災いの獣、大海に侵入する。   作:月日は花客

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Pixivに投稿していたものをほぼ別物に書き換えたやつ。





1:侵入

 

 よぉ、全国のポケモントレーナー諸君。

 俺だぜ。

 白い毛皮に赤い目。ツノがトレードマークのわざわいポケモン。

 そう、アブソルな。

 ちな、野生。これでもなかなか長生きしてる個体なんだぜ? 年寄りを気取る気は全くないけどな。

 

 俺の住処は標高の高い雪山。人なんて余程のやまおとこでも登ってこない険しい山岳。ユキワラシとか、アルクジラとかが元気に闊歩してるとこよ。

 そんな山で、俺は一応山の主みたいなことしてた。これはまぁ、人徳ならぬポケ徳だな。

 雪崩や吹雪があるたびに山のポケモンに知らせてその災いから守ってきた。

 ただ、最近は同じアブソルも増えてきたし、山も穏やかで災いらしい災いが無い。

 なかなかに暇な日々を過ごしていた。

 長く生きてるが、暇には敵わないよな。

 

 と、思っていたら、ツノがなにやらざわついた。

 寝床にしている洞窟に、亀裂のような……空間を無理やり引き裂いたような穴が空いている。その先には、あり得ない常夏の島が見えた。

 ここは雪山。あっちは暖かそうな陽射しに海まである。明らかに亀裂で空間が違っている。

 しかもその亀裂の先には、災いの気配がガンガンにあるのだ。

 これにはもう、俺は大興奮よ。自分の本能を全うできそうな気配がビンビンなんだからな。

 俺は迷わずその亀裂に飛び込んだ。

 どうせ()()()()の仕業だ。

 

 *

 

 降り立った先はなにやら妙な島だった。

 生き物の気配がやけに少ない。こんな島ならナッシーとかヤドンがいてもおかしくないのに、ナマコブシ一体も見つからない。

 人間の世界にはナマコブシを投げるだけの仕事があるって聞いたぞ。そのくらい海辺に出没するナマコブシには手を焼くというのに。

 それに生き物の気配そのものが妙だ。なんというか、ポケモンでも人でもない。不思議だ。

 アイツめ、妙な世界に引き込みやがって。後で泣いて謝っても知らないからな。

 それよりも目の前の災いだ。

 少し歩くと、人間たちがダラダラと海岸で作業しているのが見えた。中には昼寝してる奴もいる。

 そんな呑気な事してられるのも、これからの災いを知らないからだぞ、馬鹿め。

 

 俺は駆けて行って、その人間たちが乗るであろう船に飛び込んだ。

 突然の俺の登場に、人間たち──皆同じ制服を着ている。水兵だろうか──は驚いていた。

 俺はお構いなしに乗船した船の甲板でぐるりと周りを見渡す。ふむ、でかい船だが仕組みは簡単なようだ。帆船で風をたぐって進むのだろう。

 モーター船が主流なのに古風だな?

 

「なっなんだこの獣は!?」

「気をつけろ、襲ってくるかもしれないぞ!」

 

 なんて、暫定水兵たちが言っているが、俺は無意味に人を襲わない主義だ。ポケモンの中では友好的な方だぜ? ガブリアスとか見てみろよ、ポケモントレーナーを見つけた瞬間襲ってやがる。あの戦闘狂め。

 俺は武器を持ち始めた水兵を鼻で笑い、船内に侵入する。ドアの開け方くらい簡単にわかる。

 さーて、災いから逃げるためのエリアはどこかなーっと。

 そうして見つけたのは操舵輪がある部屋。おそらくここで船の進路なりを決めていると思われる。

 俺はそれをカラカラと回した。錨が降りている以上ただのおもちゃみたいな軽さだ。

 一応中で撃たれた時のために《みきり》は発動させておくが、水兵たちは敵意というより困惑が強いようだった。

 

「なにかを伝えようとしているのか?」

「おい、ガープ中将呼んで来い!」

「わからんぞ、ただ遊んでるだけかもしれん」

 

 俺が敵か味方かなんてどうでもいいだろう。伝えたいのは、早くこの島を出ないと船ごととんでもないことになるぞって事だ。

 カラカラと回す操舵輪でそれが伝わればいいのだが、人間と直接話せないってのはこういう時に面倒だな。

 ポケモン同士ならすぐに済むのに。

 

 なにやらこの船で一番偉そうな、イヌポケモンっぽい帽子を被ったおっさんが出てきた。体がデケェ。2mはある。

 おっさんは何かを察したのか、「船を出せ!」と水兵達に指示した。伝わったようで何よりだ。

 船は速やかに出発の準備が整えられ、島を離れた。

 

