現政奉還記 武将達との会合編   作:セイントドラゴン・レジェンド

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現政奉還記 アジア諸国巡行編 純粋なる欲望

[世界最大の建造物にて]

 

 聖龍隊総長バーンズにより、二年前のアジア大戦で暗躍した破邪王とミャンチィ、そして小田原修司の葛藤を聴いた二次元人たち。

 運命に翻弄された悲しき二人の男女の顛末を聞いた一行は、一路歩を進めとある建造物へと足を運ぶ。

 それは世界最大の建造物と名高き「万里の長城」であった。

 聖龍隊一行は、その万里の長城の付近に展開する土産物市場へと赴いていた。

 

「うわぁ、この髪飾りステキ!」「このお土産、見たことないな」

 物珍しい中国の土産物を眺め、新世代型たちは喜々とした笑顔で閲覧していた。

「お前たち……少しは遠慮してくれよ。オレの自腹なんだからよ」

 そんな新世代型たちを見て、バーンズが愚痴を零す。

 そもそも新世代型を含む一般の二次元人たちを土産物市場に連れてきたのは彼なのだ。共有感知という厄介な現象に見舞われた彼らを、半ば強制的に危険な旅路に同行させてしまった事情もあり、バーンズは彼らに自腹で土産物を購入しようと思い立ったのだ。

 しかし自腹で購入すると言い出したバーンズの口振りに調子が乗り、聖龍隊士もあわよくば土産物を購入してもらおうと企む。

「おっ、このお面おもしろそうだな」「この首飾り綺麗……」

「おいおい、お前ら。誰もお前らの分を買ってやるとは言ってないからな。買うなら給料から差し引いておくぞ」

【SAO】に【AW】の面々までもその場の勢いに乗って購入してもらおうとするが、バーンズに彼らの分まで買う気は毛頭ない。

「そうだぜ、お前ら。バーンズにばっか買わせてばかりは悪いと思うぜ。もぐもぐ……」

「そうそう、パクっ」

「そういうお前らは土産物の干し芋、勝手に食ってんじゃねえぞ……! 兄弟で……!!」

 皆にバーンズに土産物を購入してばかりは申し訳ないと述べる反面、兄弟そろって土産物で売られている干し芋を何の許可なく頬張る赤塚大作と将吉の二人に静かな怒りをぶつけるバーンズ。

 

 土産物を粗方、いや半ば強引にバーンズに買ってもらった面々。お蔭でバーンズの財布は空っぽ。彼の目には一滴の涙が。

 そんな一行は次に、観光の目玉ともいえる世界最大の建造物「万里の長城」を観光することに。

 だが、世界最大を誇る万里の長城も二年前の大戦で激しく損傷し、至る所で現在も修復工事が行われていた。

 土木作業員が崩落した城壁を直している後景を茫然と眺めつつ、一行はまだ損傷が浅いために観光ができる場所まで向かった。

 彼らが足を運べたのは、比較的損傷が浅く、ごく普通に万里の長城を上って渡れる箇所だった。

「ここら辺はまだ傷が浅いと見える……」

「そうだな。それにしても今まで見てきた万里城の城壁……何だか内側から爆破されたみたいに吹き飛んでいるみたいだけど……」

 星原ヒカルと出雲ハルキは、今まで見てきた爆破されたかのような損傷に比べ、いま自分たちがいる現場ほど損傷が浅い光景はないと語り合う。

 すると修復作業中の万里の長城を観光していた矢先、新世代型の瀬名アラタがとある一点を指差した。

「なんだろう、これ……」

 同じ新世代型の棗鈴たちが注目したのは、万里の長城の城壁その出っ張りの一部分が斜め下に綺麗に切断された何とも不可思議な断面だった。

 摩訶不思議な断面を凝視しようと群がる二次元人たちをかき分けて、バーンズがその断面の許へと歩み寄り、切実な面差しで述べた。

「…………まだあったか、この跡」

 瀬名アラタが指摘した、修復工事中の万里の長城の切断された出っ張りに、バーンズは静かに手を置いた。

「……この跡、何なんですか?」

 切実な面差しを浮かべるバーンズに瀬名アラタが畏まって質問すると、バーンズは重い口を開いた。

「この跡は…………修司が斬った跡なんだ」「え? あの修司さんが……!」

 バーンズが語った事実に吃驚する新世代型の琴浦春香。

「確か、この万里の長城でも聖龍隊が戦ったと、歴史の勉強で習いましたが……」

 バーンズの言葉に新世代型の戸室大智が質問すると、バーンズも同行している聖龍HEADも悲しげな面持ちを浮かべてしまう。

 聖龍隊や赤塚組の空気が重くなったのを感じ取った二次元人たちは戸惑い始めるが、そんな彼らにも真実を述べようと決意していたバーンズが徐に語り始めた。

「……この切り口は。いいや、ここでの戦闘はオレ達が修司の期待を裏切っちまった……その表れなのかもしれない」

「え!? 裏切ったって……」バーンズの発言に真鍋義久が一驚。

 バーンズは重たく静まった表情で語り続ける。

「修司はオレ達を理想の姿のまま誇示させようとしていた。だが、そんな修司の期待を裏切ってオレ達は勝手に……勝手に修司を助けに向かっちまったんだ」

「ど、どういう事っすか!? 話が全然見えない……」

 バーンズが語ってくれる話が全く理解できないで困惑する真鍋たち二次元人に、聖龍隊総合部隊スター・ルーキーズの総部隊長ミラールが語り出した。

「全ては私たちから始まったの……ある略奪者の卑劣な罠に落ちてしまったが故に……」

「ある略奪者?」ミラールの言葉に首を傾げる二次元人たち。

 するとミラーガールが思わしげな硬い表情で述べた。

「卑劣……と、言ってしまえばそれで終わり。けれど、その人はただ純粋に己の欲望に忠実だっただけ。修司も言ってたわ……『奴に善悪の概念はない、純粋無垢な欲望の権化』だと……」

「無垢な、欲望……? ますます話が見えないけど……どんな人だったの、その人」

 ミラーガールからの話を聞いて新世代型の美都玲奈が全ての一件の発端であるミラールに詳しい経緯を聞いた。

 

 すると先ずはミラールの口から語り明かされた。

 まだ新人であるキリトや鹿目まどか、そして【DOG DAYS】の面々が入団する前の話。

 二年前の乱世、その乱世が静まり返った頃に聖龍隊へと仕向けられた卑劣なる行為の数々を。

 

 

[卑劣なる罠]

 

 北の国の残党軍、台湾軍、そして新世軍を打破した聖龍隊は、戦禍に晒され落ち着きを取り戻していくアジアの復興に尽力していた。

 そんな聖龍隊で、戦前で活躍しているHEAD、コマンドー、ニュー・スターズ、ルーキーズの主力メンバーが復興活動を行っている現場に視察していた時のこと。

「ミラール総部隊長、大変です!」「? どうしたの」

 突然駆け付けてきた一人の隊士に、呼び止められたミラールは立ち止まり答える。すると隊士は切羽詰まった様子でミラールに事情を話す。

「[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]と名乗る略奪者が、ルーキーズの一部の隊士を含む同胞を人質に総部隊長たちを連れて来いと!」

 人質という穏やかでない言葉に、破邪王との闘いでの傷もまだ完全に癒えてない総長小田原修司も息を吞んだ。

 しかし人質にされた隊士の直属の上官ミラールは、不敵な笑みを浮かべて心配する聖龍HEADに声を掛ける。

「総長、捕らえられたのは私たちの仲間。私たちで引き取りに行くわ……聖龍隊の恐ろしさと共に」

 仲間を救出するだけでなく、同時に相手にも聖龍隊の畏怖を伝えると告げるミラールの志に、修司も首を縦に振った。

「ふむ、よかろう。だが、無理はするなよ」「フッ、解ってるわ」

 修司からのあらぬ心配に、ミラールは余裕を感じさせる笑みを浮かべて進む。

「行くわよ、あなた達! 聖龍隊の強さ、分からせてあげましょう!」

「おうっ!」

 ミラールの気高い呼び掛けに、当時のスター・ルーキーズは力強く返答する。

 

 後にルーキーズの隊士や身内達を人質に取ったのは、アジアの梟雄として悪名高き[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]という中国人である事が判明。

 武人にて、火を好む傾向が見られる皇輪は大の収集家であり、人質の命と引き換えに要求してきたのはルーキーズの隊士が持つ特別な得物だった。

 この報告を受け、ミラールたちは仲間を、家族を取り戻すため出撃準備を整えたのだった。

「人質とは……[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]、姑息な真似をしてくれるわ……!」

 総部隊長ミラールは、自分たちの仲間を拉致した[[rb:永皇輪 > えい こうりん]]に怒りを覚えていた。

 

 そしてスター・ルーキーズが到着した待ち合わせの場所は、中国のとある桟橋。そこを渡れば氷穴が在る筈でその中を進撃すれば[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]と人質が待ち構えてた。

 氷穴の最深部、凍える風が吹き荒ぶ崖の上で[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は静かに自らが欲する宝の到着を待ち侘びていた。

「た、助けてくれ~~!」「ひぃっ」「皇輪、テメェ……!」「皇輪、恐ろしい……!」

 必死に助けを乞うスター・ルーキーズの鏑木楓、真宮桜、家長カナ、清継、三浦ハル、笹川京子、ルーシィ・ハートフィリア、ハッピー、エンゲキブ、サイ、リナ、コトハ、ミヤビ達は、それぞれ八本の石柱に縛り付けられ、それをたった二本の紐で固定されている状態で拘束されていた。二本の紐を断ち切れば、たちまち崖下に落下する算段だ。

「……フッ」

 ルーキーズの人質達が嘆いているその時、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]がほくそ笑んだ。そうスター・ルーキーズ本隊の到着を感じ取ったからだ。

「みんな……分かってるわね」

「はッ、皆の命……必ず救いましょう」

 ミラールの呼びかけに仲間のエルザ・スカーレットが強く返答する。[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]より人質交換の交渉時間は定められていた。その刻限が直に迫ろうとしていた。

 そしてルーキーズ本隊の面々は、臨戦態勢に入ると迷うことなく桟橋を突っ切り、進軍する。

「続けっ」

 先陣を切るミラール。だがそんな彼らの前には[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が率いる略奪軍兵士が行く手を阻み、人質奪還の前にルーキーズの得物を奪おうと襲い掛かる。

「ルーキーズの諸君……ご機嫌いかがかな。卿らの宝を貰いに来たのだが問題あるまい」

「ふっ、それじゃ貴方は代わりに何をくれるの?」

「そうだな……では、彼らの死ではどうかね?」

「や、やめてくれぇ! リクオ、ミラールゥーーッ! うわぁ、き、切らないでくれぇーー!」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は人質の一人、清継を拘束する柱を支える紐を一本断ち切って恐怖心を煽らせる。

 この卑劣な行為に清継が友、奴良リクオは激しい怒りが込み上げた。

「皇輪、テメェ……捕虜を相手に容赦なしか……!」

 ルーキーズは一層、迫りくる敵兵士を倒して急ぎ人質奪還を要する。

 そんな極悪人にも捉えられる[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]であったが、意外にも部下達からは慕われていた。

「期待しているよ、優秀な諸君」「ありがたき幸せ!」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]からの言葉を承って感謝を述べる兵士。

「先は長い……どちらに転ぶか見守るとしよう」

 更に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は激動する戦闘に対して、常に冷静沈着な態度で待ち受ける。

 邁進するルーキーズの前に、氷穴入り口を死守する門番とその兵士たちが待ち構えていた。

「その怒りは本心か? それとも建前か?」

 屈強な門番は、人質を取られた事に怒りを露にするルーキーズに、その感情が本心なのかどうか不思議と訊ねる。

「悪いけど、時間を盗らせる気はないわ」ミラールはそういうと銃撃を浴びせて、門番を撃破。

 何とか門番を突破し、ルーキーズは氷穴内部へと突入する。目指すは最深部、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が待ち受ける崖だ。

「洞窟を抜けるなら気をつけてくれたまえ」

 何故か洞窟を進軍する際の注意を呼び掛ける[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]。これも挑発か。

 氷穴を慎重になりながらも猛進するルーキーズ。

 だが彼らが進軍していたその時、凍り付いた左右の壁面を爆薬で破壊して、裏側に待機していた略奪部隊が爆襲してきた。

 凄まじい爆薬の爆発で猪突猛進の如く攻撃してくる兵士たちに一驚するルーキーズ。それに[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が渋い声で言った。

「驚いただろう……なに、楽しみ賃は結構だ」

 氷壁を爆破させて奇襲を仕掛けさせた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は嬉々とした薄ら笑いを浮かべる。

 と、ここでミラールが仲間のルーキーズに告げた。

「みんな、分かってるでしょうが……奴の狙いは私たちの武具よ。私たちがコイツらを引き付ける……その間に他のメンバーは隙をつくの」

「分かった。オレも囮になろう……ほら、どうした! お前たちの狙いはコレだろ!? 奪えるもんなら奪ってみな!」

 ミラールの指揮を受けて、門脇将人は[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が欲する宝の一つ、自身の得物である劍神:「逐力(オロチ)」を振り翳して周囲の敵兵を挑発する。

 祢々切丸、マギ、ボンゴレリング、劍神に死神の鎌などといった得物を奪おうとする敵兵を返り討ちにしていくルーキーズは、遂に敵の防衛地点を制圧する。

「私の側は良い、あなた達はあなた達の持ち場につきなさい」

「わかりました、俺ら働きます!」

 同行する一般隊士にもミラールは忘れず指示を出す。

 そしてルーキーズは[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]軍の防衛地点を制圧した。

「このまま防衛地点を制圧! 遠慮なく押し潰してあげましょう」

「了解ッス!」

 ミラールからの指示に工藤タイキは笑顔で答え返す。

「俺達はいわば鬼の手足……鬼神が安くねえって事を教えてやろうぜ」

「おうよッ(……待っていろミヤビ、必ず助け出す……!)」

 自分達は小田原修司の配下よって手足である存在。故に、その手足の戦力を奪おうとする輩に容赦はいらないと告げる日ノ原革。それに門脇将人が答えるものの、彼の内心は人質のミヤビの事で頭がいっぱいであった。

 更に邁進するルーキーズ。だが再び、氷穴の壁を爆破して[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]軍の部隊が攻め込んできた。

「血祭りにあげてやろう!」

 拠点にしている地点から壁を爆破して強引に進軍する部隊を、部隊長が指揮をする。

 だが人質を無事に奪還せんと、ルーキーズは向かってくる兵士を悉く倒していく。

「聖龍隊が新精鋭、スター・ルーキーズとは私たち!」

 ミラールも名乗りを挙げながら二丁拳銃ミラージュ・ガンから銃撃を浴びせまくる。

 そんな大活躍するルーキーズの報告を受けた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は彼らに一言詫びを入れる。

「実は卿らの事が嫌いなんだ、すまないね」

 皮肉を込めて率直な意見を申し告げる[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]。

 その一方で現場では、普段は戦闘を突っ走るミラールが大人しくしている現状に隊士達は不思議に思っていた。

「どうしたミラール? 今日はやけに大人しいね」

「仲間が人質に取られている時だからこそ、冷静を保たないと……!」

 アリババからの指摘にミラールは総部隊長として感情的に至るのは不徳と判断していた。

 そんなミラールたちルーキーズに、迫りくる敵兵が戸惑いを誘うかのように呟き掛ける。

「人は自分のためなら何でも出来る、貴殿らも同じだろ……我もその一員だ」

 人間の真理をつかれた一言に、ルーキーズは答え返す事が出来なかった。

 と、そんな進撃を続けるルーキーズの前に、謎の三人組が現れた。

「来たか」「ああ」「仕方ない」

 三人組は立ち上がると、前進してきたルーキーズに歩み寄るかのように歩き出し、厳しく言い放つ。

「鋭く、素早く終わらせる……! それが情け」

 

必殺非業 三好三人衆 登場

 

「皇輪軍の死神部隊……そう呼ばれている」

「はっ! 本物の死神ならここにいるぞ」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の死神部隊と名乗る三好三人衆の登場に、本物の死神だと自負する六道りんねが大鎌を振るう。

 しかしりんねが振るった大鎌を三人衆は華麗に避けて各々が言う。

「一人減ったら、一人足す……」

「二人減ったら、二人足す……」

「三人減ったら、そこで終わりだ……」

 三人衆の言動と身のこなしから、ミラールは次のように推測した。

「おそらく皇輪軍の中でも特に秀でた三人を精鋭として抜擢しているみたい。気を付けて!」

 仲間達に気を付けるよう説き伏せるミラール。だが三人衆の動きは素早く、さらに刃渡りの大きい長槍で応戦してきた。

「躊躇わず攻撃して! でなきゃ、やられるわ!」

 普通の人間である三好衆に攻撃を躊躇う隊士たちの活気を取り戻さんと、ミラールが檄を飛ばす。

 ルーキーズの本領が発揮された時、三好三人衆のうち二人は呆気なく倒されてしまう。が、最後に残った一人はリーダー格なのか戦前より退いた。

 どうにか三好三人衆の猛攻を突破し、ルーキーズ一行は氷穴の最深部へと踏み入った。

「この大一番、いつか語り継がれるんじゃねえか?」

 人質となった仲間を救出した美談として後の世に語り継がれるんじゃないかと淡い期待を抱く剣ゼンジロウ。

 だが此処まで来るのにルーキーズの隊士たちは多くの敵兵の血を浴びてきた。

 そんな血みどろとなるルーキーズの有態を観た敵兵が喜々と叫んだ。

「この血みどろの戦い、これが合戦よ!」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]軍の兵士は、略奪だけでなく好戦的でもあるようだ。

 その様な敵兵たちを殲滅して、ルーキーズは敵の防衛地点を制圧する。

「皆さん、後は俺たちが見張っておくッス」

 ルーキーズに同行していた聖龍隊士が制圧した防衛地点に配置される。

 そのまま入り組んだ氷穴の奥へと進軍するルーキーズの目に、桟橋が見えた。どうやら氷穴の谷にかけられた橋を渡らなければならないようだ。

 しかし此処で予想外の出来事が起こされた。

「うおおーーっ!」「落とせーーッ!」

 活気溢れる敵兵に続き、上官兵が命ずると、なんと天井に仕掛けられてた火薬が爆発。天井に張り付いていた氷塊が悉く落下してきて危うくルーキーズは下敷きにされかける。

 下敷きは免れたものの、氷穴が爆破されたことで落下してきた氷塊が行く手を遮ってしまった。

「火薬が強すぎたか……計算外だが、まあ問題あるまい」

 爆破の勢いが強く、予想以上に氷穴内に氷塊が落下してきた現状に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は動じず、薄ら笑いを浮かべ続ける。

 そんな[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は氷穴を破壊して先へと進軍しようとするルーキーズに話し掛ける。

「己が力を誇示するために他人を見捨てる……真っ当な考えだな、私も見習うとしよう」

「勘違いしないで。あなたを倒してみんなを救い出す、それだけのこと」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の言葉にミラールが強く反論する。

 そしてルーキーズは行く手を遮る氷塊を破壊して、先へと進軍しようとする。

 が、氷塊を壊した先では銃撃隊が待ち構えており、危うく発砲されハチの巣になるところをミラールが銃撃で応戦し、全員が難を逃れる。

 頭部に銃弾が被弾し、絶命した兵士を見た[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は冷然とミラール達に告げた。

「好きなように壊せばいい、それこそが世の真理」

 人の命も、物も、全て思うがままに壊す事こそ世の真理と説く[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の言葉には恐怖すら感じられる。

 そして桟橋を防衛する兵士を蹴散らして、ルーキーズは桟橋を渡り先へと急ぐ。また[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に仲間の命が危険に晒されない為に。

