デジモンフィリング   作:シノマ

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         1話 

 うだるような暑い夏。

 一人の少年が、神社に向かって走っていた。

 彼の名前は剱崎竜也《けんざきたつや》。

 バランスよく切り揃えられた茶髪に、トレードマークでもある青いゴーグルを着けている。服装は登校前という事で制服だ。

 しばらく走り、神社に辿り着く。

 姫乃神社。

 竜也の幼馴染の家でもあり、よくお参りにも来ている。

 参道を歩いていると、巫女服を着た女性が箒を持ち掃除をしている所が見えた。

 

「おはよう、かぁーちゃん。今日も暑いな」

 

「竜也くん、おはよう。そうね、朝から暑いわよね」

 

 竜也が、かぁーちゃんと呼んだ女性は幼馴染の母親、姫乃美咲。

 二児の母親とは思えないほどの、若い見た目で大学生と言われても通用しそうな美貌をしている。

 

「それで、今日は何をお願いしにきたの? 美琴との仲の進展とかかしら?」

 

「そう言うのじゃないから、期末テストでいい点取れますようにって、神様に頼みに来たんだよ」

 

「竜也くんぐらいよ。縁結びで有名なうちの神社で、テストの事を頼みにくる人は」

 

 美咲と軽く世間話をした後、拝殿に行きポケットから五円を取り出すと賽銭箱に放り投げた。

 

「期末テストで、赤点回避できまように!」

 

 声に出して頼む竜也。

 その頭を後ろから叩く人物がいた。

 

「神様に何を頼んでいるのよ……」

 

「お、美琴! 一緒に赤点回避出来るように、美琴も頼もうぜ」

 

「私、竜也と違ってテストで困った事ないから」

 

 彼女は、姫乃美琴《ひめのみこと》。

 長い紅色の髪にサファイア色の瞳をしている、可愛らしい女性だ。

 姫乃家の次女であり、この神社の巫女もしている。

 

「ほら、そろそろ学校に向かわないと遅刻するわよ」

 

「頭の良い、美琴が羨ましいぜ……」

 

 竜也が妬んだような顔をしながら、二人で神社を出ると、パトカーが数台サイレンを鳴らしながら目の前の道路を通って行った。

 

「なんだ、事故か!?」

 

「そうみたいですよ。車の衝突事故だそうです」

 

 第三者の声。そちらの方に顔を向けると、竜也達より少し幼い少年の姿があった。

 

「葵じゃないか!」

 

「葵、おはよう」

 

「はい、おはようございます。竜也くん、美琴さん」

 

 南葵《みなみあおい》。竜也のもう一人の幼馴染でもある。

 

「最近、事故や事件が多いわよね」

 

「そうですね。先月だけで二十件。その内交通事故が十四件、窃盗が三件、暴力沙汰が三件ですからね」

 

「この町も物騒になったもんだ。俺がその場にいたら、犯人を捕まえたりしてやるのによ」

 

「危ないからやめなさい。竜也が怪我したら私……」

 

「ん?」

 

「な、何でもないわよ。葵、バカな竜也は置いて行きましょ」

 

 美琴の頬は若干赤くなっていたが、竜也はその事に気づかなかった。

 だって、竜也の目は先程パトカーが向かった先に向いているのだから。

 

「美琴さん、苦労しそうですね」

 

「何の話だ?」

 

「自分の胸に聞いてください」

 

 竜也が自分の胸に手を置いて唸っているのを見て、葵は苦笑するのであった。

 

        ※※※※

 

 翌日、竜也は葵と待ち合わせをしていた。昨日パトカーを見てから──いや、先月から起こっている事件の数々、その異質さに憤りすら感じている竜也。

 事件の解決までとは言わないが、何かしら掴めればと思い、休日の今日。葵と共に事件があった場所を回る事にした。

 

「お待たせしました」

 

「よ、葵……。って、何で美琴までいるんだよ!」

 

 待ち合わせ場所に来たのは、葵だけではなかった。

 葵の後ろで、腕を組んでいる美琴が怖いぐらいの笑顔をして、竜也を見つめている。

 顔は笑っているが、怒っているのは明白。

 美琴に事件現場を見て回るなんて言ったら、絶対に止められると分かっていた竜也は、今日の事は葵にしか伝えなかった、はずだ。なのに、今この場にいる理由は。

 目の前にいる葵に目を向けるが、首を横に振るだけ。

 

「竜也。どうして今日、私がここにいるのかって顔してるわね」

 

「そ、そそんな事、ないけど……」

 

「声が震えてるわよ」

 

