現政奉還記 武将達との会合編   作:セイントドラゴン・レジェンド

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現政奉還記 アジア諸国巡行編 三人の武将と新たなる将

[一時の別れ]

 

 希望無き人々に光を齎したいという気高い野望を抱くカリスマ、漢族のデイ・マァスンの領地を後にした聖龍隊と赤塚組の同盟軍は次なる目的地を見定めていた。

「………………………………」

「……バーンズ、これから僕たちは……」

 聖龍隊総長バーンズに決断を求める参謀ジュピターキッド。

 ジュピターキッドからの問い掛けにバーンズはある決断を下した。

「……よし、決めたぞ! オレ達はこれから、三手に分かれて行動する!」

「三手に……!?」

 バーンズの下した決断にジュピターキッドら他の聖龍隊士たちは動揺する。

「そうだ……この乱世、あのケンノフスキーやマァスンの様に武力で語り合わなきゃ理解し合えない武将ばかりじゃない! ジュニア、オレ達はまず中国のイギリス領事館に行って外交官と会談するぞ」

「! あの狐と謳われるモーリス・ナイロンにか!」

「そうだ。ナイロンとじっくり会合して、イギリスがオレたち聖龍隊に加勢してくれるか検討してもらうんだ!」

 メタルバードはまず、イギリスの外交官であり戦場では“狐”と評されるモーリス・ナイロンなる人物と会合してイギリス陣営を聖龍隊側に賛同させようという模索をジュピターキッドら仲間達に説く。

 すると其処に聖龍隊スター・ルーキーズの総部隊長ミラールがバーンズに問い掛けてきた。

「総長、会合と申されますと……私たち戦闘員は待機という形で良いのかしら?」

 このミラールの質問に、バーンズは真剣な顔立ちで答え語った。

「いや……ミラール、お前たちには別の任務を与える。聖龍隊の新人達と戦闘タイプの新世代型、そしてカァチェンを引き連れて剣豪シマ・ギンテルの許を訪れろ。ギンテルの事だ、また手合せしてくれる事だろう」

「……フッ、了解」バーンズからの指令に、ミラールは鼻で笑って返事する。

 と、ミラールに続いて新世代型の栗山未来が何ゆえ自分たち戦闘タイプの新世代型もギンテルなる人物の許を訪問させられるのか疑問をぶつけた。

「な、何故……! 私たちも、そのギンテルって人の所に向かわせるんですか?」

 栗山未来たち新世代型の疑問にバーンズは答え返す。

「これはお前達の成長のためだ……カァチェンだけでなく、お前達の心境にも変化を齎したいとオレは思っている」

「なんで、そんな事を!?」

 不機嫌そうに名瀬美月が言うと、そんな彼女にもバーンズは変わらぬ態度で申し付ける。

「お前達の成長……心の変化に影響が出れば、例の共有感知にも影響が出るとオレは考えている」

「成程、心身を鍛えれば自ずと共有感知が治まるとバーンズ殿はお考えなのですね」

 バーンズの思考に納得する鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)に、バーンズは「そういう事だ」と一言返す。

 そんな新世代型を納得させたバーンズは、続けて同行する台湾の国将軍シバ・カァチェンにも言い付ける。

「カァチェン、そういう事だ。一時だけオレ達とは別行動だが……まぁ、ルーキーズと慣れ親しむのも修行の一環だと思って一緒に戦ってくれ」

「……承知しました、バーンズ氏……」

 バーンズからの言い付けにシバ・カァチェンは弱々しい言葉で返事する。

 

 バーンズとジュピターキッドはイギリスの外交官モーリス・ナイロンの許に。

 ルーキーズと戦闘タイプの新世代型にシバ・カァチェンは剣豪のシマ・ギンテルの許に。

 二つの訪問先が決まった所でミラーガールがバーンズに問い質した。

「ねえ、バーンズ。あなたとジュニア君は外交官の所、ミラール達はギンテルさんの所なのは解ったけど、残っている私たちはどうすればいいの?」

 ミラーガールからの質問にバーンズは真顔で答えた。

「ああ、ミラーガール……お前達はオレたち聖龍隊の味方になってくれそうな奴の所に赴いて、こっち側に引き入れてくれ」

「誰の所?」ミラーガールが問い返すと、バーンズは平然と言った。

「ウイグル族が名士にして、最も気弱で優柔不断な武将……シャ・キンカの所だ」

「ああ! キンカ君ね! 確かにあそこは勢力が豊富だし、味方に引き入れられれば百人力ね!」

「その通り。そこでだ、オレとジュニア以外の聖龍HEADに赤塚組、そして非戦闘タイプの新世代型二次元人はキンカの所に訪問してご機嫌取りしててくれ」

 ミラーガールとの会話で、シャ・キンカのご機嫌取りと聞いて新世代型たちがざわついた。

「ちょ、ちょっと待ってください! ご機嫌取りって、私達そんな武将の機嫌を取れるような真似は……」

 新世代型の棗鈴が切羽詰っていると、聖龍HEADのセーラーマーズ達が言った。

「大丈夫よ、キンカ君なら」

「あの子は昔から食欲旺盛ないい子だから」

「食に掛けての知識だけは豊富なのよね……武将としては、全然だけど」

 マーズに続いてマーキュリーはキンカが食欲旺盛な善人であると伝え、それに対してセーラーヴィーナスは食の知識は豊富だが武人としては劣っていると呆れながら言う。

 すると此処でバーンズが新世代型で食の知識と技術に秀でた【食戟のソーマ】のキャラクター達に提案を申し付ける。

「其処でだ、創真。お前さん達の腕前をキンカの前で披露してもらいたいんだ。新世代型の料理に感激したキンカの評価で、お前たち新世代型の評判も上がるだろうし、何よりキンカが聖龍隊に着いてくれる可能性も出てくるからな」

「よっしゃ! オレ達の腕の見せ所って訳だな!」

 バーンズより提案を受けた幸平創真たちは俄然とする。

 そこに今度は赤塚組の大将も俄然とした物言いで熱く語った。

「それなら俺達も力になってやれるぜ! 海から仰山、新鮮な海鮮を届けてやれるし……野菜なら、さっきデイ軍から貰った奴が唸っていやがる! お前さん達の作る料理にも期待が高まるってもんよ」

 大将の言葉を聞いて、バーンズは皆に申し付けた。

「……そういう事だ。オレとジュニアはこのまま直接、イギリス領事館に赴く! その他の者は各自、指定された場所向けて二手に別れろ! それぞれの役目が終えたら、一旦赤塚組の要塞・百鬼命儀に帰還すること! 良いな!!」

 このバーンズの申し出に多くの者が「了解!」の一言で返した。

 と、その時。一人の青年がバーンズに話し掛けてきた。

「あ、あの……バーンズさん」「んっ、なんだ斉木か。どうした?」

 話し掛けてきたのは超能力少年の斉木楠雄。バーンズは彼の問い掛けに訊き返すと、斉木は不安そうな表情で述べた。

「そ、その……僕も剣豪の方へ赴きたいんですが……」「へっ? お前さんが?」

 斉木の突然の申し出に戸惑うバーンズ。すると斉木の親友である燃堂力が、斉木に訊ねてきた。

「ん? 斉木、どうして大剣豪の所に行くんだ? お前も一緒に創真たちが作るウマい飯を食いに行こうぜ! そもそもお前、全然戦えないじゃん」

 この時、多くの新世代型たちは呆れていた。何故なら今まで多くの超能力を目の前にしていながら、斉木楠雄が超能力者だと燃堂だけは全く気付いていないのだから。

 しかし当の斉木本人は、そんな燃堂の質問に対し挙動不審な態度で答えていた。

「あ、ああ、実は剣豪の闘いとか、聖龍隊や同じ新世代型の戦いに興味があってね。ちょっと覗いてみようかなって思って」

「ふ~~ん、そっか。俺は飯の方が興味あるんだけどな……ま、いっか! 斉木がそっち見たいって言うなら、ちょっくら別行動だな!」

「あ、ああ……」自分の行動に理解を示してくれた燃堂力に、親友の斉木楠雄は安心する。

 すると安心している斉木楠雄に、共有感知で斉木が既に超能力者だと理解している鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)が彼の耳を借りて話し掛ける。

「おい、貴様どういう積りだ? そもそも私たち全員に既に貴様が超能力者だと知られているのに今さら隠し通す気か? あの男がバカなだけで、貴様の超能力を理解していないだけでだな……」

「ああ、それは重々解ってる。だけど今はもう少し、燃堂の馬鹿さ加減と僕の言動に付き合ってほしい。燃堂だけは共有感知の影響を受けてないというか、頭に入っていないみたいだしね」

 斉木楠雄は鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)に、燃堂が共有感知を理解し切れておらず、共有感知で頭に入った事が全て脳内に入ってこない現状に、自分の言動と燃堂の馬鹿さに付き合ってほしいと嘆願。これには皐月だけでなく多くの新世代型たちが途方に暮れる中、斉木の言い分に付き合う方針となった。

 

 そんな自分の超能力を友人である燃堂力にひた隠す斉木楠雄の様子に、バーンズは御得意のテレパシーで直接斉木の脳内に呼びかけた。

(……斉木…………斉木……!)

(! バーンズさん? テレパシーで直接脳内に……!?)

(そうだ。このテレパシーはお前にだけ送信している。他の連中は関与できねえ……一体どうした?)

(ど、どうしたって……)

(……お前さん、あの燃堂って奴に自分がエスパーだと知られたくないみたいだが……)

(そ、それは……)内心、動揺する斉木にバーンズは彼の心内にハッキリと伝えた。

(……お前、気付かれたくないのか、燃堂に)

(え……!)

(知られたくないんだな、自分がエスパーだなんて)

 バーンズからの問い掛けに、斉木は密かに自分の想いを伝えた。

(……はい……)

(やっぱりな。でも、どうしてだ? もう共有感知でみんなにも知られちまったし、燃堂に至ってもアイツは根っからの善人だ。お前が超能力者だって知ってもいつもと変わらない態度で接してくれるとオレは思うぜ)

(………………………………)

(……怖いのか?)

(え…………)

(怖いのか? 自分がエスパーだって知られて、今の自分達の関係が壊れるのを、お前は恐れているのか?)

