災いの獣、大海に侵入する。   作:月日は花客

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2:海軍

 

「……で、連れてきたと」

「おう! コイツは立派な海兵になれるぞ!」

 

 俺はガープのおっさんに掴まれたまま、なにやら偉そうな人間の元へ連れてこられていた。アフロの上から無理やり帽子を被ったおっさんである。

 アフロのおっさんはため息を吐いた。何やら苦労人の気配がする。

 海兵にはならんぞ。と不満そうに尻尾で軽くガープを叩いた。

 

「なにやら不満そうに見えるが……?」

「しかしこやつは航海士でも観測できなかった嵐を当てたんじゃぞ? 有望じゃ!」

「そもそもこの生き物はなんだ。もしかしたらゾオン系の能力者かもしれないんだぞ」

「なに? お前さん能力者なのか?」

 

 能力者ってなんぞ?

 知らんがそんなもの。と返事をすれば、「違うらしいぞ!」とガープはアフロのおっさんに言う。よく伝わったな今の。

 

「一応海楼石で確認させてくれ」

「心配性じゃのう」

「責任があるんだよこっちには!」

 

 アフロのおっさん、苦労してんなぁ。

 そう思いつつ、俺はなにやら手錠のようなものを腕に触れさせられた。てっきりそのままガシャンといかれるものかと思ったら、ただ触れさすだけでおわった。なんやねん。

 特になんの反応もしなかった俺に、アフロのおっさんは「違うのか……」と納得したようだった。

 

「だからといって獣を海兵にとはどう言うつもりだ。獣には書類仕事も舟仕事もできんぞ」

「じゃがこやつの危機察知能力には光るものがある! 鍛えたら強くもなりそうじゃ!」

「いや、そもそもこの生き物はなんて生物なんだ。見た事ないぞ」

「あー……グランドラインの新種?」

 

 アブソルです。ポケモンです。

 なんて言っても伝わるはずなく。

 とりあえず海兵にするかは保留ということになった。よく却下じゃなくて保留に持っていけたな、ガープのおっさん。

 俺は無事にガープのおっさんの手から逃げられたので、マリンフォードを歩いてみることにした。

 一応、ここにしばらく滞在せねばなるまい。ここの船はほとんどが軍艦らしいからな、下手に海に出るよりここの方が安全だ。

 人間同士の諍い争いには手を出さない主義だし。

 廊下を歩いていると知らない獣にギョッとする海兵が何人もいた。そりゃ、驚くよな。

 俺は空いていた窓から外に出て、市街地の方に向かうことにした。なんとなく、微かに災いの気配がするのだ。

 

 市街地も突然現れた俺にざわついていた。俺はアブソルのなかではそんなデカくない方なんだが、四足の見知らぬ獣が街に現れただけでこの街の住民にとっては大騒ぎなのかもしれない。

 危害は加えないから安心して欲しいのだが、このツノや爪はどうしても目立ってしまうから、警戒されるのは当たり前なのかも。

 俺はふと脚を止める。少し遠くに見える、家の前で遊んでいる子ども。ああ、彼女にツノが反応していたのか。

 俺はダッシュして、子どもの服を咥えて家から離れた。誰かの悲鳴が聞こえる。

 しかし次の瞬間、さっきまで子どもがいた場所に植木鉢──それもかなり大きいもの──が降ってきたのだ。

 割れた破片はぎりぎりこちらには届かず、子どもは無傷。もしあのまま遊んでいたら、大怪我じゃ済まなかった。

 どうやらバルコニーの柵が壊れていたようだ。

 俺は子どもをゆっくりと地面に降ろすと、特に何をするわけでもなく散歩の続きを始めた。

 なぜか後ろから拍手が聞こえたが、俺にとっては当然のことをしたまでである。

 幼い、しかも人間はすぐに死ぬからな。ポケモンほど丈夫ではないのはこの長い人生で分かりきっている。

 市街地はそこそこ広く、海岸もあってなかなかのどかだ。海軍のお膝元ならとても安全なのだろう。

 さっきのは不幸な事故だし、バルコニーの劣化は誰のせいでもないだろう。

 

「まってぇ!」

 

 ふと、自分が呼び止められた気配を感じて立ち止まった。子どもの声。

 どうやらさっき助けた子どもが追いかけてきたようだった。

 

「たすけてくれて、ありがとー!」

 

 律儀にお礼を言いにきたらしい。ニコニコと笑う子どもに、俺はなんと返事をするか迷って、結局頬をペロリと舐めた。急に鳴いたらビビられるかと思ったのである。

 きゃー! ときゃらきゃら笑う子どもは微笑ましいが、俺は子どもの相手が苦手だ。何をしでかすかわからないしすぐに死ぬからである。

 体の脆さの割に好奇心旺盛で、無茶をする。こんなか弱い生物を育てないといけない人間の大人の苦労が見える。

 

