現政奉還記 武将達との会合編 作:セイントドラゴン・レジェンド
[chapter:冷遇された視線]
辛くもスター・コマンドーに勝利した聖龍隊。だが、誰もがその胸中に傷心を追っていた。
スター・コマンドーを退かせた聖龍隊は、傷心を負ったまま新たな世に生まれ出た二次元人達、そして弱輩なシバ・カァチェンに広い世の中を見定めさせる為にアジアからの旅立ちを決めた。
だが、その前にシバ・カァチェンがバーンズに申し開いた。
「……バーンズ……」「どうした、カァチェン」
今や少しばかり心を開いてくれたカァチェンは、バーンズの事を名指しで呼び合うまでに変わってくれてた。
そんなカァチェンはバーンズに申し開く。
「バーンズ、アジアから旅立つ前に一つだけ……我が祖国、台湾への帰還をお許し願いたいのですが……」
「へっ? 台湾にか……?」
「はい……弱輩ながらも、私は国将軍……自軍でのやるべき職務がまだ多々ありまして……」
「なるほどな……よし、分かった! 一旦、台湾に寄ろう!」
「私の我儘を聞いてくださり、誠に感謝至極にございます……」
「いや、我儘って程の事じゃないだろ? お前はもう少し、気を強く持てれば幸いなんだが……」
「………………………………」
聖龍隊総長バーンズの許しを得て、一行は一路カァチェンが取り締まってる台湾へと足を向かわせた。
しかし台湾へと向かう事を知った大将たち赤塚組は、複雑な心境を胸中に抱えていた。
「………………………………………………………………」
「……どうした大将、顔に似あわず陰気な面しやがって」
バーンズが陰気な強面を浮かべる大将に話し掛けると、大将は複雑な胸の内を隠す様に話し返す。
「ば、バーンズ……いや何、ちょいとな……」
「……お前さん、昔を思い出してたんじゃないだろうな」
「へっ?」
「かつての台湾将軍にしてやられた事を、思い返してたんじゃないのか?」
バーンズに心の内を見透かされた大将は、思い余って正直に語り始めた。
「あ、ああ……実は、そうなんだ。チェイファンの事を思い出してよ」
「そうか……確かに奴の卑劣な知略にはオレたち聖龍隊も怒り心頭だ。だけど昔の事、今の台湾軍を……台湾の民を恨むんじゃねえぞ」
「そいつは解ってる! ……それに、今ではアイツが守りたかったモノも少しばかりは解る気がしてならねえんだ……」
「それなら良い、まだお前やミズキ達が心の何処かで許せないのはオレらも分かっているが、今の台湾軍は変わりつつある。むやみやたらに敵意を向けちゃならねえ」
「……おう、分かってるよ、バーンズ」
過去の知略によって心身ともに深く傷ついた赤塚組。その頭領である大将は二年前の乱世での知略に憤りを感じていながらも、バーンズの説得により少しばかり心情が温和になった。
――――そして一行は長い旅路を進んで台湾へと到着した。
二年前の乱世では破邪王率いる新世軍と結託して聖龍隊と敵対していた台湾も、この二年の間で豪く変わった。
何より二年前の乱世での影響と、聖龍隊のミラーガールの努力で台湾は無事に中国より独立。一国家として認められていた。
更に以前より親日国であった台湾は、より一層日本との友好関係を深くし、そして敵対していた二次元人に対してもその態度を改めて友好的な関係を築いていた。
それにより台湾に到着した聖龍隊と赤塚組の面々に、台湾国民も温かく迎え入れていた。
だが一人だけ、台湾国民はもちろん台湾軍から冷遇された視線を向けられる人物がいる事に二次元人達は気付いた。
それは他の誰でもない、台湾軍を統治するシバ・カァチェンにだった。
「ど、どうしたんだ? なんでカァチェンさんにだけ、みんな冷たい視線を向けるんだ……?」
「何かが可笑しい。他の国将軍は国民から厚く慕われているのに対し、シバ・カァチェンだけ冷遇されているなんて……!」
冷遇された視線を浴びせられるカァチェンに気付いて、新世代型の瀬名アラタと斉木楠雄は冷たい視線を送り続ける台湾国民の態度に違和感を覚えた。
「聖龍隊! 聖龍隊! ……」「ミラーガールぅ!」
そんな冷遇された視線とは真逆で、二年前の乱世で敵対した上に敗戦した台湾を庇ってくれた聖龍隊やミラーガールには熱い声援が送られていた。
この何とも裏腹な展開に、一般の二次元人達は不思議に思うばかり。
そんな二次元人の気遣いも空しく、シバ・カァチェン本人は周囲からの冷遇された視線に対して慣れ切った様な素振りで冷然と聖龍隊と同行するばかりだった。
「にゃんでアイツは言われっぱなしニャのかな?」
新世代型の森園わかなは、陰口を叩かれるシバ・カァチェンの素振りに首を傾げる。
冷遇される視線を一身に浴びせられながら、聖龍隊とは真逆に陰口を叩かれるシバ・カァチェンに疑念を抱いた新世代型二次元人は聖龍隊総長バーンズに訊ねた。
「バーンズさん、なんでカァチェンさんはこんな扱いなんですか……? 異人である私たち二次元人が優遇されているのに、同じ台湾人のカァチェンさんがこんなにも冷たくされているなんて……」
「ああ、それはだな…………後々いうよ。カァチェンにも辛い過去ってのを背負っているんだからな」
新世代型の野々原ゆず子の問い掛けにバーンズは重く険しい面差しで述べ返す。
「それにしても、自国を守ってくれる国将軍に対して何たる態度だ! 私が此処の将軍だったら、もっと市民から厚い人望を得ようと奮闘するものの……やはり、あのシバ・カァチェンは鍛錬というものが不足している!」
「おうおう、言っちゃってくれるね」
冷たい視線を浴びせられるのは己の将軍としての気構えと鍛錬不足によるものだと強く説く
[銅像の前で]
台湾に到着した聖龍隊と赤塚組は、シバ・カァチェン同伴の元、台湾軍の領地へと赴いた。
その間、一般の二次元人達は基地への進入を許可されなかった為に台湾の地を観光する事と相成った。
観光の間、二次元人達の警護は聖龍隊の新人三組によって任された。
「たっく、琴浦たちが新世代型って理由だけで基地への出入りは厳禁だなんて腹立つな……!」
「ギュービッド、もう慣れているからそんなに怒らなくていいって……」
新世代型二次元人が大半の連れであるために、台湾政府から基地への進入を禁止された経緯について立腹するギュービッドに対し、琴浦春香は優しく宥めた。
仕方なく、一般の二次元人達は聖龍隊の新人同伴で台湾を観光して時間潰しするしかなかった。
台湾の市民は、意外にも二次元人に対しても友好的であり、更に二年前の乱世が起こる前から親日国としても有名であったが為か、観光も賑わっていた。
そんな観光地を一通り巡っていった二次元人達は、最後に台湾軍の戦死者を弔う慰霊地へと足が自然に向かった。
慰霊地には、二年前の乱世で知将と称えられていたモウ・チェイファンの銅像が建造されていた。
「コイツが悪名高いモウ・チェイファンか……へぇ、確かに冷酷そうな顔してやがる」
「ぎ、ギュービッド様!」
「ここは普通の台湾人もいるんですし、少し発言を控えようよ!」
知将と名高いだけでなく、知略の為には冷徹にもなれるモウ・チェイファンの銅像の面構えを拝んだギュービッドの発言を聞いて、チョコと桃花は慌てて制止する。
と、二次元人達が二年前の戦争で戦死した兵士を弔う慰霊碑の横に聳え立つモウ・チェイファンの銅像を前にしていた、その時の事。
何処からともなく白い霧が出てきた。台湾で霧とは珍しい現象だ。
「な、なんだ? この霧……」「なんか、不気味……」
突如として発生した濃霧に異様な雰囲気を察するキリトとアスナ。
気が付いてみると、辺りには自分たち以外の人間は人っ子一人いなかった。
「だ、誰もいないぞ!?」
「可笑しいな、さっきまで普通の観光客もちらほら目に入って来たんだが……」
先ほどまで視認できていた観光客の姿が見えなくなった状況に、新世代型の燃堂力と斉木楠雄が動揺する。
すると濃霧の中から一体の人影が浮き彫りになってきた。
「あ、良かった! あそこに人が……」
新世代型の満艦飾マコが濃霧に現れた人影に気付いて声を掛けつつ駆け寄ろうとした。
「すいません、ちょっと……」
だが、次の瞬間。スパッという切れ味のいい音と共に一筋の閃光がマコを襲った。
「うわっ!」「ま、マコ!」「大丈夫か、満艦飾!」
閃光と共に後方に倒れてしまうマコを目の当たりに、纏流子と
倒れたマコに目を向けてみると、マコの前方の服が微かに鋭い刃で斬り付けられているのが判明した。
「こ、コイツは……!」「己! 貴様か!?」
マコの服を掠めた切り口に流子が驚く一方で、皐月は濃霧から現れた人影がマコを刃物で斬り付けたと見て言い寄る。
すると濃霧が突然晴れ出し、辺り一帯の景色が確認できるように至った。
そして同時に辺りには人っ子一人いない現状と、目の前に現れた人影の実体を目視する事ができた。
「なッ……ウソだろ、アンタは……!」
濃霧が晴れて確認できた人影の実体を認識した纏流子、いやその場の二次元人一同は驚愕した。
その者は緑色の鎧を着衣し、手に輪っかの様な刃物を持ち、そして何より氷の様に冷たい視線を向けてくる、今は亡きモウ・チェイファンの銅像と完全に一致した人物だったからだ。
「も……モウ・チェイファン?」
「まさか、だって本人は既に二年前に……!」
二年前の乱世で戦死した筈のモウ・チェイファンの姿に、鹿目まどかも暁美ほむらも激しく動揺する。
すると、そんな二年前に戦死した筈のモウ・チェイファンが二次元人達を前にして突如として話し始めた。
「……貴様らは何者ぞ? なぜ我が領地におる?」
「………………………………」
突然のモウ・チェイファンの登場と発言に言葉を失くす二次元人達。
すると突如として刃を向けてきたモウ・チェイファンに、二次元人達と同伴していた聖龍隊の新人達【SAO】組と【AW】と【マギカ】組の面々がチェイファンの前に立ちはだかる。
そんな己の目の前に立ちはだかった聖龍隊の新人達を前にして、チェイファンは冷徹な眼差しで述べた。
「我の行く手を遮るは、貴様らか……偽りの種族が、呆けた事を」
「! な、何だと……!」
チェイファンが発した「偽り」の言葉にキリトたち二次元人は激しく反応した。
何故なら偽りの種族などの言葉は、二次元人への差別的用語であったからだ。
二次元人への冷遇な発言を述べたチェイファンは、己の肩にかけていた輪っかの様な形状の刃を差し構えて己の戦意を示す。
「消え失せるがいい。貴様ら偽りの者が、我が国に立ち入るとは不愉快ぞ」
二次元人が台湾の地に踏み入った事を不快に思うチェイファンの言動と戦意に、聖龍隊の新人達は一般の二次元人達を護る為にも構えた。
それを見てモウ・チェイファンは見下すような面差しで言った。
「愚かな……勝利は叡智のもとにこそ微笑む」
敵意を向けてくる二次元人に対し、相も変わらず見下す面差しを向け続けるチェイファンは得物である輪刀を差し向けて言い放つ。
「我が名はモウ・チェイファン! 日輪の申し子なり!」
詭計知将 モウ・チェイファン 着手
明らかに二次元人を見下すモウ・チェイファンの言動に、感情が昂る聖龍隊の新人達は攻撃に移ろうと図る。
「投射か、刃か……よもや一つの取り得もなしか?」
しかしチェイファンを取り囲む新人達に、チェイファンは取り得なしかと煽り始める。
するとチェイファンは輪刀を頭上より高く上げて、その位置で輪刀を回し始めると、輪刀から青く発光するリング状のエネルギーが照射。そのリングがチェイファンの周りを取り囲む新人達を吹き飛ばした。
「うわッ!」
輪刀より放たれた輪っか状のエネルギーに弾かれ、散り散りになってしまう聖龍隊の新人達を見て二次元人たちは絶句してしまう。
「な、何なんだ、あの輪っかの様な刃物!」
