現政奉還記 武将達との会合編 作:セイントドラゴン・レジェンド
[三人の敵将]
聖龍隊と赤塚組は「己の共有感知という現状を変えたいが為に過去を知りたい」という新世代型二次元人の切願を聞き入れ、一路アジアのゴビ砂漠付近へと近付いて行ってた。
砂漠化が現在も進むゴビ砂漠の一角に、土壌改良と弛まぬ努力で実った青々しい光景が広がっているという。
だが、そこで聞かされる過去の逸話――――かつてアジアを震撼させた戦闘の一端をまだ知らされていない。
「……………………………………………………」
「……バーンズさん、俺達を何処に連れて行くつもりですか?」
不愛想な真顔でひたすら突き進む先頭のバーンズに新世代型の真鍋義久が問い掛ける。
問い掛けてきた真鍋の不安そうな顔を横目で視認したバーンズは、真顔のまま真鍋に言付けた。
「……オレ達がいま向かっているのは、アジアの平和公園だ」
「平和公園?」新世代型たちが聞き慣れない言葉に反応する。
「そうだ。二年前のアジア大戦以降、二度と戦争が起こらない様にと人々が平和への想いを願掛けて草木などを砂漠化が進むゴビ砂漠周辺に植樹している公園の事だ……」
皮肉にも、こうして再び現政奉還という乱世が起こってしまった今となっては無情な話ではあるが、新世代型たちは不思議とそのバーンズが語ってくれる平和公園に関心が湧いた。
ゴビ砂漠の一角に在る平和公園。ここは一昔前から、とある夫婦によって植樹が行われ、少しばかり緑が戻ってきた環境に落ち着いていた。
「へぇ、結構緑が目立っているんだな」
「ええ、ゴビ砂漠の一角に、こんな場所があったとは驚きです」
意外にも緑が生い茂る現況に、新世代型の真鍋や出雲ハルキらは驚いた。
そして皆が半ば観光気分で植樹され、少しばかり緑が戻った環境を観ていると、とある一角にどの苗木よりも大事にされてそうな一本の木が在った。
「? この木、なんだか他の木よりも大事にされているみたいだ……」
高さは160cmを少し超えているほどの小さな木に新世代型の燃堂力が思わず凝視してると、バーンズが燃堂に声をかける。
「いいところに気が付いたな! これこそオレが皆に話したかった、「平和の象徴」って奴さ」
「平和の象徴……?」
バーンズが言う平和の象徴に首を傾げる瀬名アラタ。
「何の木なんですか?」
鹿島ユノの質問にバーンズは即決で返答した。
「桜の木さ。さくら、さくら、いま咲き誇る……」
「それ以上は歌わない! 以前にも歌詞を引用してpixivから作品を削除されたのを忘れたの!!」
思わず歌い出してしまいそうになるバーンズにジュニアが慌ててツッコミをいれて制止する。
「桜かぁ……小さいけど、暖かくなったら綺麗な花を咲かせるんだろうね」
プロト世代の黒鳥千代子が小さいながらも桜の木に注目していると、新世代型の薙切アリスが問い質してきた。
「この桜の木が、なんで平和の象徴なんですか?」
この最もな質問にバーンズは腕を組んで語り出した。
「話せば長くなるが……これは彼の暴君、破邪王と修司の友情の証として今でも多くの人が参拝している桜の木なんだ」
このバーンズの発言に新世代型たちはざわついた。
「は、破邪王って!」「あの人喰いの暴君として悪名高い……!」
「当時の韓国大統領を喰らい、更には北の国の残党軍からミサイルを騙し取って日本を支配下に置こうとした、あの破邪王……!」
「た、確か元々は普通の韓国出身の二次元人だって聞いているけど……」
騒々しくなる一般の二次元人たちを宥めながらバーンズは話を続けようとする。
「まあまあ、確かに教科書に載っているある程度の情報はそれで合っている。だけどな、何も教科書に書かれた歴史が全てという訳じゃないんだ。書かれてない事実だって、世の中にはたくさんあるんだぞ」
一般の二次元人たちを落ち着かせたバーンズは小さな桜の木の許で皆に語り始めた。
――――二年前のアジアで起こった大戦の一部始終を。
2011年5月28日
アジア同時多発テロが勃発。中国と韓国を中心に引き起こされたテロが原因で、当時の中国共産党は崩壊。このテロは後に、黒衣衆が裏で糸を引いていた事実が発覚。
そしてほぼ同時期に出現した韓国のテロの中心人物、破邪王が当時の韓国大統領を「弱き指導者」として殺害した上でその屍を喰らうという暴君に至る。
だが、破邪王の三メートル級の肉体から発せられるカリスマ性と、彼の側近である軍師ミャンチィなる少女の指揮により破邪王の配下につく者が後を絶たなかった。
これを機に、なりを潜めていた北の国の残党軍や、共産党に隠れて高度な軍事技術を確立していた台湾の指揮官が名乗りを挙げ、破邪王の傘下に着く形で同盟を致す。
当時、日本はまだ震災の傷が癒えてない状況であり、もし戦火が日本にまで拡大してしまえば被害は甚大であると認識した日本政府は皇軍であるスター・コマンドーと彼らを輩出した聖龍隊にアジアへの出兵を嘆願。これには母国日本の庇護と天皇陛下に厚い忠誠を誓っている小田原修司も同意し、一路聖龍隊はアジアへ出兵した。
しかし戦況は混雑を極めた。破邪王は自らが率いる自軍を「新世軍」すなわち新しき世界を創造する軍として自称し始め、それに多くの人民が陶酔してしまう。
更に純粋に聖龍隊へ母国の仇を討とうとする北の国の残党軍ヤン・ミィチェンと、台湾の完全独立を目指す自称台湾将軍モウ・チェイファンの思想も入り乱れていた。
そして聖龍隊と新世軍は悪戦苦闘の末、モウ・チェイファンの北の国の残党軍を利用した謀略、そして最初から台湾の軍事力のみを引き入れようと目測していた軍師ミャンチィの策略により、残りは新世軍総大将の破邪王とのみとなった。
だが破邪王に詰め寄る黒衣衆の損尼は、破邪王の衝撃的な真実を告げられてしまう。
常に仮面を装着して素顔を隠していた破邪王であったが、損尼に見せたその顔は、かつて損尼と結婚していた彼女の元夫であるキム・ジュンスであったのだ。
体格も風貌も完全に昔の頃と異なっていた破邪王は、損尼の一族を崩落させた狙撃手を雇ったのは自分であると伝え、自分の人生を狂わせた損尼を破邪王は頭から鷲掴みして肉の塊になるまで振り回し、周囲の敵兵を蹴散らしていく。
最終的にはモウ・チェイファンの策略によって聖龍隊を目の敵にしてしまいながらも和解できた赤塚組の両軍が迫る中、破邪王は己の拳一つで百鬼命義が進んでいた海を干からびさせ、それでも船底のキャタピラで猛進する百鬼命義を己の体一つで止めた上に何百トンもある船体をひっくり返して見せた。
一驚する聖龍隊と赤塚組に、破邪王はHEADの女性たちに「愛は弱さ」と己の思想を主張しながら激戦。赤塚組の勢力と聖龍HEADの女性達が呼びかける愛の力の前では、破邪王は止められず、完膚なきまでに叩きのめされてしまう一同。
一方で聖龍隊総隊長である小田原修司は、破邪王の正体がキム・ジュンスという韓国の若者であった事を知り、一人黙々と思いに耽っていた。
何故なら修司とジュンス、二人は旧知の間柄だったのだから。
「富界強民 世界も民も、強靭であらねばならない」
全ての世界も、そこに住まう民も、全てが強くなければ真の平和と世界は訪れないと指摘する破邪王の熱弁に新世軍の兵士たちは歓喜に沸いた。
「破邪王様が君臨する世界こそ、真の理想郷!」
「破邪王様が創る強い世界……見てみたいぜ!」
多くの人民が破邪王のカリスマと美貌溢れる軍師ミャンチィの虜となっていた。が、その破邪王の目的が日本の完全支配と知った小田原修司は決意した。
だが、その決意は何も母国日本を守るための決意ではなかった。
全てはかつての友を命を賭けて止める――――その決意の表れだった。
[過去の日々]
破邪王が旧友キム・ジュンスと知った小田原修司は一人思い悩んでいた。
彼はかつて己の過ちから全てを絶とうと、我武者羅に生きていた友。
だが今は、新たなる世を創生するべくアジアと太平洋を隔てる日本を攻め落とそうとする人喰い。
修司は目前に置かれた麦茶を一杯、見詰めながら昔を思い出していた。
(ジュンスーー! てめぇッ!!)