 バーンズからの指摘に斉木は一瞬戸惑ったが、スグに本音を零した。

(……はい、そうです……)

(………………)

(確かに、あの燃堂の善良な部分は僕にも十分理解できています。けれど、僕がエスパーだって知った後、彼の態度や口調……いつもの燃堂との関係が崩れるかもしれないと、不安なんです……)

 自身の能力を知られ、今までの関係が崩れてしまう恐れを抱く斉木を知り、バーンズは今まで自分が見てきた二次元人や小田原修司の事を思い返しながら斉木に話した。

(……確かに怖いよな。今まで隠してきた自分の素性を相手に曝け出すのは……下手すりゃ、本当に今まで築いてきた信頼が崩壊しちまうかもしれねえ)

(………………)

(……けれどな、斉木。皐月達は曝け出しちまえって思っている、オレは別にお前が告白したくなけりゃ、そのままで良いと思うぜ)

(バーンズさん……!?)無理に自分の能力を告白する必要はないと述べるバーンズの言葉に斉木は耳を疑う。

(確かに本当の友情なら、隠し事はいけねえって思いがちだが、別に友達に隠し事の一つや二つあってもオレは良いと思うぜ。人間、万能じゃないんだ。友達や家族に言えない事の一つや二つあっても当然だと思うがな)

(………………)

(何より、お前は利己的な理由で隠している訳じゃないだろ? ……燃堂との関係を壊したくないから、敢えて秘密にし続けたい、そう思っているんだろ。だったら無理して曝け出す必要はない。今の関係を重要視して、燃堂と……親友との間柄を大事に思っていれば今の状況を保持し続ければ良いとオレは思う! お前にとって燃堂は掛け替えのない親友である事には違いないし、これからもその関係を続けたいのは事実だろう)

(……)

(例えこの先、お前の素性を燃堂が知っても親友だと言ってくれると思うが……それはそれ。お前自身が告白したいと思った時、また燃堂がようやくお前がエスパーだと気付いた時にまた考えれば良いだけさ)

(バーンズさん……!)

 現在の友情に嘘偽りが無ければ、全てを曝け出す必要はないと説くバーンズの話に、斉木は感銘を受けるのだった。

 

 そんな細やかな斉木楠雄の悩みを解決したバーンズは、先陣を切って後方の皆に言い放った。

「ではこれより……オレ達は三手に別れて行動する! オレとジュピターキッド、スタールーキーズと戦闘タイプの新世代型にカァチェン、そして残りはそれぞれ散れ! 各自、また生きて再会しよう!」

「はッ!」

 総長バーンズからの呼びかけに、聖龍隊士は勇ましく応える。

 そして「行くぞッ」のバーンズの一言を合図に、一行はそれぞれ三手に別れて別行動に入った。

 バーンズとジュピターキッドはイギリスの領事館で外交官と会談するために。

 スター・ルーキーズとシバ・カァチェン、そして戦闘タイプの新世代型二次元人は剣豪の許に。

 最後に残りの面子は食通と名高いシャ・キンカの許へと赴く事と相成った。

 

 

[食通の少年]

 

「……此処よ、キンカ君のいる城は」

 中国ウイグル族名士の長に若くしてなられた少年、美食通のシャ・キンカの許を尋ねたミラーガール達。

 彼らはキンカが居住する烏城の入り口へと向かった。

「聖龍隊だ! シャ軍総大将のキンカに話がある」

 HEADの一人キング・エンディミオンの言葉に、城門を見張っている兵士が答えた。

「おおっ、そなた達もキンカ様の大鍋に呼ばれたのですか!? ささっ、遠慮なさらずどうぞ」

 兵士は信頼の厚い聖龍隊に対して何の疑いもなく門を通す。

 

 進行を許可された一行は、幸平創真ら新世代型たちを先頭に城内を進む。

 城内を進んでいくと、先頭を歩いていた新世代型達の前に、カブトムシの様な兜を被り、背中に鍋を背負った小太りの少年が嬉しそうに歩いているのが視認できた。

 と、前を歩く少年は背後の新世代型たちの気配に気づき、振り返る。

「君たち! もしかして、ぼくの鍋を狙ってるんだね?」

 初めて対面する新世代型たちを目の前に、少年は手を×の形にして叫んだ。

「嫌だ! 鍋は誰にも渡さないよ~~」

 思わず逃げ腰になる少年に、聖龍HEADが慌てて声をかける。

「き、キンカ君! 私たちよ、逃げないで!」

「相変わらず、気の弱い子ね……」

 颯爽と逃げ出してしまう少年キンカを目撃して、ミラーガールとウォーターフェアリーは呆然としてしまう。

 一行は逃げるシャ・キンカを追いかけ始めた。

「待ちに待った鍋曜日なんだ! 君たちなんか招待していないよ!」

 弱虫のキンカは初めて目にした新世代型を前に、敵だと勘違いしてしまい城内の奥へと逃げて行ってしまう。

 と、そこに兵士が騒ぎを聞き付け駆け付けてきた。

「城内に曲者! いや、食べに来たから、食うぜぇ者か!?」

「ち、違うわ! 私たちは聖龍隊よ! シャ・キンカと話をさせて!」

 ミラーガールの訴えに兵士たちは動きを止め、聖龍隊だと聞いたシャ・キンカも一行の前へと戻ってきた。

「……あ、ああ! アッコさんにアプリコットさん! 聖龍隊の皆さん、お久しぶりですっ!」

「やっと俺達に気付いてくれたか……」

 ようやく自分達が敵ではない事を気付いてくれたキンカにHEADの堂本海人は呆れ果ててしまう。

「キンカ君、ちょっとお話ししたいんだけど……」

 ミラーガールが代表としてキンカに話し掛けるが、キンカは両手を前に突き出して返答。

「今、お腹が空いているので後にしてくれませんか!」「え?」

 キンカの返答にミラーガールが首を傾げると、キンカは詳しい現状を語り出した。

「今日は待ちに待った鍋曜日なんだ! 話なら鍋を食べながら話そうよ」

「鍋曜日?」

「そう! アジア各地の食材をぶち込んだ美味しい鍋を、城内のみんなで食べる日なんだ!」

 するとキンカがある提案を出す。

「……っ、そうだ! アッコさん達も食べていきなよ、美味しいよ!」

 このキンカからの提案を聞き入れて、ミラーガールとウォーターフェアリーはある考案をキンカに繰り出した。

「……ねえ、キンカ君。良かったら、その鍋を私たちに料理させてくれない?」

「え!? アッコさん達に……そりゃ、ちょっと申し訳ないし……それに、ちゃんとした味付けにできるの?」

「大丈夫! 今回は強い助っ人が大勢いるんだから」

 弱気な姿勢で料理の出来栄えを問い掛けるキンカにウォーターフェアリーが紹介を始めた。

「彼らが料理してくれるわ」「オッス!」

 ウォーターフェアリーの紹介で、幸平創真たち【食戟のソーマ】のキャラクター達が挨拶をする。

 だが初対面の彼らに対し、キンカは不安げだった。

「ええ~~、君たちが料理してくれる訳? 少し不安だな……」

「大丈夫だって! 絶対ウマイって言わせてやるからよ!」

「精一杯、料理させてもらいます……!」不安げなキンカに対し、創真と田所恵が応える。

 キンカは最初、疑いの念で不安だったが聖龍隊が紹介してくれた二次元人に二つ返事で答えた。

「……解ったよ、アッコさん達を信じるよ。出汁はもう大鍋に投入してあるから、あとは食材を切って入れるのと味付けだけだから……お、お願いします」

「よっし! 今回は俺達も一緒に調理させてもらおう! 生徒達だけでも大丈夫だと思うが、大事な客人、粗相のないように助太刀させてもらおう」

 キンカからの了解を得て、新世代型で創真たちの講師でもある堂島銀たちも参入する意思を示す。

 そして彼らはまず食材を揃えている食糧庫へと招かれるが…………

「食を求めて参られたか? ふむ、存分に堪能されよ」

 と、上から兵士たちが貯蔵庫に蓄えられてる巨大な野菜、お化け野菜を落としてきた。

「わぁ、落とさず受け止めてよ! 全部鍋に入れるんだからね!」

 人の何倍もある野菜を落とさず受け止めろと、キンカは無茶な注文をしてきた。

 これには聖龍隊士も思わず驚愕する。「ぐおぉ! また野菜が!? これはもてなしか!? はたまた攻撃か!?」

 そして案の定、お化け野菜は皆の真上からも落下してきて大怪我を負いそうになるが、これをミラーガールがミラー・ソードで一刀両断して難を逃れる。続けてウォーターフェアリーも水の刃で野菜の断面を綺麗に切断する。

「野菜蹴らないでよ! 食べ物を粗末にするとバチだよ!」

 切り落とした野菜を蹴らないよう、細心の注意を呼びかけるキンカ。

「野菜は大体の大きさに僕達が斬る! 後の細かい切り方は、そっちに任せる!」

 落下してくるお化け野菜を斬り付けながら蒼の騎士が新世代型たちに呼びかける。

 それでも用意されたザルに切り分けられた野菜を受け入れるのに精一杯の創真たち。

 案の定、ザルから野菜が零れてしまうが其処に兵士が優しく声をかける。

「落ちた食材は、兵士たちが美味しくいただきます」

 

 調理が始まり出し、その間調理の補助に徹する聖龍隊を尻目にキンカと共に薙切えりなが待機していたが……

「まぐまぐ……まぐまぐまぐ……」

 なんと調理をしている間に、キンカがつまみ食いを始め出した。

「走ったら、お腹空いたぁ~~……ちょっとつまみ食いっと」

 これには隣で大人しく待っているえりなは呆然としてしまい、それを目撃する聖龍隊士も呆れ果ててしまう。

「部下のつまみ食いは許さないくせに……はしたない奴だ」

 そして聖龍隊と【食戟のソーマ】組は、先にタク・モンジュロから貰い受けた野菜も含めて全ての野菜を切り分けて、これまた25mプールよりも巨大な大鍋に野菜を投入する。

 続けて肉専用の貯蔵庫に足を運び、肉も続けて切り分けて鍋に投入しようとするが……

「鍋将軍の許可無しに、勝手に肉を入れないでよ!」

 と、鍋将軍を自負するキンカに叱られてしまい、水戸郁美は一瞬ばかし手を止めてしまう。

「アイツ、案外食材の扱いに慣れてるかも……」

 鍋に食材を入れる機会を見計らうキンカを目にして、幸平創真はキンカの食への拘りを密かに感じ取る。

「つまむか、つままれるか、ドキドキが醍醐味だね」

 そんなキンカは絶えずポリポリと先ほど聖龍隊が荒く切った際に零れた野菜の切れ端を味噌につけてつまみ食いをし続ける。が……

「違~~う! 魚の鍋入りはもっと後っ!」

 と、変わらず鍋将軍として具材の投入を指図する。

 するとキンカは絶えず動き回る聖龍隊の屈強な肉体を見て憧れる。

「何を食べればあんなに強くなれるのかな?」

 弱々しいキンカは屈強な聖龍隊士に微かな憧れを抱く。

「つまんだ数だけ強くなれるかな?」

「これはすでに、つまみ食いの域を超えているぅ!」

 つまみ食いし続けるキンカに配下の兵士たちは呆れるを飛び越して一驚してしまう。

「……あなた、さっきからつまみ食いばかりで。だからそんなに太ってしまうのよ」

「誰もいない……つまみ食いだけの美味しさがあるんだよ」

 一緒に相席しているキンカに食べ過ぎを指摘するえりなだが、キンカにとっては蛙の面に水であった。

「……ところでさ。君はなんでそんなに不機嫌そうなの?」「えっ? ……べ、別に……」

 唐突に訊ねてきたキンカに戸惑いを隠せないえりな。するとキンカは満足そうな顔でえりなと話し始めた。

「折角みんなが、ぼく達のために美味しい鍋を拵えてくれるんだから、もっと嬉しそうな顔しても良いんじゃない?」

「っ、っ……」笑い慣れてないえりなは動揺が収まらない。

「僕は鍋に……料理に命をかけてるんだ! 美味しいものは誰だって喜ぶからね」

「………………」料理に関して嬉々と語り続けるキンカの話にえりなは耳を傾け始めた。

「でも……一人で食べるより、みんなで一緒に食べた方が何倍も美味しいのは道理! 君は家族と一緒に食べた事はある?」

「………………!」えりなは何も答えられなかった。

「鍋が無事にできたら、調理している人たちも含めて一緒に食べよう! 少しぐらい味が不味くても、一緒に食べれば心もお腹も一杯になるよ!」

「……心も……」

 お腹だけでなく心も満腹になるとキンカから言われたえりなの心境に、何か変化が現れた。

 すると、つまみ食いばかりしているキンカに新世代型がどうも指摘したらしい。

「えーー、食べ過ぎるとつまみ食いじゃなくなるの?」

 