「おそらく、あの刃物は特殊なエネルギーを発生できる鉱物または科学技術で作られた一品なんだろう……」
チェイファンが巧みに操る輪刀から放たれるエネルギーを見て動揺する瀬名アラタに、同じ新世代型の細野サクヤが推測を立てる。
その間も、チェイファンは輪刀から壁の様なエネルギーを発して、前方からの攻撃を見事に防ぎながら応戦に立ち回る。
さらに「虚実!」という掛け声の元、輪刀から発せられるエネルギーで己の分身を作り出し、攪乱戦法も取り始める。
聖龍隊の新人達は変幻自在なモウ・チェイファンの知略という名の戦術に嵌ってしまい、簡単に倒されてしまう気配が場に流れ始めた。
この戦況に、遂に居ても立ってもいられなかった鬼龍院皐月が動き出した。
「ッ、もう見ていられぬ! 所詮は人を駒としてしか扱わなかった愚将が……この鬼龍院皐月があの世に送り返してくれる!」
と、二次元人を蔑視するモウ・チェイファンに敵意を向けて迫ってしまう。
だが、この皐月の行動にチェイファンは眉一つ動かさず、冷徹な面立ちで言い切った。
「駒が無くとも、貴様ら偽りの者共に劣る我ではない」
駒として扱う兵士がいなくとも、二次元人には負けないと自負するチェイファンの発言に、皐月以外の戦闘型新世代型二次元人も動いた。
「こうなりゃアタイらも行くぜ! 鬼龍院にだけいいカッコさせて堪るか!!」
「私たちも行くよ! 皐月ちゃんだけに戦わせる訳にはいかない」
「私たちも行きます……! 幽霊だか何だか解りませんが、このまま放っておく事なんてできませんし」
纏流子の参戦に伴い、蛇崩乃音を切り出しに本能字四天王も参戦し、最後に栗山未来と名瀬兄妹も亡霊か何か正体不明のモウ・チェイファンと一戦を開始する決意を固める。
そんな新世代型二次元人の参戦を目前にしたチェイファンは、全く動じない様子でこう述べた。
「愚かな、数で我を討ち果たせると……愚の骨頂だ」
聖龍隊の新人達に加え、加勢する戦闘タイプの新世代型を前にモウ・チェイファンは微塵も動じる事無く冷たい眼差しを向け続けるのだった。
そう、何かに耐え忍ぶかのように……
[接戦! 亡者の知将]
「きゃっ!」「蛇崩、大丈夫か!?」「クソッ」
当初は意気込んで亡者である筈のモウ・チェイファンに戦いを挑んでいった新世代型たち。
しかし巧みに輪刀から放たれるエネルギーを機略して利用するチェイファンの戦術に苦戦に追いつめられる。
すると互いに仲間をかばい合いながら戦う戦前の者たちを前にしたモウ・チェイファンは、冷徹な一言を発する。
「どうしたのだ……戦に情けなど不要ぞ」
「て、テメェ! 聞いていた通りの下種野郎だな……!」
歴史の勉強で知り得た通り、人の感情など持っていないとまで言われるチェイファンの冷酷さに纏流子が不満をぶつける。
しかしチェイファンは、二次元人である流子からの言葉を聞いて静かに物申した。
「偽りの者め……分をわきまえよ」
あくまで二次元人を偽りだと抜かすチェイファンの言動に、二次元人である誰もが憤りを募らせた。
と、その時。チェイファンは輪刀を二つに分け隔て、二対の刃物に変形させると一気に目前の
「ぐわッ」「ま、まさか……!」
リング状の刃物である輪刀が、二対の刃物に分解できた事実を目の当たりに猿投山と犬牟田は驚倒してしまう。
それでも中距離から着々と攻撃を仕掛けてくるモウ・チェイファンに接近して攻撃を仕掛けようとするキリトやシルバー・クロウに対し、チェイファンは前方に壁を展開させて申す。
「接見を許した覚えはない、下がれ」「えっ? 石鹸?」
毛嫌いしている二次元人の接近を極端に嫌がるチェイファンの発言を聞いて、戦いを観戦していた新世代型の燃堂力は石鹸と聞き間違えてしまう。
そんな独りで多勢の二次元人達と接戦を展開するモウ・チェイファンを見続けて、二次元人達の心境に変化が。
何だかチェイファンが孤独そうに見え始めたのだ。
そんな二次元人達の視線に気づいてか、チェイファンは強く突っ返した。
「下衆が……そのような目で我を見るな!!」
二次元人達の哀れみにも近い眼差しに敏感に反応してしまうチェイファン。
すると、その隙を突いて皐月が縛斬でチェイファンに斬り付ける事が叶った。
しかし不思議なことに、チェイファンは一滴の血も流さず、平然と戦いを続けられた。
その様子を見て、皐月はチェイファンに一つの事実を突き付けた。
「やはり……貴様は既に死んでいる。亡霊になっている事にも気付いていないのか……!」
「貴様らごときの言葉に、惑ういわれもない」
既に死んでいる事実をチェイファンに突き付ける皐月だったが、チェイファンはそんな彼女たち二次元人の言葉に惑わされない姿勢を示し続ける。
すると此処でチェイファンは自分と戦う二次元人達はもちろん、観戦している二次元人達にも聞こえるよう説き始めた。
「貴様らは所詮、我の様な知略家には遠く及ばない愚の極み……手塚治虫とウォルト・ディズニーを祖とする種族から生まれた異形の化け物。そもそも、何の知略もない三次元人が神だと讃えられるのは場違いなものよ」
「き、貴様……!」
「俺たちだけでなく、二次元人の神様にまで悪口を言うのか!」
二次元界の神々にまで難癖を付け始めるモウ・チェイファンの言動に、皐月もキリトも怒りを露に。
しかしそんな怒りを露わにする二次元人を前に、チェイファンは言い切ってみせる。
「神は日輪をおいて無し……!」
「お前さんこそ、太陽を神と崇めているじゃないか」
「偽りの者ども、貴様らに神は語らせぬ!」
観戦していた幸平創真からの指摘に、チェイファンは二次元人に神を語らせぬと強く言い返す。
だが此処でモウ・チェイファンの追撃を耐え忍んでいた戦前の二次元人達が反撃に移る。
「モウ・チェイファン! 皐月様に、卑劣な策は通じないぞ!」
「フッ、愚かな……偽りの者が、何をほざく」
さらに蟇郡に続いて名瀬博臣もモウ・チェイファンに指摘を告げる。
「策を弄するのは弱さの証……モウ・チェイファン、だからお前は敗れたんだ!」
「力なき者は、そうして我を煽るのみよ」
だがモウ・チェイファンは博臣の言葉を鵜呑みにせず、逆に接近してきた博臣を輪刀で斬り付けて薙ぎ払ってしまった。
すると何度も何度もチェイファンが展開してきた壁に弾かれて傷だらけになった纏流子も、チェイファンに己の情理を述べる。
「覚えときな、人は気持ちで動くモンだよ」
「責を負った事のない貴様がそう抜かすか……」
しかし流子の言葉にもチェイファンは耳を傾けず、地べたを這いずる流子に無情な斬撃を振り付ける。
そんな冷めた表情で戦い続けるチェイファンに、今度は皐月が物申した。
「ッ……涼しい顔で実に食えぬ輩だな、モウ・チェイファン」
「何を申す……情など捨てて戦うが、戦の実情」
皐月の言葉に対して、人の感情を捨てて戦うのが常道だと説くチェイファン。
そんな冷徹な言葉を淡々と吐き続けるチェイファンに観戦していたイオリ・リン子が慈悲なる言葉を掛ける。
「貴方、人の心の掴み方は下手のようね」
「戯言を……民は恐怖によって縛るが常道」
イオリ・リン子の発言に対してチェイファンは戯言と捨て置き、常に恐怖で支配するのが道理と説き返す。
そんな続々と申し告げていく二次元人達を前に、チェイファンは冷たくあしらう。
「もう良い、黙れ、貴様ら如きと論じる気はない」
しかしそれでも皐月は兵士を冷遇していたと聞いているモウ・チェイファンと論じながら接戦を繰り広げる。
「私もそれなりに、策を練る武人のつもりだ」
「貴様ら偽りの者の知恵など、所詮は石ころにも満たぬ」
「死んでも尚、人を駒としてしか扱えぬとは……此処まで来れば、逆に哀れみすら感じ入る」
「解せぬ事を……戯言はそれまでだ」
接戦を繰り広げていたモウ・チェイファンは、皐月の言葉を振り払うかのように彼女を輪刀で弾き払った。
そんな皐月との論争を聞いて、チェイファンに対して何か悟った纏流子は哀しい表情で自分達を傷つけてくるチェイファンに言った。
「アンタは一生……いや、死後もそのままなんだな」
「言われなくともそのつもりよ」
指摘を受けずとも、自分は一生孤独のままだと説き返したチェイファンは、無情に纏流子に攻撃を放つ。
「あなた、苦しくないの?」
「戦に犠牲はつきもの、苦にもならぬ」
更に観戦していた新世代型の美都玲奈からの指摘にも、チェイファンは苦にもならないと半ば強がって見せた。
そして何故か傷一つ負わないモウ・チェイファンにより抗戦したにも関わらず無情にもその場に倒れていく聖龍隊の新人たちと戦闘タイプの新世代型たち。
非情に敵を斬り付け、全てを失おうとも戦い続けるチェイファンの戦いに傍観していた新世代型の真鍋義久が告げた。
「お前には情がない、そういう事だな?」
「貴様らに非情がない……それだけの事だ」
互いに感情の有無により意見が食い合わない思想を持つチェイファンと二次元人達。
かつて台湾の独立と繁栄を願った知将は、その全知略をもって全てを犠牲にしてでも独立を叶えようと奮闘した武将。
そんな知将モウ・チェイファンに再び真鍋義久が言葉を掛ける。
「多分、アンタ……気が付いていないんだ」
「我を悟るは我のみよ……偽りの者め、その穢れた口を閉じよ」
情をかけてくれる二次元人に対し、発言そのものを穢れていると蔑視するチェイファン。
するとチェイファンの冷徹な表情と、非情な戦いぶりに傍観していた猿田学がチェイファンに武の心得を告げた。
「弱きを守る、それもまた武門の務め」
「貴様ら如きが武門を語るな、胸が悪くなる」
しかしチェイファンは、偽りの者と見下す二次元人が武門を語る事じたい不快な言動として受け取る。
そんなチェイファンに幾度と闘いを仕掛ける皐月は、チェイファンに言い放つ。
「兵の犠牲に成り立つ策など、知略とは呼べぬ!」
「愚かしい……犠牲とせずに何の為の兵卒よ」
皐月からの格言にチェイファンは冷たく吐き捨てると、次にこう言い放った。
「兵など所詮、捨て駒ぞ! それも解らぬ貴様ら偽りの種族に、とやかく言われる筋合いはない」
一兵卒すら捨て駒として使い捨ててきたチェイファンのこの言葉に、またしても二次元人達は深い憤りを感じ入らざるを得なかった。
しかし冷たい態度を取り続けるチェイファンに、意を決めて琴浦春香が申し開いた。
「貴方なら、確かにアジアの全てを操れたかも知れないわ」
「我の知をもってすれば不可能ではなかろう……」
「でも、人の心までは動かせなかったでしょう。聖龍隊の様に、多くの人の心を震わせる存在にはなれなかった!」
「我が偽りの者に劣る、と……? 笑わせるな」
琴浦春香の言葉に若干の不愉快を感じたモウ・チェイファンは、琴浦に向けて攻撃を放った。
だがその攻撃を寸でのところで纏流子が弾き返し、チェイファンの策を翻した。
「イギリス、中国と……圧政を敷かれる世は過ぎた。今や我が意のままよ!」
過去に強国の植民地にされていた経緯を述べながら、チェイファンは更に二次元人達に申し開く。
「他の地など貴様らの望むがままにくれてやる……だが、台湾の地を穢すこと罷りならぬ!」
台湾を確固たる国にするべく奔走し、知略を巡らせていたモウ・チェイファンならではの言葉だった。
[再会 義賊と知将]
モウ・チェイファンとの苦戦が続く中、戦前に立つキリトや鹿目まどかは果敢にモウ・チェイファンへと挑みかかる。
しかしチェイファンは全ての攻撃をひらりとかわし続け、または壁で弓矢や弾幕を弾き返して防御しながら、力任せに戦う戦前の者たちに対してこう言い切った。
「フン、知のない者は力に頼るか」
そしてチェイファンは、幾度も戦いを仕掛けて力を消耗しつつある戦前の者たちから目をそむけ、その冷たい視線を戦前には出ていない二次元人達へと向けた。