 そのままルーキーズは別の防衛地点も制圧して同行する聖龍隊士に後を任せる。

「ミラール総部隊長、ここは我らが守り切ってみせますので先へ」

「その意気よ、あなた達、期待してるわ!」

 防衛地点に配置された隊士がミラールより激励を貰い受ける。

「ルーキーズ諸君、卿らは時間を守る人間かね?」

「生憎だけど、あなたに使う時間は少ないわ」

 約束の刻限まであと数分というところで、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が啓発する。が、それにミラールがきっぱりと答え返す。

 このミラールの言葉を承って、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は行動を開始した。

「そうか……では、こうしよう」

「や、やめて! うわああぁぁぁ……………………」

「やめろ! ミラール、あまり皇輪を刺激しないでくれ……!」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は人質が一人、鏑木楓を縛り付けている柱を支える縄を一本断ち切って彼女を脅かす。そんな娘の悲鳴を聞いて父親のワイルドタイガーが刺激しないようにと強く主張する。

「進め……諸君らにどれだけの事ができる?」「はっ!」

 一方の[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は冷静沈着な態度で配下の兵士に進軍を提言する。

 が、進撃してくる兵士をルーキーズは悉く返り討ちにして撃退してみせる。

「有象無象の輩共、所詮はこの程度の器か」

 先ほどの三好三人衆と同様、ルーキーズにやられてしまう兵士たちを見て[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は呆れ果ててしまう。

「いやはや卿らは強いな……恐れ入った」

 改めてルーキーズの強さを自認する[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]だが、彼の皮肉が込められた言葉に誰一人笑む事はなかった。

 しかしそれでも進撃してくる敵兵たちは、こぞって[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の事を称えていた。

「皇輪様は俺達の事を分かってくれる方だ」

 そんな自分を称えてくれる兵士が打ち倒されたとき、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]はというと。

「すまないね、少し余所見をしていた」と、なんと戦闘中にも関わらず己が手にする宝剣をふと眺め出し、戦況を見据えていない余裕を感じさせていた。

 不思議な包容力のある[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に硬い忠誠心を持つ敵兵は、躊躇わず攻撃してくる。

「我が忠節、今こそ見せる時!」

 敵兵が[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]への忠義を示そうと、真っ向から勝負を挑む。

 その兵士達をルーキーズは返り討ちにすると、逆方向の真後ろから鉄砲隊が奇襲を仕掛け、闇討ちしてきた。

「捕虜? それが何だって言うんだ?」

 彼らは[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]同様、人の命を軽く見ている冷酷な輩だった。

 氷穴内部を進軍するルーキーズ。だがミラールは再度仲間達に呼び掛ける。

「突っ走っちゃいけないわ、こういう時こそ冷静に、三倍の用心は心がけて!」

「分かったぜ!」

 ミラールは氷穴出口まで猛進する仲間達に、いつもの三倍以上の用心を心がける様に伝える。それに仲間達も口をそろえて応える。

 こうして敵勢力を突破して氷穴出口まで辿り着いたルーキーズ一行。

 だが氷穴出口は先ほどの[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]軍の爆破作戦によって、巨大な氷塊で塞がってしまわれてた。

「ッ、氷の壁ね……急ぎ突破しましょう」

 まさしく壁の如き氷塊を破壊し、融かしながら脱出せんと急ぐミラール達。しかし氷壁を破壊しようとする彼らに、後方から敵勢力が。

「壁を壊す時間を稼ぐのよ! 徹底的に叩くのよっ」

 ミラールは氷壁を破壊する隊士と、それを防衛する隊士に役割を二分割し、自身は破壊する隊士を防衛する側に徹し、迫りくる敵兵を撃ち抜いていく。

 そしてようやく氷穴の出口を塞ぐ氷壁を破壊し、どうにか脱出する事にルーキーズは成功する。

 その先には、人質たちと共に主犯である[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が待ち受けていた。

 無事に捕虜とされた仲間の許に辿り着けた一行だったが、そこには崖際で自慢の宝刀を拝見しながら呟く[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の姿と石柱に縛り付けられている仲間達の姿があった。

 八本の石柱に、それぞれ鏑木楓、清継、家長カナと三浦ハル、笹川京子、ルーシィ・ハートフィリアとハッピー、エンゲキブ、サイとリナ、コトハとミヤビが縛り付けられ、全ての柱は二本の紐で固定されているだけだった。紐を全て断ち切れば、柱は崖下、奈落へと落ちるのみであった。そして既に先ほど紐を断たれてしまった清継と鏑木楓の柱は一本の細い紐が支えるのみとなっていた。

「一つ、二つ……また一つ。……人は生まれて、壊れる事の繰り返しだ」

 まるで輪廻転生を捩ったかのような台詞を独り言の様に呟く[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は、到着した一行に背を向けながら悠然と語り掛けてきた。

「やあ、煙新照星と名高きミラール総部隊長、そして多くの宝を持つ仲間達……よく来たな、と言いたいところだが……機嫌は余り良くないようだな」

 悪びれる様子もなく、常に冷静に物事を捉える態度を示す[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]にルーキーズの面々は怒り心頭であった。

「テメェ、自分がしてる事をよく解っちゃいねえようだな……!」

 本気モードの澤田綱吉からの一喝を受けて、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は優雅に歩き出して言葉を発する。

「フッ、そいつは失敬……これで勘弁してくれたまえ」

 次の瞬間、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は歩み寄った楔に繋ぎ止められている紐を宝刀で断ち切り、その紐に支えられていた柱が傾く。その柱には仲間である清継が縛り付けられていた。

「なにッ!?」

 突然の[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の行為に何もできないミラール達は驚くしかできなかった。そして縛り付けられていた清継ごと柱は谷底へ落下してしまう。

「うわあ! リクオ、みんな……うわあぁ…………」

 柱に縛り付けられた清継は谷底へ消えて行ってしまう。

「フッ、さあ、それらをくれれば以上で終わりだ」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]はルーキーズが持つ宝を要求。

 しかし冷然と捕虜を殺める意思を持つ[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に、友を奈落へ落された奴良リクオも、その他の全員も抑えていた怒りが遂に爆発した。

 外道とも呼べる[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に、ミラールを先頭とした全員が攻撃を仕掛ける。

「みんな、ここは私に任せて。こいつの薄汚い血で、みんなを汚す必要はないわ……!」

「いいや! もう我慢ならねえ! ……こんな卑劣な奴、マーベリック以来久しぶりに見たわ……!」

 仲間達を[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の汚れた血で汚すまいとするミラールの意志に反して、ワイルドタイガーたち他のルーキーズメンバーは[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の外道な立ち振る舞いにもう我慢の限界だった。

 そんな仲間の士気を感じ取り、ミラールも承諾する。

「解ったわ……その粋、見せてみなさい」

 戦闘の最中、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は不思議そうにルーキーズに問うた。

「卿らは何を怒っているのかね?」

「分からないとは……あなたはゴミ以下よ……!」

「私はこれと決めた物はすぐに欲しい性分でね、あまり焦らさないでくれないか?」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は最早、自分が欲する宝以外の事は頭に過っていなかった。

 そんな[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]を打破しようと躍起になって攻撃を仕掛けていくルーキーズ。だが以外にもコウリンの動きは俊足で、簡単に攻撃が当たる事はなかった。

「奴に隙を与えちゃダメよ……隙を見て、また人質を谷底に落とすかもしれない」

「分かった、あの腐った魂ごと叩き斬ってやる……!」

「……これ以上、好き勝手にはさせない!」

 隙を与えてはならないというミラールからの指示に、門脇将人と日ノ原革は足並みをそろえてコウリンに斬りかかる。

 だがコウリンは容易く二人の斬撃を避けて言う。「それ以上、刀を振るわないでくれないか……せっかくの名剣が台無しになる」と、切れ味を損なうという理由で武器を下ろせと言う始末。

 それでもコウリンに斬りかかる二人に加わり、他のルーキーズもコウリンに攻撃。だがコウリンは全ての技を見切り、回避すると素早く手元に隠していた火薬を振りまいて、それを剣先の火花で着火させて引火させ爆破。ルーキーズを焼き尽くしていく。

「虚しいな……いや、とても愛しい感情だ」

 モノが燃え上がる光景を前に、コウリンは虚しさにも似た感情に愛しさを覚えていた。

「このッ」

 門脇将人の一撃を軽く悠然と宝刀で受け流す[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]。すると彼は一瞬の隙を突いて鏑木楓の柱を支える最後の紐が繋ぎ止められている楔へと俊足で移動。紐に宝刀を置いて皆を挑発する。

「お、お父さん!」「楓! やめてくれッ」

 たった一人の愛娘を人質にされ、楓同様にワイルドタイガーも嘆きだす。

 しかし楓だけではなかった。既に仲間を一人、谷底に落とされたのを目の当たりにした人質たちは全員「次は自分の番」と非常に怯え始めていた。

「どれ」「いやああぁっ!」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が宝刀で紐を断ち切ろうとすると、楓は悲鳴を上げる。

 と、その時。「待って!」ミラールの声が辺りに響いた。

 そして皆の注目がミラールに集まると、彼女は静かに[[rb:永皇輪 > えい こうりん]]に言った。

「……分かった、だから上げるわ。みんなを解放して」

 そういうとミラールは、鏡の国の貴重な技術と魔力で作られたミラージュ・ガンを[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の許に投げ捨てた。これ以上、脅えた友の姿や声を目の当たりにしたくなかったのだ。

 降伏の意を表すミラールの行動に、他のルーキーズ隊士も動揺するが、これ以上の犠牲を出したくはなかった。

「み、みんな!」「ツナ!」「リクオ君……!

 間宮桜、三浦ハル、家長カナが切なく友の名を呼ぶ中、ルーキーズは「マギ」に「ボンゴレリング」、「死神の鎌」に「祢々切丸」、「劍神」などの得物を全て渋々ながらコウリンに渡した。

「ハハハ、人生はこれだから分からない!」

 思わぬ事態にコウリンの笑いは止まらない。

「フハハハハハ……」

 コウリンは拍手をしながらルーキーズが投げ捨てた得物の数々の許へと歩み寄る。

「フフフ……見事見事、卿らは実に清らかな人柄だ。ハハ……実に救い難い」

 コウリンは仲間の為に得物を捨てるルーキーズの人柄を皮肉りながら嘲笑う。

「いやはや……ハハハ」ここでコウリンはふと空いている左手を頭より高く上げて、言った。「……まったくだ!」

 次の瞬間、コウリンが指を鳴らした瞬間にルーキーズが立っている足場が爆発。前もってコウリンが地面に火薬を仕掛けていたのだ。

「うわあッ!」「きゃあっ!」

 爆発に巻き込まれ、次々と崖下へ吹き飛んで行ってしまうルーキーズ隊士。

「み、みんな……うわっ!」

 仲間達が次々に爆発で吹き飛ぶのを目の当たりにしたミラールだが、そんな彼女の足元にも爆薬が仕掛けられており、連鎖反応で遅れて爆発した。

 そしてコウリンが仕掛けた爆薬で、戦闘していたルーキーズ隊士は全員吹き飛ばされてしまい、全員が崖下へと落ちて行ってしまわれた。

「お父さん! みんなーーっ!」「ツナ、エルザ、グレイ……そんな……!」

 父親や仲間達が吹き飛ばされるのを目の当たりにした鏑木楓にルーシィ・ハートフィリアは悲観の表情を浮かべる。

 一方、目の前で仲間達が吹き飛ばされ、驚き嘆いている人質達を背にコウリンはルーキーズの面々が投げ捨てた得物の一つ、ミラールが愛用するミラージュ・ガンを手に取り、うっとりと眺めながら言葉を発した。

「ハハハハ……ミラージュ・ガン、ボンゴレリング、祢々切丸、マギの魔装具、死神の鎌に劍神……ルーキーズよ、確かに卿らの宝、全て頂戴したよ! フハハハハハ……」

 仲間達が仕掛けられてた爆薬で崖下に吹き飛ばされた惨状を目の当たりにしたルーシィは、重たい表情でコウリンに言った。

「……これであなたの欲望は満たされたでしょ? いい加減、せめて私以外の友達だけでも開放して!」

 せめて自分以外の同胞だけでも解放してほしいとコウリンに切願するルーシィ。だが彼女の言い分を聞いて、コウリンは下種な笑みで返した。

「フハハ、自分以外は助けてほしい、と……フッ、くだらぬ偽善だ」

 すると数歩進んだコウリンは人質達を見下しながら、こう言った。

「所詮、卿らは人質としての価値しかなかったという事……もう卿らには興味の欠片も無い」

「………………………………」

「だが……人質というのは目的達成のための手段。無事でこそ意味がある。だが目的を達成し、無調の長物となった今、果たして価値があると言えるのかね?」

 コウリンの発言に目をパチパチさせて困惑する人質たち。するとコウリンの口から思わぬ言葉が発せられた。

「人質としてしか価値のない宝など、捨ててしまった方が身軽だという事だ。先ほどの彼らとの約束もあるし、卿らを解放してあげるとしよう…………今生からね」

 そう言った次の瞬間、コウリンは先ほどと同じく指をパチンと鳴らすと人質たちが縛り上げられている石柱を支える紐を止める楔の部分が爆発。楔は地面から抜け、石柱は崖下へと傾いた。

「う、ウソでしょ!?」

 解放とは、この世からの解放という意味で、それ故にコウリンが石柱を爆破させて自分達を皆と同様に崖下へ落下させる狙いだったのだと知り、エンゲキブは激しく驚愕する。

「フッ、弱いだけで守られるだけの存在ほど……空しく、儚い無価値はないものよ」

 弱いだけで価値のないものと人質だった者たちに罵声を浴びせるコウリンは、最後にこう締めくくった。

「生まれ変わって出直したまえ、それこそが人」

「う、うわああああああぁぁぁ………………」

 コウリンの無慈悲な言葉が耳に残る人質たちは、石柱に縛り上げられたまま崖下へと転落していった。

 

 

[寝返りの疾風]

 

 コウリンの卑劣な罠にかかり、崖下の川へと転落したルーキーズと友たち。

 しかし幸運にも、助成に駆け付けた他の聖龍隊士によって川辺で人質として捕らえられていた者も含み、全員が救出された。

 だがルーキーズも、彼らが救おうとしていた人質達も、全員が意識不明の重傷を負っていた。

 急きょ治療に懸かられるルーキーズには、もはや自慢の得物は存在していなかった。

「……私が…………私がもっと、しっかりしていれば………………」

 床に就くミラールが呟いた言葉に、聖龍HEADの心情は身に摘まされるものだった。

 この[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の行為に激昂した総長、小田原修司はコウリンに向けて進撃をする提案を下す。

 修司の下した決定に他の聖龍HEADも同意する中、そこへ一人の忍からの伝令が伝わってきた。

「これは……! 時乃宮家がなにか知らせてきたのか……」

 伝令を拝見した小田原修司は、胸中にひしめく胸騒ぎを後々まで忘れる事がなかったという。

 

 聖龍HEAD一同は、伝令に記されていた場所まで赴いていた。

「……時乃宮家、何かを知らせるために風斗を……?」

 伝書に目を通した修司は待ち合わせの場所にて辺りを見渡した。

 HEADの元に届けられた密書には、朧げな風の漢字が二重に重なった紋章が記されていた。

 その家紋にも似た紋章を使うのは、天皇家が親族に当たる時乃宮家に仕える戦忍、[[rb:風魔風斗 > かざまふうと]]が扱う紋章だった。[[rb:風魔風斗 > かざまふうと]]は聖龍隊と、特にスター・コマンドーとも共闘し合っている間柄で、既に聖龍隊とは彼の馴染みであった。

 修司達は[[rb:風魔風斗 > かざまふうと]]が仕えている時乃宮家が何かを知らせるために、人知れず人気の居ない場所を選んで呼び出したのかと意識していた。

「……誰もいないわね……」「嫌な雰囲気だ……風が静か過ぎる」

 人っ子一人見当たらない林の中で、ぽっかりと戦火で焼き尽くされたのか空いている焼け野原に漂う不気味な静寂にセーラープルートとウラヌスが嫌悪感を示す。

 と、その時。一筋の風が吹き付け、皆が思わず顔を背けたとき、目の前に一人の影が颯爽と一瞬で現れた。

「! ……風斗」「[[rb:風魔風斗 > かざまふうと]]……!」

 目の前に現れたるは、口元以外の顔を隠し、背中に対刀である忍刀を装備した一人の忍、[[rb:風魔風斗 > かざまふうと]]だった。

 風斗は決して誰にも言葉を発することがないが、それに反して忍としての実力は相当高く、天皇家が親族、時乃宮家に仕えるほどだった。

 そんな風斗に、呼びつけられた修司が歩み寄り声をかけようとした。

「お、おい、風斗……どうした? 時乃宮家から言伝か……?」

 修司が歩み寄ろうとした、その時だった。真横からの鋭い視線を感じ取り、修司を含む聖龍HEADが全員横に顔を向けた。

 そこにはなんと、ルーキーズを罠にかけ、彼らの武具を宝として奪い取った[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の姿があった。

「お、お前は……!」

 諜報活動で入手していた顔写真から、一瞬で歩み寄ってきた男が[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]だと認識したメタルバードが叫んだ。

 すると一驚するHEADに反して、コウリンはゆったりと歩み寄りながらHEADに話し掛けて来た。

「やあやあ、これは聖龍隊を統べる者たち、HEADよ。こんなところで逢うとは……奇遇かな」

 如何にも偶然を装って登場するコウリンに聖龍HEADは迷わず戦闘体勢に入る。

「コウリン! 貴様、よくも抜け抜けと姿を見せられたものだな……!」

 修司が怒号でコウリンに言うと、コウリンは不思議そうな面差しで言葉を返した。

「……なにか不機嫌そうだね。人々を希望だの、愛だのという偽善で騙し続ける卿ららしくないな」

「て、テメェ……!」

 まったく悪びれる様子もないコウリンにメタルバードが今に飛びかかりそうな勢いで言葉を発する。

 するとその時、HEADの目に信じ難い状景が飛び込んできた。

「ふ、風斗……! 何の真似だ!」

 なんと天皇家が戦忍、風魔風斗が颯爽と移動して[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]と聖龍HEADの間に割り入った。

 皆は風斗が加勢してくれるのかと思っていたが、その思いとは裏腹に風魔風斗は背に装備する対となってる忍刀を器用に抜刀するとHEADに忍び寄ってきた。

「お、おい、風斗……悪い冗談はよしてくれ」

 メタルバードが風斗に呼びかけるものの、風斗は怪しい静寂を漂わせながら、静かに静かに迫ってきた。

 明らかに戦意を向けてきている風斗の現況に状況が飲み込めず困惑するHEADを視認したコウリンは薄ら笑いを浮かべて事実を述べた。

「フハハハハ、卿らも実に人が好い……忘れた訳ではあるまい。この忍はあくまで傭兵……依頼をすれば、それを全うしてくれる便利な品だ」

 そう、時乃宮家に仕えていた風魔風斗は既に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に何らかの形で買収され、コウリンの元で忍として働いていたのだ。

 次第に距離を縮めて迫り来る風斗を前に、小田原修司は皆に用心するよう呼びかける。

「みんな気をつけろ……風斗が敵に回った以上、用心してかからねえと」

「どういう事だ?」

 メタルバードに変身したバーンズが修司に問うと、修司は険しい面差しで答えた。

「風魔風斗……奴はあの風魔一族の端くれだといわれている。なら、かの有名な忍、風魔小太郎の血を引いている可能性があるが……」

「………………………………」

 HEADは黙って修司の言葉に耳を傾けながら風斗に応戦する。

「風魔一族、忍の世界でも伝説と語り継がれるほど得体の知れない輩……だが、それも当たり前だ! 何故なら……」

 次の瞬間、修司の口から衝撃的な事実が語られた。

「……姿を見た敵は全員容赦なく消しているからだ!」「!!」

 この修司の発言にHEAD一同は愕然とする。風斗が属しているという血筋、風魔一族が幻といわれる由縁、それが姿を見た敵は容赦なく殺められている事実。それほどまでに敵対する相手には容赦なく殺しにかかってくる忍、風魔風斗に警戒せよと修司は皆に言いたかった。

