現政奉還記 武将達との会合編   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 異常者と認定された身内や知人と再会した新世代型二次元人達。だが彼らに対する国連軍の非情なまでの仕打ちに衝撃を覚える中、三次元人の青年で台湾軍の国将軍だが心ここに非ずの武人シバ・カァチェンとの遭遇が、またしても新世代型二次元人達の中で何かを変えさせた。
 一方、そんな異常者認定を受けて焼き討ちに遭わせられる無情な現実を目の当たりにし続けてきた日本政府公認の皇軍にして聖龍隊の精鋭スター・コマンドー率いる村田順一は、そんな認定を受けられただけで尊い未来を奪われ続ける今の現状に失望し、遂にこの現政奉還の乱世にて己自身もまた聖龍隊とは離反し、自らが掲げる理想を叶えんと発起する。そんな順一に誰もが止める術など、いや資格など無かった。
 村田順一率いるスター・コマンドーと衝撃の離反を目の当たりにして愕然とする新世代型二次元人達の前にまたしても衝撃的な人物が。それは元国連軍大将である放浪の旅人、流動体質系にしてほぼ不死身を誇る強さを持つ冷血冷酷ともいわれる男、冷苦であった。冷苦は聖龍隊の新人部隊の力量を見計らおうと鍛錬交じりに一戦を申し出る。これにメタルバードも同意し、SAO/AW/マギカの三組と激闘を繰り広げる冷苦。だがその力量の差は圧倒的であり、冷苦からは「今の時代を背負うのは無理」だと新人の三組は言われてしまう始末であった。
 そして戦いを終えた冷苦は、今後政府の動きが活発になるのと、それにつれて現政奉還を起こした新世代型二次元人達の保身が難しくなってくるのを聖龍HEADに話した。しかし一片の迷いもないミラーガールの答えを受け、冷苦は再び当てもない地平線にへと消えていってしまったのである。
 そんな冷苦と一戦を終えた直後、その冷苦との接触以前にスター・コマンドーとの離反の様子まで伺い続けていたモンゴル軍忍頭:猿飛佐助が参上する。佐助は聖龍隊に自分達モンゴル軍との同盟の意思を示すのかどうか確かめる為に帰路の最中接触してきたのだ。こうして冷苦、そして地下道の整備を理由に黒劉席の軍隊とも別れた一行は猿飛佐助率いる忍者達と共にモンゴルへの向かう。
 しかし、そんな彼らに突然の悲報が。なんとモンゴル軍の前線基地にして主力基地が集団脱走している暴徒と化した異常者達の手によって侵略されてしまったのだという。



現政奉還記 アジア紀行編 闇の忍務 第二章:猿眼睥睨

[叱咤]

 

 聖龍隊との同盟――――それはモンゴル軍にとって復権への兆しか、或いは断絶への加速か。

 

 ユキジに判断を促すべくモンゴルへと舞い戻ろうとした佐助の耳に、まるで予想外の現状が伝わった。

 

 それは南下する異常者(ヒール)の暴徒によって兵を駆逐され、奪われたモンゴル軍の主力基地の姿であった。

 

 この非常事態を前にモンゴル軍が大将、シン・ユキジが吠える。

「うおあぁあ! 必ずや取り返す! 我らが基地を……お館様が誇りの基地をッ……!」

 そのシンジに馳せ参じ仕ったのは、烈火の影の如き忍 猿飛佐助。

「大将! 一体何がどうなってる!?」

「佐助……! 良かった、無事だったのだな!」

 兵を率い、決死の奪還を規すユキジが思わず零した安堵の色に、佐助はモンゴル軍の衰退を予感し始めていた。

 

 

 一行は取り敢えずシン・ユキジが束ねるモンゴル軍と合流し、異常者(ヒール)によって侵略された基地の一角に集った。

 モンゴル軍基地奪還戦前の事、聖龍隊と赤塚組、そして多くのモンゴル兵が出陣の準備をしている最中、新世代型二次元人達を前にして猿飛佐助は睥睨の勢いの如き眼光でシン・ユキジと向き合い、彼と対話していた。その様子を新世代型二次元人達は自分らの共有感知を通して二人の、特にユキジの心境をはっきりと理解しながら拝観していた。

「聞かせてもらうよ。なぜ基地を盗られている……!?」

 佐助が問うと、ユキジはその訳を心痛ならざる面差しで答えた。

「情報を求め、南下した隙に……!」

「情報、だと……」

 本来ならば自分たち忍に収集させるべき情報を自らの足で探求していたというユキジの発想に佐助は唖然とした。更にユキジは自身の考えと想いを必死に佐助に弁解した。

「お前に諭された通り、一心に考えた。そして尾翼なればこそ、周囲を知るべきだと思い至ったのだ」

 最終的にユキジは、佐助たちの事までも弁解に出してきた。

「それに、いつまでも戻らぬお前達が心配だった。だから、何処かで上手く合流……」

「馬鹿野郎!」

 無謀・未熟・失望・滅亡・予感。それら五つ全ての綻びの顛末が主力基地を暴徒に奪われる隙である事態に、佐助は一瞬怒鳴ったものの瞬時に呆れ果ててしまった。

 そしてなんと、次の瞬間。皆が観ている目の前で、主に仕える筈の忍である佐助が、仕えられる筈べきシン・ユキジの左頬を思いっきり右手で引っ叩いた。

「佐助……!」

 思いも寄らない猿飛佐助の叱咤の一打に、傍観してた新世代型二次元人達は愕然と言葉を失くし、殴られたユキジは呆然と自分を叩いた佐助に顔を向ける。

 呆然と顔を向けたユキジに、佐助は観衆の目の前でユキジを叱り付けた。

「……そんな事で基地を空けたってのか!? 挙句の果てが、この有様だ」

「……っ…………」

 情報を収集させる者に任を任せず、赴くままに動いてしまったが為の失態にユキジは何も言い返せず、表情を歪ませる。

 だが猿飛佐助は、そんなシン・ユキジの肩を掴み奮い立たせると彼に強く言い聞かせた。

「良いか、命の重さは等しくないんだ。あんたも子供じゃないなら、いい加減学べっ。忍は一つの目的の為に百の命を投げ捨てる。だがあんたの愚かさは……一つの為に、千の命をも失いかねないだろ!」

「っ……っっ…………!」

 己の愚かさを痛感されたユキジは、その場に塞ぎ込んでしまう。

 するとその時、ちょうど全軍が出陣の準備が整い出兵できる合図が鳴り響いた。

 これを聞いて佐助も戦場に飛び出そうとするが、その直前に佐助はユキジを見下す様に台詞を吐き捨てた。

「心が決まるまで、そこで固まってろ………………邪魔だ、大将」

 そう冷たくあしらうと、猿飛佐助は戦場に出陣し基地の奪還に取り掛かった。

 その一方、邪魔だと吐き捨てられ、ユキジは佐助の叱咤の一言一句に己の未熟さを痛感し、愕然と零した。

「痛い……これが未熟、背負う事の痛み……」

 そんな己の未熟さを痛感するユキジに、佐助は人知れず思い浸っていた。

「その苦痛を噛み締めるんだ、大将。今のうちに……取り返しが付かなくなる前に」

 貧弱の一途を辿るモンゴル軍の未来の為に、そして何よりも己自身の行く末の為にも、今感じている未熟ゆえの苦痛や苦悩に思いを寄せ、二度と同じ過ちを繰り返させまいと猿飛佐助は痛感していた。

 その傍ら、既に戦闘は基地各部で勃発しており聖龍隊と赤塚組の加勢が手引きされたモンゴル軍と、基地を占領した暴徒の異常者(ヒール)達の壮絶な戦いが繰り広げられていた。

「このっ」「そりゃっ!」

 近代武器で攻撃する一方で、刀や槍など古来の武器も交えて応戦する聖龍隊は悉く暴徒達を薙ぎ払い退けていく。

 すると以前、聖龍隊が予行練習での一戦で行ったとおり敵方は主力の陣を防衛する堀の水路を開放し、水堀のかさを減らした。

「うわああぁ!」

 開放された水路から解き放たれた大量の水に押し流され、モンゴル軍の勢いが鎮火されてしまった。

 その傍ら、黒い影分身による『影踊(かげろう)』を続々と出現させて敵方を襲撃し続ける猿飛佐助は敵側を混乱させていた。

「ひでぇ事しやがる。水に毒仕込むなんてよ」

「こっちの水は全部流し終わったぞ!」

 すると先陣する暴徒達からは御堀の水に毒が仕込まれていると勝手に思い込み、それを踏まえて堀の水を抜いていたのが確認された。

「入れたつもりは全然無いんだけどね……さて、何処から手をつけていいものか」

 その会話を基地の屋根伝いに移動していた猿飛佐助が聞き流しながらも、既に何処の箇所でも勃発してしまった戦火を鎮火させようと悩み抜いた。

 すると屋根の上の彼の目に、地上で前進する暴徒達を武力で押さえ込むマン・ヒールズの姿が捉えられた。

 佐助はそれを見ると颯爽と移動し、彼らと暴徒の間に割り込んだと思った瞬間に一筋の閃光でマン・ヒールズと対峙していた暴徒達を片付けてしまった。

 一筋の閃光、それが視界に映り込んだ一瞬の出来事、暴徒たちの首と胴体は切り離され、胴体にすら悲惨な切傷が抉られる様に彫られてしまったのだ。

「…………………………っ!」

 切断された首と切り刻まれた胴体から吹き出る大量の血飛沫で開放されて水浸しになっていた水路が紅く滲み出す。

 しかし、そんな惨状を作り出した佐助は無惨にも殺生した死体に見向きもせず、そそくさと別の戦場へと駆け出していった。

 前後左右、あらゆる方向から影踊を発生させ、様々な派生元からなる攻撃手段で敵方を蹴散らすと同時に、猿飛佐助は相手方を微塵切りにもしてしまう奥義『暴猿(あばれましら)の術』で左右に入れていると入力方向へ薙ぎ払うように手裏剣を操作する。攻撃後手裏剣は前方へ、または前方直線の地面を走らせるように攻撃し、手裏剣は佐助前方へと戻り、またある時は敵を巻き上げるように手裏剣を操作して攻撃。その後手裏剣は佐助前方上空へ舞い上がると彼の手に収まり収拾する。

 

 それからも佐助は敵が密集している地点を見つけると即座に『暴猿(あばれましら)の術』で敵方を切り刻み、遠隔操作される大型手裏剣から逃れようとしている敵に対しては『影踊(かげろう)』で左右から二体の影分身を蹴り飛ばさせ、逃げ道を奪取してから容赦なく『暴猿(あばれましら)の術』で敵を細切れに切り刻んで血の海を作り出す。

 そこには主力となるべきキャラクターは居らず、ほとんどがモンゴル軍の一般兵のみであった。

 そんな戦場でも佐助は己の力量に自信を持ち、突っかかってくる暴徒達を次々に大型手裏剣で一網打尽にして片付ける。

「大将首が突っ込むほど愚かじゃないって事さ」

 主力が戦前に出るほどではないと言い切る佐助は更に「さあ、あんたら全員回れ右のお時間だ」と敵方に台詞を投げ捨てると手裏剣と忍術の一種である影で敵の暴徒達を一掃し、排除してみせる。

「失礼ッ」と、モンゴル兵が窮地の危機に佐助が掛け声と共に手裏剣で斬り付けて助成しにきた。

「さ、佐助さん! 助かりました……」

「援護は任せろ、だから落ち着いていけ!」

 加勢しに来てくれた佐助に本心より礼を述べるモンゴル兵に、佐助は援護するから落ち着いて対処して行けと叱咤されて呆然となっている主に代わり指示を飛ばしていく。

 そんな無力と化した主に代わり、戦況を思い通り以上に引っ掻き回す猿飛佐助は暴徒達に向かって飄々とした面構えで言い切って見せた。

「ちゃあんと覚悟決めてんのさ、モンゴル軍はな」

 

 別所での敵も全て排除し尽し、指示を出せないシン・ユキジに代わってモンゴル軍本隊と合流した佐助は、荒れ狂う戦場の中で上官である兵士にわびの一言を伝えていた。

「忍風情が出過ぎた真似を……お許し下さい」

「何の……ユキジ様にはお主の叱咤が一番の薬じゃ」

 主君であるユキジを叱り付け、張り倒した行為が主君に仕える忍にとって邪道とも呼べる行為である事は佐助本人も重々理解していた。だが上官はそれでも、誰よりもユキジを知っている友の間柄でもあった猿飛佐助の叱咤が何よりの妙薬だと叱る事は無かった。

 そんなしょんぼりしている佐助とは裏腹にモンゴル軍の兵士達には活気が芽生え始め、兵士達は怒涛の如く目前の暴徒達を抹殺していった。

「お館様とユキジ様の魂は俺達が守るぅぅ!」

「そうだ、あんたの強力に期待してるぜッ!」

 怒涛の如く戦果を巻き返し、押し返していくモンゴル軍兵士に佐助は労いの言葉をかけつつも自らも積極的に敵を続々と嬲り殺していく。

 