「……もう良いわ。貴様と戯れるのも飽き飽きぞ、この一手にて全てを終わらせる!」
そういうとチェイファンは輪刀を頭上より高く掲げ、輪刀から強烈な光を発し始めたのだ。
「日輪よ! 栄光なれ」
「うわっ」「な、何なんだ、この光は……」
崇め奉る日輪を称賛するモウ・チェイファンに反し、強烈な光に思わず目を瞑ってしまうギュービッドたち二次元人。
その光は全てを照射し、照射されたものを全て焼き尽くす強烈な光だった。
「い、いかん! このままでは……!」
全ての敵対する者を焼き尽くさんとするモウ・チェイファンの着手に、皐月は策を練ろうと必死に考える。
が、その時。ガキッという固い金属音が聞こえたと思いきや、チェイファンが掲げた輪刀が弾かれて彼の足元に突き刺さった。
「い、今のは……!?」
輪刀を弾き落として全てを焼き尽くすチェイファンの算段を狂わせた顛末に、キャサリン・ルースが辺りを見渡した。
するとその場に駆け付けてきたのは、台湾軍基地にて今後の行動について議論を醸していた聖龍隊と赤塚組さらにシバ・カァチェン。
「お、お前ら無事か!?」「大将さん!」
「銅像前で何か戦い合っているって報告を受けて、急いで駆け付けてみたら……」
「アッコさぁん……」
銅像前の広場に駆け付けてきてくれた大将やミラーガールに、新世代型二次元人たちは豪く感激した。
するとチェイファンは、その場に駆け付けた赤塚大作に気付いて、思わず名を発した。
「赤塚大作よ」「チェ…………チェイファン」
目の前に佇むモウ・チェイファンを見て、大将は愕然としてしまう。過去に死んだチェイファンに我が目を疑った。
そして大将同様、他の赤塚組はもちろん聖龍隊もシバ・カァチェンも驚きの余り声を失ってしまう。
そんな殺伐とした中、大将は意を決して目前のチェイファンに歩み寄り声をかける。
「アンタ……ほんとに出たんだな」
「何を言っている?」
「いや、こっちの話だ。気にしねぇでくれ」
冷然と変わらぬ面差しを浮かべるチェイファンに、大将は素振りを向ける。
「アンタはなんで、まだ此処に……?」
「それは此方の言葉よ。貴様らの方こそ我が母国の地にて呑気に足を着いておるとは。よほど我の機嫌を損ねたいと見える」
「いや、だってよ…………あーー」
二次元人を偽りの存在として毛嫌いしているチェイファンの言葉に、大将は返す言葉を呑み込む。
「うーー……あーーーー…………や、まぁいい。それよりもアンタも一杯どうだい?」
大将はチェイファンの墓前に供えようと思っていた地酒を手に、チェイファンに杯を誘うが「酒は好まぬ」と返されてしまう。
「ど、どういう事なんですかHEAD! なんでモウ・チェイファンが此処に……」
「シッ、今は大将に任せてみるんだ」
過去に戦死した筈のモウ・チェイファンの存在理由についてHEADに返答を求めようとするキリトに、バーンズはこの場を大将に任せて自分達は見守っている様にと突き付ける。
気まずい空気だけが重くその場の皆に圧し掛かる中、大将は空気を変えようとチェイファンと語り合う。
「なぁ、此処は良いとこだな。人も、商売も、流通も色んなモノがきちんとしてる、上手い事回ってる」
「我が治めているのだ、当然の事よ」
「テメェの事だから、もっとひでぇ仕切りとか圧力とかで押さえ付けてるもんだとばっか思ってたぜ」
「基盤となるものを意味なく痛め付けるなど愚者の所業よ。民なくして国はならぬ。上手く使ってこそよ」
「ふぅん……部下には随分ときつく当たっていたように見えたけどな、俺達は」
「命に従えぬ者を罰し叱責するのは当然の事であろう? 訳も無しに攻める事などせぬわ」
「ふーーん……あ、ああ、でもそういやそうだな。あんたの部下達が口々に言ってだぜ。チェイファン様ならチェイファン様ならってうるさくよ。あんた案外慕われてたんだな」
「フン、知らぬ」
「ハタから見るだけじゃ解んねえもんだな」
笑いながら語り掛けてくる大将に、虫唾が走り始めたチェイファンは強く問い返した。
「だから何だというのだ」
「いや、別にどうこうってこたねえんだけどよ」
台湾の統治と部下への扱いを語り合った大将。
すると此処で大将とチェイファンの語りを傍観していたシバ・カァチェンが二人に歩み寄り、声をかける。
「赤塚殿、そして……チェイファン様」
カァチェンの声に気付いてチェイファンが振り向くと、彼は暗い面差しのカァチェンに気付く。
「貴様は、我の手駒の……」
チェイファンはカァチェンの顔を見て、彼がかつて自分の配下であった兵士の一人であることに気付く。
すると兵士を手駒として扱っていたチェイファンはカァチェンに命じた。
「何をしている? 早くこの者らを排除せよ。薄汚れた偽りの者に、我らが地を穢させてはならぬ」
一刻も早く二次元人達を台湾から追い出すよう命じるチェイファンだが、先のスター・コマンドーとの戦争で少し心境に変化が生じたカァチェンはチェイファンにはっきりと言った。
「……申し訳ありませぬが、今の貴方の命には従えませぬ」
「なに……? 気でも狂ったか? かつては我の命には従順だった貴様が我に口答えするとは……その偽りの者どもに何かされたのか?」
「いいえ、強いて言うならば……自ずと変わったのです。それに、今の貴方は……」
命令を拒絶したカァチェンに驚くチェイファンに、カァチェンは真意を説こうとする。
が、そのカァチェンに大将が待ったをかけ、大将自身が代わりにチェイファンに確信を着いた。
「……………………なぁ、あんたはなんで、まだ此処にいるんだ?」
「貴様、気でもふれたか?」
不思議そうな顔で冷然な面差しを向けるチェイファンは真顔で言った。
「此処は我の国、我が治め我が居るべき母国。此処にいるのは当然であろう?」
「いや。あんたが此処にいるはずがねえんだ。だって、あんたは…………」
「もう死んでんだから」この大将の発言に、チェイファンの目の色が一変した。
――――実は数時間前ほど前、台湾軍基地敷地内で奇妙な話を大将たち聖龍隊はシバ・カァチェンから聞いていた。
「出る?」
「はい。此処のところチェイファン様の姿を見たという者がいるのです……」
「見間違いなんかじゃないのか?」
「いえ。一人や二人ならそうも思えますが、余りにも目撃者が多いのです……かく言う私も、この目でしかと見ました」
「…………へぇ? それでなんだ? 俺達への恨み言でも言ってたのかい?」
大将の不真面目な面構えでの発言に、カァチェンは少し不機嫌そうな顔で申した。
「いえ、そのような事は全く。ただ以前と同じ様子で執務をされてました」
更にカァチェンは死んだモウ・チェイファンの目撃談を語り続ける。
「他に目撃した者の話を聞いても同じです。生前と変わらぬ御姿を見せては、何処とへともなく消えていくのです。まるで、御自身の死を隠すかの様に……」
カァチェンのみに非ず、他の台湾軍兵士も目撃した生前と変わらぬモウ・チェイファンの目撃談を聞いて、チェイファンと因縁深い赤塚組は懸念を走らせた。
――――時と場所は戻り、モウ・チェイファン銅像前にて。大将は今一度チェイファンに訊ねる。
「なぁ、もう一度きく。あんたはどうして此処にいる?」
「…………去れ。此処は我の母国よ」
自分が死んでいると聞かされたチェイファンは実に不機嫌そうな面差しで大将たちに立ち去るよう言い付ける。
だが大将は変わらずチェイファンに訴え続ける。
「あの時の戦争は終わった。今また乱世に戻っちまったが、必ずまた戦いを終わらせる!」
「黙れ」
「みんな、あんたの事を覚えてる」
そして大将は、赤塚組はチェイファンに言い放った。
「俺達もあんたを忘れねぇ!!」
憎み合い、忌み嫌っていた者同士とは思えぬ大将の発言に、チェイファンの亡霊は失笑し出した。
「は……はは……それが…………それがどうした? 今さらその口で何を言う! 絆という甘言に絆されたか? それが貴様ら偽りの者どもが吐き散らす人の心というやつか!!」
二次元人が説く人心にチェイファンは怒り狂ったかのように吐き散らす。
一時の暗黙が流れた後、その暗黙を断裁するように大将は語り出す。
「……………別に。あんたを許す訳じゃねえ、あんたのやった事を認める積りも毛頭ねえ。ただ、あんたが……それだけを賭けたものが、場所が、人が、そういうもんがあったんだなって。そう思っただけだ」
台湾という、過去に中国やイギリスの支配下に置かれていた母国を守り抜く為に知略を張り巡らせたチェイファンの思想に理解を示す大将たち。
しばし思慮に暮れていると、チェイファンは開き直ったかのように大将たち目前の赤塚組を冷たくあしらう。
「くだらぬ、だから何だというのだ」
「なぁ、もう時代は変わったんだ。あんたが望んでた台湾の独立も叶った。また乱世に引き戻されたが、その間も俺達が邪魔なんかさせねえ。日本も台湾も……アジアにだって必ず平和が続く世の中にしてみせるさ」
時代は移り変わったが故に、またアジアに太平の世が訪れる日が来ることをチェイファンに言い示す大将は、次の瞬間チェイファンに向かって心の叫びを解き放つ。
「だから! …………ッ。だから、もう……眠れ」
大将たちの言葉を受けて思い詰めるチェイファン。
母国の為に心を閉ざし、誰にも心を許さなかった台湾の知将。
そのチェイファンが大将たちの温もりある言葉を受けて、率直に思った事を口から出した。
「…………貴様は、本当に……短慮で愚かな一族だな」「む?!」
チェイファンの発言に表情を曇らせる二次元人達。
するとチェイファンは続け様に二次元人を侮辱する発言を、途方に暮れた穏やかな表情で語り始めた。
「その様にすぐに情に流され、騙され泳がされ、自軍を壊滅に追い込まれ、誤った情報を鵜呑みにし偽り仇に刃を向ける。あぁ、本当に目も当てられぬ……つくづく愚かで哀れな種族よ。二次元人とやらは」
冷徹な己とは違い、人の情に流されやすく他人に利用されやすい大将ら二次元人を見下す様に淡々と語るチェイファン。
そのチェイファンは、最後に穏やかな表情ながらも冷徹な眼差しで述べた。
「だから……これは、そんな愚かで滑稽な貴様らの情を。その無能さを利用した、我の最後の策」
知略家として名高いチェイファンは、忌むべき種族と見下していた二次元人の傍らに立ち尽くす現台湾将軍のシバ・カァチェンにこう告げた。
「カァチェン、この地を貴様に託す。精々、この無能な一族を骨の髄まで利用し尽くして、我らが母国を護り抜くのだ」
「………………」
前将軍からの言伝に、カァチェンは立ち尽くすばかり。
そしてチェイファンは心の底から己の願望を打ち明ける。
「どうか消えるの事のない、平穏と安寧を」
チェイファンの願いを聞いて、大将は険しい顔で答えた。
「……ああ、解った。こいつの事は、カァチェンの事は俺達に任せろ。必ず台湾も、カァチェンも導いてやる」
大将のこの言葉を聞いて、チェイファンは氷の様に冷たい眼差しで呟いた。
「…………フン、躊躇いもなく答えるか。あぁ、本当に最後まで……虫の好かぬ種族ぞ」
そういうと、モウ・チェイファンの姿はすぅっと消え去り、跡形もなくなってしまった。
そして不思議なことに、今までモウ・チェイファンと激しい攻防を展開して身体に傷を負った二次元人達の傷も綺麗さっぱり消えたのだった。
「な、何だったんだ、今の……」
「幻……いや、ホントに幽霊……!?」
姿も傷跡も消えた現状に、その現状を目の当たりにした新世代型の毛利十四郎と真田幸介は身震いした。
モウ・チェイファンの亡霊と遭遇した二次元人達が戦いの余韻に浸っている最中、大将は苦笑しながら愉快に喋り始めた。
「ははっ、最後まで感じわりぃの」