「んぐ!?」

 

 図星だった。

 

「昨日、学校であんなに不自然な行動してれば、分かるわよ」

 

「ふ、不自然な行動なんて……」

 

「休み時間、葵に会いに行ってから私を避けていたわね」

 

「そうだったか……な?」

 

 学校で葵にこの事を伝えてから、竜也は無意識に美琴を避けていたのであろう。バレれば止められるし、何より──。

 

「……美琴、この事知ったら止めるだろ? でも俺だって譲れない。そうなると一緒に来ることになるかも知れない」

 

「そうね、現に今来てる訳だし」

 

「事故現場なんて危険な所、美琴に行って欲しくないっていうか、まぁそんな所だ。だから黙ってた、ごめん」

 

「な、な、何言ってんのよ! バカ竜也! それに、私を見くびらないで。あんた達の保護者ぐらいちゃんと努めるわよ」

 

「いや、だから──」

 

「何か言った?」

 

「何も言ってないです……」

 

 こうして、美琴に押し切られる形で竜也は同行を認めた。

 

「事故現場に行くって言っても、どこから周るの? 近い所もあれば遠い場所もあるでしょ」

 

「それは僕から説明します」

 

 葵が付けている眼鏡の位置をクイっと戻すと、鞄からノートパソコンを取り出す。

 しばらくキーボードを弄った後、竜也達の方にディスプレイを向けた。

 画面には、この町の地図と最近事故があったと思わしき場所に、赤いチェック印が付けられている。

 

「遠方に六箇所、中間は十箇所、近場は四箇所です。あ、昨日あった事故も含めれば、近場は五箇所になりますね」

 

 ゴホンと葵は咳払いをし、話を続ける。

 

「ここからが問題なんですが、これを見てください」

 

 エンターキーを押すと、遠方の六箇所、中間の十箇所、そして、近場の五箇所でそれぞれ線が結ばれていく。

 

「なんだ、これ? 何か意味があるのか」

 

「遠方と近場はまだ未完成ですが、中間の区域だけは完成しているんです」

 

「何がだ?」

 

「これ、太陽の惑星記号よ」

 

 何も分かっていない竜也に美琴が答える。

 

「美琴さんの言う通りです。これは太陽の記号。そして残りの未完成の線も、線を足せば遠方の水星と近場は土星の形になる」

 

「なるほどな。すごい偶然だ!」

 

「偶然な訳ないでしょ……。少し怖いわね」

 

「怖いなら、付いてこなくても……」

 

 鋭い目つきで、竜也を睨みつける美琴。

 

「じょ、冗談だって……。えっと、葵。よくこんなの気づけたな。俺、記号とかさっぱりだ」

 

 美琴の視線から逃れる為に、葵に投げかける。

 

「僕と言うより、友達が気づいたんですけどね。とりあえず、近場の方を周って最後に、土星の形が完成する位置も見てみましょう」

 

「おう! それでいいぜ。美琴もそれで良いよな?」

 

「良い訳ないけど……。でもあんた達がどうしても行くって言うなら、私は保護者として付いていくしかないじゃない」

 

「さて、決まったことですし早く行きましょうか。流石に暗くなると危険が増しますから」

 

 三人は一件目の事故現場に向かった。アスファルトは砕かれていて、道路標識はひしゃげていた。

 ネットの情報によると、どこの事故現場もドライバーが同じような供述をしていたらしい。

『車が勝手に動き出した』と。

 

「これどう見ても怪しいよな。だってよ、車が勝手に動き出すことあるか? 葵、機械とか得意だろ。なにか分からないか?」

 

「僕も検討が付きません。仮に車を操る機械があったとして、アクセルをずっと踏んだ状態に出来るのでしょうか。ドライバーの人もブレーキを踏むでしょうし」

 

 辺りを見渡しても、道路が崩壊している以外に何もおかしい所はなかった。

 他の事故現場にも見に行ったが、どこも似たり寄ったり。

 車の操作を操るような機械も部品一つ見つからない。

 事故現場五つを周った三人は、カフェで一休みすることにした。

 

「何もないじゃない。やっぱり竜也の気にするような事でもないのよ」

 

「でも、俺の直感が何かあるって言ってるんだよな」

 

「それ、アテになるの?」

 

 二人が会話をしている間、葵はパソコンと睨めっこをしながらぶつぶつと呟いている。

 

「車が勝手に動く……? 事故だけじゃない、窃盗や暴力事件の犯人も皆、気が触れたと言っている……」

 

「なーに、ぶつぶつ言ってんだ」

 