「つの、かっこいーね!」

 

 ほら、俺のツノを無防備に触ろうとしてきたので咄嗟に避けた。

 このツノはよく切れる。それこそ鍛えた俺のツノは少し撫でただけで大木だって伐採できるんだぞ。そんなものをこんな子どもが素手で触っていいわけないだろ。

 なによりツノを触られるのは好きじゃないのだ。ここは俺にとっては大事な災いを感じ取るセンサーでもある。故に敏感。ベタベタ触られるのは不愉快だ。

 避けられた子どもはあれ? という表情をしたが、触ってはいけないのだと理解したのか今度は首元のモフモフした部分を撫でてきた。まぁ、そこなら危険は無いし良いだろう。

 

「ふあふあ〜」

 

 楽しんでいるようで何よりだが、いつツノやら牙やら爪やらに触り出さないか気が気でない。なんなら尻尾も危うい。俺の身体のパーツは鮫肌持ちほどでは無いが危険な箇所が多い。

 しばらく触って満足したのか、子どもがバイバイと去っていった。自由なもんだ。

 

 俺としては今晩の寝床を探したい。別にどこでもいいのだが、街は夜になっても灯りが多いだろう。俺はどちらかというと真っ暗な方がよく眠れるタイプだ。

 適当な家の屋根の上か、広場の噴水前か、海岸近くの波止場か。

 ウロウロ、ウロウロしていると、住民の一人が「さっきはすごかったな!」とパンをくれた。ありがたくいただいておこう。

 カリカリのバゲットもこの牙にかかればただのモチモチなパンよ。うまうま。

 さっきの救出劇でこの辺りの人間からは「良いやつ」認定されたらしい。チョロくないか、人間よ。

 喉が渇いたので噴水の水を拝借した。このくらいだったら暴挙に入らないだろう。

 今日はこの噴水前で寝るか、と寝床を決め、丸くなる。

 

 なにやら子どもたちが触りたそうにこちらを見ているが、流石に何人も相手すると思わぬ事故が起きそうなので、無視して触るなオーラを出しておく。

 大人の方が察しがいいのか、「今はやめておきなさい」と子どもたちを宥めていた。今はってことはいつか触らせる気か? 頼むから一人ずつで頼む。流石に同時に触られたらツノを守りきれない。

 

 夜になれば、街も静かになった。俺は噴水前で丸くなったまま、くぁ、と欠伸をする。

 まったく濃い一日だった。異世界に来てしまったとはいえ、ここまで人間と関わるのも久しぶりだ。

 それにしても俺をここに連れてきたアイツとは連絡が取れないな。また引きこもっているんだろうか。

 身内もこっちに来てくれると安心なんだが……。

 

 ま、それは追々考えればいいか。

 俺は波の音をBGMに眠りにつく。いつか聞いたアシレーヌの歌声は聞こえてこなかった。

 

 *

 

 異世界生活二日目。

 俺はまたガープに引っ掴まれてアフロのおっさんの元へ連れてこられていた。なんでや。

 どうにも昨日のあの子ども救出劇がガープに伝わったらしい。なんだその早い情報網は。

 

「ほらみろ! こいつは人を助ける生き物じゃ!」

「確かに子どもを助けたようだが、だからといって海兵にはできん。ゾオン系能力者でもない獣の海兵など前代未聞だ!」

「ならこいつを前例にすればええじゃろうが!」

「そもそもお前が海兵にするという話をするたびにこいつが不満そうな声を出しているんだぞ!? 嫌がっているのがわからんか!」

「知らん! 海兵にする!」

 

 おっさん同士の言い争いほど見てておもんないものはないよ。

 俺は海兵にはならないし、人を助けてたのは本能からだっつーの!

 今日もガープに引っ掴まれながらため息を吐く。降ろせと尻尾で軽く叩いても聞きゃしねぇ。

 

「むう……ならマリンフォードに住まわせるくらいはええじゃろ? 害もないし白に青など海軍の様な色じゃ! マリンフォードに似合う!」

「……まぁ、武器庫など危険な場所には入らせんなら良いだろう」

「おお! 獣、わしがたまに稽古をつけてやるからな!」

「やめてやれ」

 

 なにやら居住は認められたらしい。ラッキー。








◇アブソル:人というか生物を災いから守ることが本能。本人? もそれに対してやりがいを感じている。子どもは苦手だけど無碍にもできない。海兵にはなりたくない。

◇ガープ:やだやだコイツ有能海兵にするやだやだ! でも一旦引いた。押してダメなら引いてみろ。

◇センゴク:胃が痛い。
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