苦笑しながら愛想笑いする大将は、最後まで台湾の繁栄を願った知将を想う。
「そんでもって、化けてまで出て最後の最後まで母国の事かよ」
燦々と台湾の地を照らす日輪を見上げながら、大将は消え去ったモウ・チェイファンに想いを馳せた。
(あんたはいったい何がしたかった? 何が欲しかった? 聞きてぇ事が今さら出てくる)
かつて台湾の完全独立を叶えるべく、感情というものを全て捨て去った武将がいた。
その者は知将として名高く、全てを捨ててでも台湾の地を解放したい一心に取りつかれていた。
更にその者は全てを平等に照らす日輪を崇拝し、奉ったという。
大将はそんな、かつて自分たち赤塚組に卑劣な知略を仕掛けてきたモウ・チェイファンを心底弔っていた。
[二年前の赤塚組]
今は亡き台湾将軍モウ・チェイファンの墓前に地酒と花を供えて黙祷する聖龍隊と赤塚組。
そんな二組同様、現台湾将軍のシバ・カァチェンもチェイファンの墓に向かって黙祷を捧げる。
聖龍隊、赤塚組、カァチェンに続いて、不思議な一戦を交え傍観した一般の二次元人達も、不思議な胸中でチェイファンの墓前に一礼する。
場所は移り変わり、一同は台湾軍の敷地であるシバ・カァチェンの自室にて先ほどの経緯を語り明かした。
銅像の前で突如として姿を現したモウ・チェイファンの戦ぶりと言動を余すことなく伝える二次元人達。
彼らの話を黙々と聞いて、聖龍隊も赤塚組も、現将軍のシバ・カァチェンも黙って聞き入れる。
「……成程な、あのチェイファンの幽霊がお前達に襲い掛かるとは……どこまで二次元人嫌いなんだが」
話を聞いてバーンズが今は亡きモウ・チェイファンへの愚痴をこぼす。
するとバーンズの言葉を聞いて、ようやく敷地内への進入を許された二次元人達がバーンズたち聖龍HEADに問い質してきた。
「あ、あれは本当に幽霊だったんですか、バーンズさん」
「……おそらくな。チェイファンの亡霊だろうよ。奴さん、内心では自分の存在を忘れられる事を恐れていたと聞く。それで自分の死を隠す様に現れたんだろう」
目を丸くしながら問い掛けてくる瀬名アラタの質問にバーンズは亡きモウ・チェイファンの心情を語りながら答え返す。
その問答を聞いて、二次元人達と同じくモウ・チェイファンの亡霊と遭遇した上に戦闘をしたキリトたち聖龍隊の新人達は客間のソファーに深々と腰を下ろして草臥れた様子で愚痴った。
「まさか幽霊までと戦うとは……聖龍隊の職務ってホント幅広い」
幽霊との一戦に疲れを見せるキリトやシルバー・クロウそれに鹿目まどか達は実に疲労感が見られる様子で座って休息する。
そんな草臥れた様子の新人達を横目に、彼らと共に戦った新世代型も、そうでない新世代型達もHEADや赤塚組が語るモウ・チェイファンの人物像に非常に興味が沸いてきた。
歴史の勉強では、兵力を捨て駒として使い捨てる冷徹な智将として学んだ二次元人達であるが、どうも先ほどの赤塚組頭領赤塚大作の一言一句やHEADの様子から、モウ・チェイファンがただの非情な智将とは思えずにいられた。
そして生唾を呑んで、二次元人達は聖龍HEADと赤塚組の幹部衆に訊いた。
「あ、あの……バーンズさん、大将さん」
「どうした、お前ら?」
「モウ・チェイファンって本当に非情だけの人物だったんですか? さっきから話を聞いていたんですが、どうもカァチェンさんの元上官だったみたいですし……」
「……チェイファンの事を知りたいって面だな、お前ら」
新世代型の琴浦春香や直枝理樹の問い掛けに、バーンズと大将は顔を見合わせて彼ら二次元人達にモウ・チェイファンが如何なる人物であるか話し明かそうと無言の承諾をし合う。
「モウ・チェイファン、その知略はまさしく天才と言わざるばかりの智将であり、時に勝利の為には多くの兵力を犠牲にする策も多数用いた。だが、奴は他の武将の様にアジア統一を狙っていた訳じゃなかった。奴が本当に願っていたのは、この台湾の独立と繁栄のみだった」
「台湾の独立と、繁栄……?」
「そうだ。知っての通り、二年前まで、この台湾は中国の統治下に置かれていた。もっと古くまで遡るとイギリスの植民地だった時代もある。そんな台湾を、どの国にも支配されず、完全な独立を願っていたのがモウ・チェイファンだった。その為なら奴は、己の心を踏み躙ってでも兵士たちを次々と使い捨てていたんだ」
全ては台湾の完全なる独立、そして支配下に置かれない国造りの為だったとチェイファンの事を説き明かすバーンズの説明を聞いて、新世代型たちは息を呑んだ。
すると他の聖龍HEADもチェイファンへの想いを口々に綴る。
「彼は確かに冷酷で非情な面が強かった武将だった……けれど、この国を、台湾を思う気持ちは人一倍強かったわ」
「彼はアジアのどの武将よりも……国を想う心が強かった、誰よりも強い愛国者だったわ。……他人に厳しくしているところ以外は、共感できたわ」
セーラープルートとミラーガールの評価を聞いて、二次元人達はモウ・チェイファンについての考えを再認識し始めた。
すると前将軍にして、自分を使い勝手のいい駒として多用していたチェイファンの幽霊の襲撃に遭った二次元人達に、シバ・カァチェンが謝罪する。
「誠に申し訳ありません……まさかチェイファン様の幽霊が皆様方を襲いになられるとは、夢にも思ってませんでした……」
「い、いや、アンタが謝る事ないさ、カァチェン……」
「私たちも未だに夢見心地で……白昼から幽霊と遭遇しちゃうなんて……」
頭を下げるカァチェンに、新世代型の真鍋義久と御舟百合子は未だモウ・チェイファンの亡霊と遭遇した経緯に驚きが治まってない事実を伝える。
何故チェイファンの亡霊が二次元人達の前に現れ、そして戦いを仕掛けてきたのかは全てが謎のまま。
そんなモウ・チェイファンの話を聞いて、新世代型たちと一緒に話を聞いていたプロト世代のギュービッドがバーンズたちに勢いよく質問した。
「なあ! あんたら赤塚組や聖龍隊と、あのモウ・チェイファンの間に何があったんだ? さっきの大将の話じゃ、何だか昔色々とあったみたいだけど……」
「ギュービッド様!」
「敢えてそこは聞かなくても良いんじゃ……!」
ギュービッドからの質問を聞いた途端、実に気まずい空気に一変した現状を読み取り、チョコと桃花がギュービッドの袖を引っ張る。
しかし彼女の質問を聞いた赤塚組は軽く微笑するとギュービッドの質問に答えた。
「ああ、確かにあいつとは色々あったもんだ。何せ、二年前の乱世より前から、あいつチェイファンとは何かと一戦や二戦やった仲でもあった。まあ、二年前の乱世が起こった時の、あの時の仕打ちは未だに許しがたいがな」
「一体、二年前なにが起こったんですか……?」
同じく赤塚組とモウ・チェイファンの間に起った出来事に関心を寄せたプロト世代の海道ジンが訊ねると、大将たち赤塚組は当時の事を思い返しながら聖龍隊の新人達と二次元人達に語り始めた。
――――二年前、赤塚組と台湾軍の間に何が起きたか。
――――時をさかのぼる事、二年前。
当時の赤塚組は荒んでいた。「お前ら! 聖龍隊の、敵か、味方か! 味方だったら容赦はしねえぞ!」乱世滾る情勢の中で、赤塚組は聖龍隊を敵視してしまってた。
何故なら赤塚組の頭領・赤塚大作は世の情勢に流される事をよしとしない己の気質を貫き、主力本隊と共に世界を股にかけて思うがままに出港していた最中、そんな旅路から帰還した赤塚組には絶望が待ち受けていた。自分たちが根城にしている本拠地が何者かの奇襲を受けて壊滅状態へと追い込まれていたのだ。
「そんな……そんなっ……うわあああッ!」
赤塚組が幹部、テツとふゆみ夫妻の間に産まれたばかりの赤子までも焦土と化した本拠地にて絶命しており、赤塚組は怒りと悲しみを露にした。
そんな焦土と化した本拠地に落ちていたのは、引き起こされたアジア大戦を終息に向かわせようと勢いをつけている聖龍隊そのスター・コマンドーが御旗として掲げる事を許された皇軍の軍旗だった。
かつて厚い友情を交わし、平和な世を作ろうと、固い結束を交わしたはずの聖龍隊の仕打ちと思い込んだ赤塚組は、怒りと絶望を隠す事が出来なかった。
「修司、アッコ……なんでテメェらは変わっちまったんだ……!」
友として過去には衝突しながらも和解した赤塚組が聖龍隊への疑念を募らせていたその時、ちょうど敵対していた当時の台湾軍総司令官モウ・チェイファンから密書が送られてきた。
『この度の其方の憂き、聞き及んでいる。首謀者は、アジアの乱世に乗じて全てを掌握しようと目論む聖龍隊。我が台湾の地も例外にもれず、奇襲を受けた。台湾を守りし我にとって、この暴挙を許してはおけぬ。対聖龍隊に向け、一時停戦を提案するが貴殿の考えやいかに」
このモウ・チェイファンからの申し出に、赤塚組は最初は躊躇ったものの大切な人を殺められた行為に逆上していた事も相まって、当時の台湾軍の申し出を受け入れようとした。
だが、その前に冷静に物事を見据えていた大将の古き良き子分ギョロとゴマが大将に物申した。
「た、大将、ちょっといいっスか……」
「んっ? どうした、ギョロ……」
「チェイファンなんて信用して良いんすか? アイツのこった、またなんか裏で色々と悪知恵働かせてるんじゃ……」
「そ、そいつはそうかもしれねえが……でも、アイツもそれだけ切羽詰まっている事だろう」
古き間柄のギョロに続いて、ゴマも大将に申し開く。
「それに……ホントに聖龍隊が、アッコの奴らが俺たちの仲間を襲ったんでしょうか!」
「そいつは、この皇軍しか持つ事を許されない軍旗が何よりの証拠だ!」
「それはそうですけど……でも、時と場合によっては非情になる修司はともかく、アッコやバーンズそれに他の聖龍HEADが俺らに奇襲を仕掛けますかね? 俺っち、そこが気になって……」
「言われてみれば確かに……修司はともかく、アッコやうさぎの姉ちゃんたちが、こんな鬼畜な真似をするとは思えねえ……」
老若男女問わず、それも産まれて間もない赤子までも手にかける所業をミラーガールやセーラームーン達が行うとは到底思えないという指摘を告げるゴマの言葉に、大将たち幹部衆も考えさせられる。
「……考えるのは後回しだ! まずは話をしよう。この近くにSRM(聖龍ロボットメンバーズ)が拠点にしている筈だ! アイツらと話をして、全てを見定めようじゃないか!」
血が上った頭を少し冷やして、大将はまずSRMの面々と対談して事の真相を探ろうと決意する。
[纏まる考え]
そして赤塚組は、自分たちの根城を奇襲したと思われる聖龍隊の仲間SRMの面々を襲撃に近い形で接近し、なんと無抵抗の彼らを全員縛り上げて拘束してしまう。
「な、何故なのじゃ赤塚組! なんでお前らはこんな真似を……」
自分たちを拘束する赤塚組に、当時SRMの総司令官を任されていたオーバーンが訊ねると、赤塚組は自分たちの根城が奇襲された経緯、そしてその焦土に聖龍隊しか持つ事を許されていない皇軍の旗が落ちていた経緯を伝える。
これにはSRMの面々全員が一驚した。彼らは何も知らないからだ。
「そ、そんな! HEADがそんな真似する訳……」
SRMの一人【超獣機神ダンクーガ】の結城沙羅が反論しようとするが、再び頭に血が上ってしまっている赤塚組幹部衆は聞く耳を持たなかった。
と、そんな処に何と、あのスコーピオン同盟が騒ぎを聞き付け、赤塚組と対談を始めたのだった。
「おいおい、どうした? この騒ぎは……」
「あ、ガイア!」
「ガイア! こんな時に来おって……余計に事態が混乱するわ!」
突然のガイア・スコーピオンの登場に、ガイアとは同じフランスの片田舎のマフィアの中で生活していたマリネとオーバーンの祖父と孫娘が驚く中、ガイアは大将と対談する。