 

「やっ、やっ、とっ!」

 向かい続ける暴徒達に猿飛佐助は怯む事無く軽々と跳び回りながら大型手裏剣を巧みに操り、同時に影分身による追撃も心得てと攻撃の手を緩めず敵兵力を消耗させていった。

 そんな猿飛佐助の視界に、敵に囲まれやや苦戦しているマン・ヒールズの姿が入った。

 佐助は自身が仕える国の領域を穢した者たちを殲滅させる為にも、容赦なくマン・ヒールズを取り囲む敵兵達に襲い掛かり、無残にも血塗れの肉塊へと変えてしまった。

 敵全てを血塗れの肉塊へと変貌させた猿飛佐助と一瞬目が合うマン・ヒールズに加勢している【アラタカンガタリ】のミヤビ。だが佐助は彼女に一言も返さず、次なる戦場へと赴いた。

「やれやれ、相変わらず敵には容赦なし、か……」

「安心しとけ。お前達が聖龍隊の中で大人しくしている限り……同じ目には遭わせないからさ」

 相変わらずの情け容赦のない敵方への殺戮に門脇将人らマン・ヒールズの面子に、佐助は冷然とした表情で彼らマン・ヒールズが聖龍隊という組織内で大人しく敵対する事がなければ同じ目に遭わせないと断言し背筋を凍り付かせた。

 

 と、その時だった。一人のアニメタウン兵士が声を上げた。

「あ! あんたは確か、三枝一族の……」

 聖龍隊の隊士の一言に多くの聖龍隊や新世代型達が声の方へと意識を向ける。

 すると何と敵方の暴徒達を指揮してモンゴル軍の拠点を落とさせたのは、なんと三枝一族であった。これには身内の新世代型二次元人、三枝葉留佳(さいぐさはるか)二木佳奈多(ふたきかなた)は驚いた。

 事もあろうに収容施設から脱走した悪名高き三枝一族は、暴徒達による軍を指揮するまでに上り詰めてしまっていたのだ。

「がはははっ、見るがいい! 我ら三枝一族をアニメタウンより追放した報いだ! 聖龍隊に関係ある連中は誰であろうとブチ殺せッ」

 何と三枝一族は自分達を異常者(ヒール)認定した上でアニメタウンより追放した聖龍隊に逆恨みを抱き、聖龍隊に関与しているという名目だけでモンゴル軍基地の占拠という暴挙にまで至ってしまったのである。

 残虐非道の限りを尽くし、モンゴル兵だけでなく一般のモンゴル国民にまで手を出した異常者(ヒール)の集団。その烏合の衆を束ねる三枝一族に、猿飛佐助の睥睨は鋭くも鈍く光り輝いた。

 

 

「あんた達は……とことん赦しがいらないようだな」

 

 

[虐殺]

 

 相も変わらず拠点である基地を占拠し、好き相応に扱い続ける異常者(ヒール)の暴徒達。彼らは本陣を護る水堀を失くすため、再度別の水門を開放させて大量の水を水路に流し出した。

 猿飛佐助はそんな異常者(ヒール)達を決して許さず、影追の術や影潜の術を上手く応用して戦いを有利に進めていた。

 そんな異常者(ヒール)の暴徒達を手懐けていたのは、アニメタウンで悪習の数々を尽くし、異常者(ヒール)認定を受けて全財産はもちろんアニメタウン追放まで喰らった三枝一族という名士の端くれであった。この三枝一族は、新世代型二次元人達の三枝葉留佳(さいぐさはるか)二木佳奈多(ふたきかなた)の身内であった。

「許さないぞ聖龍隊……そして葉留佳に佳奈多! よくも我々を裏切りおって……! モンゴルを拠点にアジアに我らの前線基地を設けた暁には、まずは韓国や日本を攻めて落としてくれようぞ! それからアニメタウンへの侵攻を開始するっ」

 完全に聖龍隊だけでなく三枝葉留佳と二木佳奈多にまでも逆上の怨念を吐き散らす様にまで落魄れた三枝一族の面々。一方の葉留佳と佳奈多の二名は、確かに今では絶縁している関係とはいえ身内である三枝一族が異国のモンゴルの基地を占領した事実に心を痛めていた。

 そんな失意に暮れる葉留佳と佳奈多を含む、多くの新世代型二次元人達が屯っている、異常者(ヒール)に乗っ取られた基地の一角に設けられた味方本陣に危険な影が迫って来ていた。

「うおおおおおおッ」

 なんと敵勢力の一部が戦闘に加担していない新世代型達が陣取っている本陣へと向かってきていたのだ。

「って! うそっ?」

 戦闘に全く参戦していない筈の自分達ですら、敵対象として捉えている事実に琴浦春香たち新世代型二次元人は愕然と立ち尽くす。

 そして一人の敵兵士が年端もいかない新世代型二次元人の宮内れんげに攻撃の矛先を向けた。

「あっ」「れんげ!」

 今か今かと攻撃の矛先が宮内れんげに直撃する寸前、当のれんげは愕然と硬直してしまい、一条蛍は声をかけつつ駆け寄ろうとし、長女の宮内一穂は妹の名を叫ぶ。

 と、次の瞬間。

「ぐはっ」

 紅い血潮と共にれんげに向かっていた兵士は倒れ、微動だに動く事が無くなった。この隙に長女の一穂は目の前で惨殺された兵士を直視して硬直してしまってる、れんげを急いでその場から離れさせた。

 そして紅い血潮を吐いて倒れた兵士が胸部からも大量の出血を流している有態の最中、大量出血している兵士の傍らに一人の男が姿を現し直立していた。

 その男こそ他の誰でもない猿飛佐助であった。

「さ、佐助!?」「佐助さん、なんであなたが此処に……?」

 今まで進軍している兵力の先頭にいた佐助が何ゆえ正反対のそれも奥地の本拠地に姿を現し、自分達の窮地を救ったのか戸惑う真鍋義久に琴浦春香。

 すると次の瞬間、彼ら新世代型二次元人達を助けた猿飛佐助の姿が跡形もなく消滅してしまった。

「き、消えた!」

 黒い靄となって消滅した佐助を目の当たりにして驚愕する一堂。実は彼らを救ったのは分身の方の佐助であって、本物の方は未だ先陣を切って敵を前方に引き寄せる『影舞の術』で敵陣の要力を一気に消失させていく始末。

 一方、最初に分身によって倒された敵兵士以外の本陣に向かっていた勢力も既に分身の猿飛佐助によって殲滅させられていた。

 その時、皆が目前に広がる佐助の分身によって倒された兵士の亡骸に目を覆いたくなるほどの惨状を感じ入っていると頭の中に直接佐助が話し掛けてきた。

(おい、お前ら! 俺達は前進で忙しいんだ、自分の身は自分で守ってくれっ)

(さ、佐助さん!?)(まさか、あなたまでテレパシーが……!)

 自分達は進軍で多忙な為に自信の身の安全は自ずと守るよう言い聞かせる佐助の言葉に、突如頭の中に響いてきた佐助の声に一驚する新世代型の小野田坂道と、それに反して佐助本人にも自分や琴浦春香ら同様に他人の思考に強制的に侵入できるテレパシーがあるのか問い詰める斉木楠雄の質問に、佐助は同じ要領で皆の頭の中に直接答え返した。

(いやいや、これは俺様達、忍が古来より伝習してきた読唇術の賜さ。簡潔に言えば、以心伝心っていう忍流のテレパシーってところかな。それよりもお前ら、敵はいつお前さん達を狙ってくるか分からないんだ。本陣に来た敵はアンタらが倒しといてくれよ)

(え? ぼ、僕達がですが……)

 佐助に本陣に攻めてきた敵は自分達で片付ける様にと言われ、動揺してしまう新世代型の直枝理樹。

 するとこの佐助の発言を聞いて、一人の新世代型二次元人が佐助に以心伝心にて強く説き伏せた。

「……うむ、分かったぞ忍の者よ! この本陣、我ら本能字学園の勢力が死守致そう! そちは敵の本拠地に真っ向から向かって排除してきてくれっ! 我らの事はもう気に止む事はないぞ!!」

「……そうかい、分かったぜお嬢ちゃん。その言葉、この猿飛佐助胸に刻み込んだぜ! そっちに攻めてくる敵は任せた、俺様は敵の本拠地を落とす!」

 身勝手ながら自分達だけで本陣を死守すると言い出した鬼龍院皐月の発言に、流子は元より他の全員が唖然としてしまう。

「ちょっと! 何を勝手に言っている訳? 相手は銃器で武装したテロリストなんですのよ!? 死守するだって……」

 涙目で自分達では武装した相手に対応し切れないと訴え掛ける新世代型の花園まりえ。だが其処に同じく本陣に待機している聖龍隊士も声を掲げる。

「俺達もいるぞ!」「本陣は俺らで制圧してやらぁ」

 白井渚ら一般の聖龍隊士が大勢待機している味方本陣ではあるものの、新世代型二次元人の多くが実力から見て聖龍隊の本隊士よりも劣化している彼ら一般兵の実力に見劣ってしまっていたのだ。

 すると縛斬を振り翳し、周囲を圧倒させるほどの迫力を備えた神衣:純潔を着こなして本能字学園四天王を従える。無論、四天王の四人も皐月の意思に賛同する構えであった。

 戦意を示した皐月を目の当たりにして、纏流子も栗山未来たちも本陣に攻め入る敵勢力との攻防を決意した。

 

 その頃、敵部隊が拡散している広場で『暴猿(あばれましら)の術』を披露して殲滅している猿飛佐助の傍らには、地面から無数の植物の蔦を生やして抵抗する兵士達を抑制するジュピターキッドの姿があった。

「敵には虚報、味方には士気扇動、か……」

「操心術って奴だよ……モンゴル軍の今後の為にも学んでおいた方が良いんじゃない」

 敵方には偽の情報を流し、味方側には士気を高める伝達をする操心術を指摘されたジュピターキッドは、モンゴル軍の行く末の為にも学び得る事を佐助に提案させた。

 その戦況を遠目で眺めていたメタルバードは心底、戦況がこちら側に有利に運ばれている事実に笑みを零す。

「ヒュ~~、戦場に活気が出て来たじゃねえか」

 戦場の活気を心身に感じ入るメタルバードに、共闘する堂本海人が佐助を目で指して言った。

「御覧の通り、曲者が場を整えているみたいだ」

「正直、あっけなさ過ぎて苛立っていたんだ。今のモンゴル軍に欠けちゃならねぇのは……あの(ましら)だ」

 猿知恵だけでなく、獣の様な機敏な動きと瞬殺力を兼ね備える猿飛佐助こそ、今のモンゴル軍には不可欠だとメタルバードは思い浸る。

「ほっ、やっ!」

 『暴猿(あばれましら)の術』で周辺の敵を一掃すると佐助は即座に敵陣大将に狙いをつけて、敵方の陣に向けて引き寄せ効果のある影を作り、其処へ追撃で多数の影分身で攻撃する『影舞の術』で陣大将や陣に近づく敵兵士を猛攻して陣を取り返すが、何やら様子がいつもの佐助とは違っていた。

「俺様も大概、冷静なつもりだけどね……」

 冷徹な(まなこ)の視界を埋め尽くす異常者(ヒール)に佐助の表情は余計に影が被さっていった。

「久々だよ、これだけ視界が猿に染まるのは」

 

 その時。一人の巨漢兵が戦場で周囲の敵に気を取られていたセーラーマーキュリーに気が付いて、彼女に襲い掛かろうと迫ってきた。

「うおおっ」

 巨大な太刀を振り翳し、頭頂からマーキュリーを真っ二つに切断しようと襲い掛かる巨漢兵にマーキュリー本人も気付くが時すでに遅し。だがその次の瞬間であった。

「ッ!」

 巨大な太刀を振り上げた巨漢兵がピタリと止まり、そのまま顔面の方から肉体が切断されて巨漢兵の方が真っ二つに体を切断されてしまったのだった。頭頂から又下にかけて一直線に抉る様に切断された巨漢兵の亡骸から大量に飛び散る血飛沫でセーラーマーキュリーの青い衣装は真っ赤に染まってしまい彼女自身も呆然と立ち尽くしてしまった。

 そんな真っ赤に染まったマーキュリーと一瞬目が合ったのが、またしてもあの猿飛佐助であった。佐助は自身の得物である大型手裏剣を二枚重ねてチェーンソーの要領で巨漢兵を真っ二つに切り裂いてマーキュリーを生還させたのだった。

 しかし佐助は一瞬マーキュリーと目が合っただけで、それ以外は何の言葉も交わす事無くそれどころか佐助は視線で「突っ立ってるだけなら、猿でもできるよ」とマーキュリーに冷たい視線を送っていた。そんな冷たい視線を一瞬ばかり向けられたセーラーマーキュリーは佐助の事を悪く思わず、彼が純粋にモンゴル軍の為に働いている故に冷徹な思考に至っているのだと、返り血で真っ赤に染まった衣装で複雑そうな表情を浮かべて立ち尽くす。

 

 