 一方で野菜だけでなく究極の肉と極上の魚を捌き終わった調理組は、あとは味付けのみを残すのみとなった。

「鍋の用意ができたね! 味付けは間違えないでよね!」

 味付けの間違いをしないよう指摘するキンカは、次に本日の味付けを決定する。

「う~~ん、そうだね……今日の鍋気分は………………よし! あれで行くよ!」

 幸平創真たち【食戟のソーマ】組はキンカのご機嫌を取るため、鍋を至極の献立にするべく注文通りの味付けにしていく。

 と、調理場に用意されている調味料をキンカが自慢し始めた。

「渓流のように透き通った醤油でしょ? 魚だって住めるよ!」

「この塩だけで、ご飯も野菜もいくらでもいけるんだよ!」

「これだけ味噌があれば、あらゆるお味噌汁が作れるよ!」

 醤油・塩・味噌と。とびっきりの調味料を自慢げに語り出すキンカ。

 そんなキンカは創真たちの味付けを心配し出し、再びつまみ食いと称して味見する。

「君達の味付けって本当に美味しいの……まぐまぐ…………おいしい!」

 創真たちの味付けにキンカは絶賛し、彼と同じく興味を引いた兵士達も巨大鍋を味見してみて吃驚。

「あんたらただモンじゃねぇな、さては味修行してきたな?」

「いくら食べても、明日の朝には腹が減る……人生を感じぬか?」

 余りの美味しさゆえか、食に人生を語り出す兵士も出現し出す始末。

「食い意地の張った奴に、悪い奴はいねぇ!」

 一方、キンカが味見した直後に料理は完成。絶品の鍋の味にキンカは唸った。

「この味……! 至強の献立に殿堂入りだよ!」

 キンカは鍋の虜になってしまってた。

「何コレ!? 口に入れるほど、もっと食べたくなる味!」

「よしよし! あれ、俺たちって何しに来たんだっけ……?」

 鍋の出来栄えに絶賛するキンカを前に、月野進悟ら聖龍隊士らは元々何をしにキンカの許へと訪問したのか思い出した。

「これだよ! 夢にまで見た鍋の味! やっと出会えた!」

 味付けにご満悦なキンカを、ミラーガールたちは好機と伺い話し掛けようとする。

「あ、あの、キンカ君……」「みんな! こんな美味しい鍋は一人じゃもったいないよ! 一緒に食べよう!」と、話し掛けようとするもののキンカは調理していた者達にも声を掛け出す。

 これには調理していた創真たちも笑顔で応える。

「そういや、オレ達って調理するばかりで、みんなで一緒に飯を食うって機会は中々なかったな。折角だし、ご相伴に預かろうか!」

 キンカからのお誘いに、創真たちも喜んで鍋に群がって共に食し出す。

 シャ軍の兵士も聖龍隊の隊士も混じって、赤塚組の野郎共も加わり楽しい食事会が始まった。

「てめぇら! 弱虫キンカからのお誘いだ! たらふく食い尽くすぞ!」

「おおっ、大将!」

「お、お願いだから……ぼくの分もちゃんと残してね?」

 子分達に美味い鍋を食すよう促す大将に、子分達は強く応えるがそれにキンカは自分が満腹になる量まで食い尽くされやしないかと不安に苛まれる。

「今度は鍋じゃなく、最高級の霜降りステーキを御馳走しても構わないわよ」

「美味い肉の食い方だって? 醤油にワサビだよ!」

 楽しい食事会の最中、水戸郁美からのお誘いにシャ軍の兵士は一般的な味わい方を返す。

 と、ここで調理側から食事側へと周った幸平創真が鍋に頬張るシャ・キンカにふと訊ねた。

「そういえば、あんた腐っても武将なんだよな? 強いのか?」

 小太りで、如何にも鈍重な容姿のキンカに創真が訊ねると、キンカは口元に鍋の煮汁を付けたまま答え返した。

「よく聞いて……! ぼくは、すごく弱いよ…………!」

「相変わらず、弱虫は治らないんだな。テメェは」

 大将も二年前より変わらず弱気で優柔不断なキンカの性分に呆れ返っていると、キンカは当たり前の様に言った。

「好き嫌いが無くても強くなれない……ぼくが証拠だよ」

 この始末。何でも食べるキンカですら、強気になれるのとは別みたいだ。

 

 そして大鍋の中の具材を全て食べ尽くし、シメの雑炊も美味しくキンカと共に食べ尽くした一同は満腹になった。

「色んな味が走馬灯になって…………今、幸せかも…………」

 大鍋を食べ尽くして満腹になったキンカは、その鍋の調理の手際の良さはもちろん味付けにまでも大満足のご様子。

 すると此処で、食べるのに夢中になっていたキンカがようやく食べ終わったのを確認した聖龍HEADが、満腹のキンカに話し掛けた。

「あの、キンカ君……?」

「ん? ……何ですか、るちあさん……ウプっ」

 七海るちあから声を掛けられ、キンカは満腹になったお腹をポンポンと軽く叩きながら答える。

 すると、るちあに続いてミラーガールがキンカに申し開いた。

「じ、実はねキンカ君……私たちは、この現政奉還の乱世で乱れた治安を取り戻すべく今アジアを巡行しているの」

「うんうん、それで……?」ミラーガールからの問い掛けにキンカは呑気そうな表情で答える。

「それで……キンカ君にも、協力してほしいのよ、私たちの活動に」

「……それってつまり、同盟を組んでほしいってこと?」

「そう、簡単に言えば同盟を組んでほしいのよ」

 ミラーガールから同盟の件を聞き入れたキンカは、実に申し訳なさそうな面差しでミラーガール達に語り出した。

「う、うん……こんなに美味しい鍋を作ってくれて、ぼく凄く嬉しいよ。だけど………………」

「………………?」

「……だけど、もう軍の上層部とも話して決めちゃったんだ。同盟の相手……」

「……え、えぇえ!?」キンカからの告白に、一同は仰天してしまう。

 そしてミラーガールは慌ててキンカに同盟の相手が誰なのか、問い詰めた。

「だ、誰なの!? その同盟の相手って……(まさか、悪い人たちにまた騙されているんじゃないわよね)」

 本気でキンカを心配するミラーガールを余所に、キンカは実に焦燥に満ちた顔で答えた。

「そ、それが………………順一さんなの」「え! ジュンくん……!?」

 キンカの答にミラーガールやその他の面々は驚いた。

 そしてキンカは悲しそうな顔で語った。

「話は聞いています……順一さんは、この理不尽な世界を少しでも変えようと、いま聖龍隊であるあなた達から離反して活動しているって……つい先日、ぼくの所に書状が届いたんです。順一さんが誰でも仲良くできる世の中を築き上げるために同盟の傘下に加わってほしいって……」

「………………」

 ミラーガール達は茫然とキンカの話を聞き入れ続ける。

「前の乱世の時にも、順一さん達には世話になったし、何より軍の大勢がぼくなんかよりも順一さんの人柄や人望に魅かれていて……ぼく自身、順一さん達にいつかお礼もしたいし、力になりたいって思っていて……それで軍上層部と意見が一致してスター・コマンドーに協力する体制になった訳なの……」

「…………そう……」話を聞いたミラーガールは茫然としながら一言発する。

 すると事情を全て話したキンカは目から塩水をポロポロと零し出した。

「ううぅ……本当は、どっちも仲良くしてほしいのに……! 順一さんは順一さん達で色々と考えがあるみたいで断りにくかったし……それ以上に順一さん達を裏切るなんて真似、ぼくにはできないし!」

「キンカ君……」

「ううぅーー……ぼくは……ぼくはぁ……うわぁァァン!!」

 本当は両者ともに仲良くしてほしいという想いを吐き出しながら、同時に順一たちスター・コマンドーを裏切りたくない心中も包み隠さず吐き出すキンカの訴えにウォーターフェアリーは切なくなってしまう。

 そして勇気を出して全てを打ち明けた後に大泣きしてしまうキンカを、ミラーガールは頭を撫でながら優しく言った。

「……よく言えたわね、キンカ君」

「ひっぐ、ひっぐ……あ、アッコさん……?」

「よく言えたわ。下手すれば敵対するかもしれない相手に、其処まで勇気を出して全てを告白できるなんて中々いないわ。昔より勇気が芽生えたわね、キンカ君」

「アッゴざん……」涙声でキンカは答える。

「ジュン君たちと仲違いしてしまったのは、全ては私たちの責任。あなたが責任を負う事はないわ。……ただ、本当にジュン君たちの力になってくれるというのなら」

「っ……っ……」

「ジュン君たちに全面的に力になってあげて。これは私との約束、守ってくれる?」

「うん……うん……!」

 キンカは鼻水を垂らしながらミラーガールに泣きついた。

 本当なら聖龍隊ともジュンたちスター・コマンドーとも敵対せず、仲良く過ごしたい。そして願わくば共に楽しく美味しい鍋を食べ合っていたい。

 キンカの切実な願いをミラーガールは真正面から受け止め、それを咎めようとはしない慈悲深い姿勢に、新世代型たちは感銘した。

 

 

[再会:裏切りの一族]

 

 そしてキンカも落ち着き、一行はシャ軍の本拠地から発とうとする時の出来事。

「……ごめんなさい、アッコさん、アプリさん……同盟の件……」

「ううん、いいのよ。正直に話してくれただけでも嬉しかったわ」

「何より、同盟ってのは強引に進める訳にもいかないしね」

 同盟に参入できず謝罪するキンカに、ミラーガールとウォーターフェアリーは大丈夫と返答する。

 そして皆がキンカを始めとするシャ軍と別れようとしていた時に事件は起きた。

「……んっ? なんだ、あの黒い連中……」

「どうしたの……? っ! な、なに、あの人たち……!」

 新世代型の燃堂力が顔を向けた先に、自らも視線を向けた薙切えりなは一驚した。

 その視線の先には、一人を除いて全身を真っ黒い衣で覆った顔にマスクや包帯を付けた一団が飛び込んできたのだ。

「て、テメエらは!」

 その一団を見て、大将が声を荒げる。と、同時にシャ軍の兵士たちは表情を険しくさせ、キンカのみが表情をほぐした。

「……お久しぶりです、キンカさん。そして聖龍隊に赤塚組の方々まで……くっくっく……」

 目の前に現れたのは、黒衣衆と自称する怪しげな五人組だった。

 その内の一人、鎌の形状をした得物を両手に携える白蓮坊(はくれんぼう)なる痩せ形の男が申すと、続けて中年太り体型の黒蓮坊(こくれんぼう)が申開いた。

「お久しゅうございます、皆々様方……また食事会などを開いていたのですか?」

 この白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)、実は兄弟なのだが、そんな彼ら黒衣衆の不気味な雰囲気に背筋が凍りつく感覚を覚える新世代型を横目にシャ軍の兵士に動きがあった。