 修司の言いたい事を理解したHEADは、完膚なきまでに攻撃してくる風斗の素早い動きに辛うじて応戦し、命を繋ぎ止める。

 と、ここで修司が風斗に対抗しようとD-ワクチンの力を解放して巨大化した。

「ほうほう、それが悪名高い鬼の姿か……人外を守るために人外に成り果てるとは。卿の趣向は実に興味深い」

 巨大化した修司を見て、その姿に畏敬の念を抱くコウリンは修司の心理に関心を抱く。

「うおおおおおおおッ!」

 巨大化した修司は大岩の如き拳を地面に殴り付けて、自分より小柄になった風魔風斗に一撃を浴びせようとするが、風斗はこれを難なく回避。だが拳が地面に直撃した際の衝撃波により、風斗は吹き飛ばされてしまい一瞬だけであったが体勢を崩されてしまった。

 そんな巨大化した修司と一騎打ちを始め出す風斗。彼の真の目的は何なんだろうか。

 その間、他の聖龍HEADは一気に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]を取り囲み、完全に逃げ場を奪い取る。

「ほう、この私から逃げ道を奪うというのかね……卿らも立派な収集家だな」

 収集家といいながら、真の意味では同じ略奪者と説くコウリンの言い分に実際に取り囲んで逃げ道を奪うHEADは若干の躊躇いを覚える。

 すると修司が空中に跳躍して、そこで一時的に停止しながら空中でクナイや手裏剣を無数に投げ散らして応戦している最中、取り囲まれた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は宝刀を握る右手とは反対の空いている左手から黒い粉塵を撒き散らすと「爆ぜろ」の一言で剣先の火花で粉塵状の火薬を着火させて前方に炎の道を形成。目前で取り囲んでいたセーラーマーズにセーラーサターンが昇火に巻き込まれて炎上してしまう。

「マーズ! サターン! クソッ」

 目の前で仲間を焼かれて苦渋の表情を浮かべるメタルバードに反して、美しい女性達を炎で燃やして見せた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は満足げな薄ら笑みで燃え上がるマーズとサターンを眺め続ける。

「よ、よくも!」

 先輩でもあるセーラー戦士が昇火で燃え上がらせられ、感情的にコウリンに死角から斬りかかりに仕掛ける堂本海斗だったが、コウリンは俊足な移動をご披露するかのように難なく海斗の剣戟を回避してみせる。

 そして海斗の背後に素早く立ち回ると宝刀で彼を斬り付け、更に同時に左手に隠し持っている火薬を彼に付着させてそれも引火、海斗は爆発して宙へと舞ってしまう。

「炎は良いな、全てを綺麗に焼き尽くしてくれる……そう、思わないかね? セーラーマーズ、木之元桜、獅堂光……」

 コウリンは基本的に炎系の能力が扱える者に声をかけていくが、それに反して先ほどコウリンに燃やされたマーズも後の二人も揃ってコウリンを睨み付ける。

「おやおや、そんな怖い顔しないでくれためよ。卿らとは仲良くしてたいのだ……そう、卿らが死ぬまでの、ホンの一時の間だけで好いのだから」

 このコウリンの言動にキューティーハニーとセーラーネプチューンとセーラーウラヌスが一気に攻撃を仕掛けるが、これもまたホンの僅かな差でコウリンに回避されてしまい反撃とばかしに目潰しの火薬を辺りに撒き散らされてしまう。

 三人の視界が黒い靄で埋まった次の瞬間、コウリンは呟いた。

「この世は死海だ……私が、そう決めたのだからね」と再び剣先の火花から火薬に着火して、辺り一帯を火の海にしてしまう。

 激しい業火に身を苛まれながらも、次々と負傷していく仲間たちを治癒能力で回復してあげるミラーガールとナースエンジェルとセーラームーン。

 そんな慈愛ある行為に移る三人を視て、コウリンはまたしても彼女達を率直な意見で評価した。

「君らは、何故その様な無駄な事をし続けるのかね? いくら傷を癒しても、またすぐ戦いで傷付いてしまう……愚直愚直」

 仲間の傷を癒す事を愚直と罵られたナースエンジェルは、諦めない不屈の眼差しでコウリンに言った。

「例え、私たちの治癒能力が追いつかなくても……互いを思いやれる気持ちも一緒に通じていると、私は信じているからよ!」

 このナースエンジェルの力強い言動に対しても、コウリンは嘲笑を浮かべながら言葉を返す。

「フハハハハハ……欺満だね、欺満。そうして誰かを救う事よりも、救った事で誰かに感謝を求められるのが本心ではないのかね? ……確かに、人を斬って守った功績よりも、人を看病して感謝される事の方が何倍も満足感が得られる事だろう」

「そ、そ……ッ!」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]からの言葉を受けて、ナースエンジェルは返す言葉がスグには見付からず困惑してしまう。

 そんな皮肉や嘲りを平然と薄ら笑いで述べていくコウリンに、キング・エンディミオンと堂本海斗そして蒼の騎士が一斉に斬りかかる。が、エンディミオンの攻撃を容易くコウリンは受け流してしまい、海斗と蒼の騎士には再び火薬を着火させて二人を爆炎で弾き飛ばす。

「ふうむ、良く見てみれば……君らのアイテムも全てが貴重なアイテムだ。欲しくて仕方がないよ」

 これを聞いたエンディミオンは怒りが窺える顔色でコウリンに言い放った。

「お、お前……! この期に及んでまだ略奪を続ける気か……!」

 するとエンディミオンの言葉に、コウリンはさも当たり前のように述べたのだった。

「いやはや、人の欲望は尽きないものなのだよ。キングよ……」

「えいっ」と、ここでミラーガールも意を決してコウリンにミラーソードで斬りかかるものの、双方の得物の大きさは差が有りすぎて容易くミラーガールのミラーソードは弾かれてしまった。

 そして此処でコウリンは、ミラーガールの首を左手で掴み、彼女の顔を間近で拝見すると同時に瞳に映る自分の顔を見てほくそ笑む。

「やはり……今の私は今のままで……在りのままに生きるとしよう。それこそが最も正しい人の真理なのだ」

 ミラーガールの瞳に映る今の欲望に純粋な自分を目の当たりにして、コウリンは珍しくもそれを受け入れ、これからも今まで通り欲望に忠実に生きる事を宣言する。本来、ミラーガールの瞳を見据えると、目にしたくない自分の本質までも浮き彫りにされてしまい、周囲の人間もミラーガール当人も余りこの鏡の様な瞳には困惑していたからだ。

 その頃、巨大化した修司と様々な忍術に忍具を使って連続攻撃を仕掛けてくる風斗との決闘を頭上から静観していたちせが、風斗とコウリンに向けてレーザーを発射。しかし双方とも、既に彼女の気配には気付いており、風斗は自身の周囲にいくつもの忍具を展開して忍具でレーザーを弾き返して防御、コウリンは俊敏な移動手段で頭上からの攻撃を華麗に回避してみせる。

 すると攻撃を回避した[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は上空で仲間の支援をするちせに対して、こう述べた。

「ほほう、君からは平穏を貰おう。かつて戦場で多くの兵士達から恐れられて来た最終兵器……君は昔の方が性に合っていると思うのだがね」

「私に、兵器に戻れと?」

「いいや違う。兵器ではなく、人として戻るべきだ。君は兵器だったからこそ人を殺めていたのではない……純粋に、ただの人だったからこそ、同じ人を、物を破壊する事ができていたのだ」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]から、ちせは兵器だったから人や物を破壊していたんではなく、同じ人だったからこそ破壊に徹していた時期こそ彼女には相応しいと述べられる。

 だが、ここで先ほどから好き勝手な言動をするコウリンに堪忍袋が切れたミラーガールが挑んできた。

「何を言ってるの……! 此処にいるみんなは、変われた自分の運命を嬉しく思っている……あなたの言う通り、もう過去には縛られないのよ!」

 しかしこのミラーガールの切願を聞いたコウリンはほくそ笑みながら彼女の言い分を嘲笑った。

「フハハハ! それこそが人間の身勝手な行為だという事に気付かないのかね? 与えられた運命を強引に捻じ曲げ、与えられた筋書きとは違う、それこそ全く違う物語にしてしまう鬼神の身勝手な振る舞いこそ、咎められるべき罪なのではないかね」

「! …………」

 本来の筋書きとは違う物語、運命を与えてしまう事こそ人間のエゴなのではないかと説くコウリンの台詞にミラーガールは衝撃を受けつつ返す言葉を見付けられなかった。

 そんなミラーガールに、修司と攻防を繰り返している風魔風斗が突然ミラーガールに向けて風魔一族が代々使ってきた巨大手裏剣を取り出すと、それをミラーガール目掛けて投げ付けた。

「アッコ!」「ッ!」

 メタルバードの一声に反応するミラーガールだったが、既に大型手裏剣は目前へと迫ってきていた。

 誰もがミラーガールの絶体絶命の危機を直感した、その時。

「ッ……!」「っ……し、修司!」

 なんと急いで駆けつけた小田原修司が、巨大化した肉体の右手で慌ててミラーガールに直撃しそうな巨大手裏剣を右手の手の甲で受け止めたのだ。しかし修司の右手には案の定、巨大手裏剣が突き刺さり、修司の手の傷口からは出血が生じていた。

「し、修司……!」「大丈夫だ、ホンの掠り傷だ」

 巨大化している修司を見上げて心配している一言をかけるミラーガールに対し、修司はミラーガールを守るために盾代わりに使った右手の甲に突き刺さる巨大手裏剣を左手で抜き取ると手裏剣を遠くの方に投げ捨てて再び風魔風斗と[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に戦いを仕掛ける。

 しかしこの時、コウリンは人知れず「フ」と口元に薄ら笑いを浮かべていた。

「おりゃッ!」

 その後もコウリンや風斗に強烈な一打を浴びせようと地面に向けて拳を打ち付ける修司。だが巨大化したのが仇となってしまい、回避運動能力が高いコウリンと風斗には中々攻撃が当たらない。

 そんな修司にコウリンは紳士的な口調で声をかける。

「卿は……興奮すると周りが見えなくなるタイプだな。守るべきものが側にいながら、彼女らの事を忘れて戦いに没頭するとは……瑣末瑣末」

 皮肉混じりのコウリンの言動に修司は興奮を押さえ、必死に攻撃を当てようと的確にコウリンや風斗の動きを見切る。

 そして風斗の動きを見切った修司は、一気に右拳を風斗に向けて振り下ろした。が、その時。

「ウ…………ッ!」修司の動きが突然ピタリと止まった。

「し、修司……!?」突然の修司の異変に戸惑うメタルバードたち。

 すると修司は自然と右手を左手で押さえ始め、その場で膝を着いてしまう。

「どうしたんです! はっ、こ、これは……!」

 苦痛に表情を歪める修司にナースエンジェルが慌てて駆けつけると、修司の右手を見て愕然とした。

 何故なら修司の右手は、先ほど風魔風斗の大型手裏剣に対して盾代わりに使った右手の甲の傷口から紫色に不気味に変色していたのだ。

 この傷口から広がっていく紫色の変色反応が苦痛の原因と分かるものの、ナースエンジェルは急いで修司の変色していく傷口を治療しようとした。だが、そんな彼女に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が胸に突き刺さる現実を述べた。

「フッ、それは私が特別に調合した特製の毒でね……君らの治癒能力でも簡単に解毒する事は不可能だよ」

「そ、そんな……!」

 事実をコウリンから伝え聞いて愕然と成るナースエンジェル。実は前もって風斗の大型手裏剣には、コウリン特製の猛毒が塗られており、傷口から安易に毒素が体内に流れ込む要領だったのだ。

「こ、この……ッ。グッ……」

「修司さん、無理は禁物です! これ以上動けば、体に毒素が回るのも早くなります」

「く、クソ……ッ」

 なんとか手負いの状態でもコウリン達に一矢報いたいと動こうとする修司に、ナースエンジェルは動けば動くほど体内に右手からの毒素が回りやすくなるからと修司に動かないよう指摘する。

 しかし修司が手負いになった状態でも、コウリンに雇われた風斗は絶えず修司達に猛攻を仕掛けていく。

「うわあっ!」

 疾風の如く錐揉み回転しながら刃で切り刻んでくる風斗の風の戦術に、セーラー戦士たちも苦戦する。

 すると此処で修司が左手で聖龍剣を拾うと、それをスグに鞘に納めて、続けて左手を地面に押し付けて皆に言い放った。

「左手だけでも何とかならあ! ……テメェら! 集まれ! こうなったら最後の禁術を使うしかねえ」

 禁術を使うしかないという修司の判断に、風斗に追い詰められていた聖龍HEADは了解する。

 そして皆は修司の周りに集まると、修司は地面に押し当てていた左手から黒い靄を生み出し、その靄が修司達の周囲に巨大な円形の陣を形成する。そして陣が完成した直後、聖龍HEADは各々が持つ力を出し切って禁術「天変地異」を発動した。

 発動した天変地異は周囲に凄まじいつむじ風と落雷を発生させ、まさしくこの世の終わりかと思わんばかりの光景だった。

 しかし、そんなつむじ風をもろもとせず、また落雷にすら動揺しない風魔風斗は、つむじ風や落雷を避けながら猛進し、聖龍HEADに再び攻撃を仕掛けていく。

 素早く身をこなし、HEADの攻撃を避けつつ彼女達に鋭い太刀筋を浴びせていく風斗。

 この猛攻に聖龍隊は苦戦を強いられ、それを見かねた修司も反撃に転ずる。

「コイツ……!」

 だが修司は右手の損傷により、もはや刀を握れない状態に陥り、左拳で風斗を殴り付けようとするが、俊敏な風斗はそれを容易く回避して修司に忍刀で斬りかかる。しかし修司もまた後方へと身を退いて、風斗の斬撃を回避。

 そんな激しい攻防が展開する中、毒を受けて疲労困憊になっていたのか修司の能力が途切れてしまい、修司の闇を繋ぎ目として発生させていた天変地異も静まり返ってしまった。

「はぁ、はぁ……」

 激しい攻防を展開した修司たちは息を切らすものの、相手の風魔風斗は微塵も息を切らしておらず静かに佇んでいた。

 そんな両者の戦いを傍観していた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は、ふと足を前へと赴かせた。

 そして手負いの鬼神を前に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は薄ら笑いをHEADに向けながら語り出した。

「そうそう、鬼神よ。大人しくしておいた方が彼らの為にもなるぞ……卿が本当に仲間の幸せを望んでいるのならね」

 そういうとコウリンは顔を背けて正面とは別の方角に視線を向ける。

 これにHEADたちもコウリンが向いた方角へ顔を背けると、その視線の先には居たのは。

「す、済まないみんな!」

「助けに来た積りだったんだけど、逆に捕まっちまって……」

「ご、ごめんよ、うさぎ……」

 傷だらけの男たちを見て、HEADの木之元桜とナースエンジェルとセーラームーンが悲痛な顔で叫んだ。

「兄さん!」「賞!」「進悟……なんでまた?」

 そう、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の兵士に捕らえられていたのは三人の聖龍HEADの身内であり、聖龍隊の隊士でもある木之元桃矢、森谷賞、そして月野進悟の三人であった。

「ハハハハ、傑作だろ! 身内を助けんと駆けつけて来たのに、鼠を捕らえるよりも容易く捕まってしまった愚者どもの末路……余りの喜劇に笑いが止まらぬ」

 コウリンは高々と高笑いを飛ばしてみせる。

 三人は仲間の聖龍隊士と共に助成に駆けつけ様としたのだが、コウリンが風斗以外にも雇っていた戦忍たちに容易く捕まってしまい捕虜にされてしまっていた。

 そして他の捕虜達は[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の本拠地に連れられてしまい、三人のみが見せしめのためにこの場に連れてこられてしまっているのだ。

 コウリンは得物である宝刀をHEADたちに向けると、彼らに告げる。

「さあ、何をご所望かな? 焼け焦げた身内の鑑賞か、或いは卿らの体を燃やす炎の香りか……好きな方を選んでくれたまえ」

 コウリンは手負いの聖龍HEADに、身内が自分達どちらを焼かれたいか問い詰める。

 しかし小田原修司のみは、コウリンが例え自分たちを焼き尽くそうとも一瞬の隙を衝いて掴みかかりベア=ハッグを仕掛けようと企んでいた。

 そしてコウリンに人質を取られたHEADの出した答というと――――

「……分かった。そんなに燃える所が見たいなら、オレ達にしてくれ」

「バーンズ!」「副長!」

 メタルバードの出した結論に他の聖龍HEADも反対する事はなく全員が火達磨になる事を承諾する。だがこれに身内である桃矢や進悟は激しく反対の意を唱えるが、HEADの決意が揺らぐ事はなかった。

 HEADが出した答を聞き入れて、コウリンは薄ら笑いでメタルバードに言った。

「そうか、他者を守るために己が犠牲になる……フッ、とんだ茶番だな。まあ、いい。麗しき聖龍隊が燃え尽きるのを眺めるのもまた一興……と、言いたい所だが。バーンズよ、卿の変身は解いてくれたまえ」

「チッ、やっぱそうくるか」

 ものが壊れたり燃えたりして変わり果てる様にも趣を持つ[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は、如何なる攻撃にも耐性があるメタルバードに変身を解くように促す。

 これにメタルバードは渋々変身を解除して、元のバーンズへと姿を戻す。

「そうだ、ご苦労……燃えないのは流石につまらないからね」

 炎にも普通に耐性があるメタルバードのままでは燃やせないので変身を解かせるコウリンは、次の瞬間指を鳴らしてバーンズ達を業火に浴びせる。

「うわあ……!」「きゃあっ」

「さくら!」「うさぎ!」「ね、姉ちゃん!」

 紅蓮の炎に身を包まれる聖龍HEADを目の当たりにして、桃矢に進悟、賞の三人は悲愴な面立ちに表情が一変する。

 炎上し、炎に完全に包み込まれるHEADを一通り眺めたコウリンは、満足げにその場から立ち去ろうとする。

 が、その時であった。燃え上がる炎の中から強烈な衝撃波が繰り出され、炎は全て掻き消されてしまった。そして衝撃波を起こした修司はコウリンの方へと跳びかかる。だがコウリンは修司の気配に逸早く感づいたのか、素早く横へと回避して修司が仕掛けようとしていたベア=ハッグは外れてしまった。

 すると其処に、修司に続けと他の聖龍隊士も続々と再び臨戦態勢に入る。

「コウリン……! テメェだけは許さねえ……!」

 声質の変わった修司に言われ、コウリンは不思議そうな言動で修司に話した。

「フハハ、何を許してくれだって? 卿がそれを言うのは場違いというものではないのかね」

「なん、だと……!」

 コウリンは続けて動揺する修司に語り掛ける。

「卿は今まで二次元人という種を守り続けるがために、多くの人命を蔑ろにしてきた。無論、二次元人であろうが三次元人であろうが大勢をね」

「………………………………」

「守ると言いながら、その守るべき存在を軽蔑し……更には悪だの善だのとくだらぬ分別をしている。そんな卿に愛する者を守る資格はあるのだろうかね」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]から事実を指摘された修司は何も言い返すことができず、ただただ黙然とコウリンを見据えるだけだった。

「他の聖龍隊も同じだ。正義や理想だの、くだらない偽善ばかり並べて……失礼だが、思わず吐き気を催してしまうほどだよ」

「テメェ……!!」

 聖龍隊の多くが掲げる理想を侮辱したコウリンにバーンズが怒りを露にする。

 そして皆の怒りを感じ取り、修司がコウリンに再度攻撃を仕掛けようとした、その時。

「ウゥ……ッ!!」突如として修司が激しく悶絶した。

「修司!?」「一体、どうしたんです!?」

 突然の修司の急変にミラーガールもナースエンジェルも焦燥するが、そんな彼女達に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は涼しげな面差しで訳を語る。

