ありがとうございます。
「ガープさん曰くグランドラインの不思議生物らしい」
「へぇ〜、確かにこのツノとか犬にはねぇもんな」
「しかし本部内を未知の生物がうろつくのはどうなんじゃ」
なにやら赤黄青の三人組は知り合いだったようで、俺について話し始めた。
モサモサ頭のおっさん──クザンはすでに唐揚げ定食を食べ終わっていたが、他二人はまだ飯を食っている。
フードのおっさんは麻婆豆腐を食べている。サカズキというらしい。
サングラスのおっさんはボルサリーノだとか。
ここでは結構偉い立場なのか、海兵たちがちらちらとこっちを見ている。
そんな中に挟まる俺。別にもう食堂を出てもいいのだけれど、なんとなく三人の話が気になったのでそのままいる。
「ガープさんが害はないって判断したなら大丈夫なんじゃない〜? 今も大人しいし」
「なんて種族なんだろうな」
「グランドラインの生物は今でも詳しくわかっとらんけぇ、新種かもしれんな」
ボルサリーノが俺の頭を撫でる。特に抵抗はしない。ツノを触ろうとしたクザンはそっと拒否した。サカズキは触りたそうにしてるけど触らない。なんだろ、勇気が出ないんかね。
ここは俺が一肌脱いでやりましょうかね。
俺はサカズキにそっと擦り寄ってみた。ツノが当たらないよう細心の注意は払っている。
サカズキはびくりと固まったが、じきに少しだけ頭を撫でてくれた。
「気ぃ使われてんじゃん」
「懐っこいねぇ〜」
「……」
他二人がからかうが、サカズキは黙って俺を不器用に撫でていた。ふっ、テクニシャンには程遠いが体温が高くていいね。クザンはなんか冷たかった。冷え性?
満足したので離れると、サカズキはちょっと名残惜しそうだった。かわいいやつめ。
それはそれとして、な〜んかツノに災いが反応してるんだよなぁ。市街地の方で。
また事件か、やれやれ人の街は事件が多いね、まったく。
それにこの世界は俺がいた世界より科学レベルが低そうなので、安全性が低いんだろう。帆船を常用してるくらいだし。波止場にはテトラポッドのひとつもなかった。あれ津波どうすんだ。
俺は災いが反応する方に駆け出した。
急に走り出した俺に三人は何か言っていたけれど、聞こえることもなく。
開いた窓から外に出て、市街地まっしぐら。だんだんとどんな危険かがわかってくる。
海辺の方へ行けば、案の定、子どもが沖で溺れていた。おそらく高波に連れ去られたと思われる。
俺は迷いなく海へ飛び込み、なんとか泳いで子どものもとまで向かった。こら、パニックになるのはわかるが暴れるんじゃない。溺れている時こそ身体の力を抜いて浮力に頼るべきなのだ。
濡れた服の一端を咥えて、俺は泳ぐ。なるべく子どもが息をしやすいように持ち上げながら、泳ぐ。
海岸には大人が集まっていた。
「がんばれー!」
「戻ってこい! 頼むから!」
そんな声が聞こえる。
泳ぐのは水ポケモンでもない俺はなかなか疲れるが、なんとか砂浜に子どもを持ってくることができた。はぁ、疲れた。
あとは大人たちが子どもを着替えさせたり温めたりしてくれるだろう。そこら辺はもう任せた。あと子どもにもうちょっと海の危険性について説明しとけ。
こういう時に《なみのり》持ちのアイツがいたら便利なんだけどな。まぁアイツはデカいからこんなところに現れたら別の意味で面倒ごとになるか。
「ありがとう! 君は恩人だ!」
「娘を助けてくれてありがとう……! ありがとう……!」
子どもの両親らしい男女が俺に泣きながら礼を言ってきた。別に、俺は俺のやることを全うしたまでだ。
他の大人がタオルを持ってきて俺を拭いてくれた。雪山生活で寒さには慣れているが、濡れるのは不快だからな、助かる助かる。海水で毛並みも悪くなるし。
水気を拭き取られた俺は、改めて救出した子どもの穏やかな顔を見て満足した。後遺症なんかもなさそうだし、無傷のようだ。身体は冷えているだろうが。
「おお〜、見事な救出劇だったねぇ」
ふと、広場に戻ろうとしていたらボルサリーノが来ていた。おかしいな、本部から人間の脚でここまで来るにはもうちょっとかかると思うんだが。
ボルサリーノはどうやらさっきの水難救助を見ていたようで、拍手してくれる。俺としては当たり前のことをしただけなので何か思うわけでもない。