「わぁ!?」

 

 パソコンに夢中になっていた蒼は、後ろにいる竜也に気づかず、そのまま抱きつかれてしまう。

 

「竜也くん、いくらカフェの中で冷房が効いているとはいえ、暑いので離れてください」

 

「そんなこと言うなよ〜。俺達の仲じゃんか」

 

  男二人が抱きついてる姿を見て、美琴は「ほんと仲良いわね」と呟いた。

 

 休憩もほどほどに、最後の目的地──というちゃんとした場所ではないが、次の事件が起こるかも知れない、土星の記号が完成する辺りまで向かう。

 

「もしかしたら、事故とか事件が目の前に起こるかもな!」

 

「縁起でもないこと言わないでよ」

 

「はは……。でも竜也くんの言う通り、何かが起こる可能性もゼロじゃないですからね」

 

「葵までっ!」

 

 一歩ずつ、三人はこの場所に踏み込んでいく。

 まだ誰一人気づいてはいないが、周りは着実とデジタル空間に侵食され始めていた。

 段々と翳りが現れる、町並み。

 七月にしては早い日没に、三人は顔を見合わせる。

 

「ねぇ、辺りが暗くなってきてない?」

 

「確かにおかしいですね。四時にしては暗すぎます」

 

「二人とも、そら、空を見てみろよ!」

 

「「え……?」」

 

 空を見上げると、見たことのない穴のようなものが広がっていた。

 穴の中には0と1、それから電子図のようなものが張り巡らされていて、まるでコンピューターの世界への入り口そのものだ。

 

「な、にあれ……」

 

「僕にも何が何だか……」

 

 美琴と葵がただ茫然と空に開いた穴を見ている一方、竜也は二人とは違う感情を抱いていた。

 

「すげえぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 目を輝かせ顔に新鮮な喜びを表して、空にある穴を見つめている竜也。

 その表情たるや、子供の如し。

 

「ん、なんだ、あれ?」

 

 見つめていた穴から、何かが落ちてくる。

 少なくとも人の形は成してはいない。

 身体を緑色の鱗で覆っていて、頭部には赤い角。背には小さな翼を生やしているが、飛んでる風には見えない。

 そのまま、落ちる勢いでアスファルトに激突する。

 砂塵が舞って、視界が遮られるがそれも数秒。

 砂埃が散り、空にある穴から落ちてきた正体がくっきりと写る。

 小さなドラゴンだ。身体はボロボロで、今にも手当をしないと死んでしまいそうな深傷だった。

 

「おい、大丈夫か!」

 

「竜也、待って!」

 

 美琴の静止を振り切り、倒れたドラゴンの元に駆けつける竜也。

 

「うぅ……」

 

「良かった、まだ生きてる!」

 

「に、逃げろ……。アイツが、ティラノモンが来る……」

 

「ティラノモン?」

 

 その瞬間、ドスンッ! っという音が目の前から聞こえた。

 そこに現れたのは、目を血走らせた赤き恐竜といえば分かりやすいか。

 鋭い爪に牙、背にはトゲが生えており、絶滅したはずの恐竜の姿がそこにはあった。

 ティラノモンというのは、この恐竜の名なのだろう。

 ティラノモンが竜也達を目に捉えると、その鋭い爪を大きく振りかぶった。

 

「あぶなっ!」

 

 間一髪の所で、竜也は倒れている小さなドラゴンを抱え、ティラノモンの一撃を避ける。

 だが完全に避けられて訳ではなく、二の腕辺りを私服ごと爪が掠り、血が溢れ出す。

 

「竜也……腕から血が……」

 

「竜也くん逃げましょう! このままじゃ……」

 

 美琴と葵は、竜也の腕から流れる血を見て顔が青ざめさせていた。

 なんなら、傷を負った竜也より身体が震えている。

 

「二人は先に逃げてくれ。俺はコイツを何とかする!」

 

「何とかって、あんなのどうしようも出来ないじゃない!」

 

 涙目になりながら美琴は叫ぶ。

 なんの力もない人間が野生の熊に勝てないのと同じ、今の状況は人対恐竜。

 天地がひっくり返っても竜也に勝機なんてなかった。

 だが、竜也の心はこんな状況にも関わらず、燃えていた。

  抱いていた小さなドラゴンを地面に下ろすと、ティラノモンをキリッと睨め付け、走り出す。

 赤い巨体に拳を振り上げるが、ティラノモンはゴミを払うかのように手を動かした。

 たったそれだけの行動なのに、竜也は吹き飛んだ。

 

「がはっ……」

 

