災いの獣、大海に侵入する。   作:月日は花客

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6:帰還

 

「ヤイバ〜、お前どこ行ってたんだ!? 心配したぞ〜!」

 

 俺は今全力でセンゴクにモフられていた。

 図書館の島での一ヶ月、俺はマリンフォードで行方不明の扱いになっていたらしい。

 商船に間違って乗り込んだかとか、長期遠征の軍艦に乗ったかとか、海で溺れたかとか、色々心配をかけていたようだった。

 そんなことも知らずいつも通りセンゴクに朝の挨拶に行った結果、こうなっているわけである。

 

「センゴクさんこの前の書類についてなんだけど〜……」

 

 そこにクザンが入ってきた。

 クザンは俺を見るなり何やら気まずそうにしている。民間人をわざと逃したところを見られてたからか? それとも海軍の正義に疑問を持ってしまったからか?

 なんにせよ俺は別にこれで海軍を嫌いになったりはしない。

 人間の争いには正義なんて無く、ただ意志と意志のぶつかり合いである。それをよくわかっているから。海軍が掲げる正義も所詮正義という名の意志に過ぎない。どんな正義を盾にしようが、結局人殺しには変わりない。

 どんな組織にも闇はつきものだ。

 

 俺は特になにかリアクションをとるわけでもなく、いつも通りにしている。

 センゴクは一ヶ月間モフモフがいなくて寂しかったようだが、その分を埋める勢いで俺の胸毛に顔を埋めている。

 クザンはその上司の姿に少し引いていた。

 責任者はストレスが多いんだ、多めに見てやってくれ。

 

「あー……センゴクさん?」

「ああ、すまんすまん。ヤイバが無事だったのが嬉しくてな……いったい何処にいたんだか」

「……さぁ、案外ひとりになりたかったとかじゃないですかね」

「む、構いすぎたか……?」

 

 クザンは俺があの島にいたことを隠すことにしたようだ。俺にはどっちでも良いが、俺はあの場にいなかった方が都合がいいのだろう。

 俺は一人になりたかったらマリンフォードの屋根の上にいるからな。たまにボルサリーノが乱入してくるが。あいつどうやってあの高さに来てるんだ?

 

「書類に関しては現在確認中だ。そろそろ昼だろう、久しぶりにヤイバと食堂に行ってきたらどうだ」

「……そうしますわ」

 

 そうか、もうすぐ昼飯の時間か。

 クザンは頭をボリボリかくと、いくぞ、と俺に声をかけた。

 特に気にせずそれについていく。

 廊下では久しぶりに俺の姿を見た海兵が手を振ったりしてくるので、テキトーに会釈で返す。

 俺はかなり賢い獣だと思われているらしい、実際言葉なら余裕で理解しているし、通訳がいれば会話だってできるからな。

 今はその通訳担当がいないからできないわけだが。

 アイツもこの世界に来てんのかな。それとも元の世界で呑気に眠ってるか。あの寝坊助め。

 

「あー、何食う?」

「ソル」

 

 食堂は無料ではないのだが、俺は無料だ。食堂のおばちゃんにも俺は人気らしい。久しぶりのまともな食事だ。何にしようかな。

 一ヶ月まともに食えてなかったから、俺はちょっと痩せた。人ほど餓死のような危険は無いが、やはりガッツリ食いたい。

 俺は大盛りミートソースパスタをリクエストした。

 

「ヤイバちゃん久しぶりねぇ、元気してた?」

「ソル」

「今日はたくさん食べたい気分なのね。クザンさんは?」

「じゃあ日替わりAランチで」

 

 食堂のおばちゃんはたまに内緒で果物をくれたりする。市民街の方から雇われている人が多く、たまに街の方で散歩中にあったりもする。そういう時はおばちゃんたちの井戸端会議に混ざったりもするから、そこそこ仲がいい。

 基本無口な俺が、律儀に返事を返そうと思えるくらいには。

 

 クザンが俺の分の皿も運んでくれるので、俺はクザンについていく。

 クザンは俺と食べるようになってから角の席に座るようになった。俺は机の横の床で飯を食う。大盛りのミートソースパスタは美味しそうな匂いを纏っていて、いただきますも程々にがっついた。

 

「あれぇ、ヤイバ帰ってきてるじゃないの〜」

「おんし、何処行っとったんじゃ」

 

 いつもの黄色と赤色も来た。一ヶ月ぶりに会うな、久しぶり。

 でも俺はミートソースパスタを食べるのに忙しいんだ。

 

「随分食いつきいいねぇ、お腹空いてたのかね」

「一ヶ月いなかった割にはふてぶてしい」

「そんなこと言って、心配してたくせに〜」

せせろーしぃ(うるさい)

 

 ミートソースパスタ美味い。

 一ヶ月ぶりの胃袋が満たされていく。あの島は森の中にキノコや小さな生き物がいたが、毒を持っているかもしれなかったので食べなかったのだ。この世界は植物も違うのか、きのみがなる木が少ない。

 ペロリと食べ切って、口の周りを舌で拭った。これでも綺麗に物を食べるのは得意な方だ。

 

「この水ぬるいよぉ〜、ちょっとクザン、冷やしてくんない?」

「アンタねぇ、人を冷凍庫代わりにするのやめなさいよ」

「アンタもたまにわっしの事ライト代わりにするじゃないの」

 

 満腹感にニッコリ(無表情)していると、パキ……と突然冷気がツノを刺した。

 その方──クザンの手を見れば、まるで「こおり」状態になったかのように凍りついている。

 

 凍傷!?