「あの距離から子どもが溺れてるのを察知したのかい」
俺の災いセンサーは敏感だ。それはもう山一つまるまる管理できるくらいには。
このマリンフォードくらいの規模なら余裕でカバーできる。俺自身も脚が遅いわけじゃないから察知した頃には間に合うしな。
しかし稽古に付き合わされるわ泳がないといけないわで疲れてしまった。昼寝でもしようかな。
くあ、と欠伸をすればボルサリーノは「寝るのかい?」と俺の背中を撫でる。
今日は日差しも穏やかだし、まだ若干湿ってるこの体もすぐに乾くだろう。
俺は噴水広場に移動して、少し水を拝借したあと丸まった。
「おやすみ〜」
ボルサリーノがそう声をかけてきたので、尻尾を揺らして返事をする。
程よい疲労感で、眠気はすぐにやってきた。
*
あれから俺はマリンフォードでの災いを防ぎまくった。
と言っても大きな災いはなくて、子どもが海に落ちたとか、ちょっとした小火騒ぎが起こったりとか、そういう細々とした災いだ。
救助したり、消火の手伝いをしたり、人間に知らせたり。
まぁなんやかんや色々やっていたら、俺はすっかりマリンフォードの一員として認められていた。
街を歩けばご飯を貰えるし、木陰で休憩していると撫でられたりする。本部では懲りないガープに稽古という名の拳をひたすら避けるゲームに付き合わされたりするが、概ね平和である。
俺はいつの間にか「ヤイバ」と呼ばれるようになっていた。
ガープが最初に呼び出したんだっけか?
長い人生、勝手に名前をつけられたことはよくあったが、今回俺は「ヤイバ」らしい。
ツノにイメージを引っ張られたのだろうか、訓練場で誤って飛んできた木刀をツノで一刀切って防いだことがあるからだろうか。
みんなヤイバヤイバと呼んでくるので、俺もそれを自分の名前の一つだと認識した。
そこそこ気に入っている。
今の俺の立場は、マリンフォード全体で飼ってる不思議生物だ。
危機を察知する能力を持ち、それから人や動物を助ける性格をしている。ツノは切れ味が鋭く、気性は穏やか。
もはや本部を自由に歩いても何も言われないし、なんならモフらせる代わりにおやつをくれる奴もいる。
海兵にはなってないが、海軍所属になっている気がしなくもない。でもその気になればいつでもマリンフォードを出ていけるのだから、俺はまだ自由だ。
俺を特に可愛がってくれてるのはクザンにサカズキ、ボルサリーノだ。
サカズキは「その力を海賊を捕まえるのに使わんのは甘っちょろい」とか言いながらジャーキーをくれるし、クザンはよく食堂で一緒に飯を食う。ボルサリーノは休日に散歩に付き合ってくれたりする。
アフロのおっさん──センゴクにも俺の活躍は伝わっているようで、「よくやった」と海軍おかきをくれる。
ここに来てから食べ物をもらうことが多くなって、ちょっと体重が心配だ。ガープの稽古を増やしてもらおうかな。
ガープは俺が人を傷つけられないことをわかってくれたが、攻撃が一発も当たらなかったことが悔しいのかしばしば稽古に連れて行く。俺としてはいい運動になるし避けるだけなので気が楽だ。
こんな感じで、俺は割と楽しいマリンフォード生活を送っていた。
しかしどうやら、少しデカい仕事が来たみたいだ。
目の前にはあの時と同じ空間の亀裂。
その先には、マリンフォードとはまったく違う景色が見えた。
そして、大きな災いの気配。
俺は迷わずその亀裂に飛び込む。今回は前回みたいに世界を跨いではいないみたいだ。
久しぶりの大仕事、うまくいくといいのだが。
◇アブソル:この度ヤイバという名前がついた。本人的には今まで呼ばれてきた無数のあだ名のうちの一つでしかないが、気に入ってはいる。人間と関わると自然と名前がつけられるので、名付け=組織に所属とは思ってない。
災いの気配には逆らえない。
◇三大将候補の人たち:地味に誰が一番ヤイバに懐かれているか争っている。今のところどんぐりの背比べ。
◇ガープ:全力の乱打を軽々避けてくるヤイバに、実はこいつかなりの強者なのではと勘付き始めている。ヤイバって呼び出した初めの人。
◇センゴク:マリンフォードの事故から人々を守ってくれるヤイバに癒されている。モフり率が一番高く、その度に高級おかきを献上している。アニマルセラピー。