「実は先ほど、鬼神に植え付けた毒素は熱に非常に敏感でね……火の熱で毒素が強まったのかもしれない」

「な、なんですって!」

 コウリンの発言にミラーガールの動揺は激しさを増す。

 だが、それでも修司はコウリンに一矢報い、捕虜とされている仲間を救い出そうと右手の激痛に耐えながら前進しようとする。

 しかし「修司! これ以上は無理だ。何より味方が人質にされているのに迂闊な真似はできん! 此処は一旦、退くぞ!」とバーンズが修司に指摘する。

 だが修司の興奮は収まりきれなかった。

「何を言う! 人質ばかり取りやがって……しかも仲間を、俺の仲間を侮辱しやがって! 許せねえ……!!」

 すると修司の台詞を聞いたコウリンは、またしても彼に煽り文句を投げ付けてきた。

「俺の仲間、だと……? フッ、他人を信じられない卿に、本当の仲間ができるとは到底思えないがね。それこそ人間のエゴではないのか」

 またしても事実を突き付けられる修司だが、それ以上に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に報いようと仲間の制止を聞かず進撃しようとしていた。

「修司、落ち着け!」「修司くん、駄目よ!」

「傷が……傷口の毒素がますます広がっています!」

 仲間達の制止の言葉が頭の中に過ぎりながら、修司は目の前の[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]にだけ視線を向けていた。いつの間にか風魔風斗の姿は何処かへ消えていた。

 そして仲間達に制止される修司をほくそ笑みながらコウリンは彼らに背を向けて、捕虜として捕らえた聖龍隊の隊士を引き連れて森の奥へと消えていった。

 

「ちくしょう……チクショーーーーッ!!」

 己の本心を言い当てられた事も含み、捕虜と化した仲間を救い出せなかった現実に激しく打ちのめされ、修司は激しく吼えた。

 

 

[龍頭の決闘]

 

 疾風の戦忍、風魔風斗の裏切りにより、右手に深い毒の傷を負った小田原修司。

 決死の覚悟でコウリンに挑もうとするが、捕虜として捕らえられた仲間達の安否のため、そして右手の甲を襲う毒の傷には耐えられず、仲間のHEADに連れ帰られてしまう。

 仲間を攫い、その人質までも巻き込んで死に追いやろうとしたコウリンに一矢も報いられなかった修司は再び激昂し、ミラーガールやバーンズ達HEADの制止も聞かず、怪我をおして出撃しようとしていた。

「無茶は止めて! その傷じゃ刀すら満足に振るえないっていうのに……!」

「早まるんじゃねえ、修司!」

 必死に修司を宥め、制止させようとするミラーガールやバーンズたち。だが修司の考えは彼ら以上に深かった。

 

「………………………………」

「………………………………」

 吹き荒ぶ荒野。そこに何も言わず立ち尽くし、互いに静かに見据え合う修司とHEADの姿があった。

「……お前ら、本気で俺を止められるとでも思ってんのか?」

「し、修司……一体、何を考えて……」

 テレパシーが使えるメタルバードも、激しい殺気を身に纏う修司の思考だけは読み取れなかった。

「……一つ、聞かせてもらいてえ。なんでお前らは俺の戦意を阻んでまで邪魔した」

 修司は風斗とコウリンの決闘に対して、何ゆえ邪魔してまで戦いを中断させたのか仲間に問うた。するとメタルバードが修司の質問に答える。

「本質を忘れるな……! 軍の大将というのは、如何なる戦においても生き延びなきゃならないもの……お前が背負う仲間や人民を思えばこそ、オレ達は……!」

「その仲間を傷つけられ、罵声さえていても……見て見ぬ振りをしてろってか」

「そ、それは……!」指摘を受けて堂本海人が動揺する。

 が、修司はスグに語り出してくれた。

「まあ、お前達の考えは最もだが……」

 皆が修司の言葉に安堵を覚えた直後、修司は無傷の左手で聖龍剣を抜刀してHEADと向き合った。

「だがな……右か左か、揺れる天秤を眺めるのは趣味じゃない」

 仲間の命や誇りを天秤に諮るのを最も嫌う修司の一言に、HEADは絶句した。

「……そもそも、お前らは間違っている。仲間や人民が欲しているのは俺という力の象徴みたいな男じゃない」

 修司は同胞であるHEADに刃を向けたまま言い切った。

「――――[[rb:二次元人 > おまえたち]]という[[rb:希望 > ひかり]]を、人々は望んでいる」

 そして修司はHEADに刃の如き言葉を投げ付けた。

「退け、その美顔に傷が付きたくなければな」

 修司は強引にも、コウリンの元に単身で向かおうと決意していた。それに対し、メタルバードらHEADの面々も修司の決意を受け取り、やむを得ず戦闘態勢に入る。

「今回ばかりは……手を引く訳にはいかねえ。お前を死なせたくはねえ」

 メタルバードの言葉を受け取り、修司も刃を突き立てて言い返す。

「俺も同じだ…………お前達をこれ以上、血に染まらせる訳にはいかない」

 HEADの姿勢に修司は戦ってまでコウリンの許へと向かう意志を曲げない。

「今のお前を止めるためなら……刃を交える事も辞さない覚悟だぜ、オレ達は」

「フッ、上等だ……」

 制止する為なら刃を交える事も辞さないと称するメタルバードの構えに、修司も左手に逆手の状態で聖龍剣を握り締めて応える。

 

一刀鬼神 小田原修司 推参

 

 慣れない左手でいつもの様に逆手で得物を持ち、戦う修司の戦力は確かに低くなっていた。だが、それでも修司は自分を制止しようとするHEADたちを喧嘩腰で殴り付け、更には蹴り付けて応戦を展開する。

「おらおらどうした! 手負いの鬼を舐めてちゃ困るぜ……!」

 完全に喧嘩腰でHEADに攻撃を仕掛けてくる修司に、HEADもどうにか修司を抑制しようと応戦する。

「左手だけでマトモに戦うのは無謀だわ! あなたは此処に留まって、あとは私たちに任せて……」

「それがいらねえお節介だって、分からねえのか!」

 利き手を毒で封じられ、左手のみで戦いに行こうとする修司をどうにか本陣に留めさせようとキューティーハニーが制止するが、修司は彼女に一喝浴びせると斬り付けて押し倒してしまう。

「修司君が怒るのも無理ないわ……だけど、今の状態で行くのは無謀すぎるわ!」

「……お前達が血を浴びる事に比べれば、造作もないことよ……!」

 修司は更に立ちはだかる春日結たちコレクターズにも斬撃波を浴びせて圧し進む。

「……! みんなが……みんなが、どれだけあなたの事を思っているか分からないほどバカじゃないでしょ! これ以上、暴走するのだけはやめて……」

「お前たちを血に染まらせない為なら……俺はいくらでも暴走するし、自ずと悪鬼にでもなろう」

 目の前で両腕を広げて制止しようと立ちはだかるナースエンジェルに、修司は彼女の腹部に右肘を打ち込み、ナースエンジェルが頭を下げた瞬間に彼女の後頭部を刀を握る左手で殴り付けて撃退する。

「なんで……なんで其処まで!?」

「希望という光を、どす黒い血で覆う訳にはいかないだろう……その為に俺は刃を振るい続ける!」

 次々とセーラー戦士達を慣れない左からの剣戟で切り倒して行く修司に大泣きするセーラームーンが問い掛けるが、修司の攻撃がやむ事はなかった。

「こんなの……こんなの、間違っているよ! 友達同士で傷付け合うなんて……!」

「こんな血塗れの鬼と仲良くしたって、何の得も無ェ事をまだ解っちゃいないようだな、さくら!」

 友と友が傷付けあう事に深く痛感する木之元桜に対し、修司は聖龍剣を思いっきり振りつけて斬撃。それをさくらのソード「剣」が防ぐが、修司の力任せの斬撃を防ぎ切れず、さくらは弾き飛ばされてしまう。

「静まって、修司君! これ以上の戦闘は右手に負担がかかるだけよ!」

「もう剣を下ろしてください、修司さん」

「修くん、もうやめて!」

「……かつてのお前等なら、勧善懲悪だけじゃ世の中を渡っていけるのは無理だと自認していたと思ってたんだがな……!」

 聖龍剣を納める様に言い渡す魔法騎士の風、海、光に、修司は静かに語り掛けながら刃を納めず振るい続ける。

「どうして……どうして……あなたは其処まで自分を追い詰めてしまうの? 昔からの悪い癖よ……!」

「この悪癖を身に付けさせた根本がテメェらだと言うのにか……!? ちせ、テメェもこれ以上戦う必要は無い!」

 修司は戦意のないちせの制止にまでも聞き入れず、彼女に刃を振るう。

「私たちだって気持ちは同じニャ! コウリンを倒して、みんなから奪ったものを取り返すニャ……っ!」

「そうだ……取り返さなきゃならない。だが、それ以上にもうこれ以上、失わせる訳にもいかない……!」

 力で押さえ付けて制止しようとする東京ミュウミュウ達に、修司はひらりと攻撃を回避して斬撃波を繰り出す。

「前々から気付いていたけど……修司さんは余りに一人で抱え込みすぎてる。それなのに……!」

「それもこれも……お前達を清らかなままで往生させたいだけのこと」

 前方からやってくる、るちあ達が発生させた大波を縦に振り付けた斬撃で一刀両断してみせる修司。

「……私たちを戦わせるために聖龍隊に加盟させたんでしょ? それなのに、今さら後には退けないわ」

「如何にも……! されど、あの畜生の外道なる血にまで染まる事はない。真紅、如何にもお前の名が真紅であったもだ」

 コウリンの薄汚い血に染まる必要はないと説く修司は、抑制しようと押しかける真紅たちローゼンメイデンを片っ端から斬り捨てる。

「修司さん……私たちを斬ってまで、コウリンのところに行く気なの?」

「如何にも。俺は下らぬ人の争いに決着をつける……人外である二次元人が、しゃしゃり出る必要はない!」

「いいえ! 私たちも一緒に戦っているわ……そうやって修司さんはいつも、私たちに血を浴びせまいと無理をして」

「フッ、いらぬ心配よ」

 修司と水の刃で激しく衝突し合うウォーターフェアリーであったが、修司に力負けしてしまう。

 こうして次々と躊躇う事無く、仲間である聖龍HEADを斬り捨てていった修司。残るはメタルバード、ジュピターキッド、そして修司を心から愛するミラーガールのみ。

 修司は最後に残った三人を前に、周りでのた打ち回る既に斬り捨てた同胞に聞こえるような声で語った。

「みんな…………お前達は自分達の本質を理解してると思うけどな? 二次元人は希望の象徴、それが人間の下らない争いに付き合う必要はないんだ。そんなお前達が戦場にいること自体、場違いなんだよ……」

 すると、この修司の発言にメタルバードが返した。

「それでもオレ達は何度でも名乗り挙げよう。お前がオレ達を血で穢れさせたくない様に、オレ達もまたお前に死地へと赴いてほしくは無いんだ!」

 決して退こうとはしない両者たち。彼らは全員、相手を死なすのではなく、生きて欲しいがために、敵の血を浴びて欲しくはないために戦い合っていた。

「傷を負い、大地をその血で濡らそうとも……お前は、オレ達の代わりに血を流し続ける」

 どんなに傷を負おうが、どんなに血で己の体が濡れようが、決して戦いをやめず、友の代わりに血塗れの戦いに身を投じ続けてきた修司にメタルバードが説く。

 しかし頑固者の修司の決意は硬く、修司は荒っぽい動作で絶えず左手から剣戟を振るい続けてきた。

「聖龍隊を……仲間を侮辱されて黙っていろってのか!」

「自分の立場を忘れるな! ……お前も分かってるはずだ! いい年した大人なら分かってるだろ」

 昔の様に子供同士ではなく、成人した大人同士での話し合いにメタルバードが修司とケリを付けようと言い寄る。

 だが「そんな事はオレ達が一番わかっている!」修司はメタルバード達に言い放つ。

「分かってるなら刀を納めて、療養に専念してくれ……義兄さん……!」

 右手に染み渡る紫色の変色を気にかけ、ジュピターキッドが説き伏せようとする。が、修司はそれでも戦う事をやめない。

「俺の決意は、お前達を守ることだ……! お前達を血で穢れさせないために、俺が今までどんな想いをしてきたか……分かってんのか!!」

 修司の怒号にメタルバードが反論する。

「そうだ、お前が言うようにオレ達は三次元人の希望……なら、その三次元人たるテメェを死なせる訳にもイかねえんだ! アニメタウンの事も、聖龍隊の事もある……無理しないでくれ」

 人民をも想うメタルバードの言い分に、修司はこう返した。

「ならばなおのこと、民草の事を忘れるべからず! お前達の責の重さを考えるんだ!」

 自分の事より、聖龍隊やアニメタウンの人民の事を考えるべきだと修司に説き返されてしまう三人。

「修司! どうしても行ってしまうの……? 自分の命を投げ捨ててまで……!」

 ミラーガールが切実に修司に訊ねると、修司は猛りながら答えた。

「お前達は未来を照らす希望なんだ! 血で穢れるのは俺だけで十分だ!」

 叫びながら獣の如く猛る修司の猛進撃に、聖龍HEADは完全に押されていた。

「どうした……! ぼんやりしてたら首が飛ぶぜ。本気で人を殺められないテメェらが、出しゃばるんじゃねえ!」

 しかし聖龍HEADはどうしても手負いの修司に本気の攻撃をぶつける事ができなかった。

「手加減したとでも言うつもりか……その甘さが、コウリンに付け込まれる所以だ!」

 いくら此方から攻撃しても、決して本気を見せないHEADに苛立ちを覚え始める修司。

 すると此処で修司の体に異変が。そう、右手から染み渡る毒素が体に負担をかけ始めていたのだ。

「うゥ……! ふぅ、俺とした事が……こういう時こそ冷静に剣を構えないとな。だが、立ち止まる訳にはいかないんだ……!」

 次の瞬間、修司は闇の覇気を纏って、全力でHEADに挑んできた。

「どうしたHEADよ……俺を止められねえのか?」

「修司っ……無茶しないで……っ!」

 闇の覇気を纏って戦い始める修司を目の当たりにして、ミラーガールは一様に惑う。

 闇の覇気を纏った修司を前に、先ほど修司に斬り捨てられたHEADの面々も立ち上がり、再び修司を止めようと仕掛けていく。

「刃を収めるのよ、修司! これ以上の戦闘は、あなたの体に負担が……!」

 セーラープルートが修司を制止しようと声をかけるものの、当の修司は完全に殺戮状態へと変異していた。

「人を殺して行千里……俺もまだまだ舐められたものよ」

 刃で容赦なく斬り付けてくる修司に、HEADは喉が痛むまで叫びかける。

「もう止して! あなたの傷は、まだ完全に癒えていないの!!」

 ナースエンジェルのこの言葉にも、仲間の仇を討とうと躍起になる修司には届かなかった。

「だから手加減してると言うつもりか……? その甘さ、優しさこそが命取りだという事にまだ分からぬか!」

 修司は自分を心配してくれるナースエンジェルに斬り付ける。「きゃあっ」斬撃に弾かれ、吹き飛ばされてしまうナースエンジェル。

 自分を取り囲む仲間達に、修司は言った。

「俺を怒らせて後悔しろよ……! 俺は……俺は、お前達をこれ以上、戦わせたくはないんだ!!」

 自分の切実な想いを吐き散らす修司は、闇の覇気を周囲に展開させ、その衝撃で周囲のHEADを吹き飛ばした。

「俺は死を恐れねえ……恐れるのは、遺せぬことよ……!」

 修司の力強い言動にHEADは衝撃を受ける。彼が恐れている事は己の死ではなく、希望ともいえる二次元人を後世に遺せない事だったからだ。

 更に修司は、毒素で体が弱ってきているのか、普段は決して見せない素直な一面で刃を振るってきた。

「俺は……お前達に救われた。お前達に出会えたからこそ、今の俺がある! だから、そんなお前たち二次元人をこれ以上、血に染めたくはねえんだ……!」

 過去に大恩を感じている修司は、そんな自分の人生を救ってくれた二次元人を血で穢れさせたくは無いという想いを正直に打ち明ける。

 その間、修司は再び立ち上がる仲間のHEADを斬り付けながら邁進する。

 そして遂には義弟であるジュピターキッドや、自分を愛してくれるミラーガールまでも斬り捨て、修司は最後に斬撃の効かないメタルバードを左拳で殴り付けて転倒させる。

 顔を殴られ、後ろへと転倒してしまうメタルバードを前に、普段は決して己の真意を打ち明けない修司が、毒素で体が弱っている影響なのか己の信条を皆に言い放つ。

「俺は……お前達が血に染まるぐらいなら、俺自身でその血を浴び続ける。それが俺が選んだ未来だ!!」

 そう言い残すと、修司はメタルバードに背を向けて言った。

「……これは、俺の総長としての最後の言葉だ……HEAD、戦いはやめろ! コウリンが死んだ後は……どうか穏やかにやっていってくれ」

 修司からの最後だという指示に、HEADは全員衝撃を受ける。

 そして修司はコウリンの元へと馳せ参じようと前進する。

 利腕である右手を封じられ、慣れていない左手のみで刀を振るい邁進する修司にメタルバードは茫然となりながらも、ただただ見据える事しかできなかった。

「……お前達が血を浴びるぐらいなら、俺が代わりに血を浴びる……か…………」

 もはや修司の決意は硬く、誰も彼を制止する事ができなければ、彼の望むままに血で穢れる事も許されなかったメタルバード達HEADは失意の底につく。

 

 そして修司は単身、仲間を捕虜として捕らえた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の元へと赴くのだった。

 

 

[覚悟]

 

 未来に遺すべき希望、二次元人。

 その二次元人の身内や親友をコウリンより奪還せんと決意を新たにした修司は、一人コウリンの元へ向かった。

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が根城にしている本陣、それは共産党が崩壊し、放置されていた万里の長城だった。

 修司は単身、コウリンが根城にしている万里の長城へと乗り込んでいく。

「コウリン……テメェには地獄の扉の開き方を教えてやるぜ!」

 一方、修司からコウリンとの決戦に挑むなと命じられた聖龍HEADは自問自答していた。

 自分たち二次元人を血で穢れさせたくはない為に、自ら死地へと赴いた修司の決意と志を受けて、どうすればいいのか迷走していた。

「修司は最後までオレたち二次元人のために戦い続けてくれる……だが、それにオレ達が応える事はできねえのか……!」

 副長バーンズは悩んだ。このまま修司を単身行かせれば、必ず生きて帰る事はない。だが、修司を助けに向かえば必ずコウリン軍の兵士と激突して彼らの血を浴びる事に。そうなれば修司の決意を踏み躙る事になる。

 修司の命と決意の板ばさみに、HEADは苦しんでいた。

 

 小田原修司が単身、万里の長城へと向かっていたその頃。聖龍HEADは万里の長城が見渡せる地点まで赴き、状況を見据えていた。

 既に万里城には幾多の[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の兵士達が占拠し、数多の見張りがついていた。単身で、それも負傷した者が襲撃すれば忽ち発見され、激しい攻防が展開されるであろう。

 そんな万里城を、何もできずにただ見据えるしかできない聖龍HEADは、もどかしい現状に葛藤していた。

「修司は……修司は、オレ達の代わりにあそこへ飛び込んで死ぬ気だ」

「仲間を救い……誇りを守り……挙句の果てにはボクらの代わりに血塗れになってもね」

 万里城を見据え、メタルバードとジュピターキッドがぽつりと呟く様に語り合う。

 手負いの修司だけに戦わせれば、無事で済む保証はない。だが、それでも駆け付けて敵兵と攻防し合えば必ず相手の血を浴びる結果も見えていた、それでは修司の理想とする信念が消えてしまう。

 理想と信念、二つの板挟みに遭いながらも、HEADは思い悩み続けた。

「……アッコちゃん……」

「……はい」

「アッコちゃんは、どうしたい? このまま修司君を見捨てちゃっても、良いと思うの……!」

 涙目で問い掛けてくるセーラームーンに、ミラーガールは潤んだ瞳で正直に答えた。

「もう、どうしたらいいか……私にも解りません。修司の言っている事も理解できます……大切な人を血に染まらせたくない修司の想い。だけど、それで自分一人で全てを背負い込む修司の決意……私には、どれもこれも心では理解しているけど……どうしても納得できないんです……!」

