「女が為の世、か……それも良いかもしれないが、もっと懐を広げて、女も男も受け入れる器になれ」

 まるでイン・ナオコの器量が狭いと言いたがっている意味に捉えられる青児の発言に、放心状態だったナオコは気を取り戻し反論する。

「な、何を言うか! いつの世も、いつの時代も……争いの根源は全て男からだろう! そしてその争いでいつも傷つくのは、無関係な女ばかりだ! 私は男によって心を、体を蝕まれた女を救ってやれる世の中を創造するのが今日(こんにち)までの目標だ! 薄汚い男の野心や野望と一緒にしないでくれッ」

 イン・ナオコの主張に青児も周りの聖龍隊も黙然と耳を傾ける。

「あの足正義輝がせっかく発令した現政奉還、これを好機と見ないで何と見る!? 誰もが思い描いた世界を創生できる乱世。ならば私は、女による女がための世界を創造する! その為ならば、如何なる苦痛も耐え忍んでみせる! ……あの人が死んだあの日から、私に平穏など、ありはしないのだから……」

 悲しみに満ちたイン・ナオコが発した重く切ない言葉をしかと耳で捉えると、彼女に申し開いた。

「平穏を捨てて戦うというのか。フ、年ごろの女がそんな悲しいことを言うなよ。まっ、そういう意味じゃ女房のハニーにHEADの奴らはみんな平穏を捨てて戦ってきているがな」

 更に早見青児は盲目の顔を俯かせて昔を思い返しつつナオコに言った。

「それに……誰かのためだけでなく己の掲げる理想の為に、自ら平穏を捨て去った男もいる。そいつは男とか女とか、種族なんて関係ない、誰もが心より平穏に生きていられる世を夢見ていた。お前さんを見ていると、そんな昔のあいつを思い出すよ」

 青児の言葉に愛する人を失う失望感を思い出して俯いていたイン・ナオコも顔を上げる。

 

 だが彼女の決意はやはり固かった。

 すぐにナオコは涙を流しそうな顔を変えて、強く凛々しい顔立ちに戻すと立ち上がり、悔し紛れに青児に言った。

「今回は私が負けだ。だが、いい気になるなよ! いつかこの世の全ての男を更生させてやるッ」

「やれやれ、強気で頑固なところもアイツにそっくりだ」

 青児が呆れ果てると、ナオコはその者について青児に問うた。

「そのアイツとは、何者だ! どうせ傲慢で野蛮な男なんだろう。男というのは、どいつもこいつも……」

 と、ナオコの愚痴が始まりそうになるのを察した青児はその男について粗方語った。

「確かに、あいつは傲慢なところがあった。男女はもちろん、種族を問わず誰もが平等に生きていられる世の中じゃないと満足しない……そんな、お互いが満足できる関係性でないと気が済まない奴だったよ」

 早見青児はその男を思い返し、ふっと笑顔を浮かべた。その笑顔を目の当たりにしたイン・ナオコは一瞬ばかり動揺してしまう。

 しかしイン・ナオコは即座になでしこ隊を招集させ、彼女たちに言い放った。

「なでしこ隊、撤退! イン軍はこれより帰還するッ」「はっ、はぁ……」

 早見青児に説き伏せられたのか、ナオコは軍の撤退をなでしこ隊に呼びかける。このナオコの対応になでしこ隊の女性達も驚きつつ唖然としてしまう。

 

「次合う時は絶対に更生させてやる……! 覚えておけ、ナオコの牙は抜けやしないッ!」

 撤退際、ナオコは自分を負かした早見青児に置き土産の捨て台詞を言い放ち、なでしこ隊や男衆と共にモンゴル軍を去って行った。

 

 愛する者に離別され、それでも愛していたかったイン・ナオコ。

 だが、そんな想いは儚くも戦場に散ってしまった。

 悔し想いに打ちひしがれて、それでも乙女は突き進む。

 いつの日か、自分の描いた理想が叶う……その日まで。

 

 

[モンゴル軍総大将との会合]

 