(し、修司くん違うの……あの子を責めないで……責められるのは、私た…………)
(っ、小母さん! しっかり……しっかり!)
病院に駆け付けた修司が見たのは、腹部から上半身に至るまで散弾を浴びせられ瀕死の状態のジュンスの実母。ジュンスは過去を断ち切るために自らの手で両親や親族を射殺して姿を晦ましたというのだ。
ジュンスの母は修司に、ジュンスを追い込んだのはソンヒと結婚を許してしまった自分たち親族にある、だからジュンスを責めないでくれと言い残し、そのまま絶命した。
だが修司は今のジュンスに……破邪王に成り果てた今のジュンスに納得がいかなかった。
強さを求める為に、それ以外の全てを投げ捨てていくジュンスの、破邪王の思想に。
そして修司は意を決したかのように目前の麦茶をグイッと飲み干すと、徐に立ち上がり破邪王が君臨する新世城を見据え、足を前へと踏み出し駆け出した。
「久しぶりだな、ジュンス! いいや、今は破邪王って呼んだ方がいいか……どっちにしろ俺は、お前をブッ倒しに来た!」
「久しぶりだな、修司。お前は少しも変わっていないようだな」
「久しぶりか……そうだな、ジュンス」
修司は破邪王と会い、過去の因縁に決着をつける覚悟を決めていた。
「砲撃準備……発射まで今しばらくかかります」
「そうしてくれ! 狙いは外すなよ……目標、新世城!」
同時に修司は待機させている聖龍隊のSRMメンバーに新世城への砲撃の準備を整えさせていた。
単身、新世軍の大軍に一騎当千の戦いぶりを発揮する修司に破邪王は問い掛けてきた。
「修司、今更何をしに来た? 我ら新世軍に降伏しに来たとでも言うのか?」
「フッ、下らない冗談など聞きに来た訳じゃない。ジュンス……覚えているか、あの時の事を」
修司は過去の全てをジュンスに問い質そうとした。が、破邪王と成り果てたジュンスの心情は冷徹だった。
「フッ……お前はまだ過去にこだわっているのか、あれしきのことを!」
「自分の親を殺した事があれしきと、よく言えたな! 腐っちまった奴だと思ってはいたが、此処までとはな!」
自らの手で両親や親族を殺害した事を気にも留めていない破邪王の冷徹な態度に、修司も呆れ果ててしまう。
「我が見据えるのは未来のみ! 修司、お前も真の強者を名乗りたければ、下らぬ過去など捨てるがよい」
このジュンスの一言に修司は怒り心頭と化した。
「下らないだと……? 自分の親を殺した事が下らないと言うのか!」
怒りで感情的になる修司は、振るう刀を更に振るい、周囲の新世軍兵士を悉く斬り捨てていく。
「相当の手練……だがそれも何処まで持つかな?」
だが新世軍の兵士は余裕だった。何故なら相手は単身で挑みかかってきた敵軍の総大将。誰もが修司を狙う。
しかし修司は既に情など捨てて、行く手を阻む兵士を次々に抜刀して斬り捨てていった。全ては過去の出来事を皮切りに暴走する旧友を止めるため。
すると此処で修司の前にある人物が立ちはだかる。
褐色の肌に肩まで伸びた長髪を後ろに一本に結んだ髪型、そして何とも露出度の高い身なりの少女。
彼女こそカースト制度により、己の夢を絶たれたために革命軍士に入ってまで人体を改造してもらった少女ミェンチィだった。
村のしきたりによって夢を断念せざるを得なかった彼女は、自らが指揮する革命軍士の兵力で故郷の村を焼き払い、両親を含む全ての村民を皆殺しにした彼女は今や破邪王の右手と云われるほどの逸材。
「そこを退け!」
修司が目の前に立ちはだかるミャンチィに退くよう指摘するが、ミャンチィは優雅に振り返っては修司に言う。
「それはできない相談ね」
修司とミャンチィは一騎打ちに至った。
聖龍剣と間接剣で刃を交わらせる修司とミャンチィの二人は、刃を交えながら語り合う。
「忠告しておいた筈よ、破邪王の前に立ち塞がるつもりなら容赦しないと」
「ミャンチィ、お前、そんなにジュンスが……今の破邪王が大事なのか? お前もジュンスも……自分の身内をこの手で殺めちまった咎人だ! 頼む、これ以上罪を重ねないでくれ」
「私も破邪王も、天秤にかけて、重い方を選んだのよ。私たちが苦しまなかったとでも思うの?」
「人の気持ちを捨ててまで手に入れた強さが、本当の強さだとは思えねえ!」
夢や希望を奪われたとはいえ、それを奪った人々を殺めて捨てた強さが本当の強さとは認められない修司は激しくミャンチィに叫んだ。
「ミャンチィ……どうしてジュンスもお前も、自分の苦しみを抑えられなかった?」
「あなたなんかに私達の苦痛が理解できるとでも……? 夢を奪われ、絶望を与えられ……そんな理不尽な世界を払拭するために私や破邪王は戦い続けているの」
理不尽な現実を変えるために自分達は自分達の信念を貫いて戦い続けると説くミャンチィに、修司は問うた。
「ミャンチィ、お前ジュンスの事を……! 愛している人の暴走を止めてやるのも、恋って奴じゃないのか!?」
修司は気が付いていた。いくら他人からの愛情を上手く感じられない修司ですら、他人と他人の愛情には敏感であったのだ。
破邪王への淡い恋心を抱いていたミャンチィは、動揺する素振りも見せず、修司に間接剣を振り回しながら答え返す。
「……私も、破邪王も、共に弱さを捨てた存在……愛なんて邪魔な感情は、今後一切求める気はないわ! 他人への情は、ただの足枷になる」
「ミャンチィ…………やはりお前も間違っているッ!」
他人への愛情そのものを弱さとして受け入れ、愛情を捨てて闘うミャンチィに修司は一喝する。
「俺は、かつての友として……ジュンスを止める、目を覚まさせる!」
「それじゃ、私はあなたを止める。フッ、どう、合理的な提案でしょ?」
二人の剣は更に激しさを増していく。
「破邪王の妨げにしかならない存在……苦労させられたわ、あなた達には」
関節剣で猛威を振るうミャンチィの言葉に、修司はしかと耳に入れてはいたが受け答えようとはしなかった。
[軍師の謀略]
修司と激しい戦闘を展開するミャンチィ。
しかし武に秀でた修司に、ミャンチィは苦戦していた。
「…………! 消耗しすぎたわ……」
「退け、ミャンチィ! お前を失う訳にはいかぬ!」
修司との合戦で体力を著しく消耗してしまったミャンチィに、破邪王は軍師として一旦退けと命じる。
それにミャンチィ自身も悔しそうになりながらも「ッ……了解、ジュンス……」と破邪王に答えて一線を退いた。
ミャンチィの妨害に遭いながらも、修司はこれを何とか突破。
すると修司が進軍してきた道から、遅れて聖龍HEADの面々が駆けつけて来た。
「修司!」「オレ達も参戦するぞ!」
助太刀に駆けつけて来てくれたミラーガールにメタルバード達に、修司は無線で言った。
「戦況はお前たちに一任する! 俺はジュンスと話があるんだ……!」
旧友と話があると言い残し、修司は一人で先へと進撃してしまう。
「あ! 修司、待って……」
一人で先へと進軍してしまう修司を見て、ミラーガールが何とか共闘したい一心で呼び止めようとするが、そんな彼女に魔の手が伸びてきた。
「危ない!」
ミラーガールに伸びてきた関節剣に素早く反応したジュピターキッドが、鋼鉄並みの硬度を持つ茨の鞭で間接剣を防いだ。
そして皆の前方、修司が進軍している方向に、先ほど修司によって体力を消耗しているミャンチィが立ちはだかっていた。
「待つのは嫌いなのよ、早くしてくれないかしら? 新世軍に従うか、それとも――――」
ミャンチィは間接剣を素早く周囲に振り付け、威嚇しながら問い質す。
「ここで朽ち果てるか!」
美烈瞬躙 ミャンチィ 着手
「待っていたわ聖龍HEAD……あなた達だけはこの先には行かせない。いいえ、行かせる訳にはいかないの……」
獣の様な鋭い眼光で睨み付けてくるミャンチィと対峙するHEAD。
「待つんだ! これ以上、君は何をしたいんだ!? 故郷の村を焼き払っただけでなく、今度は武力だけで世界を統べるだなんて……無茶苦茶すぎる!」
HEADの堂本海斗がミャンチィにこれ以上の戦闘は無意味であると説き掛けるが、ミャンチィは間接剣を構えてHEADに言い放つ。
「私も破邪王も……理不尽な現実で全てを狂わされてしまったの。これ以上、狂うことも……道を踏み外す事もないわ。私たちは、私たちの理想を実現させるために戦い続ける!」
人生を理不尽な現実で狂わされてしまったが故に、これ以上狂うことも道を踏み外す事もないと説き返すミャンチィは戦意をむき出しにして睨み付けるが、無論これにHEADの女性たちは反論する。
「そんなの間違ってるわ!」「武力で……力だけで全てが変えられる訳はないのよ!」
何とかミャンチィに自分達の武力による統一が間違いである事を伝えようとするセーラームーンにキューティーハニー。
しかしミャンチィは平然とHEADに答え返した。