「この裏切り者!」「よくも昔は騙してくれやがったな!」

 と、兵士たちは黒衣衆に向けて石を投げつけ始めた。

「お、おい待て! 落ち着けって……」怒る兵士たちを宥める大将たち。

 すると詳しい事情を知らない新世代型たちが怒る兵士に訊ねてみた。

「ど、どうしたんです!? 一体……」

 新世代型の琴浦春香の質問に、一人の兵士が怒りながら語ってくれた。

「こいつ等が二年前のアジア大戦を陰で起こした張本人だ! こいつ等のせいで二年前、アジアは戦火に曝されたんだ!!」

 更に別の兵士も申す。

「そうだ! 特に、其処の二人……白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)は上手くキンカ様に取り入って、俺達を陰で操りながら裏で色んな悪どい武将と結託していたんだ! そこに俺たち善良な兵士までも巻き込みやがって……!」

 兵士たちが申すには、黒衣衆は二年前のアジア大戦を引き起こした連続テロの首謀者であり、その中でも白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)の兄弟は上手くシャ・キンカに取り入ってはそれを隠れ蓑に利用していたのだという。

 そんな二年前のアジア大戦を陰で糸を引いていた黒衣衆に利用されたシャ軍は、当初二人を「慈悲深い白蓮(はくれん)様」、「寛大なる黒蓮(こくれん)様」として称えられていたのだが、正体が発覚した後は手の平を返すように反旗を起こしたのだった。

 ――――そんな石を投げ付けられる黒衣衆は、怪しげな威圧感を発する眼差しを前方のシャ軍兵士や新世代型たちに向けると、シャ軍の兵士は石を投げるのをピタリと止めた。

 だが、それでも反感の眼差しを黒衣衆に向け続ける兵士達。

 と、ここで大将が黒衣衆に訊ねてみた。

「テメェら、ここいらで何してやがるんだ? また悪巧みか?」

 大将に問い掛けられ、白蓮坊(はくれんぼう)が他の黒衣衆に代わって答えた。

「いえいえ、悪巧みだなんて人聞きの悪い……鬼神が活躍する時代が終わったというのに、我々が謀をする意味がありますか? クック……」

 すると兄の白蓮坊(はくれんぼう)に続いて弟の黒蓮坊(こくれんぼう)も語り出した。

「聖龍隊よ、オマケに赤塚組……お前達は今、味方となる武力を傘下に加えようとアジアを巡行しているみたいだな。おれ達も同じだ……過去の罪と向き合うため……己の贖罪の為にアジアを巡行している訳だ」

 すると二人の言い分を聞いた兵士たちが猛反発を起こす。

「フザケンじゃねえ!」

「そもそも、テメエらが争いの火種を起こさなかったら、何万って人間が死なずに済んだんだろうがッ!」

 この兵士たちの言い分を耳にし、兄弟の白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)は首を傾げながら問い掛けた。

「それは可笑しいですね……逆に言えば、争いが起きた方が、あなた方にとっては好都合だったのでは?」

「如何にも……当時の悪政を布いてた中国共産党が崩壊し、今の新政権が成り立ったのは全て二年前の戦火から始まったのでは? ……すなわち、今の中国、いやアジアを成り立たせたのは全て我らの策が故に……」

 これに兵士たちは何も反論できなかった。確かに今の住みよい社会ができたのは、乱世以降の事であり、乱世が起きていなければ苦しい現状は打破されていなかったであろう。

 

 しかしそれでも兵士たちの反発が治まる事はなかった。

「だ、だが……それでもお前達が疫病神である事は明白だ!」

「とっとと失せろ! 外道共め!」

 この兵士達の言葉を受けて、白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)の兄弟は呆れ果ててしまう。

「やれやれ、昔は慈悲深いだの寛大だのと言ってくださったというのに……」

「我らの素を知った途端に手の平返し……勝手なものよ」

 そう言い終わると黒衣衆は背を向け、何処かに行こうとする。

「ど、何処にいく!?」

 大将が問い詰めると、白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)は揃って答え返した。

「我々はどうやらお呼びでなさそうなので……」

「久々にキンカさんともお話ししたかったのだが……兵士たちが反発する以上、やむを得ない」

 そういって彼ら黒衣衆は何処ぞへと立ち去ろうとした。

 しかし此処で、反発する兵士たちとそれに黙って石をぶつけられる黒衣衆を黙視していたキンカが意を決して飛び出した。

「ま、待って! 白蓮様! 黒蓮様!」

 キンカの呼び止める声に、黒衣衆は立ち止まり振り返った。そんな彼らの前まで息を切らしながら駆け付けるキンカの手元には、たくさんの野菜や魚などの食材が。

「こ、これ……ウチの貯蔵庫の余り物だけど……良かったら美味しく調理して食べてみて!」

「………………」

「む、昔みたいに馴れ馴れしくできないかもしれないけど……白蓮様たちが過去の罪を償うために今を頑張っているのは、ぼく解っているから! いつか……いつの日か、一緒にまた…………!」

「キンカ君……」昔の様に仲良く食卓を囲める日を心より待ち望んでいる心境を白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)に打ち明けるキンカの姿を見て、ミラーガールは切なくなった。

 一方の白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)たち黒衣衆は、黙ってキンカから差し出された食材を受け取ると、これまた黙って立ち去っていく。

「お、お元気で……元気でね、白蓮様! 黒蓮様!」

 昔、自分の身の回りを利用するためとはいえ精一杯世話してくれた傍観兄弟(ぼうかんきょうだい)ら黒衣衆に手を振り続けるキンカ。

 そのキンカの優しい思いを一人、感じ取るミラーガール。

 

 と、その時だった。

 新世代型の脳裏にある記憶が――――

 白蓮坊(はくれんぼう)黒蓮坊(こくれんぼう)だけでなく、黒衣衆と激しく刃をぶつけ合う何者かの視点での記憶。

 鎌と、砲丸と、ガトリングと、双小刀と、双棘刀と、八つの数珠を刃で弾き返しながら応戦する誰かの記憶。

 新世代型たちはまたしてもフラッシュバックに襲われるのだった。

 

 

[英国の狐]

 

 所は変わって、ここは中国にあるイギリス領事館。

 ここでバーンズとジュニアの両名は、イギリス軍の総大将を務める外交官でもあるモーリス・ナイロンの許を尋ねていた。

 ナイロンは普段、外交官として活躍しているが、過去の経歴で戦場で敵を欺く戦術に長けている事から“狐”と称されているのだ。

 そんな狐と謳われるナイロンと、バーンズとジュニアは対面する。

「久しぶりだな、ナイロン」「お久しぶりでございます」

 バーンズとジュニアは敢えて戦闘スタイルではない普段の姿で対面する事で、自分達に敵意がない事を示す。

 一方のナイロンは、イギリスと日本の友好を記念して英国王室から寄贈された和風の兜を頭にかぶり、立派なガイゼル髭をピンッと立て、小指を立てて自家製のブレンド・ティーを飲むという、戦場と変わらない風貌でバーンズたちを出迎えた。

「久しぶりだね、バーンズ君にジュニア君。また君たちと対面できて吾輩は嬉しく思う」

 そういうとナイロンは再び片手のブレンドティーを口に運ぶ。

 昔から変わらぬ態度と姿勢で対面するナイロンに対し、バーンズたちは態度を変えず真剣な面差しで向かい合い続ける。

「さあさあ、まずは吾輩自慢のブレンドティーで一杯してくれたまえ」

「では、遠慮なく……」「………………」

 ナイロンより自家製のブレンドティーを飲むよう催促され、バーンズとジュニアは目の前に出されていたお茶をそれぞれ口に運ぶ。

 バーンズたちは両名とも、お茶を口に運んで一口飲むとカップを再びテーブルに置いて改めてナイロンに話を切り出す。

「……単刀直入に言おう。ナイロン、あんた達イギリス軍はこれからどうする?」

 これに対し、ナイロンは狐の様に鋭い目付きで申し出した。

「いやはや、困ったものだよ。国連総長の気まぐれで再び争いの日々に逆戻りしてしまった世界で、我々イギリスが取るべき道は如何なるものか……それを見極めばならない」

 母国イギリスを守るため、国の行く末のみを気懸りにするナイロンの考えは最もだとバーンズ達は感じ取る。

「やはり新世代型に世界を統治させるのは無謀だったのではないかと、我が国の官僚たちの一部も発言し始めている…………なのに、君ら聖龍隊はそんな新世代型たちを庇護していると小耳に挟んだ。どうかね?」

「………………………………」

 新世代型に世界情勢を統治させるのを問題視するイギリスの官僚たちの意見を聞いた後に、聖龍隊が問題の渦中である新世代型二次元人を庇護していると問うナイロンの言葉にバーンズとジュニアは黙り込んでしまう。

 だが、そんな口を堅く閉ざしてしまう両名に対して、ナイロンは笑顔で申し開いた。

「だが心配ない。吾輩は新世代型二次元人に対して、反感は抱いてない。安心してくれたまえ」

「………………」

 無言でナイロンの言葉を聞き受けるバーンズとジュニア。だがナイロンは次に衝撃の発言を口にする。

「……しかしだ。新世代型の中には異常な犯罪者も多数、出没しているのも事実であるし、吾輩も全ての新世代型に心を許す訳にはいかないのだよ。母国イギリスを危険な目に遭わせる訳にもいかないし、そこは理解してほしい」と、全ての新世代型に心を許し、認可するのはイギリスの為にならないと申すナイロンの話にバーンズとジュニアは口を閉ざしたままだった。

 するとナイロンは次に同盟の件について語りだした。

「吾輩としてはだ。かの鬼神 小田原修司が率いていた聖龍隊と手を組みたいと思ってはいるが……同時に我がイギリスに多大な恩恵を齎してくれた足正公に尽くしたいと考えているのだよ」

「それで……今はどっちに着きたいと思ってる訳だ?」

 バーンズから問われてナイロンは考え込んでしまう。

「其処なのだよ、肝心な問題は! 今や鬼神無き聖龍隊に昔の勢力があるのかどうかすら疑問な訳だし……かといって、いまだ未知数の軍事力を誇っている足正公に反旗を起こすのも躊躇いかねないのだ」

 真剣に物事を捉えて如何なる判断が正しいのか模索するナイロンの思考にバーンズとジュニアは答えを待つしかなかった。

 