 イン軍の撤退を確認した聖龍隊側とモンゴル軍。

 両軍は脅威が去ったのを認識すると改めて会合する事と相成った。

「まったく、やれやれだぜ。あのイン・ナオコって娘……逆恨みもいいところだぜ」

「まあまあ、本人も気に病んでいる所があるし、大目に見てあげましょう」

 逆恨み同然の襲撃に鬱憤を募らせる猿飛佐助に、ミラーガールはナオコ本人が心理的に参っている為が行動ゆえだと言う。

「それにしても……危うくこっちの大将の首を盗られる所だったぜ。またあんた達に借りを作っちまったが……まあ、今回は助かったと素直に言おう」

「もっと素直になれよ」佐助の言葉に対して聖龍HEADの堂本海人が言った。

 そして両軍の大将同士の会合を望んでいるメタルバード、いや変身を解いたバーンズは辺りを見回しながら言った。

「そういやユキジの奴は何処だ?」

 するとモンゴル軍の兵士がその場に駆けつけ、バーンズに言伝を申した。

「申し上げます! ユキジ様なら本堂最深部にて、佐助殿の忍術で匿われておりました」

 兵士が言うには、ユキジは猿飛佐助の忍術で基地の最深部に移動され、そのまま匿われていたと報告を受ける。

「そうか。ちょっくら話がしたいんだが、呼んでくれないか?」

「はっ、ユキジ様ならもう間もなく此方に向かわれております!」

 ユキジと話がしたいと申すバーンズに、モンゴル兵はもう間もなく現場に駆け付けてくると返答。

 

 話をしていると、確かにモンゴル軍が総大将代理、モンゴル国将軍の代行を任せられているシン・ユキジが現場に駆け付けてきた。

「バーンズ殿! 各々方、よくぞ我が軍の窮地に駆け付けてくれましたぞ!」

「いや、たまたま偶然だったんだけどな。でも、間に合ってよかったよ」

 凛とした面構えで自軍の窮地に駆け付けてきてくれた聖龍隊と赤塚組に心からの感謝を示すシン・ユキジに対し、HEADのキング・エンディミオンは偶然だと義理立てしない。

 ユキジはここで、自分が猿飛佐助の忍術で窮地を脱した後の詳しい戦況を佐助本人やモンゴル軍兵士から聞いた。あのイン・ナオコの真意、ミラーガールの会合、そして早見青児の一騎打ちを聞いて、ユキジはナオコを負かした青児に興味を引いた。

「貴殿、某を追い詰めた……あのナオコ殿を破ったのか……!」「まあな」

 自分を追い詰めるほどの腕前を持ったイン・ナオコを破った青児に問うユキジに対し、青児本人は素気なく平然と答える。

 すると二人の闘いを見ていたモンゴル兵が賞賛の言葉を口々に言った。

「まさしく、一瞬の出来事でございました!」

「舞を舞うかのごとき、華麗な戦ぶりでござった!」

「それにミラーガールも凄かったんですよ! あのイン・ナオコの突きを華麗に避けて……」

 賞賛の言葉を飛び交わせるモンゴル兵たちの言葉を聞き受けて、ユキジは己の不甲斐なさに落胆してしまう。

「皆、佐助、すまない……ッ! 俺が……不甲斐ないばかりに……ッ!」

「反省なら猿でもできるってね。まあ今回、大将が追い詰められたのは、慣れない書類整理で此処三日間寝ずに過ごしていたって理由もあるから良いけどさ」

「寝てなかったのかよ、お前!?」

 反省するユキジに言葉を掛ける佐助の話を聞いて、バーンズは慣れない業務で三日三晩寝ていなかった事実を知って一驚する。

 

 だが、それでも自分が追い詰められたのは紛れもない事実。

 シン・ユキジは自分の敗北を素直に認め、改めて加勢してくれた聖龍隊と赤塚組に礼を申し上げる。

「感謝いたしまする! バーンズ殿、赤塚殿! このユキジ、まだまだ未熟者故この度の失態……恥ずかしくて前を向いておられませぬ!!」

「あーーあーーーー、なんだ、その……別にそこまで気に病む事ないっての。誰でも失敗するのは当然だしよ。それに俺たちは何も一緒に戦ったってよりも、両軍を宥めていたってだけだし、そんな恩着せがましくする必要はないぜ」

「赤塚殿……! その言葉、このユキジ……胸に刻みまするぞぉッ!!」

「相変わらず、暑苦しいわね……」

 赤塚大作の返答を受けて、暑苦しくなるユキジを前にしたミズキは毎度の事とはいえ、その暑苦しさに呆気にとられてしまう。

「へへ、この暑苦しさが無いと、ウチの大将とは呼べなくなっちゃうんだよね、こりゃ」

 そんな暑苦しい反応を示すユキジを視認して、猿飛佐助は飄々とした態度で言ってみせる。

 