 と、ここで戦況に急展開が。

 何と敵側が基地の内壁を爆薬で破壊。しかも破壊された内壁は敵側の本陣と味方側の本陣を隔てていた為に、二つの本陣が真っ向から隣同士になってしまったのだ。

「って!! 敵の本陣も壁の向こうに!?」

 爆破された壁の向こう側が敵の本陣である事を知り、同時に自分たち双方の本拠地が壁を隔てて隣同士に存在していた事実を今ここで初めて知って愕然となる新世代型の井ノ原真人。

 そして案の定、爆破された壁から無数の異常者(ヒール)の暴徒達が雪崩れ込んできて今にも銃から火を噴く勢いであった。

「ヌッ! 裏切り者の三枝葉留佳(さいぐさはるか)二木佳奈多(ふたきかなた)……そして我らと同じ新世代型の二次元人達よ! 今こそ我らが手に手を取って新時代の幕を開かないか!?」

「なっ、何を言うているのだ、お主は……!」

 リーダー格の隊長に同じ新世代型二次元人同士で結託しようと言われ、裏切り者呼ばわりされた三枝葉留佳(さいぐさはるか)二木佳奈多(ふたきかなた)は唖然とし、本陣を仲間と共に防衛していた鬼龍院皐月は驚きを隠せなかった。

 そして隊長格の男は新世代型二次元人達にこう語った。

「今まで我ら新世代型二次元人は、初期の新世代型二次元人共が起こした異常者(ヒール)行動で未だに危険視され、監視の状態が続いている! そして今……図らずも同じ新世代型二次元人、足正義輝の現政奉還にて全ての秩序がリセットされ、自由となった! これを好機とし、私たち新世代型二次元人の為だけの未来を創造しようではないか!」

 未だ監視状態に置かれている自分ら新世代型二次元人は、足正義輝の現政奉還で無秩序と化した現状にて自分達にとって有益な未来を創造しようと呼びかけてきたのだ。

 しかしこれに本陣の新世代型二次元人達は真っ向から反発。

「黙れッ! 貴様ら、葉留佳や佳奈多にしてきた仕打ち、忘れたとは言わさねぇぞ!!」

「そもそもぼく達だけに有益な未来、創造して何の得があるっていうんだ。あなた達の自分勝手な妄想に巻き込まないでほしいな」

 過去の三枝葉留佳(さいぐさはるか)二木佳奈多(ふたきかなた)二人とその家族への仕打ちを未だに許せずにいる井ノ原真人、そして自分たち新世代型二次元人だけの未来に何の得があるのかと唖然と問い返す棗恭介。この二人の言葉を聞いた途端、主にアニメタウンを追われて所有財産を全て没収された三枝一族で構成された暴徒達は一気に怒りに身を投じてしまう。

「この野郎ッ」「ぶっ殺してやる!」

 もはや名士の名残すら感じられない荒々しい暴言と完全な逆恨みで急襲してくる暴徒達を前に、戦前に纏流子と鬼龍院皐月が片太刀バサミと縛斬で迎え撃ち、その後ろには栗山未来や本能字学園四天王の四人が待ち受けていた。

 

 と、その時だった。

 本陣に流れ込んでくる敵勢力を削る為に急いで駆け付けてきた猿飛佐助が、異常者(ヒール)の暴徒達と新世代型たちの前に割り入って主戦力と総指揮を執っている三枝一族に語り掛けてきた。

「三枝、一族だっけ? あんたら御伽噺とか好きかい?」

「ウルサイッ、その口車が煩わしいのだけは確かだがな」

 すると佐助は相手の三枝一族の返答もお構いなしに、淡々と昔話を語り始めた。

 

 昔々、日ノ本のとある山に無数の猿がおりました……

 

 里に降りては悪ふざけ、戯れること稚く……

 

「…………?」

 皆が猿飛佐助が語る昔話に耳を傾けながら呆然としていると、突然昔語りの佐助の口調が一変した。

 

 ある日の事、彼らはぷつりと姿を消した。……さて、何だと思う?

 

「何の話だがさっぱり解らねえが……そうだな、病か?」

 問い詰められた三枝一族の一人が病が原因ではないかと答えると、佐助は昔話の続きを語り出した。

 

 不思議に思った麓の民が踏み入ってみると……そこには無数の猿の屍があるばかり

 

「………………………………………………」

 それを聞いた途端、全員の顔から血の気が引いてきているのが実感できた。

 

 骸の海に一匹だけ、無傷の猿がおりまして……血塗れた頭をぺこりと下げた、とさ。

 

 そして最後に猿飛佐助はこう付け足して話を締め括った。

「彼の猿は……今一体どこで何をしてるんだろうな?」

 ぼやけていながらも明らかにされた猿飛佐助の過去に、昔話を聞いた暴徒の一人が思わず叫んだ。

「お、お前の本性は……忍の皮を被った忍か!」

 

 

[本性]

 

 己の過去の一部始終を語った猿飛佐助は、話を聞いて愕然とする新世代型二次元人達や聖龍隊の一般隊士の目の前で黙々と敵兵士を殲滅していった。

 二つの大型手裏剣をワイヤーで繋ぎ、それを巧みに操作して無残にも切り刻んでいく佐助の戦法に彼の戦い方を初見した新世代型たちは何か非常に恐ろしい光景を目撃したらしく、激しく恐れていた。

 次第に味方本拠地・本陣には敵兵の亡骸が次から次へと転がっていき、無数の惨殺死体が辺り一面に転がる顛末。

 大型手裏剣で顔面を抉られた様に切断され、内臓だけでなく目玉までも飛び出した死体。高速回転する手裏剣が腹部を切り裂き、裂傷した傷跡から大量の出血を流し続ける死体にと。見るも惨たらしい死体の山が築かれていった。

 そして遂に多くの敵兵が猿飛佐助に恐れをなして逃げ去り、本陣に残った敵勢力は数えるばかりになった時。

「テメェは得体が知れねえ……消えてもらうぜ!」

「そんじゃ御言葉に甘えて……あんたから消えてもらおうか」

「何っ? グハッ」

 過去を聞かされて、得体が知れないと罵声する三枝一族の一人に刃で突き刺されそうになるものの、男が狙っていた佐助は分身、本体は男の背後から既に機会を伺ってトドメを刺したのである。

 この時、ようやく本陣に敵の主力が流れ込んだと伝言されて駆け付けてきた聖龍隊が到着した。

「だ、大丈夫か! おまえ、ら……!!」

 大事ないかと訊ねようとする聖龍隊の奴良リクオが声をかけようとするが、現場の戦慄に他の仲間共々声を失った。それは目前の現状を見届けた新世代型二次元人達も同じであった。

 それは先ほど猿飛佐助が語ったかのような昔話と酷似していた。

 

 無数の猿の屍が目の前にあるばかり

 骸の海に一匹だけ、無傷の猿がおりまして……血塗れた頭をぺこりと下げしました、とさ。

 本陣を血の海と惨殺死体の山という戦慄の惨状を作り出した猿飛佐助は、自らが殺めた暴徒達の亡骸の上でぺこりとお辞儀をするとそのまま逃げ去った残党を追い始めた。

 

 その時だった。最後に基地を奪還する為に防衛してた陣大将が討ち取られ、防衛してた水門が解放された故に戦場の味方兵が続々と押し流されてしまった。

 これにより、全水門が開放されて本陣が無防備になってしまった。

「本拠地が完全に無防備だぞ!」

 防衛する水堀が枯渇してしまった事態にモンゴル軍は焦り出し、聖龍隊と赤塚組は速急に動き出し、本陣の新世代型二次元人達は動揺し出した。

 その頃の佐助はというと……

「撒いたか……主戦力の部隊相手に消耗は避けたいからな」

 佐助は影分身を多用して、主戦力の部隊を本陣から引き離し、戦況を動かしていた。

「狙いはあくまで大将首、今じゃすっかり地に堕ちた名士の名残さ」

 猿飛佐助の真の狙いは、暴徒の集団と化した異常者(ヒール)たちを束ねる既に地に堕ちた元名士の三枝一族の大将であった。

 進軍し続ける佐助は、向かってくる敵を全て薙ぎ倒し殲滅させていくが、その惨状は実に惨たらしいものであった。

「今回は確かに相手側に分が悪いのは目に見えている……だが、これは……」

 視野に広がる屍の山の数々に言葉を失くす聖龍隊。その臭気に本陣の隅で待機しているユキジも気が付いていた。

「この薄暗き気……佐助、まさかお前なのか?」

 そんな主君であり友であるシン・ユキジを始めとする皆々に佐助は心の奥から強く願った。

「大将! そしてHEADに聖龍隊、新世代型の連中にも言っとく……あんたらは俺様の様な猿になるなよ」

 ユキジにも、そして他の面々にも自分の様な残虐非道な猿の如き存在に成り果てるなと、佐助は強く思い描いた。

 そして迫る敵方の兵士を全て惨殺し終えた佐助は、全身相手の返り血塗れで暴徒の残党たちの前に立ちはだかった。

「あんたらは土足でモンゴルの地を荒らしたんだ……血塗れになって死んでも文句は無いよな」

 そして佐助は問答無用で残党達に襲い掛かった。

「俺様が暴れてるうちに立て直してくれよな!」

 佐助は自分が抗戦している間に陣形を立て直すよう味方兵に指示を飛ばす。

「テメェら! 俺らも賑やかに加勢してやろうぜ!」「オーーッス」

 単身で敵方を殲滅していく猿飛佐助の戦いぶりに赤塚組頭領の赤塚大作こと大将は、自分達も佐助の加勢に賑やかに加わろうと提案、これに配下の子分達も大声で賛同する。

 しかし赤塚組も佐助の許に加勢しに向かった矢先、当の佐助本人は「さて、そろそろ潜み続ける意味もないか……」と、影で地中を潜んでの攪乱攻撃や奇襲は既に無意味であると察して完全に全身を出現させて残党に猛進していく。

 そして残党が死守する残りの拠点を護る陣大将も佐助は秒殺して片付けてしまう。

 陣を奪われ、慌てふためく敵兵士には殲滅に持って来いの奥義『暴猿(あばれましら)の術』で身体を切り刻み、一掃していく。

 一掃し終えた佐助は次なる陣にも踏み込み、迷うことなく陣大将の許まで駆け付け『影舞の術』で陣大将も陣の周囲にいる敵兵も悉く片付けていった。

 『影舞の術』までも乱用して惨たらしく殲滅していく佐助を視界に捉えた敵方の主将は暴徒でもある兵士に告げた。

「全力で行け! 土産は奴の命で構わん」「承知ッス」

 育った環境だけは良い三枝一族に対し、庶民のしかもガラの悪い兵士が返答する。

 その間も佐助は自陣にした事で混乱する敵兵士たちを『暴猿(あばれましら)の術』で細切れにし、殲滅し続けていた。

「危機一髪な戦況を此処まで巻き返すとは……流石だ」

 最初は基地を奪還され、背水の陣というほど追い詰められていたにも関わらず不利だった戦況を巻き返した佐助の力量にメタルバードは改めて見直した。

 

 そのころ佐助は遂に敵方の残党と、指揮する三枝一族の破片を目前に対峙していた。

「嘲るつもりは全然無いけどね…………今の俺様には、あんた達が猿にしか見えないんだ」

「チッ、我々を猿如きと一緒にするとは……!」

 自分らを猿呼ばわりしてくる佐助の言動に三枝一族の老婆が怒りを露にする。すると佐助は予想外の発言を口から出した。

「どのくらい昔だったかな……敵だとか、死んでもいい奴がみんな猿に見えるのさ」

「おいおい……お祓いでも受けたらどうなんだ?」

 若い青年の三枝一族が苦笑しながら言うと、次の瞬間佐助は止めていた攻撃の手を再び動かし出した。

「ふっ、そんな目じゃ、さぞや生き難かったでしょう?」

「そうでもないよ、身を守るには使えたしな……」

 中年女性の三枝一族からは生き難いという事実を指摘するものの、佐助にとっては自己防衛には打って付けの目であったとの事。

 更に佐助は想い更けた面差しで思わず発した。

「人としか視えない奴も……それなりには居る」

 佐助は己が主、モウ・コダイとシン・ユキジの事を密かに思い返していたのだ。

 そして猿飛佐助は数えんばかりと相成った三枝一族にこう吐き捨てた。

「猿に人里は似合わない……結論はそれだけさ」

 人心を失った猿の如き人間には、人里は似合わないと結論付けると最後に佐助は鋭い睥睨で三枝一族に言い放った。

「さあお猿さん、あんたは如何に跳ね回る? 期待しないで見聞させてもらうよ」

 猿飛佐助がそう言った次の瞬間、佐助の全身から黒い靄の様な物体が浮かび上がり、それが佐助だけでなく彼の周辺を取り囲む三枝一族をも吞み込んだ。すると黒い靄は形を造形し、爪や牙をむく猿の群れへと姿を変えて三枝一族の肉体を切り裂き、攻撃してきた。

「うわ……うわああああああああぁぁああああ」

 三枝一族の断末魔が戦場に響き渡り、最後に現場に残されたのは三枝一族だった肉塊の山であった。

 