 そしてしばし考えに考えたナイロン公は、バーンズとジュニアの両名にこう切り出した。

「……しばしの間、待っててくれないかね? すぐに答えを出せないからね」

「そうか、それは仕方ない」「すぐに返答できるとは思ってなかった」

 バーンズとジュニアはナイロンの応対に穏便な反応で答えた。

 すると此処でナイロンは御自慢のブレンドティーを一口飲むと二人に切り出した。

「……ところで、小耳に挟んだのだが……君ら聖龍隊から主戦力でもある日本の皇軍であらせられるスター・コマンドーが離反したと聞いているが」

 これにはお茶を口に運ぼうとしていたバーンズや落ち着きを保っていたジュニアの動きをピタリと止めた。

 そして事実を指摘された両名は正直に申し開いた。

「……ああ、その通りだ」

「僕たちとしては、非常に残念ではあるが……ジュン達が選んだ道なら、それでいいと思っている」

 この二人の返答を受けて、モーリス・ナイロンは畏まって申した。

「ほほう、それはつまり……日本を敵に回しても良いということかね?」

「それはどういう事だ……!」

 ジュニアが反論すると、ナイロンは畏まったまま事実を述べた。

「君たちも解っているだろう? スター・コマンドーは正式には聖龍隊ではなく、今や日本が誇る皇軍として名高い組織であることに。そしてそのスター・コマンドーと敵対する事は、要するに日本を敵に回す事につながると……」

「それは…………解っていたさ」

 バーンズが腕を組みながら不機嫌そうに返すと、ナイロンはさらに述べる。

「日本と友好関係を築いている、わがイギリスにとって、果たしてスター・コマンドーと決別した聖龍隊に手を貸しても良いのかどうか」

「………………」

 上から目線で問い質すナイロンの態度と胡散臭そうな言動ながらも、的確な事実の為に返す言葉が見当たらない両名。

 すると窮地に陥っても決して揺らぐ事なき精神力を携えたナイロンは、次に聖龍隊が庇護している一般の新世代型二次元人について問い質してきた。

「足正公は確かに文武両道に秀でた逸材であるのは確かなのだが……だが、君らが保護しているその他の新世代型は本当に大丈夫なのかね?」

「! ……何だと……!」

 ナイロンの一言にバーンズの目つきが鋭くなる。

「素敵紳士たる吾輩からの嗜みだが…………君らが守ってる新世代型の中にはブラック・リストに載っている輩も居るのだろう? 本当に安全かどうか、不安なのだが……」

 ブラック・リストに記載されている二次元人を危険視するナイロンの態度に腹の底から湧き上がる不快感を必死に堪える両名。

「君たちの味方になってから、君らが擁護する新世代型が危険な異常者(ヒール)に変貌しないか……そこだけが不安なのだが」

 一般の新世代型二次元人が異常者(ヒール)という危険な存在に変わらないか危惧するナイロンの言動にバーンズもジュニアも不快の極みであったが、ぐっと堪え続けた。

 そんな二人の心境も知らず、ナイロンは提案を切り出した。

「そこでだ! 今度会う時までに君たちに解決してもらいたい事が多々ある! まず一つは、いま君らが保護している新世代型二次元人が本当に安全で良質な人材なのかを調べ上げとく事! 二つ目はスター・コマンドーに対して君らは如何なる姿勢で挑むか。三つ目は足正公に対して君らの考えを……この三つの意見書を提出してもらいたい。なに、これもスグにとは言わないさ。考えが纏まった書類を出来る範囲で良いから早々に提出してくれれば、それで助かる。吾輩も君らと敵対するのは避けたいのが真情だしね」

 ナイロンからの侮辱にも近い提案に、聖龍隊としてこれ以上敵対する勢力を増やしたくない一心から、バーンズとジュニアは快い素振りでナイロンの提案を妥協する。

 

 

 そしてナイロンとの会合が終わった後、二人はイギリス領事館を去って行った。

「相変わらずのイカサマ野郎だな、あいつは」

「まったくだ! 昔と変わらず狐だよ、彼は!」

 昔同様、相変わらずの二枚舌に胡散臭い言動ながらも決して揺らぐ事ない精神での上から目線の態度を誇る外交官モーリス・ナイロンの外交術に、バーンズもジュニアも政治的には道理が通じているとはいえ人道的には外れた彼の考えに不快さを覚えていた。

 そんな二人をイギリス領事館の三階の窓から静かに眺めているナイロン卿の姿があった。

「彼らは去って行ったのか……やれやれ、足正公の趣向には我ながら着いて行けんよ」

 そういうとナイロンはお茶を口に運び入れ、一口飲むと再び語り出した。

「修司君とは外交的に友好な関係を築いていたから良いものの……今の聖龍隊には正直、手を貸す気にはなれん。スター・コマンドーとも決別してしまったのであるなら尚更だ」

 小田原修司とは友好的な外交を築けていたが、その修司が離反し、更には日本皇軍のスター・コマンドーにまで見切りを付けられてしまった現在の聖龍隊にナイロンはあまり協力的にはなれなかった。

 されどナイロンは足正義輝にも着く気がなかった。

「けれども…………現政奉還なんて起こしてしまった足正公に着くのもイギリス国民は何と思うか。下手すれば吾輩への人望が激減してしまうかもしれないし……はてさて、どうしたものやら」

 母国イギリスの民から意外にも慕われているナイロンは、現政奉還という一つの混乱を招いた足正公の側に着く事に躊躇いを覚えていた。

 そしてナイロンが下した決断は――――

 

「……こうなったら、もし争いにでもなれば有利な方へと味方に付くのも悪くない話だ。聖龍隊にスター・コマンドー、そして足正公……誰がこの乱世に幕を引くのか高みの見物と洒落込もう」

 そう呟いたナイロンは、再び御自慢のブレンドティーを口に運んで特製の味を堪能する。

 

 

 

[示現と丸坊主]

 

 その頃、熱帯地区の中国で。

「ちぇすとーー!!」「うわっ!」

 豪快な掛け声と共に剣を弾かれ後ろへと尻餅をついてしまうキリト。

 彼を剣ごと弾き飛ばしたのは、巨大な大剣をふるう白髪の老将。自らが振るう大剣とは真逆に小柄な体格をしているが、その体には漲る闘志が張り詰める。月代は剃られ、茶筅髷に結っており、勇ましい口髭や顎鬚が目に付いた。

 戦闘衣装も目に付く所が多く、右上半身を露出させた袈裟懸けの様な胴衣に、(くろがね)の肩当てに籠手、脛当などを着用した典型的な武者姿をしている老人。

 彼こそがアジアでも武芸に最も秀でた最強の武人と評されるシマ・ギンテルであった。

 今、聖龍隊と戦闘タイプの新世代型二次元人たちは、シマ・ギンテルの申し出により模擬合戦の真っ最中なのだが、ギンテルが振るう巨大な大剣の前に圧倒されていた。

「オイが鬼で、おまはんらは桃太郎。遠慮はいらんど!」

「桃太郎になったつもりで挑めってか……フッ、御伽噺の大先輩になれっていうのも悪くないな」

 キリトはギンテルに言われるがまま、斬りかかって行く。だがギンテルはこれを易々と弾き返し、巨大な大剣で襲い掛かる。

 と、そこに総部隊長ミラールの銃撃がギンテルの大剣に直撃。キリトは難を逃れた。

「さあ、立ち上がれ若もん! オイを本気で斬る覚悟で挑みんしゃい!」

 ギンテルはキリトたち若者に自分を本気で斬りかかる闘志で挑んで来いと挑発。これを聴いた新世代型の鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)が自分共々ギンテルと戦う者たちに呼びかける。

「六方から囲み、同時に打ちかかるのだ!」

 皐月からの呼びかけに反応し、キリトやシルバー・クロウ、そして纏流子や栗山未来たちはギンテルを囲み一度に襲い掛かろうとする。

 が……「示現の技は囲みに弱か……そう本気で思っと?」ギンテルは鋭い眼光で睨み付ける。

 そして次の瞬間、ギンテルは意表を衝き渇を言い放った。皆がそれに一瞬ばかし動きを止めると、その隙にギンテルは大剣を振り回し、周囲から牽制する。

「そりゃあ! ギンテル軍の兵法……おまはんらに見せてやっぞ!」

 ギンテルがそう言うと、周囲から軍の兵士が続々と現れ、ギンテルを取り囲んでいた面々を逆に取り囲んで見せた。

 それを見たギンテルは悠々と領地の奥へと撤退していった。

「遅れを取らないで! 私たちも後を追うわよ!」

 ミラールの呼びかけに聖龍隊や新世代型達は行く手を遮る兵士達を蹴散らして奥に向かう。

「ここは硫黄泉……鬼のギンテル、どこに隠れた?」

 通称鬼とまで呼ばれるほど畏敬の念を抱かれるシマ・ギンテルが撤退した彼の領地は、硫黄の臭いが漂う硫黄泉だった。

 すると硫黄泉の中央まで足を運んだ途端、間欠泉から突如としてギンテルが出没し、奇襲を仕掛けてきた。

「ちぇすとーーッ!」

 気迫漲る掛け声と共に大剣で斬りかかってくるギンテルの突然の来襲に戸惑う面々。

 と、ここで接近戦では不利と睨んだ鹿目まどか/暁美ほむら/巴マミ/美樹さやかの四名がそれぞれの得物を射出してギンテルを狙った。

 だがギンテルは自身に向けられた弓矢も銃弾も剣も全て大剣を構えて防いでしまう。

「示現流に飛び道具ば通用せん! きんしゃい!」

 このギンテルの言葉に同じ銃器を得物として用いるミラールが戦前に出て発砲を開始する。

「その自信ごと、あなたの剣を撃ち砕く!」「一手ご指南、させてもらうぞ」

 戦前に出てきたミラールの銃撃にギンテルは大剣一刀で立ち向かう。

 ミラールは全ての弾丸をギンテルの大剣に直撃、するとその勢いでギンテルの姿勢が若干ながら崩れてしまい一発の銃弾がギンテルの肩の鉄に直撃してしまう。

「うおっ……ぶわーーはっは! こりゃ敵わん」

 体勢が崩れ、戦況が不利と感じ取ったギンテルは足元の間欠泉に大剣を突き刺し熱湯を放出、そのまま姿を消してしまった。 

「ここはオイの領地(シマ)……さあ、オイを見つけられっか?」

「なんと! 硫黄泉へと逃げ込んだか!」

 聖龍隊と新世代型達は硫黄泉へと逃げ込んで姿を晦ましたシマ・ギンテルを探し出した。

「学ぶかよか、示現流の伏兵術を」

 そうギンテルの声が戦場に響いたと思いきや、またしてもギンテル軍の兵士が続出し始めた。

 一同はそれぞれ出現する兵士達の応戦に当たりながら、姿を晦ましたギンテル軍の猛攻と鬩ぎ合う。

 そんな聖龍隊の新人に戦闘タイプの新世代型の勇ましい姿を目の当たりにして、同行してきた聖龍隊士は口を零す。

「俺に絵が描けりゃあ、あの戦いぶりを世に残してえが」

 そして隊士と同じく彼らの勇ましい姿を遠くから捉えていたギンテルは自らの意中から闘志が湧き上がっているのを感じていた。

「示現とは…………兵法とは…………かぁーー! 戦への探求は尽きることがなかね」

 