 と、シン・ユキジが聖龍隊と赤塚組に感謝の意を示しているとき、ようやく相手方の異変に気付いた。

「むっ、そういえば……バーンズ殿、何ゆえ彼らを同行させているのでござるか?」

「お、やっと気づいたか。聖龍隊でも赤塚組でもないのにこの場にいるって言うのに、気づくのが遅いことだ。実はな……」

 シン・ユキジが気づいた異変、それは既にアニメタウンに帰国している筈の一般二次元人達が聖龍隊と赤塚組の同盟に同行している有態だった。バーンズは何故彼らが同行しているのか、その訳をユキジにも理解しやすいよう説いていった。

「……と、言う訳だ。オレ様もこのまま帰すのは、どうも問題が起こりそうで帰しにくいし、一緒に巡行に同行させようって思い付いた訳」

「な、なるほど! そのキョウユウカンチとやらが消えない限り、彼らは母国に帰還する訳にも行かぬというのであるな! いや、さぞ辛かりましょう」

「ホントだよ。誰の考えも解っちまう上に、戦なんかにも巻き込まれて、てんてこ舞いなんだよ」

 バーンズから事の経緯を聞いたユキジは、少しばかり話の内容を理解しきれていないながらも一般二次元人、特に新世代型二次元人の共有感知についての気苦労を察すると、それに死んだような眼をした真鍋義久が、共有感知だけでなく戦火にも巻き込まれてしまう今の真情を零す。

 すると更にユキジは、もう一つの異変に気付いた。

「ッ! 貴殿は……!?」

 ユキジが気づいたもう一つの異変、それは劣兵シバ・カァチェンの存在だった。

「お初にお目にかかります。私はシバ・カァチェン、奇縁ゆえ聖龍隊に引き抜かれた身の上……以後、お見知りおきを」

「お、おうッ! ……そなた、どこか具合でも悪いのか? 顔色が冴えないぞ……」

「顔が冴えないのは日常茶飯事の事ゆえ、御気になさらないで下さい」

 名前を名乗るシバ・カァチェンの暗さに、何処か具合が悪いのかと気に止めるシン・ユキジの発言に、カァチェンはいつもの事と返答する。

「シバ・カァチェン……ウチの忍隊が入手した情報通りの男だね。二年前から失望感に苛まれている、そんな武将……」

「忍よ、貴方様は……」

 既に入手した情報通りの素性だとカァチェンに話し掛けてくる猿飛佐助を見て、カァチェンは朧気な眼差しで返答。そんなカァチェンに佐助は言ってやった。

「こんな時代だ……一度や二度、誰だって躓くもんだぜ」

「貴方は血に塗れている……貴方の闇は、黒く乾いた血……貴方も私と同じ、悍ましき怪物か」

 なんとカァチェンは猿飛佐助の過去を見抜いているかのような言動を戯言を吐き晒し、皆を一驚させる。

「これは……なんて観察眼だ。いや、自分に近い境遇の相手を見透かせるのかな」

 カァチェンの観察力を目の当たりにして、ジュピターキッドはカァチェンが自分に近い境遇の相手の真意を見透かせるのかもしれないと察する。

 更にカァチェンは辛苦の過去を体験した佐助の境遇すら見抜いていたのか、佐助に物申した。

「貴方は……現実を乗り越えた事があるのか? 朧気ながら、そんな気配がする」

「ふぅ……誰にでも人には言えない辛い過去ってのは、あるもんだよ君。まあ、俺様は乗り越えられたけど、あんたはどうだろうかね?」

 辛苦の過去を乗り越えたのかと問い掛けるシバ・カァチェンの質問に、佐助は誰にでも辛い境遇はあると答えた上でカァチェン自身はどうなのかと聞き返す。

「佐助よ、このシバ・カァチェンとやらを存じておるのか?」

「ああ、大将、実はな……」

 シバ・カァチェンについて周知している様子の猿飛佐助に対し、上官でもあり同時に旧友でもあるシン・ユキジが佐助に問い掛けると、佐助は静かにシバ・カァチェンについての詳細を語り明かした。