「間違ってる……? それこそ何を根拠に言ってるの? 力があるから人は上へと昇れる……あなた達だってそうだった様に、歴史も常に強者へと傾くのよ」
これにメタルバードが反論をぶつける。
「それは違う! 強さだけじゃ何も解決はできねえ……ミャンチィ、オレ達も同じだ。力に頼りきっていたから過去に何度も過ちを犯しちまった。オレは、オレ達はお前らにそんな事を繰り返して欲しくねェんだ!」
しかしメタルバードの言い分にミャンチィは冷たい面差しを向けて言い返した。
「……フッ、それは単にあなた達が弱かっただけの話。強くなければ、誰も自分の主張を……夢を叶えられないものよ」
「ミャンチィ!」
全ては力こそだと、あくまで主張するミャンチィの言葉を聞いてミラーガールは切なくなる。
そしてミャンチィは間接剣を構えたままHEADに言い切った。
「さあ、もうお喋りの時間は終わらせましょう。あなた達と無駄な時間を過ごすのは、それこそ合理的じゃないわ」
するとミャンチィの左手が自然な流れで腰に伸びてきていることにメタルバードは気付いた。
「!?」何か仕掛ける、そう睨んだメタルバードでも彼女の真意は解らなかった。
その間、ミャンチィは腰に忍ばせていたボタンを押して「フッ」と口元を微笑ませた。
ミャンチィの不敵な笑みを目の当たりにしたメタルバードは慌てて周辺の異変に気付いた。なんとHEADの周囲に赤く点滅する装置が地面に埋められていたのだ。
赤い点滅に気付いた瞬間、メタルバードは大声で叫んだ。
「退避ーー! 退避ーーーーッ!」
HEAD全員がその場から離れようと駆け出した瞬間、地中に埋められていた装置が次々と爆発し、物凄い土煙が舞い上がりその一帯が土煙で覆われてしまった。
そして地中からの爆発に巻き込まれて重傷を負ってしまった聖龍HEADが土煙の中から現れた。
「み、みんな! テメェ……!」
周囲のHEAD仲間が全員深手を負ってしまった現状に、唯一肉体が鋼鉄に変化しているメタルバードのみが残り、思わずミャンチィを睨み付ける。
一方のミャンチィは、仕掛けておいた爆弾に上手く聖龍HEADが引っかかった現状を喜んだのか、舌なめずりした。
「みゃ、ミャンチィ……今の爆発、お前も巻き込まれていたかもしれないのに……な、何故……?」
自身も爆弾の犠牲に巻き込まれる可能性があったかもしれない事実を、深手を負い頭から大量の血が流れているキング・エンディミオンが問い掛けると、ミャンチィはごく当たり前の様に返答した。
「今さら命など惜しくはないのよ……ただ、あなた達に捧げる命がないだけ」
そう言うと計算通りに爆弾の爆発に巻き込まれて深手を負った聖龍HEADにミャンチィは無情にもトドメを刺そうと身構えた。
「さあ、これでお終い。HEADもメタルバードを残して、ほぼ壊滅状態……小田原修司もやがてジュンス、いいえ、破邪王に殺される運命。もはや聖龍隊に未来なんてないわ」
「ッ………………」
状況的に追い詰められてしまった戦況に、メタルバードは表情を歪ませる。その周辺には、ミャンチィが仕掛けた爆弾で重傷を負ったHEADしか残っておらず、完全に窮地に立たされていた。
しかし無傷のメタルバードは単身、ミャンチィに闘いを挑もうとした。その時。
「副長!」「! ……お前ら……!?」
突如としてメタルバードとミャンチィの前にスター・ルーキーズの獄寺隼人と
すると獄寺隼人がメタルバードに言った。
「副長! ここはオレ達に任せてください……!」
「お前達……!」
隼人と鴆の力強い眼差しを向けられ、メタルバードは更に一驚する。
すると二人を目視したチャンミィが呆れた様子で二人に言葉を掛ける。
「ふぅ、また貴方たち? いい加減にして欲しいわね」
以前にも二人と対峙した事のあるチャンミィは、主がため仲間がために命を惜しむ事のない両名と余り時間を過ごしたくなかったのだ。
何故ならチャンミィは改造手術により、屈強な体は手に入れられたものの、その代償として肺などの臓器を患ってしまった。故に無駄に命を消耗させる戦闘は好まず、そして己の命を投げ捨てるような武人も好んでいなかったのだ。
獄寺隼人と鴆、二人はリーダーである沢田綱吉と兄弟杯を交わした奴良リクオに大恩を抱いているが、その代わりに我が身を犠牲にしようとしても守ろうとする傾向が見られていた。そんな二人にミャンチィは愛想を衝かして今までマトモに向き合った事は無かったのだ。
[友がために]
(全ては破邪王のためよ。破邪王にとって、聖龍隊は邪魔なだけなのよ)
二人は過去に、ミャンチィに言われた言葉を思い返していた。
(あなた達は死にたかったんでしょ? 沢田綱吉と奴良リクオの為に死ぬのが本望だった筈……)
友が為に死ぬ覚悟を決めて戦地に赴いた二人、だがミャンチィに問われたとき、仲間のためなら死ねると言い切った両名にミャンチィは言った。
(そう、それが私とあなた達の差。私は死なない……破邪王のために)
これに二人は衝撃を覚えた。(破邪王の…………ために?)友の、仲間の為に死ぬことすら恐れていなかった二人だったが、ミャンチィのこの言葉に気付かされた。
そんな死にたがり屋と捉えていた二人の登場に、ミャンチィは面と二人と対峙して申し開いた。
「答は出たかしら?」
ミャンチィの問い掛けに隼人と鴆は険しい面差しで向き合う。その無言の反応にミャンチィも二人の真意を察する。
「…………それがあなた達の答えなのね」
そう呟くとミャンチィは舞を踊るかのように態勢を立て直してから言い放った。
「……良いわ! 死にたい者と向き合う時間など過ごしたくないわ。お互い守るべきもののため命を賭けましょう。――――あなた達の負けよ」
関節剣を構えて言い切ってみせるミャンチィに隼人と鴆の二人は戦いを挑んだ。
「俺達は生きる! 生きて……」「ツナを……」「リクオを……」
「「みんなを守る! 死ぬ理由なんて、無くなった!!」」
ミャンチィに戦いを挑む二人は力強い言動で言い放ち、生き抜く覚悟で本気の力をミャンチィにぶつける。
「本気で来い! だけど俺達は死なない! 生き抜いて見せる……!!」
隼人の本気の想いを受け取り、ミャンチィも己の真意を優雅に戦いながら唱える。
「もちろん、私だって死ぬ気はないわ。破邪王の為に……ゆくゆくは、この先の未来のために生き抜いてみせる」
更にミャンチィは互角に二人と戦いながら己の信条を述べていった。
「誰かを守って死ぬ……完璧な美談だけど……そんなもの、私は認めない。人は生きてこそ……夢を、輝きを得られるものよ」
過去に村総出で夢を絶たれてしまったミャンチィの切なる信条を受け止めつつ、隼人と鴆の二人も彼女に鬩ぎ合う。
「もう、俺達に死ぬ理由なんてない! あるのは、生きる理由だけだ!!」
「生きてこそ……生き抜いてこそ、みんなを守れるんだ!」
本当に大切なものは、命を投げ捨てるのではなく生き抜いてこそ守れるとミャンチィから教えられた隼人と鴆は攻撃の手を緩めない。
「あなた達と私には戦う理由がある、それで十分よ」
力と力をぶつけ合い、戦い合う理由が双方にはあるだけで刃を向けられると説くミャンチィ。
「嘆き、悲しんでいる暇は私にはないのよ。……こうしている間にも、無情にも時間だけが過ぎていく……!」
時間だけが無意味に過ぎていく事を悲観するミャンチィの言葉に、戦い合う隼人と鴆は疑問を生じながらも全力を出し切る。
そんな三人の戦いを傍観するしかできない聖龍HEADは、この時ナースエンジェルとセーラームーンそして鳳凰寺風の治癒能力で自分達の傷を癒していた。
「た、大変よ! あの三人を止めないと……!」
もう誰一人戦争の被害は出したくないと、既に治療を終えているミラーガールが激しく戦い合う三人を指差して皆に言う。
だがメタルバードは激戦を続ける三人を見てミラーガールに言った。
「……もう無理だアッコ、あいつらは止まらない。少なくとも、決着がつくまで戦いは終わらないだろう……あの三人も、修司やジュンスも…………な」
「そ、そんな……!」
もはや戦いは決着がつくまで終わる事はないと説くメタルバードの言葉に、ミラーガールは胸を締め付けられる。
隼人や鴆だけでない、修司とジュンスこと破邪王までも決着がつくまで武力を納める事はないと事実を告げられ、ミラーガールもその他の聖龍HEADも戦いを静観するしかできなかった。
「どうやら、あなた達を見くびりすぎてたかもしれないわ」
一方で、ミャンチィは鬩ぎ合う二人を前に両者の実力を見限っていたと改めて呟く。彼女の言葉に隼人と鴆が一瞬戸惑いを覚えた次の瞬間、地面に着地したミャンチィが全力の技を解き放った。
「この命の限り!」
間接剣を縦横無尽に、猛烈に振り回し、広範囲に斬撃の嵐をなびかせるミャンチィ。この斬撃の嵐に隼人と
「「うわあッ!!」」「隼人!
