災いの獣、大海に侵入する。   作:月日は花客

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ZAのXLゴーゴートのサブクエを許すなの会(オヤブンゴーゴートが出るまで本編クリア+2時間分の時間を要した者)





13:会議

 

 忙しかったマリンフォードは、ある日を境に更に忙しくなった。

 大将は毎日外に出て、軍艦は港に着いたらまたすぐ海に出ていく。海兵達も訓練より実戦に駆り出されているようで、食堂ですらどこか穏やかな空気を失っていた。

 なにかしら、でかい事が起きたんだろうとは察していたが、センゴクがブツブツと執務室で話していた内容を聞き取った限り、海賊王? が死んだらしい。

 処刑だとかなんとか。

 物騒だが、そういう事に頼っている時代なのだろう。変なところで、古い価値観が残っている世界なのだ。悪魔の実がある分、他の兵器や戦略性が遅れている。超常が一般の兵器を淘汰していると言うのか。

 俺には関係ない事なので、海兵が忙しそうにしていても、いつも通り街に散歩に行くし、食堂で飯を食う。

 ああ、三鳥トリオはすっかりマリンフォードに留まらなくなってしまった。大将になって、あっちこっち飛び回っている。

 ご苦労なこった。

 

 俺としては、構ってくれる相手が少なくなったし、感知する災いの大半が人災だしで、案外暇だ。

 人災には手出ししない以上、感知したとして、それは暇を潰せるものじゃない。無視する事になる。

 ツノがざわざわする感覚こそうざったいが、それに負けて介入してしまったら、面倒だ。幸いまだ我慢できる範囲なので、大人しくしている。

 しかし、仕事も減った以上、時間を持て余しているのは確かだ。

 

「ヤイバを見なかったか?」

「いや……またどこかに行ってるのかもな」

 

 俺は、部屋の外の海兵の会話を聞き流しつつ、海風を浴びていた。

 高窓の、換気のために開いたひとつに横たわっているのだ。縁のところが、良い感じにスペースがあるんだよな。最近見つけたお気に入りスポットだ。

 広く、中央に円卓が備えられたここは会議室。

 大きな椅子やマリンフォードにおける位置的に、かなり重要な場面に使われる部屋とわかる。しかし施錠はされていないのは、最近の会議続きの日々が影響しているのか。

 高窓は、何メートルも上の、人だと到底手が届かない位置にある。俺ならジャンプ一つで届くが。

 しかし埃は溜まっていないのだから、掃除はされているらしい。会議室が埃被ってたら、組織として不味いもんな。掃除係の新兵が頑張っているのだろう。

 

 人の来ないところで、気持ちのいい海風を浴びながら、ぼんやりする。

 それがここ最近の俺の暇つぶしだ。

 ぼーっと、何の事も考えず、悩まず外を眺める。

 雑念を削ぎ落とし、身体の意識さえ手放して、自然と一体になる。まぁ、ある種の精神統一か。瞑想ともいえる。積み技じゃ無い方の。

 アブソルという種は、常にツノが災いを見張り、瞳が世相を見つめている。だから脳内は常に忙しく、災いを人災かそれ以外かで仕分けたり、人間たちの話から得た情報を整理したりしている。同時並行の情報処理はなかなか疲れるものだ。

 その作業をほんの少しだけ止めて、自分のためだけに全てを休める時間は貴重だ。使命を一瞬放棄して、からっぽの脳内を楽しむ。アブソルの中ではそれが一番の贅沢なのである。

 世間が騒がしくても、海からのその風は穏やかで、雲の流れもそよそよと慎ましい。

 遠くから聞こえるカモメの声が、今日は随分と頭に透きとおってきこえた。

 

「そろそろ会議の時間だ」

「どうせ全員集まるまで二時間はかかる。資料は揃っているな?」

「問題無く。……今回は何人集まるやら」

 