「そ、そうであったか。カァチェン殿は、過去の失態で今に挫折を感じておるのですな」

「………………」

 猿飛佐助からシバ・カァチェンの今の状態を知らされたシン・ユキジに対し、カァチェンは表情を変えず無言の相で佇む。

 するとカァチェンの現状を知ったユキジは、なぜ彼が聖龍隊に身を置いているのか疑問に思った。

「……むッ、何ゆえカァチェン殿が聖龍隊に居るのですか? 確か貴殿は台湾の国将軍で、かつ国連軍の一兵卒を任されていた筈であったが……」

「ああ、それはだなユキジ。オレたちから話すよ……」

 ユキジの疑問に、バーンズがカァチェンが聖龍隊に身を置くまでの経緯を語る。

「……な、なるほど! その様な経緯があったのでござるな!」

 バーンズ達から話を聞いて納得するユキジ。

 するとシバ・カァチェンの過去の失態と聖龍隊への経緯を聞いたシン・ユキジは、気落ちしているカァチェンに言い放つ。

「そなたもモンゴル道場で心身を鍛えるが宜しい! さすれば道も開けよう!」

 ユキジは過去の失態で今を挫折する思考のカァチェンを思い、彼に心身の変化を付けさせようとモンゴル軍の道場に来ないかと誘う。

 だがカァチェンは「礼が欲しいのならば、幾らでも頭を下げよう……ただ敢えて言えば、貴方は少し烏滸がましい」と、誘ってくれたユキジに鬱陶しい反応を示してしまう。

「!!」この反応にシン・ユキジは一驚するが、スグにミラーガールがカァチェンのフォローに入ってきてくれた。

「あ、ああ! この子は少し、その……人とのコミュニケーションが苦手なのよ。ごめんなさい、ユキジ」

「う、うむ……」

 ミラーガールの庇護の姿勢に、ユキジは驚きだけは抑え切れなかったが、どうにかユキジは冷静さを取り戻してくれた。

 更にミラーガールに続いて聖龍隊の女性達がカァチェンを庇い立てする。

「か、カァチェンを私達に同行させたのは、こういった所が直ればいいかな~~なんて思って」

「そうそう! ほっんとに暗いのよねカァチェン……少しでも明るく、誰とでも仲良くなれれば良いかなって!」

 セーラーマーズとセーラーヴィーナスが必死に庇護していくと、そんな自分を庇い立てする聖龍HEADをカァチェンは横目でちらりと認識する。

 あっという間に騒がしくなる現場に、少し居づらく感じ始めるシバ・カァチェンの様子を逸早く察したバーンズは、彼の機嫌を変える為に訊ねてみた。

「な、なあカァチェン! さっきのイン・ナオコって女武将、お前から見たらどんな女に見えた?」

 バーンズは先ほどまで現場にいたイン・ナオコについてその印象をカァチェンに問うてみると、カァチェンはイン・ナオコの境遇も含めて彼女をこう言い表した。

「彼女は敗者である事実を認められないだけ……私と同じ敗者から、学び得る所以は無い」

 イン・ナオコは人生で敗者に位置づけされており、そんな自分と同じ敗者から学ぶ事など微塵もないと静かに語るカァチェン。

 そんなカァチェンにバーンズが言った。

「そんな事はないぞカァチェン! 確かに過去の挫折や行動に関して彼女は自分の失態を認め切れてはいなかった。だけどな! 彼女の乙女がための……弱い人々の為の国造りという巨大な目標は立派だったと素直に称賛できるぞ、オレは」

「乙女がための、国造り……」

「そうだ。この現政奉還で世界は誰でも思い描いた通りの世の中になっちまった。……お前はどうだ? なにか目標、いや、夢ってのは無いのかい?」

 バーンズが再びカァチェンに問い質すと、カァチェンは小さな声で返した。

「夢、か……その様なもの、今の私にしてみれば眩しすぎて……直視する事すら侭成りません」

「そうか。まだ夢ってのを見られないんだな……まあ、そこも焦らず地道に探していこう! 俺達が応援しているんだからよ」

 夢を見ることすら諦めてしまったカァチェンに、バーンズは何時の日か、焦らずにカァチェンの夢を一緒に探し当ててやると頼りがいのある言葉を掛けた。

 

 

[変われるための対決!?]

 

 無事にイン軍からモンゴル軍基地を防衛した聖龍・赤塚同盟。

 軍を任されているシン・ユキジは彼らに礼を述べ、同時にバーンズ達より何ゆえ新世代型を含む一般の二次元人たちと国連軍が劣兵にして台湾国将軍シバ・カァチェンが同行しているのかを聞いたユキジは、彼らにある提案を持ちかけた。それは己の心中に揺らぐ焔を確かなものに戻したいという一心もあっての事だった。