猛烈な攻撃を受けて全身傷だらけになる二人を見て、メタルバードが叫んだ。
そしてミャンチィの間接剣から放たれる猛烈な斬撃の嵐は止み、隼人と
「うぅ……ッ」
全身を激しい痛みが襲い、傷口から夥しいほどの出血を生じる両名は、傷だらけになろうとも立ち上がり再びミャンチィに挑もうとする。
するとその時、ミャンチィに異変が起きた。
「ぐはっ……はぁ、はぁ…………」なんとミャンチィが口から血を吹き出したのだ。
「! お、お前……まさか、肺を…………!」
血を口から吹き出し、苦しそうに呼吸をするミャンチィを目の当たりにして、傷だらけで同じ様な症状を患っている
が、ミャンチィは間接剣を二人に向けて口から血を零しながら唱える。
「む、無用な情けはいらないわ……! 叔父に殺されかけ、夢を断たれた時から当時の私は既に死んでいるの……今の私は純粋に、破邪王の…………ジュンスのために腕を振るうただの軍師! 例えこの身が朽ち果てようと……命尽きるまで私は…………決して諦めない!」
既にミャンチィの体は限界に達していた。三次元人で元々戦闘能力が低かった彼女が受けた手術は、後に肺などの臓器に負担がかかり、薄命になってしまう副作用があるものだった。しかしミャンチィもそれを理解していた。そして己の命が尽き果てるまで破邪王に忠誠を誓い、共に理不尽な現実のない理想郷を築き上げようと心に決めていたのだ。
そんなミャンチィの覚悟を自然と理解した獄寺隼人と
「「うおりゃあああッ!!」」
二人の掛け声と迫る勢いに、ミャンチィも素早く反応し、間接剣を唸らせて挑み返す。
そして二人と一人はそれぞれ互い違いに入れ違い、双方共に背を向ける。
すると膝を着く隼人と
「ぐはっ……!!」
血を吐き出しながらも最後まで戦闘の態勢に身を入れるミャンチィは、間接剣を構えながら静かに唱えた。
「……やはり強いわね……人の生きる意志というもの…………夢を追う、輝きは…………」
夢を追い、懸命に生き続ける者の姿を命が絶える寸前で目撃したミャンチイは、最後にこう言い残して果てた。
「……私も、そんな輝きが……強さが、欲しかった…………!」
夢を追いかける力強さとその輝きを真に欲したかったミャンチィは、最後までその輝きを夢見ながら果てた。
そして命絶えた彼女の許に、ミャンチィを手に掛けた獄寺隼人と鴆の二人が歩み寄り、彼女の亡骸を見下ろしながら両名とも口を揃えて言った。
「「お前には、礼を言う」」
生きて夢を、生きて大切な人を守りたいという信条を教えられた隼人と鴆は、命が尽き果てたミャンチィに慈しみの言葉を掛ける。
そしてうつ伏せに倒れた彼女の体を起き上がらせ、仰向けに姿勢を整えると両腕を胸の上で組ませて彼女の安らかな死に顔を潤んだ瞳で見届けた。
友がため、己が夢のために最後まで生き抜こうとした少女ミャンチィ。
彼女も好んで、この修羅の道を歩んだ訳ではなかった。
両親から、叔父から、そして故郷の村人大勢から古いしきたりを理由に夢を断絶された経緯から今に至るのである。
しかし彼女から「友の、夢のために生きる強さ」を教えられた獄寺隼人と
[猛進する鬼神]
一方その頃、無線で兵士からミャンチィの絶命を聞き入れた破邪王は、静かにミャンチィの死を嘆いていた。
「ミャンチィ……お前の夢、我が果たしてみせようぞ」
共に理不尽な世界を払拭するべく、絶対的な武力で全ての異世界を統一しようと理想を掲げたミャンチィに破邪王は弔いの言葉を投げ掛ける。
同じ頃、もはや耳元に装着している無線など使用するのも忘れて、単身新世城奥へと突き進む修司がいた。
「援護砲準備完了! 撃て、撃てェ!」
同じ頃、SRMが準備していた自動追尾システム式支援砲がようやく起動され、進撃する修司の先方にいる敵兵士に向けて砲撃が開始された。
「覚悟を決めよ! 突撃あるのみ!」
進撃を支援する砲撃に対して破邪王は兵士達に覚悟を決めて突撃するよう指示。これに破邪王の熱弁に陶酔している兵士達は素直に聞き入れ、砲撃をもろともせず修司へと攻撃を仕掛ける。
だが修司は突っ込まれてくる槍の柄の部分を空いている左手で掴むと引き寄せて相手兵士を聖龍剣で貫く。
また自分に向けて放たれる銃弾を聖龍剣で防ぎ、接近して兵士達の首を断頭していく。
「俺達ならやれる! 確信はねえけど!」自分達なら鬼神すら倒せると自らに言い聞かせる兵士。
しかも此処で小田原修司は援軍に駆けつけた新世軍の部隊を悉く斬り捨てて全滅させてしまう。
「なんと……! 援軍を断たれたか……!」「たった一人を相手に、何たる様だ!」
頼りにしていた援軍が断たれ、たった一人の敵に対して無様を晒す戦況に上官兵が嘆く。
「皆の者、恐れるな! 奴も人の子ぞ!」
鬼神とて人の子と兵士達に呼びかける上官兵であるが、最早この時の小田原修司は常軌を逸しており完全に人の状態ではなかった。
「黄泉の国にて……待っておるぞ!」修司に斬り捨てられた兵士が絶命寸前で言い残す。
勢いづく修司の猛進に、兵士達は戸惑い、そして完膚なきまでに斬り捨てられていく。
「潰されたところで痛くも痒くもなし!」
雑兵がいくら消えた所で、大軍を仕切る新世軍にとっては大した痛手ではないと豪語する破邪王。
実際、どんなに兵力が削られようとも新世軍の兵士達は冷静に進撃する修司に対処しようとしていた。
「うろたえるな! 勝てればよかろうなのだ!」
どんな手段を取ろうとも、最後に勝てれば全ては良しとする上官兵。
「破邪王様の目的はアジアにあらず……その先よ!」
主君である破邪王の真の目的はアジア統一のみでなく、全ての世界を統一する事と唱える兵士。
「破邪王様と共に、世界の行く末を見たかった……」
そして修司に斬り捨てられながらも、主君が君臨した世の中を見たかったと最後に事切れる兵士も確認された。
猛進する修司の前に、数多の敵兵と頑なに閉ざされた門が立ち塞がる。
兵士は抜刀術で素早く対処していく修司であったが、門扉までは早々に辿り着けなかった。
すると此処で聖龍隊本陣にて待機していたSRMの面々が主砲を起動させた。
「目標、新世城! 撃てーーーーッ!」
主砲から放たれた砲弾は見事に修司の目前に立ち塞がる門扉を破壊し、砲撃は成功と相成った。
「ジュンス、俺がお前の目を覚まさせてやる!」
修司は荒ぶる感情のまま突撃し、主砲で大破した城内に君臨する破邪王の許へと突き進む。
主砲で大破し、壁や床だけでなく天井までも吹き飛び、青空が目視できるほど破損した城内最深部へと辿り付いた修司の眼前には、かつての友であるキム・ジュンス、いいや、破邪王が聳え立ってた。
三メートル級の体躯で静かに仁王立ちする破邪王は、やって来た修司に背中を向けていた。敵に背中を向けるとは大胆不敵に思えるだろうが、それは破邪王が修司が後ろから不意打ちをする様な小賢しい真似をする人間とは思っていなかったからかもしれない。
そして背を向ける破邪王に歩み寄る修司は、静かに佇む破邪王にこれまた静かに口を開いて問い質した。
「ジュンス、なんで小母さんを……実の母親を殺した? あんなに仲が良かったってのに……!」
すると破邪王は仁王立ちのまま、腕を組んだりして真情を語った。
「そう、我は母に……あの腐敗した親族に頼り切ってしまってた。故に、己の人生を一人の弱輩なる悪しき女とその一族に狂わされた……! 母は我を真に愛してくれた。だが愛は弱さを生む。それは修司、貴様も解っている筈だ……!!」
「………………………………」
修司も武人ゆえに、愛といった感情が時には強さの妨げになる事は重々承知していた。故に返す言葉がスグには見付からなかった。
「我は頂点に立つ男」破邪王は修司に背を向けて語り続ける。「我が覇道に、弱さなど認めぬ!」「だから殺したのか!」修司が問い詰めると、破邪王は大岩の如き拳を振り翳して答え返した。