 どうやら会議室を使うらしい。ドア越しの籠った声は問題無く俺の耳に入る。

 しかし、今の俺はとてもリラックスしていて、この場を動きたくない。もう少し、波の音を肌で感じていたい。

 余程のことじゃなければ、会議室に俺がいても追い出されないだろう。そもそも普段の位置が最高責任者(センゴク)の執務室なのだから、機密だのなんだのを気にする必要も今更だ。

 人にとって大事な話が、俺に聞かれて不利になる事はそう無い。何故ならその情報で人死にが決定しようが、人が決めた事なら関係無いし。俺には他人に機密を話す口も無いからな。言語の壁はポケモン世界以上に分厚い。

 だから、俺はここが使用されるとわかっても退きはしなかった。

 海兵が慌ただしく円卓に資料を並べ、席数や掃除に問題は無いか確認していく。高窓にいる俺には気づいていないらしい。

 会議の場が整えられていくのを、俺はぼんやり見つめていた。

 

「……」

「……」

 

 しばらくして、一人の男が入室した。

 黄金の鉤爪を義手にした縫い目のある男だ。燻らせた葉巻の匂いが、潮風の匂いを押し除けている。

 俺とそいつは確かに目が合ったが、お互い何も言わずに、男は指定されていたのか席に座った。明らかに海兵の見た目では無いが、外部の人間を呼んでの会議か。珍しいなと数秒男を観察して、またぼーっとするのに戻る。

 男はこちらを気にしているようだったが、そわそわとはせず、横目で観察してきている。

 

「……」

「……」

 

 何分か経ったあと、また一人部屋に入ってきた。青い肌をした、魚の特徴を持った男だ。着物のような装いをしている。

 その男もやはり俺に気づいたし、目もあったが、無言のままに席に着いた。

 人だが別の生き物の特徴を持つ人種がいる事も知っている。ポケモンとは違い、人として扱われ、人らしく生活している。

 だから、俺も特別なことはする事なく、人として程々に距離を取って対応している。つまり、大して興味がないということだ。

 魚の男は割とチラチラこちらを見てきているが、無視する。昼時の日差しは心地いい。

 

「……」

「……」

「……」

 

 また、入室者だ。

 今度は二人まとめて来た。ピンク色のモサモサした男と、本を持ったずんぐりとした男だ。やはり目が合うが、それだけだ。

 俺はそろそろこののんびりした時間も終わりが近づいていることを察したが、あんまりにも面子の容姿が海兵とかけ離れているから、どんなメンバーが揃うか気になってきた。

 変わらず無関心を装いつつ、高窓から会議が始まるのを待つ。

 しかし、この集まりは何なのだろうか。

 

 *

 

「まさか全員揃うとはな……海のクズ共がどういう風の吹き回しだ?」

「たまたまだろ。コイツらと示し合わせなんて御免だ」

「あの獣はなんじゃ? 海軍はいつからサーカスになったのだ」

「ヤイバ! いないと思ったらここに居たのか……!?」

 

 あの後も個性的な面々が入ってきては、俺と目を合わせた。高窓はなかなか高いところにあるのだが、背の高い奴が多く、そこまで見下ろしている感覚は味わえなかった。この世界は2メートル超えの人間がザラにいる。

 途中、コイツらのやり取りでメンバーが全員海賊だということがわかったが、意外にも大人しく座っている。俺にも、なにかちょっかいをかけてくることも無い。

 物珍しさはあるようだが。

 

 センゴクは議長か何か務めるのか、分厚い書類を持ちながら最後に入ってきた。

 高窓に座す俺を心配気に見るが、この海賊たちは集まるまでもなんだかんだお行儀良くしていたぞ。

 それに、わざわざマリンフォードでドンパチしに来たんじゃないんだろ? 好奇心の視線は感じるが、敵意は感じないからな。攻撃されたとしても、下手にくたばる俺じゃない。

 センゴクは朝からいなかった俺を探していたらしい。何度かマリンフォードから離れては戻ってきた件があったというのに、センゴクは俺がいなくなると毎回心配して探してくれる。