「カァチェン殿! そして新世代型の猛者たちよ! 先ほどの合戦を終えたばかりで誠に申し訳ないでござるが……どうか某と一戦交えてもらいたい!」

「ええっ!」「そ、そりゃまたなんで!?」

 シン・ユキジの申し出に新世代型二次元人達は驚愕し、プロト世代のギュービッドは一驚してしまう。が、ただ一人だけシバ・カァチェンは朧げな表情で佇んでいた。

 騒然となる場の皆々に、ユキジは己の真情を語った。

「某! 此度の失態にて皆々様方に途方も無い迷惑をかけてしまいました! 全ては己の未熟さゆえ……それに、以前にルーキーズの皆様方にも申し上げましたが……拙者、未だに己の心中に燃え滾る闘志、すなわち熱き焔が完全に燃焼しておらぬのです! 己の未熟を解消するには、この二槍の三叉槍にて己の弱さを打ち消すほかなしと思い立ったが事実! そこで重ね重ね申し訳ないのですが、先ほどの合戦で腕を振るって見せたカァチェン殿と、未知なる実力を秘めた新世代型の猛者と一戦交えて己の実力を高めたいのでござるッ!」

 このユキジの提案に本人達は動揺する中、猿飛佐助も半ばユキジの提案に乗った。

「それはまた良い機会だ。俺様もシバ・カァチェンが操る逆刃薙(さかばなぎ)って得物を拝見してみたいってもんだ。それに今後、敵か味方になるか解らない新世代型の戦闘力を前もって見ておくのも悪くない話だ」

「言ってくれるな、この忍者」

 このさき敵か味方になるか解らないとハッキリ言う猿飛佐助の言葉に、新世代型の纏流子を始めとする面々はムッとする。

「HEADよ……この方の御提案、如何なさいましょうか」

 しかし決断力が欠けたシバ・カァチェンは単身で決められず、自分を贔屓してくれる聖龍HEADに答えを求める。するとHEADのバーンズはカァチェンに言い返す。

「そうだな……この際、熱血漢のユキジと一戦交えた方が冷め切ったお前の心情を溶かしてくれるかもしれねえし……解った、行ってこい。オレ達が見守っている」

「はい、では仰せのままに……」

 一戦を見守ると発言してくれたバーンズに対し、カァチェンは言われるがまま足を進ませようとする。

 すると同じくユキジの提案を聞いて、新世代型の鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)がいつもの厳しい顔立ちからは想像も付かないほどの嬉々とした表情でユキジに言い放った。

「己の未熟を解消するがために敢えて戦いに身を乗り出す、か……うむ、素晴らしい! 貴方のその提案、この鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)、快くお受けいたそうではないか!」

「おおっ、誠ですか!? このユキジ、感激でございます!」

「さっ、皐月ちゃん良いの!? まさかプロの武将と一戦するだなんて……!」

「おい、鬼龍院それは流石にマズイんじゃねぇのか……?」

 鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)の嬉々とした返答に心から感激するユキジ。それに反して幼馴染の蛇崩乃音と纏流子は一級の武将であるシン・ユキジと一戦交えるのは流石に無理があると声をかけるが……

「何を言うのだ貴様らは! それでも二人は我が配下の者にして旧友の間柄である本能字生徒会四天王の一角と、私のライバルか! 良いか、これは我々新世代型の窮地に備える為の鍛錬と思わなければなるまい」

「た、鍛錬?」

 纏流子やその他の新世代型が首を傾げると、皐月は鍛錬についての詳細を事細かく語り出した。

「そうだ! この先、我々は聖龍隊や赤塚組の方々と戦乱に荒れるアジア諸国を巡らなければなるまい! だが、行く先々で私たちは必ず戦闘に巻き込まれてしまう事も多少ながらあるかもしれない……其処でだ! こうして一流の武将であらせられる方と鍛錬を積む事で、少しでも戦場を自力で生き延びる実力を高められるとは思わんか?」

「でっ、でも……私たちがこうして戦いに巻き込まれているのって、聖龍隊がアニメタウンに帰してくれないだけだし……」

 この薙切えりなの発言に鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)は激しく意見を発した。

「何を言っているのだ! バーンズ殿が仰っていた事を忘れたか!? 今の我々は日常生活にも支障が出てしまうほどの『共有感知』に目覚めてしまっている! この『共有感知』を自制できない限り、母国に帰ってもマトモな生活には戻れないんだぞ! 『共有感知』を自力で制御できる、または消失させる為にも、己を鍛え上げるのも一つの解消策に繋がるかもしれない!」

 威風堂々とした立ち振る舞いで熱弁する鬼龍院皐月の申し出に、話を聞いていたバーンズが言った。

「なるほどな。己の肉体を鍛える、肉体の成長……ゆくゆくは心の成長に繋がり、その成長が心理状態に変化を催して共有感知を解消できるかもしれないって事だな」

「その通りです!」バーンズの解釈に鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)は強く返答した。

 そして同じく鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)の話を聞いたシン・ユキジは、彼女の強い闘争心と熱弁に自らも熱くなり始めていた。