 遂には泣き崩れてしまうミラーガールの哀しい想いを聴いて、HEAD一同は胸を締め付けられた。

 そんなミラーガールは大粒の涙をボロボロと流しながら語り続ける。

「今までそうだった……どんな大きな戦いや争いが起きようと、修司は私たち二次元人には出撃させてくれなかったし……特に普通の人間相手の戦いなら、自分一人で終わらせて血塗れになって帰ってきて……!」

「………………………………………………………………」

「本当に自分勝手で、身勝手で……誰よりも、無茶してばかりで……心配かけて…………」

 泣き崩れるミラーガールに、最年長者のセーラープルートが寄り添い、彼女の両肩に手を掛けて静かにミラーガールを励ます。

 そんなミラーガール同様、涙目になるHEADの女性達を見てメタルバードは思い空気の中、口を開いた。

「…………奴は、自分の思い通りに……想った様な世界にならなきゃ気が済まねえ男よ。その点、言っちゃ何だがコウリンと似ているよ」

「バーンズ、いきなりどうした……?」

 突然突拍子もない事を言い出すメタルバードにジュピターキッドが驚いた様子で訊ねる。

 するとメタルバードは腕を組み、思い耽った力強い面差しで唐突に語り出した。

「人間ってのは思い通りにならないと苦しくなる身勝手な生き物さ。そういった意味じゃ、あのコウリンは最も人間らしい人間だって事だ」

「バーンズ、何が言いたい……」

 若干の強面でエンディミオンが言う。

「……要するにだ、人間ってのは自分の思い通りに生きていくのも正直な姿だって事さ。今までオレ達が対峙してきた武将たちもそうだったように、誰もが己の信じる新年の元、戦い続けていただろう。思い通りに、信念のままに……自分が信じた道を貫き通すのも人間の真の姿だってこと。そういう意味じゃ、オレ達だって自分の信念……信じた運命って奴を勝手に切り開く権限ぐらいはあるんじゃねえのかね?」

「信じた、運命……!」メタルバードの発言に、鳳凰寺風が衝撃を受ける。

「修司がオレ達に、勝手な理想像を押し付けるのは昔からそうだった。だけど、オレ達も修司ももうガキじゃねえ。自分が選んだ道の重さ、責任の重大さぐらいは理解しているだろ」

 自らが信じた運命を切り開くのも、人間の真の姿であると説くメタルバードは前へと足を踏み出して更に語る。

「……オレは行く。もう修司にだけ重荷を背負わせるのはゴメンだ。それに、オレも血を浴びる覚悟は既に決めている積りだった、いつの間にか修司にだけ、その重荷を……血という業を背負わせちまう格好の悪い現実だけをオレは見るしかできなかったが、それも今日までだ」

 次の瞬間、メタルバードは今まで自分たち二次元人の代わりに血を浴び続けてきた修司への贖罪に値する言葉を言い放った。

「オレも修羅の道を行く! たとえこの銀色の体が血で真っ赤に染まろうとも、アイツにだけいい格好させてたまるか!!」

「!!」メタルバードの覚悟を決めた言動に、聖龍HEAD一同は目を覚ました。

 修司が言う理想も、結局は人間のエゴ。二次元人を清らかなままで往生させたいという彼の身勝手な振る舞い、彼はその振る舞いから今までどれだけの多くの血を浴びてきた事か。そんな修司の理想のために、救いたい、助けたい仲間を見殺しにするぐらいなら、自分達もまたこの身が血で穢れようとも救いたい戦友のために腕を振るおう。そう、修司が今まで自分達にしてきてくれたように、今度は自分達が修司のために、仲間のために真っ赤な血で己が身を染めようとメタルバードは決意したのだ。

 このメタルバードの決意に、ジュピターキッドは精悍な面立ちで前へと歩んでいく。そして、それに続くかのようにウォーターフェアリーも前へと進む。

 更にメタルバードの覚悟を受けて、今まで修司に守られてきた他の聖龍HEADも前へと突き進んでいく。

 前へと進み出すHEADを見て、誰よりも戦いを悲観するミラーガールも決意する。そして目から零れ出た涙を拭うと、皆と共に前へと力強く歩き出す。

 もう友にだけ血を浴びせる日々は終わった。今度はその友のために、己も血を浴びる修羅の道へと踏み入れようと、聖龍HEADは頑なに決心したのであった。

 

 と、その時だった。

 聖龍HEADが邁進していると、視界に捉えている万里の長城から爆発による炎上と煙が上がるのが目視された。

「ッ!!」

 突然の爆発と炎上に、聖龍HEAD一同が愕然としていると、メタルバードが憤った顔で呟いた、

「ッ……修司の奴、もう戦い始めたか……!」

 決意を胸に人質奪還と修司への助太刀へと向かおうとする聖龍隊の切願も虚しく、既に修司と[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]軍との戦いは始まってしまった。

 その頃の小田原修司は、右手の激痛に耐えながら、左手で日本刀である聖龍剣を逆手で握り締め、眼前に迫るコウリン軍の兵士を辛うじて斬り捨てていってた。

「このッ!」

 修司は慣れない左手からの剣戟を振るい、目の前の兵士を斬りつける。

「ぐはあっ!」

 斬り捨てられた兵士は、自分もろとも斬られた万里の長城の城壁の出っ張り部分と共に、城壁から転落していった。

「くっ、左下にズレやがるか……!」

 修司は慣れない左手からの太刀筋が、若干左下にズレている事実に表情を歪ませる。

 だが、そんな修司に兵士達は果敢に攻め続ける。

「者共、かかれっ!」

 鉄砲隊が修司に狙いを付けようとするが、修司の足は無傷であり容易く射程から横へと身を反らすと即決で鉄砲隊に斬撃波を放ち、鉄砲隊を蹴散らす。

 すると修司の襲撃報告を部下から聞いた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は、万里城に仕掛けてあった監視カメラから戦う修司の姿を捉え、更に修司の足元に転がっている斬り捨てられた兵士の無線機から修司に問い掛けてきた。

「あーー、もしもし。鬼神よ、聞こえている様なら、この通信機をどうか着けてくれないかね? なに、別に機材そのものに何か仕掛けている訳ではない」

 足元に転がる敵兵の通信機から流れるコウリンの声に気付いた修司は、無線の通信機を耳に装着して彼の応答に答える意思を示した。この時、修司は死ぬ覚悟で挑みに来ていたため聖龍隊の通信機を耳に装着していなかった。

「まだ生きていたのかね鬼神。卿も、しぶとい男だな」

「まったくだ……今はこのしぶとさに感謝してるぜ」

 通信機を通して[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]と話をしながら、周辺の敵を斬り捨てて進む修司。そんな修司にコウリンは問うた。

「部下も連れず、たった一人で何をしに来た? また好きなように壊しに来たのかね?」

「戯言を……奪われたものを取り戻し、テメェに借りを返しに来た、それだけだ」

 人質奪還と、踏み躙られた仲間の誇りに対する借りを返しに来ただけと告げる修司は、逆にコウリンに問うた。

「風魔風斗を雇って、ウチの連中をかどわかしたのはテメェか」

「私の趣味は「高みの見物」でね……どうだい、笑ってしまうだろう?」

 伝説の戦忍、風魔風斗を雇って仲間達を誘拐させたのかと問う修司に対し、コウリンは自らの趣味を高みの見物と嘲る。

 そんな上から目線で偽善者を嘲る[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は修司に言い切った。

「来てもらったのにすまないが、卿の仲間達の宝は此処にはない」

「そうか……なら話は簡単だ。テメェをブッ倒してから探すまでよ」

「ハハハ、今さら器の小さい事を言わないでくれ」

 修司は[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の舐めきった態度に怒りを覚えつつ、慣れない左手からの剣戟に苦闘しながら周囲から迫る敵兵を悉く斬り捨てていった。

 と、ここで修司はコウリンの能書きにこれ以上付き合うまいと、拾い取った敵兵の通信機を投げ捨てて、再び単身で万里城を突き進む。

 すると万里城の城壁を爆破して、敵兵が雪崩れ込できた。と、同時に万里城の一部分も崩落してしまい、向こう側に渡れなくなってしまった。

「コウリン様は俺達の事を分かってくれる方だ……貴様と違ってな」

 右から左から続々と万里城より爆撃してくる敵兵に躊躇う事なく刀を振るう修司は邁進し続ける。

 万里城を渡れなくなった修司は、仕方なく一旦万里城より飛び降りて、地上を徒歩で進もうと判断。

 すると降りた林の奥で、何やら人影が。修司は気になり、早速そこへと足を向かわせる。

 進撃する修司の視界に、軍を指揮する上官兵の後ろの石柱に縛られている人質が一人、木之元桃矢が映り込んだ。

「修司! 助けに来てくれたのか!」

 修司は上官兵を真っ先に斬り付けて、背後の石柱に捕らえられている桃矢を縛る縄を斬り付け、彼を解放する。

 一人目の捕虜を解放した修司は、有無も言わずに次の地点へと移動する。

「うわあああ、鬼だ! 鬼がいる!」

 怒りで我を半ば忘れている修司を見て、敵兵は脅え、立ちすくむ。

「この修司、伊達に鬼神とは呼ばれてねぇ」

 修司は上官兵を殺されて、酷く戸惑う敵兵たちを敢えて見逃しつつ鬼神と自称していると助けられた桃矢が修司に訊ねた。

「し、修司……さくら達は?」

 毎回の様に聖龍HEADで助けに来てくれたのかと思っていた桃矢は、妹である木之元桜の姿ら他のHEADの姿が無い事に気付く。

 すると修司は鋭い眼光で桃矢に言った。

「血に染まる必要のない奴は……ここにはいない」

 この言葉に桃矢は一瞬唖然としてしまうが、そんな桃矢に修司は「さっさと逃げろ!」と、そういって驀進するのだった。

 修司の言動に、いつもの様子とは異なる事実を噛みしめながらも、桃矢はその場を立ち去った。

 一方で万里城に沿って移動する修司は、再び万里城内部へと侵攻を開始。

「俺はこの世の果てまでテメェを追う。俺から逃げられた咎人なぞ、この世にはいねえ……!」

 万里城を侵攻する修司は目付きを更に鋭くさせて邁進する。

 すると前方に、再度石柱に縛り付けられている人影と、その周囲を取り囲むように敵兵の集団が。

 接近してみると捕らえられている人質は森谷賞であった。修司は果敢に賞を取り囲む敵兵達を次々に圧倒していき、賞を縛り付けていた縄を断ち切った。

「ありがとう修司さん!  来てくれるって信じてた……!」

 大いに喜ぶ賞とは反対に、修司は険しい表情に影を落として賞に言った。

「……賞……」「なんだい?」「……姉ちゃんを、大事にな」

 修司は呟く様に、賞に姉であるナースエンジェルを大事にするように言伝すると、颯爽とその場から駆け出し、次の地点まで走る。

「あ、修司さん…………ど、どうしたんだ?」

 様子の可笑しい修司に戸惑いを抱きつつも、森谷賞もそそくさとその場から立ち去る。

 確実に捕らえられている人質を解放しつつ、進軍する修司。

 そんな修司の前に、また新たなる人質の姿が。

「! 進悟!」「し、修司さ~~ん!」

 目の前で捕らえられていたのはセーラームーンが実弟、月野進悟であった。だが、その進悟の周りを事もあろうに鉄砲隊が銃を構えて迎え撃つ体制を整えていた。

「狙いよし……撃てェ!」

 上官兵の一言で、修司に狙いをつけて狙撃し始める兵士達。修司は素早く近くの物陰へと潜み、弾幕を回避する。

 飛び交う弾幕をどうにか突破しようと修司は、先ほど自分が斬り捨てた兵士の刀などの刃物を片手だけで辛うじて多めに拾い集めると、それを鉄砲隊に向けて次々に投げ飛ばしていく。

「ぐはっ」「ぎゃッ!」

 修司が投げ付けた刃物は鉄砲隊の兵士達に直撃し、全員が死滅または銃撃が一時的に止まった。

 銃撃が一瞬止まったのを狙い、修司は鉄砲隊に急接近し、物凄い勢いで抜刀して敵兵達を全て吹き飛ばして見せる。

「うわあ!」

 衝撃波で吹き飛ばされる兵士を黙視すると、修司は月野進悟の元に駆け寄り、彼を縛り付ける縄を断ち切った。

「た、助かったぁ……修司さん、あんがと」

 礼を言う進悟に対しても、修司は無愛想な顔で一言告げるだけ。

「進悟……姉貴と仲良くな」「?」

 進悟がきょとんとする中、修司は再び駆け出して進悟の前から立ち去ってしまう。

 全ては大切な友のため、生きる喜びを与えてくれた仲間のため、彼らに代わって己が体を血で染めようと決意した修司の前に立ちはだかる敵は、全て残骸となるのみ。

 もはや利き手が利かなくなっているとは思えない程の勢いで驀進する修司の剣戟に、コウリン軍の中には戸惑いを抱く者も現れ始めた。

「あ、あり得ん! あり得んことだ!」

 戸惑い始める上官兵にも修司は情け容赦なく斬り捨てる。

 そのまま驀進を続ける修司の前に、見慣れた人物の姿が目視された。

「! シュウジ……あいつも捕まってたか」

 自分と同名の仲間であり、ちせの恋人でもあるシュウジの姿を確認した修司は彼らの周囲に点在する敵兵を斬り捨て、シュウジを救い出す。

「修司、ありがとう! ……どうした? 他のみんなは……?」

 てっきり恋人のちせ達HEADも同伴していると思い込んでいたシュウジに、厳つい顔の修司は述べた。

「シュウジ、こんな傍若無人な総長で……ごめんな」

 唐突な謝罪に困惑するシュウジを前に、修司は先へと向かう。

 そして万里城の関所内に突入した修司は、そこで待ち受けていた敵兵を斬り捨てると一階部分へと飛び降りる。すると其処の小部屋には最後の人質である白井渚と浜崎雅弘が捕らえられていた。

「二人とも無事か!」

 修司は叫びながら二人を縛り付けている縄を勢いよく断ち切る。

「だ、大丈夫です!」「よかった、助けが来てくれて……!」

 大いに嬉々とする渚と雅弘に、修司は言い放つ。

「早くここから離れろ! 敵は俺が引き付けておく!」

 そういうと修司は再び二階部分へと登り、残党兵を逸早く片付けていく。

 捕虜となっていた人質達を救出した修司は、それからも迷う事無く突き進む。大敵、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]へと邁進する。

 

 

[別働する者たち]

 

 修司が[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]へと邁進していた頃、実はHEADや修司よりも先に行動を起こしていた者たちがいた。

「そろ~~り、そろり……よし、此処がコウリンの宝の隠し場所だな」

 忍び足で万里城の明代・慕田峪長城に忍び込んでいたのは、赤塚組が頭領、赤塚大作が率いる赤塚組幹部であった。彼らは親交の厚い聖龍隊の隊士の得物が、戦乱のアジアで名を馳せた略奪者、梟雄コウリンに卑劣な手段で奪われてしまったと聞いて、放っておけなくなった大将は幹部衆を率いて宝物庫へと潜入していた。

「こいつだな、コウリンが聖龍隊から奪い取ったお宝は……」

 大将たちはガラスケースの中や壁にかけられた聖龍隊の得物を凝視して言った。

 奪われたるはミラールのミラージュ・ガン、六道りんねの死神の鎌、奴良リクオが所有する祢々切丸、ボンゴレファミリーのボンゴレリング各種、日ノ原革の劍神:「創世(ツクヨ)」と門脇将人の劍神:「逐力(オロチ)」。これらの宝を赤塚組は素早く手に取り、その場から急いで脱出しようとした。

 だが「大将、何やっているのよ!」と、何やら一人でそこら辺を物色している大将に幹部のミズキが物申す。すると大将は「何言ってやがる! 俺たちゃ、これでも義賊なんだぞ! お宝を前におめおめと行けるかってんだ! こうなりゃ、持てるだけ他のお宝も頂戴していこうぜ」と、大将は目に付く金銀財宝を持てるだけ持とうとする。

 大将の物色が済んでから、ようやくその場から抜け出そうと赤塚組一行が部屋から出てしばらくしたその時「ッ、曲者だ! であえ、であえ!」と、やはり敵兵に見つかってしまった。

「ほら見なさい。大将が余計なことしてるから……」

「そんな事より走りまくれッ、今は聖龍隊のも含めてお宝かっさらって逃げねえと!」

 幹部の海野なるの文句を聞くよりも早く、大将は破槍に飛び乗りサーフィン感覚で万里城を駆け抜ける。それに続けと、他の赤塚組幹部も駆け出す。

 すると此処で大将は聖龍隊印の無線機で通話し出した。

「バーンズ! こちら赤塚組、お宝の回収は済んだ。あとはそっちに任せたぜ」

「おうっ、了解だ大将! ありがとな」

「良いって事よ、これも腐れ縁だ……お前達も修司も、無事に帰ってこいよ!」

 大将はそう言うと通信を切って敵兵の大軍をかき分けて駆け抜ける。

 そんな大将と通話していたのは、同じく万里の長城を侵攻するメタルバードたち修司以外の聖龍HEADであった。彼らは[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]への進撃を決意した直後、赤塚組に前もって連絡しておき、彼らに独自の方法でコウリンの宝の隠し場所を特定させ、奪われた宝の奪還をお願いしていたのだ。

 そして仲間の誇りと信念の象徴である得物を奪還したのを聞いて、HEADは更に力強く邁進する。

「武器は取り戻した……あとは修司、テメエの世話焼きだけよ!」

 メタルバードは力強く言い放つ。そんな彼らの体には、既に敵兵を殺めた際の返り血が付着していた。

 修司が願った「清らかな二次元人」の理想を捨て、現実的に敵を倒して返り血で己を染める道を選んだ聖龍HEADは、もはや躊躇いなく侵攻を妨害する敵兵を倒していった。

「わかるぞ、貴様らには我らと同じにおいがする」

 向かってくる敵兵は、聖龍HEADに自分達と同じ血のにおいがこびり付いていると指摘する。だが、決意を新たにしたHEADにその様な躊躇を誘う言葉は効かなくなっていた。

 

 邁進するHEAD、だったがその時。彼らが通ってきた門が突然閉ざされ、退路が防がれてしまった。

「生きるために殺す……食うのと一緒だろ?」

 敵兵でごった返すその場所は、四角い場所の隅の方にそれぞれ大きな香炉が点在していた。

 怪しげな雰囲気に悪夢の予感がよぎる中、そんなHEADに向かって敵兵が大軍で攻めてきた。

 もはや命を奪う事を食すことと同等と認識している敵兵に、HEADは情けを掛ける事もなく、容赦なく倒していった。

「ううぅ……」「痛いよぉ……」「助けてくれぇ……」

 痛みに悶える兵士たち。すると付近に点在していた香炉から何とも不気味な紫色の靄が噴出してきた。

 すると「傷が……痛みが無くなったぞ!」「これで勝てる!」と、先ほどまで苦痛に喘いでいた兵士たちの痛みが消えたのだ。

 これこそコウリンが編み出した禁忌戦術 不死香炉。不死香炉の煙はコウリン軍の兵士に恐るべき再生能力を与えていた。部屋にある全ての不死香炉を破壊しなければ兵力の連鎖は止まらない。

