Beyond Dust 復興文明、幻想異界との衝突――「世界」が異なれば、やり方の違いで過ちは繰り返す   作:えぴっくにごつ

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チャプター35:「割込」

 時系列は若干遡る。

 

「塔城」の上空を、安全のための高めの高度を取って大きく旋回飛行する一機の輸送機が。

 詳細にはガンシップの姿がある。

 

 それはレストアされた中型艦上輸送機を突貫改造したものであり、大戦争前に存在した本格的なガンシップと比べればその性能は引けを取るが、使い回しの良さから重宝されている機体。

 

「――良いショットだ」

 

 そのガンシップの機上機内。

 観測用の窓越しに、「塔城」周りの絶景を眼下に観察しながら。そんな言葉を零す一人の人物、「存在」がある。

 

 その姿は何か異様。

 フード付きのジャケットを深く着込み、上は頭部から下は足首まで、その素肌を完全に隠すような服装格好で。

 その表情にあっても、フードにフードマスクを付ける影響で伺うことはできない。

 

「この保管すべき貴重な光景を、荒事の場としなければならないのは心苦しい限りだ」

 

 その人物の、フードで隠れて伺えない口元からしかし零し紡がれるのは。何か胡散臭い色を多分に醸してのそんな台詞。

 

「フラント博士、お待ちください。はっきり言って困るんですが」

 

 その人物を〝フラント〟と、そして「博士」と言う敬称を付けて呼び。何か不躾を隠さぬ色でのそんな言葉が掛かる。

 声の主は、そのフラントと呼ばれた人物の背後に同伴するVAC AFの隊員。

 今に上がった言葉の色に見えるように、その顔色には困惑、というか苦く迷惑そうな色に多分に浮かべられている

 

「必要な事なのだよ、二等曹。その判断からの私の独断で、キミの責ではない事はちゃんとそちらの上には伝えよう」

「だとしても、私としては止めない訳にはいきません。一応、あなたの事を心配してのそれでもあるんですが」

 

 隊員の言葉に、フラントはその隊員を宥めるようにそんな旨を紡ぎ。だが隊員もまた苦い色でまたそう言葉を返す。

 

「気持ちだけ受け取って置こう。何、上は私の人物を知っている、君がどうこう言われることは無いだろう」

 

 そしてだ、フラントの何かの行動を止める隊員に、しかしフラントはその表情の伺えぬ頭を一度だけ振り向けて。

 そんな言葉を紡ぎ伝えると、それをもって応酬を終わりとする色を見せ。そして、

 

 ――ガンッ、と。

 

 直後、二人の傍の。輸送機の側面に備わる105mm砲が、操作員も着いていないと言うのに「勝手」に動作、撃ち放たれ。

 それと同時。

 なんと、フラントが。

 その姿、シルエットを成していた各衣服が。その全てが支えを失ったかのように、ハラリと機内の床に落ちる。

 そして残るは、纏う者の居なくなったその衣服のみであり。そこにフラント「自身」の姿は「無くなって」いた。

 

「まったく――」

 

 しかし、そんな不可解で驚愕の事態現象が起こったと言うのに。

 二等曹の隊員はそれに驚くでも無く。ただ、肩を竦めて倦怠の混じる悪態を吐いた――

 

 

 

 「塔城」の地下階層には、大きな広間施設が存在する。

 本来は、神聖で厳正なものとなる、各儀式や催しのための場であったそこは――しかし今、おぞましい光景に包まれてた。

 

 空間にはそこかしこに、気味の悪い、赤黒い彩色の大小の軟体生物が。この異世界にて『触手獣』と呼ばれる生物が群体にして蔓延り蠢いている。

 そして、その『餌食』となっているいくつもの姿があった。

 

「ぁぅ……ぅ……」

「ぅぁぁ……」

「くぁぁ……ゆる……してぇ……」

 

 か細く弱々しい声で鳴き漏らしているは、何人もの『見た目の良い』男女。それはやはり、今は魔帝軍の虜囚へと堕ちた『同盟』の兵に冒険者たち。

 その彼ら彼女らは一様に、一糸纏わぬ体に剥かれた恥辱の姿で、天井より吊るされる形で拘束されている。

 そしてその男女に群がり纏わりついているのが、触手獣の群れ。

 

 触手獣は、他生物の『魔力』などの『生力』を糧とする。

 今は虜囚となった同盟の男女から。

 その体を甚振りながら、『魔力』から『体液』まで。動物の生きる糧である『生力』を、そのあらゆるを吸い取り搾取していたのだ。

 

 今のこの場は、触手獣の『餌場』。

 

