「今日の訓練はヤイバに協力してもらう!」
俺は何度目かのガープに引っ掴まれて訓練場に来ていた。
体術の訓練場とは別の、屋外のグラウンドのような場所だ。大規模な訓練はここでするらしい。
で、何故俺が訓練に協力することになっているのか。ガープには何を言っても無駄だから諦めているが、それにしたって、朝飯食べてすぐ連れてこられたんだぞ。なんなんだよ。
俺は今日は市街地でのんびりくつろぎたかったっていうのに。
ガープの前にはいつもの三人と他にも複数人の海兵がいた。おおよそ25人前後といったところ。
俺はガープの唐突さにため息を吐きながら訓練要項を聞いた。
「ヤイバの回避能力はとてつもなく高い! ということで今回はヤイバのような素早い相手に対応するための訓練じゃ! ヤイバに一撃与えられた者から抜けてよし!」
その内容に海兵達はざわついた。俺は一応海軍で飼ってるペットみたいな扱いだから、訓練で木刀とはいえ殴るのは気が引けるんだろう。
そう簡単に当てられると思ってもらっては困るのだがな。
というかその内容の訓練を俺に一切説明せずやり始めるガープはガープでなんなんだ?
……まぁいい。俺も最近は運動不足だったんだ。雪山時代は血の気の多いセグレイブやギャラドスなんかと手合わせしたりしていたが、この世界ではガープ以外でまともな運動ができない。
やる気があるから降ろせ、とガープの脚を蹴ったら降ろされた。こういうところは察しがいいのに。
「能力者は能力を使ってもいいが、混戦状態ということを忘れるな! ヤイバから抵抗はしないだろうが、手玉に取られて尻餅をついた奴から死亡判定とみなす! こころしてかかれぃ!」
「はっ!!」
まだ困惑が取れていないようだが、海兵達は染みついた動作で木刀を構えた。
25人の海兵に囲まれた状況。たしか尻餅をつかせれば離脱させられるんだったか。
ふむ、久々のトレーニングだ。争うのは嫌いだが運動しないと健康に悪いからな、傷はつけないがせいぜい回避に専念させてもらおう。
「始め!」
その掛け声と同時に、俺はまず手近にいた海兵の背中に乗る。突然の40キロ越えの重さに海兵はうめいてその場に転んで尻をついた。まずは一人。
ここで嫌な気配がしたので半身をずらす。どうやらボルサリーノが能力で切り掛かってきたようだ。躱されたことに驚いていたので、そのままひょいひょいと連打を避けて他海兵を次々に離脱させる。
ボルサリーノは速度があるが、周りがその速度についてこれてない。海兵の多い地帯に逃げれば動きは鈍るし攻撃の場所もわかりやすくなる。味方が足手まといになるのだ。
これは先に三鳥トリオを対処した方がいいか? 他の海兵は楽そうだが能力者の三人は厄介そうだ。
「“アイスタイムカプセル”」
クザンが凍らせようとしてきたので、一度大きく距離を取る。おそらくだがあの技にも射程があると思われる。クザンとは一定の距離を保ちつつ、氷で行動範囲が狭くなった他海兵を手玉に取る。
わざと尻餅はつかせない。デコイになってもらわないと困るからな。
野生として生きてきた俺はトレーナーの試合のような一対一のバトルではなく複数戦の方が馴染みがある。群れで狩をする奴は多いし、人も基本集まって行動するからだ。
サカズキがマグマを飛ばしてくるが、軌道が読みやすい。これならゴウカザルのニトロチャージの方が早い。
「クザン! 氷が邪魔じゃ壊せ!」
「そっちこそマグマでうまく動けないんだけど!」
「ちょっとちょっと、仲間割れはよしてよ〜」
なんか喧嘩を始めた。もしかしてこういう複数対単体戦慣れてない?
言い争いを始めたクザンとサカズキを無視して木刀を捨て蹴りかかってくるボルサリーノをひらりと避ける。武器捨てるなよ。
他海兵はこのトリオのせいでうまく動けてないし。
「んもぉ〜すばしっこいねぇ」
俺は素早さ種族値はそんな高くないぞ。テッカニンとかやばい。
レベル100のプライドがあるのでそう簡単に当たるわけにはいかないんだ。すまんな。というかボルサリーノの蹴りは普通に痛そうで嫌。ガープの拳と同じ風圧がある。
ボルサリーノはいよいよ本気になってきたのかビカビカ光り始めた。目では追えなくなってきたので感覚と予測で避ける。俺の身体能力なら目の前数センチに脚が来ててもギリギリで避けれるからな。
「隙ありっ! ──あれっ!?」
クザンがジャンプした俺の着地狩りをしようとしてきたので、《マジックコート》を足場として利用し悠々と躱す。
トレーナーのバトルと違い、わざの数の制限や回数の制限がないこの世界は戦いやすい。野生時代もスポーツ扱いのバトルで縛られるのが嫌だったからトレーナーのポケモンにならなかった節もある。
「なにそれ!? なにそれ!?」
「動揺するなクザン!」
ガープの激が飛ぶ。まぁ《マジックコート》は普通こういう使い方しないからな。俺は便利でよく使う。体格差や高低差があっても対応しやすい。あまり秒数がもたないのが欠点か?