「中将! 我々のいた島が……大嵐で壊滅しています!」

「ぶわっはっは! 危機一髪じゃったのう!」

 

 そう、あの島は突然の大嵐によってほぼ沈没するのだ。無事に脱出できて良かったぜ。

 生き物の気配がしなかったのは、嵐の気配を野生の本能で感じ取っていたからだろうか。だとしても、なんだかこの世界にはポケモンの気配が無かった。

 海にも、ホエルオーだとかラブカスだとかがいそうなものなのに、全く気配がない。その代わり、ポケモンとはまた違う生物の気配がする。

 まったく慣れない。もしかして俺は別の世界に来てしまったのだろうか。アイツ、あんな力も持ってたのか。

 元凶だろう知り合いを思いながら、俺は甲板に戻ってきていた。

 水兵達が微妙に距離を空けてこっちを見てくる。

 

「この獣は嵐を予見していたのか……?」

「あのまま島にいたら、船が沈んでいたかもしれないな……」

「しかしどういう生き物なんだ? 狼? 豹?」

 

 こいつらはアブソルを知らないらしい。おそらくこの世界にポケモンは俺しかいないから、知らないのも当たり前か。

 アブソルだぞ。という意味も込めて「ソル」と鳴くと、「鳴いた!!」とざわついた。

 ちなみに俺は無口だし、表情は無に近い方のアブソルだ。世の中にはたくさんの性格のアブソルがいるが、俺は性格:れいせいの特性:きょううんだ。たぶん。

 トレーナーの下についたことがないから、正確なデータは知らん。でもレベルは100だ。長年生きてるんでね。

 俺は適当な場所に寝っ転がると、警戒を解かない水兵達を眺める。もう俺のやることは終わったから、適当な港に停めてくれれば降りるぞ。という意味を込めた。

 別に水兵達をどうこうしたり戦いを挑む事もない。あとはダラダラこの船の行き先を待ってればいい。

 

「お前さんのお陰で助かった! なんの生物かはわからんが、礼を言うぞ!」

 

 ガープと呼ばれていた男が笑って煎餅をこちらに渡してきた。貰えるもんは貰っておこう。ポケモンは別に人が食えるもんも食えるからな。俺は渋い味の食べ物が好きだが、あまじょっぱい煎餅も悪くない。フエンせんべいは美味しかったな。

 

「ガープ中将、その……どうします? あの獣」

「知らぬ人間をわざわざ助けるとは感心じゃ! どうせならマリンフォードに連れて帰ろう!」

「ええ……い、良いんでしょうか」

「なに、獣とて立派な海兵になれるじゃろ!」

 

 海兵にはならんが?

 何を言い出すんだこのおっさんは。

 俺は人間の組織には所属したくないんだがな。トレーナーにすら捕まってなかったんだぞ俺は。自由に生きたいんだ自由に。

 しかし船に乗り込んだ以上《なみのり》も使えない俺はそのマリンフォードとやらに向かうしかない。なんてことだ。

 せめてもの抵抗に不満げな声を出しておいたが、意味が伝わってないのか煎餅の二枚目を差し出された。いや、もういらん。

 

 しばらく甲板で日向ぼっこしていると、突然海兵が叫んだ。

 

「敵艦発見! 3時の方向、海賊!」

「砲撃準備ー!!」

 

 どうやら人間同士の諍いが発生したようだ。ふーん。

 俺は人と人との争いにはなるたけ首を突っ込まんようにしているので、この船が沈みそうにならない限り放置だ。

 それにガープがなにやら笑っているので勝てるんだろう。

 

「マリンフォード近海で海軍に喧嘩を売るとは、意気のいい海賊じゃな! 接近次第捕縛しろ!」

「はっ!!」

 

 ドンパチドンパチ。しばらく甲板が揺れて、これじゃ昼寝もできやしない。

 そう長くないうちに敵は全員お縄となった。

 ははーん、海兵とやらはジュンサーさん的な、アレね?

 そのまま海賊とやらは無力化されこちらの船に乗せられた。

 このままマリンフォードで監獄に引き渡すそうな。

 やだねー、物騒物騒。

 

 マリンフォードはデカい島だった。なにやら要塞を思わせる。

 しかし市街地もあるらしいから、俺はそこで自由に暮らすとするかな。じゃ、お疲れ様でしたー。

 と、船を降りようとしたその時。

 ガープに雑に背中を引っ掴まれた。

 

「お前はわしと来るんじゃ!」

 

 海兵にはならんが??








◇アブソル:性格れいせい特性きょううんの野生アブソルLv100。ずーっと野生で生きてきたが、長いポケ生で人間とも関わってきたので人の生活にも詳しめ。口が悪い。

◇ガープ中将
お、なんか有望そうな獣来たから海兵にしよ^^
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