「ヤイバは子ども好きじゃのう、わしの孫にも会わせたいくらいじゃ!」
センゴクの執務室、今日も今日とて豪快に笑うガープが煎餅を食べながら言った。
別に俺は子ども好きではないしむしろ苦手だし、お前に孫いたのかよ。いや、そりゃいるのか? ガープも結構な歳だしな。
マリンフォードに来て何年、ガープは白髪が増えたし、三鳥トリオも出世した。
俺は変わらず日々を過ごしている。
「なんなら今度連れてってやろうか!? お前さんなら飯にされることもなかろうて!」
今飯にされるっつったか?
物騒すぎる。俺は絶対嫌だぞ。なんだってそんな乱暴そうな奴に会いに行かなきゃならんのだ。
ガープの孫はルフィというらしい。海賊になると言って聞かないから猛獣蔓延る山に放り投げてきたんだと。怖……。
スパルタ教育どころではない。立派な海兵にするためというが、むしろ嫌われるんじゃないか、それ。
俺は引いた。センゴクも引いてた。
「東の海への遠征任務があれば連れてってやったんじゃがのう」
「おい、堂々と任務を使った旅行を計画するな。わたしの前で」
センゴクは今日も苦労している。
俺は説教が始まりそうな空気を感じて、さっさとそこから退散した。適当にマリンフォードを彷徨くか、屋根に登って昼寝でもするか。
そう考えていたら、目の前に亀裂が走る。
仕事か? と身構えたが、亀裂の向こうに災いの気配は薄かった。
しかし、別の……大きな気配がする。カイオーガと会った時と同じような……ポケモンの気配だ。
旧知に会えるかもしれない。
そう思った俺は、その亀裂に飛び込む。
亀裂の先はジャングルのような場所で、山の中だと一目で分かった。
様々な動物の気配がする中、ポケモンの気配だけを辿って歩いていく。
そうすれば……なにやら人の声も同時に聞こえてきた。
「こらルフィ! 次に背中に乗っけてもらうのはおれだ! 順番を守れ!」
「ルフィー、あんまり締め付けてやるなよー」
「しししし! たぁのしいなぁ! タテガミ!」
……そこにいたのは、子ども三人に遊ばれているソルガレオの姿だった。
背中に子どもを乗っけて、まるで遊具のように尻尾を振っている。
別世界から来たと言われる伝説のポケモンの威厳はそこには無かった。
「……ん? なんだアイツ」
「こっち見てるな」
そばかすの子どもとシルクハットの子どもがこちらに気づいた。警戒するようにこちらを見ているが、俺はソルガレオにどうしたと言いたい。
お前、伝説と言われて長いポケモンだよな? 子どもの遊具になっている現状に何か思うところはないのか? なんで機嫌は良さそうなんだ。
一定の距離を保って視線だけ向けていると、ようやくソルガレオがこちらに気づいたようだった。
背中に乗っている子どもが危ないところを触らないかに気を取られていたらしい。
『……久しいな、アブソルよ』
そんな今更取り繕っても威厳もクソも無いぞ。
俺はジトっとした目をソルガレオに向ける。ソルガレオは苦い顔をした後、吠えた。
『俺っちだって別に好きでこんなことやってんじゃないやい! この子どもたちがあんまりにも警戒心が無いから──』
その割には楽しんでいるように見えたがね。
『うぐぐ……! だって! だって! コイツらかわいいんだもの! 俺っちにも怖がらずに向かってくるし、いつもニコニコしてるし、「タテガミ」ってニックネームも付けてくれたんだぜぇ〜? ちょっと遊ぶくらいいいじゃんかよぉ』
急に吠え出したソルガレオに、子どもたちは不思議に思っているようだった。警戒や危険の色はないから、ソルガレオ……タテガミの友達か? と聞いている。
ソルガレオは伝説の中でも人間と友好的な性格をしている。だから、子どもの無垢な笑顔にコロッと落ちてしまったんだろう。
その結果が遊具だ。
「なータテガミ、コイツは友達かなんかか?」
『おうよ! クールだが悪い奴じゃねぇから安心しな!』
「なんか、大丈夫そうじゃないか?」
「攻撃してこないし、タテガミも何もしないしな」
どうやらソルガレオは子どもたちを猛獣から守ったりもしてたらしい。
この三人は山に入り浸っていて、よく怪我をするから放って置けない。おまけに幼いしよく食べるから、獲物を狩ってやったり遊んでやっていたら勝手に懐かれたそうな。
いや、過保護か。
お前そんなキャラだったか? もっとこう……かけら程の威厳はあっただろ。
『うるせぇやいうるせぇやい! 折角姿を自由に現しても騒がれにくい世界に来たんだ! この子たちが大きくなるまで俺っちはここを離れないぞ!』
「なー白いの、お前も遊ぼーぜ!」
「ツノかっこいいな!」
ええいツノに触ろうとするな! 危ない!