「そうよ、この手で葬った。我が弱みとなり、共に滅びる前にな……!」
これを聞いた修司の頭は、完全に血の気が頭に上った。
「ジュンスーーーーッ!!」
修司は聖龍剣を逆手に握り締める右手で破邪王に殴り掛かる。すると破邪王も己の拳で応えるかのごとく、右拳で殴りかかる。両者の拳はぶつかり合い、激しい衝撃波が当たりに広がる。
「ジュンス、本当に大切なものが何なのか思い出させてやる!」
「過去は何も生み出さぬ! お前にもそれを分からせてやろう!」
修司と破邪王、二人の激しい闘いが此処に勃発した。
「見るべきは未来、それだけよ!」
「大切なのは未来だけじゃねえ! 生きてきた全てが大切なもんだ!」
破邪王が振るわれる人一人握り潰せるかのごとき巨大な拳に対し、修司は並の拳と聖龍剣だけで応戦する。
本来は小柄な修司が殴り合いでも力でも負けてしまうが、修司自身も並々ならぬ鍛錬と米軍在籍の頃に投与されたD-ワクチンの影響で筋力が通常よりも増強されている事で、破邪王と互角の闘いが展開できていた。
[対極 鬼神と破邪王]
しかし此処で修司の聖龍剣が破邪王の巨大な拳に弾かれてしまい、修司は一瞬ばかし戸惑ってしまう。その隙を突いて破邪王はがら空きになった修司の上半身を両手で鷲掴み、そのまま空中に跳び上がって素早く修司を逆様にするとパイル=ドライバーの要領で修司を真下の床に叩き付けた。
「この世界が為に……!」「ぐはッ」
一瞬で木の板が張り巡らされた床に叩きつけられた修司は、脳天から叩き付けられた衝撃だけでなく落下の衝撃で大破した板の破片が体に突き刺さるという痛感にも襲われる。
そして脳天から叩き付けられ、更に全身を木の破片が突き刺さった何とも痛々しい姿に成り果てた修司を目視して、破邪王は呟いた。
「終わった……」
そう呟き終わると、破邪王はこう言い残してその場を立ち去ろうとする。
「さらばだ………………
破邪王が立ち去ろうとした、その時。
修司の全身に突き刺さる無数の木の破片が音を発した。その気配に破邪王も歩みかかる足を止まらせ、ふと後ろを振り返る。
すると振り返った破邪王は無表情のまま見開いて驚愕した。全身を無数の木の破片が突き刺さり、完全に息の根を終わらせたと思われた小田原修司が血塗れで立ち上がっていたのだ。
一驚する破邪王を前に、修司は全身から破片が突き刺さっている箇所から夥しいほどの血を噴き出させながらも朦朧とする意識をどうにか保ちながら己の能力を発動させる。
「
なんと修司は全身を闇の能力で黒く覆い、闇の力で自分の体に突き刺さる無数の木片を吸収、それを一気に闇と共に開放して放出する事で全身に突き刺さる木片を一片も残さずに体から覗いたのだ。
「はぁ……はぁ……」
しかし全身を襲う苦痛のみは除けられず、修司の疲労も蓄積されていた。
「じゅ、ジュンス……まだ終わっちゃいないぜ……」
修司は朦朧とする意識を奮い立たせるかのごとく破邪王に呟く。
すると破邪王は満身創痍の修司に冷徹な眼差しで言葉を掛ける。
「我の見据える未来……修司よ、お前は居ない」「へへへ……猿山の頂き如きで何をほざく……?」
自分が思い描く未来に修司はいないと説く破邪王の言い分に、修司は強がってみせる。
そんな諦めの悪い修司を前に、破邪王は修司に語りかける。
「まだ分からぬようだな……この世界に何が必要かを。本音を言えば修司よ、少しはお前を買っていたのだがな」
「笑止……咎人の称賛など要らぬ!」
親殺しの人喰いの罪人に落ちぶれた破邪王の賞賛など要らぬと説き返す修司に、破邪王は修司たち聖龍隊への真意を述べ始めた。
「ソンヒたち黒衣衆にテロを起こされてもまだ分からぬか。お前がこの世界をまとめる事は不可能なのだ!」
「………………………………」
「フフ……修司よ、お前達のやり方は時代遅れなのだ」
「だからどうした…………聖龍隊の意志は永劫よ」
例え自分には世界を治める器でなくとも、聖龍隊のやり方が時代遅れであろうとも、健全な聖龍隊の意志は未来永劫であると破邪王に説く修司。
そうこうしている内に修司は再び近くに突き刺さっていた聖龍剣を逆手に握り、破邪王へ戦いを挑もうと突っ込んでいく。
「こうして争う今も、世界は激動している。民も世界も、強靭であらねばならぬ!」
「笑止! 民草は穏やかに生い茂っておればよい」
逆手で握られる修司の拳から放たれる一撃を、同じく拳で受け止める破邪王の格言に修司は人民は穏やかに平和な時を過ごせていればよいと唱える。
そんな鬼神と畏れられる修司の必死の反撃を全身で受け止めつつ、破邪王は満身創痍の修司に拳を振るい続ける。
「時代の徒花よ、狂い咲きも今日までだ!」
修司を時代の徒花と捉える破邪王の言い分に修司は何も言い返す事はなく、ひたすらに刀を振るう。
「お前はこの世界を疲弊させる、まさに全てを喰らう鬼神よ。来い! 我が貴様の時代を終わらせてやろう」
「終わらせはしねえ……聖龍隊の歴史だけは、決して終わらせねえ!!」
「フン、どんなに屈強と称えられる聖龍隊でも、所詮は罅だらけの一枚岩! それをお前という
自分の時代が終わりを迎えようと聖龍隊の歴史だけは死守して見せようと意気込む修司に、破邪王は所詮聖龍隊はヒビだらけの一枚岩で、修司という繋ぎがなくなれば容易く分裂するであろうと反論する。
いつしか修司だけでなく、修司の必死の猛攻を受け続ける破邪王も満身創痍となっていた。
そんな互いに疲労が蓄積される現状で、修司が破邪王に強く問うた。
「覚えているか、ジュンス……! お前の隣で、由奈が笑っていた事を!」
かつて恋仲であった由奈が隣で微笑んでいた昔を語り始める修司に、破邪王は呆れ果てながらも突っ返す。
「感傷にふけるとは……鬼の名が泣くぞ、修司!」
すると修司は自分の真意を破邪王にぶつけた。
「人ってのは誰かに愛されてこそ強くなれる! 俺は仲間達と会って、それを知った!」
愛を感じられない障害を持つ修司は、愛を唱える仲間との出会いで愛の尊さを知り、それを破邪王に説こうとする。
しかし破邪王は強い面魂で修司を巨大な拳で殴り付ける。
「それこそお前が真の愛を知らぬからだ! 愛が見せる己の弱さを知らぬからだ!」
人は真の愛を知ってこそ弱くなってしまうと説き返す破邪王の言い分に、同じく強さを求め続ける修司は何も言い返すことができなかった。
しかし修司は意を決して破邪王に語った。
「……忘れちゃいけねえんだ」
「………………?」
「忘れちゃいけねえんだ! 過去で自分と触れ合った人々の、そして自分が経験したこと全てが力となる! 俺は……そう信じる」
過去を忘れないからこそ、人はその過去を背負い強く成長できると説く修司の話に、破邪王は静かなる眼差しで言い放った。
「過去を背負いし者と背負わざる者……どちらが時代に選ばれし強者か、ここで決めようぞ!」
過去を忘れず、過去を背負い続けて
より一層激しく拳と拳、刀と拳で鬩ぎ合う修司と破邪王。二人の戦いは天地を揺るがすほどにまで、その激しさを増していた。
「ただイタズラに民を武力で脅かす政治……そんなもの、百害あって一利なし!」
「それこそ笑止千万……弱者の戯言よ」
武力のみで人々を導くのは間違いであると説く修司に対し、それは弱者の迷い事と己の思想を変えない破邪王。
破邪王は修司の聖龍剣を鋼鉄並みに硬い籠手で防ぎながら言い放つ。
「唯一無二! 頂点は常に我一人よ!」
世界の頂点に立つのは己自身と自信満々に言い放つ破邪王に、修司は絶えず刀を振り付ける。
「我が道の先にこそ泰平なる世界がある!」「是非も無し! 残るは己が覇道のみか!」
己が行く道の先にこそ泰平で平和な世があると自負する破邪王の発言に対し、修司はその道に残るのは武力のみで全てを支配する破邪王の覇道のみと問い返す。
互いに一歩も退かない激闘の中で、修司は破邪王に改めて問うた。