 戦場を跋扈し、ギンテルの姿を探し続ける聖龍隊一行。

 だが誰もギンテルの姿を捉える事ができず、その間も続々とギンテル軍の兵士が飛び掛ってくる。

 そんな消耗戦が続いていたその時だった。戦場に何者かが飛び出てきた。

「そりゃーーッ!」「! あ、あなた誰!?」

 突然の来訪にミラール達は驚いた。

 その者は丸坊主というかスキンヘッドの厳つい顔立ちで、腰には金槌や釘などが揃った大工道具が一式装備されており、何よりも驚くのがこの男、逞しい大虎を連れて登場したのだ。

「てめえら聖龍隊だろ? へへ、乗りかかった船だ、助太刀してやるぜ」

 そう言うと男は有無も言わずにギンテル軍へと攻めていった。

「素人が戦場に出てくるのは、如何なもんかと思うけどね」

「へへっ、喧嘩なら小さい頃からアニキのを見て育ってきたんでぃ!」

 突然助太刀に参入してくれる見ず知らずの男にミラールが声をかけるが、男は余り気にも留めず戦場を引き連れている大虎に跨って駆け抜ける。

 そしてギンテル軍が前に目視できると、男は腰に携えている金槌を投げ飛ばし兵士の頭部に直撃させ気絶させる。更に兵士が接近してくると、男はまたしても腰に携えている釘を口に含んで口から釘を射出し、迫ってきた兵士の顔や目に直撃させて怯ませて見せる。

「……意外にやるわね、あなた……」

「へへっ、大工道具で人を傷付けるのは良くねェと思っているが……このご時勢だ、そうそう言ってもいらんねェ」

 余りの戦慣れをした男にミラールが目を丸くしながら声をかけると、男は本来の大工道具の使い方とは違うと言いながら乱世の時代ゆえ仕方が無いのかもと心境を語る。

「この戦に命ば賭ける心意気、感謝なり!」と、突然来襲してきた男に対してギンテルも賞賛の言葉を掛ける。

 更に男は自分が跨る大虎に「行けッ、オオトラ!」と命じると、大虎は自慢の嗅覚でギンテルが身を潜めている地まで判別して見せた。

「おお? おまはんの虎、えらく鼻が効くとね」「へへ、まあね♪」

 ギンテルからの賞賛に男は嬉しそうに鼻を擦りながら返事する。

 

 そして領地の奥まで到達した一行は、謎の男の力を借りてようやくギンテルを追い詰めたかに見えた。

 しかし此処で思わぬ強敵が。

「ホッホウ!」「ガオーーッ」

 なんとギンテル軍に在籍する虎使いとその大虎が眼前に阻んできた。

「と、虎!?」「相手にも虎使いがいたのかよッ!」

 目の前に阻んできた虎使いとその虎にシルバー・クロウやキリト達は困惑する。

 さらに同行する聖龍隊隊士も突然の敵対する虎に驚きを表す。

「おい誰か! 一休さんを呼んで来い!」

 突然の猛虎来襲に皆は慌てふためいた。

 そんな慌てふためく聖龍隊と新世代型にミラールが指揮を執る。

「慌てないで! 虎と虎使いを倒せば、あとはギンテルのみよ!」

「そ、そんなこと言ったって……」

 鋭い爪に強靭な筋力で追い掛け回してくる猛虎にシリカは焦燥を抑えきれない。

 と、多くの者達が虎に恐れを成している中、一人だけ自分愛着の虎を引き連れているスキンヘッドの男が、虎使いが指示する虎に飛び移り、跨ると同時に虎を宥め始めた。

「おーー、よーーしよし、よーーーーし……」

 跨られながらも身体を擦られ続けた虎は、まるで先ほどの猛威を振るっていた時とは真逆に大変大人しくなって喉をゴロゴロ鳴らし始めてしまう。

「な、なんと! 拙者が調教した虎が……!」

 虎使いは自らが手塩にかけて育てた虎が嘘のように大人しくされてしまったのを目の当たりにして仰天していた。が、そんな虎使いに男は「あんたは気絶していてくれ」と声をかけると、金槌を軽く投げ付けて虎使いの頭部に直撃・気絶させてしまった。

 と、虎使いがやられた事でギンテルは領地の最深部へと楽しそうに撤退していった。

「こげに楽しかもは、久々じゃけえ!」

 久々に猛者と戦える喜びを噛み締めながら、ギンテルは最深部へと一次撤退していく。

「はよう来い! おまはんらと戦いたか!」

 シマ・ギンテルの呼びかけを耳にし、ミラールが聖龍隊の新人達と戦闘タイプの新世代型に指示を飛ばす。

「進撃するわよ!」このミラールの指示に一同はギンテルの許へと向かう。

 すると最深部に進撃していく最中、新世代型の斉木楠雄がポツリと呟いた。

「九州の南方に古くから伝わる示現流を、まさか中国に伝承させているとは……」

 本来示現流とは九州の南方地方に伝承されている流派であり、中国でもそれを広く伝承させているシマ・ギンテルの存在に驚きを隠せなかった。

 

 

[修羅の道へと]

 

 そして聖龍隊一行は、スキンヘッドの男の力を借りてようやくシマ・ギンテルを追い詰める事が叶った。

「ギンテル! 一体どうしちゃったの? 前のあなたからは想像もできないほど、今は荒々しくなっちゃって……」

 シマ・ギンテルの友好的なかつての姿勢から、現在の荒々しい猛者振りに驚きを隠せないミラール。

 問い詰められたシマ・ギンテルは全身を血の気で真っ赤に染めた状態で言い放った。

「……今のオイは、かつてお主ら若いもんと酒ば交わすギンテルじゃなかぁと…………」

「え! それってどういう……」

 二年前のギンテルを知らないアスナが彼の言葉に戸惑いを覚えていると、ギンテルは大剣を前へと向けて荒々しく言い放つ。

「鬼ギンテルという畏敬など、今のオイには勿体なか……オイはただの鬼……名もなき一匹の鬼となる!」

 そう言い放つとギンテルは大剣を示現流の構えで身構えて周囲の若者達に呼びかける。

「オイば倒し、天を、時代を駆け抜けるかよか!!」

 

 二年前の交友的なシマ・ギンテルとは一変、何者をも近付けさせない程の威圧を振り散らすギンテルの猛威に、彼を二年前より知るミラールは戸惑いを抑えずにはいられなかった。

「行け、青嵐! オイの命ば振りかざせ!」

 大剣・青嵐を振り回し、周囲の者達に太刀を斬り付けようとして来るギンテルの猛攻に聖龍隊も反撃を開始。

 だがギンテルの小柄ながらも屈強な肉体には生半可な攻撃は通じず、近付こうものなら一撃必殺の一刀にて切り倒されてしまうのは明白。

 と、ここでギンテルは新世代型の一人に斬りかかる。

「ちぇすとーー!」

 しかしギンテルの振り下ろした大剣をその者は受け止めた。その者とは他でもない、超能力少年の斉木楠雄だった。

「ほほう、えすぱあっちゅう能力者じゃか?」

「ええ、そうですが……! (な、なんて攻撃だ! 受け止めるだけで精一杯だ……!)」

 念力の壁でギンテルの太刀を受け止め防いだ斉木だったが、その強烈な一撃に防ぎ止めるだけで精一杯だったのである。

 すると自身の攻撃を超能力で防いだ斉木楠雄にギンテルは鬼の形相で言った。

「……フッ、能力者との一戦ってだけでも貴重ばい。おまはん、オイの一撃を防ぎ切れっか!」

 次の瞬間、ギンテルは斉木が張った念力の壁に連続で大剣を振り下ろし、力任せに斉木のバリアーを突破しようとする。

「ッ…………!」

 斉木はギンテルの猛攻を受け止めるだけで精一杯だった。

「い、いけない! 早く助けないと……」

「ま、待て纏流子! 下手に近付けば、我々もあの剣の餌食になる……!」

「でもこのままじゃ、斉木くんが……!」

 助太刀に入ろうとする流子に皐月が止めるものの、栗山未来がこのままでも危険な状態が続くと指摘する。

 するとその時、猛威を振るうギンテルの周りを透明な壁が囲み出し、そのままギンテルを押さえ込んでしまった。

「グッ……なんじゃ、これは?」

 突然自分を囲む透明な壁にギンテルは動揺。するとルーキーズと同行してきた新世代型の名瀬兄妹が戦線に出て言った。

「それは僕と美月の『檻』の能力で作った壁だ。簡単には壊せないぞ」

「所詮は巨大な武器を持った、ただの人……呆気なかったわね」

 しかし名瀬博臣と美月の兄妹が拵えた檻に、ギンテルは笑い飛ばして言った。

「ぶわっはっはっは! こげなもんでオイを閉じ込めたつもりばい? …………かーーつッ!」

 ギンテルが鬼迫に勝る渇を入れた瞬間、名瀬兄妹が発生させた檻は見事に砕け散り、ギンテルは自由となった。

「ま、まさか……!」「! ……」

 自分達の最高能力である『檻』を自力で、それも一喝しただけで破壊してみせるギンテルに名瀬兄妹は言葉を失くす。

 

 すると今度は突如としてルーキーズに加勢してくれたスキンヘッドの青年がギンテルに攻撃を仕掛ける。

「おい、ギンテルの爺さんよ。あんたは一昔前、オレっちのアニキ達とも一戦したって聞いているが……今みたいに何でもかんでも斬りかかる野暮な真似はしなかったと聞くが、なんでそうなっちまったんだ?」

 青年が訊ねると、ギンテルは物思いに耽った様な面差しで大剣を振り翳し続けながら語った。

「……オイは二年前、多くの若もんを戦場で死なせちまった。若もんと酒ば交わすのが楽しかったワシは、とても悲しかったばい」

「………………」ギンテルの話に皆は黙って耳を傾ける。

 そして大虎に跨りながらギンテルの周りを駆け巡る青年にギンテルはハッキリと言い放った。

「じゃが……今のオイは人を捨てた! オイはただの鬼……一匹の鬼となりたいんじゃ!!」

「お、鬼ですって!?」ギンテルの発言にシルバー・ロウは一驚してしまう。

 そしてギンテルは二年前の小田原修司を思い出しながら話した。

「オイはかつての修司どんと同じ様に、鬼という修羅の道を行く……皮肉な運命よ…………」

 しかしこれに対峙していたスキンヘッドの男はギンテルに物申した。

「あんたも修司のあんちゃんも人だ! ……人情を決して忘れねえ、タダの人よ!」

「な、なんであんたがうちらの総長……い、いえ、前総長の事を?」

 如何にも小田修司を前々から存じているかのような物言いをする男に、ミラールは思わず問い詰めてしまう。

 しかし鬼と自称し、鬼の如く猛攻を続けるギンテルは大剣の矛先をミラールへと変えて訴える。

「ルーキーズ、おまはんらの戦術でオイを死の淵に追いやってくれんね!」

「……あなた、未だにあの事を気にしてるの? ……鬼の名が泣くわよ」

 ギンテルからの訴えを聞いて、ミラールはギンテルが如何に何を思い続けたからこそ鬼として暴れ回っているのか納得する。

 すると先ほどからギンテルの猛威に脅え、離れた所から戦いを静観していたシバ・カァチェンがギンテルを見て思った。

「あなたも何かを失ったのですか……? 何故、温かき道を捨て……修羅へと突き進むのです……?」

 自ら修羅の道へと突き進むギンテルに疑問を抱くカァチェンに、ギンテルは答えた。

「年ば取れば土俵際の心地よ。求めても得られなんだもんが欲しくて堪らなくなる……」

 ギンテルは年を重ねたからこそ、自分に欠けているものが非常に欲しくなって堪えられない心境を語る。

 そんな強者の風貌を積み重ねてきたギンテルを前に、カァチェンはぽつりと呟いた。

「強さ、か……恐らく、過去の私が最も欠けていたものだ……」

 すると此処でギンテルがカァチェンに向かってきた。カァチェンは咄嗟に横へと回避するが、それをギンテルは見抜いてカァチェンが回避した方向へ大剣を振るった。だが誰もが絶望視した中、カァチェンは咄嗟に逆刃薙(さかばなぎ)を真上に向けてプロペラの様に回転させる事で体を上昇、上へと避難する。