ソルガレオにも牙や爪、はがねタイプらしい硬質なパーツがある。そこをうまく触らせないように遊ばせているのは、慣れを感じる。
結構な長さここにいて、子どもたちの遊び相手になっていたと思われる。
それでいいのか伝説ポケモン。暴れるよりよっぽどいいけどさ。
俺は寄ってきた子どもを避けながら、ソルガレオに子どもたちの詳細を聞いた。
なんでも、ルフィ、エース、サボというらしい。ガープの孫と計らずとも会ってしまった。一番小さい麦わら帽子の子どもらしい。
ふーん、あのガープの孫にしてはちまこいじゃないか。
他二人はルフィの兄として手本になったりならなかったりしているそう。
『かわいーだろ! なーなー俺っちとコイツらの出会いを聞いてくれよー! それはもう感動的だったんだぜー?』
知らん。興味ない。
それよりこのどうしてもツノを触りたいらしいガキどもをどうにかしてくれ。
『あれはなー、俺っちが暇で死にそーな時だった……』
語り始めるな!
「なーなー、なんで逃げるんだよー!」
「タテガミの友達なんだろ? お前も変な魔法みたいなの出せるのかー?」
「あっはっは、待て待てー!」
くそ、だから子どもは苦手なんだ。弱いくせに好奇心と冒険心が強すぎる。
寄ってくる三人に悪戦苦闘していると、流石に見かねたのかソルガレオが尻尾で三人を背中に乗っけた。
そしたらすぐ子どもたちの興味はそちらに行くのだから、現金なものである。
しょうがなく俺は、ソルガレオの語りに耳を傾けた。
*
ソルガレオがアローラで人里から遠く離れた森で過ごしていると、目の前に亀裂が走った。なんだと思ったら、その亀裂の向こうでポケモンではない猛獣に追われている子どもたちが見える。
これはいけない! と思ったソルガレオは亀裂の中に飛び込み、同時にその爪と牙でもって猛獣を仕留めた。
猛獣は見た目の割に随分弱く、しかし子どもたちにとっては脅威だろう姿をしていた。
ソルガレオは子どもたちを助けたものの、獣を打ち倒した自分が今度は怖がられてしまうのでは、とハッとしたそうだ。
しかしいざ子どもたちを見てみれば目を輝かせてその場に見上げている。
「お前、すっげーつえーんだな!!」
「助けてくれたのかぁ!? ありがとう!」
そんな言葉を投げられて、おまけにお礼のきのみまでくれたから、ソルガレオは案の定コロッと落ちた。
それからは、毎日彼らと遊ぶようになったらしい。
途中川に落ちたルフィを助けたり、怪我をしたエースを家まで運んだり、風に飛ばされたサボの帽子を取りに行ってやったら、余計に懐かれて今はすっかり親友なんだと。
それらをたっぷりハイテンションで聞かされた俺は気疲れしたが、ソルガレオと子どもたちが楽しく過ごせているなら、威厳がちょっとなくなってもまぁいいかと思えた。
『なんだ、もう行くのか?』
俺はソルガレオの現状を確認したので帰ることにした。ちょうどよく亀裂もできている。
帰るよ、俺も今はそんなに長く旅してられないんだ。
『へぇ、ならまた遊びにこいよ! 子どもの成長ははえーんだ』
気が向いたら、な。
ああそうだ、ソルガレオ。なんだかそのサボってガキに災いの気配がくっついてる。
気をつけてくれ。
『そうか……わかった』
それだけ伝えると、俺はマリンフォードに帰った。一日にも満たない小旅行だったが、ルフィとやらにも会えたしソルガレオにも会えたし、良い一日だったと言える。
その後、「天竜人の船を獅子の化け物が襲撃。天竜人は死亡か」という新聞記事を見て、頭を痛めたのは別の話だ。
◇アブソル:伝説の威厳に厳しい。天竜人や奴隷の概念については把握済み。ソルガレオがいるなら災いも大丈夫だろうと油断した結果がこれ。
◇ソルガレオ:子どもたちかわいー! と毎日楽しく遊んでいた。この後天竜人に撃たれたサボの姿にキレて天竜人をブチ殺す。天竜人の概念は知らない。
◇子どもたち:ソルガレオにタテガミという名前をつけて仲良くしていた。サボがいなくなってから少しピリピリするソルガレオが少し怖くなる。でも大事な親友。