傷つける目的が無いなら多少わざを使ってもいいか。能力者は転ばすのに苦労するし。
俺は《かげぶんしん》によって高速で移動する。俺が増えたように見えるから海兵達はかなり動揺している。
《かげぶんしん》で回避を上げ、おそらく相手は分身は攻撃できないことを知らないだろうから、ちょっとビビらせてやろ。とわかりやすく牙を見せて飛びかかった。
「うわっ!? ……あれ?」
「見せかけか!」
お、サカズキは判断が早いな。すぐに分身たちを潰していく。分身は俺本体よりいくらか回避性能が劣るので、サカズキやボルサリーノによって簡単に処理されてしまった。
だが《かげぶんしん》が一回しかできないとは言ってないんだよなぁ。
「またか!」
「ちょ、クザン! 闇雲に氷を出すんじゃ……!」
ボルサリーノが氷で滑って体勢を崩したので、少しだけ、軽く、ほんの少しだけ蹴って尻餅をつかせた。これでボルサリーノはアウトだ。
「あー! ゴメン!」
「何しとるんじゃ!」
勝負を決めに行こう。
ボルサリーノ陥落に慌てるクザンの上着を咥え、ぐるぐるとクザンの体に巻きつける。ひょいっとクザンの足元を小突けば、倒れ込んだクザンによるロールケーキができる。
サカズキは……あの《かげぶんしん》の分身に気を取られてるうちに気配を消して──気配に敏感な俺が言う「気配を消して」だ──膝裏を狙う。俗に言う膝カックンって奴だ。
「うぉ!?」
「ぬぅ!?」
これで三鳥トリオはオールクリア。
あとは残った海兵達を軽く相手すれば、最後に立っていたのは俺のみだった。
悔しげな三鳥トリオを鼻で笑う。
「ぶわっはっは! 見事に遊ばれたな!」
「ちょっとちょっと、分身とか聞いてないよぉ〜、なにあれ?」
「悪魔の実の力……じゃないよなぁ。コイツ泳げるし」
「よいよ不思議なやつよのぉ……」
ふん、お前らよりも怒ったガブリアス一体のが怖いわ。
殺す気は無かっただろうから手加減はあっただろうけど、複数対単体戦に弱すぎよ。何途中の仲間割れ。
まだまだ未熟だな……と舌を出せば、明確に額に青筋が浮かぶからからかいがいがある。
「あー! 悔しー!」
「ガープさんもう一度じゃ! 次は当てる!」
「煽ってくれるじゃないの〜」
それに対してガープは「うるさい! 混戦になると言っただろう馬鹿どもが!」と三人に拳骨を落としていた。怖……。
あの後また数戦やったが、全勝した。
脇が甘いのよ脇が。技の規模が大きい分避けどころがわかりやすい。命中率の低い一撃必殺わざを連打してるみたいなもんだ。
まぁ俺が強いのもあるだろうけどな! 腐ってもレベル100だぜ。
海兵達はガープに「鍛え方が足らん!」と訓練メニューを増やされていた。ちょっとかわいそうなことしたかな。
あれから一部海兵の俺を見る目が変わったのは言うまでもない。
◇アブソル:レベル100努力値カンストの威厳を見せつけた。これから一部海兵に「ヤイバ先輩」と呼ばれる。戦いは嫌いだが体を動かすことは好き。仲のいい相手をおちょくれるならもっと好き。長年生きた歴戦個体なのでトリッキーな戦い方をする。
◇ガープ:あんまりにもヤイバの回避力が高いので訓練に利用した。センゴクには無断。あとでド叱られる。
◇次期三大将ズ:最初→訓練とはいえヤイバを木刀で叩くなんてかわいそうだなぁ……。中盤→なんか強くない? 終盤→本気で行ったのに完全に遊ばれたし煽られた。ヤイバの戦闘能力についての認識を改めることになる。