 

 こうしてほぼ全ての暴徒と化した異常者(ヒール)を全て惨殺して処理した猿飛佐助が、全ての命が死に絶えて沈黙の静寂が漂う戦場のそれも自らが殺めた死体の山の中で佇んでいた。

 忍としての任を全うする為、そして未だに未熟な我が主君にて旧友であるシン・ユキジの失態の後片付けの意味も込めて、佐助は基地を占領していた暴徒達を惨殺したのであった。

 と、佐助が一段落していたその時。彼の背後から殺気が感じられ、佐助は反射的に振り返り、己の前方を捉えた。すると目の前には巨漢の兵士が佐助に忍び寄って強力な一打を浴びせて倒そうとしてきたのだ。佐助はこの攻撃を弾いて避けて、最後には巨大な相手の武器と佐助の手裏剣二つが火花を散らして押し合っていた。

「ッ……!」

 技では自信のある佐助も、力業だけは押し合い続ける事は難しく、このままでは力負けして倒されてしまうのは目に見えていた。

「佐助さん!」

 そんな猿飛佐助の窮地を目撃し、急いで駆け付けようとする聖龍隊の鏑木楓らNEXTヒーローたち。だったが、それを阻むかの如く他の残党が彼らの足を止めてしまう。

(此処までか)そう思われ始めた、まさしくその瞬間であった。

「うおおりゃあぁあ!!」

 激しい雄叫びと共に槍を一突きにし、佐助と巨漢兵の激突を強引に引き離したるは迷走していたシン・ユキジ本人。

 ユキジは佐助と巨漢兵、お互いの武器に自身の槍を突撃させて強引に距離を置かせると、自身の得物である三又槍を前方に突き出して堂々と言い放った。

「某! この槍の他に、償いの方法なぞ知らぬぅああ!!」

 己の失態を償う方法は、己の武力しか知らぬと言い切るシン・ユキジ。

 そんな突然現れた自軍の大将に佐助は文句を言おうと近寄った。

「何しに来たんだ大将、引っ込んでろって言っているだろうが……」

「それはできぬ!」「! な、何だと……!?」

 迷い続ける限り戦には参戦するなと指摘する佐助の言い分に対し、反発するユキジ。これには佐助も驚かされた。

 そしてユキジは自らの得物である二本の三又槍を突き出したまま、力強く説き明かした。

「我が槍は、千の魂を護る為に振るい翳す為にある! だが佐助! お前の魂も……その千の魂に含まれている事を忘れるなぁっ!!」

「! この……っ、馬鹿野郎が……!」

 理を得ている言い分に付け足し、自らも守られるべき存在だと言われ失言してしまう佐助。

 そして二人は未だ反抗の顔色を浮かべる暴徒達を前に尻込みせず、力強く足を前へと踏み出して突っ込んでいった。

 灼熱の二槍、闇夜の手裏剣。二つの異なる武器が全ての残党である敵たちを一掃し、蹴散らしていった。

 

 

 かくしてモンゴル軍前線基地奪還作戦は成功したのであった。

 

 

[状勢]

 

 真紅の血の海広がる荒んだ惨劇の舞台と化したモンゴル軍基地奪還戦。

 敵の返り血を浴びて、己の衣装に血が付着した者たちはモンゴル兵の好意で拭き取りつつも休息をとっていた。

 新世代型二次元人達の方はというと、自分達と同じ新世代型である三枝一族がモンゴル軍基地を占拠した暴徒を従えていた事実に付け加え、飄々とした普段は明るい猿飛佐助からは想像できない残忍な殺戮の光景を目の当たりにして愕然としていた。

 その猿飛佐助は、一人皆々とは離れた地点の水浴び場で頭の天辺から足までにかかった敵の返り血を水で拭い落としていた。

 するとその時、新世代型二次元人達の共有感知が発動し、全身の返り血を水で拭う猿飛佐助の風景が頭の中に直接流れ込んできたのだ。

 と、そこへ。水浴び場で一人黙々と大量の返り血を洗い流していた猿飛佐助に声がかけられた。

「大変そうね」

 その声に体に付着した返り血を拭っていた佐助が振り返ると、視点の先には聖龍HEADが勢揃いしており、声をかけてきたミラーガールがいつになく気難しい顔を向けていた。

「あらま、ヤダわ♡ 一人で水浴びしているところを大勢で覗きに来るなんてハレンチなッ」

 毎度の事ながら、戦が終われば飄々とした気のいい明るい気性に戻っていた猿飛佐助はふざけ半分でオネエ口調で一人で黙々と返り血を拭い取っているのを摘発する。

 が、そんな佐助の言動に動じず、HEADのセーラーネプチューンが厳しい面差しで佐助に言った。

「まさかの皆殺し………………一応、敵ではなかったとはいえ背筋が凍り付いたわ」

 先ほどの戦場で基地を占拠していた暴徒達を一人残らず惨殺し殲滅した猿飛佐助の戦功に冷静沈着で簡単には動揺しない精神を兼ね備えたネプチューンすら背筋が凍て付いた思いをしたと告げる。

 すると佐助は、ほぼ粗方の全身の返り血を水で拭い落とし、上着のみを脱ぎ捨てると嫌味混じりな言動でHEADに言い返した。

「あらら、それ御宅が言っちゃう訳? ……その身体、どんだけ同族の血を浴びてきた事か」

 異常者(ヒール)と認定された二次元人を処分の名目で葬っている聖龍隊への当て付けだった。

 更に佐助は敵の返り血で真っ赤に染まった上着と、返り血を拭った手拭いを小桶に全て放り込むと、自然と聖龍HEADに己の実情を語り明かした。

「忍は道具、心なぞ要らぬ。そう教えられてきた……この地に足を運ぶまではな」

 従来、忍は主に仕える道具であり、人心など要らぬのが現実。だが佐助は、このモンゴルの地に足を踏み入れた時、いやモウ・コダイやシン・ユキジと接触した瞬間から何かが変わったのかもしれない。

 だが聖龍HEADは分かっていた。そんな忍という心無き道具だけの存在であった猿飛佐助が、今まさに再び心無き忍という道具に戻っていた現実に。事実、二年前の乱世では見られなかった佐助の戦法が今では殺伐としており、敵への容赦の無さも増大していたのだ。

 

 友の為、一軍を束ねる将となった旧友の為に、忍は再び心を捨てた。友ではない、正真正銘の……忍という心無き道具に戻り果ててまでも取り戻したい友との笑顔を取り返す為に。

 

 すると此処で佐助は、まるで自分を気遣ってくれている聖龍HEADの真意を忍ならではの洞察力で察したのか、HEADの中でも特に相手を気遣う面が目立つミラーガールに声をかける。

「まあ、安心しなさんな。いくら今の俺様でも……前のあんた達の大将に比べたら赤子同然だよ」

 佐助は前聖龍隊総長の小田原修司と今の人心を捨てた自分を比較しても、小田原修司の鬼畜さには到底及ばないと重い面差しで言った。

 更に佐助は立て続けに今度は自身と小田原修司を余計に比較し始めた。

「俺様には分かる……生まれながらに心を持つ事を許されなかった忍として生を受けた俺が、誰かからその心を渡される。その胸を焦がすほどの熱いモノを」

「………………………………」

「俺も小田原修司も生については全く同じだ。心を持てず、誰にも己を打ち明ける事ができなかった。そんな惨めな自分に手を差し伸べ、心という器を与えてもらった喜び。……だが小田原修司はスグにその、あんたらから貰った心を捨てて畜生へと成り下がった。今の俺が心の無い忍に戻ったのと同じ様にな」

 既に猿飛佐助は知っていた、いや周知されているのが当然なのだ。小田原修司は自分の出生の秘密も告白した自伝本を世界中に出版した事で、彼が愛情を感じられない発達障害者である事が世間に知られてしまってた。佐助は心を持つ事を許されずに育まれる忍同様、小田原修司も生まれながらに他愛ない愛情を感じられない心無き存在であった事。そして小田原修司は過去に早々に受け渡された心を捨てて残忍で鬼畜に、鬼へと変わった小田原修司と今の自分が全く同じである事を佐助はHEADに言い渡す。

「そんな小田原修司が背負ってきた二次元人の未来とか、そこまで重たいモンは背負う気なんぞ微塵もねぇが……そもそも重たいモン背負いすぎて鬼畜に成り過ぎたってのもどうかと思いますがな」

「貴方にだけは言われたくないわ。かつての修司さん同様、今は一時的とはいえ心を捨てて正真正銘の忍に戻った貴方には」

 様々な思念や理想を背負い過ぎた為に残忍極まりない鬼畜へと成り下がってしまった小田原修司を非難する猿飛佐助の言い分に、セーラーサターンが反論する。

 すると小田原修司の信念を知り過ぎている聖龍HEADに猿飛佐助は冷たい視線で反論した。

「そういう風にしたのは、何処のどなた方でしたっけ? ねえ」

「………………」

 小田原修司が心無き鬼へと変貌した切っ掛けは何処の誰かと返されたHEADは何も反論する事が出来なかった。小田原修司が鬼の様に残酷になったのは、全て二次元人を思っての事だからだ。

 更に佐助の問答は続いた。

「まあ、今ではあんたらも立派な畜生に成り果てているんですから仲良くしていきましょうよ」

「な、何ですって!」

 自分達も畜生だと言われ、怒り心頭のセーラーマーズが怒鳴ると佐助はその訳を説明し出した。

「あんた達も二年前の乱世で学んだ筈だ。迷い、躊躇い、戸惑い、動揺……そして何よりも人情ってのが最も戦いには不必要だっていうのが現実だという事に。敵に情けをかければ必ず手痛いしっぺ返しを喰らう事になるのは目に見えている。最終的にあんたらも、それを理解し受け入れたじゃないか。そう、今の俺様や鬼神の様にな」

 躊躇や動揺、何よりも人の情けこそが戦場では受け入れ難い現実であると学んだ聖龍HEADは、二年前の乱世で最終的に小田原修司と共に数多の敵を前に容赦なく斬り捨てて殲滅した戦歴を経ているのであった。

 そして最後に猿飛佐助は、血塗れの上着や返り血を拭くのに使った手拭いを突っ込んだ小桶を片脇に抱えると、その場から立ち去ろうとしたが。

「……でも、本当にあの鬼が今のあんたらを望んでいたのか?」

 去り際に佐助が言い放った一言がHEADの体に衝撃を走らせる。佐助はそのまま話し続けた。

「鬼はあんた達が余計な返り血を浴びないよう、それこそ心を鬼に変化させて鬼畜の……修羅の道を自ら選んだ訳なんだからな」

 友は自分達までもが人間相手に殺傷しない様にと、その立場を進んで代行していた訳だったが、最終的に小田原修司一人に全ての重荷を背負わせたくない想いに駆られたHEADも人間相手の敵に対しても容赦なく殺傷する様に至ってしまったのである。

「ま、もう遅いか。一度、身体に染み付いた血は……一生かかっても落ちる事は無いんだからね」

 この猿飛佐助の言葉に、聖龍HEADは否定する事ができず拳や奥歯に力を込めた。そして佐助の方は、これを最後にモンゴル軍基地内部へと姿を消していった。

 この時の会話の様子を事細かく頭に流れ込んで来てしまった為に周知してしまった新世代型二次元人達は、衝撃的な話に愕然としてしまってた。

 

 

 

 所と時は変わって。ここはモンゴル軍基地最深部、やや和風の御座所なる大広間へと新世代型達も含んで誘われていた。

 御座所内の襖は全て全開されており、大人数が一度に話ができる様にしてもらえてた。

 その御座所にて、本来は国将軍であるモウ・コダイが座する正面には将軍職を代理で勤めているシン・ユキジが。そのユキジと対面する形で鎮座するのはメタルバード率いる聖龍HEADを筆頭とした聖龍隊の中心メンバーと赤塚組幹部衆。そして最後に、その傍らには一か所に固まって心身ともに緊張感が張り詰めている新世代型二次元人達の姿が見受けられた。

「……此度の某の失態、誠に申し訳ありませんでした! その上、略奪された基地の奪還にも手を貸して頂き……このユキジ、感服至極にございまする」

 御座所正面にて頭を深々と下げて、額を地に擦り付けるほど平謝りを繰り返すユキジに聖龍隊総長メタルバードは申し返した。

「なに、別に構わねえよ。オレたち聖龍隊の本来の職はあくまで猛威を振るう異常者(ヒール)の鎮圧。……礼を言うべきはオレ達じゃなく、共に戦ってくれたモンゴルの兵士に忍、そして謝るなら怖がらせちまった其処の連中にだろ」

 メタルバードより指摘を受けたシン・ユキジは、座したまま向きを変えて傍らで聖龍隊とモンゴル国将軍代理の会談を謁見している新世代型二次元人達にも何度も謝罪を申し渡した。