「これがお前の強さか……? 大切なものを捨ててまで手に入れた強さなのか!」
己の両親を、親族を殺め、肉体を改造してまで手に入れた強さに疑問をぶつける修司に、破邪王はキッパリと答え返す。
「そうだ、我は進む! この強さと共に!」
そして破邪王は再び修司をパイルドライバーに酷似した技で掴みかかり、今度こそ息の根を止めようと駆け出した。
「これ以上、お前にくれてやる時間はない。さらばだ修司……我が最後の過去!」
しかし修司はこれを横に回避。無防備と化している破邪王の左側面を聖龍剣で斬り付けて、連続攻撃を仕掛ける。
「ぐおッ!」
左肩から左上腕筋を斬り付けられた破邪王は激しく悶絶。だが修司の猛攻は止まらず、今度は素早く立ち位置を変えて真正面から破邪王を斬り付けようと跳躍した。
「うおおおおおおッ!!」
168cmほどの修司が三メートル級の破邪王に跳びかかり、破邪王の脳天を狙いつける。
そして修司が振り下ろした聖龍剣は、破邪王の頭部に直撃し、頭部を叩き切られた破邪王の頭部傷口からは一気に血が噴き出した。
「うおおお…………ッ!!」
頭部を真正面から叩き切られた破邪王に、修司は更に小柄な体格を生かして破邪王の懐に入り、思いっきり聖龍剣を突き刺してトドメを刺した。
破邪王は、頭部と腹部の傷口から血を噴き出しながらその場に両膝を着く。
破邪王との決着がついた修司は、悲しげな面立ちで膝を着く破邪王に目を向けた。
[なつかしき日々]
血の海に沈む破邪王を見据えて、修司が言葉を掛ける。
「…………ジュンス、覚えているか。……桜のことを」
「さくら、か……」
修司から問われた破邪王も当時のことを、崩落した天井から覗く青空を見上げながら走馬灯の様に思い返し始めた。
「どっこいしょっと。いや~~疲れた疲れた、お茶が美味いべぇ」
「って、農民か!」
「おっ、お前もノリツッコミができる様になったじゃねえか」
草臥れた様子で腰を下ろす修司に思わずノリツッコミを入れるジュンス。
「……修司、今日はありがとう。お陰で少しは気がまぎれたよ」
「へへ、ここならいつ来てもいい気分転換にはなるぜ。また苗木なら俺が買っておくからよ」
楽しげに会話する二人。ジュンスが心労で鬱を患い、闘病生活を送る中も、献身的に通院して励ましてきた修司は時おりジュンスを外に連れ出して気分を晴れやかにさせようと色々な活動をさせていた。
「だけど、ゴビ砂漠の一角に植樹活動を率先して行う活動があるとは……」
「昔、とある夫婦が始めたのが切っ掛けらしい。温暖化の影響でゴビ砂漠の面積も年々広がる一方だしな」
今回の植樹活動による緑化運動参加に、ジュンスはこの様な活動が行われていた実績を始めて知り、修司はその切っ掛けがとある夫婦が始めた事だと述べる。
すると此処で、ジュンスが気になっていたとある事を修司に訊ねた。
「なあ、修司」「ん、なんだい」
お茶を飲みながら一服する修司が返答すると、ジュンスは続けて訊ねた。
「なんで君は、植樹する苗木として桜の木を選んだんだい? もっと砂漠化した土地に適応する強い苗木でも良かったってのに……」
ジュンスは何ゆえ修司が購入して、今回一緒に植樹した苗木が桜の木なのか訊ねると、修司は遠くを見詰めながらあっけらかんと答えた。
「それはだな、要するに………………俺の意地ってもんよ」「意地?」
戸惑うジュンスに、修司は立ち上がると徐に語りだした。
「ジュンス、俺の国、日本が今まで色んな戦争という人災や自然災害に苛まれているのは知っているよな。そんな激動の時代を歩んできた日本に絶えず残り続ける桜の木……俺は、この桜の木に大和魂を見出しているんだ?」
「大和魂?」
「そう、どんな人災や天災に見舞われようとも決して枯れる事なく毎年咲き誇る桜の木は……まさしく決して諦めない大和魂の象徴だと俺は思っている!」
「は、はあ……」
どんな災害に対しても決して途絶える事無く毎年咲き誇る桜の木を、決して諦めない大和魂の象徴だと自負する修司は更に語り続ける。
「俺はだな、ジュンス……今でも、こうして話している間にも多くの国や人種がつまらねぇ事で争い続け、更には傷付けあう現状が居た堪れないのよ。それでも、いつかきっと全ての人々が理解し合い、平和な世の中になってくれるまで諦めない精神を桜の木を通じて世界中の人々と共有したいんだ」
「共有……」
「他にはだな、どんな災害にも堪えうる桜は、どんな苦難を乗り越えても毎年咲き誇る平和の象徴だと思ってる! 毎年咲き誇る桜の木のように、人々もいつか毎年変わらぬ平和を共に噛み締められれば良いと俺は願っている……いつの日か、桜の木の下で種族や宗教問わず楽しく宴を披露できればなと」
「………………………………」
世界中の人々が理解し合い、共に桜の木の下で楽しく過ごせる日が来るのを望んでいる修司の願望を聞いて、ジュンスはその壮大さに茫然となってしまう。
だが、そんなジュンスに苦笑いを向けて修司は話を締めくくった。
「ま、まぁ……今までの話は単なる建前さ。本当は国樹でもある自慢の桜の木を、世界中で埋め尽くしたいなと幼げな夢を抱いているのよ。武力や紛争よりも、桜の木で世界を埋め尽くす方がよっぽど平和的だろ?」
「! ははっ、違いないね」
しかし修司の真意は母国日本の国樹でもある桜の木を世界中で埋め尽くしたいとい言う幼稚な夢であると唱える修司の主張に、ジュンスは思わず笑ってしまう。
そんな過去の桜の木での一間を思い返した二人。
当時の事を思い返しながら、修司は友であった破邪王に刃を向けた。
「ジュンス…………昔のお前に、もう一度会いたかった……」
修司は非常に残念でならなかった。本当は友として破邪王の目を覚まさせようと奮闘したが、既にジュンスは破邪王として日本を含むアジア統一を成した後には、太平洋を横断して世界最大の国家を支配しようとするまで野心を膨らませていた。
そんな友であった破邪王を、咎人としててはなく友として最後を迎えさせようと修司は彼の首に刃を置く。放置しても後々、裁判で極刑が言い渡されるのは明白だからだ。
すると破邪王は、そんな修司の真意を汲み取ってか彼に質問をぶつけた。
「友よ……桜は…………咲いてるか……?」「………………」
かつて自分達が協力し合って植樹した桜の木が咲いているかを問われた修司は、静かに破邪王に言った。
「……さあな。ちょうど日本の震災で忙しかったから俺たちの桜の木がどうなっているか、また見てはいねえ」
「………………」
「だけどよジュンス。例え今年咲かなくとも、また来年、来年が駄目でも再来年と……必ず桜の花が咲く時が来る。そう、平和の時が必ず訪れるように……」
不運にも東関東大震災の復興活動にて多忙だったため植樹した桜の木を見ることができずにいた修司は、破邪王に例え今年咲かなくともいつの日か平和な日が訪れるように必ず桜の花は咲き誇ると切迫した表情を浮かべて刃を掲げた。
死の間際、破邪王は今までの自分の行いを走馬灯の様に思い返しながら呟いた。
「ミャンチィよ、次は何処を目指そうか……」
破邪王となり、それでも自分の理想に付き合ってくれたミャンチィの事を思い返しながら、破邪王の首に修司の刃が振り下ろされた。破邪王も愚かではない、おそらくミャンチィの自分への気持ちを察していたのだろう。だが破邪王と名乗り、愛を弱さだと掲げた彼にとって、ミャンチィとの愛は決して触れては成らない事柄なのだと自負していたのだ。
そして修司が刃を振り下ろした瞬間、二人の頭上の空雲が衝撃を受けて綺麗な円形状の青空がぽっかりと口を開いた。
「っ!」
丸く青空が広がった際の衝撃波を感じ取り、急ぎ修司と破邪王の許に馳せ参じようとしていたミラーガールたち聖龍HEADは一瞬驚き立ち止まるが、すぐに異変を察知して駆け足で石段を上っていく。