「おい、ガイア……! あの修司が、アッコが……聖龍隊がよ……!」
大将は胸の内を、全ての経緯をガイアたちスコーピオン同盟に語り明かした。
しかし話を聞いたガイアはあっけらかんとした態度で大将たちに反論した。
「おいおい、もう少し落ち着けって。そんなに頭に血が上ってたんなら、見えるもんも見えなくなっちまうぞ」
「だ、だが……証拠もここに……!」
大将は再び証拠の品である皇軍の御旗をガイアたちに見せ付けるが、ガイアは愛想笑いながら返した。
「おいおい、今の御時世、金とインターネットがあれば何だって手に入れられるよ」
ガイアが説くには、皇軍の御旗すらネットと金さえあれば誰でも入手可能であり、それだけで聖龍隊の仕業と決め付けるのは早いという。
これに大将たちは戸惑いながらもガイアたちに訊き返す。
「そ、それじゃ、どうしろってんだ!?」
「まずは情報を集めろ。それからでも聖龍隊を敵視するのは遅くない」
赤塚組に助言を告げたガイア・スコーピオン達は、そう言い残して去っていった。
それから間もなく、今度は真相を追求しようと進撃する赤塚組にSRMの面々も加勢に加わった。
「誰があなた達を奇襲したのか解らない以上、今の私たちはHEADに味方する訳にはいかないわ。ここは一致団結して、一緒に真相を追求しましょう」
「おう、悪いな。葛城のねえちぇん……俺達も少しばかり気が動転してたよ」
行動を共にしてくれるSRMの面々、その一人である葛城ミサトに大将は自分たちも少しばかり血気盛んになっていた事を素直に詫びた。
そして情報収集していった結果、結局のところ何の真相も判明できなかった一行。
此処で大将は遂に本腰を入れた。
「……もう埒が明かねえッ! ここは敵の……修司たちの懐に飛び込む! そして事の真相を聞き出してやるんだ!!」
いくら調べても真相が判明しない現状に憤りを感じていた大将は、直接HEADに殴りこんで真相を聞き出そうと結論付ける。
本当に敵なら自分達が返り討ちに遭うだろう、だが突っ込まなければ真相は判明しない。そう意気込んで赤塚組は聖龍隊その中枢であるHEADが本腰を下ろしているアジアの拠点に進撃した。
遂に聖龍隊拠点へと乗り込んだ赤塚組。そんな彼らを見て、修司たちは驚いた。
「大将……大将じゃないか!」
「久しぶり、大将! ……どうしたの? 顔色が何だか変よ」
「修司! アッコ! 俺の目を見ろ……しっかりと見やがれ!」
完全に聖龍隊を敵視する赤塚組に、聖龍HEADは防戦一方で構えるしかできなかった。
「お、おいオーバーン、マリネ! なんでお前らが赤塚組についているんだよッ」
「我々と致しましても、事の真相が解らない限り貴方方に協力する事は良心が許せないのです……」
赤塚組と応戦しながら当時の副長メタルバードが総司令官のオーバーンと秘書官であり娘のマリネに問い掛けるものの、オーバーンたち親子は本当に赤塚組を奇襲したのが聖龍隊なのかどうか見定めない限り、共闘できない事を言い占める。
そして遂に、赤塚組幹部衆と聖龍HEADは激突した。
「大将、本当だ……お前達の仲間を襲ったのは俺たちじゃない!」
「修司! 俺の目を見て言いやがれ……何度でも言いやがれ!」
自分達が空けていた最中に根城が奇襲を受けた経緯を恥じる様に、大将は修司と一騎打ちを仕出かす。その間、ちせはミズキと、他の幹部衆もかつての旧友である聖龍HEADと激しい攻防を展開していた。
そしてそれぞれの闘いが一段落した後、両者は互いに向き合いようやく落ち着いて対談を始められた。
「大将、もう一度言う……お前達の仲間を襲ったのは俺たちじゃない」
この修司の言葉に、大将は一時の沈黙の次の瞬間に得物である破槍を修司目掛けて振りかざす。が、寸でのところで修司に直撃を喰らわせずに愛想笑いでHEADに言った。
「フッ、そうだったな。お前らはそんな奴らじゃなかった」
奇襲を仕掛け、女子供すら容赦なく惨殺する輩でないと聖龍隊への見方を思い返した大将たちと、ようやく蟠りが解けた聖龍HEADはやっと和解できた。
しかし此処で新たな疑問が。「それじゃ、一体……」「誰が……」修司と大将は、誰が赤塚組の本拠地を奇襲したのが疑念に駆り立てられる。
すると其処にまたしてもスコーピオン同盟がやって来て、自分達が裏ルートで知り得た真実を聖龍隊と赤塚組両方に伝えた。
なんと赤塚組の拠点を奇襲した実行犯の一人、それはその頃ちょうど聖龍隊と同盟を組んでいた黒劉席その人だった。
一方の黒劉席軍は、赤塚組の襲撃に乗じて逃避行しようとしていた。
「おい劉席! たっぷりとお灸をすえてやるぜ……!」
「あ、赤塚大作! こ、これには訳が……」
「黒劉席、俺たちにも解るよう話してもらいたいな」
「き、鬼神! それにHEADまで……マズイ、マズイぞ……!」
逃避行しようとする黒劉席軍に追撃を仕掛けていく聖龍隊と赤塚組。
そして追撃を阻む兵士たちを掻い潜り、両軍は遂に黒劉席を追い詰めた。
観念した黒劉席は、聖龍隊と赤塚組に事の真相を伝えた。
自分は両手に嵌められた手枷の鍵、すなわち自由と引き換えに無理やりさせられたというのだ。
そして黒劉席に犯行を実行させたのは、当時の北の国の残党軍に加盟している大闇形蘭と、なんと赤塚組に同盟の誘いをした台湾軍総司令官モウ・チェイファンの二名による暗躍である事が判明。
これに怒りにも近い感情を滾らせた赤塚組は、まずは大闇形蘭が軍師を務めている北の国の残党軍にHEADの女性陣らと進撃。だが事の経緯を聞いた北の国の残党軍総大将ヤン・ミィチェンは奇襲という正攻法ではない奇策に酷く嘆き、自ら己の首を赤塚組に差し出す。この潔さと、真っ直ぐな心情に心打たれた大将たち赤塚組は、何も知らなかったヤン・ミィチェンを許し、一路モウ・チェイファンが庇護する台湾へと進撃を再開させた。
[台湾軍との決着]
「行くぜ、アッコ! 行くぜ、野郎共! この茶番を終わらせるぜ!」
「了解よ、大将!」
「生きて帰るぜ、大将ーー!」
台湾軍に襲撃を仕掛ける大将は、共闘してくれるミラーガールたち聖龍HEADの女性たち同様、子分達にも意気込みを吹っ掛ける。
モウ・チェイファンを倒し、全てに決着をつけるために。
「チェイファン! 言いたいことは山程あるが、顔を拝んでからのほうが有難味が増すよな?」
「フン、下衆な物言いよ。貴様ら偽りの者の言葉など、我には届かぬわ」
最初から二次元人を信頼していなかったモウ・チェイファンとの戦の最中、大将はふと物思いに浸っていた。
「憎しみは目を曇らせる……か。人生が狂う前に気付いてよかったぜ」
大将たち幹部衆は、危うくチェイファンの策に溺れて大切な友を殺めようとした経緯に心から反省し、同時に自分達の人生が狂う前に気付けたことを嬉しく思う。
そして大将たちは遂にモウ・チェイファンの前へと辿り着き、対峙。
「オレの言いたいことは解るなチェイファン」
「言わずともな……全ては愚かな貴様らが悪いのよ」
「ああ、俺たちもそう思うぜ。危うく大切なモンを失うところだった」
大将とモウ・チェイファン、二人が対峙しているその時だった。「ま、待ってくれ!」と何者かが台湾軍に進撃を仕掛ける聖龍隊と赤塚組に制止の声をかけてきた。
その声の主は台湾に滞在していた日本の大使だった。なんとモウ・チェイファンは日本政府にアジア大戦を引き起こしたのが、日本人が生み出した二次元人黒衣衆の暗躍によるものだと日本政府を脅迫。事が露見すれば黒衣衆を野放しにしてしまってた日本に全責任が負わされる事態を避けるため、大使は両軍の戦いを制止しに来たのだ。
これだけでも卑劣であったが、チェイファンは更に冷徹な策を講じていた。
それは己の水軍基地に幾多の爆薬を仕掛け、それを起爆させて両軍の後始末をするというものだった。
「た、退避! 退避ーーーー、うわあッ!」
戦場として立っていた橋が次々と爆破されていく現状に、ウェルズ率いる聖龍特攻隊も必死に逃げるものの爆発に巻き込まれ壊滅状態に。
この惨状を目撃した聖龍HEADの女性たちは酷く嘆いた。何故なら爆発に巻き込まれた隊士の中には恋人である男性隊士も多く含まれていたからだ。
水軍基地の海上には、無数の瓦礫と共に爆発に巻き込まれた両軍の兵士の屍が無数に浮かんでいた。
この惨状に大将は堪えていた怒りを湧きあがらせてモウ・チェイファンに迫ろうとするが、日本大使がこれを抑制。全ては日本政府の意向だった。
「これで痛み分けぞ。さあ、とっとと去るが良い、偽りの者どもよ」
冷たい面差しで互いの軍の兵力を下げる事で痛み分けをし、不戦勝に持ち込んだ上に今後は日本政府の後ろ盾で台湾の繁栄を成し遂げようとするモウ・チェイファンの謀に、HEADの女性たちも赤塚組の幹部たちも口を噤む以外できなかった。
だが、そんな冷徹な策を講じたモウ・チェイファンに、赤塚大作はわっぱを掛けた。
「……お生憎様。俺様は政府のお役人とは吊るんでいねえ義賊、テメェの策という網なんぞ軽く切り裂いちまう」
「それがなんぞ。今の我に逆らうという事は、日本政府に逆らうも同意ぞ」
日本政府の後ろ盾を得たモウ・チェイファンが大将に言い迫るが、大将は逆にチェイファンを見下した面構えで語り始めた。
「最初は……アンタを倒して、野郎どもの墓に報告して、アンタの部下も面倒見て、それっきりと思っていた。だが、ホントにそれっきりだ……アンタの事は綺麗さっぱり忘れるよ」
「なに?」
全てを終わらせた後は全てを忘れ去るという大将の発言に戸惑いに近い表情を浮かべ始めるチェイファンに、大将は語り続けた。
「……フッ、陳腐な話だが、ここに来るまで色んな連中に助けられた。それで目を覚ましてねぇ……」
「つまらぬ戯言を」
SRMやスコーピオン同盟など色々な人々に助けられた事で聖龍隊を討つという暴挙に繰り出す前に目を覚まされた大将は、口元を微笑ませて自分の考えを戯言と吐き捨てるチェイファンに向かって言い放った。
「それでもいいさ。死んだ野郎どもを、仲間達を俺たちは決して忘れやしねえ! 俺が死んでも、あいつ等は……仲間達は俺の事を覚えてくれる!」
死後もなお、結ばれた縁によって決してお互いを忘れないでいてくれる仲間の存在を説く大将の熱弁に、大切な人が爆発に巻き込まれ悲観し絶望するHEADの女性たちも、大将と同じ意気込みを掲げる赤塚組の幹部達も顔を上げて強い面魂をモウ・チェイファンに向ける。
そして死んだ仲間も、自分も決してお互いを忘れないと熱弁した大将はチェイファンに問うた。
「だが、アンタが死んだあと、アンタを思い出してくれる奴は、果たしているのかね?」
「なん、だと……!」
「アンタを思い出してくれる奴は、おそらく人っ子一人いないだろうよ! どんな策を使っても、アンタはそれだけは手に入れられなかった! それがお前の生き方だ、孤独の魂だ!」
大将の熱弁に珍しく動揺するモウ・チェイファンに、大将はトドメの一発とばかしにチェイファンに言い放った。
「孤独ってのは、死んだ後も続くんだよ! モウ・チェイファン、永遠の孤独の底で泣いて後悔しやがれッ!」
大将の論弁を聞いて、遂に冷静さを装っていたモウ・チェイファンの心の殻が崩れ始めた。
「貴様…………我をそのように言うか!」
冷静さを欠け、大将の挑発に乗ってしまったモウ・チェイファンはすっかり逆上してしまい、完全に大将とは真逆の状態へと変貌してしまった。
「我は何一つ誤っておらぬ!! 策も、我が人生の道行も、全て!!」
「そうだろうな。ただそれが、どこまでも虚しいってだけだ!」
自分は何一つ間違っていない、そう説くチェイファンに大将はその生き方こそが虚しいモノだと説き返す。
「あんたのその顔も見納めだな」