「申し訳ありませぬ! 某が未熟な故に、新世代型の皆々様に末恐ろしい思いをさせてしまい……このユキジ、一生の不覚であります!」

 代理とはいえ一国の武力を一任される国将軍相手に平謝りを繰り返される新世代型達は、実に奇妙ながらも複雑な心境に浸る。

「も、もう良いんですよ。その、ユキジ……さん」

「怖い思いは、既にタイの方で色々と慣れちまってる。それにアンタ達が必死になって戦ってくれてた事も、十分理解しているさ。だからもう謝るなって」

「か、かたじけない……!」

 新世代型二次元人達の集団の手前にいた琴浦春香と真鍋義久からの言葉に、ユキジは強い感銘を受けた。

 と、その時。皆がシン・ユキジの謝罪を受け止めていると天井から何やら声が。

「まったく、謝るなら猿にもできるっての」「さ、佐助さん……」

 声の主はあの猿飛佐助。佐助はユキジの平謝りを天井から観察して敢えて冷たい言葉を発するが、それに対しミラーガールは悲しげな表情を浮かべた。

「何だい佐助、頭の上から俺らを見張ってんのかい?」

 赤塚大作が頭上すなわち天井からコソコソと自分達を監視しているのかと悠長そうに問うと、佐助は当たり前の様な口調で言い切った。

「でなきゃ牽制になんないでしょーーが」

「だ、だが佐助。聖龍隊の御武人方も赤塚組の方々も、某たちの加勢に付いてくれたではないか。それなのに……」

 天井からの監視を牽制と言い切る佐助は、その詳細を問い掛けてきたユキジに返した。

「今の聖龍隊とは正式にはまだ同盟していない……つまりは敵でも味方でもない相手。厄介なんだよね」

「そ、そうではあるが……」

 佐助の言い分にユキジは口を噤んでしまった。

「何だか今日はやけに態度が冷たいわね、あなた」

 聖龍HEADの龍咲海が今まで余りに目にしてきてない猿飛佐助の冷遇な態度や言動を本人に指摘すると、佐助は海たちHEADを横目で睨み付けながらハッキリ言った。

「そうだね。今日は久々に血を浴びて、本物の(ましら)に戻ったって感じだからね。何より今の自軍の状態じゃ、気楽な猿飛佐助はしばらくお休みしないとやってけないよ」

 久々に敵方の返り血を大量に浴びて(ましら)すなわち本物の忍という心無き殺戮と諜報を司る道具に戻れた感じだと語る佐助は、今まで聖龍隊に見せてきた気楽で明るい自分自身を封印する必要があると説いた。

 ここで猿飛佐助は現主君であるシン・ユキジ、更には聖龍隊と赤塚組だけでなく一般人でもある新世代型二次元人達の前で敢えて現在の情勢の流れに付いて言い伝えた。

「大将、今やこの現政奉還で二年前に名を挙げた多くの武将達が動きを見せ始めた。二年前の革命で政権が崩壊して再構築された中国は、新勢力として今この乱世を生き抜く術を必死で見出している。その他の中国各地の武将も自らが掲げた目的の為に動き出している……。無論、中国などのアジアだけでなくヨーロッパからもイギリス将軍が二年前同様に直々にアジアに足を運んで国益の為の戦いを展開しようって魂胆だ、あの狐が。そして赤塚大作、ここではウチの大将と区別付くように本名で呼ばせてもらう。国際連合総長の足正義輝が発足させた現政奉還の混乱で世界各地で猛威を振るっている異常者(ヒール)への速急な対応を望むマグマ―ド・岩田、そう赤犬が近々あんた達を含むセブンズ・ガードを国連軍本部に招集させるつもりらしい……あの赤犬の事だ、また徹底的に異常者(ヒール)を悪として根絶やしにする積りだろう」

「……………………」

 国連軍元帥赤犬の事を聞かされた聖龍HEADと赤塚組は険しい表情を顔に浮かべる中、佐助の話は続く。

「そしてアジア各国の情勢だが……武将や国の中には圧倒的な軍事力を持っているんじゃないかって話がチラついている賽の帝、あ、賽のってのは賽子(さいころ)の賽で要するに途方もない博打好きって事でな、この賽の帝にして剣豪将軍と呼ばれている新世代型二次元人の足正義輝の側に付いて現政奉還を乗り切ろうって輩も出没して来やがった。既にロシアは足正派に属しているし、イギリスも国益を考えて足正に着くかどうかを検討しているらしい。まっ、要するに敵対するかもしれねえ国や武将はこれからも続々と現れるって見当さ」

 無類の博打好きにして剣豪と名高き足正義輝側の立場に身を寄せる国や武将が今後も続々と出没する見当を猿飛佐助から聞かされ、聖龍隊と赤塚組はより一層面立ちを険しくさせ、渦中の人物足正義輝と同じ新世代型二次元人である面々は己が心中に靄を曇らせる。

 剣豪将軍 足正義輝についての現状を説いた猿飛佐助は、徐に顔をニュー・スターズとスター・ルーキーズに向けると彼らに意味深な表情で話し掛ける。

「そうそう、あんたらの元仲間……見限ったスター・コマンドーについての情報も仕入れたけど、聞くかい?」

「じゅ、ジュン達の!?」

「ジュン達は今どうしてるんだ! 勿体ぶらず、早く話してくれッ」

 既に猿飛佐助の耳にも入っているが、村田順一率いるスター・コマンドーは今や混沌と化していく現情勢に失望し、聖龍隊を離反していた。そのジュン達スター・コマンドーと身内柄の付き合いをしていたニュー・スターズに後輩として付き従ってきたスター・ルーキーズはジュン達のその後に付いて必死で気にかけていると、そこにメタルバードが強く説き伏せてきた。

「お前ら! ジュン達がどうしようが今のオレ達には関係ねえだろう。ジュン達はもう、オレらとは別々の道を行く決心を固めているんだからな」

「…………………………」

 メタルバードに説き伏せられ、黙り込んでしまうニュー・スターズとスター・ルーキーズの面々。彼らの残念そうな面立ちを拝見したセーラームーンはジュン達スター・コマンドーについての情報を語ろうとしてくれた猿飛佐助に慌てて話し掛ける。

「ま、まあさ! 取り敢えずジュン君たちが何をしているのかだけでも聞こうじゃない。佐助さん、話してください」

「まあね、お宅らとスター・コマンドーの間に亀裂が入っちゃって今はギクシャクしちゃっているのも解りますが……ま、聞かれたんで話して上げましょう」

 この猿飛佐助の言葉に、ニュー・スターズとスター・ルーキーズは残念そうな顔を一変させて顔を上げて猿飛佐助の話に耳を傾けた。

「村田順一……奴は、この現政奉還の煽りを受けて混乱している都市や国々を巡って自分達なりに鎮圧しに回ってる。そんな中であんたら、そう聖龍隊といつの日か対峙する云わば決戦の時に備えて自分達の勢力を広げようと努めているみたいだ。既に各地の武将や国々、中には異世界にスター・コマンドーの名高き部隊が派遣されて同盟の話を持ち掛けているって噂だ」

「オレらとの決戦に備えて、か……フ、成長しやがったな、あいつら」

 自分たち聖龍隊との決戦に備えて各地に同盟の話を持ち掛ける為に名高い部隊を派遣しているスター・コマンドーの現状を聞いて、メタルバードは鼻で笑いながらもジュン達の純粋な成長を微かに喜ぶ節が垣間見れた。

 そして最後に猿飛佐助は今まで自分が語った話に付け足す形で自らが掴んだ情報を締め括った。

「どっちにしろ、何処の国も武将も……更には異世界まで自分達の政権や国民を保持する為に画策しているのは確かだ。此処にいる俺たち全員だって、うかうかしてたらヤバい事になるぜ」

 この猿飛佐助からの情報を全て受け身で聴いていたシン・ユキジは真剣な面差しで徐に語り始めた。

「……二年前もそうだったが……敵味方で線を引かねば落ち着かない今の世が可笑しくなってしまっているのだ」

 敵や味方と判別しなければならない世界観が可笑しいと語るユキジ。

「お館様であれば、どのような相手であれ懐深く受け止められるであろう」

 己が主君にして師であるモウ・コダイならば如何なる人物であろうと懐深く受け入れる寛大な御方だと申し上げる。

「事あるごと、思わずにはおられぬ。病に倒れたのが、この身であったのなら」

 そのモウ・コダイに代わって自身が病の身に倒れれば、どれだけ気が休まるか。己の胸の内を曝け出すシン・ユキジの一言一句に誰もが複雑な心中に至る。

 そんなシン・ユキジに猿飛佐助が、またしても敢えて皆の前でユキジに公言する。

「大半の奴らが……今の大将に期待している、モンゴル軍が古のころ当時の日本から伝授されたという風林火山の覚悟を。その幻影を背負う覚悟ができているなら、頼むから幻滅させてくれるなよ」

 そういうと猿飛佐助は漆黒の闇へと体を変化させて姿を消し去った。

 

 軍の大将となったユキジの為に敢えて冷たい態度をとる猿飛佐助の言動に誰もが黙然となる中、モンゴル将軍代行のシン・ユキジが静寂に包まれた御座所に己の口から言葉が発せられた。

「と、ところで……バーンズ殿は今後、この新世代型二次元人の皆々様方を如何する御積りで」

 タイの生物兵器開発施設で保護した新世代型二次元人達を今後どうするのか訊ねられたメタルバードは、シン・ユキジの質問に答えた。

「オレ達は明日、北朝鮮を経由して韓国に向かう予定だ。一応、北朝鮮が今ではどうしているのか気になるしな。それに韓国でチョウセイの野郎に同盟を結ぶか声をかけてみようかとも思っているんだ。何より韓国の港には大型船を二隻呼んで寄港させているから、オレたち聖龍隊と新世代型達は其処で別々の船でアニメタウンに帰省しようと思っている」

 現政奉還の混乱で平和になった北の国を気にする余り、敢えて北の国を見て回った後に韓国まで向かう事。韓国で国将軍のチョウセイと同盟を結ばないかと訪問する事。そしてアニメタウンに向かう大型船を二隻、韓国の港に寄港させているので其処で別々にアニメタウンに帰省する事などをシン・ユキジに話すメタルバード。

「成程、委細承知仕った。ではアニメタウンに帰省した後は、如何するお積りで」

 更にシン・ユキジはメタルバードにアニメタウン帰省後の動きについても訊ねた。

「アニメタウンに帰省した後は、軍備を整えて再びアジアに赴く所存。そこで改めて各国の武将に同盟や協力を求めていく方針だ」

 軍備を整えた後は再びアジアの地に足を運び、改めて各国の武将達に同盟や協力を求めていく方針をシン・ユキジにメタルバードは言い伝えた。

 そしてメタルバードより聖龍隊の今後の方針を伝え聞いたシン・ユキジは座したまま方向を変えて、新世代型二次元人達に向かい合って申し渡した。

「では長らく話を続けてしまい、お疲れの事でしょう。貴殿らの休み処は既に配下の者に伝えて用意させてある故に、どうぞ今夜一晩はごゆるりとお休みくださいませ」

「は、はい、ありがとうございます……」

 シン・ユキジの計らいを快く受け止める新世代型二次元人の美都玲奈が礼を返す。

 

 

 こうして長い談話がようやく終了し、新世代型二次元人達はやっと疲労が溜まった心身を休ませる事ができるに至った。

 

 

[月下の修練]

 

 その日の晩、聖龍隊と赤塚組の上層部は互いに明日向かう独裁国家だった北の国への通行とその後の韓国軍との会談に向けての進行を着々と話し合っていた。

 HEADと赤塚組が談話しているその頃、どちら側でもない新世代型二次元人達はモンゴル政府の手厚い温情で夕食を済ませてもらい、準備してくれた客間で床に就いて就寝しようとしていた。

 だが彼らの眠気は一向に上昇せず、それどころか興奮したり不安に陥ったりなどで瞼が閉じられる事がなかった。

「…………眠れないですね」

「そりゃ、今日一日だけで色々あったもんな。国連軍の何とかカァチェンだっけ、アイツの残忍性というか、無機質な性格は異常だぜ」

 同室で床に就くものの皆と同じで眠れずにいる新世代型の直枝理樹が一言発すると、近くで同じく眠れずにいる真鍋義久が遭遇した国連軍の台湾将軍の異常なまでの無機質さを含めて、たった一日だけで色んな情景を目の当たりにして来たからこそ興奮や不安で眠れないのだと説く。

 理樹と真鍋に続いて他の男性達も語り合った。

「そうだな。いくら法で定められているとはいえ、余りにも残忍な扱いを受ける異常者(ヒール)と認定された者たち……そして、その排除法案に縛られる世界を少しでも変える為に聖龍隊と決別したスター・コマンドー。確かに、中には怪物や怪人に変身してしまう可能性があるとは聞いているが、あそこまで残酷に痛め付けなくても良いと思うが……」

 国家基準の法案で定められているとはいえ畜生以下の扱いを受け続ける異常者(ヒール)と認定された二次元人に哀れみを抱き、その排除法案に疑問を抱いたが為に聖龍隊と離反した村田順一らスター・コマンドーの情景を目撃したレイジ・アスナは皆と同じく衝撃を受け、半ば複雑な心境の中に淡い興奮も混じって眠気が吹き飛んでしまってた。