「恐怖など、こうして取り除いてやればよい。これで欲望のままに生きられよう」

 コウリンの言葉が何処からともなく聞こえて来たみたいな錯覚に陥るHEAD。

「そんな……痛みを感じさせないだなんて……! 命を何だと思っているの……!!」

 命を軽率しているかのようなコウリン軍の戦術に、ナースエンジェルは悲観してしまう。

 だが戦況はコウリン軍に傾いてしまったのは明白。いくら倒しても敵兵は恐るべき再生力で立ち上がり、果敢にHEADを倒そうとしてくる。

「きゃっ!」「ひ、ヒナ……!」

 どんな攻撃を受けても倒れない敵兵に反撃され、吹き飛ばされてしまう雛苺に金糸雀たちHEADは苦戦を強いられる。

 だが此処で、この禁忌戦術の決定的な弱点をメタルバードは指摘した。

「香炉だ! 香炉を破壊しろ! 香炉の煙を絶てば再生力を失うはずだ!」

 メタルバードの指示通り、聖龍HEADは向かってくる敵兵を押し通す勢いで突き進み、そのままの勢いで煙を発生させている香炉へと赴いては香炉を破壊する。

 各々の協力の元、全ての不死香炉を破壊し終わると、籠っていた怪しげな煙も瞬く間に消滅した。

「なんだ? ……痛え! 急に傷が!」

 不死香炉の効果が消滅した途端、無敵の再生力を誇っていたコウリン軍の兵士達が苦痛に喘ぎ始めた。

「痛い! 痛いよーーっ」

 どうやら不死香炉の副作用で、香炉の効果が途絶えると通常よりも激しい痛みが肉体に生じるみたいだ。

「……惨いことを。いや、オレ達の方が惨いのかもしれないな……」

 痛みに喘ぐ兵士達を見て、メタルバードたち聖龍HEADの心が強く締め付けられる。

 しかし立ち止まる訳にも行かず、HEADは場を区切る門を閉ざしている門番を無情にも斬り捨てて門扉を全開させる。

 開いた門扉の先を進み、聖龍HEADが邁進していると前方から明らかにコウリン軍の兵士とは違った服装の者たちが此方へと向かってきた。

「お、お前達……!」

 メタルバードは声を発した。此方に来るのは人質として捕虜になっていた木之元桃矢、森谷賞、月野進悟、シュウジ、白井渚、浜崎雅弘の六人であった。六人は駆け付けてきてくれたHEADの前まで辿り着くと、各々は身内や恋人であるHEADに声をかける。

「さ、さくら! どうしたんだ、その血は……」

「姉ちゃん、どういう事だ! 修司さん一人で来させるだなんて……」

「姉貴! それに他のみんなも、血だらけで……」

「ちせ! 修司はどうしたんだ? いつもと様子が違ってたが……」

「波音、みんなもどうしたんだよ……?」

「み、みんな。血相が変わってるよ……!」

 修司のいつもと違った形相同様に普段と違う血相を浮かべるHEADに動揺する者もいれば、HEADが浴びている返り血に戸惑いを抱く者まで様々な表情を浮かべる人質だった者たち。

 すると其処に敵兵であるコウリン軍の兵士が駆け付け、HEADと捕虜であった者たちを挟み撃ちにして動きを封じてしまう。

「……オレ達はオレ達の決意で、こうなる事を選んだ。テメエらはもちろん、修司も無駄死にさせるつもりはねえ!」

「バーンズ……!」

 自らの意志の元で血を浴びる修羅の道を突き進む決意を示したメタルバードの言葉とHEADの力強い面魂に、捕虜だった者たちは一同に愕然とした。

 そして敵兵の一人が襲い掛かると、それに木之元桜が素早く反応して、ソード「剣」のカードで向かってきた敵兵を斬り捨てた。

「うぎゃあッ」さくらに斬り捨てられた兵士は真っ赤な血飛沫を傷口から流しながらその場に倒れる。そしてさくら自身も自らが斬り倒した敵兵の血を浴びて着衣していた服が紅く染まる。

 さくらに斬り倒された敵兵に続けと、他の敵兵も挙ってHEADに斬りかかるが、HEADは各々が能力や得物で敵兵を返り討ち。

 ウォーターフェアリーやマーメイドメロディーズも、手から水の刃を発生させて向かってくる敵兵を次々と斬り倒し、他のHEAD同様血に染まる。

 メタルバードも両手の刃を相手に突き刺したり、斬り付けたりしながら応戦を続ける。

 するとコウリン軍と交戦していたHEADの戦況に変化が。なんと突然コウリン軍の兵士が退いた。

「な、なに?」

 突然の事態に困惑するミラーガール達。すると次の瞬間「うわあっ!!」なんと彼らと捕虜だった者たちが立っていた万里城の歩道が爆破され、崩落してしまう。

 崩落した瓦礫と共に下へと流れる様に降って行ったHEADたち。

「うぅ~~ん……」

 突然の出来事に目を回してしまうメタルバードや捕虜だった者たち。

 すると辺りの空気の変化に、ジュピターキッドが逸早く気付いた。

「……っ、すんすん、っ! このにおい……不死香炉!」

 なんと辺りはすっかり不死香炉の煙で充満されていた。

 不死香炉が充満する中、HEADの前には新たに結成された三好三人衆が立ちはだかっていた。

「来たか」「やれやれ」「仕方ない」

 三人はHEADに徐に歩み出すと、言い構える。

「これで全てを終わらせる……!」「今日が、お前らの落日だ……」

 聖龍HEADは三好三人衆と最後の戦いに挑む。

「……これでもう、終わりにしよう」

 三人衆の一人が怪しげな言動で戦意を惑わしてくる中、戦闘が開始された。

 しかし三人衆もまた、不死香炉の効果で持続的な再生力を手に入れ、一向に体力が減る様子はなかった。

 HEADは激しく三人衆と攻防を展開する一方で、まず不死香炉の破壊に取り掛かる。

「意外にやるな……予定が狂う」

 三人衆が語り掛ける中、HEADは盾を持った兵士達に守られている不死香炉の破壊に取り掛かる。盾を持つ兵士を薙ぎ倒し、素早く香炉を破壊。それを四つ行うと、先ほどの様に香炉が全て破壊されたことで不死香炉の効果が途切れた。

「しまった、効果が切れた……!」香炉を死守していた敵兵は、激痛に悶え狂う。

 そんな味方兵の苦しむ姿を横目に三人衆は冷然と語る。

「仕方ないだろう? 手段は選ばない」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]と同じく手段を選ばないと断言する三人衆を前に、聖龍HEADの彼らへの敵意は激しさを増す。

「鋭く、素早く、そして静穏に」

 己の言葉のままに鋭く俊敏な動作の上、静穏な一撃を放ってくる三人衆。しかし聖龍HEADは彼らが扱う長槍をかわし、一瞬の隙を伺いながら激しい攻防を続ける。

 そして一瞬の隙を突いて、メタルバード、ジュピターキッド、そしてキング・エンディミオンの三名が各々、三人衆へトドメの一撃を食らわした。

「ぐはっ!」

 急所を突かれて口から血飛沫を吐く三人衆は、最後に聖龍HEADへ向けて言った。

「所詮は貴様らも……」「我らと……」「同族…………ぐはっ」

 聖龍HEADもまた、自分たち略奪者と同じ命を奪う者と指摘した三人衆はそのまま息絶えた。

 三人衆の言葉を受けて、メタルバードは血塗れの体で吼える。

「……上等よ!」

 自分達もまた命を喰らいし奪う者であると自覚する発言を咆哮したメタルバードは、捕虜だった者たちに言い残す。

「オレ達はこれから万里の長城最深部に突入する、そこにコウリンがいる筈だ! お前達は先に此処から脱出していろ」

「そ、そんなバーンズ!」「おれ達も行きますよっ」

 桃矢に進悟の言葉を受けて、親族であるさくらとセーラームーンが言葉を返す。

「私たち、もう決めたの……!」

「彼を、修司くんを見捨てない。彼と同じ道を歩んでも、大切な人を守ろうって……」

 自分達も小田原修司と同じく、血塗れの道を突き進んでも守るべきものの為に戦う意志を決めたと伝えるHEADに、捕虜だった者たちは何も言い返せなかった。

 そしてHEADは捕虜だった者たちを残して、先へと邁進していった。

「ち、ちせ!」恋人であるHEADの名を呼ぶ捕虜だった者たちの言葉を聞き受けて、彼女らは言った。

「大丈夫、必ずみんなで帰ってくるから」

 そう言い残して、HEADは急ぎ修司とコウリンの元へと馳せ参じた。

 

 万里城最深部へと突入した聖龍HEADは、修司とコウリンの姿を探す。

 だが此処にも予め設置されていた不死香炉が発動し、部屋が香炉の煙で充満された。

「勝つためだ! 手段を選ぶな!」

 勝つためなら痛みという生き物には欠かせない感覚をも捨て去る手段を選ぶ敵兵達がHEADへと雪崩れ込んできた。

「ときをあげよ! 敵に情けは無用ぞ!」上官兵がHEADへと攻撃の指示を飛ばす。

 不死香炉が充満される部屋の中で、聖龍HEADは手筈通り香炉の破壊に取り掛かる。

「痛みなど捨てろ! 勝利は間近だ!」

 香炉を破壊しようとするHEADに迫る敵兵。だがそんな敵兵を魔法騎士たちは斬り捨て、急いで香炉の破壊を行う。

 四つある香炉のうち、一つを魔法騎士の三人が破壊する一方で、向かい側の香炉の破壊をコレクターズの三人が行おうと進撃する。

「遺言は済ませたか?」

 敵兵の投げかける言葉には応じず、攻撃で応えていくコレクターズの三人は血塗れになりながらも二つ目の香炉の破壊に成功する。

「戦で名を上げようと思ったのに……!」

 煌びやかなドレスを血に染めて突き進むマーメイドメロディーズによって敵兵は蹴散らされ、三つ目の香炉も破壊される。

「貴様たちはよくやった……そろそろ観念したらどうだ?」

「もう迷わない……!」

 降伏を求める敵兵に対し、覚悟を決めているミュウイチゴたち東京ミュウミュウズ達は、敵の返り血を浴びながら遂に最後の香炉を破壊して、不死香炉の効果を消滅させた。

「痛いッ! 助けてくれーーッ!」

 悲痛に喘ぐ敵兵達を目前にしながら、聖龍HEADは現場で指揮を執る三人の上官兵の迎撃に移る。

「我が忠節、今こそ見せる時!」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]への忠誠を誓う三人の上官兵に挑みかかるHEADたち。

 そして不死香炉の効果のみを頼っていた三人の上官兵や兵士達を薙ぎ倒し、遂に最終決戦の場へと続く門扉を開くことが叶った。

「待っていろ、修司……死ぬんじゃねえぞ!」

 メタルバードは静かに戦友である小田原修司が死んでいない事を祈りながら、同士と共に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の元へと赴くのだった。

 

 

[国という宝]

 

 その頃、無事に捕らえられていた聖龍隊の仲間も救出し、迫りくる敵兵も悉く斬り倒していった小田原修司は、遂に果たすべき相手である[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が待ち受ける万里の長城の本拠地へと辿り着いた。

 修司はまず門扉の前で立ちはだかる敵兵を容赦なく斬り捨てて、強引に足で蹴り付けて門扉を突破する。

 すると修司の目前には、悠然と傍らの燈火を眺める[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の姿が見受けられた。

「コウリン……!」

 思わず感情的にコウリンへと駆け寄ろうとすると修司に、ここでコウリンがようやく気付く。

「……っ、これはこれは。鬼神よ、いつの間にやって来たのかね? 残念だが、卿との時間も此処までだ」

「人質と仲間の得物は返してもらおうか……返事はいらねぇ……テメェの了解など無用だ」

 修司が問答無用でコウリンに迫ろうとしていたその時、周囲から続々と身を潜めていた鉄砲隊が姿を現し、修司を完全に包囲してしまう。

「ッ……!」コウリンの策略に嵌ってしまった修司は愕然となってしまう。

 完全に包囲され、鉄砲でハチの巣になるのをただ待つしかできない修司はコウリンに眼を飛ばす。するとコウリンはほくそ笑みながら修司に問い掛ける。

「HEADはなぜ来ない? これも策略か?」

「テメェのような男を葬る……そんな汚れ役は、俺一人で充分だよ」

 何ゆえに他のHEADが来ないのかと指摘する[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に、修司は血を浴びる汚れ役は自分だけと突っ返す。

 これを聞いた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は高々にほくそ笑んで修司に言葉を述べる。

「いずれにしろ、卿の勇気にはかなわない。一人で戦おうという、このすばらしき無謀」

 そしてコウリンは前へと数歩進むと、修司に言う。

「どれ、見物させてもらうとしよう。鬼の体がハチの巣になる瞬間をね」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は修司の体が銃弾でハチの巣になる瞬間を、心から待ち望む言葉を淡々と述べる。

 ここで修司は、いくら自分の体を銃弾が直撃しようと最後まで抵抗の意志を示すかのごとく聖龍剣を構える。

「彼を殺すのか? 心が痛むね」

 最後まで抵抗する姿勢を向ける修司に、コウリンはほくそ笑みながら命を軽率する。

 そして鉄砲隊の兵士が引き金に置く指に徐々に力を入れ始め、引き金を引こうとした。

 

 次の瞬間「うわあッ!」突如として強烈な旋風が鉄砲隊を襲い、鉄砲隊の体には無数の切り傷が生じて吹き飛ばされてしまう。

 この事態に、予想していなかった修司もコウリンも一驚する。だが、そんな事態でもコウリンは表情に微塵の変化も齎してなかった。

 カマイタチの如き旋風が鉄砲隊を襲い、修司もコウリンも旋風が吹き荒んできた方向へ目を向けてみると、そこには

「威勢よく飛び出した割には、随分と手こずっているじゃねえか」

「ば、バーンズ! みんな……何故……!」

 修司とコウリンの視界に入ってきたのは、メタルバードを筆頭とした修司以外の聖龍HEADたちであった。勢揃いでやって来た彼らの衣服や身体には既に多くの返り血が浴びている現状を目の当たりにして、修司は悲観する。

 そんな悲観する修司に、銀色の体を血で赤く染めたメタルバードが力強く物申した。

「確かにオレ達は血で穢れちゃいけねえほど、高等な種なのかもしれないが……それでも仲間を見捨てる薄情者にだけはなりたくねえ」

 愕然とする修司に、キング・エンディミオンもメタルバードに続いて熱く語った。

「修司、そんなにオレ達だけに戦わせたくねえんなら……オレ達にも、お前の背中を守らせてくれ」

 更にジュピターキッドも。

「僕たち、もう守られる側だけじゃない。どんなに血を浴びようと大切な人を守り抜ける、そんな側に入りたいんだ!」

 最後にミラーガールも、修司に力強くも優しい口調で述べた。

「修司、私たち……後悔しないわ! 修司が今まで私たちにしてきた様に、今度は私たちが修司の信念を守ってあげたいの!」

 仲間達の熱き真情を聞き受けた修司は、一時ばかし茫然となっていたが、仲間達の本気の覚悟を貫く瞳を見て、己自身の中の何かを吹っ切った。

「お前ら……本当に覚悟ができているのか? 永遠に身体に染み付く、真紅の血に染まる覚悟を……」

「無論……もう一人だけに重荷を背負わせたくはない」

「……チッ、仕方ないか」

 メタルバードの返答に修司は既に毒が回って自由の利かなくなってきていた体にムチ打って、半ば強引に左手で聖龍剣を構えようと身構える。すると其処にミラーガールが優しい温情で、修司の震える左手を支えてあげる。

「アッコ……」「……!」

 修司とミラーガール、二人の間に言葉など不要。彼女の覚悟に修司も改めて応える覚悟を決めた。

「テメェら、ついてこい!」「任せて! 私たちも、全てを賭ける!」

 改めて聖龍隊総長として同士のHEADに呼びかける修司に、キューティーハニーが応える。

「覚悟は決めた、いくらでも来い! みんなは必ず俺が守る!」

 仲間達の熱き激励を受けて、満身創痍気味だった修司に力が込み上がる。

「ハハハハ! 美しくもめでたい茶番だ!」

 そんな修司と聖龍HEADの決意を互いに固め合った瞬間を目の当たりにしてコウリンは茶番と嘲笑う。

「コウリン……! ここがテメェと俺達の終着点だ。小田原修司、参る!!」

 だが修司達に迷いはなかった。いざ[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]と決着をつけようと身構える修司と聖龍HEADを目前にしながら、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]本人はまたしても傍らの燈火、その焔を眺めて悠然と語り出した。

「火は好きだ……千年かけて築いたものを、一瞬で葬り去る事も出来る。この虚しさに……何とも言えず、心が和む」

 モノが破損したり焼失したりする有様を好む言動を改めて示した[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に対して、メタルバードが強く指摘した。

「コウリン……! テメェは駄々をこねるガキと同じだ」

 己が望むままのモノを手に入れ、そして壊れるまで手中に収めなければ気が済まない[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]を幼子と同等だと述べるメタルバードの言葉にも、コウリンは悠然と語り返した。

「………………それはもっともなことだ……次は、卿らが燃え尽きる番だ。さあ、私に虚しさを味合わせてくれ」

 コウリンは聖龍HEADが業火に焼かれ、燃えていく様も眺めたいと悠然と胸中の想いを曝す。

 すると此処で[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]にジュピターキッドが問うた。

「コウリン! なんで新世軍から回収した侵略ミサイルを強奪しようとしている!?」

「なに!? それはどういう事だ、ジュニア!」

 ジュピターキッドが投げかけた質問に初耳の修司が問い返すと、ジュピターキッドは修司に報告した。

「さっき仲間から連絡があった。コウリン軍の略奪部隊が多勢で、かつて北の国が開発した侵略ミサイルを強奪しに、今ミサイルが収められている基地に奇襲を仕掛けているんだ!」

 かつて北の国が開発した幾多の侵略ミサイル。その残機をヤン・ミイチェンが祖国の復讐の為に乱用しようとしたが、その寸前で破邪王率いる新世軍に騙し取られてしまっていたのだ。そして今、その新世軍から回収した侵略ミサイルを[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の放った手勢が大軍で強奪しようとしているのだ。

 この報告を受けて、修司はコウリンに睨み付けて真実を求めた。すると鬼神の眼光にも怯まずコウリンは悠然と語り始めた。

「……実は鬼神よ、私は卿が大切にしている、とあるモノに非常に興味が湧いてね。本来は、ただ朽ち果てるだけの存在であろうが卿は今でもそれに忠誠を誓っている。……無駄なことだというのに」

「アニメタウンは……二次元人はそう易々と貴様に奪わせはしない!」

 修司は強くコウリンに言い返すが、コウリンは薄ら笑いで修司を微笑した。

「ハハハ、偽善に満ちた理想の産物など興味の欠片もない。……卿が忠誠を誓い、己が手塩にかけて育てたスター・コマンドーを預けた天皇家……」

「ま、まさか! 天皇家を狙う気か……!」

 メタルバードが思わず声を発してしまうが、これにもコウリンは嘲笑いながら答え返す。

「フハハ、そんなタダの象徴には関心すらない。大切なのは基盤だ、そうだろ?」

「…………………………………………」

 言葉を失う聖龍HEADを前に、コウリンは淡々と語り続ける。

「そう、私が欲しているのは……永きに渡り歴史を刻み、幾多の試練と葛藤を繰り返してきた存在……今は津波で荒れ果ててしまった鬼神よ、卿の…………」

 次の瞬間、コウリンの口から誰もが予想だにしていなかった名称が飛び出た。

「…………[[rb:日本 > ぼこく]]を、貰おうか」「!!」

 日本を貰おうか。このコウリンの発言に聖龍HEADの誰もが震撼した。

「に、日本を……日本を、どうする気だ!」

 修司たちHEADはコウリンに問うた。すると彼はほくそ笑みながら己の思考を包み隠さず述べ始めた。

「なあに、便所と同じだよ。汚れ切った日本という礎の上に寝転がる愚か者どもを、今度は日本そのものを呑み込める津波で綺麗さっぱり洗い流してやるのだ」

 コウリンが語るには、彼は独自に調合した火薬をミサイルに搭載し、それを日本海に向けて発射。すると海上で爆破したミサイルの衝撃で大津波を発生させ、日本海が干からびるほどの津波で日本を洗い流そうと策略していた。