「黙れ!! 貴様が我を語るなど許さぬ!!」
大将の破槍とチェイファンの輪刀が激しくぶつかり合う中、益々冷静を失っていくチェイファンに大将が一騎打ちで応えていく。
そしてチェイファンは逆上の余り、己の策を己自身で討ち破ってしまう。
「もうよい!! ……黒衣衆など、リベンジャーズの事など知った事か!!」
「ちぇ、チェイファン殿! それは……」
「へぇ、お前さんが自らボロを出すとは……其処まで頭に血が上っちまった訳か」
黒衣衆が日本政府が捕縛し損なったリベンジャーズである事実を口から零してしまうチェイファンに日本大使は愕然となる。そこまで冷静さを失ったチェイファンを珍しそうに見詰めながら、大将は攻撃の手を緩めない。
「俺の進む未来に、アンタの影は欠片もねえ!」
「許さぬ……許さぬぞ二次元人!! 貴様らは我が手で葬る以外無し!!」
自分達が歩んでいく未来にはモウ・チェイファンという人物の面影は一欠けらもないと説く大将に対し、モウ・チェイファン本人は完全に逆上し二次元人への恨み辛みを叫び上げる。
が、大将とモウ・チェイファン、二人の一騎打ちの最中、二人の死角から突如として鉄砲隊が出現し、無数の弾丸が大将とチェイファンに襲い掛かる。
「ッ……!」「うおおおおッ!」
大将は辛うじて破槍で銃撃を防いだものの、逆上して判断力が鈍っていたチェイファンの背中には無数の銃弾が着弾した。
そしてチェイファンはその場に倒れ、彼は自らが使い捨ててきた捨て駒と同様に血の海に沈んだ。
この銃撃は、かの破邪王の天才軍師ミャンチィが仕掛けた策であり、隙を見て破邪王を討とうと策を練っていたチェイファンを奇襲したのだった。
水中から現れた鉄砲隊は、射撃を終えると再び海中に身を潜め、潜水艦で逃げおおせた。
突然の事態に聖龍HEADも赤塚組の幹部達も動揺し、何も出来ずにいた。そんな中、大将は血の海い沈んだモウ・チェイファンに哀れみの目でこう言い捨てた。
「これも一つの因果応報……地獄で後悔しやがれ」
「ッ………………」
赤塚大作の言葉に、モウ・チェイファンは返す言葉も出せないほど瀕死の重体を負っていた。
するとそこにミラーガールが歩み寄り、静かに死んでいくチェイファンに話し掛け始めた。
「チェイファン……」
「か、加賀美あっこ、か……」
絶命寸前のチェイファンは、優しく声をかけてきたミラーガールを睨み付けながら言葉を返す。
そしてミラーガールはやがて死にゆくモウ・チェイファンに向けて話した。
「なんで……なんで此処までの策を用いて、私たち二次元人を陥れようとしたの? 頭のいい貴方なら、きっと他にも別の道が……」
「げ、下衆な口を閉じよ、二次元人……はぁ、貴様ら偽りの種族と違い、今昔よりイギリスや中国に煮え湯を飲まされてきた我が台湾の民の気持ちなど、解る筈なかろうに……!」
ミラーガールの優しい論弁にすら反発するチェイファンに、ミラーガールは慈愛の眼差しで見詰め続ける。
そんな鏡の様に美しいミラーガールの瞳を見詰めたモウ・チェイファンはある事に気付いた。それはミラーガールの瞳に映る自分の姿、それが今まで自分目に映っていた多くの捨て駒の亡骸と同等の姿だった。
自分も最後は捨て駒同様に扱ってきた兵士達と同等の死に様をミラーガールの瞳越しから悟ったモウ・チェイファンは静かに瞼を閉じながら呟いた。
「我も所詮は……駒の、一つ……か……」
「……………………………………………」
自分も結局は台湾の繁栄のための捨て駒の一つだったと説いたモウ・チェイファンは息を引き取った。
ミラーガールは静かに息を引き取ったモウ・チェイファンを見据えながら立ち上がる。
――――台湾軍に勝利し、爆発に巻き込まれた兵士も何人か生存している事が判明した後、大将たち幹部衆とミラーガールたちHEADの女性たちは運ばれていくモウ・チェイファンの亡骸を見送りながら呟いた。
「長かったな……」「ええ、本当に……」
長く感じられた台湾軍の策と、それにより伴った幾多の戦いを思い返して大将とミラーガールは肩を並べる。
だが、大将たち赤塚組は心の内で、非常に申し訳ない心境でいっぱいだった。
「許してくれアッコ! 俺たちは取り返しのつかねえ事をしちまった、許してくれるなら何でもする! だから……」
「ちょ、ちょっと待ってよ大将! 私たちはそんなの求めたりはしないわ」
突然の大将たちの土下座に困惑するミラーガールたち。
旧友からの謝罪を受けて、HEADの女性たちは狼狽えるばかり。
ミラーガールはそんな大将たち赤塚組に見返りは要らないと答えるものの、当の大将たちは納得できなかった。
「だ、だがそれじゃ俺たちの気が済まねえ……! 何でも俺らに命じてくれッ」
「えっと、そう、それじゃ……」
大将に説き伏せられ、ミラーガールは渋々大将たちへの詫びの内容を考える。
するとミラーガールは明々とした表情で手を叩いて大将たちに述べた。
「……うん! 私たちが死んだら、私たちを思い出して! それでどう?」
このミラーガールの提示に、赤塚組は呆然としてしまうものの、彼女の明るく確かな意気込みを受け取って思わず愛想笑いを浮かべてしまう。
するとミラーガールは更に大将たちにもう一つの提示を指し示した。
「それから……彼、モウ・チェイファンの事も忘れないであげて」
「! チェイファンの事も……?」
ミラーガールからの要望を聞いて、愕然となる大将たち赤塚組。
そんな赤塚組にミラーガールは理由を述べ始めた。
「彼は単に自己満足の為だけに冷徹な策を講じていた訳じゃ無い。この台湾の地を誰よりも愛して、それで卑怯な策も展開していたと私は思うの。誰しも少しは持っている愛国心、チェイファンはそんな愛国心を誰よりも強く抱いていたんじゃなかったのかしら……」
「………………………………」
「……もちろん、彼のやった事を全て許す訳じゃないわ。ただ、彼にはそれだけこの台湾に、母国に対する想いが強かったって言いたいの。そんな彼の事を、せめて私達だけは忘れないであげましょう」
誰よりも台湾への愛国心が強かったとモウ・チェイファンを釈明するミラーガールの話を聞いて、大将は呆れながらに答えた。
「……まったく、お前も修司も昔と変わらねえな。自分の事より他人の事……他人の幸せの為なら、自分の幸せを投げ捨てて他人を優先させちまう……でも、だからこそお前さん達はお似合いなのかもしれねえな」
そう語ると大将はミラーガールに軽く肘打ちして、ちょっかいをかける。
すると其処に爆発に巻き込まれてボロボロのギョロとゴマがやって来て声をかける。
「た、大将……」
「お前ら! 無事だったか!?」
「はぁ、何とか……他の聖龍隊士やウチらの仲間、それに台湾軍の兵士も生き延びているのがチラホラいます、はい……」
ギョロとゴマからの報告を受けて、大将は健やかな笑顔を浮かべる。
そんな大将にミラーガールは笑顔で問い掛けた。
「墓参りに行く予定があるんでしょ? 私たちも、破邪王と決戦を済ませたら一緒に行っていいかしら?」
「応ともよッ、野郎共も喜ぶぜ!」
「花は何が良いかしら?」
「何だっていいさ! お前らという絶品の華が揃っているんだからな……」
こうして一行は、モウ・チェイファンとの決着をつけて、破邪王との決戦に向けて進軍するのだった。
[知将の偽りと真実]
――――――時と場所は戻り、現代の台湾軍敷地内にて。
赤塚組や、聖龍隊から二年前の乱世でのモウ・チェイファンからの謀略により布かれた一戦の数々を聞いた二次元人達、そして聖龍隊の新人達は愕然としてしまった。
と、ミラーガールが語ってくれた大将たち赤塚組への謝恩に対し、新世代型の神原秋人が質問を投げかける。
「そ、それで……大将さんたちは今でも、その…………モウ・チェイファンの事を忘れずにいるんですか?」
この秋人の質問に、大将たち赤塚組は不思議な胸中で語った。
「あの時は、綺麗さっぱり確かに忘れてやるつもりだった」
「………………」
「だけど、案外……そうもいかねえもんだなぁ」
最初は大切な仲間や身内を惨殺されて、その首謀者たるモウ・チェイファンを心の底から憎悪した赤塚組。しかし今では、そのモウ・チェイファンが命を、己の心情を押し殺してでも成し遂げようとした国が、賭けようとしたモノがどれほどのものが判った今となってはその憎悪も少しながら減少した。
殺気立った赤塚組、しかしその半ばミャンチィの秘策によって討ち取られたチェイファン、両者の皮肉ながらの戦いの顛末を聞いて二次元人達は唖然とするばかり。
そんなチェイファンの生き様と死に様を聞いて、思いつめた表情で新世代型の瀬名アラタが語り始めた
「モウ・チェイファン、自分の産まれた国を想うあまり、どんな策を講じても台湾を導こうとした武将……そういう事ですね?」
「ああ、その通りだ……あいつもあいつなりに台湾を、己の国を導こうとしていたんだろうよ」
アラタの言葉にバーンズは同じく思いつめた面差しで答えた。
台湾という大国の脅威に晒され続けた母国を導くため、如何なる手段も案じて実行に移した知将モウ・チェイファンの冷徹な生き様に、二次元人達は居た堪れない心持だった。
「……自分の心を押し殺してまで、自分の国を守ろうとしていたんですね。あのチェイファンって武将は……」
「そうよ。チェイファンの表情はいつも冷徹な面差しだったけど、それは全て仮面に等しい表情だった。彼は誰にも己の感情を、心を打ち明けずに最後まで台湾を想って死んでしまったの……」
プロト世代の黒鳥千代子の悲しげな感傷にミラーガールが悲哀な面差しで答え返す。
モウ・チェイファン、彼の表情は常に冷徹な面差しであり感情を表に出すことは滅多になかったという。だが、それだけ彼が己の実情を表に出さず、心中のみに孤独という苦しみを抱えているのをグッと耐え忍んで、堪え続けた結果、様々な策を展開していったのだ。
そんなモウ・チェイファンの孤高ともいえる才の高さに、聖龍隊参謀総長のジュピターキッドが語り始めた。
「チェイファンは確かに軍事を扱うものとして天才だった。だが、少しばかり人望や人徳が欠けていると最初は思っていたよ……最初はね」
「? それってどういう事なんですか?」
「それはだ、美都玲奈さん。チェイファンは意外にも人望が厚かったんです。確かに兵士の全てを彼は策を上手く運ばせるための捨て駒として使い続けてきた。兵士の誰もがモウ・チェイファンに恐怖を抱いていた。だけど、実際は違ってたんです。チェイファンへの恐怖は、単なる恐れではなく多くの人々から慕われる畏怖も備わっていたんです。さっきも大将がチェイファンの亡霊の前で説いていたけど、ホントのところチェイファンを慕う兵士や人民が今でも台湾には数多く存在しているんだ。国の、台湾の為に冷徹に成り下がっていたチェイファンが最後の最後まで台湾への厚い愛国心を持った愛国者だという事を、兵士も人民も理解しているんですよ」
最初は人望や人徳がチェイファンには欠けていると思い込んでいたジュピターキッドの話に新世代型の美都玲奈が問い返すと、ジュピターキッドは率直にモウ・チェイファンが意外にも多くの兵士や人民からの人望が厚かった事実を伝える。
自国を想う余りのチェイファンの暴挙を、台湾の兵士や人民は心から理解し、時には慕っていたのだった。
するとこの時、新世代型二次元人たちは皆の話を黙然と聞き入れているだけのシバ・カァチェンの存在を思い出した。
シバ・カァチェン、彼もまた過去にモウ・チェイファンの捨て駒として台湾軍に在籍していた経緯を、先ほどの大将とチェイファンの対峙の時に聞き入れていた新世代型達はカァチェンに話を聞いてみた。