 そうやって心を向けてくれるのは、嬉しいが素直に受け取れない部分もある。あまり情を持たせてはいけない。

 マリンフォードにも、長く滞在し過ぎたかな。

 

「こいつはヤイバ。マリンフォードに住んでいる、獣だ。海軍所属ではないが……下手なことはするな」

「へぇ、見たことねぇ種類だ。グランドライン産か? フッフッフ」

「……くれぐれも、下手なことはしないように!」

 

 サングラス越しにピンクのモフモフがニヤリと笑う。胡散臭いし意味深だが、派手なピンクはフレフワンを思わせる。色味はカラミンゴだが、サングラスで瞳が見えないのが残念だ。

 センゴクが釘を刺したが、別に守られなくても自分の身は自分で守る。むしろ、喧嘩を仕掛けた相手の方を心配すべきだな。

 ピンクの男は、センゴクをからかって満足したのか、どかりと椅子に深く沈んだ。

 そんな様子を観察していたとき、巨大な十字を背負った男と目が合ったが……存在しない刃を、ツノが弾いた感覚がした。遊び感覚で飛ばされた威圧のようなものか。その程度なら攻撃力の一つも下げられない。

 トパーズのような瞳孔が、ほんの少し開かれ、そして視線は逸らされる。

 小手調べをして、満足したということか。初めて見る、ただ窓際でゴロゴロしているだけの獣にすらプレッシャーの針を飛ばすとは。余程相手に飢えているらしい。

 冬場の気が立っているバンギラスの巣に投下したら喜びそうだ。戦闘狂はバンギラスやサザンドラの巣に単身飛び込む事が最上の遊びだと言っていたな。あのニンフィアは今もドラゴンの巣を壊滅させて廻っているのだろうか。

 一際巨大の、顔色の悪いゴーストじみた男は、さっきから獲物を見つけたようにこちらを見ている。残念ながら、俺はゴーストタイプは大して怖くない。舌舐めずりしている所悪いが、諦めて別の獲物を探す方が賢明だろうよ。

 会議が始まる前に、海賊たちの興味が俺に移ってしまったようだ。丁寧に資料を用意していた海兵たちには申し訳ない。外部の人間……それも海賊を見るのは珍しくてな、つい好奇心が疼いた。

 そろそろここも煩くなってきそうだし、小腹も空いたし、お暇することにしよう。

 

 俺は高窓から、円卓の中心に向かって飛び降りた。センゴクが驚きの声を上げるが、空中で捻って衝撃を殺し、ほぼ無音で木製のそこに降り立つ。

 そして、一度ぐるりと回って海賊たちの顔を見た。ふぅん、七武海……ね。毒をもって毒を制すとはこのことか。

 マ、なんであれ面白いものを見させてもらった。海賊というのもまた個性があるものだな。鼻で笑えば、何人かの眉が歪んだ。

 

 満足したので、適当にセンゴクや他の海兵に会釈して、会議室を出る。

 背後から放たれた極小の糸は、軽く尻尾を揺らして斬り捨てた。

 モロバレルよりも気配を隠せてないんだよ、バーカ。








◇ヤイバ
脳内で常に災いの感知と選別が行われているため、身体よりも頭が疲れがち。人災の感知もできるが、わかっても関わらないスタンス。
高窓でゴロゴロしてたらオモロそうな客が来たので観察した。実はあんまり海賊と関わった事がないので新鮮。

◇七武海のみなさん
無言で目が合い、無言で着席。
センゴクが来て初めてヤイバについて聞いた。
興味がある奴と無い奴で極端に分かれている。
全員揃ってたのはマジの偶然。

◇センゴク
マリンフォードでヤイバを一番可愛がってる人は? の答えの人。
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