「うおおおぉぉッ!! 鬼龍院殿と申されましたか! 某、今の話を聞いて熱くなりましたぞ! ぜひ、拙者と一手組んでもらいたい所存! 某は己の未熟さを打ち消すために、貴殿らはそのキョウユウカンチとやらを打ち消すためにッ! いざ、尋常にお相手お願い致しまするゥ!!」

「ま~~た熱くなっちゃって、まあ……ま、でも、御館様が床に臥せって以来沈んでた大将が少しばかり元気になってくれたみたいだ」

 久々に熱く燃え滾るシン・ユキジを目の当たりにして、佐助は久々に熱血な様子を見せるユキジを前にして何処か安堵の表情を人知れず浮かべていた。

 

 シン・ユキジの提案を受けて、一同はモンゴル軍が漢を磨き上げるモウ・コダイ道場へと足を運んだ。

 道場にて己の得意とする武器や装備でシン・ユキジと対峙するシバ・カァチェンと戦闘タイプの新世代型達。

「数的には此方が少しばかり不利! よって、此方は共に闘う戦友として佐助もご一緒させてもらいますぞ!」

「ほいほいっと。悪いけど、手をは抜かないよ。って言うか、忍は手を抜けないのが主流だしね」

 共闘する戦友として、シン・ユキジは自分の傍らに猿飛佐助を招き入れる。すると呼ばれた佐助は影を実体化させた鴉に捕まって軽々と道場に舞い降りた。

「己を変えるには、まず心身を鍛える事が何より! カァチェン殿、そして新世代型の皆様方! 互いの弱さを克服し、そして乗り越えた先にあろう壮大な感覚を……いざ! 己の身刻み込みましょうぞッ!」

 全身から炎を噴き出す程の熱気に包まれるシン・ユキジ。

 そんな熱血漢のシン・ユキジに呼び掛けられ、シバ・カァチェンと戦闘可能な新世代型二次元人がユキジと道場で対決する羽目になってしまう。

 シバ・カァチェンは気弱で落胆した気質を克服するため、新世代型二次元人は自分達を未だに苛む共有感知を克服できる切っ掛けを得る為に、ユキジと真っ向から対峙する。

 モンゴル軍が総大将にしてモンゴル国将軍、それらの代行を努めるシン・ユキジ。対するは台湾軍が未熟な将軍シバ・カァチェン、そして戦闘タイプである新世代型二次元人の鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)/蛇崩乃音(じゃくずれののん)/蟇郡苛(がまごおりいら)/猿投山渦(さなげやまうず)/犬牟田宝火(いぬむたほうか)、さらに栗山未来に名瀬博臣と名瀬美月も参戦した。