「か、カァチェン……あんたは昔、そう二年前にモウ・チェイファンの捨て駒、いや、部下だったんだろ? いったい、チェイファンって武将はあんたが見た感じどんな武将だったんだ?」
新世代型の真鍋義久がシバ・カァチェンに二年前まで自分の上官であったモウ・チェイファンについて訊ねてみた。
するとカァチェンは虚ろな眼差しを上げて真鍋たち新世代型二次元人達の疑問に答えた。
「はい、モウ・チェイファン様は……それは真に……非情なまでに情け容赦ない方でした……」
――――カァチェンが語るモウ・チェイファンの実情。それは――――
かつてのモウ・チェイファンは何事も現実的で生真面目な一面が目立つ武人であった。
しかし二次元人の出現により、現実的な思考を持つ彼は前々から持っていた冷徹な一面をさらに強めた。
戦果を挙げられない自軍の将や、自身の考えに意見を述べた斥候を躊躇わず処罰するなど徹底した一面を強め、まさしく冷酷非情が似合う武人へと成り代わってしまった。
その背景には、時には素敵な結末を迎えられる物語の人物と比べ、台湾は現実的に中国などの強国に圧制された厳しい環境下で生まれ育った為だと言われている。要するにチェイファンはハッピーエンドを迎えられる物語の人物たちに淡い嫉妬心を抱いていたのだ。
実際にカァチェンが語るには、モウ・チェイファンとの接見の際、こう吐き捨てられたという。
「新たなる捨て駒とは貴様か? ……もう良い、下がれ」
新人である兵士に対しても冷たくあしらうモウ・チェイファンに誰も心を許せなかったが、同時に逆らえなかった。
そんな兵士や人民を知略だけでなく、冷徹な感情で抑え込んだチェイファンは兵士達にこう述べた。
「我に従う事のみを心得よ……それ以外は要らぬ」
何の意志も持たず、人形の様に心を捨てて、自分以外の何者にも従わず、自分の命だけを忠実に従わせるよう説くチェイファンの教えに誰もが畏怖を抱いた。
そんなチェイファンも、台湾の繁栄のためには尽力を注ぎ、それにより人望も多少ながら集まっていた。そんなチェイファンを、当時の新人であったカァチェンは少しばかり憧れを抱いた。
だが、そんなチェイファンを更に冷酷非情に変えてしまったのが二年前の乱世、当時のアジア大戦であった。チェイファンは乱世に巻き込まれ、情勢が乱れた台湾国内の統治を速やかに行うと、自ら国将軍と名乗り挙げ、中国からの独立を計った。
軍の総司令官から一気に国将軍へと上り詰めたモウ・チェイファンは、速やかに軍を率いて台湾の独立の為の準備を着々と進めた。
まずは北の国の残党軍その智将に納まっている大闇刑蘭と密談し、破邪王のアジア統一やヤン・ミィチェンのスター・コマンドーへの復讐を果たす見返りとして、チェイファンは台湾の安寧を密約させた。彼らは互いの利害の一致により、打倒聖龍隊を目的として同盟を組んだ。
この時、シバ・カァチェンは台湾軍の一兵卒に過ぎなかったという。
だがモウ・チェイファンはスター・コマンドーへの復讐心に取り付かれたヤン・ミィチェン率いる北の国の残党軍を奇襲し、台湾軍を優勢化させようと目論んだ。
更に聖龍隊と赤塚組の両軍が自軍に攻め入った時、基地敷地内に大量の爆薬を仕掛けて、自軍を巻き込んでの相手方の兵力の激減を計った。この時、モウ・チェイファンに爆薬の爆破スイッチを任されたのが、シバ・カァチェンだった。
カァチェンはモウ・チェイファンの命じたとおりに爆薬を着火させて、自らも爆発に巻き込まれて両軍を壊滅させた。これが今でもシバ・カァチェンが背負う過去の過ちだという。
「あの時の私は……他の兵士同様、モウ・チェイファン様の命に脅えていました。いいえ、然したる事を言えば……私も他の兵士も、チェイファン様の国を想うが為の策とそれを動かす知略に魅了されていたのかもしれません……」
カァチェンは当時を振り返って、あの時の自分はモウ・チェイファンの知略と内に秘めた愛国心に他の兵士共々魅了され、ただただ命令に忠実に動いていただけだったのかもしれないと語った。
このカァチェンの昔語りを聞いて、愕然となる二次元人達と反して聖龍HEADは落ち着いた様子でカァチェンに言った。
「……そうだったの。あの時の爆発は、あなたが……」
「はい、誠に申し訳ありませぬ……いいえ、既に謝っても遅い事でしょう」
「そんな事ないわカァチェン! 確かにあの時、多くの仲間が爆発に巻き込まれたけど、あなたはただ命令に忠実だっただけ! いいえ、そうするしか無かったんでしょ? 辛かったでしょう……」
「………………」
自分の恋人までも巻き込んだ爆発を起爆させたカァチェンから詫びを受け、聖龍HEADの宝生波音と洞院リナがカァチェンの辛かった心境を感じ取ってあげる。
憧れを抱いた智将からの命令に、忠実というべきか、命令された事しか実行できなかった武将シバ・カァチェン。
だが、そんなカァチェンからの昔語りを聞いて、一般の二次元人達は新しく知ったモウ・チェイファンの生き様とそれに忠実なまでに命令を実行したシバ・カァチェンら一兵卒達の想いを知って騒然となった。
たかが捨て駒、されど捨て駒。駒とされた武人兵士達も冷酷非情なモウ・チェイファン同様、厚い愛国心を抱いてその冷徹な命令を遂行したのだ。
[知将亡き後の台湾]
シバ・カァチェンより二年前の乱世で冷酷非情だった性格が、更に冷徹になってしまったモウ・チェイファンとの確執を聞いた聖龍隊と赤塚組と一般の二次元人達。
何より、カァチェンより初めて聞かされた、多くの同胞を巻き込んだ二年前の爆発を起こしたのがカァチェンだという事実を知ったHEADは、改めてカァチェンに真顔で話し掛ける。
「そうか、あの時の爆発は君が……」
「はい、その通りです、キング……」
キング・エンディミオンからの問い掛けにカァチェンは暗い面差しで返答する。
モウ・チェイファンの命に従い、両軍を壊滅に追い込んだカァチェンの行為に二次元人は正直引いてしまう。
だが冷酷非情な面立ちを浮かべ続けたモウ・チェイファン、彼の国を想うが為に被り続けた偽りの氷の仮面の裏には、常に周りに敵を作り続けてきたが為に築き上げられた孤独の面差しが隠れていた事実を、カァチェンの話は元より聖龍HEADや赤塚組の昔語りを聞いて二次元人達は感じ取る。
そんな昔語りを聞いて、新世代型の星原ヒカルが率直な意見で訊ねた。
「そ、それで……モウ・チェイファンが戦死した後、台湾は結局のところどうなったんですか?」
星原ヒカルに続いて瀬名アラタもカァチェンに訊いた。
「それよりもカァチェン! あんたは無事だったのか? 話を聞くとあんたも爆発に巻き込まれたみたいだけど……!」
星原ヒカルと瀬名アラタ、両名の問い掛けを聞き受けてシバ・カァチェンはおぼろげな表情で答えた。
「はい、その全てを私の口から語り明かしましょう……貴方方、二次元人には多大な恩恵があるが故に……」
自身に少しばかりの変化を生じさせてくれただけでなく、実のところ台湾の独立に少しながらの助力を差し伸べてくれた二次元人への恩を感じているカァチェンは語り始めた。知将モウ・チェイファンが亡き後の台湾の情勢を……。
まずモウ・チェイファンの命令に従い、戦場に仕掛けた爆薬を起爆させて自らも爆発に巻き込ませたシバ・カァチェンは当初、この爆破で自らも果てようと捨て駒としての役目を果たそうと意識していた。だがその意識とは反して、カァチェンは重傷を負いながら不覚にも存命してしまった。その後、アジア大戦が終結後、モウ・チェイファンが仕掛けた卑劣な知略が次々と暴露されていく中、そんなチェイファンの愛国心を誰よりも感じ入ったミラーガールの助言と支援により台湾の独立は何とか叶った。
ミラーガールはモウ・チェイファンが引き起こした謀略の数々を心より許しただけでなく、彼の行為と愛国心を後世へと伝えようと銅像まで建造したという。
だが此処でミラーガールも聖龍隊も関与していない問題が台湾の軍事に勃発。それは次期台湾将軍を誰にするか。晴れて独立を果たした台湾の軍事を統治させる将軍を誰に任命させるか軍の上層部は迷いに迷った。何故なら、いくら世界的に知名度と信頼を得ているミラーガールから全ての謀略を許されたとはいえ、モウ・チェイファンの行った数々の謀略は忌々しき行為には変わりなかったからだ。そんなモウ・チェイファンの後釜に誰が就こうと世間体は誰もが台湾将軍に白眼視を向けるのは必至。つまり台湾将軍になるのは却って貧乏くじを引かされる様なものだからだ。
そこで軍上層部と台湾国民は、モウ・チェイファンの命令に忠実に聴くしかできず、更に拒否の意志を一切見せない無自覚で思考を放棄しているシバ・カァチェンに白羽の矢を向けた。己の意志をしっかりと表現できないシバ・カァチェンを台湾将軍に任命する事で、お飾りの将軍として世間の白眼視の一切を彼に向けさせようという魂胆だった。この上層部の意向にカァチェン本人も拒絶の意志を示す事ができず、言われるがままに台湾軍の将軍として世間の軽蔑視を浴びせ続けられる事となったのだ。
この台湾の軍上層部の意向と考えに、呆れて表情が固まってしまう一同。
すると場の空気が硬直する中、新世代型の真鍋義久がカァチェンに向かって言い放った。
「……アンタの国、サイテーーだな!」
「いえ、全ては明確に拒絶できない私の弱き意思が招いた結果……致し方ないと思っております……」
敗戦国の将軍選びで、誰よりも気弱で拒否の意志を示せなかったカァチェンに敗戦国の将軍の地位を委ねた顛末に新世代型の真鍋義久が文句を言うが、当のカァチェン本人は自分自身の拒否できない弱い意思が招いた結果だと薄暗い表情で呟くように語り返した。
すると真鍋に続いて他の二次元人達も口々に語り始めた。
「まったく、昔から他人の命令しか聞けず、言われるがままの人生だったのだな、カァチェンよ。お飾りの将軍に任命されても、それじゃ仕方がないぞ」
「はい、心得ております……」
腕を組み、威風堂々とした物言いでカァチェンに申し渡す
「それにしても、アッコさんが台湾の独立に力を注いでいただなんて驚きました! モウ・チェイファンがやった事って、私だったら簡単には許せませんもの」
「そうね。でも、私は特別な事は何一つしいてないわ。ただ、チェイファンが仕掛けた謀略を許してほしいと世界に嘆願しに回っただけで、後は台湾の人々の尽力があってこそ独立が叶ったんですもの。お陰で台湾は、今では中国などの隣国とも仲良く関係を持てているわ……何より、私はチェイファンの謀略よりも、彼の国を想う心に突き動かされたの。そのチェイファンが愛してやまない台湾を、ホンのちょっと導いただけよ」
プロト世代のチョコが驚いた表情で語ると、ミラーガール本人は自身が特別な事はしていない事そしてチェイファンの愛国心に突き動かされた事を素直に述べた。
と、その時。皆が休みを入れている客間に、一人の若い台湾兵士が声をかけて入室してきた。
「失礼します」「どう、されたので……」
声をかけて入室する兵士に現台湾軍国将軍のシバ・カァチェンが問うと、若い兵士は現将軍のシバ・カァチェンに丁寧な物腰で申し渡した。
「はい、お茶をお持ちしましたので皆様方にと……」
「そうですか。ではお持ちになって下さいませ」
「はい」
お茶をお持ちしたと答える兵士に、シバ・カァチェンは低い物腰で持ってくるよう言い渡す。
そして多くの給仕が客室に入ってきて、皆の前にそれぞれ一杯ずつお茶をお運びする。
「おっ、台湾烏龍茶か」
眼前に運ばれてきたお茶を見て、バーンズが言葉を発する。
それは台湾式の烏龍茶であり、本場に近い烏龍茶であった。蓋つきの小さな茶碗に茶葉をそのまま入れてお出しされ、飲むときは蓋をしたまま少しずらして茶葉まで出てこない様にして飲むという仕様だった。