HEADがようやく修司と破邪王が激しい決闘を繰り広げていた大広間に辿り着くと、すぐ眼前に修司が胡坐を掻いて座り込んでいた。
「し、修司……」ミラーガールが駆け寄るが、修司は無言のまま胡坐を掻き続けたまま。
と、修司に駆け寄ったミラーガールを含む聖龍HEADは、修司に近付いた時ようやく気付いた。
修司の眼前に聳える破邪王、その首から上が完全に断頭されていた事を。そして座り込む修司の前には、自らの手で断頭した破邪王の頭が置かれていた。
血塗れになりながらも、同じく血塗れの友であった男の首を前に、修司は無言の面差しで友であった男の首を見下ろしていた。
「……修司……っ」
やむを得なかったとはいえ、友の暴走を止めるため友を自らの手で葬った修司の心中を察してミラーガールが血だらけの修司を自らの許へ抱き寄せる。
すると自然と強張っていた修司の表情も緩み、同時に全身に張り詰めていた力が抜けていく様に自然とミラーガールに体を預ける修司。
そこに副長であるメタルバードが疲労困憊の修司に歩み寄り、そっと声をかける。
「修司、戦争は終わった。終わったんだ……」
これを聞き、修司は呟く様にメタルバードへと言い返した。
「……ば、バーンズ……お前が、言え。お前が、宣言してくれ…………」
そう呟くと修司は静かに瞼を閉じて眠りに就いた。
修司の言葉を承って、メタルバードは戦場に響くように大声で天に向かって叫んだ。
「戦争は……終わったぁッ!!」
このメタルバードの戦争終了宣言を聞き、戦場で活躍していた聖龍隊やその同盟軍は大いに喜んだ。
だがその反面、自分達の理想を叶えたいと切実に願い、それを叶えようと万進する破邪王とミャンチィ、そして先立っていった二人の武将の死を聖龍HEADは一生忘れなかった。
理不尽な現実に叩きのめされ、それでも這い上がりたいと願った二人の男女は、共に身内を殺めるという暴挙に出た。
既に暴挙に乗り出た二人は後戻りができず、涙を零そうとも既に涙は枯れ果てていた。
運命に翻弄されながらも、己の理想や夢を叶えようと突き進んだ二人。
積み重ねてきた力と時間のすべてで、そんな二人の暴挙を止めた聖龍隊。
双方共に間違いは無かったのかもしれない。
弱さを強さに変え、心のままに戦い抜いた両軍。
戦いに戸惑いは要らない、運命の扉を自らの手で切り開くのみ。
だが己の弱さを知っている者だからこそ、前へと踏み出せる強さがあるのかもしれない。
そんな己の信念と力強さを兼ね備えた者に、人々は祈りを捧げ奉らん。
譲れない想いが両者にあった。そしてその想いは未来へと受け継がれる。
聖龍隊はその後、破邪王とミャンチィを含む四人の将を弔い、彼らの魂が天に昇るように祈った。
特に村田順一はヤン・ミィチェンを、聖龍HEADの女性達と赤塚組は当時の台湾軍総大将モウ・チェイファンを、そして獄寺隼人と
全ては小田原修司が、破邪王との決戦で疲労し、満身創痍になった体を癒している間に執り行われた葬儀であった。
[未来への遺産]
――――以上の全てをバーンズは新たなる世代の二次元人たちに語った。
宗教による夢の断絶、そして理不尽な現実により運命を狂わされた男女の悲しき物語。
友がために生き抜き戦い続ける一人の少女と、理不尽で最弱な世の中を払拭するべく立ち上がった一人の青年。そんな二人を制止しようと戦いを挑んだ鬼神の物語に、誰もが胸を熱くさせた。
「………………………………」
「……な、なんて話なんだ……!」
バーンズが語った話を聴いて、茫然と立ち尽くす二次元人たちの中から新世代型の出雲ハルキが圧迫した想いを吐き出すように口から言葉を発した。
そして語り終わったバーンズは、当時を振り返りながら更に二次元人達に話した。
「少女は夢を絶たれたが為に……男は真に愛する女と添い遂げられず、運命を翻弄されたが為に……起こった一件さ。無論、この一件はアジア大戦の一角に過ぎない話だが、旧友をこの手で葬った修司にとっちゃ忘れがたい出来事よ」
「……小田原修司は、キム・ジュンスを罪人として死なせないために自らの手で彼の生涯に幕を下ろしたんですか」
新世代型の蓮城寺べるが真に迫った面差しで問い掛けると、バーンズはその答えを返した。
「ああ、直接手を下さずとも……裁判じゃジュンスは死刑とかの極刑に値していただろうしな。友を罪人として死なすより、武人として殺める道を修司は選択したんだ」
罪人ではなく武人として死なす決定を即座に下した修司の気持ちを考えると、胸が締め付けられる想いに至る二次元人達。それは一般の二次元人達だけでなく、当時まだ聖龍隊に在籍していなかった新人達も初めて知る知識だった。
運命に翻弄されたキム・ジュンスこと破邪王と小田原修司の決闘の末を想い、心苦しい心境に至る二次元人たちは宗教の問題によって夢を絶たれたミャンチィにも同情の意を示す。
「私、ううん、私たち何だか解る気がする。ミャンチィって女の子の気持ち……夢を追いたくても、それを許してもらえなかったなんて…………」
福原あん達【プリティーリズム・レインボーライフ】の面々は、宗教というしきたりによって夢を絶たれてしまった少女ミャンチィの悲しい現実を知って悲痛な衝撃を受ける。
そんな福原あん達にバーンズは語った。
「今やカースト制度は完全に女性差別の象徴として撤廃されている悪習だ……少し遅かった気もするが」
家族だけでなく故郷である村そのものを焼打ちに至ったミャンチィの悲劇が起こる前に正されるべきだったカースト制度に、バーンズは憤りを感じながら語る。
そしてバーンズは、まだ修司とキム・ジュンスが仲良かった頃に植えられたという桜の苗木を見詰めながら語り明かす。
「あれ以降、修司がジュンスと植えたこの桜の木の話が自然と出回ってな……以来、この辺り一帯の緑化運動は活発化し、いつの間にか此処は二度とアジア大戦が起こらないようにと平和公園に認定されたんだ」
バーンズは桜の木を見詰めながら姿勢を低くすると、空しそうに口を開いた。
「まあ、また戦争が勃発しちまったけどよ。でも、オレもみんなも……そして世界の何処かにいる修司も、二年前の乱世を決して忘れないだろう。確かに破邪王は人を喰らってしまった畜生だし、ミャンチィも故郷を焼き払った暴挙に出てしまった。けれど二人の武将の志……掲げた理想もオレ達は決して忘れない、忘れちゃいけねえんだ! 泰平な世界、平和な世の中……やり方は間違っていたが、二人の戦界武将の志と想いは忘れちゃいけねえのよ」
武力で全てを統一するやり方は間違いであったと指摘するものの、破邪王とミャンチィが掲げた理想だけは決して忘れてはならないと何度も語り尽くすバーンズ。彼の一言一句に一般の二次元人たちは想いを馳せる。
己が理想を、信念を貫き通し、戦い続けた二人の武将に二次元人たちは賞賛にも似た気持ちが湧き上がる。
そして新世代型や聖龍隊の新人達と同じく、小田原修司と破邪王の昔話を始めて耳にしたシバ・カァチェンも驚きの声を発した。
「人喰い破邪王……彼と鬼神の間に、そのような逸話があったとは耳にもしておりませんでした……」
驚く様子のカァチェンに、バーンズは破邪王の当時に話を付け足す。
「奴が人を喰らうのも、人の弱きを喰らって強くなるという……ちぃっと狂った思想を抱くようになっちまったからな」
バーンズの話に対し、カァチェンは顔を上げて答え返した。
「……ですが、私には彼らの様に強い志を持つ事が叶わない人間も世にはいます……その点、敗れ去ったとはいえ彼らは幸福だったのでしょう」
これを聞いたバーンズは、腕を組んで「そうそう」と言った様な顔で語った。
「まあ、確かにな。二人は生きる目的……生きる希望を奪われた事で、力を欲する様になっちまったからな。修司も武人として、力を欲する気持ちは重々理解していたけど複雑だったみたいだしな。でもよカァチェン、お前もその気になれば生きる活力……夢ってのが持てるとオレは思うぜ。誰だって夢を抱いて良いんだ、夢を抱くこと自体は悪い事じゃない」