「フッ、あれぐらいの熱血将軍、僕らの『檻』でも十分戦えるね、美つ……」「兄貴は黙ってて」

 全ては自分達に降りかかった共有感知を少しでも解すために。そしてカァチェンは少しでも前へ進むために、今の非力な自分を打ち負かす為に道場に立つ。

「ぬおおおおおぉおおお……!!」

 シン・ユキジは躊躇う様子も無く、猪突猛進が如く一直線に突き進み猛攻を仕掛ける。

「おいおい旦那、相手は新世代型とはいえ突っ込み過ぎだって……たく、いつまで経っても変わらないね、あの癖は」

 戦いになると周りが見えず、一直線に敵へと突っ込む戦意の塊みたいなシン・ユキジの戦振りに、共闘する佐助は呆れてしまいながらも何処か嬉しそうだった。

 ユキジは相手方へと突っ込み、周囲を囲まれてしまうものの、二本の槍を振り回し、強引に戦況を打破してみせようとする。

 そしてユキジが振るう二対の槍の一本が新世代型の栗山未来に放たれる。が、未来は自身の血を素早く結晶化させて刃状に変形させるとユキジの槍を受け流す。

「おおっ、そなたは自らの血を結晶化させる事ができるのか! 見事……!」

 異能者でありながらも、相手の力量に敬意を払うシン・ユキジの言葉を未来は素直に受け止める。

 更にユキジは纏流子と鬼龍院皐月にも槍を振り翳すが、二人ともユキジの熱意が篭った槍の一撃をそれぞれ片太刀バサミと縛斬で防ぎ切る。

「なんの……ッ」

 しかしユキジは自身の攻撃を防いだ流子と皐月を押し退けて、更に進撃を試みる。

 すると其処に鬼龍院皐月配下の本能字四天王が立ちはだかり、その一人蛇崩乃音が上空に浮上してユキジに音符ミサイルを連射して爆撃を仕掛ける。

「ぐッ……上空からの奇襲でござるか! だが、これしきの爆撃……耐え忍んでみせますぞッ! 御館様に比べたら、この程度の攻撃など……!」

 音符ミサイルの爆撃を忍んだシン・ユキジは爆炎の中に突っ込み、一気に四天王たちと距離を縮めると二対の槍で彼らを吹き飛ばしてしまう。

「うわッ!」

 鋭い攻撃に、四人はたちまち弾かれてしまい、堪らず後ろめりに倒れ込んでしまった。

 するとユキジが次の標的に狙ったのは、なんと戦況による戸惑いの余りただ佇んでいるだけのシバ・カァチェンに絞られてしまった。

 ユキジは戦意を全く感じられないカァチェンへの攻撃を若干ながら躊躇ったが、それでも己の戦意に従いカァチェンに迫る。

 誰もがカァチェンがやられる場面を想像した、次の瞬間。カァチェンは目前までユキジの槍が迫った瞬間に真横へと素早い動作で回避し、突撃を避けて見せた。

「ッ! できる……」

 相手の動きを見切る洞察力と軽い身のこなしにカァチェンの実力を再認識するユキジ。

 そして遂にユキジは二対の槍をカァチェンに追撃し、カァチェンと目を合わせた状態でいがみ合った。

 闇雲に突撃してばかりの焦燥を浮かべるユキジに対し、カァチェンは冷め切った面立ちでユキジの迫力に圧倒されつつも彼の瞳を見て言った。

「……貴方もまた、今を彷徨っているのですね」「!?」

 突然のカァチェンの言葉に対し、ユキジは呆気に取られてしまい、参戦する者も観戦していた者たちも唐突に始まり出したカァチェンの語りに息を呑む。

「しいて言えば、貴方は水底の焔……思い憧れていた方が病に臥せってしまい、生きる目標を見失ってしまった、思うように燃え上がらないただの小さな焔……」

 今まで耳に入ってきた情報と今のユキジを見透かして語るカァチェンの言葉に、ユキジは愕然としてしまい言葉を失くしてしまう。

「……! その通り、某は御館様を頼って今まで生きてきた……だが、そのお館様が床に臥せって以来、某は思うように前へと進めなくなってしまったのだ! まるで水底の焔、燃え上がれない烈火の炎の如く前進する事ができないのだ!!」

 唐突に語り出したカァチェンの言葉に反応するユキジが語り返した瞬間、ユキジはカァチェンを弾き返して双方共に体勢を立て直す。

「はぁ、はぁ……」真意をつかれ、激しく動揺するユキジ。

 すると真意をつかれて動揺するユキジを前にして、カァチェンは静かに語り出す。

「……差し手がましい事を申して、申し訳ない。だが、現実(いま)に迷い、未来(さき)を見据えられない貴方を、私はどうしても自分自身と重ねてしまうのだ……」

「!」

 目標が無い故に、現実に迷い、未来を見られないユキジを自分自身と重ねてしまうと申し訳なさそうに述べるカァチェンの言葉に、ユキジは衝撃を受ける。

 そんなユキジと自分の現況を重ねてしまうカァチェンの話を聞いて、バーンズが話に割り込んできた。

「その通りだぜ、ユキジ」「ば、バーンズ殿……!」

 驚き焦燥するユキジにバーンズは語り継いだ。

「確かに言っちゃ悪いが、今のお前はカァチェンと似ているな。師匠であるモウ・コダイが病身になって以来、お前さんの熱意はいわゆる空元気みたいに空振りしている事が多い。先の戦闘で疲労困憊していたとはいえイン・ナオコに追い詰められた事然り、今の組み手でお前が猪突猛進並みに突撃していったのもそうだ。全部空っぽの熱意に戦意で、今までのアンタらしくないぜ」