「では早速……ウグ、うむ……何だか少し飲みにくいな」
蓋を少しずらしながら飲む台湾式烏龍茶に慣れていない大将は、若干ながら表情を歪ませる。
そんな大将にバーンズが声をかける。
「まあ、そういうな。これもまた一つの異文化交流……新しい文化との接触だ。焦らず、ゆっくりと茶を堪能しようじゃないか」
普通のお茶の様にグビグビと一気に飲み干すのではなく、焦らずゆっくりと茶の味を堪能しながら時間をかけて飲み干していこうと説くバーンズは、再び烏龍茶を口に運ぶ。
それに習って大将も台湾式烏龍茶を口に運んで一服する。
――――すると此処で、最初に部屋に伺ってきた若い兵士がカァチェンに歩み寄り、訊ねてきた。
「それはそうと……カァチェン殿、この間伝えた書類は済ませて下さってますか?」
「い、いいえ、まだ……」
「本当なら今日の昼までなんですよ!?」
「済まない、夕刻までには済ませるつもりだ……」
書類の刻限を定めていたにも関わらず、未だ書類を済ませていないカァチェンに愛想を尽かした兵士は無愛想な面差しで扉の方に振り返ると捨て台詞を吐いた。
「まったく、もう……チェイファン様ならとっくの昔に済ませている筈なのに……」
以前の将軍と比べる捨て台詞を客人である二次元人の前で堂々と言い放つ若い兵士の一言に、二次元人達は違和感を覚える。
そして捨て台詞を吐いた若い兵士はそのまま客間を出てっていってしまった。
「……ホントに今でも周りの兵士から軽く見られているな、カァチェン」
「それだけじゃない。今でも多くの兵士がモウ・チェイファンの職務の質を評価しているみたいだ」
未だに周囲の兵士達から軽視されているシバ・カァチェンの現状に嘆くバーンズに反し、ジュピターキッドは今でも多くの軍人が前将軍のモウ・チェイファンを高く評価してしまっているが為にどうしてもシバ・カァチェンと見比べて彼が劣ってしまていると判断し、現状を悟る。
[旅の先]
――――皆が台湾式烏龍茶を堪能していると、茶を飲みながら大将がバーンズに問うた。
「ところでバーンズ、台湾で一服した後はどうするつもりだ?」
「ああ……ジャッジ・ザ・シティに足を運ぼうと思うんだ」
「なにっ? あのジャッジ・ザ・シティに!?」
バーンズが発した単語に大将は一驚する。
すると大将同様にバーンズの言葉に一驚した二次元人達が、バーンズに言葉を投げかける。
「ジャッジ・ザ・シティって、あの最先端の科学技術で海上に造られた人工都市の!」
「話には聞いているけど、色んな種族が集っているっていう夢と理想の島!」
目を丸くして説く新世代型の星原ヒカルに対し、目を輝かせて説くプロト世代のギュービッド。
そんな二人に続いて、プロト世代のチョコも都市の名を発したバーンズに訊ねる。
「誰もが夢と理想を叶えられる……そんな想いから、二次元人と三次元人が共同で造られた人工都市の……! あの小田原修司が太平洋に設けた自然にも優しい、あの……」
「ああ、まあな。キャッチフレーズは大体そんな感じだ。まぁ、実際は犯罪者もかなり潜伏している危険極まりない科学都市でもあるが、確かに修司は種族の共存と自然との調和を願って建造した海上人工都市ではあるがな。お前達も行きたいか?」
チョコからの問い掛けに答えるバーンズの質問に、二次元人達は一同に「はいっ!」と元気よく答え返した。
すると、いきなりアジア巡行から一気にアメリカ側の太平洋の海上都市にまで足を運ぶと聞いた新世代型の薙切えりながバーンズに不服を申し渡す。
「ちょっと待って! 私たち、まだ解放されない訳!? もういい加減、家に帰りたいわっ!」
薙切えりなの発言に、最初は浮かれていた多くの二次元人達も同じ気持ちに至った。
誰もが旅の疲労を心の奥底に隠していたからだ。
そんな、えりなの申し出を聞き入れた上で、バーンズは申し訳なさそうに述べ返した。
「済まないな、えりな、それに他のみんなも。でも、未だに共有感知が完全に消滅していないお前達を家路に付かせても却って混乱が続くだけだし、何よりオレ達も三次元政府からお前達の事でジャッジ・ザ・シティまで報告しに向かわなきゃならない。当然、お前さん達を同行した上でだ」
「またそれかよ!」
またしても三次元政府からの勅令だと聞かされた事で立腹する新世代型たち。
するとそんな中、新世代型の琴浦春香がバーンズに申し渡した。
「ま、待ってくださいバーンズさん。せめて、私たち新世代型ではないチョコちゃん達だけでも解放してあげてください! チョコちゃん達は私たち新世代型の問題に巻き込まれただけ何ですから……!」
すると、この琴浦春香の発言を側で聞いていたチョコ達プロト世代の面々は話し始めた。
「大丈夫だよ、琴浦さん。私たち、なんだかみんなと一緒に旅をしているのが楽しくなっちゃったし、何より見た事もない場所にも悠々と行けて気が楽だから」
「で、でも……!」
「大丈夫だって琴浦。この先、何があってもどうせ聖龍隊が何とかしてくれるから平気だっての。それに……これを理由に毎日旅行気分が味わえるってもんだぜ!」
「まったく、ギュービッドの奴め……」
新世代型の問題に巻き込まれた形のプロト世代であるチョコの言葉に戸惑う琴浦春香と反し、呑気に旅行気分を堪能できると語るギュービッドの言葉に真鍋義久は呆れ返ってしまう。
これに対し、バーンズはまたしても申し訳なさそうに顔を下向きに下げて述べた。
「す、済まない……現政奉還の影響で、オレたち聖龍隊もてんてこ舞いなんだ。それでアニメタウンに一般人を帰還させる余裕もできなくって……本当ならチョコ達プロト世代だけでも帰したいんだが……」
しかし、このバーンズの申し出に同じプロト世代の海道ジンが笑顔で話し返した。
「大丈夫ですよ、バーンズさん。みんなとの旅路も、色んな意味で教養があってあまり苦ではありません。色んな国、色んな地区の武将との出会い……過去の貴方たち聖龍隊の激戦や小田原修司の思想を勉強できると思えば、良い傾向ですよ」
すると海道ジンに続いて新世代型の
「確かに! 二次元人と三次元人の繁栄を願っていた小田原修司の足取りを学べるという事は実に良き意向だ! うむ、これを機に……我々、本能字学園の面子は一種の修学旅行の一環で聖龍隊と行動を共にするのも悪くない!」
「おっ、聖龍隊と一緒にジャッジ・ザ・シティへか……それはそれで面白そうだな!」
「まったく、何を呑気なことを申すのかしら、この二人は……まるで姉妹みたいですわ」
著名な小田原修司の足取りを学べる機会として大いに寛大になる
この時、バーンズは人知れずこう内心で思っていた。
(本当にすまない、新世代型、そして巻き込まれたプロト世代。だが今お前達を解放する訳にはいかないんだ。下手すれば二次元人の尊厳、いや人権が失墜してしまうんだ……)
バーンズは二次元人達を解放できない苦しい心境を思い浸った。
と、バーンズはあくせくと書類業務に務めているシバ・カァチェンにも言葉を掛ける。
「カァチェン、お前さんはどうなんだ?」
「ッ! わ、私ですか……?」
「そうだ。軍の上層部と、台湾政府から、お前さんがオレらと同行したければその意向を組んでやっても良いという返事を貰っている。オレとしては、お前さんとも一緒にジャッジ・ザ・シティに行きたいんだよなぁ。まだまだ見せてやりたいモンもたくさん、そう、ジャッジ・ザ・シティにあるからよ」
バーンズの提案と、自分を蔑にしている上層部と台湾政府の意向を聞き受けたシバ・カァチェンはしばし思い悩んだ。
このまま聖龍隊と同行し、新世代型二次元人たちと共同しても良いのかと。
そして己を若輩者と、周囲同様、自分自身に向けて軽視するシバ・カァチェンは考えに考えた末にバーンズに答えた。
「……はい、承知いたしました。私もまた、彼ら新たなる世の二次元人と行動を共にしたいと考えに至りました。お許し願えるのでしたら、今後も私自らの為にも共に旅路の果てまででも向かわせてください……」
「おうっ、よく言ってくれた! ……ホントに変わったな、カァチェン! 自分の考えを、意志を示せる様にまで成長できたな」
シバ・カァチェンの返答を聞いて、バーンズはカァチェンが本当に最初会った時と比較すると凄く成長できている事を察する。
無論バーンズ同様、他の一同もシバ・カァチェンの変わり様には驚かされていた。
――そして台湾茶を飲み干したバーンズはスッと立ち上がると皆に言い放った。
「よし! オレ達はこれからアメリカ沖の太平洋海上に建造された人工都市、ジャッジ・ザ・シティへと向かう! みんな、最後まで付き合わせて悪いが、最後まで仲良くしてくれや」
「はい、もちろんですバーンズさん!」
「何かあっても俺たちを護り抜く、その約束を忘れるなよ!」
バーンズの意気込みに、琴浦春香と真鍋義久は笑顔で言葉を返した。
「こうなれば行くところまで、みんなで行くしかないね! 流子ちゃん、皐月様、最後までよろしくね!」
「もちろんだ、マコ!」
「フッ、この先どうなるか気になるところだ……」
最後までみんな仲良くをモットーとする満艦飾マコの発言に友達の纏流子が返答する中、近場の
だが、マコや流子たちとは反対に、最後まで皆との集団行動に反感を抱く薙切えりななどの新世代型二次元人も多数存在しているのをバーンズは見逃さなかった。
皆との旅路が変わらず続けられる顛末に、環境の変化に弱いシバ・カァチェンは少しばかり安堵した。
しかしその間、カァチェンは未だ自分と見比べられる対象の前将軍モウ・チェイファンから携わった言葉の数々を思い起こしていた。
「愚かな……恐怖の他に情など要りようもない」
「元より策とは陥れる為に行うものであろう……」
「人の情など、我は求めた事すらない」
感情の一切を捨てて、他人を必要としない知将モウ・チェイファンに反して、自分は周りの理解と協力が必要な現状に躊躇いを覚えるカァチェン。
そんなカァチェンの不安に気付いたのか、ミラーガールは優しくカァチェンの肩を叩いて笑顔で彼を励ます。
ミラーガールの笑顔を見て、カァチェンは心の片隅に抱いていた不安を少しばかし、かき消せた。
だが、この時誰が予測できただろうか。
新世代型二次元人に起こる悲劇の数々を。
そしてジャッジ・ザ・シティで起こる幾多の惨状を。
[アレンジ武将]
モウ・チェイファン(故人)
所属:台湾軍総大将
出身:三次元界 台湾
武器:輪刀
肩書:詭計智将
登場時の書き文字:着手
一人称:我(われ)
属性:光
三次元界、台湾に生まれた名家の息子で、2011年の乱世の時には知略を巡らせて台湾軍を纏めた実力者。冷酷非情で生真面目な現実主義者でもある。
その冷徹さは戦果を挙げられない自軍の将や自身に意見した斥候を処刑するなど徹底している。
日輪を篤く信仰し、自身を「日輪の申し子」と称する。
基本的に天下を取るのが目的ではなく、ひたすら台湾の安泰の為だけに尽力する。(ただ天下に興味がないわけではなく機会があれば天下取りを画策していた)
その為ならば手段を選ばず、自軍の兵士や自分自身の事すら捨て駒の一つとしか思っていない。
二年前の乱世では、韓国の破邪王、北の国の残党軍総大将ヤン・ミィチェンらと共に新世軍を結託。その際、黒劉席を利用して赤塚組の仲間や身内を奇襲し、更にその卑劣な行いを聖龍隊の仕業だと思わせるためスター・コマンドーが持つ皇軍の御旗を落として、赤塚組と聖龍隊を敵対させようとした。
しかし真相が明るみになり、台湾の地で大将たちと決戦したが、前々より台湾独立の為に利用しようとしていた破邪王の手の者に奇襲を仕掛けられ負傷。ミラーガールの労りの言葉も虚しく、最後まで二次元人を見下しながら孤独の中で絶命した。