「な、なぬッ!?」

 突如として真上に上昇するカァチェンに予測してなかったギンテルは仰天。そしてカァチェンは無表情のまま逆刃薙(さかばなぎ)を振り下ろし、その斬撃がギンテルの篭手に直撃した。

「な、なんと……!」

 篭手に一撃、不覚にも一本取られたギンテルは膝を着き、激しく落胆した。

 

 

 最初は手合わせだけのつもりが、本気の状態で攻撃してきたギンテルから一本取ったスター・ルーキーズ。

 不意を突かれたとはいえ一本篭手に刃を入れられたギンテルは非常に落ち込んでしまう。

「……どうしたの? 前のあなたなら、これぐらいの手合わせでの負傷、笑い飛ばしていたでしょう」

 ミラールが非常に落ち込むギンテルを見て、ギンテルは心の内を胡坐を掻いて語った。

「ふぅ……ワシはもう時代遅れなのかもしれん」

 ルーキーズたちを前にギンテルは語り続けた。

「こんなにも沢山の強きがまだまだ健在じゃったとは……全ては、はじまりの帝・足正義輝の現政奉還の一声……」

 ルーキーズだけでなく、新世代型にシバ・カァチェンという若者と出会えて一戦交えられたのも全ては足正義輝の掲げた一声より始まった事と唱えるギンテル。

「この強きを呼び覚まし男……剣を目指す者は皆こぞって、奴ば剣帝とも呼ぶ…………」

 そしてギンテルは足正義輝について語り出した。

「変幻自在、唯一無二……全ての異世界の猛者をも超えると伝えられとる剣腕……あの男と斬り結べば、オイの示現は完成するとか……?」

 だがギンテルは非常に悔しい想いを吐き出した。

「いや、今のオイでは砕け散ってしまうとね……グッ、情けなか…………」

 すると、このギンテルの一連の語りを聞いたミラールが、ギンテルに話し掛けた。

「あなたはもう十分強いわよ。無理に示現流を完成させる意味は無いんじゃない」

「いいや、それじゃ駄目なんじゃ!」

 ミラールからの問い掛けにギンテルは激しく反発。

「乱世……オイが生きてる内、こいが最後の戦乱かもしれん……。これ迄のオイは次代を担う若きに遺す物ば探しとった。じゃが……最後となれば人間誰しも正直なるものよ……このまま朽ち果てた時の心残りはただ一つ…………」

 ギンテルは心の奥底に眠っていた本音を曝け出した。「…………示現、その真の姿を見つけられなかった事ね」

 己の真情を打ち明けたギンテルは、示現流について聖龍隊の新人達や新世代型といった若者にも単刀直入的に解り易く説いた。

「示現とは、すなわち自現…………己を現す事を言う。じゃが、今のオイには己を見出す事ができんなか……!」

 示現流を見出せなくなったギンテルは落ち込んだまま、腰に携えていたとっくりを片手に酒を飲みながら口にした。

「今も昔も変わらんのは、酒の味ぐらいぞ」

「……あなたはすっかり変わっちゃったわね。お人好しで、お喋りで……楽しく他人と酒を交わすのを楽しみにしていた貴方が此処までになるとは…………」

 二年前の乱世より、人がすっかり変わってしまったギンテルの横に、お酒は飲めずとも話はできるミラールが座り込む。

 そこに気落ちするギンテルの背中を見続けたカァチェンが質問をぶつける。

「……あなた様は、一体何を目指しているのですか? 私自身もまた、先ほどの鬼の如く振るわれる貴方様のように成りたかった……」

 自身も鬼の様な戦振りを発揮するギンテルのように、恐れられる強さを欲しいと打ち明けるカァチェンは、さらにギンテルに言葉を掛ける。

「……どうでしょうか? もし、貴方様が宜しかったら……私如きで宜しければ、ホンの少しでいいのです。示現流を教えてもらえないでしょうか……」

 少しでも強く、そして這い上がりたいと願うカァチェンはギンテルに指導を嘆願するものの、ギンテルは気落ちした様子で静かに答えた。

「駄目じゃ……今のオイの示現はがらんどう…………今のオイに教えられるもんなど、若きに伝えられる術など……な~~んもなかね……」

 そしてとっくりの酒を一気に飲み干すと、ギンテルは立ち上がり遠くを見詰めながら言った。

「おまはんらがよき若きになるには、どうするべきか……」

 若き力、若き意志を育む為に自分はどうすればいいのか……ギンテルは自問自答を続けた。

 だがギンテルの出した答えは最初から決まってた。

「……ワシは決めた! 決めたんじゃ……真の示現を、強さを得るために必要なこと。それは鬼になることじゃ!!」

「鬼、ですって……! 先の仕合から見ていたけど、あなたは本当に鬼の如き修羅へ身を落とす訳?」

 ギンテルの告白にミラールが問い返すと、ギンテルは強く主張した。

「決めたんじゃ! オイは進む! 例え鬼と成り果てる道を歩もうとも。あの鬼神、小田原修司以上の修羅の道を進む……!!」

 そしてギンテルは愛用の大剣・青嵐にも声をかける。

「我が剣、青嵐よ……付き合ってもらうど」

 ギンテルの覚悟は硬かった。今は誰が言おうと、彼は鬼の道を突き進む覚悟しか抱いていなかった。

 

 帰り際、ルーキーズ一行はギンテル軍兵士の一言が小耳に入った。

「やはり、ギンテル殿はお人好しが一番……いや、何でもなか」

 兵士達ですら、昔の心優しいシマ・ギンテルを懐かしんでいた。

 しかしシマ・ギンテルは真の現を見出し、己の示現流を完成させるべく邁進するのだった。

 

 

[謎の男の正体]

 

 中国でも最強の類に秀でた武人、剣豪シマ・ギンテルと仕合を終えたスター・ルーキーズ一行。

 誰もがシマ・ギンテルの異様な鬼の如き現状に驚かされえていた。

 ……が、そんな一行には未だにあの男が着いてきていた。

「……あなた、一体全体どうする気? 私たちの後を着いて来るなんて、命知らずもいい所ね」

「おうおうっ、噂通りの破天荒っ振りだな、ミラール!」

「私の名前を易々と呼ばないで!」

 ルーキーズ達と同行するスキンヘッドの厳つい男は大虎に跨り、その虎を走らせてミラール達と並走していた。

「ところで何で着いてくる訳なのよ? 私たちは忙しいんだからね」

「おうッ、お前ら百鬼命義に帰る所なんだろ? さっき小耳に入れたが、オレっちも連れて行ってくれ!」

「ハ? なんであなたみたいな何処の馬の骨とも知らない男を……」

 突然の男の言い分にミラールが反発すると、男は笑みを浮かべて明るく言った。

「なあに、ちょいと赤塚組の大将ってのと話がしたくてね。それとついでにミラーガールともだ! だから一緒に着いていっても構わねえだろ」

 男の申し出にミラールは考え込んだが、男の性分からおそらく何を言っても着いてくると判断したミラールは渋々承諾した。

「……ふぅ、どうせ何を言っても着いてくるんでしょ? いいわ、だけど少しでも変な真似してみなさい、この銃口が火を吹くわよ」

「おうおう、怖えなあ……ま、仲良くやっていきましょうよ皆さん。へっ」

 ミラールの脅し文句にも動じず、男は余裕綽々で同行の許可を貰い受けた。

 こうしてミラールたちスター・ルーキーズの一団は、謎のスキンヘッドの男と同行し、一路赤塚組の要塞・百鬼命義へと帰還するのだった。

 

 そして無事に義賊要塞・百鬼命義に帰還したルーキーズ一行。既に要塞にはシャ・キンカやモーリス・ナイロンの許に訪れた一行が帰還していた。

「あ! ミラールちゃん、お帰りなさい」

 要塞の入り口前では、ルーキーズの帰りを待っていたミラーガールが出迎えてくれた。

「アッコおねえちゃん、ただいま」

 ミラールは出迎えてくれるミラーガールに若干の疲労を声色に浮かべながら返答する。

「みんなお疲れ様、大変だったでしょ。もうバーンズ達も帰っていて……おや? その人は?」

 ミラーガールはルーキーズ一行に同行している見知らぬ男に気付いた。

 すると男は馴れ馴れしくミラーガールに話し掛けて来た。

「よっ、久しぶりだな……アッコねえちゃん」

「え! えっと……すいませんが、どなたですか?」

 顔馴染みの無い男の面構えを凝視するものの、誰だか見当がつかないミラーガールは困惑する。

 と、そこに外の騒ぎを聞きつけ、赤塚組の大将がやって来た。

「おい、アッコ。どうしたんだ、何か騒がしいが……」「た、大将……」

 ミラーガールは現場にやって来てくれた大将に顔を向けるが、大将の方はミラーガールの真ん前にいた男の方へ視線が向けられた。

「お、お……お前…………!」男を見て大将の顔色が一変した。

 そしてスキンヘッドの厳つい顔の男の口から、予想だにしない言葉が出てきた。

「よっ! 久しぶりだな、兄ちゃん! いや、アニキって呼んだほうが似合っているかな?」

 この男の言葉に、その場に居たルーキーズ一行にミラーガールは驚愕した。

「え……ええーーーーッ!? 兄ちゃん!?」

 驚愕する一同、その中からミラーガールが大将を兄と呼ぶ男の言葉に昔を思い出す。

「ひょ、ひょっとして………………小将?」

 このミラーガールの言葉に男も明るい笑顔で答え返す。

「おっ、やっと思い出してくれたか、アッコねえちゃん!」

 ミラーガールが思い出したのは、昔大将の側に離れなかった、ドラ猫のドラにいつも跨って移動していた幼い児童、大将の弟である通称・小将と呼ばれていた子供の事だった。

「ちょ、ちょっと待って! 兄弟って……!」

 突然の兄弟宣告に戸惑いを隠せないミラールたち。すると大将が戸惑う彼女らを見て言った。

「ま、まあ、取り合えず詳しくは中でだ。小将も疲れたろう」

「これぐらいの長旅、どうって事はねえよアニキ」

 兄大将からの誘導に伴い、弟の小将は兄と肩を並べて船内へと入っていった。

 それを目の当たりにして呆然と気が抜けて立ち尽くすミラールたち。

「な、なあ……確か、『ひみつのアッコちゃん』の小将って……」

「うん、知っているけど……全然違う…………」

 余りにも原作とかけ離れた容姿から、一同は呆然としてしまう。

 