 このコウリンの企みを知った聖龍HEADが、コウリンに問い質した。

「そ、そんな事になったら日本は……!」

 HEADの只ならぬ様子を眺めて、コウリンは口を零した。

「なに、滅びかけた国の一つが消えゆくだけだ……なにを躊躇う?」

「て、テメェ……!」

 震災に喘ぎ、困難を辿る日本を滅びかけた国と称するコウリンの言葉に修司は滾った。

 

 

[滾るHEAD]

 

 そして聖龍HEADは[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]へと攻めていく。

「見せてやるぜ! これがオレ達の覚悟の重さだ!」メタルバードがコウリンへと斬りかかる。が、コウリンは悠然とそれを俊敏に回避し、火薬を着火させて反撃。

 すると迫るHEADを前に、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は悠然と修司に語り掛けてきた。

「卿が押さえ込む凶器は鋭いな。二次元という偽善さえも軽く凌駕する、禍々しくも黒い刃だ」

 修司の中に潜む狂気を、コウリンは二次元を凌駕してしまうほどの禍々しい刃と例える。

 そして戦いの最中にも関わらず、コウリンは聖龍HEADに皮肉や嘲りを込めた評価を賜る悪癖を発し出した。

「君らには、忘却を賜ろう。戦士としての記憶、それは君らを渦中へと縛り付け、平穏や旧友から君らを遠ざけてしまうモノだからな……」

「私たちの記憶……思い出を勝手に奪わないで!」

 自分達の記憶を奪うと宣言するコウリンの発言に、セーラー戦士たちは激しく反発する。

「君には、そうだな……人を贈ろう。人として何の取柄もないが、君は平和に生きていける筈だよ」

「おあいにく様……! 例え人から遠ざかる存在であったとしても……私には掛け替えのない友や仲間がいる! それだけで十分なのよ」

「ハハハ、そうか。君にはお似合いなのかもしれないな」

 例え自分が人口生命体やヒューマノイドなどの人外であろうとも、掛け替えのない仲間がいる限り戦い続けると説くキューティーハニーの言葉にコウリンは嘲笑う。

「君には、無情を贈ろう。他人などに情けばかりかけて、自らが傷つく事はもうあるまい……己の命を使い果たす必要もなくなるだろう」

「結構です! 他人への思いやりを失うぐらいなら、私はどんなに自分が傷付こうか構わない!」

「なんだ、その言葉は? 偽善、偽善か?」

 ナースエンジェルの力強い決意に、コウリンは彼女の言動を偽善と失笑する。

「君からは温情を貰おうか。桜色の君の想いはそれ以上、美しく無駄に飾り付ける必要は皆無だ」

「私の……私たちの想いは、ただの飾りじゃない!」

 木之元桜にも軽蔑にも似た言葉を吐きかけるコウリンに、さくらは自分達の想いは飾り物ではないと強く言う。

「君らには、現実を賜ろう。仮想の空間ではない、現実の惨たらしさを噛みしめて死にたまえ」

「……もう、私たちは現実を嫌ってほど体感してるわよ……!」

 コレクターズに理不尽な現実を与えようと説くコウリンに、コレクターユイはきっぱりと返答する。

「かつてエメロード嬢を殺めたように……今度は私を殺すのか?」

「!! ……あ、あなた……!」「フッ」

 過去の辛い現況を罵る言動を口にしたコウリンに、獅堂光ら魔法騎士の三人は感情を表に出すがコウリンは彼女らに薄ら笑いで返す。

「すまないが、不幸自慢は余所でやってくれ」そうコウリンが言うと、彼は宝刀を振り付けながら火薬を散布し、宝刀の剣先で火薬を着火、爆発炎上させて業火を生み出す。

「苛烈、苛烈」

 炎が激しく聖龍HEADを呑み込む様を前にして、コウリンは満足そうに呟く。

「君には残忍さを……いや、既に得ているようだな」

「………………………………」

「折角、鬼神が君に多少ながらの平穏を与えながらも自らそれを捨ててしまうとは……君らは案外、薄情なのだな」

 最終兵器のちせに、修司が与えた多少の平穏を自ら捨てるという薄情さを突き付けられ言葉を失うちせ。それに修司は内心悲観していたが、ちせはコウリンに強く答えた。

「大切な人が傷付いているのに、見て見ぬふりができる薄情より……私たちは与えられた平穏を捨てて戦う薄情者を選んだのよ……!」

 ちせの思わぬ力強い言動に、修司の心は若干ながらも励まされた。

「君たちからは繋がりを貰おうか」

「私たちの絆は……繋がりは絶対、奪わせないニャン!」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]から自分達の絆を奪われてたまるかと、ミュウイチゴたちは決死の覚悟でコウリンに挑む。

「君らからは、その美声を貰おうか。人に己の意思を伝えるだけに非ず、人を惑わせる事もできるその美声は如何なる宝具よりも価値がある」

「悪いけど、あなたにはこの声も……日本もあげないわ!」

 大勢に己の意思や思想を伝える手段である声を奪うと宣言するコウリンの発言に、七海るちあたちマーメイドメロディーズは声も日本も奪わせないと言い返す。

「君らからは、その輝かしき衣を貰おうか。たとえ君ら同士が再び争いあおうとも、その煌びやかな衣だけはかつての主の意志を後世に伝える為にも遺した方が良いのではないか?

「ローゼンの意志も、私たちも途絶えはしない! なにより、人の価値を勝手に計らないで欲しいわ」

 かつてアリスゲームで争い合っていた真紅たちは、コウリンの言動に反抗の意志を示す。

「苦しいな……だがこれも幸せのため、か?」

 幸福の為には苦痛を体感しなければならないという世の理を述べ出すコウリンは、更にこう続けた。「この先の苦痛を思うと、寿命が縮むよ」まるで聖龍HEADを面白げに嘲るかの如く呟くコウリン。

 

 と、HEADがコウリンを追い詰めた時だった。現場の大広間に異変が起き始めているのを、修司の体が察知した。

「うっ……!」「修司、どうしたの?」

 突然、紫に変色している右手に激痛を感じる修司にミラーガールが呼びかける。すると此処でHEADの中で最も感覚が鋭いメタルバードが異変の正体に気付く。

「コイツは……まさか、不死香炉!?」

 そう現場に点在している六つの香炉から例の再生力を向上させる煙が解き放たれたのだ。

「所詮は私も生ける者だ……これでも、命が惜しいのでね。フハハハ」

 最終局面。コウリンは付近に配置しておいた不死香炉を発動させ、不死の香りを充満させると得意気に嘲笑う。

「何かを捨てて一つ得る、順当なことだろう?」

「テメェには心は通じねえ……そうだろう……!」

 痛覚を捨てて勝利を得る考えのコウリンに、メタルバードは心が通じないと説くとコウリンは真顔で返答した。

「誤解しないでくれ、手段を選ばぬ訳ではない」

 すると不死香炉の煙で充満する部屋で、コウリンは語り始めた。

「全ての策を講じてしまえば、時には欲する宝が手に入らなくなってしまうだろう。私は成るべく宝をそのまま頂戴したいのだよ」

「ッ……何処まで自分勝手な奴なんだ……!」

 ジュピターキッドが怒りの鞭を振るいながら迫るが、その攻撃を俊敏に回避したコウリンはキッドの言動に反論を述べる。

「自分勝手なのはお互い様だろう。卿らにとって都合の良い正義を並べ奉り、人々から英雄視される卿らの存在こそが身勝手な人間の象徴だよ!」

「………………!」

 正義の概念における矛盾を指摘され、ジュピターキッドも他の聖龍HEADも反論できなかった。

 その一方で、小田原修司のみが未だに毒に侵されている右手の痛みに苦しんでいた。

「どうしたんだ、こんな時に……!」

 苦痛に額から脂汗を流す修司が右手を見てみると、なんと右手の腫れが今まで以上に悪化しており、変色していた紫色も先ほどより濃くなっていた。

 この修司の異変に他のHEADたちも気付くが、そんな彼らを嘲笑うかのように[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が訳を語り出した。

「おっと、言ってなかったが……鬼神に植え付けた毒素は不死香炉を調合した際に偶然生まれた産物でね。不死香炉の煙に反応するみたいなのだ。なに、いづれ苦しくなくなるさ……何故ならやがては死にゆくのだからな」

「な、何ですって!」

 修司が風魔風斗より風魔手裏剣で植え付けられた毒素は不死香炉を生成する際に偶然にもできた産物であり、不死香炉の煙に反応して毒素が強まり、やがては死にゆくのだと聞いてナースエンジェル達は愕然となる。

「うぅ……」

 やがて修司は体内の毒素が強まった影響が、目付きが弱くなり、唯一使える左手にも痺れが生じ始めていた。

「し、修司!」

 そして遂には左手に握り締めていた聖龍剣を落としてしまう修司を見て、ミラーガールが叫ぶ。

「あ、アッコ……済まないが、剣を拾ってくれ……!」

 毒で次第に体の自由が利かなくなってくる修司は、ミラーガールに嘆願する。これにミラーガールは素直に地面に落ちた聖龍剣を拾ってあげると、更に修司が言った。

「それを、俺の口に……」「……!」

 修司の言葉にミラーガールは彼の真意を悟った。だが修司の固い決意をいつも目前にしていたミラーガールは、刀を修司の口に銜えさせた。

 聖龍剣を口に銜えた修司は、残った余力を全て顎に注ぐかのように、顎に力を入れて聖龍剣を口で銜えた状態でコウリンと戦おうとしていた。

「ハハハハハ、そこまでして私に勝ちたいというのかね? つくづく愚かで不恰好なモノに落ちぶれたものよ」

 口に銜えた刀だけで戦おうとする修司の戦意を目の当たりにして、コウリンはそんな修司の意志を高々と嘲笑った。

 すると刀を口に銜えたまま修司はコウリンに言った。

「笑いたけりゃ、好きなだけ笑っていろ……最後に残るのは、俺達かお前か、なんだからな……!」

 この修司の力説を聞いたコウリンは驚いた様子で返した。

「これは驚いた……真理をつかれていては何も言い返せない。では最後にどちらが残るか、そろそろ決めようではないか」

 既に両腕の力も抜け切った修司は、口に聖龍剣を銜えた状態で仲間と共にコウリンに挑む。

「卿らはとんだ三枚目だ、舞台裏はあちらだよ」

 そう言いながらコウリンは正面から斬りかかってくる修司に火薬を散布して炎上させようと仕掛ける。だが修司はこれを寸でのところで後ろへと回避。再び対峙する。

 しかしコウリンと対峙する修司の間に、仲間のHEADが駆け込み、修司に言った。

「修司! ここはボクたちで時間を稼ぐ! 君は一旦退いてくれっ」

「深手を負っているあなたをこれ以上、戦わせたくないわ」

 セーラーウラヌスとセーラーネプチューンの言葉を受けて、修司は渋々ながら方向を転換して不死香炉へと突撃する。

「うおりゃあああ!」

 コウリンへの直接攻撃が無理なら、せめて奴の再生力を上げている不死香炉の破壊に修司は移ったのだ。

 そんな修司を視界に捉えながら、セーラー戦士たちの猛攻を受け流しながらコウリンが言った。

「鬼神よ、卿はやはり破壊を好むか。いや感心」

 破壊行為をする修司を感心しながらも、コウリンは散布した火薬に着火させると火の道を形成し、HEADや修司の行動を妨害する。

 そんなコウリンからの妨害にもめげず、修司は仲間と共に不死香炉を続々と破壊していく。

「うあ……ッ」だが、その間も着々と不死香炉の煙は修司の体内を侵す毒素を強め、修司を苦しめる。

 と、その時。遂に修司の体が限界を迎えたのか、修司は膝を付いてしまう。

「くっ……」「し、修司!」

 ミラーガールもその他の聖龍HEADも膝を着く修司を認識して意識が移った瞬間、コウリンは素早く行動した。蔓延るHEADの合間を掻い潜り、俊敏に修司の目前へと移動した。

 そして宝刀を振り上げて修司にとどめを刺そうかというコウリンに、誰もが目を覆いたくなった。

 が、その時「うおッ!」「ぬはっ?」修司は無我夢中で損傷の激しい右手を振り翳して抵抗すると、コウリンの宝刀はその右手によって弾かれてしまった。

 誰もが右手で宝刀を弾いた修司に目を向けてみると、修司の右手は驚くべき変化が起こっていた。

「し、修司……! その手……」メタルバードが変異した修司の右手に一驚する。

 修司の右手、それは紫色の分厚い皮膚に覆われた何とも禍々しい三本指の、まさしく鬼の手に近い風貌へと一変していた。修司はそんな変わり果てた右手を顔の前に翳すと同時にコウリンを睨み付ける。

 これは修司の体内に依存しているD-ワクチンの解毒作用と、不死香炉で強まった毒素が反応して皮膚や筋肉といった右手の部分のみが変異した為に起こった現象だと思われる。

 そんな鬼の手に右手が変異した修司を前にして、コウリンは高々とほくそ笑みながら悠然と語り出した。

「フハハ、フハハハハハハ……それが卿の体に脈々と滾るDの力か! これは見物だな、まがい物の鬼が本当の鬼へと変貌する……実に興味深い」

 変異を齎した修司を前にして、コウリンは恐ろしく思うどころか逆に興味津々で右手が変化した修司を前にして子供のように笑う。

 だが修司の決意は揺らぐ事無く、修司は変異した右手を、口に銜えた聖龍剣と共に身構えるとコウリンに言い放った。

「コウリン……此処からが本番だ!」

 この時、修司の体内の毒素は完全に効果が薄まっており、修司に苦痛を与えるほどの影響力は消失していた。故に修司の滾る戦意も完全に復活していた。

 

 

[決着の業火]

 

 紫色の厚い皮膚に、変異した長くて硬い三本の爪から放たれる修司の一撃に加え、口に銜える聖龍剣の斬撃が大広間に点在している不死香炉を次々と破壊していく。

「残念だ、その香炉は高名な品なのだがね」

 香炉が破壊されていく様すら、有意義に眺める[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]はそう言いながらも果敢に反撃を仕掛けていく。

 右手の変異を切っ掛けに、完全に復活した修司はというと、口の聖龍剣からの斬撃や右手の爪からの攻撃に加えて、なんと石頭からの頭突きで香炉を破壊し出す。

「悪いね……ウチの総長はちっとばかり短気でね」

 頭突きで香炉を破壊していく修司を前にして、メタルバードは攻撃してくるコウリンに一言添える。

 聖龍HEADは最後の香炉を破壊してスグ、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]へ特攻した。

「俺はお前みたいな奴を初めて知った……善悪どちらにもつかない、純粋な無垢なる欲望の権化を……!」

 修司は口に聖龍剣を咥え、変異し肥大化した右手の爪で攻撃しながらコウリンに言う。

 善でも悪でもない、純粋に己の欲望のままに生きる、まるで無垢なる幼子の様な生き様を忠実に遂行するコウリンに修司はい、いいや、聖龍HEADは人間の本質を垣間見た。

 そして遂に体力的に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]を追い詰める事に至ったHEADは、コウリンを取り囲み、一気に勝負をつけようと仕掛けようとした。

 しかし追い詰められたコウリンは、そんな状況下でも表情を変える事なく、自分らが立ち尽くす万里の長城を眺めながら聖龍HEADに問い掛けてきた。

「見事な造りだろう? これほど巨大な建造物は異世界にもそうそうない」

 突然、万里の長城を誇らしげに語るコウリンの発言に不意を突かれてしまうHEAD。

 だが「フッ」と、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]がほくそ笑み、指を鳴らした瞬間、修司たちのいる万里城は大爆発し、一同は爆発に巻き込まれた。

「うわぁ!」爆風に吹き飛ばされ、転倒するHEAD。

 だが同じ頃、別所の万里の長城で[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に奪われた聖龍隊士の得物を奪還した赤塚組も同じく爆発に巻き込まれてしまってた。

「ぬおおおっ!」

 爆発により崩落し、燃え盛る万里の長城を視界に捉えながら朦朧とする意識を奮い立たせて立ち上がる修司。

「て、テメェ……!」

 意図も簡単に世界最大の建造物を破壊して見せた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の悪行に眼光を睨ませる修司。そんな修司に続いて同じく爆風で吹き飛ばされ倒された他の聖龍HEADが立ち上がる。

 すると爆発し、崩落した万里の長城の城壁から続々とコウリン軍の兵士が雪崩れ込んできて忽ちHEADを取り囲む。

 そんな疲労困憊の状態で立ち上がり、兵士達に取り囲まれて戦況を一転させられたHEADを前に、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は得意げに言い放った。

「見たまえ、これが[[rb:歴史 > じかん]]の破壊だよ! フハハハ……」

 幾多の歴史を紡いできた万里の長城を爆破・炎上させた己の行為を得意げに語るコウリンに、HEADは血の気が上がるどころか逆に引いた。

「ハハハ! 罪の重さに身もすくむな!」

「コウリン……! テメェは、やはり生かしちゃおけねぇ……!」

 万里の長城を爆破させた己の行為に悪びれる様子もなく、逆に得意げに壮大な歴史の象徴を破壊して見せた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の行為に、最初は彼の人間性に魅かれ始めていた修司も、やはりコウリンは生かしておけない危険な人物だと再認識し、敵陣の中へと特攻する。

 修司は目の前に広がる敵兵の群衆を、変異した右手の一撃で吹き飛ばすと一気にコウリンと距離を縮める。そんな修司の一太刀を、コウリンは宝刀で容易く受け止めると、ほくそ笑みながら修司に言った。

「ハハハ……鬼の火あぶりも悪くはない」

 炎上する万里の長城の業火で鬼神と呼ばれる修司を焼き殺すと仄めかすコウリンに対し、修司は怒りに満ちた形相で言い返す。

「これはテメェが地獄に堕ちる為の送り火よ!」

 この修司の言葉に対し、コウリンは薄ら笑いを浮かべて修司を褒め称える。

「なかなかどうして詩人だな、鬼神よ!」

 修司と[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が一騎打ちに総じている最中、他の聖龍HEADは爆発と同時に出現した多勢の敵兵を相手に一騎無双の活躍をしていた。

「うぎゃあ!」

 燃え盛る万里城の中に響く敵兵の悲鳴に、心が揺さ振られながらも敵兵の命を奪っていく聖龍HEAD。

 そんな聖龍HEADを見て、コウリンは一言彼女らに言った。

「君らも、思ったより残酷だな」

 容易く人命を奪える聖龍HEADを横目に、コウリンは皮肉のこもった一言を吐きかける。それに修司は「よそ見してんじゃねえぞ!」と変異した右手をコウリンに振り翳す。

 一方の敵兵達も、コウリンに忠誠を誓っているのか決して怯む事無くHEADに迫り続ける。

「相当の手練れ……だが、それもどこまでもつかな?」

「物事の善悪は後の世が決めればよい」

「善悪……その程度の尺度、あの方には必要ない」

「あの人がどんな人であろうと俺達は構わない」

「この世に生きるのは愚か者ばかりだ。奪われるのは、愚か者の証拠さ」

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]より世の理を教養された兵士達は、世の真理をHEADに説きながら迫る。が、HEADも内心彼らの言っている事に理解を示すと同時に後には退けず反撃していく。

 と、此処でコウリン軍の戦忍が、コウリンと一騎打ちに総じている修司の背後に出現し、修司を背後から奇襲しようとした。

 が、修司は背後に迫った戦忍を気配で察知し、口に咥えている聖龍剣で背後の忍を全員一掃した。

「できる……! 修羅場をくぐっておるな……!」

 戦忍の頭が驚く中、上官兵が兵士達に命じた。

「奴を倒せ! 奴を倒せば、他の聖龍隊の士気も下がろうぞ!」

 上官兵は修司を倒すよう、兵士達に命じた。だが修司に近寄らせまいと、聖龍HEADが彼らの行く手を阻む。

 しかしそれでもHEADの猛攻を掻い潜った兵士が修司に攻撃しようと迫るものの、修司は口に咥えた聖龍剣で器用に相手を斬り付け、更に変異し肥大化した右手で簡単に薙ぎ倒して見せた。