バーンズの温情が感じられる話に対しても、カァチェンは薄暗い表情で答えた。
「……しかし、私には世界を変えられるほどの野心や夢を抱けるような思想は……」
自分には破邪王や小田原修司の様な、壮大な野心や夢は抱けないと告げるカァチェン。それにバーンズは明るい笑顔で、こう答え返した。
「! なあにも世界を変えるとか、救うとか、そんな野暮な事は言いっこなし! 大事なのは一歩前へと踏み出す、その勇気が大事なんだよ」
「勇気が、大事……」
大切なのは前へと踏み出す勇気と伝えられたカァチェンは考えさせられた。
そしてバーンズから伝えられたカァチェンへの一言一句を聞いて、新世代型二次元人達も改めて考え始めた。
繰り返される争いの日々、理不尽な現実。
想いを詠えど夢は霞み、魂の声は誰にも届かず。
無情な向かい風のみが幾度となく吹きつける。
孤独を心の底から味わい、胸の痛みだけが疼き続ける。
夢への高鳴る鼓動を抑えられず、未だ見えぬ明日を心のままに変えていきたかった。
何度も傷つき、走り抜けても飛び立てぬ地上の鳥の如く、地面の上でただ終わりを迎えるだけの日々。
けれどいつの日か華が咲くことを信じて邁進する幾多の思想。
誰もが一筋の光射す暗闇の果てを目指し、現状を彷徨える魂の影と成り果てん。
終わる事のない旅路の果てに、生きる意味を知った少女。
胸に抱いた一つの愛を抑えつつ、今を守り抜く。
誰にも解らない未来を乗り越えていき、君とならば美しく散る時も最後まで見届けよう。
例え最後に散ってしまえど、その最期の時も見放さず見届けようとお互いに信頼し合った破邪王とミャンチィ。
総大将と軍師である知将、違えはあれど想いは同じ。
男と女、二次元人と三次元人の垣根を越えて果たせず散った両者の理想。
運命を狂わされ、追い詰められたが故の暴挙に誰もがその真意を知って説き返す事などできなかった。
するとその時、破邪王とミャンチィを襲った無情な世間の波風の如く、冷たい風が吹き付けてきた。
「うう、寒っ。少し冷えてきたかな」
両肩を思わず抱き締めてしまうバーンズは、冷えてきた現状に二次元人達へと声をかける。
「――――以上がオレがみんなに話したかった二年前の乱世での出来事だ。他にも聞きたい事があったら遠慮なく聞いてくれ。おい新人、お前達もなにか関心が湧いた事があったら聞いても良いぞ。……聖龍隊にとっちゃ、二年前の乱世は知っておかなきゃならない教訓みたいなもんだしな」
そういうとバーンズは足を進め出し、その場を後にしようとする。
バーンズに続いて聖龍HEADに赤塚組、そしてルーキーズの新人達も移動しようと歩き出し、それに付いて行く形で一般の二次元人達も足を前へと踏み出そうとした。
と、その時。
再び新世代型二次元人の脳裏に、今度は静かに穏やかにフラッシュバックが起こった。
優雅に舞い散る豪華絢爛な満開の桜の木々。その木の許で楽しげに宴を披露する、今まで新世代型たちが出会った事のある戦界武将たち。
そんな楽しげに桜を満喫する武人たちを眺めて、記憶の者は茶を一杯グイッと飲み干す。そして再び満開の桜の許で楽しく宴を開く武将たちを見据える記憶。
「…………琴浦さん……琴浦さん!」「っ!」
と、此処で新世代型たちはプロト世代の黒鳥千代子の呼びかけにようやく反応する琴浦春香と共鳴した事で抜けていた気が元に戻る。
「どうしたんだい真鍋? またアンタたち、ぼーーっとして」
同じくプロト世代のギュービッドも呆然と立ち尽くしていた真鍋義久ら気の合う友に話し掛け、正気を取り戻させる。
チョコ達の呼びかけにようやく気を取り戻した新世代型たちは急いで先に行ってしまったバーンズ達を追いかける。
人々が平和の象徴と唱える、未来への遺産。
悲しき鬼神と破邪王、小田原修司とキム・ジュンスが植えたとされる桜の木を後にして。
まだ芽吹く事もない桜の葉は、風にあおられ、なびいていた。
[アレンジ武将]
破邪王(本名:キム・ジュンス)
所属:新世軍総大将
出身:二次元界 韓国
武器:籠手
肩書:裂武覇帝(れっぶはてい)
登場時の書き文字:出陣
一人称:我(ジュンスの頃は僕)
属性:光
韓国の財閥御曹司だったキム・ジュンスは、悪女であるソンヒ(現在の黒衣衆、損尼)の一族の謀略で結婚させられてしまう。
後に小田原修司の紹介により、二次元界でも有数の狙撃手であるG13を雇ってソンヒの一族を没落させることに成功。しかし心労がたたって鬱病を患ってしまう。
そんな闘病生活の中でも頻繁に修司と交流を続けていたのだが、ある日、修司が傍若無人な悪人たちを斬り捨てているところを目の当たりにして、世界にはより多くの変えねばならない現状がある事を痛感する。
その後ジュンスは過去の隔たりを全て断ち切るため、両親を含む自分の身内を全員ショットガンで射殺する暴挙に出てしまう。
それからジュンスは革命軍士によって肉体を改造され、三メートル級の屈強な大男へと変貌し、自らを破邪王と名乗り挙げ、偶然にも黒衣衆が起こしたアジア同時多発テロによってアジアへ名乗りを上げて当時の韓国大統領を殺害し、その肉を喰らうという尋常ならざる行為に移る。(これには邪悪な存在を己の中で浄化するという意味合いが込められている)
そして最終的には北の国の残党軍総大将ヤン・ミィチェン、台湾の完全独立を計る智将モウ・チェイファンを筆頭に新世連合軍を結成。聖龍隊の連合軍と激突する。
しかしモウ・チェイファンの北の国への謀略、そして軍師ミャンチィの謀を成し得て最終的に残った破邪王を旧友である小田原修司が討ち取り、アジア大戦には一時的ながらもその幕を下ろす事が叶った。
中国のゴビ砂漠付近に植えられた桜の苗木は、まだ修司と破邪王が仲の良かった頃に植えられたもので、人々はアジア大戦の傷跡を忘れないため、そして平和の象徴として付近にも多くの桜の苗木を植樹する緑化活動が今でも行われている。
ミャンチィ
所属:新世軍 参謀
出身:三次元界東南アジア
武器:関節剣
肩書:美烈瞬躙(びれつしゅんりん)
登場時の書き文字:着手
一人称:私
属性:闇
極普通の美少女だったミャンチィはアイドルという夢を追っていた。が、両親や住んでいる村の宗教(カースト制度)により周囲から反対され、危うく殺されかけそうにも成る。
最終的に心優しかった彼女の人格を変貌させてしまったのは、実の叔父が彼女を殺害しようと警察に捕まり、それによりアイドルへの夢も絶たれてしまった経緯から。
彼女は宗教によって夢を断念さぜるを得ない現状に絶望し、革命軍士に接触。自らの体を改造してもらい、俊敏な動きが取れる様にまで至る。
そしてアジア多発テロの混乱の最中、自分の夢を絶たせた両親や故郷の村を自らが指揮する革命軍士の手により全て焼き払い、過去と決別する。
それから彼女は同じ志を持つ破邪王と出会い、共に腐敗した世の中を変革する為に彼の指揮下に降る。
参謀としての能力は非常に高く、褐色肌に露出度の高い衣装で兵士の士気を自ら向上させるといった役目も担った。元々、宗教によって女子は露出を控える様にという決まり事からできなかった鬱憤を晴らす為に率先してやっていたと思われる。
しかし「友のために命は無駄に投げ捨てない」という強い意志を持っており、無駄に人命を消費させる真似だけはしなかった。この考えが聖龍隊の獄寺隼人や
そして最後は「主の為に死ぬではなく、生き抜く覚悟」を持った獄寺隼人や鴆の二名と決戦し、夢を追う事の素晴らしさや輝きを欲したかったという切願を唱えながら果てる。
元々、彼女が受けた人体改造術は彼女自身の寿命を縮めてしまう副作用があり、元から薄命であったといわれている。