「あの冷苦って元大将のオッサンが言っていた事も気に障るぜ。現政奉還を起こした足正義輝とオレ達が同じ新世代型だからって、政府はオレ達を消すかもしれねえって……全く、フザケルな!」

「磯谷、それを愚痴っても意味がないだろ。排除法にしろ、新世代型にしろ、三次元人は未だテロリストへの恐怖心が根付いているから、テロリストやそれ以上に恐ろしい異常者(ヒール)に変化する可能性のある二次元人に対して非常に怖がっているんだから。ある意味、仕方のない事だよ」

 元国連軍大将、中国人の冷苦が語っていた「新世代型二次元人を消す」という事案に磯谷ゲンドウが表情を歪ませるが、それに元総理大臣の子息である東郷リクヤは排除法案や新世代型への応対の裏には、三次元人が未だテロへの根強い恐怖心に駆られており、テロリスト以上に恐ろしく感じられる異常者(ヒール)やそれに変化する二次元人に対して非常に恐れている事実を話して説き伏せる。

 男性陣の話は、異常者(ヒール)への対応からスター・コマンドーの離別そして冷苦からの指摘を経て、つい先刻目撃した猿飛佐助の残忍なまでの戦闘に移った。

「それにしても……まさかだったよな。あの気さくで明るい雰囲気の猿飛さんが、まさかあそこまで残忍な殺し方で敵を倒しちゃうなんて」

「アラタ、佐助さんは普段どんな様子だろうとあくまで忍、忍者なんだ。さっきも言っていただろ、忍は心を持たない道具。だから主君の為ならば如何なる手段も行えてしまう訳だ……」

「その猿飛佐助が属している、このモンゴル軍が聖龍隊と同盟を結ぶかどうか……いや、今や現政奉還の煽りを受けて様々な国や武将達が動き始めている。今後の世界情勢に目が離せないな」

 普段の飄々とした気質の猿飛佐助の意外な一面に衝撃を受け眠れない瀬名アラタに、星原ヒカルが如何に性格が良さそうに見えても結局は忍務の為なら冷徹になれる忍者なのだと返す。更に出雲ハルキは今後の聖龍隊とモンゴル軍の同盟を含んだ世界情勢を気にかけていた。

 と、その時。隣室の襖がいきなり開かれ、向こうから女子の声が男性側の部屋に。

「ちょっとあなた達! こっちだって興奮とか不安で眠れないのに、余計な事まで考えないでよ! これ以上、ムダに脳を使いたくありませんわ」

 男性側の部屋に怒鳴り声を轟かせた薙切えりなの怒りに幸平創真が呆れ顔で返事する。

「そっちこそ、さっきからイライラしているのが頭の中に入り込んで分かっちまうぜ。もうこの際、気楽にアニメタウンまでの旅行と思って流されて行こうじゃねえか。その方が面白そうだしよ」

「面白そうって……! 例え帰れたとしても、こんな奇人変人ばかりの人達の考えが勝手に頭の中に流れてしまう状況で、普段通りの生活なんて送れませんわッ」

 お互いに眠れない状況で、旅行感覚と割り切って身を委ねる気楽な考えの創真に反して、えりなは例え母国のアニメタウンに帰れたとしても同じ新世代型二次元人同士の思考が理解できてしまう状況の中で今まで通りの生活が送れる筈がないと不満をぶちまける。

 それもこれも、例の共有感知で現在共同している新世代型二次元人同士の思考が嫌でも理解されてしまい、それが興奮や不安の相乗効果となってしまい余計に眠れずに苛立ってしまっているのだった。

 自分の意思とは反して他人の心が解ってしまい、また自身の心境も悟られてしまう現状。まさしく己の心が全開の状態で晒し合っている状態なのである。

 

 するとその時、新世代型二次元人達の耳に何やら空を切るような音が部屋の外から聞こえて来た。

 その室外の襖の隙間から零れる月光から、確実に音の元が屋外から発せられているのは明白であった。

「なんだ? この音……」「音だけじゃない、何だか声も聞こえてくる……」

 宮沢謙吾に続いて、空を切る音だけでなく何者かの声も聞こえてくる事実を西園美魚が言葉で表す。

 絶える事のない音と声に、どうしても気になった新世代型達は襖を開き、屋外に出てみる事にした。

 屋外は草原をそのまま残した中庭と繋がっており、音と声はその中庭の中央から聞こえて来た。

 気になってしょうがない一同は、外履きに履き替えて中庭に出てみると其処には一人の人物が。

「やッ、トゥ! うぅむ……えいっ」

 其処には木製の槍二本を携え、一人で稽古をしているシン・ユキジの姿があった。中庭から聞こえて来た風を切る音は、ユキジが木製の槍を二本巧みに激しく振るい続ける音。そして声はユキジが槍を振るうと同時に発する掛け声そのものだった。

「ユキジさん!」

 夜は冷え込むモンゴルの高原地帯で一人淡々と稽古に励むユキジに驚き、琴浦春香が声をかける。

「うむ? ッ! これは新世代型の皆々様、どうされましたか? さては、某の稽古で目が覚めてしまわれたのでは……それなら申し訳ございませぬ」

「いっ、いえいえ。私達は元から眠れてなかったのでお気になさらず……ただ外でユキジ将軍の御声が聞こえたので、どうしたのかなと」

「将軍様こそ、こんな遅くに……それもかなり冷え込む夜中に武術の御稽古ですか?」

 新世代型のタケシとリン子のイオリ夫妻がユキジに訊ねると、ユキジは激しい一人稽古をしていたのか額から汗を流しながら真剣な真顔で申し開いた。

「うむ! 某、今回の失態で如何に己が未熟で不甲斐ないかが解りました。ですが、拙者には兵法も戦術も余り得意ではなく、国政に関してもまだまだ不服な点が多いのが現状……責めて己の中の迷いを打ち消し、少しでもお館様の様な武人に近づく為に、こうして修練しておりますのです!」

「そうでしたか、それは大変ですね」

 今回の基地を空けていた為に略奪された失態にて己の未熟さを一心に痛感したシン・ユキジは、病身の師モウ・コダイと違い兵法も国政も未だ不徳な点が目立ち、責めて武人としての己の技量を少しでも師であるモウ・コダイに近付けようと、心身ともに疲労困憊しているというのに夜遅くまで一人淡々と修練に浸っていたという。そんなユキジの心境を共有感知で心底察して新世代型の野々原ゆず子は労いの一言をかけてあげる。

 更にユキジは夕暮れ時の基地奪還戦にかけて今さっきの修練で疲労が蓄積されている身の上だというのに、新世代型達に再び謝罪してきた。

「それよりも新世代型の皆々様、某の未熟……不甲斐なさで此度は真に恐ろしい思いを味合わせてしまい、誠に申し訳ない候!」

「良いんですって、誰にでも失敗はあるんですから。それより……此方こそ、私達の親族がまさかモンゴル軍の戦前基地を略奪してしまい、本当にすいませんでした」

 今回の自分の失態で恐ろしい戦況を晒してしまった事態を再び心より詫び、頭を下げるユキジ。そんなユキジに自分達の血筋に当たる三枝一族の愚行を詫び返す三枝葉留佳と二木佳奈多の両名。しかしユキジは普段の凛々しい顔付きで葉留佳と佳奈多の二人に申し返した。

「いや、某は詳しい事情は知らない故……上手くは言えぬが、お二方もあの一族には苦労を背負わされていたのであろう。ならば、そう気負いしないでくだされ」

 詳細を知らないユキジであるが、二人の様子から彼女達も三枝一族に苦しめられていた身の上である事を察し、葉留佳と佳奈多の二人に自分自身を責めないよう申し開いた。

 

 と、シン・ユキジと新世代型二次元人達が話し合っていたその時、彼らの会話を聞き付けてか聖龍HEADと赤塚組の面々も中庭にやってきた。

「おい、どうしたんだお前ら? こんな夜更けに……月見でも洒落ているのかい?」

「ば、バーンズ殿……! それにHEADの皆様方に赤塚組の御武人方までも」

 新世代型達に続いて自分の修練の場にやってきたHEADと赤塚組に驚愕するユキジ。毅然とした聖龍HEADを目の当たりにして動揺するユキジを見て、赤塚大作がユキジに訊いてみた。

「今日はどうしたんだよユキジ。たった一回の失敗でへこたれやがって」

「た、たった一回とは聞き捨てならない! 某はもう、失敗を……しくじってはいかぬのだ」

 前線基地を空けた一回の失態で挫けてしまうユキジを見て気になった大将が問うと、自分は一回の失敗もできない身上だと強く突っ撥ね返すユキジの言動に一驚してしまう一同。

 するとユキジは今の自分と違い、常に毅然とした態度を保持している聖龍HEADと大将たち赤塚組に己が胸の内を明かした。

「あ、赤塚殿、それにバーンズ殿。今の某は正直に申し上げますと、その………………水底の焔なのです」

「水底の、ほむら……?」

 バーンズを始め、その他全員がシン・ユキジの一言に唖然としてしまった。

 すると張り詰めていた糸が切れたかの如く、ユキジはその場に両膝を着いて心中の苦悩を皆の前で赤裸々に語り始めた。

「夢に、見るのでござる。お館様が病に倒れてから、今に至るまで……。某自身が明光も届かない、闇夜の如き水底で右も左も分からず、ただただ悩み苦しみ……己が、そしてこのモンゴル軍が向かうべき道が見えないのでござる! それでも某は、何も見えない水底から熱き焔で皆を……某の為に尽くしてくれる佐助やモンゴル軍の兵士の期待に応える為にも道を切り拓きたいのでござるッ!」

 闇夜の様に光の届かない水底で、ただただもがき苦しむばかりの心情を語り明かすシン・ユキジ。漆黒の闇夜を照らす月の明光の下、己が苦悶を打ち明けて自分が進むべき道を自問自答しながらも絶える事のない力強い面魂を、バーンズは、そして聖龍HEADは凛と直視し続けた。

 そして、今の自分が水底の焔の如く大勢を従え、導くには程遠い存在であると主張するシン・ユキジの一言一句を聴き入れたバーンズは変わらぬ毅然とした態度で言った。

「己の未熟さに自覚があるなら結構。どうも今のお前は自信が持ててないみたいだが、そんなに自分を信じられないなら……あんたについていってるモンゴル軍の兵士を、佐助は信じられないのか」

「? 佐助や軍の皆を疑った事などあるものか」

「あーーええとうん、そうだよな」

 人を疑うという事を余り知らぬユキジの真顔での返答に、バーンズ本人はもちろんその場の全員が呆気に取られてしまう。

 しかし皆がユキジの返答に呆気に取られているのも尻目に、ユキジ本人は今の自分自身の境地を明かす。

「だが事実、今の某は白昼にすら水底の夢に囚われ続けるだろう。モンゴルの命運を決めるその時、今の某に全てを決められる意思が得られるだろうか」

 焔、すなわち炎の如き意思で人々を導くシン・ユキジの信念。だが、その意思も水底の白昼夢にてかき消されてしまう。そんな自分にモンゴルという一国の命運を委ねられるほどの決意があるのだろうかと意中の苦悩と自問自答を包み隠さず打ち明かすシン・ユキジは、次に赤塚組の大将に向かって唐突に真剣な顔で訊いた。

「ときに大将殿。貴殿は、聖龍隊の輝きを何と見る」「…………………………」

 常に己の信念の下、固い結束で一枚岩を築いている聖龍隊の隊士一人一人が持つ輝きを放つ闘志について大将に訊ねるユキジ。すると大将は真顔で無数の星々が見渡せる夜空を見上げながら答えた。