「たった一人……それも手負いの相手に、何たる様だ!」

 一人の手負いの相手に近付く事さえ侭ならない戦況に上官兵が怒声を上げる。

 そんな混戦状態が続く中、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]にミラーガールも修司に続いて助太刀の形で攻撃を仕掛けていく。

「今の私たちに言えた義理がないのは分かっているけど……人の命を何だと思っているの!?」

 血塗れの白衣を纏うナースエンジェルが、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に人命の尊さを訴えると、コウリンはほくそ笑みながら答え返した。

「なるほど、命か……猿に筆を持たせ、祝詞を書かせるほど難しい」

 すると今度は混戦中にも関わらず、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は聖龍HEADの一部の隊士に問うた。

「セーラーマーズ、木之元桜、そして獅堂光よ……君らは確か、炎系の能力を使えていた筈だな。最後の頼みだ、どうか君らの劫火を私に見せてくれないか?」

「っ……あなたなんかの見世物の為に、私たちの能力はある訳じゃないわ!」

 大火を見せてほしいとせがむ[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の願望に対してセーラーマーズが強く突っぱね返すと、コウリンは不思議そうな面立ちで語った。

「火はいつか消える、燃えた木々は戻らない……世の構造とは、不思議なものだな」

 燃え尽き、破壊されたものは決して元通りにはならな世の構造、真理を説くコウリンの言葉に聖龍HEADの心は揺らぐ。

 そんな揺らぐ聖龍HEADに[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は、はっきりとした言葉で言い切った。

「私が良い人間だったという結末など無いよ」

 最後は善人だったというハッピーエンドは訪れないと、聖龍HEADに言い切る[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]。そんな彼は今の自分の心情をも語り明かす。

「虚しいな……いや、とても愛しい感情だ」

 周囲の敵を蹴散らす聖龍HEAD、そして意を決して自分に斬りかかってくる修司を前にして、コウリンは無我夢中で攻撃に専念している彼らに言った。

「大丈夫だ、死ぬとしても一瞬ですむ」

 死という恐れや苦痛は一瞬で済むと断言する[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は、そういって修司に向けて火薬を散布し反撃する。

 次第に現状にコウリン軍の兵士の死体が転がる惨状が広がるのを視認した[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は、改めて修司を助けに向かってきた聖龍HEADに真意を問い質した。

「そもそも君らは此処に何をしに来た? 和解か、殺戮か?」

 このコウリンの質問に、ようやく半数以上の敵兵を倒したメタルバードたち聖龍HEADは答えた。

「お前を倒し、修司を助ける……それだけの事だ!」

「誰かを守るために誰かの命を奪う、か……順当な等価交換だな、諸君」

 メタルバードの返答にコウリンは、順当な等価交換だと敢えて聖龍HEADの悲惨な行為を否定しなかった。

 そのメタルバードを筆頭とした聖龍HEADは悉く敵兵を薙ぎ倒し、かつて修司が願っていた清楚な姿とは真逆の血塗れの勇姿として戦場で踊っていた。

 その頃、修司とミラーガールは共闘で[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]を追い詰めていく二人。

 そんな修司と一緒になって共闘するミラーガールに、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は世の真理を完全に周知していない彼女へ世の理を述べる。

「残念だが、人はそんなに優しくはない。君らはそれを知らぬのだ……」

「それでも私たちは……人の奥底に眠る優しさを信じたい……!」

 人という生き物はそんなに優しくないと説く[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に反し、ミラーガールはそれでも人の優しさを信じたいと強く主張する。

 そんな理想を淡々と述べ続ける聖龍HEADに愛想を尽かし始めた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は更に世の真意を述べた。

「外道は外道のまま死ぬ……それがもっとも正しい死に様ではないかね?」

 己の様な外道は、そのまま変わらぬ姿で朽ち果てる事こそ世の真理であると述べる[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の言葉に、苛立ちで表情を歪ませる修司とミラーガール。

 

 そんな中、聖龍HEADは苦戦の末に万里の長城爆破と同時に出没した敵兵を全て倒し切った。

 万事の為に用意していた兵力を全て駆逐されてしまった現状に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は薄ら笑いを浮かべて修司やメタルバードたちに言った。

「卿らも、思ったより残酷だな」

 敵ならば容赦なく殺める惨状を前にして、悠然と語る[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]にメタルバードが言う。

「次はテメェの番だ、閻魔様への挨拶を練習しておけ」

「卿は冗談が上手いな、いや感心した」

 メタルバードの皮肉の言葉に、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は嘲笑う。

 遂に修司とミラーガールだけでなく、全ての聖龍HEADが[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]と対峙するにまで至った。

 この状況下でも、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は表情を微塵も変えず悠然とHEADと向き合う。

「卿らがなぜ得意になっているのか分からないな」

 全ての敵兵を倒した聖龍HEADの快進撃を嘲るコウリンは、更に彼女らの周囲に転がる無数の屍を目の当たりにして皮肉を述べる。

「君らも破壊を好むのか、いや感心」

「…………………………………………!」

 殺戮という破壊行為にまで移るに至ってしまった聖龍HEADを前に、コウリンから感心されたと述べられた聖龍HEADは全員苦渋の想いを噛みしめる。

 そんなHEADの苦渋の想いを理解しながらも、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は淡々とHEADに述べる。

「龍頭よ、卿らが味わったのは世の本質だ。奪われた者が罪なのだ!」

「なんて人……!」

 奪われるものこそ弱さであり罪の象徴だと説くコウリンの言葉に、キューティーハニーたちHEADの女性陣は怒りをあらわにする。

 しかしコウリンはHEADと攻防を展開しながらも修司たちに述べ続ける。

「犯した罪に嘆く必要はない。卿らもいつかは、朽ちゆくのだからな!」

 これに対し、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の人柄を理解し切った小田原修司は強く反論した。

「……お前の言う事はもっともだ……だが、人の死に場所まで決める権利など、お前にはない」

 人の終わり方まで指図する権利など、他人にはないと説く修司の弁論に賛同するかのごとくHEADの動きも活発化する。

「コウリン、そろそろ終わりだ! お前の能書きは聞き飽きた!」

「……そう吠えるな、破壊行為はつらいものだ」

 咆哮する修司の言葉に、コウリンは自らが好む破壊衝動を辛いものだと述べながら修司の攻撃を受け流していく。

「修司! ここが正念場だ、気合い入れていくぜ!」

「言われなくても……この修司、いつでも本気だ!」

 次第にコウリンを追い詰めていく修司に、メタルバードが正念場だと呼びかけると修司もそれに強く応える。

 

 そして修司の変異した右手からの攻撃をコウリンが宝刀で防いだ隙に、ミラーガールがミラー・ソードでがら空きのコウリンの腹部を斬り付ける。

 そのまま斬り合いになるミラーガールと[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]。そしてミラーガールが最後に一太刀入れた次の瞬間、「せいッ」と修司が上段からコウリンに斬り付けた。更に追い打ちとばかしに最後の一撃を[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に浴びせる。

「くたばれえッ!」「ぐはッ」

 修司の強烈な一撃が、コウリンの命を燃え尽きさせた。

「……うぐ、ぐっ……」

 最後の一撃が効いたのか、コウリンは項垂れながら語り始めた。

「しょ、所詮は卿らも欲望の権化……理想も夢も、所詮は人の描いた欲望だ。その欲望の権化である君らがこの先、どのような顛末を我々三次元人に向かわせるのか……関心があったのだがね…………」

「………………」

「と、特にミラーガールよ……君のその、全ての夢を、欲望を叶えるコンパクトは……誰もが欲する、まさしく理想の宝物だ。この先、いづれ……君のそのコンパクトを狙う輩が現れるだろう…………」

「………………!」ミラーガールはコウリンの言葉に胸中を貫かれた。

 すると絶命寸前の[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]は高々と左手を上げ始めた。

「屍は遺さないようにと……そう、決めている、のだよ…………さらばだ、頭龍」

 次の瞬間、絶命寸前のコウリンは左手を高々と上げると、その左手の指を鳴らして自らの体を爆破させた。

「!」

 目の前で爆死するコウリンを前に愕然となるHEAD。すると彼らの前にコウリンが数多の戦いで使用していた宝刀が飛んできて、地面に突き刺さった。

 すると此処で戦いの疲労から解放された余韻か、修司はドッとよろめいてしまう。そんな修司をメタルバードが慌てて受け止めて、立ち上がらせる。

 修司はメタルバードの肩を借りながら呟いた。

「ッ……先に地獄で待ってろ……コウリン……」

 修司は敵ながらも、己の欲望に純粋に忠実であった[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に手向けの言葉を掛ける。

 そして聖龍HEADは悲痛なる苦戦の末に、ようやく戦いを終わらせたのだった。

 

 

 すっかり夜も明け、明朝が立ち昇る中、聖龍HEADは崩壊した万里の長城より脱した。

 すると目の前には、救出された捕虜であった聖龍隊士に加え、自軍のみで[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が奪った得物を取り返してくれた赤塚組の面々が満身創痍ながらも笑顔で出迎えてくれていた。

 彼らに続き、周辺には[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が日本略奪計画の際に使おうとしていたミサイル奪還作戦を阻止してくれた聖龍隊士に多くの戦界武将達が顔を揃えて聖龍HEADの帰還を待ち侘びていた。

「修司さーーんっ」「うさぎ!」「ハニー、無事か!」

 捕虜であった者たちから出迎えられたHEADは、満身創痍で修司を抱えながら前進する。

 しかし此処で修司は肩を貸してくれるメタルバードに「待て……ここでいい」とメタルバードに言い、自力で直立する。この時、修司の右手はすっかり毒素が分解されたのか元通りに至っていた。

 だが、既に修司以外の聖龍HEADは、多くを守るために多くの血を浴びていた。この現実にメタルバード達HEADは痛感させられる。

「ッ!」

 HEADの各々が膝をつき、その場に蹲る現状を目の当たりにして修司や周辺の者たちは一驚する。

 そして聖龍HEADの各々が変身を解き、ありのままの自分の姿で修司と向き合った。

「修司……元より覚悟はできている。お前に刃を向けた暴挙、更にはお前が理想とする夢を穢しちまった行為……どれもこれも許されるものじゃねえ……!」

 自分達の今までの暴挙や行為を恥じるバーンズたちは深々と修司に詫びの言葉を向け、頭を下げて謝罪し続ける。

「仲間達の得物、そして命……奪われたものを全て取り返した今、オレ達にできる事はただ一つ……!」

 そして自分達の罪の清算をしようと、各々自身を傷つけようとした、その瞬間。修司は彼らの自傷行為を目にも止まらぬ抜刀の衝撃で制止させた。

「ッ……!?」

 自傷行為を止められ、唖然とするバーンズ達に、修司は笑みを浮かべて言った。

「野暮なことは言いっこなしだぜ……バーンズ、みんな……」

「し、修司……!」

「お前達に血塗れの道を歩ませたのは、俺の力不足だ。お前らが詫びる事なんてない……これからも宜しくな」

「修司……ッ…………!」

 仲間が抱え込んだ罪も責任も、そして贖罪の想いも全てを受け入れてくれた修司の思いやりを承ってバーンズ達は思わず感極まって目から涙を流した。

 

 かつて中国には己の欲望に純粋な賢人がいた。その者、名を[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]と呼ぶ。

 彼の欲望により戦火は広がり、多くの人民が苦しんだ。

 そんな苦境の中でも、名立たる武人たちは立ち上がり、多くの人民の為に己が腕を振るった。

 そして[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]のミサイル奪還による日本奪還作戦を、聖龍隊とアジアの戦界武将たちは未然に防ぐ事ができた。

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]との戦い直後、修司たち聖龍HEADは協力してくれた聖龍隊の隊士や戦界武将たちに礼を述べていった。

 その中には当時、まだ鍵が紛失してしまったが故に手枷を嵌められたままの黒劉席の姿もあった。修司は冗談半分で劉席の手枷を聖龍剣で軽く叩いて見せると、枷は酷使し続けていたのか脆くなっており聖龍剣で軽く叩いた直後バラバラに砕けてしまった。これに黒劉席は大いに喜び、鬼神小田原修司に感謝してもしきれなかったという。

 

 しかし戦いを終えた聖龍HEADは腸の中に一物を抱えていた。

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]、果たして彼を本当の悪人と捉えていいのだろうか。

 己の夢や野望を抱き、邁進する人間は多くいる。彼もまた、そんな己の欲望にただ純粋に生きていただけの賢人ながらも幼気な人間ではなかったのか。

 聖龍HEADはアジア大戦の最後に、本当の意味で人間が誰しも心中に宿す無限の欲望の姿を垣間見た心境であったという。

 

 

[宝刀の前で……]

 

 ――――……[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]との出来事の全てを語り終えたバーンズ。語っている間、彼らはいつの間にか修復された万里の長城その内部へと足を運んでいた。

 その室内はアジア大戦の記録を象徴する品が展示されており、その中でも一際目を光らせていたのが小部屋の中心に展示されている一本の宝刀であった。その宝刀こそ、バーンズが話の中で語ってくれた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]が愛用していた宝刀だった。

「……奴が、コウリンの野郎が遺した言葉の一つ一つには世の真理ってのが刻まれていた。奴の言葉を否定できる人間は、おそらくこの世にはいない」

「………………………………」

 宝刀が展示されているガラスケースを直視しながら語るバーンズの言葉に、一般の二次元人達は言葉を失くしてしまう。

 略奪者だけとは言い難い人物、[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]との昔話を聞いて二次元人達は圧倒されていた。

 己が欲望の為に他者から奪い続けてきた[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の生き様、そんな[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]から奪われたものを取り返すべく単身血を浴びようと向かった修司の決意、そしてその修司を死なせないために自分達も修羅の道を進む事を決心した聖龍HEADの覚悟。その全てが二次元人達の胸に突き刺さった。

「………………………………………………………………」

「……どうした、お前ら? これが戦士ってもんじゃ無かったのか? 敵の命を奪い、奪われた平穏を取り戻すのが戦士だって事を……」

 バーンズより二年前の[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]との戦闘を聞いた二次元人達のだんまりとした様子を察し、語り明かしたバーンズが彼らに問う。

 二次元人達に[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]との経緯を語ったバーンズは、更に語り続けた。

「奴の言ってた通り、夢や理想を掲げる奴は偽善者なのかもしれない。だがそれでも、オレ達はオレ達の道を歩むために修司と同じ修羅の道を歩むことを決意したんだ。……修司自身は喜んじゃいなかったが」

 例え偽善者と罵られようと、自分達が想い掲げる夢や理想を実現させるために戦友でもある小田原修司と同等の血に染まった修羅の道を突き進む事を決意した聖龍HEADの覚悟を聞いて余計にしょげ返る二次元人たち。

 [[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]の言った通り、人の思想概念すなわち願望から生まれた自分たち二次元人は何なのか。それを再認識された。

 すると難しそうな顔をし出す二次元人達に気付いたバーンズは、彼らに笑顔で言った。

「そう難しそうな顔するなって。血に染まった道を進むのを決意したのは、修司だって同じなんだし、オレ達の決意も間違いなかったと今では自負している。それに例えオレたち二次元人が偽善の塊だろうと、それはそれ、これはこれ、オレ達はオレ達の信じる道を突き進めば良いだけなんだ」

 唖然とする二次元人達を前に、バーンズは更に語り続けた。

「確かに人間は欲望の塊だ、それは間違いない事実だ。だからといって全ての願望を否定するのも、制止するのも間違いだとは思わない。夢ってのはそもそも、誰か他の人を喜ばす為に実現させようとするものだからな。自分を満たす為だけが夢じゃない……そこが難しいところだが、夢ってのはそんなもんなのよ」

「ば、バーンズ……」

 悲壮な面立ちで語り続けるバーンズの話を聞き続けて、新世代型の真鍋義久はバーンズ達HEADの心中を察してそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

「……さあ、観光はここまで! 次は大友家の領地に赴かないとな、あそこは聖龍隊の財政の要の一つだし、機嫌取らないとな」

 バーンズが旅立ちの発言を促すと、彼と聖龍隊に赤塚組の面々が先に建物から出ていく。

 その場に残された二次元人達も、後に続いて行こうとする。

 が、その時であった。またしても例の現象が。

 フラッシュバックで新世代型が見据えた景色は、先ほど見物した展示物の宝刀を構える白と黒のツートンカラーの早老の男性と向き合う視点だった。

 新世代型たちは咄嗟に目を展示物である宝刀に向けた。確かに今し方、フラッシュバックで目の前に見据えた人物が持っていた武器はこの宝刀だ。

 すると立ち止まって展示物の宝刀に目を向ける新世代型の存在に気付いて、大将が彼らに呼びかける。

「ん、どうしたんだお前ら? もうここを発つんだし、早く来いよ」

 大将に呼ばれて、新世代型たちもようやく動き出す。

 彼ら一同が去っていった小部屋には、無数の展示物に囲まれながら、かつて純粋無垢な欲望の持ち主が愛用した宝刀が煌めいていた。

【善悪の垣根はない、純粋無垢な欲望の権化】かつて小田原修司が[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]に向けて賜った言葉。簡潔に善や悪といった分別で分けられるほど、コウリンの真理は奥深く、そして純粋であったと述べた修司。

 

 果たして彼は何処に向かい、何処へ向かおうとしていたのであろうか。

 

 

[アレンジ武将]

 

[[rb:永皇輪 > エイ コウリン]]

 所属:略奪軍総大将

 出身:三次元界 中国

 武器:宝刀、火薬

 肩書:天我独尊

 登場時の書き文字:圧参

一人称:私

 属性:炎

「己の欲望のみに従って生きる極悪人」として描かれている。また教養人の一面も反映されているようで、発する言葉には意味深な趣のものが多い。

「卿(けい)」(女性には君)という二人称を用いる。武器として持っている剣とは別に、左腰に太刀を天神差しにしているのも特徴。

性格

 冷静沈着で、どんな状況下でも動じず常に余裕めいた薄ら笑いを浮かべている。

 表面的な口調は紳士的だが放つ言葉の内面はいずれも悪意に満ちたものばかりで、欲望に忠実に生きることが人間のあるべき姿だと考えており理想や信義に生きる者達を「偽善者」と呼び軽蔑する。

 対峙した相手を「○○を貰おう(贈ろう)」という形で評価(皮肉や嘲りであるが、いずれの評価も相手の本質を的確に突いている)する癖がある。

 その一方で不思議な包容力の持ち主であり、多くの兵から恐怖以上の尊敬を集めている。それにより、本来は人間嫌いな魔法界の住人(二次元人)からも魅かれている。

 武将とは別に収集家の面を持ち合わせており、多くの場合、人質を取る等手段を選ばず欲したものを手に入れようとしている。一方でものが壊れたり燃えたりなどして変わり果てる様にも趣を持ち、その関係から火を好んでいる。

 欲望に充ち溢れすぎているせいで、バーンズからは「だだをこねるガキと同じ」と言われ、鶴姫からは「大きな幼子」と指摘されるも、「それは最もなことだ」と自覚している為、余計性質が悪い。

与える能力と奪う能力

 詳細は不明だが、彼には抽象的なものを与えたり奪うことが出来る謎の能力がある。

 後に、とある衆家と関わりがある事が判明する。

 

 

 

 

[[rb:風魔風斗 > かざまふうと]]

 所属:傭兵(乱世時には日本天皇親族に雇われていた)

 出身:不明

 武器:対刀(忍者刀)

 肩書:疾風翔慟

 登場時の書き文字:参上

一人称:不明

 属性:風

 天皇家が親族、時乃宮家に属する戦忍。シンボルカラーは白黒。時々高い所から景色を眺めているらしい。

 話さないだけか本当に声を発せないのか不明だが、非常に無口で全く喋らない。

 戦忍としての腕前は折り紙つきで伝説の忍と称され、風の悪魔とも呼ばれることもある。

 時乃宮家に仕えていたが、基本的に傭兵なため、金さえ積まれればどの軍にも属する。

 

 

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