 そして赤塚組要塞・百鬼命義の中で、赤塚組が頭領赤塚大作こと大将は弟である小将を皆に紹介した。

「コイツは俺の弟で名前を将吉、昔から大将と周りから呼ばれてた俺の弟ということで小将と呼ばれていた時期もあった! 小将は外国で最先端の建築技術を学ぶために数年前から留学していたんだが……まさか此処で実弟と会えるとは思ってなかったぜ」

 まさかアジア巡行の最中に実弟と再会できるとは夢にも思わなかった大将の言葉に、弟の小将が訳を話した。

「アニキ達が聖龍隊と同行してアジアを巡っているって話を聞いたもんだからよ。それで先ずはアジアの武将に会ってみようかと思ってシマ・ギンテルのところにやって来たら、ちょうど合戦の真っ最中だったもんで助太刀してやったって訳よ。いやあ、それにしても懐かしいなあ……アッコねえちゃんとも久しく会ってなかったし」

「そうね。私も驚いちゃった、小将がこんなにも立派に育ってくれてたなんて……」

 立派どころか兄弟揃って原画崩壊レベルにまで成長した有様に一堂に会する皆々が驚きのあまり言葉を失くす中、ミラーガールのみが実の弟の成長を喜ぶかのように現在の小将を笑顔で迎え入れる。

 そして兄の大将から紹介された小将は、改めて今ではアニメタウンのトップに君臨している聖龍HEADにヤクザ口調で名乗り申した。

「はっ、お初にお目にかかるお人も居るとは思いやすが……オレっち、名を将吉、姓を赤塚と申します。この度は実兄、赤塚大作が皆様方の世話に成っているようで、誠に感謝至極にございやす! オレっち、まだまだ男としても大工としても二流の半端者ではありやすが、どうぞ宜しくおねげえしやす……!」

 このヤクザ口調の名乗り方にバーンズ達は唖然としてしまうが、彼らも快く小将を受け入れた。

「ま、まあ……大将の弟なら問題なか」

「そ、そうだね。兄弟揃って原画崩壊しているのは驚かされたけど……」

「で、でも、また赤塚組に頼りがいのある人がやって来たのは嬉しいことよ」

 バーンズ/ジュニア/アプリコットの三名は原画崩壊している小将の存在に戸惑いつつも、彼が赤塚組に新たに加入する事を祝った。

 

 

[二年前のアジア大戦]

 

 シマ・ギンテルとの合戦の最中に乱入してきた男の正体が、赤塚大作の弟将吉、通称小将である事を知った一同。

 一方、三手に分かれていた一行は各自の報告を互いに入れ合った。

「長いものに巻かれろ」精神のモーリス・ナイロンが、未だに聖龍隊と足正派のどちらに着くか検討しきれてないのはHEADにとっては少しながら予想はできてた。

 それよりも予想外だったのは、既に聖龍隊を離反していたスター・コマンドーが各自で各武将たちに同盟の義を持ち掛けていたこと、それには少なくとも兵力が多いシャ軍が傘下に入っている事。

 そして足正義輝が起こした現政奉還で猛者たちが己の目指す世界を創生する時代の到来で、すっかり人が変わってしまったシマ・ギンテルの現状。

 聖龍隊は今後の道筋について議論を醸し出した。

「……此処は最早、戦力拡大を視野に入れて行動しないか? 今のところ、接触した武将でオレ達に協力してくれるのが明白なのはモンゴル軍だけだしよ」

「そうだね。ジュン君たちも自分達の戦力増加に力を注いでいるのは事実だし……考えたくはないが、スター・コマンドーとの衝突も後々予測しておかないと」

「………………」

 最早戦いは避けられない現状を把握して、聖龍隊の戦力拡大について議論を述べていくバーンズとジュニアを前に、ミラーガールは憤った表情で切ない自分の感情を押し殺していた。

 

 と、そこに。

「あ、あの……バーンズさん……」

「ん……なんだ斉木か。どうした? また悩み事か?」

 新世代型の斉木楠雄が訪ねてきた。これにバーンズは追い返そうともせず、真に斉木に問い返す。

 すると斉木はバーンズ達に質問した。

「こ、これから何処に行くか……まだ決まってないんですよね?」

「んっ、そうだな……目ぼしい武将とは粗方会ってきたし、これからオレ達が取るべき行動はどうするか今から議論する所だが…………」

「そ、それでしたら……一つ、お願いが!」「お願い? ……なんだ?」

 斉木楠雄の切羽詰まった嘆願にバーンズ達は耳を傾ける。

 そんな斉木が言った願いとは「……僕たち……僕ら新世代型二次元人に、二年前のアジア大戦の詳細を当事者である聖龍隊の方々から直接聞かせてほしいんです!」

 なんと斉木は既に教科書にも載っている二年前のアジア大戦での出来事を、改めて当事者である聖龍隊の面々から詳細な事柄を聞かせて欲しいと嘆願。これにはバーンズを含めた聖龍HEADは驚かされた。

「ど、どうしたんだよ改まって……! 二年前の乱世を知って、どうするつもりだ?」

 バーンズが目を丸くしながら問うと、斉木は強い眼差しで答えた。

「はい、先ほど新世代型同士で合流したとき、みんなの意識を読んで解ったんですが……どうも僕たち新世代型の間で頻繁に起こるフラッシュバックは戦界武将たちと会った時に起こるものだと推測されました! また、聖龍隊の方々が口を揃えて「二年前は穏やかな性格だったシマ・ギンテルが鬼のように変貌してしまった」と聞いて僕を含む新世代型で決めたんです! 多くの人命や人心を変えた二年前のアジア大戦を詳細に知る事で、僕たちの共有感知を抑えられる切っ掛けが生まれるかもしれないと! 何より二年前、何が起きたのか……鬼神と畏れられた小田原修司が如何に戦っていたのか、それを知る事で何か変われる気がしてならないんです! お願いです、迷惑なのは解っていますが、どうか当時の事を改めて教えてくれませんか……?」

 斉木楠雄から伝えられた新世代型の決意に、バーンズ達は再度驚かされる。

 そしてバーンズは斉木の強い瞳を直視して、彼の、そして新世代型二次元人たちの決意が本物である事を察しする。

 議論し合っていたバーンズは徐に立ち上がると、何も言わずに斉木の目前へと歩み寄り、彼の肩に手を乗せて斉木に言った。

「……それがお前達の覚悟か。いいぞ、解った。教えてやろう、お前たちに二年前、何が起きたのか……語られる範囲で答えてやろう」

「あ、ありがとうございます!」斉木は感謝の余り深々と頭を下げる。

 するとバーンズは続けて斉木に話した。

「……に、しても。まさかお前達が自分から二年前の歴史を知りたいと思うとは……フッ、歴史好きなのも修司そっくりだ」

「え?」

「いや、気にするな。コッチの事だ。それじゃ巡行がてら、アジアを旅行しながら語るとしますか」

 このバーンズの発案に他の聖龍HEADは反論。

「お、おいバーンズ! 呑気に観光させている暇なんてないぞ!」

「そ、そうですよ! ジュン達は今ごろも、多くの武将とコンタクトを取って戦力を拡大させているのは間違いないですし、新世代型に歴史の勉強をさせている余裕なんて……」

 バーンズの発案にキング・エンディミオンとディープ・ブルーの二名が強く反発するものの、バーンズは余裕溢れる顔で斉木と肩を組みながら反発するHEADに言った。

「な~~に、ちょいと寄り道しながらアジアを巡行するのは変わりない。それにコイツらが自分から率先して、昔の出来事を知りたくなったっていう好奇心は評価してやらねえと……オレ達の昔話をその場で語り明かすだけだし、大して時間は潰さないだろ?」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

 バーンズの提案にジュニアも困惑するばかり。

 そんな困惑するHEADを尻目にバーンズは斉木と向き合って彼に告げた。

「斉木! お前達にも修司の……いいや、オレ達の武勇伝を伝えられるだけ伝えてやっからな! 楽しみにしてろよ」

「は、はぁ……お、お願いします」

 嬉々と舞い上がるバーンズの一変した態度を前に、斉木は戸惑いながらも再度お願いする。

 そして新世代型達に過去の出来事を伝える事を承諾したバーンズは、仲間の聖龍HEADに言い放った。

「よし! オレ達はこれから出発する! 新世代型に……いいや、聖龍隊の新入りにカァチェンにも真実を伝えるんだ! 修司の覚悟と、その意志の強さを……!」

 

 

 こうしてバーンズは新世代型達の嘆願を聞き入れ、彼らに二年前のアジア大戦を語る決意を固める。

 だが、彼の口から語られる歴史はホンの僅か。

 全ての正しい歴史を新世代型が知る時は、彼らが自分達の真の正体を知った後の事である。

 それはまだ、ずっと先である。

 

 

[アレンジ武将]

 

シャ・キンカ

 所属:中国 ウイグル族名士

 出身:三次元界/中国

 武器:鍋

 肩書:無明秋夜(むみょうしゅうや)

 登場時の書き文字:決断

一人称:ぼく

 属性:炎

 シャ軍の総大将。主君としてはあまりにも優柔不断で小心者だが、食にかけてはアジア随一の気合いとこだわりを発揮する食いしん坊。

 

 

モーリス・ナイロン

 所属:イギリス 外交官

 出身:三次元界/イギリス

 武器:指揮刀

 肩書:勿怪跳躍(もっけちょうやく)

 登場時の書き文字:登場

一人称:吾輩

 属性:氷

 アジアの混乱に特別に軍を率いるイギリス外交官。素敵紳士を自称し、何かと自慢をしたがる自意識過剰な人物。

 長いものに巻かれる事で母国イギリスを守ろうと考えているが、足正義輝と聖龍隊のどちらにつくべきか、未だに答えを出せずにいる。

 

 

シマ・ギンテル

 所属:中国 ウイグル族豪族

 出身:三次元界/中国

 武器:大剣

 肩書:一刀必殺(いっとうひっさつ)

 登場時の書き文字:出陣

一人称:オイ、ワシ

 属性:雷

 ギンテル軍の総大将であり、大剣を振るう一撃必殺の“示現流”の使い手。

 かつては古き時代の終わりを感じ、古き時代の象徴でもある自分を若者が倒す事で新しい時代が来ること願っていたが、現政奉還によって乱世にあふれる強者と戦い、己の示現流を完成させるため自ら修羅の道へと突き進む老兵。

 容赦なく相手を斬り捨てるその姿は、「鬼ギンテル」の異名と共に恐れられている。

 

 

赤塚将吉

 所属:赤塚組 

 出身:二次元界/アニメタウン

 武器:金槌、釘などの工具

一人称:オレっち

 赤塚組総大将、赤塚大作の弟。兄に勝るほど劣らない原画崩壊のキャラ。

 厳ついスキンヘッドに腰に携えた金槌や釘で相手を怯ませたり攻撃したりする戦法を得意とする。

 かつての愛猫ドラに因んだ本物の虎、大虎を引き連れて跨り、戦場を跋扈できる。

 

 

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