「ありゃあ、命の灯さ」「!? 命の……」

 輝きを感じられる聖龍隊の隊士の信念や意思を『命の灯』と説く大将の言葉に目を丸くするユキジ。そんなユキジに大将は自分なりの思考を言い伝えた。

「俺は細けえこと考えんのが苦手だからよう、じっくり時間をかけて船首を向けるべき海原を見極めてやらねえとな」

「………………………………」

「できる事をやるしかねえ……あいつらの供養の為にも」

 供養の為に。この大将の一言にシン・ユキジが胸を強く痛めているのを新世代型二次元人達は共有感知で共感していた。二年前、敵の謀略によって殺戮された仲間達の弔い。

 だが同時にシン・ユキジは悟っていた。死者は救われなどしない、正者は癒されなどしない。あとに残るのは守り切れなかった後悔と懺悔を忘れ得ぬ日々のみ。

 と、ここで大将の話を聞いて場の空気が重くなっているのを察したバーンズが憂悶するユキジを見兼ねて、ちょっとばかしの助言を伝えた。

「ま、まあ、そうだな。今のお前には決めなきゃならない事、考えなきゃいけない事が山積みだ。いくら御得意の武術でも、そこまでは頭が頭が回らないだろうしな」

 そういうとバーンズは助言を伝え始めた。

「戦場においては個々の強さなど差して重要じゃない。味方と息を合わせる方が余程大事だ」

「そっ、そう片付けられてしまっては……拙者の立つ瀬がございませぬ」

 戦法の理を告げられ、何も言い返せないユキジ。するとバーンズに続いて笑顔のミラーガールがユキジを激励するかの様に訴え始める。

「忘れたの? あなたのお館様……モウ・コダイがあなた達に示してくれたものを。力もそう、技もそう、だけど真に託されたのは万物を焦がす熱き心じゃなかったの」

「! …………」

 かつて師であるモウ・コダイからの教えを思い返されたシン・ユキジは愕然するが、そんな彼にミラーガールは更に強く伝えた。

「その心こそ、修練だけじゃ得られない天下に誇れるモンゴル軍の武器じゃないの!」

 バーンズ、そしてミラーガールの言葉でシン・ユキジの思考が少しばかし変化を生じたのを新世代型達はまたしても感じ取った。

 力など、不足であれば鍛えればよいだけのこと。だが、心は……

 ユキジは続けて、己が心中の中に潜めている想いを告白した。

「某は、お館様が愛されるこのモンゴルの地が好きだ。この地に住まう者達が好きだ」

 すると今まで堪えていたものが噴き出したのか、ユキジは跪いて己が苦悶を打ち明けた。

「好きで、好きで堪らないのだ」

 遂には涙を目に浮かべ出すシン・ユキジの様子にその場の全員の心が微弱ながらも痛みが伴った。

 そしてアジアの武将では好戦的な方に捉えられているユキジの口から思わぬ言葉が。

「可能な限り戦は避けたい」

 自分を信じて付いてきてくれるモンゴル軍の兵士、そして何よりもモンゴルの民を護る為に出来得る限りの戦闘は避けたいと申し出したユキジの言葉に、夕暮れ時の戦いで見られた好戦的で戦鬼の様な風貌から一転、命を保守する側に回らなければと考えるユキジの思考が激流の如く新世代型達の脳内に雪崩れ込んでくる。

 そんな己を捨ててまで母国を護ろうとするユキジの言動を目の当たりにしたジュピターキッドが、ユキジに歩み寄ると大自然の如く力強くも優しく言い聞かせ始めた。

「……良いかい。木はたくさんの光を浴びて、たくさんの雨に打たれて、根を広げ枝葉を伸ばす。大きく、大きく、育つほど、たくさんの鳥が羽を休める事ができるようにね」

「………………」

「君は、そんな雨風を避けて成長した草木が強くなると思うかい? 本当の自分から目を背けず、自分自身の意思と足で動かなければ国という大木は護る事も成長する事も止まってしまう」

 ジュピターキッドの語りにユキジは民を、兵を、そして何よりも国を護りながら真の自分と向き合い、自らと格闘しなければならない事実を学び得る。

 それにはまず耐える戦。国を護り、人民を護り人々に平穏な日々を与えていく己の責務を遂行するには、如何なる事態にも対抗できる耐え凌ぐ戦を知る必要があると。

「お館様が申しておった。人は城、人は石垣、人は堀……人は国なのだと。だが某には人を削る戦しかできぬ」

 己の迷いが次第に薄明となり、悩みが徐々に解消されていくユキジの真意を新世代型達は感じ取り、少しばかり安堵できた。だがユキジの迷いは消えてはいなかった。戦場をただただ只管に突っ切る戦い方しかしてこなかった自分は、無駄に兵力を消耗させてしまう、いわば人材を使い捨てる戦いしかして来なかった。モウ・コダイの様に、兵士一人一人の事を考えて戦う兵法をユキジはまだ学んでいなかった。

 そんなユキジの迷いを、新世代型達の共有感知無しでも容易く察したバーンズは軽くため息をつくと、やや斜め上に顔を向けて叫んだ。

「おぉい、お前達! 覗いているのは分かっているから、こっちに来いや」

 突然誰かを呼び出すバーンズの行動にその場の全員はきょとんとしてしまう。

 すると、皆の目の前にニュー・スターズとスター・ルーキーズの面々が姿を見せたのだ。

「あ! フロート」「ミラールちゃんまで……」

 目の前に姿を見せたフロートとミラールを筆頭としたニュー・スターズとスター・ルーキーズの面々が現れた事にHEADの堂本海人と七海るちあの二人だけでなく、バーンズ以外の全員が一驚した。

「み、みんな揃ってどうしたのよ? 私達みたいに、ユキジと新世代型たちのやり取りを聞き付けてやって来たって感じじゃなさそうだし……」

 ニュー・スターズとスター・ルーキーズの隊士が新人達も加えて勢揃いしている現状に目を丸くして驚くHEADのウォーターフェアリーの言葉に対し、ミラールとフロートは気まずい雰囲気で受け返した。

「い、いえね、その…………私達も今日の戦いで疲れていた、けど反省会も踏まえて夜風に当たっていたのよ」

「お、オレっちらも同じッスよ。今日は月が出て絶好の月見日和なもんで、そんで月見がてら夜風にと……」

 所々途切れ途切れで語るミラールと居心地の悪そうなフロートの言い分、そして彼らの背後で顔を背けているニュー・スターズとスター・ルーキーズの面々を観察して、経験豊富なキング・エンディミオンが二組の総合部隊に物申した。

「……お前達、そう言いながら結局はジュンの事を気に懸けているんだろ。言わなくても、顔にそう書いてあるよ」

 事実を指摘され、身を震わせる二組。自分たち聖龍隊と離反した先輩や身内に当たる総合部隊スター・コマンドー、その筆頭である村田順一ら隊士達をニュー・スターズとルーキーズはずっと気に懸けていたのだ。

 そして、以前にジュン達は自分の意思で離反した事から考える必要は無いと強く釘を刺していたバーンズだったが、凍て付くモンゴルの夜風に当たりながらも月明かりの下ジュン達を思い続ける二組に対して改めてユキジに声をかける。

「ほら、ユキジ。コイツらを見てみろ。コイツらだって自問自答を繰り返して、今でも此処にいてくれている。自分達はどうすればいいか、この先なにをしたらいいのかってな」

 自分達とは決別したスター・コマンドーの事を思い続けながらも自問自答を心中で繰り返し、自分達の今後について思慮深く考え苦悩しながらも聖龍隊に在留する二組の総合部隊を指して、バーンズはシン・ユキジに自問自答と苦悩に喘ぎながらも黙って座するニュー・スターズとルーキーズの忍耐について説こうとする。

 しかしユキジは未だ水底の焔として激しく燃え上がる意思が揺らいでいた。このユキジの心中を察したバーンズは一件を案じた。

「今のお前には何を言っても……何を説教しても大して効果がなさそうだ。やはりいつものお前さんらしく、武術で己の中の苦悩と向き合うしかないだろう」

 このバーンズの提案にユキジもその他の一同も一驚した。修練による真剣勝負で自身の中の苦悩と向き合うのがユキジにとって得策だとバーンズは講じたのだ。

「そうだな……今のお前じゃ、ルーキーズの新人共と戦うのも色々と苦しいだろうし……そんなら、新世代型の連中と一戦組んでみたらどうだ?」

「な、なんと! 某、か弱き女子と組手するのは、いささか抵抗が……」

 そしてバーンズは今のシン・ユキジではルーキーズの新人達と戦い合うのもレベルが高すぎると考え、あろう事か一般人である新世代型二次元人の戦闘タイプと一戦交えてみたらと提案する。が、これにユキジはか弱き女子と組手すなわち修練で命までは奪い合わないとはいえ、か弱い女子と戦うのは抵抗を感じると拒む。

 するとこのユキジの発言を聞いて、新世代型の戦闘タイプ鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)が今や貧弱な意思に成り果ててしまったユキジに対して睨み付けながら言い放つ。

「なに? 我々が、か弱いだと……! その言葉、そっくりそのまま訂正してもらいたい!」

「し、しかし……今の某では、そなた等の露出した、その風貌を容易に傷付けるのには抵抗がある上、その……何と申せばいいか、その…………直視できませぬゆえ」

 自分達をか弱いと言い付けるユキジの発言に対して癪に障った皐月が強く訂正を願い出ると、ユキジは訂正以前に皐月や流子達の曝け出された戦闘スタイルを直視できないと顔を真っ赤にして告白する。

 すると此処でユキジのやる気を引き出そうと、纏流子がユキジに申し出る。

「アタイ達はあの戦いの中でも……いいや! 今までだって激しい戦いを乗り越えてきた、小っ恥ずかしいが戦友みたいなもんさ。気にしないで存分にアンタの二刀流の槍を受けさせてくれよ」

「な、なんと……! あの混戦の最中に暴徒達と真っ向から衝突して無事であったとは……このユキジ、気付きませんでした」

「それも今のお前さんの欠点だな、自分の周りってのを見ていない。要するに把握し切れてないな、こりゃ」

 流子は自分を含むこの場の新世代型二次元人が同じ苦境を乗り越えてきた、今では恥ずかしながらも皆が戦友の様な間柄である故に真剣での戦いに臆しないからユキジの二刀流の槍捌きをもう一度披露してみてくれと嘆願する。これを聞いてユキジは夕暮れ時の暴徒と化した異常者(ヒール)達との混戦にも生き残れていたのかと今ごろ気付き、心底感服。このユキジの言動にバーンズは自らの周囲を把握し切れてないのも新総大将シン・ユキジの欠点だなと説く。

 そしてバーンズに手招きされるがまま、新世代型の纏流子/鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)、そして栗山未来の三人が前に出てユキジと一戦交える事と相成った。

「少しハンデだ、ユキジの方が戦歴も長い方だしな。おい皐月、流子と喧嘩せず息を合わせてユキジに自分の実力を見せ付けてやれ、もちろん流子もな」

「心得た!」「もちろん!」

 三対一という状況は、戦歴の長いユキジへのハンデだと言うバーンズは、いつも喧嘩ばかりしているイメージの流子と皐月に喧嘩せず息を合わせた戦いでユキジに自分達の実力を見せ付けてやれと言い聞かせる。これに皐月と流子は威勢よく返答する。

「未来! これはお前さん自身の成長のためでもある。戦いとは常に相手ではなく己の中の弱さと向き合って対峙するのが本流だ。お前も躊躇わず、本気でユキジに斬りかかって行けっ。なあに、ユキジは昔から六爪流の遣い手と激しくぶつかっていた程だ、お前さんの血の刃ぐらい訳ないから安心しろ」

「は、はいっ」

 皐月と流子に息を合わせて戦うよう指示したバーンズは、次に時おり戦いに躊躇いを見せてしまう栗山未来にも、本気でユキジに斬りかかって行けと指摘。これに未来は未だ躊躇いが若干ある中でも返答した。

 

「それじゃ、見合って見合って……」

 バーンズの合図を待ち、シン・ユキジと纏流子/鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)/栗山未来の三人は対峙する。ユキジの方も本気で意中の迷いを打ち消すため、あえて真剣の夕暮れ時の戦いで使用していた三叉槍を二本両手に携えて三人の女子が迫るのを待ち続ける。

 その様子を聖龍隊、赤塚組、そして残りの新世代型二次元人たちが月明かりの下見守る。

 そして……

「始めッ」

 バーンズの合図である腕が振り下ろされ、修練試合が開始された。

「うおおおおおおおおぉぉおお……ッ!」

 いつもの如く、烈火のごとく猪突猛進に突っ込んできたユキジに三人はそれぞれ己の武器を手に携え、臨戦態勢に入る。

 まずユキジが槍で攻撃したのは、戦いに躊躇いを感じて余り戦意を感じられなかった栗山未来であった。ユキジは未来に向かって三叉槍を二本振り付けて切り裂こうとするが、未来は片手から出血させた血を凝固させてユキジの槍での攻撃を防ぐ。

「な、なんと! 己の血で刃を形成する能力者とは……!」「………………」

 自身の血で武器を形成する能力者だと知って驚くユキジに反し、未来はこの能力ゆえに周囲から異質な存在として扱われてきた事を思い返していた。

「お、おい! そんな事で驚くんじゃねェよ。アタイらの方が……」

 共有感知で未来の胸の苦しみを感じ取った流子は、未来ではなく自分達の戦闘スタイルや武器・容姿などにユキジの意思を向けさせようとする。

 だが「素晴らしい! これもまた、新世代の時代を生き抜く二次元人の能力なのでござるな!」とユキジは栗山未来の能力に対して異端な目で見ず、それどころか新世代型二次元人を賞賛する。

「わっ、私は確かに普通ではありません……」

 突然のユキジの賞賛の言葉に、未来は自らが普通ではないと告白する。この時の彼女の心痛は新世代型全員に伝わっていた。

 だが「? 何を申されるのですか? そもそも二次元人という時点で普通ではないではござらぬか」とユキジは真顔で申し開いた。

 このユキジの発言に極普通の新世代型二次元人たちは愕然とした。三次元人にとって、二次元人である時点で既に普通の存在ではないと言われ、能力を持たない二次元人たちは改めて衝撃を受ける。