 地に這いつくばる竜也。

 しかし、諦める事なく立ち上がるとする。

 

「はぁはぁ……。まだまだっ!」

 

 ふらつきながらティラノモンに向かっていく竜也だが、足がもつれ倒れ──。

 

「人間、大丈夫?」

 

 こまなかった。

 倒れる寸前、竜也が救った小さなドラゴンが身体を支えたからだ。

 

「あ、あぁ。そっちこそ大丈夫か、ドラゴン」

 

「うん、君に助けられたから。それと僕はドラゴンじゃなくてドラコモン」

 

「ドラコモン……。それがお前の名前か。俺の名前は剱崎竜也だ」

 

 お互い自己紹介をし、ティラノモンに向き合う。

 

「なぁ、ドラコモン。アイツ、何とか出来るか?」

 

「……正直、難しいかも知れない。ティラノモンは成熟期なんだ。成長期の僕じゃ……」

 

「成熟期、成長期? って何だ?」

 

「僕たちデジモンは進化する生き物なんだ。でも僕は進化なんてした事ないし……」

 

「なら、進化しようぜ!」

 

「無理だよ! 進化は強いデジモンしか出来ないから……」

 

「いや、ドラコモンなら出来──」

 

 竜也とドラコモンが話してる時間、ティラノモンが待ってくれるはずもない。

 ティラノモンの口の中から深紅の炎が吐き出された。

 

「やば……避けられ──」

 

 竜也はドラコモンを抱き寄せ、自分を盾にするように背を向けた。

 吐き出された炎が竜也とドラコモンを覆っていく。

 

「た、竜也……。いやぁぁぁぁぁぁ!」

 

「そんな、竜也くん……」

 

 美琴や葵から見ても、竜也は炎に埋め尽くされ生きているとは思えなかった。

 竜也どころか、町すらも焼き尽くそうとする炎。

 絶望的だと思われた瞬間、竜也達が炎に巻き込まれた場所を中心に光の柱が現れた。

 その光はティラノモンが吐き出した炎を全て消し去っていく。

 炎が消え視界が良くなると、そこには炎に巻き込まれた竜也とドラコモンの姿があった。

 二人が見つめる先には、スマホのような物が光を纏い浮いている。

 

「な、何が起こったんだ……」

 

「竜也これ、もしかしてデジヴァイスかもしれない」

 

「デジヴァイスって?」

 

「昔からデジタルワールドに伝わる伝説があるんだ。人とデジモンが手を取り合い、世界を救った話が。そこに登場するデバイスの名称がデジヴァイス」

 

 宙に浮いているデジヴァイスが竜也の元に、降りてくる。

 竜也は何の躊躇もなくデジヴァイスを受け取った。

 

「これがあれば、世界救えるぐらいの力が手に入るんだろ! なら、あんな恐竜ぐらい楽勝だな!」 

 

 にししと、笑う竜也。

 ドラコモンもそれに釣られ、笑ってしまう。

 

「うん、そうだよね。竜也の言う通りだ! 僕だってティラノモンに勝てる」

 

 手に持っているデジヴァイスの光が更に強さを増す。

 

「こ、これ何か光が強くなってるけど、どうすれば良いんだ」

 

「僕にその光を向けて! 伝説通りなら進化出来るはずだから!」

 

「進化……それは面白そうだな! ドラコモン進化だ!」

 

 竜也は、デジヴァイスの光をドラコモンに向けた。

 光がドラコモンを覆っていく。

 緑色だった鱗は青く染まっていき、小さな翼は大きく逞しく、身体や爪の大きさもドラコモンの比ではなくなっていく。

 ドラコモンの進化した姿の名を。

 

「コアドラモンッ!」

 

 コアドラモンがティラノモンの前に立つ。

 

「ガアアアアアア!!」

 

 ティラノモンが口からブレス──ファイアーブレスを放つ。

 それに対応するかのようにコアドラモンも口内に青色に輝く灼熱の炎を貯め、放った。

 

「ブルーフレアブレス!」

 

 赤い炎と青い炎がぶつかり合う。

 拮抗する炎。だが、それも最初だけ。

 コアドラモンの炎がティラノモンの炎を上回り、赤き恐竜を燃やし尽くす。

 

「ギャアアアアアア!」

 

 青き炎に燃やされたティラノモンは姿を消し、代わりにブレスのぶつかり合いが原因か、爆発が巻き起こった。




ここまで読んでくださりありがとうございます!
初投稿なので色々書き方がおかしい所もあるでしょうが、アドバイスなど貰えると嬉しいです!
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