 魔帝軍は、この『塔城』の攻略作戦の一環として触手獣を使用。

 見事その役目を成し、それによって『腹を空かせた』の触手獣への『餌』、『褒美』として。

 そして、併せて自分たち魔帝軍をてこずらせた『同盟』の彼ら彼女らを、『甚振り愉しむ』という目的も兼ねて。

 本来は神聖な場であるこの儀式場を、占拠から『餌場』として転用。このおぞましい場へと変えて仕上げたのだ。

 

 今も、加虐欲をそそる『鳴き声』を上げさせられている男女に。

 監視と『拷問師』を兼ねる魔帝兵や、オークやオーガなどの徴集亜人が。

 嘲笑を浴びせ、そしてこの後にあるであろう『愉しみ・褒美』を期待して、また下卑た顔色を浮かべている。

 

「――ぅ……ぁぅ……」

 

 そしてその甚振られる男女の中に、その『彼女』の姿もあった。

 

 やはり一糸纏わぬ姿に剥かれ、あられもない宙吊りの有様とされ、そして触手に纏わりつかれて嬲られているのは。

 見た目二十代中程の見目麗しい女。

 詳細には、そのロゼ色の美麗な頭髪やそして背中からは、大小の翼が覗き見え。その彼女が、この異世界に存在する『翼人』であることが分かる。

 

 彼女の名はルーネ。

 『同盟』に属するある王国の騎士長。そしてこの「塔城」に、同盟本軍の戦線交代の時間を稼ぐための殿の指揮官として残った身。

 彼女は配下と共に勇敢に戦ったが。しかし魔帝軍の力には逆らい切れずに「塔城」を攻め落とされ。

 そして魔帝軍の虜囚へと堕ちたのであった。

 

「グクっ、良い有様となったな騎士長?」

 

 その彼女の目の前に、下卑た声を浴びせる男の姿がある。

 肥え太った体に、陰険そうな目つきに顔立ちが特徴の男は。この「塔城」攻略の指揮を担った魔帝軍の将軍。

 

 そしてこの将軍は、一種の『魔物使い』。

 

 膨大な数の触手獣を操りけしかけ、「塔城」の防御を崩し落としたのがこの将軍であれば。

 虜囚として入手した同盟の者たちを、触手への褒美の『餌』とするべく。このおぞましい場を用意したのもまたこの将軍であった。

 

 そして同時に明かせば将軍は、操り扱う触手獣の特性を利用して、これまでに数々の人間を、己の『玩具』と、『慰みもの』としてきた。

 その御多分に漏れず。今はルーネをまた新たな『玩具』とすべく、堕とし手に入れようと企んでいた。

 

「くぅ……ぁぅ……」

 

 そのルーネは、将軍の浴びせる下卑た笑みに言葉に対して、睨み返そうとしたが。しかしそれは弱々しく、逆らうどころかまるで容赦を媚びるかのようなものに終わってしまう。

 

 ルーネはその体に宿す魔力から、体液までもの多くを触手獣に吸い取られ。

 併せて、触手獣が獲物を嬲る際に投与する『催淫体液』の。一瞬の麻薬の如き快楽を覚えさせられてしまうそれの影響もあって。

 最早その体力に気力のほとんど失い、屈してしまう寸前であったのだ。

 

「ククグっ、よいぞっ。気高い女が堕ちる瞬間は、やはり面白くて堪らぬものだっ」

 

 そんなルーネの有様に気を良くしたのか、将軍の男はまた下卑た色で笑い上げる。

 

「そういえば、貴様が逃がした御子の小僧がおったな?あれも美味そうであった。追いかけ捕らえた暁には、アレも徹底的に嬲って墜とし、揃って儂が飼い可愛がってやろうか」

 

 そして次には将軍は、ルーネの友人である、この「塔城」より希望を託して逃がした御子の少年の存在を上げ。

 そして下卑た企みを紡ぎ聞かせ、ルーネを煽り揶揄う。

 

「くぅ……ぅぅ……」

 

 友人の名を、その友人をも毒牙にかけようとする下卑た企みを、嘲るそれで聞かされたルーネは。

 憎く悔しく思いつつも、しかし今の己にはそれに逆らう何の術も無く、ただ無力さに唸り鳴くことしかできない。

 

 最早彼女には。触手の餌食と、魔帝国の慰み者となる運命しかないと思われた……

 

 

 ――ガァンッ!!

 

 

「――ぎゃびゅぇっ!?」

 

 

 ――突然の衝撃音が、そして衝撃現象が。

 空間の天井を突き破り、襲来。

 

 床に叩き込まれ落ちたそれが巻き起こした、衝撃に瓦礫飛散によって。

 将軍が。ルーネの目の前で、その陰険な姿の将軍が。

 

 珍妙な悲鳴を上げて、弾け飛んだのは瞬間であった――

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