 しかし衝撃を受ける新世代型達を尻目に、シン・ユキジは自分と対峙する栗山未来や纏流子そして鬼龍院皐月(きりゅういんさつき)に開き切った。

「このユキジ、一国を担う身の上、己の能力を誰かの為に使い、その者を護る為に戦い続ける二次元人に畏敬の念を発しております」

「畏敬の、念……」

 自分たち二次元人に畏敬の念を抱くと口にするユキジの発言に未来たちは唖然とする中、ユキジは更に申し続けた。

「かつての鬼神、小田原修司殿も同じでありました。火を操り、水を潤わせ、氷で凍て付かせ……ありとあらゆる様々な能力で人命を、いいえ、人心を御救いしてきた二次元人の心根、感服至極にございまする!」

「………………」

 ユキジが発する一言一句に皆が呆然とする中、ユキジの口は留まる事が無かった。

「そもそも己の血を固める程度の能力で、このユキジは驚きはしませんぞ! 二年前、このアジアの乱世で腕を振るった多くの名高い二次元人たちに比べれば其の方ら三名の技量や能力などまだまだ! ……何よりも二年前、未来殿の様に己の血を固めて武器として用いる少女が聖龍隊には居りました。風の噂では、今では既に戦死してしまっているとの事で……」

 二年前の乱世で腕を振るった二次元人たちに比べたらまだまだの技量だと言い切るユキジは、更に二年前の乱世で活躍した隊士の中に未来同様、己の血を凝固させて武器として用いた少女がいたが、風の噂で今は過去の人に成り果てているとの事だという。このユキジの台詞を聞いて、ニュー・スターズのマカ=アルバーンは人知れず何処か悲しげな表情を浮かべた。

 そして此処でユキジが一気に本気になった。己が振るう二本の槍を、地上を照らす月光に負けず劣らない紅蓮の炎を纏わせた。

 振るっていた二本の三叉槍が紅蓮の炎を纏ったのを目の当たりにした新世代型達が驚愕していると、ユキジは真顔で、重い口調で徐に語り始めた。

「某の槍が纏うこの炎も、所詮はこの槍自身が某の意思に反応して燃え盛っているだけで拙者自身の力量ではござらぬ。拙者ら、三次元人はそなたらの様に能力を用いて護るべきものを護る事ができぬ性分なのだ……」

 紅蓮の炎を纏うのも、所詮は異世界の鉱物などで作られた槍から発せられるもので己自身の力量ではないと語るユキジの言動には、何処か残念そうな物悲しそうな雰囲気が漂っていた。

 だが一瞬落ち込んだユキジの戦意を奮い立たせようと、ユキジの死角から声がかけられた。

「コラッ、アタイ達がいるのを忘れるんじゃない!」と死角から纏流子が片太刀バサミでユキジを真正面から斬りかかりに行く。ユキジはこれを槍で防ぐと一旦後方に退く。

 が、戦意を失い掛けたユキジに猛攻を仕掛けたのは流子だけではなかった。

「戦意を失うな! 貴様は、それでも一国を任された国将軍ではないのか!? 代理など関係ない、己に与えられた責務一つすら満足に果たせないとでも言うのか!」

「ぐっ! そ、それは……」

 皐月に真意を衝かれたユキジは激しく動揺するが、そんなユキジに皐月の猛攻は留まる事を知らなかった。

「貴様……その焔はまやかしか! 水底でもがき苦しみ続けながらも、まだその焔は消えてはいないんだろう! だったら己が果たすべき役割を果たし、自分を信じて付いて来てくれる者たちの為にこれからも精進しなければならないのは明白であろうが!!」

「!!」

 二本の三叉槍から発せられる焔は偽りで、水底でもがき苦しみ続ける炎は水中でも未だ消滅していないという事は己の戦意も失われていない筈だと指摘する皐月は、偽りでない消え果てない焔の如き意思で自分を信じてくれる者たちの為にこれからも日々精進させなければならないと告げる。この皐月の言動にユキジは目を覚まされる衝撃を受ける。

「ぬぅおおぉぉおおお……!!」

 意地でも水底から這い上がる勢いで己の中の戦意を奮い立たせようとするシン・ユキジは、己の中の煩悩を断つ勢いで眼前の纏流子と栗山未来に三叉槍で突撃した。

「うおりゃあああああぁあああ!!」

 その後もユキジは未来に続いて流子と皐月にも果敢に槍を振るい、攻め続ける。

 今すぐ手に入れたいモノも直線状に存在せずとも、それを欲し続け、無我夢中で抗い続ける。

 己を駆り立てる闘志も焦れ合えば、痛みもない明日だけが、この胸を騒がせる。

 流子の片太刀バサミと皐月の縛斬を槍で弾き返すユキジの想いは瞬を駆け抜けて、紅蓮の碑を描く。

 三人とユキジの戦いは誰の目にも焼き付く紅蓮の炎は、闇夜の月光をも負かす程の煌めきを仄めかし天をも焦がす勢いで攻め続ける。

 ユキジは焦っていた。饒舌(じょうぜつ)な危機感に苛まれ、蒼穹の風邪を誘う心地であった。

 しかし迷いや苛立ちを心中に抱くシン・ユキジの魂は、まさしく研ぎ澄まされた生命の如く赤々と彼の眸に潜んでいた。

 

 月下の宴の如き戦ぶりを披露する四人は月明かりの下、躍動感溢れる闘志をぶつけ合う。

 そしてシン・ユキジの二槍の三又槍と三人の刃が空中で激突。凄まじい衝撃で生じた光で観戦してた新世代型達は思わず目を瞑ってしまった。

 四人の刃が激突し、三つの得物が空を舞う音が皆の耳に届く。

 瞼を開けてみれば、ユキジの三又槍は元より、流子の片太刀バサミと皐月の縛斬も弾き返され、栗山未来の血の刃も四つの得物の激突による凄まじい衝撃で凝固していた血液が散り散りに散ってしまい消滅してしまってた。

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

 両手の三又槍を弾かれても、己が眼に闘志を燃やすシン・ユキジの眼力に流子と皐月と未来の三人は対峙しながらも身動き一つできなかった。

 だが次の瞬間、ユキジは両膝と両手を地に着けて失然となった。

「其方らの事、このユキジ……生涯忘れ得ぬぞ」

 この言葉に、皐月/流子/未来の三人もユキジの実力を身をもって知り、四人は互いの力量を真に認め合う。

 この時、シン・ユキジは三人だけでなく新世代型二次元人という種そのものを改めて認め抜いていた。

 そんなユキジにバーンズが激励をかける。

「自分を非力だと思うなよ。お前がそれだけ考えている事が必ずいつか何かの力になる。「何も出来ない」なんて事は絶対にない」

 己を非力と捉えず、いづれ己が考え思い描く思想が何かを成し遂げる信念という名の力いなる、「何も出来ない」なんて事は決してないとユキジを激励するバーンズの言葉に、シン・ユキジは大量の汗を搔きながら躍動感溢れる戦ぶりを終えて心身ともにスッキリした様子であった。

 

 

 こうして月下の修練は幕を下ろしたのであった。

 

 

[這い上がり始めた水底の焔]

 

 一晩の月下での修練を終えて、ようやく床に就いた面々。そして一夜が明け、全員がモンゴル軍が準備してくれた朝食を済ませて身支度を整えた後に出発の時を迎えようとしていた。

「ユキジ、世話になったな」

「なんの! バーンズ殿らも韓国までの道のり、くれぐれも御用心の程を」

 ユキジに一晩の世話の礼を述べるバーンズ。それに反してユキジは昨日の迷走していた面持ちとは正反対の力強い面差しでバーンズ達一行の旅の行く末を案じた。

 

 一方で昨晩はただでさえ眠れなかったのに加え、流れとはいえユキジと一戦交える事になった新世代型二次元人達は目の下に若干ながらのクマを浮かべてやや疲れが残っている状態であった。

 そんな新世代型二次元人達にユキジは歩み寄り、大きな地声で声をかける。

「新世代の二次元人の方々ぁ!!」

「っ、ゆ、ユキジ将軍……(もう少しボリュームを下げてくれ)」

 活気溢れる地声で声をかけるユキジに反して、新世代型の真鍋義久たちは寝不足なのもあってユキジの声量をもう少し低くして声をかけてほしいと心から思う。

 しかし、そんな新世代型二次元人達の思いも空しく、ユキジは元気のいい活気に満ちた大きな地声で新世代型二次元人達に語り掛け始めた。

「昨晩は某の苦渋の思念にお付き合い頂き、誠にありがとうございます! このユキジ、あなた方にとても励まされました所存……!!」

「そ、そうか。それは良かったね……はは」

 ユキジの心からの感謝の大声に新世代型のイオリ・タケシは苦笑を零すが、それでもユキジの謝恩は留まる事は無かった。

「このシン・ユキジ、少しばかりですが心の暗雲が……水底の焔が少しばかり水上の光に導かれ、上昇した気持ちに至れました。それもこれも、我ら三次元人を導く其方たち二次元人の想いが成せる境地! 某は再び感銘を受けましたぞッ」

「導く、ですって……?」

 ユキジが発した三次元人を導くという言葉に新世代型の室戸大智が疑問視すると、ユキジは過去の出来事を思い返しながら訳を語り始める。

「かつての鬼神、小田原修司が申しておられた。二次元人とは三次元人を未来へと、正しき道へと導く存在……(しるべ)なのだと。我ら三次元人が道に迷い、己の生き様に疑問を抱いた時に、暗転してしまった道行をときには照らし、ときには導いてくれる尊き存在。それが二次元人であるのだと小田原修司は申しておられました!」

「…………………………」

「未だにアジア、いや世界各地ではテロや人種差別など悲しくも無意味な争いが頻発して起こっておりまする。差別の上に成り立った争いなど、何の解決にも満たないと人々は気付かず、互いにいがみ合い罵り合い、醜い紛争ばかりが世界各地で起こってしまっておりまする。無論、それは其方らと同じ新世代型の足正義輝が起こした現政奉還以前よりの悲しき出来事なのでお気になさらず……」

 二次元人は三次元人を導く道しるべであると小田原修司が説いていた通り、己もまた新世代型二次元人達によって水底から導かれたと説くユキジの言葉に唖然と固まる新世代型たち。そんな新世代型二次元人達にシン・ユキジは日本に精通している面から彼らに説いた。

「確か日本語では……昼を照らす日と、夜を照らす月があわさることでようやく明るさは得られるのだ! 太陽のみではならぬのだ」

「太陽だけじゃ、いけない……」

「その通り! 昼を照らす光と夜を照らす光……昼と夜の明暗、光と闇……どれか一つが欠けてしまってもいかぬのだ! 某は其方たち二次元人はもちろん、多くの種族を関係なく懐に迎え入れ、温かく共存できる世を望んでいる! それは拙者も、佐助も……そして何よりもお館様が望んでおられる天下の姿なのだから!!」

 愚直なまでに一途な魂、いや心で種族を問わず全てと共存できる世を望んでいると意気込むシン・ユキジの熱弁に新世代型二次元人達は心を揺さぶられた。未だ自分達は元より二次元人を異質な視線で見る群衆が多いこの御時世、ユキジの言葉は二次元人に勇気を齎した。

 

 そして出発の刻限が来て、聖龍隊と赤塚組は新世代型二次元人達と共に北の国を経由して韓国へと出発した。

「それじゃユキジ。同盟が決まったらコッチに佐助を寄越してよ。ボクらが直々に痛め付けちゃうから」

「もうっ、蒼星石ったら。そんなイジワル言ったらいけませんですぅ」

 完全な同盟を結んでない以上、心根を許してはならない間柄として同盟定着の際の刺客に猿飛佐助を訪問させたらタダでは済まないとわざと意地の悪い事を言う蒼星石に、姉妹である翠星石は呆れ果てる。

 だがユキジも負けてはいない。蒼星石からの言葉を真に受けて、同盟定着の儀に関しては佐助を向かわせるとハッキリ言い返してしまう。

「心得た、蒼星石殿! 某の迷いが決まり次第、同盟の暁にはこのシン・ユキジ、命を賭けて同盟を結びに行く所存……待っていて下されッ!」

「だ~~か~~らっ。あんたが命を賭けちゃいけないんだっての!」

 己の命を賭けると返答するユキジに対して、傍らに猿飛佐助が出現し、ユキジに軍の総指揮官になった故に易々と命を賭けてはいけないと説教する。

 だが、それでもユキジの溌溂とした面差しでの見送りは止まらない。ユキジは絶えず新世代型二次元人達にも感謝感激に満ちた言葉をかけ続け、温かく見送ってく。

 

 

 水底より昇りゆく焔が蒼天を焦がし、暗き真情を焼き付くす陽とならん。

 

 やがて、それを知らず 全てを照らす陽となる夢の先駆けであった。

 

 

 

 

 だがその前に彼らの行く末には、平和に成り果てながらも未だに平穏な生活に定着できずにいる北の国の国民。

 そして慰安婦問題などを乗り越えて、今や日本だけでなくアニメタウンとも平和協定を結んだ韓国での出会いと現状を新世代型二次元人達は初見し、知る事となるのだった。

 

 

 

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