 

 俺は思わず机に飛び乗り、サカズキのトレーにあった熱いお茶を凍ったクザンの手にぶっかけた。

 じゅわ、と手の氷が溶けていく。

 シン……と食堂内が静かになった。

 

 何で突然こおり状態に? 俺のツノが反応しなかった。他のポケモンの技? 気配は無い。どうして?

 俺が混乱していると、呆気に取られていたボルサリーノが復活した。

 

「……もしかして、突然クザンが凍ったと思ったのかい?」

「“悪魔の実”の能力を知らんのか?」

「と、とりあえず落ち着け? な? おれは大丈夫だから」

 

 ワタワタと取り乱す俺をクザンは机から降ろした。クザン、手大丈夫か? 人は凍傷になると最悪その部位が取れるんだぞ。やばい症状だぞ。

 クザンがひらひらと手を見せる。そこには氷はなく、いつもの体温が低いただの人の手があるばかりだった。

 さっきの氷は?

 

「えーとな、俺は悪魔の実を食べた『氷人間』なんだよ。悪魔の実ってわかるか?」

「ソル……?」

「食べると不思議な力が得られる実なんだよ、それで俺は氷を自在に出せるようになったの」

 

 ほら、とクザンが手のひらに氷の塊を出した。カランコロンと冷気を纏うそれは正真正銘の氷だ。

 それを出して身体は何とも無いのか? 本当に人間か?

 悪魔の実とやらは人間に超常的な能力をもたらすらしい。

 ボルサリーノとサカズキも「能力者」で、光とマグマなんだそうな。

 つまりクザンはこおりタイプ、ボルサリーノはでんきタイプ、サカズキはほのおタイプってことか? 伝説の三鳥か? 知り合いだぞ。

 

「ソル……」

 

 つまり俺の心配は無用だったということか。サカズキのお茶をぶちまけたせいで料理が台無しになってしまった。三人にもおばちゃんにも申し訳ない。

 俺は三人に向かって頭を下げた。

 

「いや、気にすんなよ。心配してくれたんだろ? 怖かったな」

「まさか悪魔の実を知らないとは思わなくてねぇ、ごめんねぇ〜」

「……別に謝らんでもええじゃろう」

 

 緊迫していた食堂の空気が柔らかいものになった。

 わかるわかる、ビビるよなー最初。なんて声も聞こえてきた。

 しかし悪魔の実とは、なんて不思議な果実なんだ。人間がポケモンみたいになるのか。

 そして海に嫌われる……みずタイプが弱点になるらしい。でんきタイプなのにみずが弱点とはこれ如何に?

 しかし凍傷になってなくてよかった。いや、逆にクザンに触ったら凍傷になるのか?

 ボルサリーノとサカズキもそれぞれ能力をちょっと見せてくれたが、やはり人とは思えない技だった。

 ボルサリーノはチカチカしたし、サカズキは熱かった。サカズキの体温が高いのはそのせいなのか? ボルサリーノが屋根に登ってこれたのは能力を使ったからか?

 なんというか謎が解けた気分だ。

 

 その日は俺のミスが何故かマリンフォード全体に伝わっていて、気にするなとたくさん撫でられた。

 俺はもうしょげていないんだが……海兵達の好きなようにさせることにした。

 クザンの気まずそうな空気も消えたから、まぁ、悪い事件ではなかったのかもしれない。








◇アブソル:悪魔の実を知らなかった。びっくりした。人間がポケモンのわざを使えるようになるってことかと納得。あのあとたくさん海兵に撫でられて毛並みがボサボサになった。

◇クザン:オハラの一件を気にしていたが、能力を凍傷と勘違いして助けようとしてくれたヤイバにハートを撃ち抜かれた。お茶をかけられた事は全く気にしてないしなんなら自慢。

◇ボルサリーノ:察し力高い。ヤイバが本気で困惑しているのを見て悪魔の実を知らないと推測。大当たりだった。クザンがドヤ顔でこっちを見てきてうざい。

◇サカズキ:お茶持ってかれた。何かと思ったらクザンを助けようとしたらしいのでキュン。オハラでは会わなかったので民間人が乗った船にファイヤーした事は知られていない。

◇センゴク:一ヶ月分モフモフした。
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