「………………………………」

 バーンズにも自身の真意をつかれてしまったユキジは何も言い返す事ができず、黙り込んでしまう。

 するとバーンズに続いて共闘していた猿飛佐助もユキジに言った。

「あーーあ、言われちゃったよ大将。ま、ほんとの事だから何もフォローできないけど……他国の人間から言われちゃ、お終いだよ?」

「う、うむ……」遂には猿飛佐助にまで言われる始末に、ユキジは次第に落ち込んでいってしまう。

 そんなユキジに佐助は例を挙げて述べる。

「まあ、あんまり言いたくないけど……あんたの宿敵である例の竜の旦那を思い出しなよ。二年前の大戦じゃ、ヤン・ミィチェンに大敗したって言うのに自力で這い上がって、自力で自軍を統率していったじゃない。今でも新たな戦力を補給しながら、勢力を広げていってるって話だよ」

「うむ、見習わなければならない」

「だから、そうじゃないって! あんたにはあんたのやり方がある。無理にお館様みたいになる必要は無いって言っているんだよ! あんたの空元気、空振りは全部そっから始まっている訳なんだよ。だからガキ相手でも本気になって戦っちまう訳だし……」

「おい! ガキ相手とは聞き捨てならないぞ」ユキジと語り合う佐助が言った台詞に、鬼龍院皐月が物申す。

 と、そこにユキジの空元気の戦いを観戦していたミラーガールが、ユキジに声をかける。

「そうよ、ユキジ。貴方には貴方のやり方があるわ。無理して自分が憧れている人になる必要はないの」

「か、加賀美殿……」

「私自身、色んな人に変身できるけど、やっぱり最後は自分らしく生きているのが一番だなって思い当たったわ。貴方も貴方自身で、自分のやり方で道を切り開いていけばそれでいいのよ。無理する必要は無いわ」

「か、加賀美殿……!」

 ミラーガールに続いて観戦していたウォーターフェアリーとジュピターキッドがユキジに話し掛ける。

「貴方には今まで支えてくれたモンゴル軍の人たちがいるじゃない。彼らと一緒になって、これからもモンゴルを支えながら護っていければ、それで十分なのよ」

「そう! 一人で全部、背負い込まない」

 最後にユキジの肩を佐助が叩いて声をかける。

「そうだぜ大将。俺達がついている」

 『自分は一人ではない』そう皆に説き伏せられ、空元気で組み手に挑んでいたシン・ユキジは感銘を受けてた。

「そうで、ござるか……某は、俺は、一人ではないのでござるな」

 自分は一人ではないと言い聞かせるシン・ユキジは、落ち込んで跪いていたのを立ち上がると再び槍を手に持ち、眼前のシバ・カァチェンと対峙した。

「カァチェン殿! 気付かせてくださり、ありがとうございまする! このユキジ、未だ迷走中の身の上ながら、少しばかり先を見据える事ができた気がします!」

「い、いえ……私は特に何も……」

 自分はいつもの如く僻みを述べてしまっただけだというのにユキジに礼を申されてしまい、カァチェンは戸惑ってしまった。

 更に元気付いたシン・ユキジは自分が申し開いたと言うのに中断してしまっていた組み手に参加してくれた新世代型二次元人達にも侘びを入れた。

「新世代型の方々! 前々から某の失態にて不快な想いをさせてしまい、本当に申し訳ござらん! いざ、再び某の眠りし虎を目覚めさせるためにも遠慮なくぶつかってきてくだされッ」

「おうッ、解ったぜ!」シン・ユキジの言葉に新世代型の纏流子は威勢よく返答する。

 

 そして再びシン・ユキジ&猿飛佐助対シバ・カァチェン&新世代型二次元人の組み手は始まった。

 双方共に、互いが疲労困憊するまで戦い合ったという。

 

 

[アレンジ(パロディ)武将紹介]

 

イン・ナオコ

属性:炎

武器:巨剣

肩書

剛潔撫虎(ごうけつなでしこ)

登場時の書き文字

凛然

一人称:私

出身世界:三次元界・中国

 

 世の男たち全てに向けて敵意を燃やす、イン軍の熱血女大将。中国の漢族その豪族の出身。

 モンゴル軍との戦が長引いたため祝言に遅れてしまい、許婚に逃げられた上、その許嫁が戦で戦死してしまった悲しい過去を持つ。

 そのためモウ・コダイには深い恨みを持ち、また戦によって乙女たちを悲しませる世の男たち全てを敵視している。

 しかし許婚以外全部の男が嫌いではないらしく男衆には厳しい言葉をぶつけながらも大切に扱ったりしている。

 趣味は刀剣収集。武芸に優れる一方、洗濯や料理といった家事は苦手だという。

 

容姿

 長いポニーテールとしなやかな身体を持つ女性であり、服装は西洋の騎士を思わせるようなマントとピッチリとしたタイトな衣装を身に着けている。

 

 

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